説明

流体管の移動防止装置及び流体管の移動防止方法

【課題】抜止め部材の爪を均等に食い込ませて、流体管の損傷を防止することができる流体管の移動防止装置と移動防止方法を提供する。
【解決手段】軸芯方向に沿って外径が変化する傾斜面63と、傾斜面63の外径が大きくなる前方側に形成された前方爪8Aと、傾斜面63の外径が小さくなる後方側に形成された後方爪8Bとを有する抜止め部材6と、水道管Pの外周面2aに向けて開口した収容溝9内に抜止め部材6を収容する環状のハウジング7とを備え、収容溝9に取り付けた押ボルト10の先端に傾斜面63を径方向内側に押圧する押圧面13が設けられ、その押圧面13が傾斜面63に対して傾斜し、押圧面13の前方側に傾斜面63から離れた離間部13aが形成され、押圧面13の後方側に傾斜面63と当接する当接部13bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止するための移動防止装置と、それを用いた流体管の移動防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、流体管の移動防止装置として、図12に示すような押輪(連結用環)が記載されている。この押輪34は、ハウジング37の収容溝39内に複数の抜止め部材36を収容しており、図12では、抜止め部材36の爪33,38が流体管Pの外周面に係止可能なセット状態を示している。図13は、運搬時や外嵌作業開始時などの初期状態を示しており、押輪34を流体管Pに外嵌装着した後、押ボルト31で抜止め部材36を押し込むことにより図12のセット状態に移行する。保持ピース32は、抜止め部材36を収容溝39から脱落しないように保持する。
【0003】
図14は、矢印方向Fへの外力が流体管Pに作用したときの負荷状態を示す。セット状態から流体管Pが矢印方向Fに移動しようとすると、抜止め部材36の外周に形成された傾斜面が押ボルト31の先端に強く押し当たり、抜止め部材36を流体管P側に押圧する力が働いて爪33,38が強固に食い込み、流体管Pの軸芯方向への移動を防止することができる。このときの抜止め部材36の移動代Mは、セット状態における抜止め部材36の側面と、それに対向する収容溝39の内壁面との間隔に基づいて定まる。
【0004】
ところで、このような楔効果を発揮する構造では、セット状態にある流体管Pが矢印方向Fに移動するに際して、図12(B)で時計回りとなる回転力が抜止め部材36に作用し、傾斜面の外径が大きくなる前方側(図12(B)の右側)に形成された爪38が、その後方側(図12(B)の左側)に形成された爪33よりも強く押圧されることが判明した。その結果、荷重が爪38に偏ってしまい、その爪38が流体管Pに深く食い込み過ぎることで、流体管Pの外周面や内面ライニングを損傷させる恐れがあった。
【0005】
下記特許文献2に記載の移動防止装置では、上記とは逆向き(矢印方向Fの反対方向)への流体管の移動を抑えるために、抜止め部材の前方側面に膨出部を形成し、その膨出部を中心にして抜止め部材が反時計回りに回転するように構成している。しかし、当該装置では、流体管を移動させる外力が作用していないセット状態において、図12(B)と変わらない構成であるため、矢印方向Fの外力が作用したときに、上述したような前方側の爪が一方的に食い込む事態は避けられず、やはり流体管の損傷を防止しうるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平4−39507号公報
【特許文献2】特開2010−261546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、抜止め部材の爪を均等に食い込ませて、流体管の損傷を防止することができる流体管の移動防止装置と移動防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る流体管の移動防止装置は、流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置において、前記軸芯方向に沿って外径が変化する傾斜面と、前記傾斜面の外径が大きくなる前方側に形成され、前記流体管の外周面に係止可能な前方爪と、前記傾斜面の外径が小さくなる後方側に形成され、前記流体管の外周面に係止可能な後方爪とを有する抜止め部材と、前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、その収容溝内に前記抜止め部材を収容する環状のハウジングとを備え、前記収容溝に取り付けた押圧部材の先端または前記収容溝の溝底に、前記傾斜面を径方向内側に押圧する押圧面が設けられ、前記押圧面が前記傾斜面に対して傾斜し、前記押圧面の前方側に前記傾斜面から離れた離間部が形成され、前記押圧面の後方側に前記傾斜面と当接する当接部が形成されているものである。
【0009】
本発明に係る流体管の移動防止装置では、押圧面が傾斜面に対して上記の如く傾斜していることから、抜止め部材の前方爪と後方爪とが流体管の外周面に係止可能となる状態(セット状態)において、後方爪が前方爪よりも強く径方向内側に押圧された体勢となる。そのため、流体管を移動させる外力によって抜止め部材に回転力が作用した際には、流体管の外周面に前方爪と後方爪とが均等に食い込むようになり、流体管の損傷を防止することができる。
【0010】
本発明に係る流体管の移動防止装置では、前記当接部が前記後方爪よりも後方側に位置するものが好ましい。これによって、押圧面による径方向内側への押圧を後方爪に優先的に伝えられることから、後方爪が前方爪よりも強く径方向内側に押圧された体勢が的確に得られ、流体管を移動させる外力が作用した際に、前方爪と後方爪とをバランス良く均等に流体管の外周面に食い込ませることができる。
【0011】
本発明に係る流体管の移動防止装置では、前記抜止め部材の後方側面に取り付けられた弾性部材と、前記抜止め部材の前方側面に取り付けられた保持部材とを備え、初期状態から前記流体管の外周面に前記前方爪と前記後方爪が係止可能なセット状態に至る過程で、前記収容溝の前方側の内壁面に前記保持部材が接当しつつ、前記抜止め部材の後方側面とそれに対向する前記収容溝の内壁面との間隔が前記弾性部材を介して保持されるものが好ましい。
【0012】
かかる構成では、初期状態からセット状態に至る過程で、収容溝の前方側の内壁面に保持部材が接当しつつ、抜止め部材の後方側面とそれに対向する収容溝の内壁面との間隔が弾性部材を介して保持されることから、押圧面による抜止め部材の押込み量や収容溝の溝幅に左右されることなく抜止め部材の移動代が定まり、傾斜面に対する押圧面の傾斜を適切に保持して、本発明の実効性を高めることができる。また、抜止め部材の移動代のばらつきを抑えることで、流体管の移動防止効果を安定的に発揮できる。
【0013】
本発明に係る流体管の移動防止装置では、前記収容溝に取り付けられた押ボルトにより前記押圧部材が構成され、その押ボルトの先端に設けられた前記押圧面の中央が、前記後方爪よりも後方側に位置するものが好ましい。これにより、押圧部材である押ボルトの先端に押圧面が設けられる場合において、その押圧面による径方向内側への押圧を後方爪に優先的に伝えやすくなる。その結果、後方爪が前方爪よりも強く径方向内側に押圧された体勢が的確に得られ、流体管を移動させる外力が作用した際に、前方爪と後方爪とをバランス良く均等に流体管の外周面に食い込ませることができる。
【0014】
本発明に係る流体管の移動防止装置では、前記傾斜面に対する前記押圧面の傾斜角度が1〜5°の範囲内にあるものが好ましい。この傾斜角度を1°以上にすることで、後方爪を前方爪よりも強く径方向内側に押圧しやすくなり、本発明の実効性を高めることができる。また、傾斜角度を5°以下にすることにより、押圧面を必要以上に傾斜させることなく、抜止め部材を適切に径方向内側へ押圧することができる。
【0015】
また、本発明に係る流体管の移動防止方法は、流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止方法において、前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、前記軸芯方向に沿って外径が変化する傾斜面を有した抜止め部材が前記収容溝内に収容されている環状のハウジングを、前記流体管に外嵌装着する工程と、前記収容溝に取り付けた押圧部材の先端または前記収容溝の溝底に設けられる押圧面によって、前記傾斜面を径方向内側に押圧し、前記傾斜面の外径が大きくなる前方側に形成された前記抜止め部材の前方爪と、前記傾斜面の外径が小さくなる後方側に形成された前記抜止め部材の後方爪とを、前記流体管の外周面に係止可能な状態にする工程とを備え、前記押圧面が前記傾斜面に対して傾斜し、前記押圧面の前方側に前記傾斜面から離れた離間部が形成され、前記押圧面の後方側に前記傾斜面と当接する当接部が形成されるものである。
【0016】
本発明に係る流体管の移動防止方法では、押圧面が傾斜面に対して上記の如く傾斜していることから、抜止め部材の前方爪と後方爪とが流体管の外周面に係止可能となる状態(セット状態)において、後方爪が前方爪よりも強く径方向内側に押圧された体勢となる。そのため、流体管を移動させる外力によって抜止め部材に回転力が作用した際には、流体管の外周面に前方爪と後方爪とが均等に食い込むようになり、流体管の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る流体管の移動防止装置の一例である押輪を装着した管継手部の半断面図
【図2】その押輪を軸芯方向から見た図
【図3】その押輪を内周側から見たときの展開図
【図4】初期状態における図3の(A)B−B断面図と(B)C−C断面図
【図5】セット状態における図3の(A)B−B断面図、(B)C−C断面図、及び、(C)傾斜面の拡大図
【図6】負荷状態における図3の(A)B−B断面図と(B)C−C断面図
【図7】抜止め部材の後方側面を示す図
【図8】抜止め部材の前方側面を示す図
【図9】本発明に係る流体管の移動防止装置の一例である補強金具を装着した管継手部の半断面図
【図10】その補強金具を軸芯方向から見た図
【図11】その補強金具の(A)初期状態と(B)セット状態における要部断面図
【図12】従来の押輪のセット状態における(A)要部断面図、(B)D−D断面図、及び、(C)E−E断面図
【図13】初期状態におけるD−D断面図
【図14】負荷状態におけるD−D断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
[第1実施形態]
第1実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を押輪に適用した例を示す。図1は、その押輪4を装着した管継手部の半断面図であり、その断面部分は図2のA−A断面に相当する。この管継手部では、管または管継手本体の受口部1に、ダクタイル鋳鉄製の水道管P(流体管の一例)の挿口部2が挿入接続されており、その水道管Pに外嵌装着された押輪4によって、水道管Pの軸芯方向への移動を防ぎ、延いては受口部1からの挿口部2の離脱を阻止可能に構成されている。
【0020】
押輪4は、水道管Pの周方向の複数箇所(本実施形態では六箇所)にT頭ボルト51が挿通され、そのT頭ボルト51とナット52とからなる締結具によって、受口部1のフランジ1bに連結されている。また、押輪4は、ナット52の締め付けに伴ってフランジ1bに引き寄せられており、シール材3を軸芯方向から圧縮している。受口部1の内周面と挿口部2の外周面2aとの間はシール材3により密封され、受口部1に挿口部2が水密に接続されている。押輪4は、水道管Pの周方向の複数箇所(本実施形態では六箇所)に配設された抜止め部材6と、環状のハウジング7とを備えている。
【0021】
抜止め部材6は、軸芯方向に沿って外径が変化する傾斜面63と、その傾斜面63の外径が大きくなる前方側(図1の右側)に形成され、外周面2aに係止可能な前方爪8Aと、傾斜面63の外径が小さくなる後方側(図1の左側)に形成され、外周面2aに係止可能な後方爪8Bとを有する。前方爪8Aと後方爪8Bとは、軸芯方向に間隔を設けて配置され、それぞれ先端が外周面2aと同等の曲率で湾曲しつつ(図7,8参照)、断面三角形状をなして抜止め部材6の内周面に突設されている。抜止め部材6は、金属のような堅牢な材料で作製され、具体的には鋳鉄が例示される。
【0022】
本実施形態では、抜止め部材6として、図3に示すような抜止め部材6Aと抜止め部材6Bの二種を採用し、それらを交互に配置して周方向に隣り合わせている。抜止め部材6A,6Bでは、前方爪8A及び後方爪8Bの一方が他方に対して両端部の周方向位置をずらして配置されている。即ち、抜止め部材6Aでは、後方爪8Bの両端部よりも前方爪8Aが周方向に張り出し、抜止め部材6Bでは、前方爪8Aの両端部よりも後方爪8Bが周方向に張り出していて、抜止め部材6Aの前方爪8Aと抜止め部材6Bの後方爪8Bとが軸芯方向に互いに重なるように配置している。
【0023】
このように隣り合う抜止め部材6A,6Bの爪同士を軸芯方向に重ねるように配置することにより、外周面2aに対する爪の接触領域の周長を増やして、水道管Pの移動防止効果を高めることができる。かかる爪の重複配置を採用した場合には、抜止め部材6の移動代のばらつきに応じて、周方向に隣り合う抜止め部材6同士で爪が干渉する恐れが生じるものの、本実施形態では、後述するように抜止め部材6の移動代Mを均一にできるため、かかる不具合を防止することができる。
【0024】
ハウジング7は、水道管Pの外周面2aに向けて開口した収容溝9を有し、その収容溝9内に抜止め部材6を収容している。収容溝9は、水道管Pの周方向に沿って環状に形成され、複数の抜止め部材6を一括に収容しているが、これに限られず、収容溝9を断続的に凹設して、抜止め部材6を個別に収容しても構わない。また、本実施形態ではハウジング7が円環状に一体成形されている例を示すが、これに代えて分割構造としてもよく、その場合には、複数の分割片の周端を互いに組み付けることで環状に形成される。
【0025】
ハウジング7の収容溝9には、抜止め部材6を外周面2aに向かって押圧する押圧部材としての押ボルト10が取り付けられている。押ボルト10は、収容溝9の溝底を斜め方向に貫通する雌ねじ孔に螺合され、その押ボルト10の回転操作によって抜止め部材6を押し込み可能に構成されている。押ボルト10は、抜止め部材6の周方向中央部に形成された傾斜面63に対向しており、その先端には、傾斜面63を径方向内側に押圧する押圧面13が設けられている(図5参照)。
【0026】
この押輪4は、水道管Pが軸芯方向に移動するのに伴って、抜止め部材6を水道管P側に押圧する力が作用するように構成されている。即ち、水道管Pを後方側へ移動させる外力が作用したときには、押ボルト10の先端の押圧面13に傾斜面63が押し当たって楔効果を発揮し、抜止め部材6を外周面2aに向かって押圧する力が働いて爪8A,8Bが強固に食い込み、抜止め部材6による抜止め作用を高めて水道管Pの移動を防止することができる。尚、水道管Pを前方側へ移動させる外力が作用しても、挿口部2の先端が受口部1の内面に当接するために特段の不都合は生じない。
【0027】
図4は、出荷運搬時や水道管Pへの外嵌作業開始時など、水道管Pの外周面2aに爪8が係止する前の初期状態を示している。押輪4を水道管Pに外嵌装着した後、押ボルト10を操作して抜止め部材6を押し込むと、図5のように収容溝9から前方爪8Aと後方爪8Bが突出して外周面2aに係止可能なセット状態となる。前述した図1もセット状態を示している。セット状態における爪8A,8Bは、外周面2aに引っ掛かるものであればよく、外周面2aに少し食い込んでいても構わない。
【0028】
セット状態の水道管Pに矢印方向Fの外力が作用すると、図6のように抜止め部材6が同方向に移動して上述した楔効果を発揮し、爪8A,8Bが強固に食い込んで水道管Pの移動を防止する。このとき、図6において時計回りとなる回転力が抜止め部材6に作用する傾向にあるが、この押輪4では、押圧面13を傾斜面63に対して傾斜させることにより、その回転力による前方爪8Aの一方的な食い込みを抑制し、それによる水道管Pの損傷を防止するようにしている。
【0029】
即ち、図5に示すように、この押輪4では、押圧面13が傾斜面63に対して傾斜し、押圧面13の前方側に傾斜面63から離れた離間部13aが形成され、押圧面13の後方側に傾斜面63と当接する当接部13bが形成されている。かかる構成によれば、押圧面13による径方向内側への押圧が後方爪8Bに優先的に伝えられ、後方爪8Bが前方爪8Aよりも強く径方向内側に押圧された体勢となるため、水道管Pを移動させる外力によって抜止め部材6に回転力が作用した際に、前方爪8Aと後方爪8Bとが外周面2aに均等に食い込むようになる。
【0030】
当接部13bは、後方爪8Bよりも後方側に位置することが好ましい。これによって、押圧面13による径方向内側への押圧を後方爪8Bに優先的に伝えて、後方爪8Bが前方爪8Aよりも強く径方向内側に押圧された体勢が的確に得られるため、水道管Pを移動させる外力が作用した際に、前方爪8Aと後方爪8Bとをバランス良く均等に外周面2aに食い込ませることができる。当接部13bでは、押圧面13と傾斜面63とが略線接触しており、図5に示すP1,P2は、それぞれ当接部13b,後方爪8Bの軸芯方向における位置を示している。
【0031】
また、本実施形態では、押ボルト10の先端に設けられた押圧面13の中央が、後方爪8Bよりも後方側に位置するように構成されている。これにより、押圧面13による径方向内側への押圧を後方爪8Bに優先的に伝えて、後方爪8Bが前方爪8Aよりも強く径方向内側に押圧された体勢が的確に得られるため、水道管Pを移動させる外力が作用した際に、前方爪8Aと後方爪8Bとをバランス良く均等に外周面2aに食い込ませることができる。図5に示すP3は、押圧面13の中央の軸芯方向における位置を示している。
【0032】
上述した当接部13bと後方爪8Bとの位置関係、または、押圧面13の中央と後方爪8Bとの位置関係は、初期状態から負荷状態に至る過程で保持されていることが望ましいが、少なくともセット状態において達成されてあればよく、好ましくは初期状態からセット状態に至る過程で保持されてあればよい。
【0033】
前方爪8Aよりも後方爪8Bを強く径方向内側に押圧するうえで、傾斜面63に対する押圧面13の傾斜角度θは、1°以上であることが好ましく、2°以上であることがより好ましく、3°以上であることが更に好ましい。また、抜止め部材6を径方向内側へ押し込むという押ボルト10の機能を適切に保持する観点から、傾斜角度θは、5°以下であることが好ましく、5°未満であることがより好ましく、4°以下であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の実効性を高めるには、初期状態からセット状態に至る過程において、傾斜面63に対する押圧面13の傾斜を保持することが有益である。そこで、この押輪4では、抜止め部材6の後方側面61に取り付けられた弾性部材11と、抜止め部材6の前方側面62に取り付けられた保持部材12とを備えて、初期状態からセット状態に至る過程で、収容溝9の内壁面92に保持部材12が接当しつつ、後方側面61とそれに対向する収容溝9の内壁面91との間隔が弾性部材11を介して保持されるように構成している。以下、詳しく説明する。
【0035】
図7に示すように、弾性部材11は、水道管Pの移動方向となる後方側を向いた抜止め部材6の後方側面61に取り付けられている。本実施形態では、弾性部材11が、シート状に形成され、抜止め部材6の周方向における中央部と両端部の三箇所に取り付けられている。弾性部材11は、ゴムなどの弾性材料により形成され、保持部材12よりも硬質であることが好ましい。後方側面61への取り付けには、接着剤や粘着剤による貼着、ゴムの焼き付け、ライニング等が利用できる。
【0036】
保持部材12は、後方側面61の反対側を向いた抜止め部材6の前方側面62に取り付けられている。本実施形態では、保持部材12がシート状に形成され、その周方向の両端部が中央部よりも肉厚であって、該肉厚部分の下部に突起が設けられている(図6(B)参照)。保持部材12は、例えばゴムやウレタンで形成され、特に限定されないが、弾性材料により形成されることが好ましい。前方側面62への取り付けには、上記した貼着や焼き付け、ライニング等が利用できる。
【0037】
図4に示す初期状態において、保持部材12は、収容溝9の内壁面91に弾性部材11を接当させた抜止め部材6と、その抜止め部材6の前方側面62に対向する収容溝9の内壁面92との間に介在し、抜止め部材6を内壁面91に向けて付勢して、収容溝9から脱落しないように保持する。即ち、抜止め部材6は、弾性部材11と保持部材12を介して、収容溝9の内壁面91,92の間に挟まされた状態で仮止めされてある。
【0038】
初期状態では、後方側面61に対向する内壁面91に弾性部材11が圧縮代を残して接当するとともに、前方側面62に対向する内壁面92に保持部材12が接当し、後方側面61と内壁面91との間に間隔Dが設けられている。抜止め部材6は、保持部材12により内壁面91に向けて付勢され、これにより内壁面91に接当する弾性部材11の厚みに対応したサイズで間隔Dが設けられる。図5に示すセット状態においても、後方側面61が内壁面91に接当しつつ、保持部材12が内壁面92に接当し、やはり弾性部材11の厚みに対応した間隔Dが設けられる。
【0039】
図6に示す負荷状態では、水道管Pと一緒に抜止め部材6が矢印方向Fに移動する。このときの抜止め部材6の移動代Mは、セット状態における間隔Dに基づいて定まり、より正確には、負荷状態における弾性部材11の厚み分を間隔Dから差し引いた距離が移動代Mに相当する。
【0040】
この押輪4では、初期状態からセット状態に至る過程で、押ボルト10が抜止め部材6を斜め方向に押し込むものの、収容溝9の内壁面92に保持部材12が接当しつつ、弾性部材11を介して間隔Dが一定に保持されるため、抜止め部材6の押込み量や収容溝9の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代Mが定まり、傾斜面63に対する押圧面13の傾斜を適切に保持して、本発明の実効性を高めることができる。
【0041】
また、抜止め部材6の移動代のばらつきが抑えられることで、水道管Pに対する移動防止効果を安定的に発揮できる。即ち、抜止め部材6の各々の押込み量が互いに異なる場合や、ハウジング7が鋳物(例えば鋳鉄製)であって寸法公差が大きい場合であっても、移動代Mのばらつきを抑えて、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮でき、特に水道管Pに強大な外力が作用したときの極限性能の向上に資することができる。
【0042】
これに対し、上述した従来構造では、初期状態における抜止め部材36と収容溝39との間隔D(図13)が移動代M(図12)よりも小さく、初期状態の間隔Dが抜止め部材36の押し込みに伴って拡がり、セット状態で移動代Mとなる。このため、抜止め部材36の押込み量に応じて移動代Mがばらつくという問題がある。また、押込み量が一定であっても、収容溝39の溝幅に応じて移動代Mが変化しうるため、ハウジング37が寸法公差の大きい鋳物である場合には特に、移動代Mがばらつきやすい。
【0043】
弾性部材11は、少なくとも抜止め部材6の周方向における中央部と両端部に取り付けることが好ましく、それによって、初期状態からセット状態、更には負荷状態に移行する過程で、抜止め部材6が弾性部材11を介して内壁面91にバランス良く押し当たり、移動代Mのばらつきを効果的に抑えられるとともに、抜止め部材6に負荷が局部的に集中しないため、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮できる。本実施形態では上記の3箇所に弾性部材11を取り付けているが、これらを含む後方側面61の略全域に取り付けても構わない。
【0044】
収容溝9の内壁面92には段部92aが形成されており、図4に示した初期状態では、この段部92aに保持部材12が係合している。かかる構成によれば、初期状態において抜止め部材6を的確に位置決めできるため、抜止め部材6の落下が防止できるとともに、後方側面61と収容溝9の内壁面91との間隔をより精度良く保持して、抜止め部材6の移動代のばらつきを効果的に抑えられる。
【0045】
また、本実施形態では、初期状態において保持部材12に設けた突起が段部92aと係合するため、内壁面92に対して保持部材12を堅固に係合させて、初期状態にある保持部材12の位置決め精度を高めることができる。尚、保持部材12の肉厚部分の上部に突起を設けておき、その突起がセット状態で段部92aと係合するように構成してもよく、その場合には、セット状態おける抜止め部材6を的確に位置決めして間隔Dをより精度良く保持し、移動代Mのばらつきを有効に抑えることができる。
【0046】
この押輪4を用いて水道管Pが軸芯方向に移動するのを防止する方法について、簡単に説明する。まずは、抜止め部材6が収容溝9内に収容されている環状のハウジング7を、水道管Pに外嵌装着する。通常、この工程では、押輪4が図4に示すような初期状態にある。続いて、押ボルト10を操作して抜止め部材6を押し込み、図1,5に示すようなセット状態に移行する。即ち、押圧面13によって傾斜面63を径方向内側に押圧し、抜止め部材6の前方爪8Aと後方爪8Bとを外周面2aに係止可能な状態にする。
【0047】
このとき、上記のように押圧面13が傾斜面63に対して傾斜し、押圧面13の前方側に離間部13aが形成され、押圧面13の後方側に当接部13bが形成されていることにより、セット状態では後方爪8Bが前方爪8Aよりも強く径方向内側に押圧された体勢となる。その結果、図6のように水道管Pを移動させる外力が働いて、抜止め部材6に回転力が作用した際には、前方爪8Aと後方爪8Bとが外周面2aに均等に食い込むようになり、水道管Pの外周面や内面ライニングにおける損傷を防止することができる。
【0048】
また、本実施形態であれば、この初期状態からセット状態に至る過程において、収容溝9の内壁面92に保持部材12が接当しつつ、抜止め部材の後方側面61とそれに対向する収容溝9の内壁面91との間隔Dが弾性部材11を介して保持されることから、押圧面13による抜止め部材6の押込み量や収容溝9の溝幅に左右されることなく抜止め部材6の移動代が定まり、傾斜面63に対する押圧面13の傾斜を適切に保持して、本発明の実効性を高めることができる。
【0049】
[第2実施形態]
第2実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様の構成及び作用であるため、共通点を省略して主に相違点について説明する。尚、第1実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0050】
第2実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を補強金具に適用した例を示す。図9は、その補強金具24を取り付けた管継手部の半断面図である。この管継手部では、受口部21に、水道管Pの挿口部2が挿入接続されており、その水道管Pに外嵌装着された補強金具24によって、水道管Pの軸芯方向への移動を防ぎ、延いては受口部21からの挿口部2の離脱を阻止可能に構成されている。受口部21の内周面と挿口部2の外周面2aとの間は、圧縮されたシール材23により密封されている。
【0051】
図9,10に示すように、補強金具24は、水道管Pの周方向の複数箇所に配設された抜止め部材6と、挿口部2の外周面2aに向けて開口した収容溝29内に抜止め部材6を収容する環状のハウジング27とを備える。抜止め部材6は、第1実施形態で説明したような傾斜面63と、前方爪8Aと、後方爪8Bとを有する。また、抜止め部材6の後方側面61には弾性部材11が取り付けられ、抜止め部材6の前方側面62には保持部材12が取り付けられている。
【0052】
ハウジング27は、周方向の複数箇所(本実施形態では二箇所)で分割された分割構造を有し、各分割片の周端に形成されているフランジ27aを締結具25で互いに組み付けることにより、既設の水道管Pに対して取り付け可能になっている。ハウジング27には、受口部21のフランジ21bの背面にまで延びたフック27bが設けられており、水道管Pに後方側への外力が作用したときには、このフック27bがフランジ21bに係合するように構成されている。
【0053】
本実施形態では、傾斜面63と対向する収容溝29の溝底に、その傾斜面63を径方向内側に押圧する押圧面26が設けられている。即ち、図11(A)の初期状態から締結具25を締め付けてハウジング27を縮径させると、押圧面26が抜止め部材6の傾斜面63を押圧して図11(B)のセット状態へと移行し、前方爪8Aと後方爪8Bが外周面2aに係止可能となる。尚、爪8A,8Bが外周面2aに係止する前の初期状態では、抜止め部材6が脱落しないように収容溝29内に保持されている。
【0054】
押圧面26は傾斜面63に対して傾斜しており、その押圧面26の前方側に傾斜面63から離れた離間部26aが形成され、押圧面26の後方側に傾斜面63と当接する当接部26bが形成されている。そのため、後方爪8Bが前方爪8Aよりも強く径方向内側に押圧される体勢となり、水道管Pを移動させる外力によって抜止め部材6に回転力が作用した際に、前方爪8Aと後方爪8Bとが外周面2aに均等に食い込むようになる。
【0055】
また、初期状態からセット状態に至る過程では、抜止め部材6が押圧面26により斜め方向に押し込まれるものの、収容溝29の内壁面に保持部材12が接当しつつ、弾性部材11を介して間隔Dが一定に保持される。したがって、この補強金具24においても、抜止め部材6の押込み量や収容溝29の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代Mが均一化され、本発明の実効性を高められるとともに、水道管Pの移動防止効果を安定的に発揮できる。
【0056】
この補強金具24では、収容溝29の溝底に押圧面26が設けられているが、これに代えて、第1実施形態のような押ボルト10を収容溝29に取り付け、その先端に設けられる押圧面によって抜止め部材6の傾斜面63を押圧する構造にしてもよい。また逆に、第1実施形態で示した押輪4において、収容溝9の溝底に設けられる押圧面によって傾斜面63を押圧する構造とし、押ボルト10を省略しても構わない。
【0057】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、本発明に係る流体管の移動防止装置を押輪や補強金具に適用した例を示したが、これに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。例えば、ハウジングを管の受口部で構成して、本発明に係る流体管の移動防止装置をスリップオンタイプの管継手部に適用してもよく、その場合、受口部の内周面に形成された収容溝に抜止め部材が収容され、セット状態においては、その抜止め部材の爪が、受口部に挿入した流体管の挿口部の外周面に係止可能に配置される。
【0058】
(2)収容溝に取り付けられる押圧部材は、上記の如き構成の押ボルトに限られるものではなく、これと異なる構造や形状、配置を有する押ボルト、或いは、押ボルトと他の部材との組み合わせであっても構わない。もとより、押圧部材は、押ボルトを利用したものに限られない。
【0059】
(3)本発明において、流体管は、水道管に限定されるものではなく、各種の液体や気体が流れる流体管であってよい。
【符号の説明】
【0060】
4 押輪(流体管の移動防止装置の一例)
6 抜止め部材
7 ハウジング
8A 後方爪
8B 前方爪
9 収容溝
10 押ボルト(押圧部材の一例)
11 弾性部材
12 保持部材
13 押圧面
13a 離間部
13b 当接部
24 補強金具(流体管の移動防止装置の一例)
26 押圧面
26a 離間部
26b 当接部
27 ハウジング
29 収容溝
61 後方側面
62 前方側面
63 傾斜面
91 内壁面
92 内壁面
P 水道管(流体管の一例)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管に外嵌装着して、その流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止装置において、
前記軸芯方向に沿って外径が変化する傾斜面と、前記傾斜面の外径が大きくなる前方側に形成され、前記流体管の外周面に係止可能な前方爪と、前記傾斜面の外径が小さくなる後方側に形成され、前記流体管の外周面に係止可能な後方爪とを有する抜止め部材と、
前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、その収容溝内に前記抜止め部材を収容する環状のハウジングとを備え、
前記収容溝に取り付けた押圧部材の先端または前記収容溝の溝底に、前記傾斜面を径方向内側に押圧する押圧面が設けられ、
前記押圧面が前記傾斜面に対して傾斜し、前記押圧面の前方側に前記傾斜面から離れた離間部が形成され、前記押圧面の後方側に前記傾斜面と当接する当接部が形成されていることを特徴とする流体管の移動防止装置。
【請求項2】
前記当接部が前記後方爪よりも後方側に位置する請求項1に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項3】
前記抜止め部材の後方側面に取り付けられた弾性部材と、前記抜止め部材の前方側面に取り付けられた保持部材とを備え、
初期状態から前記流体管の外周面に前記前方爪と前記後方爪が係止可能なセット状態に至る過程で、前記収容溝の前方側の内壁面に前記保持部材が接当しつつ、前記抜止め部材の後方側面とそれに対向する前記収容溝の内壁面との間隔が前記弾性部材を介して保持される請求項1または2に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項4】
前記収容溝に取り付けられた押ボルトにより前記押圧部材が構成され、その押ボルトの先端に設けられた前記押圧面の中央が、前記後方爪よりも後方側に位置する請求項1〜3いずれか1項に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項5】
前記傾斜面に対する前記押圧面の傾斜角度が1〜5°の範囲内にある請求項1〜4いずれか1項に記載の流体管の移動防止装置。
【請求項6】
流体管が軸芯方向に移動するのを防止する流体管の移動防止方法において、
前記流体管の外周面に向けて開口した収容溝を有し、前記軸芯方向に沿って外径が変化する傾斜面を有した抜止め部材が前記収容溝内に収容されている環状のハウジングを、前記流体管に外嵌装着する工程と、
前記収容溝に取り付けた押圧部材の先端または前記収容溝の溝底に設けられる押圧面によって、前記傾斜面を径方向内側に押圧し、前記傾斜面の外径が大きくなる前方側に形成された前記抜止め部材の前方爪と、前記傾斜面の外径が小さくなる後方側に形成された前記抜止め部材の後方爪とを、前記流体管の外周面に係止可能な状態にする工程とを備え、
前記押圧面が前記傾斜面に対して傾斜し、前記押圧面の前方側に前記傾斜面から離れた離間部が形成され、前記押圧面の後方側に前記傾斜面と当接する当接部が形成されることを特徴とする流体管の移動防止方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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