説明

流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤を製造するための前混合物を輸送する方法

【課題】ピペラジンと少なくとも1のアルカノールアミンとを含有し、その凝固点ができる限り低い、吸着剤のための濃縮された前混合物を提供する。
【解決手段】流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤を製造するための前混合物は、少なくとも1のアルカノールアミン、ピペラジン、および水を含有しており、その際、該前混合物は、65質量%を上回る全アミン含有率を有しており、かつ該前混合物中の水対ピペラジンのモル比は、1.6〜4.8である。該前混合物は、低い凝固点により優れている。該前混合物は、水および/またはアルカノールアミンによって、即時使用可能な吸着剤へと希釈される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤を製造するための前混合物、および吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業における数多くのプロセスで、酸性ガス、例えばCO2、H2S、SO2、CS2、HCN、COSまたはメルカプタンを含有する流体流が発生する。これらの流体流は、たとえば気体流、たとえば天然ガス、ラフィネートガス、合成ガス、煙道ガスであるか、または有機物質を含有する廃棄物のコンポスト化の際に生じる反応ガスでありうる。
【0003】
酸性ガスの除去は、種々の理由から特に重要である。天然ガスの硫黄化合物の含有率は、適切な後処理措置によって直接に天然ガス源で減少させなければならない。というのも、硫黄化合物は、天然ガスからしばしば連行される水の中で、腐食作用を有する酸を形成するからである。従って、天然ガスをパイプラインで輸送するためには、硫黄含有不純物を所定の限界値に維持しなければならない。有機材料、例えば有機廃棄物、石炭または石油を酸化する際、または有機物質を含有する廃棄物をコンポスト化する際に発生する反応ガスは、自然を損なうか、または気候に影響を及ぼしうるガスの放出を阻止するために除去されなければならない。
【0004】
酸性ガスを除去するために、無機もしくは有機塩基の溶剤を用いたスクラビングが使用される。酸性ガスを吸着剤中で溶解する際に、塩基と共にイオンが形成される。吸着剤は、低圧への放圧またはストリッピングによって再生することができ、その際、イオン種は、酸性ガスに再反応されおよび/または蒸気により留去される。再生工程の後、吸収剤は、再使用することができる。
【0005】
特許文献1(EP−A879631は、煙道ガスからCO2を除去するために、第二級アミンおよび第三級アミンを、それぞれ10〜45質量%の濃度で含有するアミン水溶液を推奨している。
【0006】
実地では、特許文献2(米国特許第4336233号明細書中に記載された吸収剤が有効であることが証明された。これは、吸着促進剤または活性化剤としてのメチルジエタノールアミン(MDEA)およびピペラジンの水溶液である。前記特許文献2中に記載の洗浄液は、メチルジエタノールアミン(MDEA)を1.5〜4.5モル/l、およびピペラジンを0.05〜0.8モル/l、有利に0.4モル/lまで含有する。
【0007】
特許文献3(WO03/009924からは、気体流から酸性ガスを除去する方法が公知であり、この場合、酸性ガスを含有する気体流を、酸性ガスの分圧の合計が1500ミリバールをえないことによって、吸着工程で水性の吸着剤と接触させ、かつ少なくとも1の第三級アルカノールアミンおよびピペリジンを、吸着剤少なくとも8質量%の濃度で含有する吸着剤が使用される。
【0008】
特許文献4(WO00/66249は、ピペラジン1モル/l以上およびメチルジエタノールアミン1.5〜6モルを含有する、酸性ガス除去用の吸着剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第879631号明細書
【特許文献2】米国特許第4336233号明細書
【特許文献3】国際公開第03/009924号
【特許文献4】国際公開第00/066249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
該水溶液は、高い割合の水を含有している。該吸着剤を気体処理装置へと輸送する際に、水の含有率は、輸送コストを最小化するためにできる限り低く維持することが望まれる。純粋なメチルジエタノールアミンと、純粋なピペラジンの輸送はたしかに原則として可能である。しかしピペラジンは、周囲の温度で固体であり、そのダストは増感作用がある。固体のピペラジンを溶解するためには、混合装置、たとえば攪拌機または固体に適したポンプおよび場合により熱源が必要とされる。さらに、人員のための安全準備対策、たとえば吸引および完全防備に配慮すべきである。このような設備は気体処理装置の所在地には通常存在していない。
【0011】
即時使用可能な吸着剤よりも高い全アミン含有率を有する濃縮された前混合物を製造する試みはすでになされている。前混合物は、気体処理装置において水で希釈することができる。しかしこのような濃縮された前混合物の輸送は、ピペラジンがすでに比較的高い温度で、濃縮された溶液から晶出し始めることによって困難になる。ピペラジンの結晶が現れると、前混合物はもはやそれ以上ポンプ輸送することができず、かつ汚染された容器は、高価な方法でクリーニングされなくてはならない。ピペラジンを改めて溶解することは、上記の1もしくは複数の措置によって行うことができるにすぎない。前混合物の凝固点が低ければ低いほど有利であることは明らかである。
【0012】
従って本発明の根底には、ピペラジンと少なくとも1のアルカノールアミンとを含有し、その凝固点ができる限り低い、吸着剤のための濃縮された前混合物を提供するという課題が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ところで、前混合物の凝固点は、前混合物中の水対ピペラジンのモル比に著しく依存し、かつ凝固点は、特定の比率の場合に最小値を有することが判明した。
【0014】
本発明によれば上記課題は、少なくとも1のアルカノールアミン、ピペラジンおよび水を含有する、流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤を製造するための前混合物であって、該前混合物が、65質量%より高い全アミン含有率を有し、かつ前混合物中の水対ピペラジンのモル比が、1.6〜4.8、有利には1.6〜3.9、さらに有利には1.6〜3.45および最も有利には1.6〜3.35である前混合物によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ピペラジンと水との比率に依存するメチルジエタノールアミン/ピペラジン/水の三成分混合物に関する凝固点を示すグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば上記課題は、少なくとも1のアルカノールアミン、ピペラジンおよび水を含有する、流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤を製造するための前混合物であって、該前混合物が、65質量%より高い全アミン含有率を有し、かつ前混合物中の水対ピペラジンのモル比が、1.6〜4.8、有利には1.6〜3.9、さらに有利には1.6〜3.45および最も有利には1.6〜3.35である前混合物によって解決される。
【0017】
本発明による前混合物中で使用するために、通常、流体流から酸性ガスを除去するために使用される全てのアルカノールアミンが適切である。このためにたとえば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジエチルエタノールアミン(DEEA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、メチルジイソプロパノールアミン(MDIPA)またはこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
特に一般式
1n2(3-1)
[式中、R1は、ヒドロキシ−C2〜C3−アルキルを表し、R2は、C1〜C3−アルキルを表し、かつnは、1〜3の整数、有利には1または2、最も有利には2を表す]のアルカノールアミンが適切である。
【0019】
これらの中で、メチルジエタノールアミンおよびメチルジイソプロパノールアミンが有利であり、その際、メチルジエタノールアミンが最も有利である。
【0020】
さらに第一級アルカノールアミン(つまり、第一級アミノ基を有しているアルカノールアミン)が適切であり、その際、アミノ基は、第三級炭素原子に結合している。中でも2−アミノ−2−メチルプロパノール(2−AMP)が有利である。
【0021】
本発明による前混合物中のアルカノールアミン対ピペラジンの質量比は重要ではないが、しかし一般に1:7〜28:1、有利には1:3〜28:1、特に有利には1:1.5〜28:1である。
【0022】
本発明による前混合物の全アミン含有率は、65質量%を上回り、有利には70質量%を上回り、かつ特に有利には75質量%を上回る。全アミン含有率とは、前混合物の全質量に対するアルカノールアミンおよびピペラジンの質量の合計であると理解される。
【0023】
工業的規模で、ピペラジンはたいてい、多様なエチレンアミン類の製造の際に有用生成物の一つとして得られる。この場合に、合成は、二塩化エチレン(EDC法)またはモノエタノールアミン(MEOA法)とアンモニアとの反応に基づいている。この反応のさらなる副生物は、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンおよび線状および環状のエチレンアミン類並びに付加的にMEOA法の場合のアミノエチルエタノールアミンである。エチレンアミンの生成物混合物の精製および分離は、工業的な製造では多くの場合、連続的な運転でカラムのカスケードによって行われる。その場合に、まず最初に、アンモニアは加圧塔中で除去され、その後、形成されたプロセス水の留去が行われる。これらの方法の多くでは、50〜75質量%、多くの場合約67質量%の濃度を有するピペラジン水溶液が生じる。67質量%濃度の溶液中での水対ピペラジンのモル比は約2.25である。このような水溶液は、本発明による前混合物を製造するために特に有利な出発材料である。水性ピペラジン溶液には、単に所望の量のアルカノールアミンおよび場合により少量の水が添加される。固体のピペラジンの高価な製造は不要である。
【0024】
本発明による前混合物は、一般に40℃より低い、有利には35℃より低い、多くの場合15〜30℃の凝固点を有する。該前混合物は、加熱されるおよび/または断熱された容器中で、広い区間にわたって容易に輸送し、かつ貯蔵することができる。
【0025】
本発明による前混合物は、他の機能性成分、例えば安定剤、特に酸化防止剤(たとえばドイツ国特許第102004011427号明細書参照)、または腐食防止剤を含有していてもよい。
【0026】
即時使用可能な吸着剤を製造するために、本発明による前混合物は、所望の量の水および場合によりアルカノールアミンで希釈される。有利には、前混合物中で使用されているアルカノールアミンと同じアルカノールアミンを使用する。当然のことながら、前混合物を希釈するために、アルカノールアミン水溶液を使用することもできる。即時使用可能な吸着剤は一般に、70質量%より少ない全アミン含有率を有し、たとえば65質量%より少ない、多くの場合、60質量%より少ない、たとえば35〜55質量%の全アミン含有率を有する。
【0027】
気体処理装置を初めて運転開始するための吸着剤を製造するためには、本発明による前混合物に、完成した混合物中で所望のピペラジンおよびアルカノールアミンの濃度が調整されるような量で水およびアルカノールアミンを添加する。
【0028】
本発明による前混合物は、アルカノールアミンおよび/またはピペラジンの損失量を補充するために使用することもできる。アルカノールアミンおよび/またはピペラジンの損失は、気体処理装置の運転の際に、種々の理由から生じ、特に、リーケージ、分解または痕跡量のアルカノールアミンおよび/またはピペラジンが処理される気体と共に除去されるという理由に基づいて生じる。損失量を補充するために特定される吸着剤の場合、ピペラジンおよびアルカノールアミンの異なった揮発性および/または分解速度を考慮すべきである。ピペラジンは一般に、アルカノールアミンよりも揮発性が高いので、運転中には比較的多量のピペラジンを補充しなくてはならない。この場合、本発明による前混合物は、水のみによって、もしくは吸着剤の目標組成に相応するよりも少量のアルカノールアミンによって希釈される。
【実施例】
【0029】
本発明を添付の図面および以下の実施例に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は、メチルジエタノールアミンの種々の含有率に関して、ピペラジンと水との比率に依存するメチルジエタノールアミン/ピペラジン/水の三成分混合物に関する凝固点を示している。
【0031】
例1
10質量%、20質量%、もしくは40質量%のメチルジエタノールアミン含有率を有するメチルジエタノールアミン/ピペラジン/水の三成分混合物を製造した。ピペラジンと水の合計に対するピペラジンの質量割合は、5〜70質量%の間で変化した。
【0032】
最初の固体形成が認識された場合の、製造された混合物の温度を測定した(液相線)。この結果は図1に示されている。ピペラジンと水との合計に対して、ピペラジン約62質量%の含有率で、混合物が凝固点の最小値を有することがわかる。
【0033】
例2
メチルジエタノールアミン(MDEA)/ピペラジン(PIP)の質量比1:1、2:1、3:1もしくは1.5:1および異なった含水率を有するメチルジエタノールアミン/ピペラジン/水の三成分混合物を製造し、かつこうして製造された混合物の凝固点を測定した。組成(質量%)、水/ピペラジンのモル比X(H2O/PIP)および凝固点(℃)は、以下の表にまとめられている。凝固点は、3つの測定からの結果として、および平均値として記載されている。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
例3
例2を繰り返したが、ただしその際、メチルジイソプロパノールアミン(MDIPA)/ピペラジン(PIP)の質量比1:1を有するメチルジイソプロパノールアミン/ピペラジン/水の三成分混合物を使用した。組成(質量%)、水/ピペラジンのモル比X(H2O/PIP)および凝固点(℃)は、以下の表にまとめられている。
【0040】
【表6】

【0041】
例4
例2を繰り返したが、ただしその際、2−アミノ−2−メチルプロパノール(2−AMP)/ピペラジン(PIP)の質量比1:1を有する2−アミノ−2−メチルプロパノール/ピペラジン/水の三成分混合物を使用した。組成(質量%)、水/ピペラジンのモル比X(H2O/PIP)および凝固点(℃)は、以下の表にまとめられている。
【0042】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤を製造するための前混合物であって、少なくとも1のアルカノールアミン、ピペラジンおよび水を含有し、その際、該前混合物は、65質量%を上回る全アミン含有率を有し、かつ前混合物中のピペラジンに対する水のモル比は、1.6〜4.8である、流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤を製造するための前混合物。
【請求項2】
前混合物中の水対ピペラジンのモル比が、1.6〜3.9である、請求項1記載の前混合物。
【請求項3】
アルカノールアミンが、一般式
1n2(3-n)
[式中、R1は、ヒドロキシ−C2〜C3−アルキルを表し、R2は、C1〜C3−アルキルを表し、かつnは、1〜3の整数を表す]を有する、請求項1または2記載の前混合物。
【請求項4】
アルカノールアミンが、メチルジエタノールアミンおよびメチルジイソプロパノールアミンから選択されている、請求項3記載の前混合物。
【請求項5】
アルカノールアミンが、アミノ基に第三級炭素原子が結合している第一級アルカノールアミンである、請求項1または2記載の前混合物。
【請求項6】
アルカノールアミンが、2−アミノ−2−メチルプロパノールである、請求項5記載の前混合物。
【請求項7】
前混合物中のアルカノールアミン対ピペラジンの質量比が、1:7〜28:1である、請求項1から6までのいずれか1項記載の前混合物。
【請求項8】
前混合物中のアルカノールアミン対ピペラジンの質量比が、1:3〜28:1である、請求項7記載の前混合物。
【請求項9】
全アミン含有率が、70質量%を上回っている、請求項1から8までのいずれか1項記載の前混合物。
【請求項10】
流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤の製造方法であって、請求項1から9までのいずれか1項記載の前混合物を、水および場合によりアルカノールアミンと混合する、流体流から酸性ガスを除去するための吸着剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−152753(P2012−152753A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−98144(P2012−98144)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2009−511482(P2009−511482)の分割
【原出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】