説明

流体投与装置の表面を処理する処理方法

流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、前記流体投与装置の駆動中に移動する、前記流体投与装置の1以上の可動部分の1以上の支持体表面に、減摩特性を有する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含む、という処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体投与装置を対象とした表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体投与装置は公知であり、通常は以下のものから成る。すなわち、1以上の貯蔵器、当該貯蔵器内で移動するポンプ、弁、ピストンなどの投与部材、そして、投与開口部を備えた投与ヘッドである。構造によっては、側面駆動システムが投与部材の駆動のために設けられている。変形例では、流体投与装置を吸入器として、各々が1回分の量の粉末又は液体を格納した複数の貯蔵器と、連続駆動の間に前記1回分を開封し放出する手段とを有する、という構成にすることもできる。装置の種類によっては更に、何回分の量が投与装置から投与済みか、あるいは未投与で投与装置に残っているかをカウント又は表示するための回数カウンタ又は表示器を有する場合もある。このように、流体投与装置は、駆動中にお互いに対して相対移動する、多数の可動部品又は可動部分を有する。そこで、望ましくないノイズ及び/又は誤動作の原因となりうる摩擦の制御が、重要な問題となる。特に医薬の分野では、投与装置の誤動作の危険性は、いかなるものでも重大である(例えば、喘息などの発作の治療の場合)。具体的には、摩擦の問題は、ポンプのピストンや弁部材で生じ、そこでは、ポンプのピストンや弁部材の詰まりを回避することが重要となる。同じことは吸入器にも当てはまり、吸入器では、貯蔵器を移動又は開封する手段や1回分の量を投与する手段が、摩擦の影響を受けやすい。更には、何回分の量が未投与で残っているのかを、ユーザが誤解しないように正確に表示する必要のある回数カウンタにも、同じことが当てはまる。このように、摩擦の結果として生じる詰まりは、いかなるものでも、損害をもたらすおそれがある。
【0003】
全ての既存の表面処理方法には問題が見られる。そのため、いくつか方法は、平面での使用にのみ適している。また、他の方法は、基材の選択が限られてしまう(例:金)。プラズマによる分子の重合は、複雑で高コストとなり、得られるコーティング層も、制御が難しく、経年劣化の問題が見られる。同様に、紫外線放射による分子の重合も、複雑で高コストとなり、感光性分子と共に用いる場合のみ機能する。同じことは原子移動ラジカル重合(ATRP)にも当てはまり、複雑で高コストとなる。最後に、電気的グラフト法は、複雑であって、支持面が導電性である必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/078052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題の生じない表面処理方法を提案することを目的とする。
具体的には、本発明は、効果的で長持ちし、無公害で実施の容易な表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、前記流体投与装置の駆動中に移動する、前記流体投与装置の1以上の可動部分の1以上の支持体表面に、減摩特性を有する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含む、という処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
また、効果的な実施の形として、前記化学グラフト処理は、流体と接触する前記支持体表面を1以上の定着剤を含む溶液と接触させる処理を含み、当該定着剤はクリーバブルなアリール塩であって、ビニル末端又はアクリル末端シロキサンから成るグループから選択された1以上のモノマー又はポリマであること、とする。
また、前記薄膜は、シリコンを含むポリマ膜とするのが効果的である。
【0008】
また、前記シリコンは、DM300又はDM1000シリコンとするのが効果的である。
前記化学グラフトで、前記薄膜及び前記支持体表面の分子の間に共有結合を生じさせるのが効果的である。これにより、強固で長持ちする結合が生成される。
また、前記化学グラフトは水媒体の中で実行するのが効果的である。こうすれば、無公害又は安全で、環境に対して全く危険のない形で化学作用を利用することができる。
【0009】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、アリールジアゾニウム塩と、アリールアンモニウム塩と、アリールホスホニウム塩と、アリールスルホニウム塩と、アリールヨードニウム塩と、から成るグループから選択されること、とする。
クリーバブルなアリール塩は、一般式:ArN2+,X-(Arはアリール基を表し、X-は陰イオンを表す)の化合物から選択される。有機化合物の中のアリール基は芳香族環に由来する官能基である。
【0010】
実施にあたって、X-陰イオンは以下のものから選択される。すなわち、I-、Cl-、Br-などのハロゲン化物などの無機陰イオン;テトラフルオロホウ酸などのハロゲノホウ酸;アルコラート、カルボン酸塩、過塩素酸塩、スルホン酸塩などの有機陰イオン。
実施にあたって、アリール基Arは、3〜8の炭素を有する芳香族環で構成される一置換又は多置換の芳香族基又はヘテロ芳香族基から選択することができる。ヘテロ芳香族化合物のヘテロ原子は、N、O、P、Sから選択される。置換基としては、アルキル基及び1以上のヘテロ原子(N、O、F、Cl、P、Si、Br、Sなど)がある。
【0011】
実施にあたって、アリール基は、NO2;COH;CN;CO2H;ケトン;エステル;アミン;そしてハロゲンなどの誘引基によって置換されたアリール基から選択される。
実施にあたって、アリール基は、フェニル基及びニトロフェニル基から成るグループから選択される。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、以下から成るグループから選択される:テトラフルオロほう酸フェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−ニトロフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−ブロモフェニルジアゾニウム;4−アミノフェニルジアゾニウム塩化物;4−アミノメチルフェニルジアゾニウム塩化物;2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウム塩化物;テトラフルオロほう酸4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−シアノフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−カルボキシフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−アセトアミドフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−フェニル酢酸ジアゾニウム;2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウム硫酸塩;9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウム塩化物;テトラフルオロほう酸4−ニトロナフタレンジアゾニウム;そして、テトラフルオロほう酸ナフタレンジアゾニウム。
【0012】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、以下から成るグループから選択される:テトラフルオロほう酸4−ニトロフェニルジアゾニウム;4−アミノフェニルジアゾニウム塩化物;2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウム塩化物;そして、テトラフルオロほう酸4−カルボキシフェニルジアゾニウム。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩の濃度は、5×10-3モル(M)から10-1Mの範囲である。
【0013】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩の濃度は、約5×10-2Mである。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は原位置で(in situ)調製される。
前記化学グラフト処理については、前記薄膜用のアンカー層の形成のためのジアゾニウム塩の化学活性化によって開始される、とするのが効果的である。
また、前記化学グラフト処理は化学活性化によって開始されること、とするのが効果的である。
【0014】
実施にあたって、前記化学活性化は溶液中の還元剤の存在によって開始される。
実施にあたって、溶液は還元剤から成るものとする。
「還元剤」との用語は、酸化還元反応中に電子を供与する化合物を意味する。本発明の特徴として、クリーバブルなアリール塩の酸化還元電位に対する還元剤の酸化還元電位差は、0.3ボルト(V)から3Vの範囲にある。
【0015】
本発明の特徴として、還元剤は、鉄、亜鉛又はニッケルである、細かく分割することの可能な還元金属と、メタロセンの形をとることの可能な金属塩と、次亜リン酸又はアスコルビン酸である有機還元剤と、から成るグループから選択される。
実施にあたって、還元剤の濃度は0.005Mから2Mの範囲とする。
実施にあたって、還元剤の濃度は約0.6Mとする。
【0016】
実施にあたって、前記薄膜の厚みは1マイクロメートル(μm)未満であり、好ましくは10オングストローム(Å)から2000Åの範囲である。10Åから800Åの範囲とするのが効果的であり、400Åから1000Åの範囲が好ましい。従来のコーティング技術では、ここまで薄い化学グラフト層を得ることは不可能である。
「ビニル末端又はアクリル末端シロキサン」との用語は、シリコン原子と酸素原子とが交互に並んだ直鎖又は分枝鎖で形成され、末端にビニル又はアクリルのモティーフを含む、飽和したシリコン及び酸素水素化物を意味する。
【0017】
実施にあたって、ビニル末端又はアクリル末端シロキサンは、ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアルキルシロキサンと;ポリジメチルシロキサン-アクリル酸塩(PDMS-アクリル酸塩)であるビニル末端又はアクリル末端ポリジメチルシロキサンと;ポリビニルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールシロキサンと;ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールアルキルシロキサンと、から成るグループから選択される。
【0018】
実施にあたって、前記溶液には電位差が加えられる。
「電位差」との用語は、2つの電極の間で計測される酸化還元電位差を意味する。
実施にあたって、電位差は2つの電極に接続された電源から加えられ、当該2つの電極は同一でも別種でもよく、浸漬処理の間は溶液に浸されていることとする。
実施にあたって、電極は、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、プラチナ、金、銀、亜鉛、鉄、銅のうちから選択される。単体(in pure form)でも合金でもよい。
【0019】
実施にあたって、電極はステンレス鋼で作られる。
実施にあたって、発電機から加わる電位差は0.1Vから2Vの範囲にある。
実施にあたって、その値は約0.7Vとする。
実施にあたって、電位差は化学電池によって生じさせられることとする。
「化学電池」との語は、イオンブリッジを介して相互接続された2つの電極から成る電池を意味する。本発明における2つの電極は、電位差が0.1Vから2.5Vの範囲となるように適切に選択される。
【0020】
実施にあたって、化学電池は、溶液に浸された2つの異なる電極の間で形成される。
実施にあたって、電極は、ニッケル、亜鉛、鉄、銅、そして銀のうちから選択される。単体でも合金でもよい。
実施にあたって、化学電池が生じさせる電位差は0.1Vから1.5Vの範囲とする。
実施にあたって、電位差は約0.7Vとする。
【0021】
実施にあたって、溶液に入れられた基材と溶液に浸される電極との接触が完全に回避されるように、電極は化学的に絶縁される。
また、前記支持体表面は、特にポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)の両方又は一方から成る合成材料、エラストマー、ガラス、又は金属から作られていること、とするのが効果的である。
【0022】
また、化学グラフトを用いて、前記支持体表面に1以上の追加薄膜を形成する処理を更に有すること、とするのが効果的である。
また、化学グラフトを用いて前記支持体表面に第1の追加薄膜を形成する処理を更に有し、前記第1の追加薄膜は、投与対象の流体の前記支持体表面への付着の程度を抑制するものであること、とするのが効果的である。
【0023】
また、化学グラフトを用いて前記支持体表面に第2の追加薄膜を形成する処理を更に有し、前記第2の追加薄膜は、前記支持体表面と前記流体との間の相互反応を防止するものであること、とするのが効果的である。
変形例では、前記1以上の追加薄膜は、1以上の連続した化学グラフト処理をそれぞれ1つの単一成分槽(single-component bath)において実行する間に、前記支持体表面に積層されること、とする。
【0024】
別の変形例では、前記1以上の追加薄膜は、1回の化学グラフト処理を1つの複数成分槽(multi-component bath)において実行する間に、前記支持体表面に同時に積層されること、)とする。
また、前記投与装置は、流体が格納された貯蔵器と、前記貯蔵器に固定されたポンプまたは弁である投与部材と、投与開口部を備えた投与ヘッドとを有し、投与ヘッドは前記投与部材を駆動させるためのものであること、とするのが効果的である。
【0025】
変形例では、前記投与装置は、各々が1回分の量の流体を格納している複数の個別の貯蔵器と、穴あけ針である貯蔵器開封手段と、開封された1個の貯蔵器の1回分の量の流体を投与開口部から投与する1回分投与手段と、を有することとする。
変形例では、前記投与装置は、1回分又は2回分の量の流体を格納した貯蔵器と、駆動の度に前記貯蔵器内部で移動するピストンと、を有することとする。
【0026】
また、前記投与装置は、前記投与装置から何回分の量が投与されたか、あるいは、前記投与装置に何回分の量が残っているかをカウントする回数カウンタを有すること、とするのが効果的である。
また、前記流体は、特に鼻又は口に噴霧される医薬であること、とするのが効果的である。
【0027】
実施にあたっては、国際公開第2008/078052号に記載されたものに類似の方法を用いることが可能である。当該国際公開に記載されているのは、非電気化学的条件の下で固体の支持体の表面に有機薄膜を設ける方法である。驚くべきことに、このタイプの方法は、流体投与装置の駆動中に移動する表面に減摩特性を有する薄膜を形成するのに適していることが分かっている。そのようなグラフト法の適用は、これまで考えられてこなかった。
【0028】
要約すれば、本方法は、固体の支持体の表面に薄膜(特に、ポリエチレン及び/又はポリプロピレン製の膜)を形成することを目的とする。本方法は主に、前記支持体表面を液体溶液に浸す処理から成る。液体溶液は1以上の溶媒と1以上の定着剤とを含み、当該定着剤からはラジカル体(radical entities)の形成が可能である。
「薄膜」とは、特に有機性のポリマ膜であって、例えば、有機化学種の複数の単位から生じ、本方法が実施される支持体の表面に共有結合の形で結合されるものである。具体的には、支持体の表面に共有結合の形で結合され、類似の性質の構造単位から成る1以上の層を有する膜のことである。各種単位間で進む共有結合により、膜厚に応じた結合力が実現される。薄膜にはシリコンを含ませるのが好ましい。
【0029】
本方法に関連して用いられる溶媒は、プロトン性でも非プロトン性でもよい。ただし、前記溶媒は定着剤を溶かすものとするのが好ましい。
「プロトン性溶媒」との用語は、陽子の形で放出することの可能な水素原子を1以上含む溶媒を意味する。プロトン性溶媒は、以下から成るグループから選択すればよい。すなわち、水;脱イオン水;蒸留水(酸性化してもよいが、必須ではない);酢酸;メタノールやエタノールなどのヒドロキシル化溶媒;エチレングリコールなどの低分子量の液体グリコール;そして、これらの混合物。第1の例では、プロトン性溶媒は、プロトン性溶媒単独で成るものとしてもよいし、異なるプロトン性溶媒の混合物によって成るものとしてもよい。次の例では、プロトン性溶媒又はプロトン性溶媒の混合物に1以上の非プロトン性溶媒を混合する。理解されるであろうが、この場合、結果として生じる混合物はプロトン性溶媒の特徴を示すものでなければならない。酸性化した水は、好ましいプロトン性溶媒であるが、より具体的に言えば、酸性化した蒸留水や、酸性化した脱イオン水が好ましい。
【0030】
「非プロトン性溶媒」との用語は、プロトン性ではないと考えられる溶媒を意味する。非極限状況の下では、こうした溶媒は、陽子の放出や受け入れには適していない。非プロトン性溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)から選択するのが効果的である。
「定着剤」との用語は、特定の条件下で、ラジカル化学グラフトなどのラジカル反応によって支持体表面に化学吸着するのに適した有機分子全般を指す。
そのような分子は、ラジカルと反応するのに適した1以上の官能基と、化学吸着後に別のラジカルと反応する反応性官能基とを含む。つまり、支持体表面に最初の分子をグラフトした後、当該分子はポリマ膜を形成することができ、更にその後、環境に存在する他の分子と反応することができる。
【0031】
「ラジカル化学グラフト」との用語は、具体的には、不対電子を有する分子実体を用いて、共有結合の形で支持体表面との結合を形成することを指す。その場合の前記分子実体は、それらがグラフトされる支持体表面とは関わりなく発生させられる。そのため、ラジカル反応の結果として、共有結合が、先ず対象の支持体表面とグラフトされる定着剤の派生物との間に形成され、その後、グラフトされた派生物と環境に存在する分子との間に形成される。
【0032】
「定着剤の派生物」との用語は、具体的には、定着剤から生じる化学的単位を指し、当該定着剤がラジカル化学的グラフトによって、特に、支持体の表面又は他のラジカルと化学反応した後に生じるものである。当業者にとっては自明であるが、定着剤の派生物の化学吸収の後に別のラジカルと反応する官能基は、支持体の表面との共有結合に関連する官能基とは別のものである。定着剤については、クリーバブルなアリール塩であって、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールスルホニウム塩、アリールヨードニウム塩から成るグループから選択するのが効果的である。
【0033】
薄膜にはシリコンを含ませるのが好ましいが、シリコンについては各種の医療用のもの(例えば、DM300やDM1000)とすることができる。また、水媒体の中で実現される、支持体表面へのシリコンの直接的共有結合に関する変形例として、先にグラフトしておいた多孔層にシリコンを浸み込ませる、という方法を用いることも可能である。
本発明の効果的な実施法では、化学グラフトを用いて、単一の支持体表面に少なくとも1つの付加薄膜を形成する。これにより、支持体表面に他の特性が少なくとも1つ追加される。投与対象の流体は、それが接触する表面に付着する傾向があり、これは特に、投与される1回分の量の再現性に悪影響を及ぼすおそれがある。効果的な点として、本発明によれば、流体の支持体表面への付着を防止する第1の追加薄膜を化学グラフトによって形成することができる。また、化学グラフトを用いて第2追加薄膜を設けることで支持体表面に第3の特性を持たせる、という用法が考えられる点も効果的である。例えば、流体投与装置では、特定の材料は、投与対象の流体と接触した際に相互反応することになり、これが流体にとって有害な場合がある。別の効果的な点として、本発明によれば、流体と支持体表面との間の相互反応を防止するための第2の追加薄膜を、化学グラフトによって形成することができる。これら追加薄膜は、連続した化学グラフト処理で設けることとすればよい。そうして、各々の化学グラフト処理は、単一成分槽の中で実施すればよい。留意すべき点として、これら連続した化学グラフト処理は、どんな順序で実施してもよい。なお、変形例では、別のやり方として、追加薄膜を1回の化学グラフト処理で設けることもできるが、その場合、当該化学グラフト処理は複数成分槽で実施される。また、これら2つの変形例を組み合わせることも考えられる。
【0034】
本発明は、ポンプ又は弁が設置された貯蔵器を有し、駆動によって1回分の所定量を連続的に投与する、という複数回使用型の装置に用いられる。本発明はまた、複数の別個の貯蔵器を有する複数回使用型の装置に用いられる。こうした装置は、小分け式の粉末吸入器の場合のように、複数の貯蔵容器が設けられており、各貯蔵器に1回分の流体が格納されている。本発明は、また、駆動のたびにピストンが貯蔵器内を直接移動する、1回用又は2回用の装置に用いられる。本発明は、特に、点鼻又は経口式の噴霧装置、目薬投与装置、そして、注射器型の針装置に用いられる。
【0035】
本発明は更に、流体投与装置の駆動中に移動する、当該装置の1以上の可動部分の1以上の支持体表面に減摩特性を有する薄膜を形成することを目的とした、本発明のグラフト方法の使用法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に示す例はガラス製容器の中で実行した。特記する場合を除き、これらの例は、常温・常圧(約22℃、約1気圧(atm))の雰囲気下で実行した。また、特に言及しない限り、使用した試薬は、市場に出ているものをそのまま取得しており、追加の精製処理は行っていない。サンプルは、40℃で石鹸水の中で前もって超音波洗浄した。
例1−ポンプの部品を滑らかにするためにポリ(ジメチルシロキサン)の膜を当該部品にグラフトした
「ポンプ」という用語の意味は、内部で1以上のピストンが摺動するポンプ体を有する、手動の流体投与装置である。
【0037】
70ミリリットル(mL)のミリQ(mQ)水にBrij(登録商標)35(4.37g/Lの割合で0.874g)を入れた溶液に、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)(1.0グラム(g)、5グラム・パー・リットル(g/L))を注ぎ、そうして得られた懸濁液を磁気撹拌してエマルジョンを形成した。
4−アミノ安息香酸(1.370g、10-2モル(mol))を、塩化水素酸(120mLのmQ水に4.0mL)及び次亜リン酸(6.3mL、6.0×10-2mol)の溶液に溶かした。そして、当該溶液を上記PDMSエマルジョンに加えた。
【0038】
そして、当該エマルジョンに、NaNO2の水溶液(0.667g、9.7×10-3mol)8mLを加えた後、ポンプ部品サンプルを入れた。
30分間反応させた後、サンプル(すなわち、PP製の本体;上部ピストン;下部ピストン;ポリエチレンPE製の管)を取り出し、1%の石鹸水(Renoclean)を入れた複数の連続槽で、40℃の温度で超音波すすぎを行い、更に、水を入れた複数の槽でもすすぎを行った。
【0039】
これら部品を圧縮空気で乾燥させた後、サンプル上のPDMSの存在を確認した。確認は、1260毎センチメートル(cm-1)、1110cm-1、1045cm-1で、PDMSの特有帯域を用いた赤外線(IR)解析によって行った。
例2−弁の部品を滑らかにするためにポリ(ジメチルシロキサン)の膜を当該部品にグラフトした
「弁」という用語は、推進ガスを格納しており、内部で弁部材が摺動する弁本体を有する、という構成の流体投与装置を意味する。
【0040】
先ず、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(1.307g、0.015M、)を175mLのmQ水に溶かした。そして、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)(2.5g、10g/L)を加え、そうして得られた混合物を磁気撹拌してエマルジョンを形成した。
4−アミノ安息香酸(3.462g、2.5×10-2mol)を、塩化水素酸(20mLのmQ水に9.6mL)及び次亜リン酸(33mL、3.1×10-1mol)の溶液に溶かした。そして、当該溶液を上記PDMSエマルジョンに加えた。
【0041】
そして、mQ水にNaNO2を入れた水溶液(1.664g、2.37×10-2mol)10mLを当該エマルジョンに加え、その後、サンプル(すなわち:エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)又はニトリルゴムのガスケット;ポリオキシメチレン(POM)製の弁部材頂上部;金のインジケータ用ストリップ)を入れた。
15分間反応させた後、サンプルを取り出して、mQ水、エタノール、ヘキサンの中で連続してすすぎを行った。
【0042】
そして、金ストリップ及び他のサンプル上のPDMSの存在を確認した。確認は、1260cm-1、1110cm-1、1045cm-1で、PDMSの特有帯域を用いたIR解析によって行った。
例3−ポリエチレン基材上にアクリルPDMSのポリマ膜を電気触媒化学グラフトした
本例は、潤滑性コーティング(アクリルPDMS)をPEなどの熱可塑性材料の上にグラフトする方法を説明する。
【0043】
先ず、PEサンプルをエタノールに入れて5分間超音波洗浄した(50%の電力で、温度は40℃)。
二相溶液を2段階で調製した。先ず、毎分300回転(rpm)で磁気撹拌しながら、ビーカー(1)に以下を順番に加えた:PDMS−アクリル酸塩(1g/L);8.5重量%(%wt)の割合で水に入れたBrij 35(登録商標)の溶液(4.37g/L);33mLの脱イオン(DI)水。その後、超音波の下、温度40℃、200ワット(W)(100%)の電力で、15分間にわたって乳化を生じさせた。
【0044】
その後、磁気撹拌(300rpm)しながら、ビーカー(2)に以下を加えた:テトラフルオロホウ酸ニトロベンゼンジアゾニウム(0.05mol/L);130mLのDI水;塩化水素酸(0.23mol/L)。
ビーカー(2)の内容物を、ビーカー(1)のエマルジョンに注いだ。そして、PEサンプル(2個);亜鉛メッキした巻き金属線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm));巻きニッケル(Ni)線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm))をビーカー(1)内に配置した。金属線及びニッケル線は一本につないで、電流計を直列に接続した。
【0045】
最終段階として、上記組立物を準備した後、次亜リン酸(0.7mol/L)を最後に加え、それによって反応を開始させた。雰囲気温度で30分間反応させた後、PEサンプルを取り出した。そして、水、エタノール、そして最後にイソプロパノールという順で連続してすすぎを行った。すすぎは、ソックスレー抽出器の中で16時間行った。
ソックスレーは、中にサンプルが配置されるガラス製の本体、サイフォン管、そして蒸留管から成る。ソックスレーをフラスコ上に置き、凝縮器をソックスレーの上に載せた。当該フラスコは、具体的には、フラスコヒータで加熱及び撹拌される500mLフラスコであり、溶媒(具体的には300mLのイソプロパノール)が格納されている。
【0046】
フラスコを加熱すると、溶媒が蒸気となって蒸留管を通過し、凝縮器において凝縮して、液滴に戻ってガラス製の本体の中に落ちた。それによって、サンプルは純粋な溶媒に浸されることになった(下を通る蒸気によって加熱される)。凝縮した溶媒は抽出器に溜まっていくが、最終的にはサイフォン管の頂上にまで達し、液体は容器に戻ることになるが、その際には抽出物質を伴う。こうして、容器に入っていた溶媒は、徐々に可溶性化合物でエンリッチされた。
【0047】
つまり、抽出物質が容器内に残っている間(抽出物質の沸点は、抽出器溶媒の沸点よりも大幅に高いものとする必要がある)、溶媒は継続的に気化した。
ソックスレー抽出器の使用により、PE基材表面のアクリルPDMSの化学グラフトの状態を確認することが可能となった。
IR分光学による解析を実施した。赤外線スペクトルでは、Si−CH3結合の振動に一致する1260cm-1の特有帯域の存在によって、アクリルPDMSのグラフトを確認することができた。
【0048】
例4−ポテンショスタットが存在する環境で、ポリエチレン基材上にアクリルPDMSのポリマ膜を電気触媒化学グラフトした
本例は、ポテンショスタットが存在する環境で、潤滑性コーティング(アクリルPDMS)をPEなどの熱可塑性材料の上にグラフトする方法を説明する。
先ず、超音波の下で(電力は100W、温度は40℃)、PEサンプルをエタノールに入れて5分間洗浄した。
【0049】
二相溶液を2段階で調製した。そして、毎分300回転(rpm)で磁気撹拌しながら、ビーカー(1)に以下を順番に加えた:PDMS−アクリル酸塩(1g/L);8.5%wtの割合で水に入れたBrij 35(登録商標)の溶液(4.37g/L);そして、33mLのDI水。その後、超音波の下、温度40℃、200ワット(W)(100%)の電力で、15分間にわたって乳化を生じさせた。
【0050】
その後、磁気撹拌(300rpm)しながら、ビーカー(2)に以下を加えた:テトラフルオロホウ酸ニトロベンゼンジアゾニウム(0.05mol/L);130mLのDI水;塩化水素酸(0.23mol/L)。
ビーカー(2)の内容物を、ビーカー(1)のエマルジョンに注いだ。そして、PEサンプル(2個)(すなわち、亜鉛メッキした巻き金属線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm));巻きNi線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm)))をビーカー(1)内に配置した。金属線及びニッケル線をポテンショスタット接続し、そして電流計を直列に接続した。ポテンショスタットには0.5Vの一定の電位差を加え、時間経過に沿って電流計で電流を計測した。
【0051】
最終段階として、上記組立物を準備した後、次亜リン酸(0.7mol/L)を最後に加え、それによって反応を開始させた。雰囲気温度で30分間反応させた後、PEサンプルを取り出した。そして、水(1段階(a cascade))、エタノール(1段階)、そして最後にイソプロパノールの順で連続してすすぎを行った。すすぎは、ソックスレーの中で16時間行った。
【0052】
ソックスレー抽出器の使用により、PE基材表面のアクリルPDMSの化学グラフトの状態を確認することが可能となった。
IR分光学による解析を実施した。赤外線スペクトルでは、Si−CH3結合の振動に一致する1260cm-1の特徴的な帯域の存在によって、アクリルPDMSのグラフトを確認することができた。
【0053】
当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱しない形で、様々な変更を考案することが可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、
前記流体投与装置の駆動中に移動する、前記流体投与装置の1以上の可動部分の1以上の支持体表面に、減摩特性を有する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含むこと、
を特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記化学グラフト処理は、流体と接触する前記支持体表面を1以上の定着剤を含む溶液と接触させる処理を含み、
当該定着剤はクリーバブルなアリール塩であって、ビニル末端又はアクリル末端シロキサンから成るグループから選択された1以上のモノマー又はポリマであること、
を特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
ビニル末端又はアクリル末端シロキサンは、
ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアルキルシロキサンと;
ポリジメチルシロキサン-アクリル酸塩(PDMS-アクリル酸塩)であるビニル末端又はアクリル末端ポリジメチルシロキサンと;
ポリビニルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールシロキサンと;
ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールアルキルシロキサンと、
から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
クリーバブルなアリール塩は、アリールジアゾニウム塩と、アリールアンモニウム塩と、アリールホスホニウム塩と、アリールスルホニウム塩と、アリールヨードニウム塩と、から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記化学グラフト処理は化学活性化によって開始されること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記化学活性化は溶液中の還元剤の存在によって開始されること、
を特徴とする請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
還元剤は、
鉄、亜鉛又はニッケルである、細かく分割することの可能な還元金属と、
メタロセンの形をとることの可能な金属塩と、
次亜リン酸又はアスコルビン酸である有機還元剤と、
から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
前記溶液に電位差が加えられること、
を特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
電位差は2つの電極に接続された電源から加えられ、当該2つの電極は同一でも別種でもよく、溶液に浸されていること、
を特徴とする請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
電位差は化学電池によって生じさせられること、
を特徴とする請求項8に記載の処理方法。
【請求項11】
前記支持体表面は、特にポリエチレン及びポリプロピレンの両方又は一方から成る合成材料、エラストマー、ガラス、又は金属から作られていること、
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項12】
前記薄膜の厚みは1μm未満であり、好ましくは10Åから2000Åの範囲であること、
を特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項13】
化学グラフトを用いて、前記支持体表面に1以上の追加薄膜を形成する処理を更に有すること、
を特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項14】
化学グラフトを用いて前記支持体表面に第1の追加薄膜を形成する処理を更に有し、前記第1の追加薄膜は、投与対象の流体の前記支持体表面への付着の程度を抑制するものであること、
を特徴とする請求項13に記載の処理方法。
【請求項15】
化学グラフトを用いて前記支持体表面に第2の追加薄膜を形成する処理を更に有し、前記第2の追加薄膜は、前記支持体表面と前記流体との間の相互反応を防止するものであること、
を特徴とする請求項13又は14に記載の処理方法。
【請求項16】
前記1以上の追加薄膜は、1以上の連続した化学グラフト処理をそれぞれ1つの単一成分槽において実行する間に、前記支持体表面に積層されること、
を特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項17】
前記1以上の追加薄膜は、1回の化学グラフト処理を1つの複数成分槽(multi-component bath)において実行する間に、前記支持体表面に同時に積層されること、
を特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項18】
前記投与装置は、流体が格納された貯蔵器と、前記貯蔵器に固定されたポンプまたは弁である投与部材と、投与開口部を備えた投与ヘッドとを有し、投与ヘッドは前記投与部材を駆動させるためのものであること、
を特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項19】
前記投与装置は、各々が1回分の量の流体を格納している複数の個別の貯蔵器と、穴あけ針である貯蔵器開封手段と、開封された1個の貯蔵器の1回分の量の流体を投与開口部から投与する1回分投与手段と、を有すること、
を特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項20】
前記投与装置は、1回分又は2回分の量の流体を格納した貯蔵器と、駆動の度に前記貯蔵器内部で移動するピストンと、を有すること、
を特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項21】
前記投与装置は、前記投与装置から何回分の量が投与されたか、あるいは、前記投与装置に何回分の量が残っているかをカウントする回数カウンタを有すること、
を特徴とする請求項1乃至20のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項22】
前記流体は、特に鼻又は口に噴霧される液体又は粉末の医薬であること、
を特徴とする請求項1乃至21のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項23】
請求項1乃至22のいずれか一項に記載のグラフト法の使用法であって、流体投与装置の駆動中に移動する、当該流体投与装置の1以上の可動部分の1以上の支持体表面に減摩特性を有する薄膜を形成することを目的とした使用法。

【公表番号】特表2013−515805(P2013−515805A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545402(P2012−545402)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052888
【国際公開番号】WO2011/077055
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(502343252)アプター フランス エスアーエス (144)
【Fターム(参考)】