説明

流体搬送装置

【課題】 バルブが閉じる圧力値を変更可能な流体搬送装置を提供する。
【解決手段】 流体の流れを制御するための流体搬送装置であって、前記流体の流路と、前記流路の途中に位置するバルブ101とを備え、前記バルブは前記流路に流体が流れたときに前記流路の上流側104と下流側103との間に生じる圧力差によって作動し、前記差圧が所定の値未満のときは流体を通過させ、前記圧力差が前記所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は可変であることを特徴とする流体搬送装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れを制御するためのバルブを備えた流体搬送方法に関し、特にチップ上で化学分析や化学合成を行う小型化分析システム(μ−TAS:Micro TotalAnalysis System)において、流体の流れを制御するためのバルブを用いた流体搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体微細加工技術の発展に伴い、ガラスやシリコン等の基板上に、微小な流路とポンプ、バルブ等の流体素子およびセンサを集積化し、その基板上で化学分析を行うシステムが注目されている。これらのシステムは、小型化分析システム、μ−TAS(Micro Total Analysis System)あるいはLab on a Chipと呼ばれている。化学分析システムを小型化することにより、無効体積の減少や試料の分量の大幅な低減が可能となる。また、分析時間の短縮やシステム全体の低消費電力化が可能となる。さらに、小型化によりシステムの低価格を期待することができる。μ−TASは、システムの小型化、低価格化および分析時間の大幅な短縮が可能なことから、在宅医療やベッドサイドモニタ等の医療分野、DNA解析やプロテオーム解析等のバイオ分野での応用が期待されている。
【0003】
上述したμ−TASにおいて、微小流路内の流体の流れを制御するのに、様々な形態のバルブがこれまでに提案されている。従来技術のバルブには、板状の部材を弾性的に支持したバルブが報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
以下、図8により従来のバルブについて説明する。図8(a)は所定の液圧になると閉じる弁(ローパスバルブ)の平面図である。図8のバルブは、弁座体801を有しており、弁座体801は弁本体内に固定されている。弁座体801の中心には図8(b)に示すような流路802が形成されており、この流路802の入口側には変形可能な弾性部材からなる弁体803が取り付けられている。弁体803は常時は図8(b)に示すように流路802を開いているが、流路中に流れる流体圧がある所定の流体圧(以下、閾値という)以上になると、図8(c)に示すように弁体803が上方に変形し、弁座体801に形成した流路802を閉じる。この結果、前記バルブは所定の流体圧になると流路が閉じ、流体が流出することを止める。
【特許文献1】特開2001−70453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のバルブは、一旦製作すると流路寸法や弁体の形状を変更することができないため、閾値を変更することができない。また、バルブを構成する基板が強固に接合されているため、作製後に基板を分離することができない。このため、弁体と弁座の間に異物が混入した場合、その異物を取り除くことが非常に困難である。
【0006】
したがって、本発明の課題は、バルブの閉じる閾値を任意に変更可能とする流体搬送装置を提供することである。さらに、バルブと流路を分解可能とする流体搬送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、流体を流すための流路と、前記流路の途中に位置し前記流体の流れを制御するためのバルブとを備えた流体搬送装置であって、前記バルブは前記流路に流体が流れたときに前記流路の上流側と下流側との間に生じる圧力差によって作動し、前記差圧が所定の値未満のときは流体を通過させ、前記圧力差が前記所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は可変であることを特徴とする流体搬送装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
上記したように、バルブと流路の間に設置する部材の厚みを変化させることでバルブの閾値を自在に調節でき、流体の制御が容易で正確になる。前記部材は、厚みの異なる複数の部材を用意しておき、必要に応じて交換することが可能である。また、前記部材の厚みを変化させるため、加圧手段を用いれば、バルブの閾値を迅速に調節することが可能である。また、バルブと流路が着脱可能な構造を用いているため、内部に異物が混入した際には、両者を取り外すことによって洗浄が可能であるという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
ここで、本発明における流体とは、気体または液体を指すものとする。
(バルブの説明)
図1は、本発明の流体搬送装置に用いるバルブの構造の一例を示す概略図である。図1(a)にはバルブ100の平面図、図1(b)には断面図を示す。バルブ内の流路は、細い流路103を有する領域と、太い流路を有する領域104、105を有する領域に分けられる。遮蔽部は101に示す平板の形状であり、流路104と流路105の間に、バネ106によって弾性支持された弁体101が流路と垂直に設置されている。弁体101を形成する基板と流路103を形成する基板の間に部材107が設置されている。弁体101は流路103の入口と、ある距離を保って設置されている。弁体101の径は流路103の径よりも大きく、弁体101が流路103に向かって変位して流路105と流路103の境界に達した場合、流体の流れを防ぐことが可能である。ここで、弁体101が流路103を形成する基板と接触する領域を弁座106とする。
【0010】
図2(a)に、このバルブに流路104から流路103の向きに流体が流れる場合の経路を示す。このような流れにおいては、流体が流路105を流れる間に圧力の低下を生じる。これにより、平板101の表面では、流路104側と流路105側で圧力差が発生する。この圧力差が駆動力となり、弁体101は流路103の入り口に向かって変位する。
【0011】
図2(b)は、流路104から流路103への流体の流れにより生じる圧力差がバルブの閉る所定の値よりも低い場合を示す。弁体101は、流路104側と流路105側の圧力差により変位するが、これを保持するバネ102の弾性による復元力により、流路103の入り口を塞ぐまでには至らない。従って、流体は201に示すように、流路104から103へ抜けていく。
【0012】
一方、図2(c)は、流路104から流路103への流体の流れにより生じる圧力差がバルブの閉じる所定の値以上である場合を示す。弁体101は、流路104側と流路105側の圧力差により変位し、やがて流路103の入口を塞ぐ。これにより流体の流れは202に示すように流路104内で止まり、弁体101は液体の圧力によって、流路103の入口をシーリングした状態で保持され続ける。前記バルブの上流側の圧力を開放することにより、弁体101はバネ102の復元力によって流路103の入口から離れ、元の位置に戻る。
【0013】
バルブが駆動する圧力範囲は、バネ102のバネ定数、および弁体101と弁座106の距離により決定される。この内バネ定数は、バネ102の長さ、厚み、本数、材質により決定される。また、弁体101と弁座103の距離は、部材107の厚みにより決る。これらを最適化することで、必要な圧力範囲で開閉の切り替わるバルブを設計することが出来る。また、バルブが閉じた状態の時、弁体101は流体の圧力により保持されるため、高いシーリング効果が期待でき強度も高い。
【0014】
部材107の材質としては、分析や化学反応に用いる溶液に対して耐性があり、かつ弾性変形に対して耐性を持ち、かつ他の基板と密着性の高い、例えばシリコーン等の樹脂が望ましい。バネ102および弁座101の材質としては、分析や化学反応に用いる溶液に対して耐性があり、かつ弾性変形に対してある程度の耐性を持つ、例えばシリコンが望ましい。シリコーン等の樹脂を用いることも可能である。必要に応じて、表面をコーティングしてもよい。また流路を形成するその他の基板に関しては、前記溶液に対して耐性がある材料であれば特に制限がない。例えば、ガラス、シリコン等が挙げられる。
【0015】
また、弁体の形状は、対向した開口を遮蔽することが可能な形状であれば特に制限はない。特に円形状が、流れの対称性の観点から好ましい。また、弁体を平板状にし、対向する基板との間にギャップを形成することにより、該ギャップ間を流体が流れるときに圧力低下が発生し、弁体の上下で圧力差が発生する。この圧力差により、弁体が基板方向に移動する。
【0016】
また、本発明では平板上の弁体を板バネで弾性支持した形態を例にとり説明したが、本発明の実施形態はこれに制限されるものではない。例えば片持ち梁や両持ち梁のように、弁体の片端もしくは両端を固定することにより弾性支持しても良い。
【0017】
流体の搬送手段にポンプを用いた場合、搬送圧力を制御するモードと、搬送流量を制御するモードで駆動する方法がある。また、バルブが閉じる所定の値は搬送圧力だけでなく搬送流量によっても決る。そこで、本発明ではバルブ前後に生じる圧力差を基にバルブが駆動する工程について説明したが、バルブ前後に流れる流量を基にバルブを駆動させても良い。
【0018】
(バルブの閾値を変える方法)
以下に本発明の流体搬送装置の一例を説明する。
図3は、本発明の流体搬送装置の実施形態の一例を示す概念図である。流体搬送装置300は、バネ102と弁体101を形成する基板301と、基板302と、流路103を形成する基板303より構成されている。
【0019】
図3(a)に示すように、基板301と基板303は基板301におけるバネ102と弁体101が形成された面と、弁座106が形成されている面は基板302を介して圧着される。この際、基板301における弁体101の中心と、基板303における流路103の中心が一致するような状態で、2枚の基板は位置決めされる。基板302にPDMS(ポリジメチルシロキサン)などの粘着性の高いシリコ−ン樹脂を用い、基板301および基板303に平坦度の高いシリコン基板を用いれば、特に物理的な固定を行わずとも、両者の間で十分な密着力を得ることができる。基板302は弁体と弁座の距離を決めるだけでなく、一種のパッキンとして機能することになる。さらに、ホルダ305を用いて、基板301、302、303を挟み込むことで固定する。ホルダ305はスペーサ304を介し、ねじ306によって固定されている。基板301と基板303の圧着力は、このスペーサ304の厚みによって調整することが可能である。この場合、単純に密着させただけの場合と比較して、高圧力下においても両基板の間から漏れが生じることはない。
【0020】
両基板の位置決めを繰り返し、高精度で行うために、両基板にはアライメントマークが設置してある。また、少なくとも一方の基板、もしくはホルダにガイドを形成しておくことによっても、高精度な位置決めを繰り返し行うことができる。
【0021】
スペーサ304の材質としては、剛性が高く、かつ高い精度で加工できる材料であれば特に制限はない。例えば、シリコン、ガラス等が挙げられる。
基板301と基板303は特に接合されているわけではないので、自由に脱着することが可能な構造となっている。なお、基板302の材質はシリコーン樹脂に限定されない。基板301と基板303と密着性が良く、かつ脱着が可能な材料ならばどのようなものを用いても構わない。
【0022】
以下に、図3(b)を用いて基板を交換することによりバルブの閾値を変える方法について説明する。
まず、基板301と基板303は基板302を境にして分離する。厚みが異なる基板307を基板302の代わりに設置する。これにより、基板302に比べて、弁体101と弁座106との距離が変わるため、バルブが駆動する圧力範囲が変化する。
【0023】
次に、バルブ基板を加圧することにより閾値を変える方法について説明する。
図3(c)に示すように、流体搬送装置300は、加圧手段308を備えている。
加圧によりバルブの閾値を変える方法について説明する。
【0024】
基板301および基板303の両基板から加圧手段308を用いて基板302を圧縮する。これにより、基板302が変形し、基板301と基板303の距離が変化する。よって、弁体101と弁座106との距離が変化し、バルブが駆動する圧力範囲が変化する。なお、基板302を加圧する圧力範囲は、基板302の弾性限界の範囲内であればよい。
【0025】
本発明の流体搬送装置は、弁体を形成する基板と弁座を形成する基板を分離できることから、両基板に混入した異物を容易に取り除くことができる。
また、加圧手段は、基板301と基板303を均一に圧縮することができれば、特に制限はない。ホルダ305、ねじ306、スペーサ304を用いて基板を圧縮する方法が挙げられる。また、加圧手段として圧電素子を用いることも可能である。圧電素子に印加する電圧を変化させることにより、圧電素子の厚みを変え、基板302の厚みを変化させる。これにより、弁体と弁体の距離が変化し、閾値を変えることが可能である。
【0026】
本発明では、ローパスバルブとして用いることを説明したが、本発明はこれに限定されない。弁体を形成する基板と弁座を形成する基板の間に設ける基板の厚さを十分に小さくした場合、ハイパスバルブ(一方向バルブ)としても用いることが可能である。
【実施例1】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中における、寸法、形状、材質、作製プロセス条件は一例であり、本発明の要件を満たす範囲内であれば、設計事項として任意に変更することが可能である。
【0028】
本実施例では、バルブを構成する基板の厚みを変更することによりバルブの閾値を可変とする液体搬送装置の実際の作製例を示す。
図4に図1の液体搬送装置の具体的な作製例を示す。前記液体搬送装置は図4(b)に示すように、バルブの可動部である弁体101を構成する基板401、該弁体と該弁体が流路を塞ぐ部分である弁座との距離を決める基板402、該弁座を形成した基板403、バルブと次のプロセスを接続する流路を形成した基板404からなる。図4(a)は、図1に示される流路が形成される基板401の平面図を示す。図4(b)は、図4(a)中のB−B’間の断面図、図4(c)は図4(a)のC−C’断面図を示す。
【0029】
図4(b)により、液体が流路104からバルブ内、そして流路105を通過して出口406に抜けるまでの具体的な経路を示す。不図示のポンプより、液体は基板401内に形成されたバルブ内流路のうち、太い流路を有する領域104に注入される。基板401内に形成された弁体101は、液体の圧力およびバネ102のバネ定数により決定される量の変位を受け、弁体101が基板403内の細い流路を有する領域103の入口を塞ぐ。これにより、液体は基板401内の太い流路を有する領域104内で止まり、それ以上流路103へは流れていかない。一方、弁体101が流路103の入り口を塞ぐに至らなかった場合、液体は流路105、流路103、104を通過し、基板401内に形成された流路405を通過し、出口406に搬送される。
【0030】
各部の寸法の例を以下に説明する。基板403、404の厚みは200〜500μmである。基板402の厚みは20μmである。基板401はSOI基板を用いており、シリコン/シリコン酸化膜/シリコンの厚みが5μm/1μm/200〜500μmとなっている。基板403に形成される流路103、405(スルーホール)は直径100μmである。バルブ内の太い流路で形成される領域104は、直径300μmである。バルブを形成する弁体101は直径200μm、厚み5μmで、バネ102は長さ50〜300μm、厚み5μm、幅20〜40μmである。流路105の長さ、すなわち変位のない状態の弁体101と流路103の距離は20μmである。
【0031】
次に、本実施例の流体搬送装置の作製方法を説明する。
基板403、基板404はシリコンを用い、基板401と共にフォトリソグラフィ法とSF6 ガスとC48 ガスのプラズマによるドライエッチングの組み合わせにて作製する。基板403、基板404は熱融着法により接合する。
【0032】
基板402はレジストSU−8(MICROCHEM社製)を用い、基板401の弁体101が形成された面にフォトリソグラフィ法により作製される。
以上の方法で作製された基板401、基板402、基板403および基板404は圧着して固定する。
【0033】
次に、本発明の液体搬送装置の分離について説明する。
図4(c)は液体搬送装置400の使用状態を示している。これに対し、図4(d)は液体搬送装置400の分離された状態を示している。基板401と基板403、404は基板402を介して分離される。これにより、弁体101と弁座106の間に混入する異物を除去することが可能である。
【実施例2】
【0034】
次に、図4で説明した液体搬送装置を利用して、基板の厚みに基づきバルブの閾値を制御する実施例について説明する。図5にその概略図を示す。
図5の液体搬送装置は、バルブ基板400、固定部材501、固定用ねじ502、スペーサ503より構成されている。図5(b)、(c)は図5(a)のD−D’線断面図を示す。
【0035】
バルブ基板について図5(b)を用いて説明する。バルブ基板の各厚みは、基板401が506μm、基板402が20μm、基板403が200μm、基板404が200μmであり、全体で926μmである。一方、スペーサ503の厚みは920μmである。固定部材501により、基板401、基板402、基板403は圧着固定されている。
【0036】
図5(b)の状態について、不図示のポンプにより液体を搬送する。バルブ前後に320kPaの差圧を生じるように液体を搬送した場合、バルブが閉状態になることを確認できる。
【0037】
次に、図5(c)は基板402の厚みが変化した状態を示す。以下に、基板の交換について説明する。
まず、厚さ910μmのスペーサ504.をスペーサ503の代わりに設置する。これにより、スペーサの厚さが10μm薄くなる。固定用ねじ502を締めることにより、基板402は圧縮される。これにより、基板402は変形し、弁体101は弁座106の方向に変位する。
【0038】
図5(c)の状態において不図示のポンプより液体を搬送する。バルブ前後に160kPaの差圧が生じるように液体を搬送した場合、バルブが閉状態になることを確認できる。
【0039】
以上のように、スペーサの厚みを調節しバルブ基板を圧縮することにより、弁体と弁座の距離を変化させ、バルブの閾値を変更することが可能である。
【実施例3】
【0040】
次に、図5で説明した液体搬送装置を利用し、印加電圧に基づきバルブの閾値を制御する実施例について説明する。図6にその概略図を示す。
図6(a)の液体搬送装置は、バルブ基板400、固定部材501、固定用ねじ502、スペーサ602、圧電素子601で構成されている。圧電素子601はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を用い、圧電素子601は不図示の電極シート、および不図示の電源部に接続されている。
【0041】
バルブ基板の厚みは、基板401が506μm、基板402が20μm、基板403が200μm、基板403が200μmであり、全体で926μmである。また、圧電素子601の厚みは、5mmである。バルブ基板400と圧電素子601の厚みを合わせると、5926μmである。一方、スペーサ602の厚みは5920μmである。スペーサ603および固定部材501により、バルブ基板400は圧着固定されている。
【0042】
図6(a)は、圧電素子601に電圧を印加する前の状態である。不図示のポンプよりバルブ基板に液体を搬送する。バルブ前後に240kPaの差圧を生じるように液体を搬送すると、バルブが閉状態になることを確認できる。
【0043】
図6(b)は、圧電素子601に100VDC印加した状態である。圧電素子はバルブ基板の厚み方向に10μm変位する。スペーサ602の厚みは一定であることから、基板402が圧縮される。これにより、基板403は基板401の方向へ変位し、弁体101と弁座106の距離は電圧印加前に比べて短くなる。
【0044】
圧電素子601に電圧を印加した状態において、不図示のポンプよりバルブ基板400に液体を搬送する。バルブ前後に120kPaの差圧が生じるように液体を搬送した場合、バルブが閉状態になることを確認できる。
【0045】
以上のように、圧電素子を加圧手段として用い、印加電圧に応じてバルブ基板を圧縮し、弁体と弁座の距離を変化させることにより、バルブの閾値を変更することが可能である。
この場合、基板402を厚みの異なる基板と交換する手間が省ける。これにより、バルブの閾値を迅速に調節することが可能である。
【実施例4】
【0046】
次に、図6の液体搬送装置を利用し、HPLC(high performance liquid cromatography)により分離分析する実施例について説明する。
【0047】
図7に分析装置の概念図を示す。分析システム700は一定量のサンプルを切り取り、分離分析する装置である。以下に、装置の構成について説明する。
分析システム700は、サンプルと移動相が通る流路705、706、707、708、709を有し、流路708の途中にバルブ701、流路709の途中にバルブ702を有する。流路708はサンプルを搬送するためのポンプ703に接続されている。また、流路705は移動相を搬送するためのポンプ710に接続されている。流路707は外部検出装置であるHPLCカラム711に接続されている。流路709はサンプルと移動相の廃液部704に接続されている。
【0048】
バルブ701、702に図6に示すバルブ基板を使用する。また、前記流路を形成する基板はバルブ基板と積層され、固定部材により固定されている(図示しない)。さらに、バルブ基板加圧するための圧電素子を備えている(図示しない)。バルブ701、702は流路706からポンプ703、廃液部704の方向に液体が流れる場合に閉るよう設置されている。分析システム700はポンプの流量制御モードを用いる。水を流した場合、バルブ701、702の閾値となる流量は5μl/minである。
【0049】
分析対象サンプル溶液としては、サンプル712として、エチルベンゼンを質量80%のメタノール水溶液(粘性率1.0cP/25℃)に溶解させたものを使用する。また、サンプル713として、質量50%のグリセリン水溶液(粘性率9.01cP/10℃)を使用する。また、移動相溶液として、100mMリン酸緩衝液(pH=7.0;KH2 PO4 −Na2 HPO4 )とメタノールを75:25に混合した溶液を用意する。
【0050】
サンプル712について分析の工程を示す。まず、移動相溶液を装置700内部の全ての流路中に満たす(図示しない)。次に図7(b)に示すように、ポンプ703によりサンプル712は流路708、706、709を通過して廃液部704に搬送される。このとき、流量1μl/minでサンプルを搬送する。ここで、サンプル712はバルブ701を順方向に流れるため、バルブ701は開状態である。また、バルブ702は逆方向にサンプルが流れるが、バルブ702の閾値未満であるため、バルブ702も開状態である。これにより、予め満たされた移動相溶液とサンプル712は廃液部704に排出される。
【0051】
次に、図7(c)に示すように、ポンプ710により移動相を流路705、706、707の順に搬送する。このとき、流量10μl/minで移動相溶液を搬送する。バルブ701、702は閾値以上でサンプルが搬送されるため閉状態になる。これにより、流路706中のサンプル712はバルブ701、702の方向に流れない。よって、流路706中のサンプル712のみHPLCカラム711に導入される。
【0052】
サンプル713について分析の工程を示す。まず、流路708、706、709にサンプル713を注入する工程について説明する。ここで、サンプル712と同様の条件で搬送すると、バルブ702は閉状態になる。その理由として、サンプル713はサンプル712に比べて粘度が高く、サンプル713を通過させることでないためである。これにより、サンプル中に移動相溶液が混在するなどの問題が生じる。ここで、搬送流量を十分に少なくする方法があるが、ポンプ703から廃液部704まで搬送するのに非常に時間がかかる。そこで、図6に示す圧電素子601により、基板402の厚みを5μmから20μmに変化させ、弁体101と弁座106の距離を長くする。これにより、サンプル713は流量1μl/minでサンプルを搬送することが可能となる。
【0053】
次に、サンプル712と同様に、ポンプ710により移動相溶液を搬送することにより、流路706中のサンプル713はHPLCカラム711に導入される。
HPLCカラム711は、ODS(オクタデシル化シリカ)カラムを用いた逆相クロマトグラフィであり、紫外吸光検出器によって、分離された各成分の検出を行う。その結果、エチルベンゼン、グリセリンの明瞭な出力信号ピークを得ることができる。
【0054】
以上のように、本発明の流体搬送装置を用いることにより、搬送する液体の粘度に制限されない分析システムが実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の流体搬送装置は、所定の圧力差(閾値)に応じて閉じるバルブの閾値を制御する方法として、弁体と弁座の距離を決める基板の厚みを変更するする方法を用いているので、閾値の異なるバルブを幾つも作製することなく、流体の搬送を正確に行うことができる。また、バルブと流路の間を分離できることから混入した異物を除去することができるので、特にチップ上で化学分析や化学合成を行う小型分析システム(μ―TAS)において、流体の流れを制御するためのバルブを用いた流体搬送装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の流体搬送装置のバルブの実施形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の流体搬送装置のバルブが駆動する工程を示す概略図である。
【図3】本発明の流体搬送方法の一実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明の流体搬送方法の一実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明の流体搬送方法の一実施形態を示す概略図である。
【図6】本発明の流体搬送方法の一実施形態を示す概略図である。
【図7】本発明の流体搬送装置を分析システムに用いた実施形態を示す概略図である。
【図8】従来のバルブの構成図である。
【符号の説明】
【0057】
100 バルブ
101 弁体
102 バネ
103、104、105、705、706、707、708、709 流路
106 弁座
107 部材
201、202 流体の流れ
300、400 バルブ基板
301、302、303、307、401、402、403、404 基板
304、503、504、602 スペーサ
305、501 固定部材
306、502 固定用ねじ
308 加圧手段
405 流路(スルーホール)
406 出口
601 圧電素子
700 分析システム
701、702 バルブ
703、710 ポンプ
704 廃液部
711 HPLCカラム
712 サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流すための流路と、前記流路の途中に位置し前記流体の流れを制御するためのバルブとを備えた流体搬送装置であって、前記バルブは前記流路に流体が流れたときに前記流路の上流側と下流側との間に生じる圧力差によって作動し、前記差圧が所定の値未満のときは流体を通過させ、前記圧力差が前記所定の値以上のときは流体の流れを遮断し、前記所定の値は可変であることを特徴とする流体搬送装置。
【請求項2】
前記流体搬送装置は、前記バルブと前記流路の間に所定の間隔を設けるための部材を備え、前記部材の厚みを変化させることで前記所定の値を変えることを特徴とする請求項1に記載の流体搬送装置。
【請求項3】
前記バルブは、バネと前記バネにより弾性支持された弁体を有し、前記弁体は、弁体前後の圧力差により変位し、前記圧力差が所定の値以上のときに前記弁体が前記流路を遮断することを特徴とする請求項1または2に記載の流体搬送装置。
【請求項4】
前記流体制御装置は、前記部材を変形させるための加圧手段を備え、前記加圧手段が前記部材を変形させ、前記部材の厚みを変化させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体搬送装置。
【請求項5】
前記部材は、弾性変形が可能な樹脂材料であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の流体搬送装置。
【請求項6】
前記加圧手段は圧電素子であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の流体搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−88063(P2006−88063A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277765(P2004−277765)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】