説明

流体適応レンズ

流体適応レンズ装置、上記レンズ装置を用いたシステム(例えば眼鏡、ズームレンズシステム)、および上記レンズ装置を製造し動作させる方法が開示されている。一実施形態では、流体レンズ装置は、可撓性で光学的透過性である第1の隔壁と、第1の隔壁に連結された第2の隔壁であって、少なくとも一部が光学的透過性であり、第1の隔壁と第2の隔壁との間に第1のキャビティが形成される、第2の隔壁とを含む。レンズ装置はさらに、キャビティ内に設けられ、光学的透過性である第1の流体媒体と、流体媒体のパラメータを制御することができる第1のコンポーネントとを含む。流体媒体のパラメータが変化すると、第1の隔壁が屈曲してレンズの光学特性が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学レンズに関し、特に様々な光学システムに採用される視力矯正レンズおよびズームレンズに関する。
【0002】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は2004年3月31日に出願された「流体適応レンズ」という名称の米国仮特許出願第60/558,293号に基づき優先権を主張する。上記米国仮特許出願は、その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0003】
連邦により後援された研究開発に関する陳述
本発明は、国防総省高等研究計画局(DARPA)認可第F49620-02-1-0426号によるアメリカ合衆国政府の支持によってなされた。アメリカ合衆国政府は本発明に対して権利を有する。
【背景技術】
【0004】
光学レンズは様々な装置に多くの目的で(例えば焦点の修正および拡大のために)用いられている。光学レンズを採用している従来の多くの装置は、固体材料により形成されたレンズを用いており、レンズの光学特性(例えば焦点距離)が経時的に一定またはほぼ一定になるようにしている。例えば、視力矯正用に用いられる眼鏡は典型的にはガラスまたはプラスチックなどの固体により形成されている。同様に、カメラまたは他の光学システム(例えば顕微鏡、ビデオモニタ、ビデオレコーダ、コピー機、スキャナなど)は通常固体レンズを用いている。
【0005】
固体材料から形成されたレンズは概して頑強であり経時的に光学特性を維持するが、このようなレンズを用いることには多くの不都合がある。例えば視力矯正レンズの場合、視力矯正力はレンズの製造時に固定される。その結果、今日の眼鏡は低コストで大量生産できないことが多い。なぜならレンズが特定の患者ごとに製造されるからである。各患者に必要な視力矯正力はまちまちであるため、患者は視力矯正レンズを製造してもらう前に、まず眼科医または検眼士に必要な矯正力を測定してもらわなければならない。さらにガラスやプラスチック材料を処方による精密な形状のレンズに加工すること自体、比較的高価格かつ低スループットのプロセスである。患者が新しい眼鏡を受け取るまで数日さらに数週間かかる場合も多い。サングラスのような既製品のグラスに比べて、現行の技術を用いて設計され製造される視力矯正眼鏡は特に高価で製造が複雑である。
【0006】
さらに今日の眼鏡に用いられている視力矯正レンズは、着用者がよく遭遇する様々な事態に対応できる柔軟性を有していない。例えば、ある個人に最適な視力矯正は様々な要因(例えば年齢、ライフスタイル、様々な実際の環境)に応じて頻繁に変化する。その結果、成人であれば典型的には数年ごとに視力矯正レンズを交換する必要がある。子供または青年の場合、成人よりも頻繁に視力矯正眼鏡の交換が必要とされることが多い。
【0007】
人によっては、特に50歳代以上の人の場合、近くの物体を視るために必要な視力矯正は、遠くの物体を視るために必要な視力矯正と大幅に異なることがある。1対の眼鏡で様々なレベルの視力矯正を提供するために、今日の眼鏡の多くは二焦点レンズ(さらには三焦点レンズまたはその他の多焦点レンズ)を採用している。これらのレンズでは、レンズの部分によって光学特性が異なる。このような二焦点レンズは、1対の眼鏡で様々なレベルの視力矯正を提供するにはどうすべきかという問題を解決はするが不具合は生じる。従来、二焦点レンズは、レンズ全体の中心線に沿って位置づけるか又は融合したレンズ部分対から形成する。レンズ部分の間の中心線は、レンズ部分の間に知覚できる境界線であり、このようなレンズは外見上望ましくないことが多い。
【0008】
外見上望ましくないとは言えない新しい二焦点レンズもある。しかし、レンズの領域間の矯正力の変化が緩やかなものとなり且つ領域間に明白な境界線がないようにレンズに傾斜をつけているとはいえ、これらの新しい二焦点レンズも従来の二焦点レンズと同じ他の問題点を有する。特に、レンズの様々な部分が異なる視力矯正特性を有するため、レンズを介した着用者の視野は時間または環境によっては悪くなる。その時間/環境に着用者に適切な光学特性を提供するのはレンズの一部分のみだからである。
【0009】
さらに、多くの人々は、二焦点レンズを必要としないにもかかわらず、状況に応じて様々な量の視力矯正を提供する眼鏡を好むことがある。例えば、車を運転しているとき又は映画を見ているときと、本を読んでいるとき又はコンピュータの画面の前で仕事をしているときとでは、好ましい視力矯正量が異なることがある。
【0010】
従って少なくともこれらの理由により、光学特性が固定された固体レンズを眼鏡に用いることは様々な点で明らかに不利である。さらに光学特性が固定された固体レンズを用いることに関連する不都合は、眼鏡/グラスにこのようなレンズを用いることに関連する不都合に限られない。実際、特性が固定された固体レンズを様々な装置(例えばカメラ、顕微鏡、ビデオモニタ、ビデオレコーダ、コピー機、スキャナなど)に用いることも同様の不都合を呈する。
【0011】
さらに、光学特性が固定された固体レンズを用いることは、レンズの相互作用により全体として光学特性を提供するように組み合わせているシステムの場合、さらなる不都合を伴う。このようなシステムとは例えば、光学特性が固定された2以上の光学レンズを相対的に移動させてレンズの組合せ全体の光学特性を変化させ、それによりズームレンズを形成するズームレンズシステムを含む。このようなシステムで用いられる個々のレンズの光学特性は固定されているため、レンズの組合せ全体の光学特性は他の要因、特に個々のレンズの相対位置に依存する。その結果、ズームレンズシステムなどのシステムに関連して望ましい特徴および性能を提供して所望の効果を得るためには、複雑かつ高価な機械的および/または他のコンポーネントおよび技術を採用しなければならない。
【0012】
特にズームレンズシステムに関しては、ズーム性能を有する従来のシステムは典型的には高価であり、このような性能を有していないシステムよりも嵩高い/重いことが多い。ズームレンズの最も重要な利点はズーム率である。ズーム率が高いほど、システムは高価になる。典型的なカメラは約3のズーム率を有する。高性能のシステムの中には10より高いズーム率を有するものもある。現在すべての光学ズームレンズは、ズームレンズ全体を形成する個々のレンズ間の距離を変更することによってズームインおよびズームアウト機能を達成している。これは、典型的には数センチの範囲に亘ってレンズが高精密な機械的動きをすることを含む。レンズが高精密で信頼性のある相対移動をするためには典型的には、複雑で低速度で嵩高くかつ高価な機械システムが必要である。
【0013】
ズームを達成するためにレンズの距離を可変にしなければならないという必要性が、ズーム特性を多くの新しい適用に組み込むことを妨げてきた。現在の多くの「電子器具」(例えば携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、ノートコンピュータ)は、CCDまたはCMOSカメラを備えている。カメラをこのような器具に設けることはかつては目新しかったがやがて標準の特徴となり、今ではこのような器具の多くが撮像関連の機能をサポートしている。撮像関連の機能は撮像のみならず、記録、ビデオフォン機能、およびビデオ会議を含む。しかし、これらの小型電子器具およびその光学装置に従来のズームレンズを組み込むことは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、上記の光学特性が固定された固体レンズを用いることに関連する不都合を緩和する1以上のタイプのレンズおよび/またはレンズシステムが開発されることが望ましい。特に、眼鏡に設けるための新しいタイプのレンズおよび/またはレンズシステムが開発されて、眼鏡の光学特性をレンズ全体を交換することなく容易かつ低コストで調整することができれば有利である。さらに、レンズの光学特性を、単に限られた数の不連続レベルではなく、広いスペクトルに亘ってフレキシブルに変化させることができれば有利である。さらにレンズの光学特性の変化がレンズ全体に適用でき、例えばレンズの光学特性の変化が、レンズを用いた眼鏡の着用者の視野領域の一部のみではなく、視野領域全体に適用できれば有利である。
【0015】
新しいタイプのレンズまたはレンズシステムを、上記に加えて、あるいは上記に代えて、レンズを採用する他のシステム(例えば、カメラ、顕微鏡、ビデオモニタ、ビデオレコーダ、光学記録機構、監視装置、検査装置、迅速撮像装置、対象追跡装置、コピー機、スキャナなど)に設けることができれば有利である。さらに、新しいタイプのレンズまたはレンズシステムを、複数のレンズの相対位置を制御する複雑な機械系の必要性を低減するようにズームレンズシステムに設けることができれば有利である。さらに新しいタイプのレンズまたはレンズシステムを採用したズームレンズシステムを、1以上のタイプの物理的に小型の「電子器具」(例えば、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、またはノートコンピュータ)にコンパクトに設けることができれば有利である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要約
本発明者らは、従来の眼鏡および光学システム(例えば、ズームレンズシステムなどの複数のレンズを用いるシステム)に関連する上記不都合の多くは、眼鏡または光学システムが可変または適応性のある光学特性を有するレンズを採用すれば緩和または排除できるということを認識した。本発明者らはさらに、適応性のある光学特性を有するレンズは、流体媒体対を分離する光学的透過性の可撓性ダイヤフラム/膜を1以上用いることにより形成可能であることも発見した。流体媒体の1以上の圧力を適切に変化させると、膜の位置および光が通過する1以上の流体媒体の量が変化し、それによりレンズの光学特性を変化させることができる。
【0017】
特に本発明は、可撓性で光学的透過性である第1の隔壁と、前記第1の隔壁に連結された第2の隔壁であって、少なくとも一部が光学的透過性であり、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁との間に第1のキャビティが形成される、第2の隔壁とを備えたレンズ装置に関する。レンズ装置はさらに、前記キャビティ内に設けられ、光学的透過性である第1の流体媒体と、前記流体媒体のパラメータを制御することができる第1のコンポーネントとを備える。前記流体媒体の前記パラメータが変化すると、前記第1の隔壁が屈曲してレンズの光学特性が変化する。
【0018】
本発明はさらに、第1の流体適応レンズと、第2の流体適応レンズと、前記第1の流体適応レンズと前記第2の流体適応レンズとを連結する中間構造体であって、少なくとも部分的に光学的透過性である、中間構造体とを備えた多レンズ装置に関する。
【0019】
本発明はさらに、流体適応レンズ装置を製造する方法に関する。当該方法は、第1のキャビティを有する第1の構造体を提供する工程であって、前記第1のキャビティが部分的にのみ前記第1の構造体によって取り囲まれる工程と、前記第1のキャビティを実質的に取り囲むように、第1の可撓性層と前記第1の構造体とを互いに連結させる工程とを含む。前記第1のキャビティに第1の流体を充填することができ、それにより前記第1の構造体と前記第1の可撓性層と前記第1の流体とが相互作用して前記流体適応レンズ装置を構成する。
【0020】
本発明はさらに、レンズ装置を動作させる方法に関する。当該方法は、互いに連結された可撓性層と剛性構造体とを含んでキャビティを形成するレンズ構造体を提供する工程と、前記キャビティ内の流体の流体圧力を調整して前記可撓性膜の屈曲を調整する工程とを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、流体適応レンズの設計および構成、並びにこのようなレンズの様々な環境(例えば、眼鏡およびズームレンズシステム)における1以上の使用に関する。図1〜図6は概して、動的に調整可能な視力矯正力を提供することができる眼鏡に用いられる流体適応レンズの設計および実施に関する。図7〜図17は概して、様々な装置(例えば携帯電話のカメラ)に組み込むことができるズームレンズシステムに用いられる流体適応レンズおよびその組合せの設計および実施に関する。上記ズームレンズシステムは、複数のレンズを物理的に互いに近づけたり離したりするための複雑な機械的装置を必要とすることなく、可変ズーム性能を提供することができる。
【0022】
図1〜図17は特に、眼鏡およびズームレンズシステムに用いられる流体適応レンズの設計および実施に関するが、本発明はこれら又は同様の流体適応レンズを広範囲の他の適用および環境(例えば様々な他の電子その他の装置)に用いることを含む。他の適用および環境は、顕微鏡、ビデオモニタ、ビデオレコーダ、光学記録機構、バーコードリーダ、マクロ(または拡大)機能を有するシステム、監視装置、検査装置、迅速撮像装置、対象追跡装置、コピー機、スキャナ、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、ノートコンピュータ、テレスコープ、拡大鏡、検眼士テスト装置、およびレンズを必要とする他の装置を含む。本発明は実際、上記レンズの特定の適用とは独立して、単に概して流体適応レンズの設計および実施に関する。本発明は、光学特性が可変である1以上の流体適応レンズを採用する様々なレンズ、レンズ構造体およびレンズシステムを含む。本発明による流体適応レンズは、凸レンズ、凹レンズ、凹凸レンズ、正または負メニスカス、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、および両凹レンズなど、様々なタイプのレンズを含む。
【0023】
眼鏡に設けることが可能な流体適応レンズの例を、図1、図2aおよび図2bに模式的に示す。図1は1対の眼鏡5の一例を示す。眼鏡5において、2枚の流体適応レンズ6、7がフレーム8によって支持されている。図2aおよび図2bは、図1に示す眼鏡のレンズ6、7として設けることができる2枚の異なるタイプのレンズの断面図である。図2aは、遠視を矯正するために用いることができる第1の流体レンズ1の概略図である。図示するように、流体レンズ1は凸型流体適応視力矯正レンズであり、高屈折率流体である第1の媒体20と、低屈折率流体である第2の媒体10と、2つの媒体を分離する可撓性膜(またはダイヤフラム)30とを含む。高屈折率流体の圧力が低屈折率流体の圧力よりも高いとき、可撓性膜30は低屈折率側に屈曲する。図2aとは対照的に、図2bは、近視を矯正するために用いることができる第2の流体レンズ2の概略図である。図示するように、流体レンズ2は凹型流体適応視力矯正レンズであり、高屈折率流体である第1の媒体22と、低屈折率流体である第2の媒体12と、2つの媒体を分離する可撓性膜(またはダイヤフラム)32とを含む。低屈折率流体の圧力が高屈折率流体の圧力よりも高いとき、膜32は高屈折率側に屈曲する。
【0024】
可撓性膜30、32は、それぞれ対応する媒体対10、20と12、22との間の圧力差により変形する。例えば、高屈折率媒体側の圧力が低屈折率媒体側の圧力よりも高い場合、膜は図2aに示すように低屈折率媒体方向に屈曲し、遠視の問題を矯正することができる実効的凸レンズを形成する。他方、低高屈折率媒体側に高い圧力がある場合、膜は高屈折率媒体方向に屈曲し、近視の問題を矯正することができる実効的凹レンズを形成する(図2bを参照のこと)。
【0025】
図3aおよび図3bはそれぞれ、流体レンズ36および46の一例を示す断面図である。レンズ36、46は、それぞれ図2aおよび図2bに模式的に示す凸型適応視力矯正レンズ1および凹型適応視力矯正レンズ2として採用することができる例示的構造を詳細に示す。図示するように、レンズ36および46は各々、透明剛性材料31、41の一部と、第1の流体媒体32、42と、第2の流体媒体33、43と、可撓性膜(またはダイヤフラム)34、44とを含む。本実施形態では、第2の流体媒体33、43はレンズ36、46の外側の空気として示しているが、これらの流体媒体は他の流体(気体または液体)であってもよい。
【0026】
さらにレンズ36、46は各々、透明剛性媒体31、41上に膜34、44を支持する壁37、47を含む。壁37、47は対応するレンズ36、46を取り囲んでいる。レンズ36、46は典型的には、レンズ前方から見た場合、円形または卵形状である(他の形状も取り得る)。壁37、47は各々、膜34、44および透明剛性材料31、41と共に、第1の流体媒体32、42が存在する内部キャビティ38、48を規定する。壁37、47の各々はさらに、第1の流体媒体32、42がキャビティ38、48に出入りすることを可能にするチャネル39、49を規定する。ある実施形態では、壁37、47は眼鏡5のフレーム8内に形成することができる。さらに図3aおよび図3bに示すように、矢印35、45は各々、キャビティ38、48に対する媒体32、42の流方向(および/または圧力)であって、レンズ36、46を凸レンズおよび凹レンズにするために適切な流方向(および/または圧力)を表す。図示するように、第1の流体媒体32はキャビティ38に流入して膜34を外方に拡大させる傾向にあり、他方第1の媒体42はキャビティ45から流出して膜44を内方に収縮させる傾向にある。
【0027】
キャビティ38、48に流入または流出する第1の流体媒体32、42の量(これら媒体の圧力に依存し得る)を制御することにより、レンズ36、46の光学特性を変化させることができる。特に、本実施形態では第2の流体媒体33、43が大気中の空気であるため、第1の流体媒体32に正の圧力(例えば、大気圧より高い圧力)を付与することにより、膜34が図3aに示すように外方に拡大する傾向となり、第1の流体媒体42に負の圧力(例えば、大気圧より低い圧力)を付与することにより、膜44が図3bに示すように内方に収縮する傾向となる。従って、レンズ36および46は実際には同一のレンズであるが、ある状態では凸レンズとして構成し、別の状態では凹レンズとして構成することができる。
【0028】
図3aおよび図3bに示すレンズ36、46は物理的にはレンズとして動作することができる(例えば、光を収束または散乱させることができる)が、これらのレンズの構造は好ましくない。これらの実施形態では膜34、44が外気および外部環境に曝されているため、大気圧の変化、温度の変化および/または外部衝撃のすべてがレンズ36、46の光学特性に損失を与えたり光学特性を変化させたりする。その結果、レンズの信頼性、安定性(レンズの光学特性のドリフトを含む)および性能が劣化する。特に図3bの凹レンズ46のモードでは、流体チャンバが大気に対して負の圧力を維持しなければならない。これには気密設計が必要であるが、気密設計は、正の流体圧力用の漏れのない設計よりも達成が困難であり安定に維持することが困難である。その結果、レンズ36、46はいくつかの適用には適しているが、主に粘度が高く蒸気圧が非常に低い流体が液体媒体として用いられるときにのみ眼鏡に用いることが可能となる。これは装置の製造性を限定する。
【0029】
眼鏡5のレンズ6および7として採用可能な流体適応レンズ用の2つの改良された設計であって、図3aおよび図3bのレンズ36、46よりも頑強で動作が安定している設計を、図4aおよび図4bにレンズ50および60として示す。レンズ50、60は、大気圧などの環境による影響を最小限に抑えるために、レンズの外表面の全体(またはほぼ全体)を剛性材料で形成している。図示するように、特に図4aのレンズ50は2つの流体チャンバを含み、他方図4bのレンズ60は3つの流体チャンバを含む。
【0030】
図4aに示すように、レンズ50はいくつかのコンポーネントを含む。まずレンズ50は、1対の透明剛性外表面51を(レンズの両側に)含む。外表面51は従来の固体レンズの場合のように、レンズの外形状を変化させずに保持することが可能である。さらにレンズ50は、剛性外表面51間に設けられた可撓性膜(またはダイヤフラム)54と、表面51上に膜54を支持する1対の壁57を含む。さらに膜54と、壁57の一方と、剛性外表面51の一方とによって規定される第1のキャビティ58内に、低屈折率の第1の流体媒体52が含まれており、膜54と、壁57の他方と、剛性外表面51の他方とによって規定される第2のキャビティ59内に、高屈折率の第2の流体媒体53が含まれている。さらにレンズ50は、壁57内を延びて第1および第2のキャビティ58および59を流体レザバー(図5を参照のこと)に連通させる第1および第2のチャネル対55および56を含む。別の実施形態では、チャネル55、56は、壁57ではなく表面51を貫通してもよい。さらに図4aでは、キャビティ58、59にそれぞれ連通するチャネル対55、56があるが、別の実施形態では、キャビティの一方または両方に対して1つのチャネルだけでよい場合もあり、2より多いチャネルがある場合もある(他の場合には、2つのキャビティのうち一方だけが1以上のチャネルによってアクセス可能なものもある)。
【0031】
レンズ50は、第1および第2の流体媒体52、53の圧力に応じて、図2aの凸レンズ1または図2bの凹レンズ2として用いることができる。第1の流体媒体52の圧力が第2の流体媒体53の圧力よりも高い場合、膜54はキャビティ59方向に屈曲し、装置は近視用の凹レンズとして挙動する。2つのチャンバ間の圧力差が逆であれば、レンズは遠視用の凸レンズとして挙動する。流体キャビティ58、59の各々内の圧力は、流れがチャネル55、56を介してキャビティに出入りする圧力、方向および速度を決定する1以上の機械または電子機械アクチュエータによって制御することができる。膜54の曲率は、キャビティ58、59内の圧力差(及びおそらく膜自体の特性)によって決定される。
【0032】
レンズ50の外形状は、第1および第2のキャビティ58、59内の第1および第2の流体媒体52、53間の圧力差の特定の大きさ/正負にかかわらず、さらに大気圧にかかわらず、変化しない。なぜならレンズ50の外形状は剛性外表面51によって規定されているからである。従って、図3aおよび図3bのレンズ設計とは対照的に、図4aのレンズ50は凹構造を達成するために負の圧力を維持する必要がない。そのため構造を気密に形成する必要がない。空気の粘度と液体の粘度との間には多オーダー分の差異があるため、気密構造よりも漏れのない構造を達成する方がはるかに容易である。最後に、膜54の曲率を決定するのは流体圧力の差であるため、レンズ特性は、両方の流体媒体52、53に同等に付与される大気圧には依存しない。他方、温度変化は、熱光学効果によって媒体の屈折率を微量だけ変化させ、眼鏡5に気づかないほどの影響を与える。
【0033】
図4bに示すレンズ60は、2つの透明剛性外表面61と、外表面61間に設けられた2枚の可撓性膜62と、外表面61上に膜62を支持する3つの壁68とを含む。壁の1つは2枚の膜の間に位置し、他の壁は2膜の膜と他の2つの外表面との間に位置する。外表面61と膜62と壁68とが3つのキャビティを規定する。キャビティの1つは膜間の内部キャビティ70であり、他の2つのキャビティは膜の反対側の外キャビティ69である。壁68と、膜62と、2つの外表面61とに規定される外キャビティ69に低屈折率流体63が供給されており、壁68と2枚の膜62とに規定される内キャビティ70に高屈折率流体64が供給されている。3つの流体チャネル65、66および67(またはチャネル対またはチャネル組)はそれぞれ、対応するキャビティ69および70を流体レザバー(図5を参照のこと)に連通させる。流体レザバーは2つ(例えば1つは高屈折率流体用で1つは低屈折率流体用)または3つ(各キャビティに対して1つずつ)設けられてもよい。
【0034】
高屈折率流体64の圧力が低屈折率流体63の圧力よりも高い場合、レンズ60は遠視用凸レンズとして挙動する。しかし圧力差が逆になると、レンズは近視用凹レンズとして挙動する。レンズ60はレンズ50同様、剛性外表面61を有しているため、安定性、信頼性および性能の面でレンズ50と同じ利点を有する。別の実施形態では、高屈折率流体が外キャビティ69内にあって低屈折率流体が内キャビティ70にあってもよい。あるいはキャビティの各々が同一の屈折率を有する流体、または互いに異なる屈折率を有する流体を含んでいてもよい。
【0035】
図5は、流体適応レンズの流体圧力を制御する流圧回路71の一例を示す。この流体適応レンズは、例えば図3aおよび図3bのレンズ36、46の一方である。図示するように、流圧回路71は、第1のバルブ11を介してレンズ36/46のチャネル39/49の一方に連通している流体レザバー2を含む。さらに流体レザバー2はミニポンプ3と第2のバルブ13とを介してレンズ36/46のチャネル39/49の他方に連通している。ミニポンプ3(及びおそらくバルブ11、13)は電気回路4によって制御されている。さらに圧力センサ9が、バルブ11とレンズ36/46の接続部に連結されており、レンズ内の圧力を検知可能としている。電気回路4のコマンドに基づいて、バルブ13が開状態である場合に、ミニポンプ3はレザバー2からレンズ36/46に流体を汲み上げるように、またはレンズからレザバーに流体を戻すように動作することができる。バルブ11が開状態か閉状態かによっても、流体はレンズからレザバーに(又はおそらく反対方向にも)進むことができる。
【0036】
流圧回路71を制御する電気回路4は様々な形態を取り得、例えば、マイクロプロセッサ、プログラマブル論理装置、ハードワイヤード回路、ソフトウェアでプログラムされたコンピュータ化装置などであってもよい。電気回路4は、予めプログラムされた命令に基づき、または外部ソースから受け取ったコマンドに応答して(例えば、ユーザが押したプッシュボタン、受け取った無線信号、および他の信号に応答して)動作することができる。図示する実施形態では、電気回路4は、レンズ36/46内の実際の圧力に関して圧力センサ9からフィードバック情報を受け取り、フィードバック情報に基づいて動作することができる。さらにミニポンプまたはアクチュエータ3は、様々な形態を取ってもよいし、様々な他のポンプ機構に置換されてもよい。ミニポンプまたはアクチュエータ3は例えば、蠕動ポンプ、小型フレーム搭載ポンプ、圧電アクチュエータ、微小電気機械システム(MEMS)アクチュエータ、電磁アクチュエータ、または調整可能集積マイクロポンプであってもよい。調整可能集積マイクロポンプは、2004年11月5日に出願された「集積マイクロポンプを有する調整可能流体レンズ」という名称の米国仮特許出願第60/625,419号(参照することにより本明細書に組み込まれる)に開示されている。さらにレンズ36/46内の圧力はテフロン(登録商標)コーティングした止めねじによっても調整することができる。全体回路71は電池または他の手段(例えば線パワー、ソーラーパワー)でパワーを供給されている。
【0037】
流圧回路71をレンズ36、46の一方と共に示しているが、このタイプの流圧回路または複数のこのような回路は図4aおよび図4bのレンズ50、60または他の流体適応レンズと関連づけて用いることもできる。例えば、2つの流圧回路71を、2つのキャビティを有するレンズ50に関連づけて用いることもできるし、2つまたは3つの流体回路71を、3つのキャビティを有するレンズ60と関連づけて用いることもできる。流圧回路71は単なる例にすぎず、本発明は様々なこのような回路またはレンズ36/46内の流体媒体の圧力を調整することができる他の機構のいずれをも含む。例えばある実施形態では、レンズ36/46のキャビティをレザバー2に連通させる2つのバルブおよびチャネルを用いる必要はなく、レンズに対する流入口および流出口を形成する1つのチャネルのみ、および/または1つのバルブが必要である場合もある。
【0038】
図6のフローチャート73は、図3aおよび図3bのレンズ36、46などの流体適応レンズを用いる流圧回路(例えば図5の流圧回路71)を製造するために用いることができる手順の一例の工程を示す。同様の手順を用いて、図4aおよび図4bに示すような流体適応レンズを制御する流圧回路を製造することができる。図示するように、プロセスを開始すると第1のステップ23で、プラスチックポリマー材料(例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)またはポリエステル)を用いて端部の開いたキャビティを形成する。キャビティの典型的な寸法は、直径が約1ミリメートル〜数センチメートルの範囲であり、高さが約1/10ミリメートル〜数ミリメートルの範囲である。キャビティを規定する表面は、図3aおよび図3bに示す剛性外表面31/41および壁37/47の両方を含むと理解される。キャビティは主にプラスチックポリマー材料により形成されるが、キャビティ表面(キャビティ表面のうち、特に外表面31/41に対応する部分)の剛性はプラスチックポリマー材料に薄い(例えば150 μm)ガラススライドを接着することにより補強することができる。
【0039】
第2のステップ24で、再びPDMSを用いて薄いプラスチックポリマー膜を形成する。膜は可撓性(透過性ではないが)であり、そのため屈折率の異なる様々な流体媒体が設けられた領域を分離する可撓性ダイヤフラムとして用いることができる。膜の厚みは典型的には、約30〜100μmのオーダーである。各キャビティおよび膜は、ソフトリソグラフィプロセスを用いて形成することが可能である。ソフトリソグラフィプロセスは、Y. XiaおよびG. M. Whitesidesによる「ソフトリソグラフィ」(Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 37, 550-575 (1998))に記載されている。上記論文は、参照することにより本明細書に組み込まれる。次いで第3のステップ25において、ステップ24で形成した膜をステップ23で形成したキャビティに接着することにより、閉キャビティ/チャンバを形成する。接着は酸素プラズマ表面活性化プロセスにより達成することができる。酸素プラズマ表面活性化プロセスは、B. H. Joらによる「ポリジメチルシロキサン(PDMS)エラストマーによる3次元マイクロチャネルの形成」(J. Microelectromech. Syst. 9, 76-81 (2000))に記載されている。上記論文は、参照することにより本明細書に組み込まれる。大量生産する場合には、標準的工業プロセス(例えば射出成形およびダイキャスティング)を用いてこのようなレンズを製造することもできる。
【0040】
その後第4のステップ26において、レンズ36/46の壁/側部に沿って1以上のチャネル39/49を形成し、閉キャビティに流体媒体を出入りさせる流入口および流出口とする。絶対必要というわけではないが、典型的には1キャビティにつき2つのチャネルがある。一方はキャビティ内の流体圧力が増加しつつある場合の流体流入口を構成し、他方は流体圧力が減少しつつある場合の流体流出口を構成する。このようなチャネルは典型的にはレンズ36/46の壁に形成されるが、キャビティの他の表面、極端な場合には膜に形成されてもよい。さらに第5および第6のステップ27および28のそれぞれにおいて、1以上のチャネルを流体レザバーと作動コンポーネントとに連通させる。上記のように、レザバーは流体貯蔵部として作用する。作動コンポーネントは例えば図5に示すミニポンプ3と、バルブ11および13と、電気回路4とを含み得、流体をレザバーからキャビティへ、またはその逆方向に供給する。最後に第7のステップ29において、流体媒体をレザバーからキャビティへ導入する。これで流圧回路が完成し、その後レンズを含む流体回路を図1に示すような眼鏡の1対のフレームに取り付ける。
【0041】
図6は図3a、図3bおよび図5に示すような1つのキャビティを有する流体適応レンズを制御する流圧回路の形成に向けられているが、このプロセスは、図4aおよび図4bに示すようなレンズと、このようなレンズの動作を制御する対応流体回路とを形成するように容易に変更することができる。例えばレンズ50は、図6のプロセスに加えて、ステップ23で第2のキャビティを形成し、ステップ25で膜のうち第1のキャビティに取り付けられている側とは反対側を第2のキャビティに取り付けることにより形成することができる。さらに、レンズ50の動作を制御する流圧回路の形成は、ステップ26で第2のキャビティ内に追加のチャネルを形成すること、ステップ27および28で追加のレザバーと作動エレメントを連通させること、並びにステップ29で第2の流体媒体を導入することを含む。
【0042】
図4bに示すレンズは3つのキャビティを有し、そのうちの2つは2枚の膜62の間に設けられている。このレンズの場合も同様に、図6のプロセスをさらに修正して追加のステップを含むようにしてもよい。追加のステップでは、(1)2枚の膜(典型的には壁によって分離されている)の間に中間キャビティを形成し、(2)その後2枚の膜を外キャビティに取り付け、そして(3)チャネルの適切な形成、レザバーと作動コンポーネントへの連通、および流体媒体の導入を達成する。さらに述べると典型的には、複数のキャビティがある場合、異なる屈折率を有する少なくとも2つの異なる流体媒体が、対応する別々のレザバーから別々のキャビティに導入される。流体媒体としては様々なもののうち任意のものを用いることができる。例えば、一方の媒体が屈折率1.3の水(例えば脱イオン化水)であり、他方の媒体が屈折率約1.6の油であってもよい。あるいは空気などの気体媒体を含む他の媒体も用いることができる。別の実施形態では、組合せステップ25の前にチャネルを形成してもよい。
【0043】
図2a〜図4b(特に図4aおよび図4b)を参照して上述したような流体適応レンズを眼鏡に用いることにより、多くの利点が得られる。流体対応レンズ(および関連する流圧回路)は同一ユニットとして大量生産することができ、個々のレンズ各々の矯正力は製造プロセスが完了した後に設定される。そのため製造の観点から見ると、上記設計により基本的に低コストの解決が得られる。さらに流体適応レンズの矯正力は検眼士によって決定されてもよいが、眼鏡の着用者自身によっても動的に調整することができる。これにより、眼鏡の新しい処方を得るために眼鏡の着用者が検眼士を訪れなければならない頻度が大幅に低減する。最低でも、新しい処方の眼鏡を手に入れることに関連する時間とコストが大幅に低減する。なぜなら着用者が目の検査のために検眼士を訪れた場合、検眼士は、新しい眼鏡を注文するのではなく、単に着用者が現在着用している眼鏡を「調整する」だけでよいからである。
【0044】
さらに眼鏡を交換する場合でも、患者は調整可能眼鏡の使用による利益を得る。現在用いている眼鏡に調整可能性があるため、患者は新しい眼鏡を待っている間に劣化した視力に不便を感じなくてもよい。さらに、流体適応レンズの矯正力は広範囲に亘って連続的に変化するため、これらのレンズを用いることによって、検眼士は、単に一連の規格レンズの中から着用者のニーズに「最も近く適合する」レンズを選択するのではなく、よりきっちりと眼鏡の着用者のニーズに合致するレンズを提供することができる。実際、流体適応レンズは、検眼士が顧客の処方を決定する際に用いる固体レンズセットの代わりに、より目盛りの多い代替物として作用し、検眼士がより正確な処方を提供することを可能にし得る。従って、流体適応レンズは検眼士の検査装置にも用いることができる。さらに流体適応レンズは二焦点レンズ(または多焦点レンズ)を必要とする人々のために、外見上望ましくない影響を排除することができる。このような人々は、二焦点レンズを用いるのではなく、単に1対の眼鏡を着用すればよく、この眼鏡の光学特性が、環境による必要性に応じて、例えば眼鏡の「ディップスイッチ」を裏返すことにより変更可能なのである。
【0045】
図4aに示す流体適応レンズ50の調整力を推定するために、レンズの直径を20ミリメートルとする。人の瞳の直径は太陽光線下における約2ミリメートルから暗所における8ミリメートルまで変化するのに対し、この流体適応レンズの直径は眼鏡用として十分大きい。さらに流体適応レンズ50の調整力範囲を推定するために、低屈折率媒体が屈折率1の空気であり、高屈折率媒体が屈折率1.333の水であるとする。本発明者らは、光線追跡シミュレーションプログラムまたは分析的解決用の薄肉レンズ近似を用いて、上記流体適応レンズの最大正パワーと最大負パワーはそれぞれ12.8D(ジオプター)および-12.8Dであることを発見した。従って適応矯正レンズの総調整範囲は-12.8D〜12.8Dであり、これは遠視の未矯正視力である0.017分-1と近視の未矯正視力である0.022分-1に対応する。
【0046】
さらに、高屈折率媒体としてシリコーンオイル(屈折率:約1.5)を用い、低屈折率媒体として水を用いた場合、このような適応レンズの総調整力範囲は6.4D〜-6.4Dであり、これは遠視の未矯正視力である0.036分-1と近視の未矯正視力である0.042分-1に対応する。さらに、高屈折率媒体としてシリコーンオイルを用い、低屈折率媒体として空気を用いた場合、このような適応レンズの総調整力範囲は19.2D〜-19.2Dであり、これは遠視の未矯正視力である0.010分-1と近視の未矯正視力である0.016分-1に対応する。これらの推定値は図4aのレンズ50のような流体適応レンズに関するが、他のタイプの流体適応レンズ(例えば、3つのキャビティ63、64を有する図4bのレンズ60)の場合の対応する推定値も容易に決定することができる。さらに、シリコーンオイル、水および空気に代えて、様々な屈折率を有する様々な流体を用いることができ、この場合、レンズは様々な光学特性を呈することができる。このような光学特性は幾何光学の原理に基づいて容易に分析することができる。同様に、レンズの剛性外表面、壁、および可撓性膜を形成するために用いる特定の材料も、様々なプラスチック、アクリルおよび他の材料を含み得、実施形態ごとに様々であり得る。
【0047】
実験による観察から、流体適応レンズの他の性能局面もいくつか判明した。特に、流体適応レンズは、レンズ内の流体圧力に応じた焦点距離、パワー、視野、F番号および開口率(NA)の各々に対する動的な制御を可能にするということが判明した。さらに、流体適応レンズが提供する像の質が膜の厚みに依存していることは明白ではないことも判明した。概して焦点距離がある距離を超えて増加して流体の圧力が低くなる(この結果、特に重力が膜の形状に無視できない影響を与える)と、解像度および像の質が劣化する。この問題は、より堅い膜を用いることにより補正することができるが、消費電力が増大し、ミニポンプおよびアクチュエータに最大の電力が必要となるという犠牲を伴う。概して円形のレンズを用いると仮定すると、膜は(屈曲していないために平坦である場合を除いて)、中央近傍はいくらか平坦ではあるが概して球状となる傾向がある。60 μmのPDMS膜で覆われ且つ薄い150μmのガラススライドに接着されたPDMS流体チャンバを有する少なくとも1つの実験的流体適応レンズの場合、レンズの焦点距離とレンズ内の流体圧力との関係は以下のように決定された:Ln(f) = -0.4859 Ln(P) + 7.9069。
【0048】
図7に示す本発明のある実施形態によると、複数のレンズを必要とする装置に2以上の流体適応レンズを用いることができる。図7〜図16は流体適応レンズ対を用いてズームレンズシステム(特に小型の電子装置または他の装置に設けることができるズームレンズシステム)を構成する様々な形態に関する。しかし本発明は、2より多いレンズを用いる多レンズシステム、1以上のレンズが流体適応レンズであり他のレンズが従来の固体(または他のタイプの)レンズであるレンズシステム、およびズームレンズシステムによるズーム機能の他に、又はこれに加えて、他の機能を提供するレンズシステムに関する、他の実施形態を含む。
【0049】
特に図7は、携帯電話79などの小型電子装置に設けることに適した2レンズ光学ズームシステム78を模式的に簡略化して示している。図示するように、ズームシステム78は、フロントレンズ72(物体近傍)とバックレンズ74(物体の像近傍)とを含み、これらは一定の距離(「レンズスペーシング」と呼ぶ)dだけ離れている。典型的にはレンズ72と74との間に光学媒体76が設けられている。実施形態によっては、2枚のレンズ72、74間の媒体76は様々な光学的透過性材料のうち任意のものであってよい。光学的透過性材料は例えば、空気、ガラス、ポリマー、または興味の対象である波長において透明である任意の材料を含む。簡略化のために、レンズ72および74は共に、分析を行う間中、薄肉レンズ近似が適用できるほど薄いと仮定するが、本発明はこれに限られない。レンズ72、74は各々、撮像距離l1およびl2を有し、後者が固定されている。ズームは、レンズ72および74の焦点距離f1およびf2を変化させることにより達成される(2レンズ光学ズームシステム78の特性を述べるために用いる、これら及び他の記号/変数は図7に示す)。
【0050】
レンズ分析の慣習に従って、レンズまたはレンズシステムの変数Φを、レンズまたはレンズシステムのパワーと定義する。パワーはさらに、レンズまたはレンズシステムの焦点距離fの逆数(反数)に等しい。従って、レンズ72、74の各々は、それ自体のΦ値(例えばそれぞれΦ1およびΦ2)を有しているが、2レンズ光学ズームシステム78にとって特に関心を呼ぶのはシステム全体のパワーΦτである。この量Φτは、レンズ72、74それぞれのパワーΦ1およびΦ2と他のパラメータに応じて以下のように決定される。
【0051】
【数1】

【0052】
【数2】

【0053】
式(1)は、ある物体距離および像面距離(それぞれl1およびl2)並びにあるレンズスペーシングdが与えられた場合、第2のレンズ74のパワーΦ2(およびレンズ74の焦点距離f2)は、第1のレンズ72のパワーΦ1(およびレンズ72の焦点距離f1)によって一意に決定されることを示している。さらに式(1)および(2)とにより、ある物体共役が与えられた場合、この2レンズシステム全体のパワー(Φτ)は、両レンズのパワーΦ1およびΦ2(あるいは両レンズの焦点距離f1およびf2)を変化させることにより調整できることが示されている。これに比べて、固定焦点距離を有する従来のレンズ(例えば固体レンズ)を用いた設計は、システムのパワーを調整するにはレンズスペーシングdと像面距離l2とを変化させることに依存しなければならない。ズームシステムの価値を示すパラメータであるズーム率(ZR)は、達成可能な最大パワーと達成可能な最小パワーとの割合(例えば、ZR = Φmax/Φmin、共にΦτの値である)として規定される。式(1)および式(2)から、所与の物体距離および像面距離に対して高いズーム率を達成するためには、できるだけ焦点距離を変化させなければならないことが明らかである。これらの概念および結論は、2より多いレンズを有するズームシステムにも適用される。
【0054】
焦点距離を変化させることによってズームを達成するという概念は、原則的には任意のタイプの流体適応レンズを用いて適用できるが、これまで実際に使用可能なほど十分に広い調整範囲を有する調整可能レンズまたは適応レンズはこれまで報告されていない。例えば、液晶適応レンズでこれまで示された最短焦点距離は、約5 mmのレンズ口径に対して約200 mmであり、これは約40のF番号に対応し、認知可能なズーム効果を得るには不十分である。理論的分析および光線追跡シミュレーションのいずれによっても、高度に有効なズームシステムが達成できるのは、レンズの焦点距離がレンズ口径よりはるかに大きい距離から口径に匹敵する又は口径より短い距離まで連続的に調整可能であるときのみであることが示されている。換言すると、レンズ口径が5 mmの場合、数センチメートルから5 mm未満の範囲の焦点距離、すなわち現在最も進んだ液晶適応レンズで示された最短の焦点距離の40分の1の値を得る必要がある。
【0055】
さらに、レンズの焦点距離のみならず、レンズの「タイプ」が正レンズ(凸レンズのように正の焦点距離を有する)から負レンズ(凹レンズのように負の焦点距離を有する)に適応可能であるか反転可能であれば(あるいはその逆に適応可能であるか交換可能であれば)、より高いズーム率を得ることができる。液晶適応レンズでは(少なくとも現時点では)レンズのタイプを変更することはできない。
【0056】
本発明の一実施形態によると、2レンズ光学ズームシステム78(または同様のシステム)は、流体適応レンズを備えた場合、システム内でレンズ72と74とを分離するスペーシングdを変化させることなく、十分高いズーム率を達成することができる。流体適応レンズを用いることにより、レンズ72、74の焦点距離が広範囲に変化または調整できるだけでなく、レンズのタイプを変化または反転させることができる。図8〜図17は、レンズ72、74およびズームシステム78に用いることができる様々な構成と、これらのレンズの製造技術に関する。しかし本発明は、流体適応レンズによってズームシステムを形成する他の構成および製造技術をも含み、このことは当業者には明らかである。
【0057】
図8は、図7のレンズ72、74の各々として用いることができる流体適応レンズ75のコンポーネント構成の一例を示す。図示するように、レンズ75は変形可能/可撓性膜(またはダイヤフラム)81を含み、膜81はカップ形状構造体85の縁に連結されている。カップ形状構造体85は、流体媒体83を含む流体含有レンズキャビティ82を有する。カップ形状構造体85を貫通する1以上(この場合は2つ)のチャネル84が、流体媒体83がキャビティ82と流体レザバー(図示せず)との間で流入/流出することを可能にする。キャビティ82内の流体圧力が変化すると、膜81の曲率が変化し、従ってレンズ形状も変化する。これにより焦点距離が変わる。低ヤング率(例えば1 Mパスカル)を有するシリコーンベースの弾性材料(例えばPDMS)を膜81として用いることにより、レンズチャンバ内の圧力の変化(例えばチャンバ外の圧力に対して負の値から正の値に)に伴って、レンズ形状を大きく変化させることができ、さらにレンズタイプも変化(例えば凹状または平坦表面から凸状表面へ、またはその逆)させることができる。さらに広い焦点距離調整範囲を得るためには、レンズ媒体として高屈折率流体を用いるとよい。可視光のスペクトル範囲に亘って屈折率1.68を有する透明度の高い流体が市販されている。
【0058】
図9は、流体圧力に対するレンズ75の焦点距離の依存性の一例をレンズ媒体ごとに示している。レンズ媒体は、脱イオン水(n = 1.33)およびクロム酸ナトリウム(n = 1.50)であり、レンズ口径は20 mmとしている。図示するように、流体圧力を変化させることによってレンズ75の焦点距離を変化させることができるだけでなく、焦点距離値が負であるか正であるかによって示されるレンズのタイプ(例えば、凹/負であるか凸/正であるか)も流体圧力を変化させることによって変化させることができる。注目すべきは、レンズの口径より短い最短焦点距離(正のレンズの場合は、H2Oで20 mmでありクロム酸ナトリウムで14 mmであり、負のレンズの場合は、H2Oで-17 mmでありクロム酸ナトリウムで-6 mmである)が示されていることである。上記の分析が示すように、広い焦点距離調整範囲とレンズタイプ交換可能性との両方を有する流体適応レンズを1枚以上用いることにより、レンズ間のレンズスペーシングを変化させる必要なく高性能ズームシステムを達成することが可能になる。
【0059】
レンズ72およびズームシステム78の他のコンポーネントを形成し得る材料の選択が柔軟にできること、特に媒体76を形成するために用いることができる材料の選択が柔軟にできることにより、「集積ズームレンズ」の形成、およびズームシステム用のレンズおよびレンズアレイのウエハ規模の製造に関して多くの可能性が提供される。図10a〜図10dは、2レンズ光学ズームシステム78内で用いることができる例示的2レンズ構造体90を、どのようにして例示的なウエハ規模バッチプロセスで低コストで製造し得るかを模式的に示す。図10aに示すように、適切な厚みの透明基板(例えば、ガラス基板またはポリマー基板)91を選択し、それぞれキャビティ96でパターン化された2枚のウエハ92をまず形成する。キャビティ96を規定するパターンは、ソフトリソグラフィプロセス(図6を参照して上述した)または成形プロセスを用いて形成することができる。その後、図10bに示すように、2枚のウエハ92を基板91の互いに対向する側に、キャビティ96が基板とは逆方向の外方に開くように接着する。図ではウエハ92の各々が2つのキャビティ96を有するように示しているが、実施形態によってはウエハは1つのキャビティを有していてもよいし、2より多いキャビティを有していてもよい。
【0060】
さらに図10cに示すように、それぞれ片側に膜93が堆積された2枚のハンドルウエハ94を提供する。ハンドルウエハ94は、膜93をウエハ92の縁95に(この実施形態では、さらにキャビティ96内の中間点にも)接着する際に機械的支持を提供する。接着プロセスは酸素プラズマ表面活性化(図6を参照して上述した)または他の適切なプロセスを含み得る。最後に図10dに示すように、ハンドルウエハ94を膜93から除去すし、完成した2レンズ構造体90が残る。2レンズ構造体90は、物体に対向し得る第1の流体適応レンズ本体97と像面に対向し得る第2の流体適応レンズ本体98とを含む。バッチプロセスによって複数のこのような2レンズ構造体90が単一のウエハ(例えば、いくつかの基板91を含む単一のウエハ)上に同時に形成されるが、このような2レンズ構造体はウエハをダイシングすることにより個々の2レンズ構造体に分離することができる。個々の2レンズ構造体90が得られると、2レンズ構造体90を流体システム(例えば図5に示すような流体レザバーと作動コンポーネント)に連結し、選択したレンズ媒体でキャビティ96を充填することにより、2レンズ構造体90を2レンズ光学ズームシステム78に用いることができる。キャビティ96に対して流体媒体の流入/流出を可能にするチャネルは図10a〜図10dに示していないが、このようなチャネルが提供されている(例えば、ウエハ92の縁95内のスロットまたは凹部として)と理解されたい。
【0061】
図10a〜図10dに示すプロセスにおいて重要なことは、第1および第2の流体適応レンズ本体97、98を形成するために用いたキャビティ96が良好に整合すべきであることである。2レンズ構造体90のすべての材料は透明であり、パターンが大型のウエハ上に形成されているため、コンタクトアライナーまたは接着機の標準の固定具(例えば、Vermont州Waterbury CenterのKarl Suss America Inc.製造の接着機)を用いて数マイクロメートルの整合精度を日常的に達成することができる。キャビティ96の整合が適切であれば、整合性をそれほど気にすることなくシリコン製ハンドルウエハ94上のレンズ膜93をレンズチャンバに接着することができる。上記のプロセスは様々な適用に用いられるほぼいずれのサイズのズームレンズ(例えば、0.1 mm未満から〜数センチメートル)の製造をも可能にする。
【0062】
図10a〜図10dに示すプロセスにより、2レンズ光学ズームシステムが、大量低コストベースで製造することが可能になる。しかし本発明は、図10a〜図10dに示すもの以外でも、1以上の流体適応レンズを用いたズームシステムを形成するために用いることができる様々な他の構造および製造プロセスを含む。様々な技術を用いて様々な構成を製造することにより、様々な適用の要件を満たすために構造体90以外の様々な流体レンズ構造体を得ることができる。例えば図10a〜図10dの2レンズ構造体90はいくつかの適用には適しているが、膜93が外部環境に曝されているために他の適用には頑強性の面で不十分である場合もある(例えば図3a〜図3bのレンズ36、46の場合)。これとは対照的に図11〜図16は、ズームシステムの頑強性を向上させるためにレンズ膜が外部環境に直接曝されないことが望ましい装置、さらにはすべてのレンズ膜がズームシステムの本体内部に収容されていることが望ましい装置に設けるのに魅力的な更なるレンズ構造体の例を示す。
【0063】
図11、図12aおよび図12bは、図10a〜図10dの構造体90よりも機械的頑強性に優れた2レンズ光学ズームシステムを構成するために、レンズ72、74のいずれかとして用いることができる更なる流体適応レンズ構造体100、110および120を示す。図11は特に、剛性材料から形成された2つの外表面101と、外表面101間に設けられて剛性壁103によって支持された可撓性膜102とを含むレンズ構造体100を示す。外表面101と、膜102と、壁103とが、第1および第2の内部キャビティ105および106を取り囲み規定する。壁103はさらに、外表面101と膜102との間に形成された第1および第2の内部キャビティ105、106を、対応する流体レザバー(または同じ1つのレザバーであってもよい)および作動コンポーネント(図示せず)に連通させ得る流体チャネル104を含む。流体レザバーは、第1および第2の流体媒体107、108を、対応するキャビティ105および106に供給する。第1の流体媒体107は典型的には(必ずしも必要ではないが)第2の流体媒体108とは異なる屈折率を有する。例えば、第1の流体媒体の屈折率は第2の流体媒体のそれよりも低くてもよい。
【0064】
図12aおよび図12bのレンズ構造体110および120各々は、1対の剛性外表面112間に設けられ壁113によって支持される1対の可撓性膜111を含む。可撓性膜111間に内部キャビティ114があり、各膜とこれに隣接し対応する剛性外表面112との間には、それぞれ外部キャビティ115が規定されている。壁113は内部チャネル116および外部チャネル117を含み、これらはそれぞれ流体媒体が外部キャビティ115および内部キャビティ114に出入りすることを可能にする。必ずしも必要ではないが典型的には、外部キャビティ115が同一の流体媒体を受け入れる一方で、内部キャビティ114は外部キャビティ115に供給されるものとは異なる流体媒体を受け入れる。特に図12aのレンズ構造体110では、屈折率の低い第1の流体媒体118が外部キャビティ115に供給され、屈折率の高い第2の流体媒体119が内部キャビティ114に供給される。対照的に図12bのレンズ構造体120では、屈折率の低い第1の流体媒体118が内部キャビティ114に供給され、屈折率の高い第2の流体媒体119が外部キャビティ115に供給される。
【0065】
図11、図12aおよび図12bに示す流体適応レンズ構造体100、110および120は各々、1枚または2枚の膜によって分離された2つの媒体を含む。膜は、媒体含有キャビティ間の圧力差により変形可能である。例えば、高屈折率媒体キャビティの圧力が低屈折率媒体キャビティの圧力よりも高い場合、膜は低屈折率側に屈曲して実効的凸レンズを形成する。逆に低屈折率媒体キャビティの圧力が高い場合、膜は高屈折率側に屈曲して実効的凹レンズを形成する。従ってレンズ構造体の膜曲率を動的に制御することにより、両タイプの流体適応レンズ構造体(負であれ正であれ)および流体適応レンズ構造体の焦点距離を変更/調整することができる。レンズ構造体の膜曲率は、膜の互いに対向する側の2つのキャビティ間の流体圧力の差(及びおそらく膜自体の特性)によって決定される。レンズ構造体110および120の場合、膜曲率は、キャビティのうち2つではなく3つの各々の流体圧力によってある程度決定される。
【0066】
上記したように、図11、図12aおよび図12bのレンズ構造体100、110および120は剛性な外表面101および112を有しているため、構造体は外乱に対して弾力性が高い。このことは、望ましくない光の反射を抑えるためにこれらの表面に反射防止コーティングを施す必要が生じたときに製造プロセスを容易にする。さらに外表面101、112は剛性であるため、キャビティ105、106、114および115間の圧力差の大きさおよび正負が変化しても、レンズ構造体の外形状は変わらない。その結果、レンズ構造体100、110および120を容易に連結してズームシステム78などの2レンズ光学ズームシステムおよび多レンズ光学ズームシステム(2より多いレンズを有する)を形成し、ズーム率をさらに上昇させることができる。各流体チャンバ/キャビティ内の圧力は、上記の機械、圧電、電磁、電気機械、またはその他のアクチュエータにより制御することができ、各膜の曲率は、2つの隣接するチャンバ間の圧力差と膜の機械特性とによって決定される(所与のレンズが3つのチャンバを有する場合は、膜の位置は3つのチャンバすべての圧力の影響を受けることがある)。流体媒体107、108、118、119として様々な液体を用いることができるが、上記より空気(または他の気体)も低屈折率媒体として使用可能であることを理解されたい。空気が用いられる特別の場合には、低屈折率媒体用のキャビティを除去することにより、単一キャビティの流体適応レンズを構成することができる。
【0067】
図13aおよび図13b、図14a〜図14c、図15a〜図15dは、図11、図12aおよび図12bを参照して上記した流体適応レンズ構造体100、110および120の様々な対を用いて構成した例示的2レンズ構造体122、124、126、128、130、132、134、136および138を示す。図示するように、2レンズ構造体122〜138の各々は、レンズ構造体100、110または120の対を含み、これらはレンズ構造体対間に設けられた中間光学媒体140によって分離されている。光学媒体140は様々な形態を取り得、これらは図10a〜図10dの基板91に関して上記した形態を含む。媒体はレンズ構造体対を一体的に保持する構造的サポートを提供し、かつ単に透明な光導体媒体を供給することができる。より特定すると、2レンズ構造体122〜138は、以下のようにレンズ構造体100、110および120を組み合わせている。図13(a)の2レンズ構造体122は、レンズ構造体100を2つ同一方向に組み合わせ、一方のレンズ構造体では第2の流体媒体108の方が光導体媒体140に近く、他方のレンズ構造体では第1の流体媒体107の方が光導体媒体に近いようにしている。図13(b)の2レンズ構造体124は、レンズ構造体100を2つ逆方向に組み合わせ、各レンズ構造体100の同一の流体媒体(図示する例では、第1の流体媒体107)の方が光導体140に近いようにしている。
【0068】
図14(a)、図14(b)および図14(c)の2レンズ構造体126、128および130はそれぞれ、図12(a)のレンズ構造体110の2つの組合せ、図12(a)のレンズ構造体110と図12(b)のレンズ構造体120との組合せ、図12(b)のレンズ構造体120の2つの組合せである。図15(a)および図15(b)の2レンズ構造体132および134はそれぞれ、図11のレンズ構造体100と図12(a)のレンズ構造体110とを組み合わせている。図15(a)はレンズ構造体100を1つの方向に設けた状態を示しており、図15(b)はレンズ構造体100を図15(a)とは逆の方向に設けた状態を示している。図15(c)および図15(d)の2レンズ構造体136および138はそれぞれ、図11のレンズ構造体100と図12(b)のレンズ構造体120とを組み合わせている。図15(c)はレンズ構造体100を1つの方向に設けた状態を示しており、図15(d)はレンズ構造体100を図15(c)とは逆の方向に設けた状態を示している。図13aおよび図13b、図14a〜図14c並びに図15a〜図15dは、流体適応レンズ構造体100、110、120を組み合わせて、上記のシステム78のような2レンズ光学ズームシステムに設けることができる2レンズ構造体の構成例を示したものにすぎず、これらおよび他の流体適応レンズ構造体の他の構成も本発明の範囲内に含まれる。
【0069】
図16に、図10a〜図10dを参照して上記したプロセスによって設計および製造された機能的流体適応レンズ光学ズームシステムの性能特性を示す。このシステムは、高屈折率媒体として水を用い、口径20 mm、撮像距離50 mmである。図示するように、撮像距離50 mmで、最小拡大率に対する最大拡大率の比は、物体距離が250 mmの場合に4.6であり、物体距離が1000 mmの場合に4.2である。これは3を超えるズーム率を生み出す。
【0070】
より包括的には、ズームシステムのズーム率を推定するために、高屈折率媒体として水(n = 1.333)を用い低屈折率媒体として空気を用いたと仮定して、口径3 mmと1 mmのズームレンズを計算するとよい。ズームシステムの口径が3 mmで、レンズスペーシング(d)が8 mm、像面距離が5 mmの場合、得られるズーム率は4:1より大きい。このようなズームシステム最大視野(FoV)は約45度である。ズームシステムの口径が1 mmで、レンズスペーシングが8 mm、像面距離が1.5 mmの場合、得られるズーム率は5:1より大きい。このようなズームシステム最大視野は約17度である。所望であれば、レンズスペーシングが8 mm、像面距離が5 mmとすると、視野を犠牲にして10:1より大きいズーム率を得ることができる。最後に、調整可能レンズは調整可能な曲率半径を有する球状表面形状を有しているため、収差は固体球状レンズの場合とほぼ同じである。このような収差は、1以上の非球状表面によって補正することができ、これは光学システム設計の分野では広く行われている実務である。
【0071】
図10a〜図10dに示す製造プロセスは、図11、図12aおよび図12bに示すレンズ構造体100、110および120の構造、並びに図13aおよび図13b、図14a〜図14c並びに図15a〜図15dに示す2レンズ構造体の製造にそのまま適用可能ではないが、このようなレンズ構造体には多くの製造プロセスが可能である。例えば図17は、レンズ構造体100とレンズ構造体100の対を用いて2レンズ構造体122を1つ形成するプロセスを示すフローチャート140を示す。プロセスを開始すると第1のステップ141で、2枚の別々の透明基板上にキャビティを形成する。キャビティの直径は、適用に応じて数百マイクロメートルから数センチメートルまで変化させることができる。キャビティの厚み(深さ)は数百マイクロメートルから数ミリメートルの範囲であり得る。第2のステップ142で、薄いポリマー膜を形成する。膜厚みは典型的には、数十マイクロメートルから100 μmの範囲である。膜は圧力下において弾性的に挙動し、様々な屈折率の媒体が充填されるキャビティを分離する可撓性ダイヤフラムとして用いることができる。
【0072】
次いで第3のステップ143において、第2のステップで形成したポリマー膜の互いに対向する側を対応する基板に接着する。このとき、第1のステップで形成したキャビティが2つの閉キャビティを形成するようにする。膜の各側にキャビティが1つずつ形成される。その後第4のステップ144において、各キャビティの側壁に1以上のチャネルを形成し、流体媒体用の流入口/流出口を提供する(いくつかの実施形態では、所与のチャネルまたは孔が流入口および流出口の両方として作用し、他の実施形態では、流入口および流出口として別々のチャネルが提供される)。その後第5のステップ145において、流入口および流出口を1以上の流体レザバー(典型的にはこの場合、第1および第2の流体媒体に対して第1および第2のレザバー)に連通させる。さらに第6のステップ146において、1以上の作動コンポーネントを組み込んで、キャビティに対する流体媒体の流入および流出を制御する(例えば、流体媒体の圧力を変化させることによる)。上記のように、これらの作動コンポーネントはいずれの形態をも取ることができ、例えば、流体マイクロポンプ、圧電アクチュエータ、微小電気機械システム(MEMS)アクチュエータ、テフロン(登録商標)コーティングした止めねじ、または各流体チャンバの圧力を制御し設定する他の形態の作動コンポーネントであってもよい。
【0073】
次いで第7のステップ147において、異なる屈折率を有する2つの流体媒体をそれぞれ対応するキャビティに供給する。例えば、一方の媒体が屈折率1.3の水であり他方の媒体が屈折率約1.6の油であり得る(他の実施形態では、流体媒体の屈折率が同一であってもよい)。これにより1つのレンズ構造体100の構成が完成する。2レンズ構造体122を形成するためには、第8のステップ148に示すようにステップ141〜147をもう一度反復し、第2のレンズ構造体100を形成する。レンズ構造体100を2つ形成すると、第9のステップ149で2つのレンズ構造体を光学媒体に取り付けることができる。光学媒体は例えば図13aおよび図13bに示す2つの構造間の光学媒体140を構成する。上記のように光学媒体は例えば、ある厚みを有する固体透明基板(例えば、ガラスウエハまたはポリマー基板)であってもよい。こうして図13aおよび図13bの2レンズ構造体122、124のいずれかを形成するプロセスが完了する。
【0074】
図11のレンズ構造体100並びに図12aおよび図12bのレンズ構造体100および120を製造する他のプロセスも使用可能であり、図13aおよび図13b、図14a〜図14c並びに図15a〜図15dの2レンズ構造体122〜138を製造する他のプロセスも使用可能である。2レンズ構造体を用いた光学ズームシステム全体は、一旦構成されると、直径数ミリメートルで長さ約1センチメートルの円筒管の形態を取り得る。このような装置は、多くのハンドヘルドまたはポケットサイズの装置に容易に取り付けることができる。ズームシステムを市販の光学システムに新しく組み込むことができる小型アタッチメントとして形成することが可能であるため、ズーム機能を有する眼鏡またはゴーグルなど、さらに多くの製品が製造可能である。
【0075】
本発明は本明細書に含まれる実施形態および例示に限られるものではなく、請求の範囲に含まれる限り、実施形態の一部および様々な実施形態の要素の組合せを含む、実施形態の改変形態を含むことを特に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、流体適応レンズが用いられた1対の眼鏡を示す図である。
【図2a】図2aは、凸型流体適応レンズの断面図を模式的に簡略化して示す図である。
【図2b】図2bは、凹型流体適応レンズの断面図を模式的に簡略化して示す図である。
【図3a】図3aは、図2aの凸型流体適応レンズの一例を、関連する支持構造と共に示す詳細な断面図である。
【図3b】図3bは、図2bの凹型流体適応レンズの一例を、関連する支持構造と共に示す詳細な断面図である。
【図4a】図4aは、一定の外形状を維持する流体適応レンズの他の実施形態を示す断面図である。
【図4b】図4bは、一定の外形状を維持する流体適応レンズの他の実施形態を示す断面図である。
【図5】図5は、図2aおよび図2bに示すようなレンズに用いることができる流圧回路を模式的に簡略化して示す図である。
【図6】図6は、図3aおよび図3bに示すようなレンズを用いて、図5に示すような流体回路を形成する手順の例示的工程を示す簡略化フローチャートである。
【図7】図7は、少なくとも1つの流体適応レンズを用いたズームレンズシステムの模式図である。
【図8】図8は、広い焦点距離調整範囲を達成するために用いることができる例示的流体適応レンズの断面図である。
【図9】図9は、一実施形態において図8の流体適応レンズの焦点距離が流体圧力に応じて変化する様子を示すグラフである。
【図10a】図10aは、ズームレンズシステムに用いることができる流体適応レンズを用いてレンズ構造体を形成する例示的プロセスの一工程を模式的に示す図である。
【図10b】図10bは、ズームレンズシステムに用いることができる流体適応レンズを用いてレンズ構造体を形成する例示的プロセスの一工程を模式的に示す図である。
【図10c】図10cは、ズームレンズシステムに用いることができる流体適応レンズを用いてレンズ構造体を形成する例示的プロセスの一工程を模式的に示す図である。
【図10d】図10dは、ズームレンズシステムに用いることができる流体適応レンズを用いてレンズ構造体を形成する例示的プロセスの一工程を模式的に示す図である。
【図11】図11は、レンズ構造体の他の実施形態を示す断面図である。
【図12a】図12aは、レンズ構造体の他の実施形態を示す断面図である。
【図12b】図12bは、レンズ構造体の他の実施形態を示す断面図である。
【図13a】図13aは、図11に示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図13b】図13bは、図11に示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図14a】図14aは、図12aに示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図14b】図14bは、図12aおよび図12bに示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図14c】図14cは、図12bに示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図15a】図15aは、図11および図12aに示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図15b】図15bは、図11および図12aに示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図15c】図15cは、図11および図12bに示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図15d】図15dは、図11および図12bに示すレンズの組合せにより形成された2レンズ構造体の一実施形態を示す断面図である。
【図16】図16は、図13〜図15の実施形態の1つによる例示的ズームシステムによって提供される拡大率が、フロントレンズのパワーに応じて変化する様子を示すグラフである。
【図17】図17は、図13aおよび図13bに示すような2レンズ構造体を形成する手順の例示的工程を示す簡略化フローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ装置であって、
可撓性で光学的透過性である第1の隔壁と、
前記第1の隔壁に連結された第2の隔壁であって、少なくとも一部が光学的透過性であり、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁との間に第1のキャビティが形成される、第2の隔壁と、
前記キャビティ内に設けられ、光学的透過性である第1の流体媒体と、
前記流体媒体のパラメータを制御することができる第1のコンポーネントと、
を備え、
前記流体媒体の前記パラメータが変化すると、前記第1の隔壁が屈曲してレンズの光学特性が変化する、レンズ装置。
【請求項2】
前記第1の隔壁が、薄いポリマーと可撓性で光学的透過性の材料との少なくとも一方から形成された可撓性膜である、請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記第1の隔壁がポリジメチルシロキサンから形成されている、請求項2に記載のレンズ装置。
【請求項4】
第2の隔壁が、プラスチックと少なくとも部分的に光学的透過性である材料との少なくとも一方から形成された剛性隔壁である、請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項5】
前記第2の隔壁が、前記第1の流体媒体が前記キャビティに入るか前記キャビティから出るかの少なくとも一方を可能にする少なくとも1つのチャネルを含む、請求項4に記載のレンズ装置。
【請求項6】
前記第2の隔壁が、前記第1の隔壁が屈曲しない位置にあるときに前記第1の隔壁に実質的に平行に延びている第1の部分と、前記第1の部分に対して実質的に直交する方向に延びている第2の部分とを含む、請求項4に記載のレンズ装置。
【請求項7】
前記キャビティが実質的に円筒状であり、前記第2の部分が前記キャビティ周りの実質的に円筒状の壁を形成しており、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁の前記第1の部分とがそれぞれ前記キャビティの第1および第2の円筒形端部壁を形成している、請求項6に記載のレンズ装置。
【請求項8】
前記可撓性膜の第1の側が前記第1の流体媒体に隣接しており、前記可撓性膜の第2の側が第2の流体媒体に隣接している、請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項9】
前記第2の流体媒体が大気からの空気である、請求項8に記載のレンズ装置。
【請求項10】
前記第1の隔壁と、前記第2の隔壁と、前記第1の隔壁と前記第2の隔壁の少なくとも一方に連結された中央構造体とのうちの少なくとも1つに連結された第3の隔壁をさらに備えた、請求項8に記載のレンズ装置。
【請求項11】
前記第3の隔壁と前記第1の隔壁との間に第2のキャビティが形成され、前記第1の隔壁が実質的に前記第2の隔壁と前記第3の隔壁との間を延び、前記第2の流体媒体が前記第2のキャビティ内に設けられている、請求項10に記載のレンズ装置。
【請求項12】
前記第2の流体媒体の第2のパラメータを制御することができる第2のコンポーネントをさらに備え、前記第1および第2の装置の各々が、流体圧力および容量を制御する、小型搭載ポンプ、圧電アクチュエータ、微小電気機械システム(MEMS)アクチュエータ、およびテフロン(登録商標)コーティングしたねじからなる群より選択された少なくとも1つのアクチュエータを含む、請求項11に記載のレンズ装置。
【請求項13】
前記第3の隔壁が剛性であり、前記第2および第3の隔壁が実質的に前記第1の隔壁を取り囲んでおり、それにより前記第1の隔壁が外部環境から遮断されている、請求項11に記載のレンズ装置。
【請求項14】
前記第3の隔壁に連結された第4の隔壁をさらに備え、前記第3の隔壁と前記第4の隔壁との間に第3のキャビティが形成されており、前記第3の隔壁が実質的に前記第1の隔壁と前記第4の隔壁との間に延びており、前記第1の流体媒体、前記第2の流体媒体、および第3の流体媒体のうちの少なくとも1つが前記第3のキャビティ内に設けられている、請求項10に記載のレンズ装置。
【請求項15】
前記第3の隔壁が、中間壁である中間構造体により前記第1の隔壁に連結されており、前記第3の隔壁が可撓性膜である、請求項14に記載のレンズ装置。
【請求項16】
前記第1の隔壁および前記第3の隔壁の屈曲が、前記第1、第2および第3のキャビティ内での前記流体媒体の相対的圧力に依存する、請求項15に記載のレンズ装置。
【請求項17】
凸レンズ、凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凹凸レンズ、両凸レンズ、および両凹レンズのうちの少なくとも1つとして動作可能な、請求項15に記載のレンズ装置。
【請求項18】
凸レンズ、凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凹凸レンズ、両凸レンズ、および両凹レンズのうちの少なくとも2つとして動作可能な、請求項17に記載のレンズ装置。
【請求項19】
焦点距離範囲を達成するために前記コンポーネントによって制御可能な、請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項20】
請求項1に記載のレンズ装置を含む1組の眼鏡。
【請求項21】
請求項1に記載のレンズ装置を含むシステムであって、カメラ、顕微鏡、ビデオモニタ、ビデオレコーダ、光学記録機構、監視機構、検査機構、迅速撮像機構、対象追跡機構、コピー機、スキャナ、ズームレンズシステム、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント、コンピュータ、拡大鏡、および視力矯正装置のうちの少なくとも1つである、システム。
【請求項22】
多レンズ装置であって、
第1の流体適応レンズと、
第2の流体適応レンズと、
前記第1の流体適応レンズと前記第2の流体適応レンズとを連結する中間構造体であって、少なくとも部分的に光学的透過性である、中間構造体と、
を備えた多レンズ装置。
【請求項23】
前記第1および第2の流体適応レンズの各々が、少なくとも1つの可撓性膜と少なくとも1つの剛性表面とを含み、前記少なくとも1つの可撓性膜と前記少なくとも1つの剛性表面とが協働して、少なくとも1つの流体媒体が内部に設けられた少なくとも1つのキャビティを規定する、請求項22に記載の多レンズ装置。
【請求項24】
前記第1および第2の流体適応レンズの各々が、1または2の可撓性膜を含む、請求項23に記載の多レンズ装置。
【請求項25】
前記少なくとも1つの流体媒体の各々の少なくとも1つのパラメータが、流体の流れを供給する手段と流体圧力を変化させる手段との少なくとも一方により制御可能である、請求項22に記載の多レンズ装置。
【請求項26】
前記少なくとも1つのパラメータを制御することにより、レンズの焦点距離とレンズタイプとの少なくとも一方に影響を与える前記少なくとも1つの膜の屈曲が起こる、請求項25に記載の多レンズ装置。
【請求項27】
請求項22に記載の多レンズ装置を含む、ズームレンズシステム。
【請求項28】
請求項27に記載のズームレンズシステムを含むシステムであって、カメラ、顕微鏡、ビデオモニタ、ビデオレコーダ、光学記録機構、監視機構、検査機構、迅速撮像機構、対象追跡機構、コピー機、スキャナ、ズームレンズシステム、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント、コンピュータ、拡大鏡、および視力矯正装置のうちの少なくとも1つである、システム。
【請求項29】
流体適応レンズ装置を製造する方法であって、
第1のキャビティを有する第1の構造体を提供する工程であって、前記第1のキャビティが部分的にのみ前記第1の構造体によって取り囲まれる、工程と、
前記第1のキャビティを実質的に取り囲むように、第1の可撓性層と前記第1の構造体とを互いに連結させる工程と、
を含み、
前記第1のキャビティに第1の流体を充填することができ、それにより前記第1の構造体と前記第1の可撓性層と前記第1の流体とが相互作用して前記流体適応レンズ装置を構成する、方法。
【請求項30】
前記第1の構造体と前記第1の可撓性層との少なくとも一方内に、前記キャビティに対する前記第1の流体の連通を可能にする少なくとも1つのチャネルを形成する工程をさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つの流体レザバーと少なくとも1つのアクチュエータとを前記少なくとも1つのチャネルに連結して、前記第1のキャビティに対する前記第1の流体の連通を可能にする工程と、
前記第1の流体を前記第1のキャビティに連通させる工程と、
をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の構造体と前記第1の可撓性層の少なくとも一方が少なくとも1つのチャネルを含み、前記第1の可撓性層と前記第1の構造体とを互いに連結させることにより、前記少なくとも1つのチャネルを除いて前記第1のキャビティを取り囲む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記第1の構造を中間基板の第1の側に取り付ける工程と、
第2のレンズ装置を前記中間基板の第2の側に取り付ける工程と、
をさらに含み、
前記第1および第2のレンズ装置と前記中間基板とがズームレンズシステムとして共に動作し得る、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
第2のキャビティを有する第2の構造体を提供する工程であって、前記第2のキャビティが部分的にのみ前記第2の構造体によって取り囲まれる工程と、
前記第2のキャビティを実質的に取り囲むように、前記第1の可撓性層と前記第2の構造体とを互いに連結させる工程と、
を更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記追加の構造体が前記第2のキャビティと第3のキャビティとを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
レンズ装置を動作させる方法であって、
互いに連結された可撓性層と剛性構造体とを含んでキャビティを形成するレンズ構造体を提供する工程と、
前記キャビティ内の流体の流体圧力を調整して前記可撓性膜の屈曲を調整する工程と、
を含む、方法。
【請求項37】
前記流体圧力を調整する工程が、焦点距離の変化とレンズタイプの変化の少なくとも一方を引き起こす、請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14a】
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【図14b】
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【図14c】
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【図15a】
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【図15b】
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【図15c】
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【図15d】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2007−531912(P2007−531912A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506572(P2007−506572)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/010948
【国際公開番号】WO2006/011937
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(592034548)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・カリフォルニア (8)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】