説明

流体貯蔵装置

【課題】環境流体より低密度の被貯蔵流体を環境流体中に貯蔵する筒状膜に作用する張力を低減する。
【解決手段】流体貯蔵装置1の第1筒状膜10を第2筒状膜20に収容する。第1筒状膜10の両端部13をそれぞれ液密又は気密に封止する。第2筒状膜20の一端部を閉じる。第2筒状膜20の他端部を定着手段40に連繋する。第1筒状膜10の内部に被貯蔵流体3を充填した状態で、第1筒状膜10の一端部が第2筒状膜20の一端部の内面に押し当てられるとともに、第1筒状膜10の周側部が全周にわたって第2筒状膜20の周側部の内周面に押し当てられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液状の環境流体中に被貯蔵流体を貯蔵する装置に関し、特に環境流体よりも低密度の被貯蔵流体を貯蔵するのに適した流体貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海、湖沼等の液体環境中に淡水、石油、天然ガス等の被貯蔵流体を貯蔵する流体貯蔵装置は公知である。内袋と外袋の二重袋構造になった流体貯蔵装置についても公知である(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1に記載の二重袋構造の流体貯蔵装置では、内袋及び外袋が、共に、軸長方向を上下に向けて立った姿勢の筒形状になっている。内袋の内部に被貯蔵液が蓄えられる。外袋と内袋の間には水及び空気が充填される。外袋の下端部がアンカーにて水底に定着されている。
特許文献2に記載の二重袋構造の流体貯蔵装置では、内外の袋の中心軸に沿って注排液パイプが鉛直に設けられている。内外の袋の上端部及び下端部が上記注排液パイプに接合されている。更に、外袋の下端部と注排液パイプの下端部がそれぞれアンカーにて水底に定着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−78694号公報
【特許文献2】実開昭62−78695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筒状膜(袋)からなる流体貯蔵装置を環境流体中に立った姿勢にすれば、設置スペースをコンパクトにできる。一方、被貯蔵流体が環境流体よりも低密度である場合には、被貯蔵流体からの浮力に抗して筒状膜の下端部をアンカー等で下向きに引っ張る必要がある、そのため、筒状膜に張力が作用する。そのため、もしも、筒状膜にピンホールが空いた場合、たちまち大きな裂け目に進展しやすい。大きな裂け目にはならなかったとしても、筒状膜の内圧が外圧より小さい箇所では、筒状膜の外部の流体がピンホールから筒状膜の内部に流入し、筒状膜内の被貯蔵流体が汚染されてしまう。なお、通常、筒状膜の内圧は被貯蔵流体の充填によって外圧より大きくなっているが、筒状膜の下側部分は、上記下向きの力で引っ張られることで絞られる。そのため、筒状膜の下側部分内の被貯蔵流体が上方へ押し出され、該下側部分の内圧が外圧より小さくなる。したがって、筒状膜の特に下側部分にピンホールが空くと、そこから外部流体が流入して被貯蔵流体が汚染されやすい。また、上記筒状膜は、2枚の平膜を重ねて4つの縁を融着したり、1枚の平膜を2つ折りにして折り目以外の3つの縁を融着したり、インフレーション製法等で両端開放の筒状に成形した膜の両端開口をそれぞれ融着したりすることによって作製されるが、筒状膜に張力が作用する場合には、該筒状膜を構成する膜体自体の強度はもちろんのこと、融着部の強度をも上記張力に耐え得る大きさにする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、本発明は、液状の環境流体より低密度の被貯蔵流体を前記環境流体中に貯蔵する流体貯蔵装置において、
両端部がそれぞれ液密又は気密に封止され、内部が密封された可撓性の第1筒状膜(貯蔵膜)と、
両端部のうち少なくとも一端部が閉じられた可撓性の第2筒状膜(張力膜)と、
を備え、前記第1筒状膜が前記第2筒状膜の内部に収容され、前記第2筒状膜の他端部が定着手段に連繋されており、
前記第1筒状膜の内部に前記被貯蔵流体を充填した状態で、前記第1筒状膜の一端部が前記第2筒状膜の前記一端部の内面に押し当てられるとともに、前記第1筒状膜の周側部が全周にわたって前記第2筒状膜の周側部の内周面に押し当てられることを特徴とする。
【0006】
前記第1筒状膜の内部に前記被貯蔵流体を充填すると、前記第1筒状膜の一端部が、前記被貯蔵流体の浮力によって浮き上がろうとして、前記第2筒状膜の一端部の内面に押し当てられる。また、前記定着手段が、前記浮力に抗して前記第2筒状膜の他端部を下向きに引っ張る。これによって、第1、第2筒状膜が、一端部を上に向け、かつ他端部を下に向けて立った姿勢になるとともに、第2筒状膜には、前記浮力と前記定着手段からの下向きの力とによって張力が掛かる。一方、第1筒状膜には前記浮力に起因する張力が働くことがない。
また、前記被貯蔵流体の充填圧によって、第1筒状膜の周側部が第2筒状膜の周側部の内周面に押し当てられる。これによって、前記充填圧が第1筒状膜を介して第2筒状膜に作用する。したがって、第2筒状膜は、被貯蔵流体の充填圧に起因する張力をも負担する。その分だけ、第1筒状膜に掛かる前記充填圧起因の張力を低減できる。
よって、第1筒状膜にピンホールが形成されたとしても、それが大きな裂け目に進展するのを防止又は抑制できる。また、被貯蔵流体を充填することによって、第1筒状膜のどの部分においても内圧が外圧より高圧になるようにできるから、第1筒状膜のどの部分にピンホールが形成されたとしても、環境流体が第1筒状膜の内部に流入するのを防止でき、第1筒状膜内の被貯蔵流体の汚染を確実に防止できる。したがって、被貯蔵流体を安定的に貯蔵することができる。また、第1筒状膜の作製時において、該第1筒状膜の材料となる膜体の端部を融着する場合、該融着部分の封止強度を必要以上に大きくする必要が無く、融着作業を簡易に行なうことができる。
さらに、第1筒状膜及び第2筒状膜の一端部が上方を向き、他端部が下方を向くことで、流体貯蔵装置の設置に要する面積を小さくできる。
好ましくは、第2筒状膜を第1筒状膜よりも伸びにくくする。これによって、前記充填圧起因の張力が、第1、第2筒状膜のうち、主に第2筒状膜に掛かるようにでき、第1筒状膜には張力があまり掛からないようにすることができる。したがって、第1筒状膜にピンホールが形成されたとしても、それが大きな裂け目に進展するのを確実に防止できる。ひいては、被貯蔵流体を一層安定的に貯蔵できる。
【0007】
前記第2筒状膜の周長が、前記被貯蔵流体の非充填時の第1筒状膜の周長とほぼ同じ大きさであることが好ましい。これによって、第1筒状膜の周側部の全周が、襞や皺がほとんどない状態で、第2筒状膜の内面に確実に押し当てられるようにすることができる。したがって、第2筒状膜の表面にも襞や皺がほぼ生じないようにできる。そのため、例えば、環境流体中に生物が存在する場合、該生物が第2筒状膜の外面に付着しにくくなり、結果、第2筒状膜の耐久性を向上できる。ここで、前記第1、第2筒状膜の周長は、互いに等大である場合だけに限られない。第2筒状膜内に第1筒状膜を収容できる程度に、かつ前記被貯蔵流体の充填時の第1筒状膜の周側部の全周が第2筒状膜の内面に押し当てられる程度に、非充填時の第1、第2筒状膜の周長が近似していてもよい。非充填時の第1筒状膜の周長が第2筒状膜の周長より若干小さくてもよい。或いは、非充填時の第1筒状膜の周長が第2筒状膜の周長より若干小さくてもよい。前記被貯蔵流体の非充填時における第1、第2筒状膜の周長差は、各第1、第2筒状膜の周長と比べて無視できるほど小さいことが好ましい。第1筒状膜が被貯蔵流体の充填時に襞や皺を有していたとしても、第1筒状膜が全体的に第2筒状膜に張り付くのであれば、第1筒状膜の周長が第2筒状膜の周長よりも大きくてもよい。
なお、第1筒状膜の厚みは第1筒状膜の周長と比べて十分に小さいから、第1筒状膜の内周面の周長と外周面の周長は実質的に等しい。第2筒状膜の厚みは第2筒状膜の周長と比べて十分に小さいから、第2筒状膜の内周面の周長と外周面の周長は実質的に等しい。
前記第2筒状膜の周長が、軸長方向の全域にわたって前記第1筒状膜の周長とほぼ同じ大きさであることが、より好ましい。
前記第2筒状膜の軸長(前記一端部から前記他端部までの長さ)は、前記第1筒状膜の軸長以上であることが好ましい。
【0008】
前記流体貯蔵装置が、前記第2筒状膜を囲む筒状の第3筒状膜(保護膜)を、更に備えていることが望ましい。この第3筒状膜によって第2筒状膜を保護でき、ひいては第1筒状膜を保護することができる。具体的には例えば第2筒状膜が環境流体中の浮遊物体や生物によって損傷しないようにすることができる。海中環境の場合は、第2筒状膜にフジツボ等の固着生物が付いたり、漂流物が第2筒状膜に直接当たったりするのを防止できる。この結果、被貯蔵流体をより安定的に貯蔵することができる。
【0009】
前記筒状膜の少なくとも1つ(すなわち第1筒状膜、第2筒状膜、第3筒状膜の少なくとも1つ、第3筒状膜が無い場合には第1筒状膜と第2筒状膜の少なくとも1つ)が、複数の膜体を積層してなることが好ましい。これによって、前記1つの筒状膜の強度を高めることができる。特に、前記第2筒状膜が、複層構造になっていることが好ましい。これによって、前記第2筒状膜を第1筒状膜よりも伸びにくくすることができ、前記浮力及び充填圧に起因する張力に対して前記第2筒状膜が十分な強度を発揮することができる。
【0010】
前記環境流体は、例えば海水であり、前記被貯蔵流体は、例えば淡水である。これによって、海中に淡水を貯蔵できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1筒状膜に作用する張力を低減でき、被貯蔵流体を安定的に貯蔵することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る流体貯蔵装置を、中心線の片側を断面にて示す正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う、上記流体貯蔵装置の平面断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う、上記流体貯蔵装置の上側部分の側面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿う、上記流体貯蔵装置の下側部分の側面図である。
【図5】上記流体貯蔵装置の第1筒状膜の端部を、密封する前の状態を二点鎖線にて示し、密封後の状態を実線にて示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、流体貯蔵装置1は、海中に設置されている。環境流体2は海水である。流体貯蔵装置1の貯蔵対象すなわち被貯蔵流体3は、淡水である。流体貯蔵装置1は、海水2より低密度の淡水3を海水2から隔離して海水2中に貯蔵している。
【0014】
図1及び図2に示すように、流体貯蔵装置1は、第1〜第3の筒状膜10,20,30を備えている。第1筒状膜10は、可撓性を有し、かつ断面円形の筒状になっている。第1筒状膜10は、可撓性材料にて構成され、好ましくは可撓性樹脂にて構成されている。上記可撓性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等が挙げられる。好ましくは、第1筒状膜10は、ポリエチレンを筒状に成形してなるインフレーション膜にて構成されている。より好ましくは、第1筒状膜10は、低密度ポリエチレンのインフレーション膜にて構成されている。低密度ポリエチレンは伸縮性に富む。
【0015】
図1及び図2に示すように、第1筒状膜10の軸長方向は、上下方向に向けられている。図3及び図4に示すように、第1筒状膜10の上下の両端部は、それぞれ融着端部13を構成している。すなわち、図5に示すように、第1筒状膜10の環状の端部11の2つの半周部分12,12どうしが重ね合わされ、かつ加熱によって互いに融着されている。これによって、第1筒状膜10の上下の各端部が液密(液体が透過不能)に封止されている。ひいては、第1筒状膜10の内部が密封されている。この第1筒状膜10の内部に淡水3が充填されている。
【0016】
第1筒状膜10の周長は、例えば1m〜20m程度である。第1筒状膜10の軸長(上下方向の寸法)は、第1筒状膜10の周長以上であることが好ましい。第1筒状膜10の軸長の上限は、流体貯蔵装置1の設置場所の水深未満ないしは50m以下であることが好ましい。第1筒状膜10の厚みは、例えば10μm〜200μm程度である。図において、第1筒状膜10の厚みは、該第1筒状膜10の周長及び軸長に対して誇張されている。第1筒状膜10の厚みは、第1筒状膜10の周長と比べて極めて小さく、第1筒状膜10の外周面の周長と第1筒状膜10の内周面の周長は実質的に等しい。
【0017】
図1及び図2に示すように、第2筒状膜20は、可撓性を有し、かつ断面円形の筒状になっている。第2筒状膜20は、複数(図では2つ)の膜体21を積層した複層構造になっている。図1に示すように、各膜体21は断面円形の筒状になっている。
【0018】
各膜体21は、可撓性材料にて構成され、好ましくは可撓性樹脂にて構成されている。膜体21を構成する可撓性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等が挙げられる。好ましくは、膜体21は、ポリエチレンを筒状に成形してなるインフレーション膜にて構成されている。より好ましくは、膜体21は、低密度ポリエチレンのインフレーション膜にて構成されている。或いは、膜体21が、補強繊維を樹脂膜で挟んだ複合膜であってもよい。膜体21の数は、1〜20程度が好ましい。
【0019】
複層構造の第2筒状膜20は、全体として第1筒状膜10よりも高い抗張力性を有し、第1筒状膜10よりも伸びにくい。すなわち、第1筒状膜10と第2筒状膜20に同じ大きさの引っ張り力を印加した場合、第2筒状膜20の伸び率が、第1筒状膜10の伸び率よりも小さい。なお、第2筒状膜20の各膜体21の伸びやすさは、第1筒状膜10と同程度であってもよく、或いは、各膜体21が第1筒状膜10よりも伸びやすくてもよい。複数の膜体21が合わさることで、第1筒状膜10よりも伸びにくくなればよい。
【0020】
第2筒状膜20が、単一の膜体21からなる単層構造になっていてもよい。単層の第2筒状膜20の厚みを第1筒状膜10の厚みより大きくしたり、単層の第2筒状膜20を第1筒状膜10より高い抗張力特性を有する材質にて構成したりすることによって、第2筒状膜20を第1筒状膜10より伸びにくくしてもよい。
【0021】
第2筒状膜20の軸長(図1において上下方向の寸法)は、第1筒状膜10の軸長よりも例えば0m〜2m程度大きい。
第2筒状膜20の周長は、淡水3の非充填時の第1筒状膜10の周長とほぼ同じ大きさである。具体的には、淡水3の非充填時において、第2筒状膜20の周長が第1筒状膜10の周長と同じであるか、又は第2筒状膜20の周長が第1筒状膜10の周長の例えば0〜10%程度大きくてもよく、若しくは第2筒状膜20の周長が第1筒状膜10の周長の例えば0〜10%程度小さいてもよい。好ましいは、淡水3の非充填時における両筒状膜10,20の周長差は、各筒状膜10,20の周長と比べて無視できるほど小さい。
第2筒状膜20の各膜体21の厚みは、第1筒状膜10の厚みと同じか第1筒状膜10の厚み以上であることが好ましいが、第1筒状膜10の厚みより小さくてもよい。第2筒状膜20全体の厚みは、第1筒状膜10の厚みより大きいことが好ましい。例えば、膜体21の厚みは、10μm〜200μm程度である。図において、第2筒状膜20の厚みは、該第2筒状膜20の周長及び軸長に対して誇張されている。第2筒状膜20の厚みは、第2筒状膜20の周長と比べて十分に小さく、第2筒状膜20の外周面の周長と第2筒状膜20の内周面の周長は実質的に等しい。
【0022】
図1に示すように、第2筒状膜20の軸長方向は、上下に向けられている。図3及び図4に示すように、第2筒状膜20の軸長方向の両端部は、それぞれ閉塞手段22にて非液密(流体2の出入りを許容する程度)に閉塞されている。各閉塞手段22は、一対の挟付部材23,23と、ボルト24を含む。図1に示すように、各挟付部材23は、真っ直ぐな板状になっている。図3に示すように、第2筒状膜20の上側の端部(一端部)の挟付部材23は、好ましくは環境流体2より比重が軽い材料にて構成され、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂にて構成されている。図4に示すように、第2筒状膜20の下側の端部(他端)の挟付部材23は、好ましくは環境流体2より比重が重い材料にて構成され、例えばステンレス、鉄等の金属にて構成されている。図3及び図4に示すように、上下の各閉塞手段22の一対の挟付部材23,23が、第2筒状膜20の環状の端部を両側から挟み付けている。これによって、第2筒状膜20の環状の端部が潰れて該端部の2つの半周部分が重ね合わされている。一対の挟付部材23,23どうしが、ボルト24にてネジ止めされている。なお、閉塞手段22は、第2筒状膜20の上下端部を液密に封止してはいない。海水2が第2筒状膜20の上下端部を通して第2筒状膜20内に流入可能であり、かつ第2筒状膜20内の海水2が第2筒状膜20の上下端部を通して外部に流出可能である。
【0023】
図1に示すように、第2筒状膜20の内部に第1筒状膜10が収容されている。第1筒状膜10は、第2筒状膜20に接合されておらず、被貯蔵流体3が満タンに充填されていない状態(図示省略)では、第1筒状膜10が第2筒状膜20内で動く(第2筒状膜20に対し相対変位する)ことができる。閉塞手段22によって、第1筒状膜10が第2筒状膜20の端部から抜け出すのが阻止され、第2筒状膜20内に閉じ込められている。特に、上側の閉塞手段22によって、第1筒状膜10が第2筒状膜20の上端から上方へ抜け出すのが阻止されている。
【0024】
図3に示すように、被貯蔵流体3が満タンに充填された状態において、第1筒状膜10の上端部(一端部)が、第2筒状膜20の上端部(一端部)の内面に押し当てられている。かつ、第1筒状膜10の周側部が全周にわたって、第2筒状膜20の周側部の内周面に押し当てられている。好ましくは、第1筒状膜10の上端部及び周側部の全体(すなわち第1筒状膜10の底部以外の部分の全体)が、第2筒状膜20の内面に押し当てられている。図4に示すように、第1筒状膜10よりも下側の第2筒状膜20の内部には海水2が入り込んでいる。
【0025】
図1及び図2に示すように、第3筒状膜30は、軸長方向を上下に向けた断面円形の筒状になっている。第3筒状膜30は、可撓性材料にて構成され、好ましくは可撓性樹脂にて構成されている。上記可撓性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等が挙げられる。好ましくは、第3筒状膜30は、ポリエチレンを筒状に成形してなるインフレーション膜にて構成されている。より好ましくは、第3筒状膜30は、低密度ポリエチレンのインフレーション膜にて構成されている。
【0026】
第3筒状膜30の内部に第2筒状膜20が収容されている。第2筒状膜20が第3筒状膜30によって囲まれている。第3筒状膜30と第2筒状膜20の間の空間は海水2にて満たされている。第3筒状膜30の上端部は、融着等にて塞がれている。第3筒状膜30の上端部を上記閉塞手段22と同様の手段にて閉塞してもよい。第3筒状膜30の上端部を開放してもよい。第3筒状膜30の下端部は、後述するように、定着手段40に固着されている。
【0027】
図1に示すように、更に、流体貯蔵装置1は定着手段40を備えている。定着手段40は、アンカー41(定着部材)と、ロープ42(連繋部材)と、バンド32(固着部材)を含む。アンカー41は、コンクリートにて構成され、第2筒状膜20の下方の海底に配置されている。なお、アンカー41の材質は、コンクートに限られず、鉄等の金属であってもよい。
【0028】
アンカー41と第2筒状膜20の下端部(他端部)とが、1又は複数(図1では2つ)のロープ42にて連結されている。ロープ42の上端部は、第2筒状膜20の下側の閉塞手段22に連繋されている。ロープ42の下端部は、アンカー41に図示しない連結具を介して連結されている。これによって、第2筒状膜20が、定着手段40を介して海中に繋留されている。
【0029】
図1に示すように、第3筒状膜30の環状の下端部が、アンカー41の外周に被せられ、かつバンド43によってアンカー41に縛り付けられている。アンカー41には、少なくとも2つの吊上用掛着部44が周方向に離れて設けられている。流体貯蔵装置1を海底に設置したり、流体貯蔵装置1を引き上げたりする際は、掛着部44に吊りワイヤ(図示省略)を繋ぐことによって、上記設置作業や引き揚げ作業を容易に行なうことができる。
【0030】
図1に示すように、更に、流体貯蔵装置1には、被貯蔵流体給排管51及び環境流体給排管52が設けられている。給排管51は、第2筒状膜20と第3筒状膜30の間の空間に上下に延びるように配管されている(図2では管51の図示を省略)。給排管51の一端部は、第2筒状膜20の上方から第1筒状膜10の内部に差し入れられている。なお、給排管51は、第1筒状膜10の上端部に連結されるのに限られず、第1筒状膜10の上下方向の中間部に連結されていてもよく、第1筒状膜10の下端部に連結されていてもよい。給排管51の他端部は、アンカー41の内部を通り、アンカー41の周面から外部に延び出ている。給排管51を通して淡水3を第1筒状膜10の内部に注入できる。また、第1筒状膜10の内部の淡水3を、給排管51を通して取り出すことができる。
【0031】
環境流体給排管52は、アンカー41の内部を通り、その一端が第3筒状膜30と第2筒状膜20の間の空間内に開口している。給排管52の他端はアンカー41の周面から外部に延び出ている。給排管52を通して、第3筒状膜30と第2筒状膜20の間の海水2を出し入れできる。例えば、第1筒状膜10内への淡水3の注入に伴なって第2筒状膜20が膨張したときは、第3筒状膜30と第2筒状膜20の間の海水2を給排管52から放出できる。また、定期的に、給排管52を介して、第3筒状膜30と第2筒状膜20の間の海水2を入れ替えることができる。
【0032】
上記のように構成された流体貯蔵装置1によれば、淡水3を被貯蔵流体管51から第1筒状膜10の内部に充填すると、淡水3の浮力によって、第1筒状膜10が、第2筒状膜20内の上端(一端)の内面に当たり、更に第2筒状膜20の上端を押し上げようとする。この浮力に抗してロープ42が第2筒状膜20の下端(他端)を下向きに引っ張る。これによって、第1、第2筒状膜10,20が立った姿勢になる。そして、第2筒状膜20には、淡水3の浮力に起因する張力が作用する。すなわち、淡水3の浮力に対する抗力は第2筒状膜20が担う。第1筒状膜10には上記浮力に起因する張力が働かない。
【0033】
また、第1筒状膜10は、淡水3の充填圧によっても第2筒状膜20の内面に押し当てられる。好ましくは、第1筒状膜10の周側部が、全周にわたって、第2筒状膜20の周側部の内周面に押し当てられる。より好ましくは、第1筒状膜10の底部以外の部分のほぼ全体が、第2筒状膜20の内面に押し当てられる。押し当てによって、淡水3の圧力が第2筒状膜20に伝達され、第2筒状膜20に淡水3の圧力に起因する張力が加わる。すなわち、第2筒状膜20は、上記浮力に対する抗力だけでなく、淡水3の圧力に対する抗力をも担う。その分、第1筒状膜10に掛かる張力を低減できる。更には、第2筒状膜20を第1筒状膜10よりも伸びにくくすることで、張力の殆どを第2筒状膜20が負担するようにでき、第1筒状膜10には張力が殆ど掛からないようにできる。第2筒状膜20を複数の膜体21からなる複層構造にすることによって、第2筒状膜20を第1筒状膜10よりも確実に伸びにくくすることができ、張力を第2筒状膜20に確実に担わせることができ、ひいては、第1筒状膜10に張力が掛かるのを確実に回避できる。したがって、第1筒状膜10の材質や厚みを大きな張力に耐え得るように選定ないしは設定する必要が無い。また、融着端部13の封止強度を必要以上に高くする必要が無く、第1筒状膜10の製造時における両端の融着作業を簡易化できる。
【0034】
第1筒状膜10に掛かる張力を大幅に低減できるから、第1筒状膜10にピンホールが形成されたとしても、該ピンホールが大きな裂け目に進展するのを防止又は抑制できる。さらに、淡水3の充填によって第1筒状膜10のどの部分においても内圧が外圧より高圧になるようにできるから、たとえ第1筒状膜10にピンホールが形成されたとしても、第1筒状膜10の外部の海水2がピンホールを介して第1筒状膜10内に混入するのを防止でき、第1筒状膜10内の淡水3が汚染されるのを防止できる。特に、上記ロープ42からの下向きの引っ張り力は、第1筒状膜10にではなくて、第2筒状膜20に作用するから、第1筒状膜10の下側部分が上記下向きの引っ張り力で変形することは殆どない。したがって、第1筒状膜10の下側部分についても内圧が外圧より確実に高圧にすることができる。よって、第1筒状膜10の下側部分にピンホールが形成されたとしても、海水2が第1筒状膜10内に入り込むのを防止できる。
なお、第2筒状膜20の下側部分には、下端の閉塞部を通して海水2が出入り可能であるから、第2筒状膜20の下側部分の内外の圧力をほぼ等しくできる。したがって、第2筒状膜20の下側部分が、ロープ42による下向きの引っ張り力によって断面積が小さくなるように変形しても問題無い。
【0035】
第2筒状膜20は複層であるから、1つの膜体21が破壊されたとしても、その破壊が第2筒状膜20全体にまで及ぶ可能性を十分に小さくできる。したがって、第1筒状膜10を確実に保護することができる。
更に、第3筒状膜30によって第2筒状膜20を囲むことで、第2筒状膜20にフジツボ等の硬い殻を有する固着生物の幼体が付いたり、漂流物が第2筒状膜20に直接当たったりするのを防止できる。したがって、第2筒状膜20を保護でき、ひいては第1筒状膜10をより確実に保護することができる。しかも、第3筒状膜30には張力が作用していないから、引っ掻きや刺し等の外力を受けても破断に至りにくい。よって、筒状膜20,10を一層確実に保護することができる。この結果、淡水3をより安定的に貯蔵することができる。
また、定期的に、第3筒状膜30と第2筒状膜20との間の海水2を給排管52から強制的に排出することが好ましい。これによって、第3筒状膜30と第2筒状膜20との間の海水2中の溶存酸素や栄養分をも排出できるため、上記固着生物が第2筒状膜20に付着して成長するのをより確実に防止できる。更には、第2筒状膜20の腐蝕をより確実に防止できる。
流体貯蔵装置1は、軸長方向を上下に向けた筒状であるから、設置スペースをコンパクトにできる。
第2筒状膜20の上端の挟付部材23を軽比重の樹脂にて構成し、下端の挟付部材23を重比重の金属にて構成することによって、流体貯蔵装置1を確実に立った姿勢に維持できる。
【0036】
本発明は、上記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変態様を採用できる。
例えば、被貯蔵流体3は、環境流体より低密度であればよく、淡水に限られず、例えば化石燃料でもよい。更に、被貯蔵流体3は、液体に限られず、天然ガス等の気体であってもよい。環境流体2は、湖水でもよく、原油タンク内の原油でもよい。被貯蔵流体3が気体である場合、第1筒状膜10の両端部が気密(気体が透過不能)に封止されていることが好ましい。
筒状膜10〜30の材料フィルムは、インフレーションフィルムに限られず、布状のフィルムであってもよい。布状のフィルムを2つ折りにして折り目以外の縁を融着することによって、筒状膜10〜30を形成してもよい。
第2筒状膜20の伸びやすさが第1筒状膜10と同程度であってもよく、又は第2筒状膜20が第1筒状膜10よりも伸びやすくてもよい。その場合でも、第1筒状膜10が第2筒状膜20に押し当たり、第2筒状膜20が張力の一部を負担することで、第1筒状膜10に掛かる張力を低減できる。
第2筒状膜20の上下両端部のうち少なくとも上端部(一端部)が閉じていればよい。第2筒状膜20の下端部(他端部)は開放されていてもよい。第2筒状膜20の下端の閉塞手段22を省略してもよい。
第3筒状膜30を省略してもよい。
第1筒状膜10が、複数の膜体を積層した複層構造になっていてもよい。第3筒状膜30が、複数の膜体を積層した複層構造になっていてもよい。
満タン時の筒状膜10〜30の断面形状は、真円形に限られず、楕円形ないしは長円形でもよく、四角形等の多角形でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば淡水を海中に貯蔵する淡水貯蔵技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 流体貯蔵装置
2 海水(環境流体)
3 淡水(被貯蔵流体)
10 第1筒状膜
13 融着端部
20 第2筒状膜
21 膜体
22 閉塞手段
23 挟付部材
24 ボルト
30 第3筒状膜
40 定着手段
41 アンカー(定着部材)
42 ロープ(連繋部材)
43 バンド(固着部材)
44 吊上用掛着部
51 被貯蔵流体給排管
52 環境流体給排管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の環境流体より低密度の被貯蔵流体を前記環境流体中に貯蔵する流体貯蔵装置において、
両端部がそれぞれ液密又は気密に封止され、内部が密封された可撓性の第1筒状膜と、
両端部のうち少なくとも一端部が閉じられた可撓性の第2筒状膜と、
を備え、前記第1筒状膜が前記第2筒状膜の内部に収容され、前記第2筒状膜の他端部が定着手段に連繋されており、
前記第1筒状膜の内部に前記被貯蔵流体を充填した状態で、前記第1筒状膜の一端部が前記第2筒状膜の前記一端部の内面に押し当てられるとともに、前記第1筒状膜の周側部が全周にわたって前記第2筒状膜の周側部の内周面に押し当てられることを特徴とする流体貯蔵装置。
【請求項2】
前記第2筒状膜の周長が、前記被貯蔵流体の非充填時の第1筒状膜の周長とほぼ同じ大きさであることを特徴とする請求項1に記載の流体貯蔵装置。
【請求項3】
前記第2筒状膜を囲む第3筒状膜を、更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体貯蔵装置。
【請求項4】
前記筒状膜の少なくとも1つが、複数の膜体を積層してなることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の流体貯蔵装置。
【請求項5】
前記環境流体が海水であり、前記被貯蔵流体が淡水であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の流体貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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