説明

流体貯蔵装置及びその保護膜の設置方法

【課題】流体貯蔵装置の貯留体を囲む保護膜を環境液中で簡単に設置する。
【解決手段】海等の環境液2中で流体貯蔵装置1の軸線を上下に向けた密閉筒状の貯留体10に被貯蔵流体3を貯蔵する。保護膜30を、両端がそれぞれ全体又は部分的に開口された筒状の状態で貯留体10の外周に通して貯留体10に被せる。その後、保護膜30を密閉する。さらに好ましくは、保護膜30と貯留体10の間の流体を外部に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、環境液中に被貯蔵流体を貯蔵する流体貯蔵装置及びその保護膜の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海、湖沼等の液体環境中に淡水、石油、天然ガス等の被貯蔵流体を貯蔵する流体貯蔵装置は公知である。例えば、特許文献1、2では、流体貯蔵装置として可撓性の袋を用いている。袋は、上下に長い筒状になっており、かつ内袋と外袋の二重袋構造になっている。内袋の内部に被貯蔵流体が蓄えられる。外袋と内袋の間には水や空気が充填される。袋の下端部がアンカーにて水底に定着されている。二重袋構造にすることによって、内袋が破けても被貯蔵流体が環境液に流出するのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−78694号公報
【特許文献2】実開昭62−78695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外袋は環境液中の浮遊物や近くの定着物との接触によって損傷しやすい。また、環境液中にフジツボ等の硬い殻を有する固着性生物が生息していると、その幼体が外袋に付着して成長することで、外袋を破損するおそれがある。そのため、外袋を定期的又は不定期に取り換える必要がある。しかし、環境液中で外袋を新たに設置するのは容易でない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、本発明方法は、軸線を上下に向けて環境液中に配置された密閉筒状の膜からなる貯留体を備え、前記貯留体の内部に被貯蔵流体を貯蔵した流体貯蔵装置における、前記貯留体を囲む保護(外袋)膜の設置方法であって、前記保護膜を、両端がそれぞれ全体又は部分的に開口された筒状の状態で前記貯留体の外周に通して前記貯留体に被せ、その後、前記保護膜を密閉することを特徴とする。
これによって、保護膜内の空気や環境液の抵抗をあまり受けることなく、保護膜を貯留体に容易に被せることができる。
【0006】
前記保護膜を前記貯留体に被せた後、前記保護膜を密閉する前又は密閉後に、前記保護膜と前記貯留体の間の流体を前記保護膜の外部に排出することが好ましい。
これによって、環境液中に固着性生物が生息していたとしても、保護膜を貯留体に被せた後の排出工程によって、保護膜の内部の環境液を保護膜の外部に排出できる。したがって、保護膜内の前記固着性生物の存在数を減らすことができる。かつ、保護膜内の溶存酸素や栄養分の量又は濃度を減らすことができる。よって、保護膜の内面や貯留体の外面に前記固着性生物が固着して成長するのを抑制でき、この結果、保護膜及び貯留体の劣化、破損を抑制又は防止できる。
【0007】
前記排出の工程が、前記保護膜と前記貯留体との間の流体を前記被貯蔵流体にてパージする工程と、前記保護膜と前記貯留体との間の流体を吸引手段にて吸引する工程の少なくとも1つを含むことが好ましい。
パージ工程によって、保護膜と貯留体との間の流体の環境液濃度を低減できる。したがって、前記流体中の固着性生物の存在率を減らすことができ、かつ前記流体中の溶存酸素濃度や栄養分濃度を減らすことができる。吸引工程によって、保護膜と貯留体との間の流体の量を低減できる。したがって、前記流体中の固着性生物の存在数を減らすことができ、かつ前記流体中の溶存酸素量度や栄養分量を減らすことができる。
【0008】
前記保護膜の両端部のうち一端部を開口し他端部を閉じた状態で前記パージを行ない、次に前記保護膜の前記一端部を閉じ、次に前記吸引を行なうことが好ましい。
これによって、パージ工程では、保護膜内の流体を前記開口された一端部から確実に排出できる。その後、前記一端部を閉じることで保護膜を密閉できる。その後、吸引工程を行なうことで、保護膜と貯留体との間の容積を確実に減らすことができる。前記パージ工程において、保護膜の上端部を開口し、かつ保護膜の下端部を閉止してもよく、保護膜の上端部を閉止し、かつ保護膜の下端部を開口してもよい。すなわち、前記開口された一端部が、保護膜の上端部であってもよく、保護膜の下端部であってもよい。パージ用流体は、保護膜の閉じられた側の端部から保護膜内に導入することが好ましい。これによって、保護膜内の流体をパージ用流体に確実に置換できる。
【0009】
前記貯留体に被せる前の保護膜の一方の端部は、少なくとも流体が出入り可能に開口し、他方の端部は、前記貯留体を挿入可能に開口されていることが好ましい。これによって、前記貯留体を前記他方の端部から前記保護膜の内部に挿入するようにして、前記保護膜を前記貯留体に被せることができる。このとき、保護膜内の空気や環境液等の流体が前記一方の端部の開口から外部に流出することで、貯留体の挿入を容易に行なうことができる。その後、前記保護膜の両端部をそれぞれ閉止することによって保護膜を密閉する。
【0010】
前記貯留体に被せる前の保護膜の両端部がそれぞれ前記貯留体を挿入可能に開口されていてもよい。そうすると、保護膜の何れの側の端部からでも貯留体に被せることができる。また、前記保護膜の全体を軸方向に潰した状態で前記貯留体の外周に通し、続いて前記保護膜を軸方向に伸ばすことで前記貯留体の全体に被せることができる。
【0011】
前記被貯蔵流体が、前記環境液より低密度であることが好ましい。前記貯留体の下端部に重量体が連結されていることが好ましい。これによって、貯留体の下端部を確実に下方に向けることができ、ひいては貯留体を確実に立った姿勢(軸線が上下に向いた姿勢)にすることができる。前記重量体は、環境液の底部に着座していてもよく、環境液中に浮遊していてもよい。前記重量体が環境液の底部に着座している場合、前記保護膜を前記貯留体の上端部から前記貯留体の外周に被せることが好ましい。前記重量体が環境液中に浮遊している場合、前記保護膜を前記貯留体の上端部から前記貯留体の外周に被せてもよく、前記保護膜を前記重量体ひいては前記貯留体の下端部から前記貯留体の外周に被せてもよい。
【0012】
前記保護膜を前記貯留体だけでなく前記重量体にも被せてもよい。これによって、重量体をも保護できる。
前記保護膜の下端部を、前記重量体の外周に被せて解放可能に縛り付けてもよい。これによって、重量膜を保護できるのに加えて、保護膜の下端開口を重量体で塞ぐことができる。古い保護膜を取り換える際は、該保護膜の下端の縛着部を解放することで、該保護膜を簡単に撤去できる。
前記貯留体の下端部と前記重量体とが連繋ワイヤ等の連繋手段にて連繋されていてもよい。前記保護膜を、前記貯留体だけでなく前記連繋手段及び前記重量体にも被せてもよい。これによって、連繋手段及び重量体をも保護できる。
【0013】
前記保護膜の開口部は、融着、ファスナー、一対の挟付部材などの閉止手段にて閉止するとよい。前記保護膜の上端の開口を融着にて閉止する際は、前記保護膜の上端部を前記環境液の液面上に出して融着作業を行なうことが好ましい。
【0014】
本発明装置は、被貯蔵流体を前記環境液中に貯蔵する流体貯蔵装置であって、
軸線を上下に向けて環境液中に配置され、かつ内部に前記被貯蔵流体が貯蔵される密閉筒状の膜からなる貯留体と、
前記貯留体の下端部に連結された重量体と、
筒状に成形された膜にて構成されて前記貯留体の全体を囲み、下端部が前記重量体の外周に被さって解放可能に縛り付けられ、上端部が閉止された保護膜とを備えたことを特徴とする。
この特徴によれば、貯留体だけでなく重量体をも保護膜で囲んで保護できる。貯留体と重量体とが連繋ワイヤ等の連繋部材にて連繋されている場合、前記連繋部材をも保護膜で囲んで保護できる。古くなった保護膜を取り換える際は、該保護膜の下端の縛着部を解放することで、該保護膜を簡単に撤去できる。新たな保護膜を設置する際は、保護膜の両端をそれぞれ全体又は部分的に開口しておくことで、保護膜内の流体の抵抗をあまり受けることなく貯留体に容易に被せることができる。そして、保護膜の上端開口を閉止手段にて閉止する。保護膜の下端開口は、重量体にて塞ぐことができる。
【0015】
前記環境液が海水であり、前記被貯蔵流体が淡水であることが好ましい。これによって、海中に淡水を貯蔵できる。海中のフジツボ等の硬い殻を有する固着性生物の幼体が貯留体に直接付着するのを防止でき、上記固着性生物に因る貯留体の破損を抑制又は防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流体貯蔵装置の貯留体を囲む保護膜を環境液中で容易に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る流体貯蔵装置を、定常の使用状態で示す正面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿う、上記流体貯蔵装置の断面図である。
【図3】図3は、上記流体貯蔵装置の保護膜の取り換え手順を、使用済み保護膜を撤去した状態で示す正面図である。
【図4】図4は、図3のIV−IV線に沿う、上記貯留体の側面断面図である。
【図5】図5は、図3のV−V線に沿う、上記貯留体の側面断面図である。
【図6】図6は、上記流体貯蔵装置の保護膜の取り換え手順を、新たな保護膜の沈降時の状態で示す正面図である。
【図7】図7は、上記流体貯蔵装置の保護膜の取り換え手順を、保護膜の下端部を重量体に固着した状態で示す正面図である。
【図8】図8は、上記流体貯蔵装置の保護膜の取り換え手順を、保護膜を上に伸ばした状態で示す正面図である。
【図9】図9は、上記流体貯蔵装置の保護膜の取り換え手順を、保護膜内の海水をパージする状態で示す正面図である。
【図10】図10は、上記流体貯蔵装置の保護膜の取り換え手順を、保護膜の上端部を封止する状態で示す正面図である。
【図11】図11は、図10のXI−XI線に沿う、上記保護膜の上端部の縦断面図である。
【図12】図12は、上記流体貯蔵装置の保護膜の取り換え手順を、保護膜内の流体を吸引排出する状態で示す正面図である。
【図13】図13は、本発明の第2実施形態に係る流体貯蔵装置を、新たな保護膜を貯留体に被せる状態で示す正面図である。
【図14】図14は、上記第2実施形態に係る流体貯蔵装置を、保護膜の下端部を重量体に固着した状態で示す正面図である。
【図15】図15は、上記第2実施形態に係る流体貯蔵装置を、保護膜内の海水をパージする状態で示す正面図である。
【図16】図16は、上記第2実施形態に係る流体貯蔵装置を、保護膜内の流体を吸引排出する状態で示す正面図である。
【図17】図17は、上記第2実施形態に係る流体貯蔵装置を、定常の使用状態で示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、流体貯蔵装置1は、海中に設置されている。環境液2は海水である。流体貯蔵装置1の貯蔵対象すなわち被貯蔵流体3は、淡水である。流体貯蔵装置1は、淡水3を海水2から隔離して海水2中に貯蔵している。
【0019】
図1に示すように、流体貯蔵装置1は、貯留体10と、重量体20と、保護膜30を備えている。図1及び図2に示すように、貯留体10は、軸長方向を上下に向け、かつ上下両端が閉じられた断面円形の筒状(袋状)になっている。貯留体10の周長は、例えば1m〜20m程度である。貯留体10の軸長(上下方向の寸法)は、貯留体10の周長以上であることが好ましいが、貯留体10の周長未満であってもよい。貯留体10の軸長の上限は、流体貯蔵装置1の設置場所の水深未満ないしは50m以下であることが好ましい。
【0020】
図2に示すように、貯留体10の内部に淡水3が充填されている。貯留体10内の淡水3の圧力は、貯留体10の下側部分を除き、外部の海水2の圧力より大きい。そのため、図4に示すように、貯留体10の本体部11(後記上下の閉止手段41,42どうし間の部分)の上端部の周面が凸曲面になっている。一方、図5に示すように、貯留体10の下側部分では、内部の淡水3の圧力が外部の海水2の圧力より小さい。そのため、貯留体10の本体部11の下端部の周面が凹曲面になっている。
【0021】
図2に示すように、貯留体10は、複数(図では2つ)の膜体19を積層した複層構造になっている。これによって、上記淡水3の充填圧及び浮力に起因して生じる張力に対して十分な強度が確保されている。膜体19の数は、20程度以下が好ましい。貯留体10は、1つの膜体19にて構成されていてもよい。膜体19の厚みは、10μm〜200μm程度である。図において、膜体19の厚みは、該膜体19の周長及び軸長に対して誇張されている。ひいては、貯留体10の厚みは、該貯留体10の周長及び軸長に対して誇張されている。
【0022】
膜体19ひいては貯留体10は、可撓性を有している。膜体19は、可撓性材料にて構成され、好ましくは可撓性樹脂にて構成されている。膜体19を構成する可撓性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等が挙げられる。好ましくは、膜体19は、ポリエチレンを筒状に成形してなるインフレーション膜にて構成されている。より好ましくは、膜体19は、低密度ポリエチレンのインフレーション膜にて構成されている。低密度ポリエチレンは伸縮性に富む。或いは、膜体19が、補強繊維を樹脂膜で挟んだ複合膜であってもよい。
【0023】
図3及び図4に示すように、貯留体10の上端部は、融着されて液密(液体が透過不能)に封止され、上端封止部13を構成している。すなわち、貯留体10の上端部の2つの半周部分13a,13aどうしが重ね合わされ、かつ加熱によって互いに融着されて一体になっている。貯留体10の上端近傍部分(上端封止部13より少し下側の部分)は、上側閉止手段41にて非液密(液体の出入りを許容する程度)に閉止されている。上側閉止手段41は、一対の挟付部材43,43と、ボルト45を含む。各挟付部材43は、図4の紙面と直交する方向に延びる板状になっている。挟付部材43は、好ましくは環境液2より比重が軽い材料にて構成され、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂にて構成されている。一対の挟付部材43,43が、貯留体10の上端近傍部分を両側から挟み付けている。これによって、貯留体10の上端近傍部分の2つの半周部分11a,11aが潰れて平らになり互いに重ね合わされている。一対の挟付部材43,43どうしが、ボルト45にて締め付けられている。上側閉止手段41は、貯留体10の上端近傍部分を液密に封止してはいない。貯留体10の本体部11(上側閉止手段41より下側部分)内の淡水3が、半周部分11a,11aどうしの間を通って、上端封止部13と上側閉止手段41との間の上側小室12に入り込むことができる。上側小室12は充分に小さいから、該小室12に入り込んだ淡水3の浮力及び内圧によって封止部13に大きな張力が作用することはない。
【0024】
図5に示すように、貯留体10の下端部についても、上記上端部と同様に半周部分15a,15aどうしが融着されて液密(液体が透過不能)に封止されている。これによって、下端封止部15が構成されている。貯留体10の下端近傍部分(下端封止部15より少し上側の部分)は、下側閉止手段42にて非液密に閉止されている。下側閉止手段42は、貯留体10の下端近傍部分を挟み付けて該下端近傍部分の半周部分11b,11bを平たく潰す一対の板状の挟付部材44,44と、これら挟付部材44,44どうしを締め付けるボルト46とを含む。挟付部材44は、好ましくは環境液2より比重が重い材料にて構成され、例えばステンレス、鉄等の金属にて構成されている。貯留体10の本体部11(下側閉止手段42より上側部分)内の淡水3が、半周部分11b,11bどうしの間を通って下端封止部15と下側閉止手段42との間の下側小室14に入り込むことができる。
【0025】
図3に示すように、重量体20は、例えば円柱状のコンクリートにて構成され、海底4に配置されている。なお、重量体20の材質は、コンクートに限られず、鉄等の金属であってもよい。また、重量体20の形状は円柱状に限られず直方体等であってもよい。重量体20と貯留体10の下端部(他端部)とが、1又は複数の連繋ワイヤ22(連繋部材)にて連結されている。連繋ワイヤ22の上端部は、下側閉止手段42に連繋されている。連繋ワイヤ22の下端部は、図示しない連結具を介して重量体20に連結されている。これによって、貯留体10が、軸長方向を上下に向けた姿勢で重量体20及び連繋ワイヤ22を介して海中に繋留されている。貯留体10には、内部の淡水3の充填圧に加えて、該淡水3の浮力と、連繋ワイヤ22からの上記浮力に抗する下向きの力とによって張力が作用する。貯留体10を複層構造にすることによって、所要の耐張力強度を確保できる。
【0026】
図1及び図2に示すように、保護膜30は、軸長方向を上下に向けた断面円形の筒状(袋状)になっている。保護膜30の周長は、貯留体10の周長以上であることが好ましい。また、保護膜30の周長は、重量体20の周長とほぼ等しいか、又は重量体20の周長以上であることが好ましい。保護膜30は、可撓性材料にて構成され、好ましくは可撓性樹脂にて構成されている。保護膜30を構成する可撓性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等が挙げられる。好ましくは、保護膜30は、ポリエチレンを筒状に成形してなるインフレーション膜にて構成されている。より好ましくは、保護膜30は、低密度ポリエチレンのインフレーション膜にて構成されている。保護膜30は、単層であるが、複数の膜体を積層した複層構造になっていてもよい。
【0027】
保護膜30の内部に貯留体10の全体が収容されている。保護膜30は、貯留体10の外周面に略密着又は近接している。図11に示すように、保護膜30の上端部は、融着によって液密(液体が透過不能)に封止され、上端封止部31を構成している。すなわち、保護膜30の上端部の2つの半周部分31a,31aどうしが重ね合わされ、かつ加熱によって互いに融着されて一体になっている。
【0028】
図1に示すように、保護膜30の下側部分は、貯留体10よりも下側へ延び、連繋ワイヤ22を囲んでいる。さらに、保護膜30の下端部は、重量体20の外周面に被さり、かつバンド32(下端固着部材)によって重量体20に解放可能に縛り付けられている。保護膜30の下端開口が重量体20によって塞がれている。
【0029】
流体貯蔵装置1には、第1給排管51及び第2給排管52が接続されている。これらの管51,52は、重量体20の内部を通って保護膜30の内部に引き出されている。第1給排管51の先端部は、貯留体10の内部に差し入れられている。第1給排管51は、淡水3を貯留体10内に供給したり、貯留体10内の淡水3を取り出したりするのに用いられる。第2給排管52の先端部は、貯留体10よりも下側の保護膜30内に配置されている。第2給排管52は、保護膜30内にパージ用流体を供給したり、保護膜30内の流体を吸引したりするのに用いられる。上記パージ用流体としては淡水3が用いられる。
貯留体10に充填する淡水3の量が貯留体10の容量を上回った場合、余った淡水3を上記パージ用流体として用いるとよい。
【0030】
上記のように構成された流体貯蔵装置1によれば、保護膜30によって貯留体10を囲むことで、貯留体10を紫外線、塩水、生物等から保護でき、貯留体10の劣化、損傷を防止できる。この結果、淡水3を安定的に貯蔵することができる。また、貯留体10だけでなく重量体20をも保護膜30にて囲んで保護できる。さらには、連繋ワイヤ22をも保護膜30にて囲んで保護できる。
【0031】
保護膜30の外表面にはフジツボ等の固着性生物が付着する場合がある。また、海中の浮遊物が保護膜30にぶつかる可能性もある。そこで、保護膜30を定期的に取り換える。または、保護膜30の損傷劣化がある程度進行したとき等に不定期に、保護膜30を取り換えることにしてもよい。取り換えは、次のようにして行なう。
【0032】
[撤去工程]
まず、図3に示すように、流体貯蔵装置1から古い保護膜30を撤去する。このとき、バンド32を外せば、保護膜30の下端部を重量体20から簡単に解放できる。ひいては、保護膜30を簡単に撤去できる。
【0033】
次いで、図6に示すように、新たな保護膜30を用意する。以後の取り換え手順の説明中における「保護膜30」は、特に断らない限り、新たな保護膜30を指す。この段階(貯留体10に被せる前)の保護膜30は、未だ封止部31が形成されておらず、両端がそれぞれ全体的に開口された筒状になっている。したがって、保護膜30の上端部(一方の端部)及び下端部(他方の端部)が共に、少なくとも流体が出入り可能に開口され、更には貯留体10を挿入可能に開口されている。
【0034】
[沈降工程]
図6に示すように、上記両端開口筒状の保護膜30を、軸長方向に潰す。この保護膜30を、例えば潜水士が抱えて海中に沈め、貯留体10の上端から貯留体10の外周の下方に通す。保護膜30の両端が共に全体的に開口されているため、保護膜30の何れの側の端部を上又は下に向けてもよい。また、保護膜30の内側に海水2や空気等の流体が閉じ込められることがない。したがって、上記流体の抵抗をあまり受けることなく、保護膜30を容易に沈降させることができる。さらに、保護膜30を軸長方向に潰した状態にすることによって、保護膜30の沈降作業を一層容易に行なうことができる。
【0035】
[縛着工程]
保護膜30全体を貯留体10よりも更に沈降させ、連繋ワイヤ22の外側を経て、重量体20の位置まで下降させる。次に、図7に示すように、保護膜30の下端部を重量体20の外周に被せる。そして、バンド32によって保護膜30の下端部を重量体20に縛り付けて固着する。保護膜30の下端開口が重量体20によって塞がれる。
【0036】
[引揚工程]
次に、図8に示すように、保護膜30の上記縛付部より上側の部分を上方へ伸ばす。潜水士が保護膜30の上端部付近をつかんで引き揚げることによって、保護膜30を簡単に上方へ伸ばすことができる。これによって、保護膜30の内部に連繋ワイヤ22が収容され、更には貯留体10が収容される。このようにして、保護膜30を貯留体10に簡単に被せることができる。保護膜30の上端部は、貯留体10より上側に位置させ、好ましくは海面上に位置させる。上記沈降工程、縛着工程、引揚工程は、潜水士の一回の潜水時間内で充分に行うことができる。保護膜30の内部には海水2が閉じ込められる。海水2には、貯留体10を損傷させる可能性がある微小な固着性生物が存在する可能性がある。特に、フジツボ等の硬い殻を有する固着性生物の幼体が存在する可能性がある。
【0037】
[パージ工程(排出工程)]
次に、図9に示すように、淡水3を第2給排管52から保護膜30内に吐き出すことで、保護膜30内の海水2を保護膜30の上端の開口から外部へ排出(パージ)する。保護膜30を未密閉にしておくことで、パージを確実に行うことができる。このパージ流と一緒に、上記固着性生物をも保護膜30から排出できる。したがって、保護膜30内の固着性生物の存在率を減らすことができる。かつ、パージ操作によって、保護膜30内の流体2bが、海水2と淡水3の混合液(低濃度海水)になる。したがって、流体2bの栄養分濃度及び溶存酸素濃度を海水2よりも小さくでき、保護膜30の内部を生物が生息しにくい環境にすることができる。
【0038】
[密閉工程]
次に、図10及び図11に示すように、保護膜30の上端部を海面より上に出して、該保護膜30の上端部を融着し、上端封止部31を形成する。海面上であるから融着作業を確実に行なうことができる。封止によって保護膜30が密閉され、貯留体10が保護膜30の内部に閉じ込められる。また、外部の海水2から新たな固着性生物が保護膜30内に入り込むのを防止できる。
【0039】
[吸引工程(排出工程)]
次に、図12に示すように、第2給排管52を吸引ポンプ5(吸引手段)に接続し、保護膜30内の低濃度海水2bを第2給排管52に吸い込んで排出する。これによって、保護膜30内に残留していた固着性生物を低濃度海水2bと一緒に外部に排出できる。したがって、保護膜30内の固着性物の存在数を一層減らすことができる。さらには、低濃度海水2b中の溶存酸素や栄養分をも低濃度海水2bと一緒に外部に排出できる。したがって、保護膜30の内部を生物が一層生育しにくい環境にすることができる。図1に示すように、上記吸引排出工程によって、保護膜30が貯留体10の外周に近接し、ないしは密着する。
本吸引工程を定期的に行なうことが好ましい。これによって、重量体20の外周面と保護膜30との間に隙間があったリ、保護膜30にピンホールが開いていたり、保護膜30の上端封止部31の封止状態が不十分であったりして、海水2が保護膜30内に入り込んで来たとしても、この入り込んだ海水2を定期的に排出することができる。したがって、保護膜30内に生物が住み着くことを実質的に防止できる。
【0040】
以上のようにして保護膜30を簡単に取り換えることができる。保護膜30を新しくすることで、貯留体10を一層確実に保護でき、淡水3を一層安定的に貯蔵することができる。しかも、保護膜30内の海水濃度及び海水量を低減することで、保護膜30の内面や貯留体10の外面に固着性生物が固着して成長するのを抑制できる。この結果、保護膜30及び貯留体の劣化、破損を一層確実に抑制又は防止できる。更には連繋ワイヤ22や閉止手段42等の金属部材の腐蝕を抑制又は防止できる。
【0041】
なお、新規に流体貯蔵装置1を環境液2中に設置する際の保護膜30の取り付け作業は、上記取り換え時と同様の手順にて行なうことができる。
【0042】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において、既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図13〜図17は、本発明の第2実施形態を示したものである。図17に示すように、第2実施形態では、保護膜30Aの上端部(一方の端部)の閉止手段として、第1実施形態の融着封止部31に代えて、線ファスナー33(閉止手段)が設けられている。線ファスナー33は、保護膜30の上端部の例えば中央に部分的に設けられている。図13に示すように、線ファスナー33を開けることで、保護膜30の上端部が部分的に開口される。線ファスナー33を全開した状態における保護膜30の上端部の開口度は、空気や海水2等の流体が保護膜30に十分に出入り可能な大きさになっている。
なお、線ファスナー33が保護膜30の上端部の全域に設けられていてもよく、線ファスナー33を全開することで、保護膜30の上端部の全体が開口されるようになっていてもよい。
【0043】
図13に示すように、流体貯蔵装置1に新たな保護膜30を設置する際は、線ファスナー33を開いて、保護膜30の上端部を開口させておく。好ましくは、線ファスナー33をほぼ全開にする。保護膜30は軸方向に潰す必要はなく、伸ばしたままの状態でよい。この保護膜30の下端開口を貯留体10の上端部に被せ、更に保護膜30を貯留体10の外周に沿って引き下げる。これによって、貯留体10の全体を保護膜30内に収容できる。貯留体10が保護膜30内に入り込むのに伴なって、保護膜30内の空気や海水2等の流体が、線ファスナー33の開口から外部に流出する。これによって、保護膜30を、空気や海水2の抵抗を殆ど受けることなく、貯留体10に容易に被せることができる。
【0044】
次に、図14に示すように、保護膜30の下端部を重量体20の外周に被せ、かつバンド32にて重量体20に縛り付ける。これよって、保護膜30の下端開口が重量体20によって塞がれる。
【0045】
次に、図15に示すように、淡水3(パージ用流体)を第2給排管52から保護膜30の内部に導入することによって、保護膜30内の海水を線ファスナー33の開口から外部に排出(パージ)する。これによって、保護膜30内の流体2bを低濃度海水にでき、該流体2b中の固着性生物の存在率、栄養分濃度、及び溶存酸素濃度を低減できる。
【0046】
次に、図16に示すように、線ファスナー33を閉じることで保護膜30の上端部を閉止する。融着に比べて極めて簡単に閉止作業を行なうことができる。海水2中でも閉止作業を行なうことができる。
【0047】
続いて、吸引手段5を駆動することによって保護膜30内の低濃度海水2bを吸引して排出する。これによって、保護膜30内の流体2bの量を低減でき、ひいては該流体2b中の固着性生物の存在数、栄養分の量、及び溶存酸素量を低減できる。図17に示すように、吸引によって、保護膜30が貯留体10の表面にほぼ密着し、又は近接する。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変態様を採用できる。
例えば、保護膜30の取り付け手順は適宜改変できる。
保護膜30の上端部を閉止した後に保護膜30内の海水をパージしてもよい。この場合、保護膜30の下端部などにパージ出口を確保しておくとよい。また、パージ用流体3を保護膜30の上端部から保護膜30の内部に供給するとよい。
保護膜30の上端部の密閉工程を吸引工程の後に行ってもよい。吸引工程の際は、保護膜30の未封止の上端部を海面上に出しておくことによって、外部の海水2が上記未封止の上端部から保護膜30内に入り込むのを防止できる。
排出工程におけるパージ工程と吸引工程の何れか一方を省略してもよい。
排出工程(パージ工程及び吸引工程の両方)を省略してもよい。
【0049】
保護膜30の上端開口を、融着(図1)又はファスナー(図17)にて閉止するのに代えて、閉止手段41と同様の閉止手段等によって閉止してもよい。保護膜30の閉止状態は、必ずしも液密でなくてもよく、非液密であってもよい。
重量体20に代えて、杭等の定着体を海底4に設置し、この定着体に貯留体10の下端部を連結してもよい。
重量体20が海底4に着いておらず、流体貯蔵装置1全体が環境液2中に立った姿勢で浮いていてもよい。この場合、保護膜30を流体貯蔵装置1の下側(重量体20の側)から嵌めることにしてもよい。保護膜30の下端部が全体ではなく部分的に開口されていてもよい。この保護膜30を流体貯蔵装置1の底部(重量体20)に被せ、更に保護膜30の上端部を貯留体10の外周に沿って引き揚げてもよい。保護膜30の下端開口を、融着やファスナーにて閉止してもよく、閉止手段42と同様の閉止手段等によって閉止してもよい。
複数の実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、保護膜30の上端開口が融着にて封止される第1実施形態において、貯留体10に被せる前の保護膜30の上端部が部分的に開口していてもよい。
【0050】
被貯蔵流体3は、淡水に限られず、例えば化石燃料でもよい。更に、被貯蔵流体3は、液体に限られず、天然ガス等の気体であってもよい。環境液2は、湖水でもよく、原油タンク内の原油でもよい。被貯蔵流体3が気体である場合、貯留体10の両端部が気密(気体が透過不能)に封止されていることが好ましい。流体貯蔵装置1を湖沼、ダム、池に設けてもよい。被貯蔵流体3が環境液より低密度でなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば淡水を海中に貯蔵する淡水貯蔵技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 流体貯蔵装置
2 海水(環境液)
2b 低濃度海水
3 淡水(被貯蔵流体)
4 海底
5 吸引ポンプ
10 貯留体
11 本体部
12 上側小室
13 上端封止部
13a 半周部分
14 下側小室
15 下端封止部
15a 半周部分
19 膜体
20 重量体
22 連繋ワイヤ(連繋部材)
30 保護膜(外袋)
31 上端封止部
32 バンド(下端固着部材)
41 上側閉止手段
42 下側閉止手段
43,44 挟付部材
45,45 挟付ボルト
51 第1給排管
52 第2給排管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を上下に向けて環境液中に配置された密閉筒状の膜からなる貯留体を備え、前記貯留体の内部に被貯蔵流体を貯蔵した流体貯蔵装置における、前記貯留体を囲む保護膜の設置方法であって、
前記保護膜を、両端がそれぞれ全体又は部分的に開口された筒状の状態で前記貯留体の外周に通して前記貯留体に被せ、その後、前記保護膜を密閉することを特徴とする流体貯蔵装置の保護膜の設置方法。
【請求項2】
前記保護膜を前記貯留体に被せた後、前記保護膜を密閉する前又は密閉後に、前記保護膜と前記貯留体の間の流体を前記保護膜の外部に排出することを特徴とする請求項1に記載の設置方法。
【請求項3】
前記排出の工程が、前記保護膜と前記貯留体との間の流体を前記被貯蔵流体にてパージする工程と、前記保護膜と前記貯留体との間の流体を吸引手段にて吸引する工程の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の設置方法。
【請求項4】
前記保護膜の両端部のうち一端部を開口し他端部を閉じた状態で前記パージを行ない、次に前記保護膜の前記一端部を閉じ、次に前記吸引を行なうことを特徴とする請求項3に記載の設置方法。
【請求項5】
前記貯留体に被せる前の保護膜の一方の端部は、少なくとも流体が出入り可能に開口し、他方の端部は、前記貯留体を挿入可能に開口されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の設置方法。
【請求項6】
前記保護膜の下端部を、前記貯留体の下端部に連結された重量体の外周に被せて解放可能に縛り付けることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の設置方法。
【請求項7】
前記環境液が海水であり、前記被貯蔵流体が淡水であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の設置方法。
【請求項8】
被貯蔵流体を前記環境液中に貯蔵する流体貯蔵装置であって、
軸線を上下に向けて環境液中に配置され、かつ内部に前記被貯蔵流体が貯蔵される密閉筒状の膜からなる貯留体と、
前記貯留体の下端部に連結された重量体と、
筒状に成形された膜にて構成されて前記貯留体の全体を囲み、下端部が前記重量体の外周に被さって解放可能に縛り付けられ、上端部が閉止された保護膜と、
を備えたことを特徴とする流体貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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