説明

流体輸送装置及び流体輸送方法

【課題】電池の残量が少なくても、流体の輸送を継続できるようにする。
【解決手段】本発明は、流体を輸送するためのチューブと、前記チューブに沿って設けられ、前記チューブを押して閉塞させる複数のフィンガーと、前記チューブを圧搾して前記流体を輸送するように前記フィンガーを順に押すためのカムと、前記カムを駆動する駆動機構であって、圧電素子により振動する振動体と、前記振動体の振動に応じて駆動される被駆動体と、前記圧電素子を駆動するための電力を供給する電池と、前記圧電素子を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記電池に残存する前記電力の残量が所定量以上あると判断したとき、単位時間当たりに所定の駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第1モードにて、前記圧電素子を制御し、前記残量が前記所定量よりも少ないと判断したとき、前記単位時間よりも長い時間毎に前記所定の駆動量よりも多い駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第2モードにて、前記圧電素子を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体輸送装置及び流体輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を低速で輸送する装置として、マイクロポンプが知られている(特許文献1参照)。マイクロポンプには、チューブに沿って複数のフィンガーが配置されており、カムがフィンガーを順次押すことによって、チューブが圧搾されて流体が輸送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−77947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロポンプのような流体輸送装置では、微量の輸送を行う際に、カムを小刻みに駆動・停止させることになる。但し、圧電素子の振動を利用してカムを駆動するような場合、小刻みな駆動・停止を繰り返すと、電力の消費が大きくなる。このため、電池残量の少ないときに小刻みな駆動・停止をさせると、早期に電池が切れるおそれがある。
【0005】
本発明は、電力消費を抑制しつつ、流体の輸送を継続することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、流体を輸送するためのチューブと、前記チューブに沿って設けられ、前記チューブを押して閉塞させる複数のフィンガーと、前記チューブを圧搾して前記流体を輸送するように前記フィンガーを順に押すためのカムと、前記カムを駆動する駆動機構であって、圧電素子により振動する振動体と、前記振動体の振動に応じて駆動される被駆動体と、前記圧電素子を駆動するための電力を供給する電池と、前記圧電素子を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記電池に残存する前記電力の残量が所定量以上あると判断したとき、単位時間当たりに所定の駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第1モードにて、前記圧電素子を制御し、前記残量が前記所定量よりも少ないと判断したとき、前記単位時間よりも長い時間毎に前記所定の駆動量よりも多い駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第2モードにて、前記圧電素子を制御することを特徴とする流体輸送装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、流体輸送装置1の概略構成を説明するための平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A断面の概略図である。
【図3】図3は、流体輸送装置1の検出部40及び制御部50を説明するためのブロック図である。
【図4】図4は、カム歯車24に形成された第1マーカーの説明図である。
【図5】図5は、第2マーカーの説明図である。
【図6】図6Aは、高精度モードの説明図である。図6Bは、高効率モードの説明図である。
【図7】図7は、ローター22の停止状態から圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加し続けたときの第2検出部42の出力信号のグラフである。
【図8】図8は、本実施形態のフロー図である。
【図9】図9は、インスリン薬液を投与する流体輸送装置1のフロー図である。
【図10】図10は、駆動信号の周波数と、振動検出素子の検出信号及びローター22の回転数との関係を示す図である。
【図11】図11は、スイープ制御を行った場合の各種信号の説明図である。
【図12】図12は、カム2の回転量と、累積輸送量との関係のグラフである。
【図13】図13A及び図13Bは、流体の逆流の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0010】
流体を輸送するためのチューブと、前記チューブに沿って設けられ、前記チューブを押して閉塞させる複数のフィンガーと、前記チューブを圧搾して前記流体を輸送するように前記フィンガーを順に押すためのカムと、をまず想定する。つぎに、前記カムを駆動する駆動機構であって、圧電素子により振動する振動体と、前記振動体の振動に応じて駆動される被駆動体と、前記圧電素子を駆動するための電力を供給する電池と、前記圧電素子を制御する制御部とを備える流体輸送装置を設定する。そして、前記制御部は、前記電池に残存する前記電力の残量が所定量以上あると判断したとき、単位時間当たりに所定の駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第1モードにて、前記圧電素子を制御し、前記残量が前記所定量よりも少ないと判断したとき、前記単位時間よりも長い時間毎に前記所定の駆動量よりも多い駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第2モードにて、前記圧電素子を制御することを特徴とする流体輸送装置である。
このような流体輸送装置によれば、電池の残量が少なくても、液体の輸送を継続することができる。
【0011】
前記第2モードでは、前記被駆動体が定速に達するまで駆動されることが望ましい。これにより、被駆動体が定速に達するまで駆動されれば、あまり電力をかけなくても被駆動体の駆動を継続できるため、第2モードが高効率なモードになる。
【0012】
前記第1モードにて前記圧電素子を制御する際に、前記制御部は、前記複数のフィンガーのうちの輸送方向最下流側の前記フィンガーが前記チューブを閉塞する期間をスキップさせるように、前記圧電素子を制御することが望ましい。これにより、高精度に流体を輸送できる。
【0013】
前記第2モードにて前記圧電素子を制御する際に、前記制御部は、輸送前後の前記複数のフィンガーの押圧状態が同じになるように、前記圧電素子を制御することが望ましい。これにより、流体の輸送量に対する電力消費量を抑制しつつ、1回の輸送量を均等にできる。
【0014】
前記電池の端子間電圧を検出することによって前記残量を検出することが望ましい。これにより、電池残量を検出できる。
【0015】
流体を輸送するためのチューブと、前記チューブに沿って設けられ、前記チューブを押して閉塞させる複数のフィンガーと、前記チューブを圧搾して前記流体を輸送するように前記フィンガーを順に押すためのカムと、をまず想定する。つぎに、前記カムを駆動する駆動機構であって、圧電素子により振動する振動体と、前記振動体の振動に応じて駆動される被駆動体と、前記圧電素子を駆動するための電力を供給する電池と、を用いた流体輸送方法を設定する。そして、前記電池に残存する前記電力の残量が所定量以上あると判断したとき、単位時間当たりに所定の駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第1モードにて、前記圧電素子を制御し、前記残量が前記所定量よりも少ないと判断したとき、前記単位時間よりも長い時間毎に前記所定の駆動量よりも多い駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第2モードにて、前記圧電素子を制御することを特徴とする流体輸送方法である。
このような流体輸送方法によれば、電池の残量が少なくても、液体の輸送を継続することができる。
【0016】
===第1実施形態===
<装置の構成>
図1は、流体輸送装置1の概略構成を説明するための平面図である。図2は、図1のA−A断面の概略図である。
【0017】
流体輸送装置1は、流体を輸送するための装置である。流体輸送装置1は、リザーバー11と、チューブ12と、複数のフィンガー13と、カム2と、駆動機構20と、ケース30とから構成されている。
【0018】
リザーバー11は、輸送対象である流体を収容するための収容部である。本実施形態では、リザーバー11は、薬液を収容している。但し、リザーバー11に収容される流体は、薬液に限られるものではなく、他の液体(例えば、水、食塩水、薬液、油類、芳香液、インク等)でも良い。また、液体に限られず、気体でも良い。
【0019】
チューブ12は、リザーバー11から流体を輸送するための管である。チューブ12の一端はリザーバー11に連通しており、他端は流体の輸送先(不図示)に接続される。チューブ12は、フィンガー13から押されると閉塞し、フィンガー13からの力が解除されると元に戻る程度に弾性を有している。チューブ12は、ケース30に形成された円弧形状のチューブ案内壁33の内面に沿って、部分的に円弧形状に配置されている。チューブ12の円弧形状の部分は、チューブ案内壁33の内面と、複数のフィンガー13の外側との間に配置されている。チューブ12(及びチューブ案内壁33)の円弧の中心は、カム2の回転中心と一致している。
【0020】
フィンガー13は、チューブ12を閉塞させるための部材である。フィンガー13は、カム2から力を受けて、従動的に動作する。フィンガー13は、棒状の軸部13Aと、鍔状の押圧部13Bとを有し、T字形状になっている。フィンガー13は、軸部13Aが軸方向に沿って可動になるように、ケース30から支持されている。軸部13Aのチューブ12側の一端に押圧部13Bが形成されており、押圧部13Bはチューブ12と接触している。軸部13Aのカム2側の一端は、半球形状になっており、カム2と接触している。フィンガー13は、金属材料又は高剛性の樹脂材料から構成されるが、他の材料で構成されても良い。
【0021】
複数のフィンガー13は、同じ形状をしている。複数のフィンガー13は、カム2の回転中心から放射状に等間隔で配置されている。複数のフィンガー13は、カム2の外面と、チューブ12との間に配置されている。
【0022】
本実施形態では、7本のフィンガー13が流体輸送装置1に設けられている。以下の説明では、流体の輸送方向の上流側から順に、第1フィンガー13−1、第2フィンガー13−2、・・・第7フィンガー13−7と呼ぶことがある。
【0023】
カム2は、外周の4箇所に突起部2Aを有している。4つの突起部2Aは、同じ形状である。カム2の外周に複数のフィンガー13が配置されており、そのフィンガー13の外側にチューブ12が配置されている。カム2の突起部2Aによってフィンガー13が押されることによって、チューブ12が閉塞する。フィンガー13が突起部2Aから外れると、チューブ12の弾性力によってチューブ12が元の形状に戻る。カム2が回転すると、7本のフィンガー13が順に突起部2Aから押されて、輸送方向上流側から順にチューブ12が閉塞する。これにより、チューブが蠕動運動させられて、流体がチューブ12に圧搾されて輸送される。流体の逆流を防止するため、少なくとも1つ、好ましくは2つのフィンガー13がチューブ12を閉塞させるように、4つの突起部2Aが形成されている。
【0024】
駆動機構20は、カム2を回転駆動するための機構である。駆動機構20は、圧電アクチュエーター21と、ローター22と、減速伝達機構23とを有する。
【0025】
圧電アクチュエーター21は、圧電素子の振動を利用してローター22を回転させるためのものである。圧電アクチュエーター21は、矩形状の振動体の両面に接着された圧電素子に駆動信号を印加することによって、振動体を振動させる。振動体にはローター22と接触する凸部21Aが設けられており、振動体が振動すると、凸部21Aが所定の軌道を描いて振動する。例えば、振動体が長手方向に沿って伸縮する縦一次振動モードと、振動体が長手方向と直交する方向に屈曲する屈曲二次振動モードとを励起するように圧電素子に駆動信号を印加すると、凸部21Aが楕円軌道を描いて振動する。若しくは、長手方向に沿って伸縮する一次振動モードと、短辺方向に沿って伸縮する一次振動モードとを組み合わせて、凸部21Aを8の字の軌道を描くように振動させても良い。そして、凸部21Aの振動軌道の一部において凸部21Aがローター22と接触することによって、ローター22が回転駆動する。
【0026】
ローター22は、圧電アクチュエーター21によって回転させられる被駆動体である。ローター22は、不図示の板バネによって、圧電アクチュエーター21側に付勢されている。これにより、圧電アクチュエーター21の凸部21Aとローター22の側面との間に適切な摩擦力が発生し、圧電アクチュエーター21の駆動力の伝達効率が良好になる。
【0027】
減速伝達機構23は、ローター22の回転を所定の減速比でカム2に伝達する機構である。減速伝達機構23は、カム歯車24と、伝達車25と、ローターピニオン26とから構成されている。カム歯車24は、カム2に一体的に取り付けられており、カム軸を中心にして、カム2と共に回転可能に支持されている。カム歯車24は、カムやカム軸とともに2番車(カム車)を構成している。伝達車25は、カム歯車24と噛合するピニオンと、ローターピニオン26と噛合する大歯車とを有し、3番車を構成している。ローターピニオン26は、ローター22に一体的に取り付けられた小歯車であり、ローター22とともに4番車(ローター車)を構成している。なお、ここでは減速伝達機構23の減速比を40としている。つまり、ローター22が1回転すると、カム2が1/40回転することになる。
【0028】
ケース30は、流体輸送装置1を構成する上記の構成要素を収容するための容器である。ケース30は、上蓋31及びベース32から構成されている。ケース30には、電池3が内蔵されている。この電池3は、圧電アクチュエーター21の圧電素子を駆動するための電力を供給する。また、電池3は、圧電素子以外の部材(例えば制御部50など)にも、電力を供給する。
【0029】
図3は、流体輸送装置1の検出部40及び制御部50を説明するためのブロック図である。
【0030】
検出部40は、カム2の回転角度(回転位置)を検出するための第1検出部41と、ローター22の回転角度(回転位置)を検出するための第2検出部とを有する。
【0031】
第1検出部41は、発光部と受光部を備えたロータリー式エンコーダーである。カム歯車24に第1マーカーが形成されており、第1マーカーが発光部からの光を反射して、その反射光を受光部で受光する。受光部は、受光量に応じた出力信号を制御部50に出力する。
【0032】
図4は、カム歯車24に形成された第1マーカーの説明図である。カム歯車24に形成された第1マーカーの数は、カム2の突起部2Aの数と同じ4である。4つの第1マーカーは、カム軸を中心にして、等距離・等間隔で放射状に形成されている。このため、第1マーカー間の角度は、90度である。各マーカーの突起部2Aに対する位置関係は、同じになっている。
【0033】
第2検出部42も、発光部と受光部を備えたロータリー式エンコーダーである。ローター22に固定された検出板に第2マーカーが形成されており、第2マーカーが発光部からの光を反射して、その反射光を受光部で受光する。受光部は、受光量に応じた出力信号を制御部50に出力する。
【0034】
図5は、第2マーカーの説明図である。検出板に形成された第2マーカーの数は、12個である。12個の第2マーカーは、ローター22の回転軸を中心にして、等距離・等間隔で放射状に形成されている。このため、第2マーカー間の角度は、30度である。ローター22の回転分解能が30度であれば、減速伝達機構23の減速比が40であるため、カム2の回転分解能は0.75度(=30度/40)となる。
【0035】
なお、第1検出部41及び第2検出部42は、反射型の光学式センサーに限られるものではなく、透過型の光学式センサーであっても良い。また、光学式センサーに限られず、磁気センサーなどの非接触センサーや、接触式センサーであっても良い。
【0036】
制御部50(図3参照)は、カウンター51と、記憶部52と、演算部53と、ドライバー54とを有する。カウンター51は、第1検出部41が検出した第1マーカーの検出数と、第2検出部42が検出した第2マーカーの検出数をそれぞれ計数する。カウンター51の計数値は、カム2及びローター22の回転位置を示すことになる。記憶部52は、演算部53がドライバー54を駆動するためのプログラムが記憶されている。演算部53は、記憶部52に記憶されているプログラムを実行し、カウンター51の計数値(カム2やローター22の回転位置)に基づいてドライバー54を駆動する。ドライバー54は、演算部53からの指示に従って、駆動機構20の圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加する。
【0037】
本実施形態の制御部50は、図3に示すように、電池3の残量を検出するための残量検出部55を備えている。電池3の残量が減ると電池3の端子間電圧が低下することを利用して、残量検出部55は、電池3の端子間電圧を検出することによって、電池3の残量を検出している。但し、他の方法によって電池3の残量を検出しても良い。
【0038】
<制御方法>
図6Aは、高精度モードの説明図である。グラフの横軸は時間であり、縦軸は輸送された液量である。
高精度モードは、単位時間当たりに所定の回転量ずつローター22を回転させて、微量の液体を輸送する輸送方式である。ここでは、高精度モードのときには、1分間毎にローター22を30度ずつ回転させて、微量の液体を輸送する。この場合、制御部50は、1分間毎に第2検出部42が第2マーカーを1回検出するように、圧電アクチュエーター21への駆動信号の印加を間欠的に行うことになる。言い換えると、制御部50は、第2検出部42が第2マーカーを1回検出するまで圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加し、第2検出部42が第2マーカーを検出した後には、駆動信号の印加開始から1分間経過するまでの間、駆動信号の印加を停止する。
【0039】
図7は、ローター22の停止状態から圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加し続けたときの第2検出部42の出力信号のグラフである。グラフの横軸は時間であり、縦軸は第2検出部42の出力信号の電圧である。出力信号の立ち上がりエッジが出力されてから、次の立ち上がりエッジが出力されるまでの間に、ローター22が30度回転したことになる。
【0040】
図に示す通り、出力信号の立ち上がりエッジ間の間隔は、時間が経つ毎に徐々に短くなり、徐々に等間隔になっていく。このグラフから、ローター22の停止状態ではローター22に静止摩擦力が作用しているため、圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加してもローター22が回転しにくく、ローター22を回転させるのに電力を要すると考えられる。また、ローター22が定速回転する前においても、ローター22を加速させるために、電力を要すると考えられる。その一方、ローター22が定速回転するようになれば、あまり電力をかけなくてもローター22の定速回転を継続できることが理解できる。
【0041】
また、圧電アクチュエーター21では、駆動信号を印加してから定常振動になるまでに、ある程度の時間がかかる。更に、停止状態では、圧電アクチュエーター21の振動体の一端がローター22に固着したような状態のため、駆動開始時の共振周波数が定常振動時の共振周波数と若干異なっていると考えられる。これらの理由から、駆動信号の印加開始からローター22が定速回転に達するまでに、ある程度の時間がかかるとも考えられる。
【0042】
この結果、駆動信号の印加時間に対するローター22の回転量は、ローター22が停止・加速の状態のときよりも、ローター22が定速回転の状態のときの方が多い。このため、同じ量の液体を輸送する場合、ローター22が停止した状態からその量を輸送するよりも、ローター22が回転した状態で輸送する方が、電力の消費が少なくて済み、効率的である。
【0043】
しかし、前述の高精度モード(図6A)では、ローター22の微小な回転と停止とを繰り返すことになる。このため、高精度モードは、電力の消費が大きい。そして、電池3の残量が少ないときに高精度モードでの液体輸送を継続すると、電池切れを早期に招くおそれがある。
そこで、本実施形態では、制御部50は、電池3の残量が少ないときには、高精度モードを行わず、次に説明する高効率モードを行う。
【0044】
図6Bは、高効率モードの説明図である。高効率モードは、まとめて液体を輸送する輸送方式である。ここでは、高効率モードのときには、10分間毎にローター22を300度ずつ回転させて、まとめて液体を輸送する。この場合、制御部50は、第2検出部42が第2マーカーを10回検出するまで圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加し続け、第2検出部42が第2マーカーを10回検出した後には、駆動信号の印加開始から10分間経過するまでの間、駆動信号の印加を停止する。
【0045】
圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加してローター22を回転させるとき、図7に示すようにローター22が150度ほど回転すればローター22はほぼ定速回転するので、それ以降の電力の消費は少なくて済む。このため、高効率モードでは、前述の高精度モードと比較して、液体の輸送量に対する電力消費量が少なくて済む。
【0046】
図8は、本実施形態のフロー図である。まず、制御部50は、残量検出部55の検出結果に基づいて、電池残量を判断する。
【0047】
例えば、電池3の端子間電圧が所定の閾値よりも高いことを残量検出部55が検出していれば、制御部50は、電池残量が足りていると判断する。この場合、制御部50は、高精度モード(図6A参照)にて、液体の輸送を行う。
【0048】
一方、電池3の端子間電圧が所定の閾値よりも低いことを残量検出部55が検出していれば、制御部50は、電池残量が少ないと判断する。この場合、制御部50は、高効率モード(図6B参照)にて、液体の輸送を行う。これにより、電池3の残量が少なくても、液体の輸送を継続することができる。
【0049】
<使用例>
前述の流体輸送装置1を用いて、糖尿病患者に対してインスリン薬液を投与することが可能である。図9は、インスリン薬液を投与する流体輸送装置1のフロー図である。
【0050】
まず、制御部50は、食後のタイミングであるか否かを判断する。流体輸送装置1に不図示の入力部(例えばボタン)が設けられており、食後に使用者が入力部に入力(例えばボタンを押すこと)を行えば、制御部50は、食後のタイミングであると判断する。若しくは、流体輸送装置1に不図示の血糖値検出部が設けられており、血糖値検出部の検出結果に基づいて、食後のタイミングであるか否かを判断しても良い。
【0051】
食後のタイミングであれば、使用者の血糖値が高いため、十分な量のインスリンが投与されるように、制御部50は、高速モードにて薬液の輸送を行う。高速モードでは、制御部50は、ローター22の回転が継続するように、圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加し続ける。このため、高速モードは、前述の高効率モードと比べても、液体の輸送量に対する電力消費量が少ない。
【0052】
本実施形態では、血糖が低いときにも肝臓からの糖の放出が過剰にならないようにするため、制御部50は、微量のインスリンを投与するように、ローター22を回転させる。このとき、既に説明した通り、制御部50は、電池3の残量が足りていれば、前述の高精度モード(図6A参照)にて、微量のインスリンを投与するように、ローター22を回転させる。一方、電池3の残量が少なければ、前述の高効率モード(図6B参照)にて、微量のインスリンを投与するように、ローター22を回転させる。
【0053】
インスリン薬液を投薬するような流体輸送装置1では、電池3などの消耗品は定期的に交換されることを想定しているため、通常の使用形態において電池残量が少ないと判断されることは無い。但し、大震災などの非常時には、使用者が、想定期間を超えて装置を使用し続けることが生じ得る。本実施形態では、このような状況下においても、インスリン薬液を投与できる期間を延ばすことができる。
【0054】
===第2実施形態===
圧電アクチュエーター21は、矩形状の振動体に接着した圧電素子に駆動信号を印加させて、振動体を振動させている。このため、振動体の共振周波数に相当する周波数の駆動信号を圧電素子に印加させることになる。但し、圧電アクチュエーター21の共振周波数は、周囲の温度や負荷などの影響によって変動することがある。そこで、所定の帯域で駆動信号の周波数をスイープ(変化)させて、確実に圧電アクチュエーター21を駆動させることが考えられる。
【0055】
一方、駆動信号の周波数を広い帯域でスイープさせる場合、振動に寄与しない周波数も圧電素子に印加することになる。このような周波数の駆動信号を圧電素子に長時間印加することは、効率的ではない。そこで、振動が小さい状態では、圧電素子に印加する駆動信号の周波数の変化速度を速くさせて、振動に寄与しない周波数の駆動信号の印加時間を短くすることが考えられる。ここでは、振動体に設ける圧電素子の一部を振動検出素子とし、この振動検出素子の検出結果に基づいて、印加中の駆動信号が振動に寄与しているか否かを判断することにする。
【0056】
図10は、駆動信号の周波数と、振動検出素子の検出信号及びローター22の回転数との関係を示す図である。
【0057】
圧電素子は周囲温度や負荷に応じて励振する周波数範囲が変動する。圧電素子に印加する駆動信号の周波数をfmaxからfminにスイープさせると、圧電素子が駆動信号によって励振したときに、振動検出素子の検出信号が高くなる。言い換えると、振動検出素子の検出信号が高いとき、圧電素子が駆動信号によって励振していることになる。
【0058】
そこで、制御部50は、振動検出素子の検出信号(検出電圧)と基準信号(基準電圧)とを比較し、検出信号が基準信号よりも低い場合には、圧電素子に印加する駆動信号の周波数の変化速度を速くする。一方、検出信号が基準信号よりも低い場合には、制御部50は、圧電素子に印加する駆動信号の周波数の変化速度を遅くする。これにより、振動に寄与しない周波数の印加時間を短くできる。このように駆動信号の周波数をスイープさせる制御方法のことを「スイープ制御」と呼ぶ。
【0059】
駆動信号の周波数の変化パターン(スイープパターン)は、所定の最大周波数fmaxから最小周波数fminにスイープし、最小周波数fminに達したら、最大周波数fmaxに戻って再度最小周波数fminに向かってスイープするダウンパターンを採用することが可能である。但し、このダウンパターンに限らず、常に最小周波数fminから最大周波数fmaxに向かってスイープするアップパターンや、最小周波数fminに達したら最大周波数fmaxに向かってスイープするとともに、最大周波数fmaxに達したら最小周波数fminに向かってスイープする往復パターンでも良い。
【0060】
図11は、スイープ制御を行った場合の各種信号の説明図である。一番上の波形Aは、第2検出部42の出力信号である。波形Bは、駆動信号である。波形Cは、振動検出素子の検出信号(圧電素子からの逆起電力信号)である。波形Dは、駆動開始のタイミング示す信号である。波形DがLレベルからHレベルに変化した時に、圧電素子への駆動信号の印加が開始する。
【0061】
波形Aが示すように、駆動信号の周波数をスイープさせた場合においても、図7のグラフと同様に、出力信号の立ち上がりエッジ間の間隔は、時間が経つ毎に徐々に短くなり、徐々に等間隔になっていく。この波形Aから、ローター22の停止状態で圧電アクチュエーター21に駆動信号を印加してもローター22が回転しにくく、ローター22を回転させるのに電力を要することが理解できる。また、ローター22が定速回転する前においても、ローター22を加速させるために、電力を要することが理解できる。なお、スイープ制御をローター22の停止状態から開始する場合、振動に寄与しない周波数の帯域が広い状態のため、特に電力を要すると考えられる。その一方、ローター22が定速回転するようになれば、あまり電力をかけなくてもローター22の定速回転を継続できることが理解できる。
【0062】
つまり、スイープ制御を行う際においても、第1実施形態と同様に、駆動信号の印加時間に対するローター22の回転量は、ローター22が停止・加速の状態のときよりも、ローター22が定速回転の状態のときの方が多い。特に、スイープ制御の際に、振動に寄与する周波数の帯域は、ローター22の停止・加速時よりもローター22の定速回転時の方が広いため、駆動信号の印加時間に対するローター22の回転量は、ローター22が停止・加速の状態のときよりも、ローター22が定速回転の状態のときの方が特に多くなる。このため、スイープ制御を行う際においても、同じ量の液体を輸送する場合、ローター22が停止した状態からその量を輸送するよりも、ローター22が回転した状態で輸送する方が、電力の消費が少なくて済み、効率的である。
【0063】
したがって、スイープ制御を行う際においても、制御部50が図8や図9に示す処理を実行することが望ましい。これにより、電池3の残量が少なくても、液体の輸送を継続することができる。
【0064】
===第3実施形態===
図12は、カム2の回転量と、累積輸送量との関係のグラフである。このグラフは、カム2の或る位置(基準位置)を0度とし、基準位置からのカム2の回転量に対する輸送量の累積を測定したものである。
【0065】
ここでは、カム2が0度から60度まで回転するまでの間(以下、「輸送期間」という)では、輸送量は、回転角にほぼ比例している。この輸送期間では、第1フィンガー13−1から順にチューブ12を閉塞させて、流体が輸送されている状態になる。カム2が60度から80度まで回転するまでの間(以下、「定常期間」という)では、累積輸送量は変化していない。この定常期間では、第7フィンガー13−7がチューブ12を閉塞させ続けている状態になる。カム2が80度から85度まで回転するまでの間(以下、「逆流期間」という)では、累積輸送量が減少している。つまり、逆流期間では、流体が逆流している。
【0066】
図13A及び図13Bは、流体の逆流の説明図である。本来であればチューブ12は円弧形状に配置されているが、ここでは便宜上、チューブ12を直線状に配置している。
【0067】
カム2が回転することによって、第7フィンガー13−7がチューブ12を閉塞した状態(図13A)から、第7フィンガー13−7による押圧状態が開放された状態(図13B)に移行する。このとき、図13Bの斜線部に示す容量(正確には、図13Bの斜線部の容量から図13Aの斜線部の容量を引いた容量)の分だけ、流体が逆流することになる。
【0068】
なお、カム2が85度から90度まで回転するまでの間(以下、「復帰期間」という)では、逆流分に相当する量の液体が輸送される。(なお、基準位置0度は、復帰期間後のカム2の位置としている。)
このように、カム2を回転させたときに、回転量に応じた量の液体が輸送される場合と、液体が輸送されない場合と、液体が逆流する場合とがある。この結果、図12に示すように、カム2の回転量に対する液体の輸送量は、カム2の回転位置に応じて異なることになる。例えばカム2を45度回転させて液体を輸送する場合には、図12の基準位置0度から45度まで回転させたときの輸送量(約1.2μl)と、45度から90度まで回転させたときの輸送量(約0.3μl)とでは、異なることになる。その一方、カム2を90度回転させて液体を輸送する場合には、カム2がどの位置であっても、ほぼ等量(約1.5μl)にて液体が輸送されることになる。
【0069】
そこで、第3実施形態では、前述の高精度モード及び高効率モードの際に、以下のようにしている。
【0070】
高精度モードでは、輸送期間(カム2が基準位置0度から60度まで回転するまでの間)では、第1実施形態と同様に、制御部50は、1分間毎にローター22を所定角度(例えば30度)ずつ回転させて、微量の液体を輸送する。つまり、第7フィンガー13−7がチューブ12を閉塞させる前の期間では、第1実施形態と同様に、制御部50は、1分間毎にローター22を所定角度(例えば30度)ずつ回転させて、微量の液体を輸送する。
【0071】
但し、輸送期間を終えてカム2の回転位置が60度に達したとき、制御部50は、次の輸送期間に達するまで(カム2が基準位置から90度回転した位置になるまで)、ローター22を回転させる。つまり、カム2の回転位置が60度に達したとき、制御部50は、定常期間・逆流期間・復帰期間をスキップするように(60度〜90度の回転位置をスキップするように)、ローター22を回転させる。そして、カム2の90度の回転を1サイクルとし、基準位置から90度回転した位置を次のサイクルの新たな基準位置として、次のサイクルにおいても同様にローター22の回転を制御する。
【0072】
第3実施形態の高精度モードによれば、単位時間当たりに輸送される液体の量を一定にすることができる。なお、第1実施形態のように常に所定の回転量ずつローター22を回転させるだけでは、液体が輸送されない期間(第7フィンガー13−7がチューブ12を閉塞している期間)や、液体が逆流する期間が生じてしまう。これに対し、第3実施形態では、第1実施形態よりも、高い精度で液体を輸送できる。
【0073】
高効率モードでは、所定時間毎にカム2を90度回転させて(ローター22を10回転させて)、まとめて液体を輸送する。つまり、高効率モードでは、輸送直後の複数のフィンガー13の押圧状態が、輸送直前の複数のフィンガー13の押圧状態と同じになるまで、カム2を回転させる。なお、カム2は基準位置に位置していなくても良い。
【0074】
第3実施形態の高効率モードによれば、液体の輸送量に対する電力消費量を抑制しつつ、1回の輸送量を均等にすることができる。なお、カム2を90度ずつ回転させるのではなく、仮に45度ずつ回転させるとすると、90度ずつ回転させた場合と比べて電力消費量が多くなると共に、1回の輸送量が均等にはならない。
【0075】
===その他===
上記の実施形態は、主として流体輸送装置について記載されているが、その中には、流体輸送方法、プログラム、プログラムを記憶した記憶媒体等の開示が含まれていることは言うまでもない。
【0076】
また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0077】
1 流体輸送装置、2 カム、2A 突起部、3 電池、
11 リザーバー、12 チューブ、
13 フィンガー、13A 軸部、13B 押圧部、
20 駆動機構、21 圧電アクチュエーター、21A 凸部、
22 ローター、22A 検出板、
23 減速伝達機構、
24 カム歯車、25 伝達車、26 ローターピニオン、
30 ケース、31 上蓋、32 ベース、33 チューブ案内壁、
40 検出部、41 第1検出部、42 第2検出部、
50 制御部、51 カウンター、52 記憶部、53 演算部、
54 ドライバー、55 残量検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を輸送するためのチューブと、
前記チューブに沿って設けられ、前記チューブを押して閉塞させる複数のフィンガーと、
前記チューブを圧搾して前記流体を輸送するように前記フィンガーを順に押すためのカムと、
前記カムを駆動する駆動機構であって、圧電素子により振動する振動体と、前記振動体の振動に応じて駆動される被駆動体と、
前記圧電素子を駆動するための電力を供給する電池と、
前記圧電素子を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記電池に残存する前記電力の残量が所定量以上あると判断したとき、単位時間当たりに所定の駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第1モードにて、前記圧電素子を制御し、
前記残量が前記所定量よりも少ないと判断したとき、前記単位時間よりも長い時間毎に前記所定の駆動量よりも多い駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第2モードにて、前記圧電素子を制御する
ことを特徴とする流体輸送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体輸送装置であって、
前記第2モードでは、前記被駆動体が定速に達するまで駆動されることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流体輸送装置であって、
前記第1モードにて前記圧電素子を制御する際に、前記制御部は、前記複数のフィンガーのうちの輸送方向最下流側の前記フィンガーが前記チューブを閉塞する期間をスキップさせるように、前記圧電素子を制御する
ことを特徴とする流体輸送装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の流体輸送装置であって、
前記第2モードにて前記圧電素子を制御する際に、前記制御部は、輸送前後の前記複数のフィンガーの押圧状態が同じになるように、前記圧電素子を制御することを特徴とする流体輸送装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の流体輸送装置であって、
前記電池の端子間電圧を検出することによって前記残量を検出する
ことを特徴とする流体輸送装置。
【請求項6】
流体を輸送するためのチューブと、
前記チューブに沿って設けられ、前記チューブを押して閉塞させる複数のフィンガーと、
前記チューブを圧搾して前記流体を輸送するように前記フィンガーを順に押すためのカムと、
前記カムを駆動する駆動機構であって、圧電素子により振動する振動体と、前記振動体の振動に応じて駆動される被駆動体と、
前記圧電素子を駆動するための電力を供給する電池と、
を用いた流体輸送方法であって、
前記電池に残存する前記電力の残量が所定量以上あると判断したとき、単位時間当たりに所定の駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第1モードにて、前記圧電素子を制御し、
前記残量が前記所定量よりも少ないと判断したとき、前記単位時間よりも長い時間毎に前記所定の駆動量よりも多い駆動量ずつ前記被駆動体を駆動する第2モードにて、前記圧電素子を制御する
ことを特徴とする流体輸送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−24185(P2013−24185A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161714(P2011−161714)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)