説明

流体投与装置の表面を処理する処理方法

流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、化学的グラフトを用いて、前記流体投与装置のうち流体と接触する1以上の部分の1以上の支持体表面に薄膜を形成する処理を含み、前記薄膜は殺菌特性及び静菌特性の両方又は一方を備える、という処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体投与装置のための表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体投与装置は公知であり、一般的には、貯蔵器と、ポンプやバルブなどの投与部材と、投与開口部を備えた投与ヘッドとを有する。特に医薬の分野では、投与対象の流体の汚染の危険性は、とりわけ流体に防腐剤が含まれていない場合には重大である。鼻または口から投与する投与装置では、細菌汚染を受ける場合がある。こうした汚染は、特に、流体が格納された貯蔵器内で、特に投与開口部から侵入するバクテリアによって生じる場合がある。また、貯蔵器の外側でも、患者との接触により、特に投与開口部の周辺で汚染が生じる場合がある。そうした危険を抑えるために、通気孔を通る空気を濾過することや、空気取込口のないポンプを用いることが提案されている。更に、投与開口部の上流にシャッターを設けて、装置が使用されてから次回の使用までの間に細菌汚染が貯蔵器に向かって増殖するのを防ぐことも可能である。しかしながら、それらの解決策は、外表面(例えば、鼻への投与時に鼻孔内部と接触する壁)については不充分である。また、内表面については、シャッターを設けた場合でも、それが開いた状態にある投与段階の間は、上記解決策では不充分である。装置内外での細菌汚染の危険を更に抑制するために、投与対象の流体と接触する特定の内表面及び/又は外表面を、殺菌物質及び/又は静菌物質(例えば、銀イオンを含んだ層)でコーティングすることが提案されている。従来技術による解決策については、下記の先行技術文献1〜10に様々なものが記述されている。しかし、それらの解決策は満足できるものではない。上記のコーティングの効果や耐久性は不確実であり、概して、防腐剤を含まない薬を投与するディスペンサを対象とした細菌学検査に関する法的規制を満たすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第0 473 892号明細書
【特許文献2】欧州特許第0 580 460号明細書
【特許文献3】欧州特許第0 831 972号明細書
【特許文献4】米国特許第6 227 413号明細書
【特許文献5】欧州特許第1 169 241号明細書
【特許文献6】独国特許発明第2 830 977号明細書
【特許文献7】米国特許第5 154 325号明細書
【特許文献8】欧州特許第0 644 785号明細書
【特許文献9】米国特許第5 433 343号明細書
【特許文献10】欧州特許第0 889 757号明細書
【特許文献11】国際公開第2008/078052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の問題が生じない表面処理方法を提案することである。
具体的には、本発明は、効果的で、長持ちし、無公害で、流体と相互作用することがなく、そして、実行が容易な処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は、流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、化学的グラフトを用いて、前記流体投与装置のうち流体と接触する1以上の部分の1以上の支持体表面に薄膜を形成する処理を含み、前記薄膜は殺菌特性及び静菌特性の両方又は一方を備える、という処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
また、効果的な構成として、前記薄膜は銀イオンを含むポリマー薄膜であること、とする。
また、効果的な構成として、前記銀イオンは酸化型であること、とする。
また、効果的な構成として、前記化学的グラフトによって、前記薄膜の分子と前記支持体表面との間に共有結合が生成されること、とする。これにより生成される結合は、強固で長期間維持される。
【0007】
また、効果的な構成として、前記化学的グラフトは水媒体において実行されること、とする。これにより、無公害または無害な、そして環境に対して全く危険のない形で化学作用を利用できる。
また、効果的な構成として、前記化学的グラフト処理では、先ず、ジアゾニウム塩を化学的に活性化させて、前記薄膜のためのアンカー層を形成すること、とする。
【0008】
また、効果的な構成として、前記支持体表面は合成材料で作られており、当該合成材料は、具体的には、ポリエチレン及びポリプロピレンの両方又は一方で成ること、とする。
また、効果的な構成として、前記支持体表面はエラストマー、ガラス、又は金属で作られていること、とする。
また、効果的な構成として、前記薄膜の厚みは1μm未満であり、望ましくは10Åから2000Åの範囲であること、とする。銀の層は薄いほど効果も高いことが分かっているので、これは効果的である。従来のコーティング技術では、このように薄い層を得ることはできない。
【0009】
また、効果的な構成として、流体を格納する貯蔵器と、前記貯蔵器に固定されるポンプまたはバルブである投与部材と、投与開口部を備え、前記投与部材を駆動するための投与ヘッドと、を有すること、とする。
また、効果的な構成として、前記流体は点鼻または経口の形で噴霧される医薬であること、とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
より具体的に言えば、本発明は、国際公開第2008/078052号に記載された方法に類似した方法の用法を提供する。当該国際公開に記載されているのは、非電気化学的条件の下で堅い支持体の表面に有機薄膜を設ける方法である。驚くべきことに、このタイプの方法は、鼻用又は経口型の投与装置内の医薬流体と接触する表面に薄い殺菌性又は静菌性の薄膜を形成するのに適していることが分かっている。そのようなグラフト法の適用は、これまで考えられてこなかった。
【0011】
要約すると、本方法は、堅い支持体の表面に、薄膜(特に、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンで作られた薄膜)を設けることを目的とする。当該方法の主要な作業は、前記支持体の表面を溶液に接触させることである。当該溶液は、1以上の溶媒と1以上の定着剤とを含み、当該定着剤からラジカル体(radical entity)を形成することができる。
「薄膜」は、例えば、複数単位の有機化学種から作られ、当該方法が実施される支持体の表面に共有結合の形で結合される、何らかの殺菌性及び/又は静菌性の膜であり、特に有機性のものとする。具体的には、それは、支持体の表面に共有結合の形で結合される膜であり、類似の性質の複数の構造単位から成る1以上の層を含むものである。各種単位間で進む共有結合により、膜厚に応じた結合力が実現される。薄膜には銀イオンを含ませるのが好ましい。
【0012】
本方法に関連して用いられる溶媒は、プロトン性でも非プロトン性でもよい。ただし、当該溶剤は定着剤を溶かすものとするのが好ましい。
「プロトン性溶媒」との用語は、陽子の形で放出することの可能な水素原子を1以上含む溶媒を意味する。プロトン性溶媒は、以下のものから成るグループから選択すればよい。すなわち、水、脱イオン水、蒸留水(酸性化されていてもよい)、酢酸、メタノールやエタノールなどのヒドロキシル化溶媒、エチレングリコールなどの小分子量の液体グリコール、そして、これらの混合物、から成るグループである。第1の例では、プロトン性溶媒は、1種類のプロトン性溶媒のみで構成しても、異なる複数種類のプロトン性溶媒の混合物で構成してもよい。別の例では、1つのプロトン性溶媒又は異なる複数のプロトン性溶媒の混合物を、1以上の非プロトン性溶媒を混合する。理解されるであろうが、この場合、結果として生じる混合物はプロトン性溶媒の特徴を示すものでなければならない。酸性化した水は、好ましいプロトン性溶媒であるが、より具体的に言えば、酸性化した蒸留水や、酸性化した脱イオン水が好ましい。
【0013】
「非プロトン性溶媒」との用語は、プロトン性ではないと考えられる溶媒を意味する。非極限条件では、こうした溶媒は陽子の放出や受け取りに適していない。非プロトン性溶媒については、ジメチルフォルムアミド(DMF)、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)から選択するのが効果的である。
「定着剤」は、特定の条件下で、ラジカル化学的グラフトなどのラジカル反応によって堅い支持体の表面上に化学吸着するのに適した、何らかの有機分子を指す。こうした分子は、ラジカルと反応するのに適した1以上の官能基と、化学吸着後に別のラジカルと反応する反応性官能基とを有する。つまり、支持体の表面に第1の分子をグラフトした後、分子はポリマー薄膜を形成することができ、更にその後、環境に存在する他の分子とも反応することができる。
【0014】
「ラジカル化学的グラフト」との用語は、具体的には、不対電子を有する分子実体を利用して支持体表面と共有結合の形での結合を実現することを指す。この場合の前記分子実体は、それがグラフトされる支持体表面から独立した形で発生させられる。従って、ラジカル反応の結果として、対象の支持体表面とグラフトされた定着剤の派生物との間で共有結合が生じることとなり、その後、グラフトされた派生物と環境に存在する分子との間に共有結合が生じる。
【0015】
「定着剤の派生物」との用語は、具体的には、定着剤から生じる化学的単位を指し、当該定着剤がラジカル化学的グラフトによって、特に、堅い支持体の表面又は他のラジカルと化学反応した後に生じるものである。当業者にとっては自明であるが、定着剤の派生物の化学吸収の後に別のラジカルと反応する官能基は、堅い支持体の表面との共有結合に関連する官能基とは別のものである。定着剤は切断可能なアリール塩であって、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールスルホニウム塩から成る集合から選択するのが効果的である。
【0016】
変形例として、水媒体において実現される、銀イオンの支持体表面への直接共有結合の場合、先に銀イオンでグラフトしておいた多孔層に含浸させる方法を用いることが可能である。
効果的な点として、本発明の抗菌表面処理を、1以上の他の表面処理と組み合わせることで、処理対象の支持体表面に他の1以上の特性を与えることができる。具体的には、化学的グラフトによって、同じ支持体表面に追加の薄膜を形成することで、摩擦の抑制、有効成分のスティッキングの抑制、及び/又は、流体と支持体表面との間の相互作用の防止を実現する。これは、複数の連続したグラフト処理を順番に、それぞれ特定の単成分槽において実行することで実現される。ただし、変形例として、1つの化学的グラフト処理を、1つの複数成分槽で実行することも考えられる。
【0017】
金属イオンを含むコーティングをグラフトするやり方でポリマー材料(ポリプロピレン)のサンプルを処理する、という手順でテストを実行した。銀イオン(具体的には、Ag0イオン(還元銀)及びAg+イオン(酸化銀))と組み合わせたポリアクリル酸(PAA)コーティングを用いたところ、期待通りの結果が得られた。テストには、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌を使用した。処理した領域やその周辺では、増殖は観察されなかったか、あるいは減少していた。
【0018】
当業者であれば、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱しない形で、様々な変更を考案することが可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、
化学的グラフトを用いて、前記流体投与装置のうち流体と接触する1以上の部分の1以上の支持体表面に薄膜を形成する処理を含み、
前記薄膜は殺菌特性及び静菌特性の両方又は一方を備えること、
を特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記薄膜は銀イオンを含むポリマー薄膜であること、
を特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記銀イオンは酸化型であること、
を特徴とする請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記化学的グラフトによって、前記薄膜の分子と前記支持体表面との間に共有結合が生成されること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記化学的グラフトは水媒体において実行されること、
を特徴とする請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
前記化学的グラフト処理では、先ず、ジアゾニウム塩を化学的に活性化させて、前記薄膜のためのアンカー層を形成すること、
を特徴とする請求項4又は5に記載の処理方法。
【請求項7】
前記支持体表面は合成材料で作られており、当該合成材料は、具体的には、ポリエチレン及びポリプロピレンの両方又は一方で成ること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記支持体表面はエラストマー、ガラス、又は金属で作られていること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
前記薄膜の厚みは1μm未満であり、望ましくは10Åから2000Åの範囲であること、
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項10】
前記投与装置は、
流体を格納する貯蔵器と、前記貯蔵器に固定されるポンプまたはバルブである投与部材と、投与開口部を備え、前記投与部材を駆動するための投与ヘッドと、を有すること、
を特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
前記流体は、点鼻または経口の形で噴霧される医薬であること、
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の処理方法。

【公表番号】特表2013−515534(P2013−515534A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545404(P2012−545404)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052892
【国際公開番号】WO2011/077059
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(502343252)アプター フランス エスアーエス (144)
【Fターム(参考)】