説明

流入土砂予測方法、流入土砂予測システム、および流入土砂予測プログラム

【課題】流込み式水力発電所において、出水時における大量の土砂流入を抑止しつつ最大の発電電力量を得る、取水停止・再開のタイミングを決定する。
【解決手段】第1モデル式に上流域における雨量データを入力し所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1工程と、第2モデル式に第1モデル式により算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を入力し定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2工程と、取水口への土砂流入量と所定の限界値とを比較して土砂流入量が限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3工程とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流入土砂予測方法、流入土砂予測システム、および流入土砂予測プログラムに関するものであり、具体的には、流込み式水力発電所において、出水時における大量の土砂流入を抑止しつつ最大の発電電力量を得る、取水停止・再開のタイミングを決定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
流込み式水力発電所では、取水口から河川の水流を導水路に導いて発電に供している。河川の水流には土砂が含まれているため、取水口や取水ダム、排砂門といった取水施設の周辺に土砂堆積が生じやすい。そこで、こうした流れ込み式水力発電所の導水路にて土砂検出を行う装置や排砂門の運用方法に関する技術等が提案されている。
【0003】
例えば、水力発電所の導水路に流入する土砂を検出するための流入土砂検出装置であって、前記導水路に設置されている構造物に土砂が衝突したときに前記構造物に発生する加速度信号を検出する加速度検出手段、および前記加速度検出手段によって検出された加速度信号を処理して少なくとも流入土砂の有無および単位時間当たりに流入した土砂粒子数から土砂流入頻度、流入量を演算する演算手段を備えた、流入土砂検出装置(特許文献1参照)などが提案されている。
【0004】
また、各出水パターンの下流側水位変動に対する排砂門運用パターン毎の堆積土砂量のデータを取得する履歴解析工程と、下流側水位変動が所定基準以下で堆積土砂量が最小となる排砂門最適運用パターンを各出水パターン毎に特定し出水パターンと排砂門最適運用パターンとの対応テーブルを作成する対応テーブル作成工程と、実際の出水時における出水情報を対応テーブルに照合し出水パターンに応じた排砂門最適運用パターンを特定しこの排砂門最適運用パターンに基づいた排砂門の運用処理を実行する最適パターン特定工程とを実行する排砂門運用方法(特許文献2参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−68118号公報
【特許文献2】特開2008−174969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、流込み式水力発電所では、大出水時に取水を継続すると大量の土砂が取水口から導水路に向けて流入することがある。こうした土砂流入を防ぐため、出水時に取水を停止することがあるが、その際の判断基準が定まっておらず、運転停止が早すぎて発電量が低下する場合や、運転停止が遅すぎて土砂が大量に流入する場合がある。
そこで本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、流込み式水力発電所において、出水時における大量の土砂流入を抑止しつつ最大の発電電力量を得る、取水停止・再開のタイミングを決定する技術の提供を主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の流入土砂予測方法は、流れ込み式の水力発電所における流入土砂量の予測方法であって、以下の工程からなる。すなわち、取水河川の上流域における降雨に対し、所定時間後の取水口付近での河川水量および上流からの運搬土砂量を算定する第1モデル式に、所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力し、前記所定時刻から所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1工程と、所定時刻の取水口付近での河川水量、運搬土砂量、および取水口前の既存土砂堆積量の値に対し、所定時間後の取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2モデル式に、前記第1モデル式により算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を入力し、前記所定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2工程と、前記取水口への土砂流入量と所定の限界値とを比較して、前記土砂流入量が前記限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3工程とである。
【0008】
前記第1〜第3の各工程共に、これを実現するコンピュータプログラムは一般のパーソナルコンピュータ等で軽快に動作する規模のものであり、従来のように数値解析モデルを数十時間もかけて実行するといった手間や経費は不要となる。従って、上流域での降雨量データを取得してこれを第1工程に適用し、この第1工程の結果を第2工程に適用し、更に第3工程を実行するといった処理を、前記上流域での降雨量データが得られてすぐに実行でき、出水時において大量の土砂流入が生じる事態を事前に検知して、これを抑止することができる。このことは、取水口への大量の土砂流入が生じるまで出来るだけ取水を継続させることにつながり、ひいては流れ込み式水力発電所での発電電力量の最大化を図ることにつながる。
【0009】
なお、第3工程において、前記取水停止タイミングに合わせて、流れ込み式水力発電所の取水停止処理を行うとすれば好適である。この取水停止処理は、係員が取水口開閉装置に対して、取水口を閉じる指示を与えることで実行できる。或いは、流入土砂予測システム(コンピュータ)が、取水口開閉装置(流入土砂予測システムと通信可能に接続)に対して、取水口を閉じる指示を与えることで実行できる。
【0010】
また、前記取水停止処理の後、前記第1工程および第2工程を継続して実行し、ある時点の前記取水口への土砂流入量と所定の基準値とを比較し、前記土砂流入量が前記基準値を下回る時点を取水再開タイミングとして特定する第4工程を実行するとしても好適である。これによれば、単純に取水停止だけを行うのではなく、取水再開のタイミングも特定することができ、ひいては流れ込み式水力発電所での発電電力量の最大化を図ることにつながる。なお、前記第4工程において、前記取水再開タイミングに合わせて、流れ込み式水力発電所の取水再開処理を行うとすれば好適である。この取水再開処理は、係員が取水口開閉装置に対して、取水口を開く指示を与えることで実行できる。或いは、流入土砂予測システム(コンピュータ)が、取水口開閉装置(流入土砂予測システムと通信可能に接続)に対して、取水口を開く指示を与えることで実行できる。
【0011】
また、本発明の流入土砂予測システムは、流れ込み式の水力発電所における流入土砂量の予測を行うコンピュータシステムであり、例えば、流れ込み式水力発電所の管理を行うサーバ装置等が想定できる。この流入土砂予測システムは、コンピュータとして当然であるが、記憶装置と演算装置を備えている。
【0012】
こうした流入土砂予測システムは、取水河川の上流域における降雨に対し、所定時間後の取水口付近での河川水量および上流からの運搬土砂量を算定する第1モデル式と、所定時刻の取水口付近での河川水量、運搬土砂量、および取水口前の既存土砂堆積量の値に対し、所定時間後の取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2モデル式とを記憶する記憶装置を備える。
【0013】
また、前記流入土砂予測システムは、所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力インターフェイスで取得し、この雨量データを、前記記憶装置から読み出した第1モデル式に適用し、前記所定時刻から所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1工程と、前記第1工程で算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を、前記記憶装置から読み出した第2モデル式に適用し、前記所定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2工程と、前記取水口への土砂流入量と所定の限界値とを比較して、前記土砂流入量が前記限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3工程とを実行する演算装置とを備える。
【0014】
また、本発明の流入土砂予測プログラムは、取水河川の上流域における降雨に対し、所定時間後の取水口付近での河川水量および上流からの運搬土砂量を算定する第1モデル式と、所定時刻の取水口付近での河川水量、運搬土砂量、および取水口前の既存土砂堆積量の値に対し、所定時間後の取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2モデル式とを記憶する記憶装置と、演算装置とを備えて、流れ込み式の水力発電所における流入土砂量の予測を行うコンピュータに、以下のステップを実行させるプログラムである。
【0015】
すなわち、前記ステップとは、前記第1モデル式に、所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力し、前記所定時刻から所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1ステップと、前記第2モデル式に、前記第1モデル式により算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を入力し、前記所定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2ステップと、前記取水口への土砂流入量と所定の限界値とを比較して、前記土砂流入量が前記限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3ステップとである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流込み式水力発電所において、出水時における大量の土砂流入を抑止しつつ最大の発電電力量を得る、取水停止・再開のタイミングを決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の流入土砂予測システムのネットワーク構成を示す図である。
【図2】本実施形態における流入土砂予測方法の処理手順例を示す図である。
【図3】本実施形態における上流域モデルの水の流出予測方法(タンクモデル) を示す図である。
【図4】本実施形態におけるタンクモデルの係数決定例を示す図である。
【図5】本実施形態における数値解析による発電所付近の流量と全流砂量の関係を示す図である。
【図6】本実施形態における上流域モデルによる水と土砂の流出予測計算例を示す図である。
【図7】本実施形態における取水口周辺モデルの概要図(上流流入土砂の分配について)を示す図である。
【図8】本実施形態における取水口周辺を対象とした平面2次元数値解析結果(河床高の時間変化)を示す図である。
【図9】本実施形態におけるφin、φout、φdpの時間変化(数値解析結果)を示す図である。
【図10】本実施形態におけるφin、φout、φdpと取水口前面総堆積土砂量の関係を示す図である。
【図11】本実施形態におけるφin、φdpと取水口前面総堆積土砂量の関係を示す図である。
【図12】取水再開後の土砂流入量と前面総堆積土砂量の関係を示す図である。
【図13】本実施形態における上流域モデルと取水口付近モデルを組み合わせた予測シートの例を示す図である。
【図14】本実施形態における数値解析モデルに用いる数式群1を示す図である。
【図15】本実施形態における数値解析モデルに用いる数式群2を示す図である。
【図16】本実施形態における数値解析モデル(上流域)の計算結果例を示す図である。
【図17】本実施形態における数値解析モデルに用いる数式群3を示す図である。
【図18】本実施形態における数値解析モデルに用いる数式群4を示す図である。
【図19】本実施形態における水力発電所取水口周辺の流れ・河床変動と流入土砂の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
−−−流入土砂予測システム−−−
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態の流入土砂予測システム100を含むネットワーク構成図である。なお、ここでの流入土砂予測システム100の説明においては、本発明の流入土砂予測方法を流入土砂予測システム100が実行するものとして記述を行う。ただし、工法としての流入土砂予測方法(請求項1らに対応)も概念として当然に包含するものとする。
【0019】
本実施形態においては、図に示すように、実際の流れ込み式水力発電所5には発電用の取水を行う取水口6と、河川の水流を一部貯留して前記取水口6に取り込むための取水ダム7とが設置される。また前記取水ダム7の近くには、水流に乗って流下し、前記取水口6や取水ダム7の前に堆積する土砂8を適宜排出するための排砂門9が設置される。また、前記取水ダム7の上流側には、上流域の雨量を測定する雨量計200が設置される。なお、前記雨量計200は、ネットワーク160または流入土砂予測システム100の通信装置(後述のNIC107)を介して、流入土砂予測システム100に接続され、取水ダム上流側の雨量測定値をシステム側に提供する。
【0020】
一方、前記流入土砂予測システム100(以下、システム100)は、前記流れ込み式水力発電所5における流入土砂量の予測を行うコンピュータシステムであって、本発明の流入土砂予測方法を実行すべくハードディスクドライブ101などの記憶装置に格納されたプログラム102をRAM103(メモリ)に読み出し、演算装置たるCPU104により実行する。
【0021】
また、前記システム100は、コンピュータ装置が一般に備えている各種キーボードやボタン類などの入力インターフェイス105、ディスプレイなどの出力インターフェイス106、ならびに、雨量計200などとの間のデータ授受を担うNIC(Network Interface Card)などの通信装置107などを有している。
【0022】
前記システム100は、前記NIC107により、前記雨量計200と例えばインターネットやLANなどの各種ネットワーク160を介して接続し、データ授受を実行する。また、システム100は、フラッシュROM108と、各部を接続するバスを中継するブリッジ109と電源121を有する。なお、前記フラッシュROM108には、BIOS120が記憶されている。CPU104は、電源121の投入後、先ずフラッシュROM108にアクセスしてBIOS120を実行することにより、システム100のシステム構成を認識する。また、ハードディスクドライブ101には、各機能部やデータベース類の他に、OS118が記憶されている。このOS118は、CPU104がシステム100の各部101〜108を統括的に制御して、後述する各機能部を実行するためのプログラムである。CPU104は、BIOS120に従い、ハードディスクドライブ101からOS118をRAM103にロードして実行する。これにより、CPU104は、システム100の各部を統括的に制御する。
【0023】
続いて、前記システム100が、例えばプログラム102に基づき構成・保持する機能部(手段)につき説明を行う。なお、前記システム100は、第1モデル式および第2モデル式を記憶したモデルデータベース125をハードディスクドライブ101などの適宜な記憶装置に有しているものとする。このモデルデータベース125は、前記第1モデル式および第2モデル式を記憶したデータベースであり、例えば、式IDにモデル名、式データを関連づけたレコードの集合体となっている。
【0024】
前記システム100は、所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力インターフェイス105で取得(ないし前記通信装置107を介して雨量計200から取得)し、この雨量データを、前記記憶装置101から読み出した第1モデル式に適用し、前記所定時刻から所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1手段110を備える(第1工程に対応)。
【0025】
また、前記システム100は、前記第1手段110で算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を、前記記憶装置101から読み出した第2モデル式に適用し、前記所定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2手段111を備える(第2工程に対応)。
【0026】
また、前記システム100は、前記取水口への土砂流入量と所定の限界値(記憶手段101に予め記憶)とを比較して、前記土砂流入量が前記限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3手段112を備える(第3工程に対応)。
【0027】
なお、前記第3手段112が、前記取水停止タイミングに合わせて、流れ込み式水力発電所5の取水停止処理を行うとすれば好適である。この取水停止処理は、係員による取水口開閉装置に対しての取水口閉指示を入力インターフェース105で受けて、前記取水口開閉装置(当該システム100と通信可能に接続)に対して、取水口を閉じる指示を与えることで実行できる。
【0028】
また、前記システム100は、前記取水停止処理の後、前記第1手段110および第2手段111による処理を継続して実行し、ある時点の前記取水口への土砂流入量と所定の基準値(記憶手段101に予め記憶)とを比較し、前記土砂流入量が前記基準値を下回る時点を取水再開タイミングとして特定する第4手段113を備えるとすれば好適である(第4工程に対応)。なお、前記第4手段113は、前記取水再開タイミングに合わせて、流れ込み式水力発電所5の取水再開処理を行うとすれば好適である。この取水再開処理は、係員による取水口開閉装置に対しての取水口開指示を入力インターフェース105で受けて、前記取水口開閉装置(当該システム100と通信可能に接続)に対して、取水口を開く指示を与えることで実行できる。
【0029】
なお、これまで示したシステム100における各機能部110〜113は、RAMなどのメモリやHDD(Hard Disk Drive)などの適宜な記憶装置に格納したプログラムとして実現してもよいし、ハードウェアとして実現するとしてもよい。各機能部がプログラムとして実現されている場合、前記CPU104がプログラム実行に合わせて記憶装置101より該当プログラムをRAM103に読み出して、これを実行することとなる。
【0030】
或いは、雨量計200での測定データをシステム100に提供するために、雨量計200で出力した測定データに基づいて、作業員がシステム100の入力インターフェイス105を介して前記測定データの入力を行い、これによりシステム100が前記測定データを取得するとしてもよい。
【0031】
−−−流入土砂予測方法のメインフロー−−−
以下、本実施形態における流入土砂予測方法の実際手順について、図に基づき説明する。図2は本実施形態における流入土砂予測方法の処理手順例を示す図である。この例の場合、流入土砂予測方法に対応する各種工程を、前記システム100が前記RAM103に読み出して実行するプログラムにより前記第1〜第4の各手段を実現して実行する。なお、前記のプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0032】
まず、前記システム100の第1手段110は、所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力インターフェイス105で取得(ないし前記通信装置107を介して前記雨量計200から取得)する(s100)。また、前記第1手段110は、この雨量データを、前記記憶装置101から読み出した第1モデル式に適用し、前記所定時刻から所定時間(Δt)後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する。この第1手段110による算定処理のうち河川流量の算定については、例えば、タンクモデル(詳細は後述)によるΔt時間後の河川流量予測を実行する(s101)。また、前記第1手段110による算定処理のうち運搬土砂量の算定については、例えば、後述する式3によるΔt時間後の取水口地点全流砂量予測を実行する(s102)。
【0033】
また、前記システム100の第2手段111は、前記第1手段110で算定した河川水量および運搬土砂量と、既存土砂堆積量の値(取水口周辺に設置した土砂堆積量の監視装置からネットワーク160を介して取得、或いは取水口周辺に所在する係員からのデータ入力で取得)とを、前記記憶装置101から読み出した第2モデル式に適用し、前記所定時間(Δt)後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する。この第2手段111による算定処理では、例えば、現在の取水口前面の累積堆積土砂量から、後述する式5を用いてφinを計算し(s103)、現在の累積土砂流入量にΔt時間後までの土砂流入量値を加え、Δt時間後の取水口への土砂流入量を算定する(s104)。なお、取水口前面河道に流入した土砂(掃流砂と浮遊砂をあわせた全流砂量)は、取水口内に流入する土砂、取水口前面に堆積する土砂、およびダム下流へ流下する土砂に分かれるものと考え、流入土砂がこれらの3つに分配される割合を式4中のφin、φdp、φout、としている。従って、前記φinは、取水口前面河道に流入した土砂(掃流砂と浮遊砂をあわせた全流砂量)のうち取水口内に流入する土砂の割合を示している。
【0034】
また、前記システム100の第3手段112は、前記ステップs104までで算定した取水口6への土砂流入量と、取水停止基準流入量(記憶手段101に予め記憶した所定の限界値)とを比較する(s105)。この比較処理により、前記土砂流入量が前記取水停止基準流入量に達していれば(s105:YES)、前記第3手段112は、この時点を取水停止タイミングとして特定する。そして、前記第3手段112は、前記取水停止タイミングに合わせて、取水口6の開閉装置(当該システム100と前記ネットワーク160を介して通信可能に接続)に対し、取水口を閉じる指示を与え、流れ込み式水力発電所5の取水停止処理を行う(s106)。
【0035】
また、前記システム100の第4手段113は、前記ステップs106の取水停止処理の後、前記第1手段110および第2手段111による処理を継続して実行する。この場合、前記第4手段113は、現在の取水口前面累積堆積土砂量から式6を用いてφdpを計算する(s107)。前記φdpは、取水口前面河道に流入した土砂(掃流砂と浮遊砂をあわせた全流砂量)のうち取水口前面に堆積する土砂の割合である。また、φdpを計算した前記第4手段113は、現在の取水口前面累積堆積土砂量にΔt時間後までの堆積土砂量を加え、Δt時間後の取水口前面累積堆積土砂量を算定する(s108)。その後、前記第4手段113は、出水終了まで(s109:NO)、このステップs107、s108を繰り返し実行する。出水終了のタイミングについては、例えば、管理者が入力インターフェース105で出水終了指示を入力し、これを前記システム100が受信したタイミングであったり、或いは前記通信装置107を介して前記雨量計200などの適宜な監視装置から出水終了指示を取得したタイミングであったりする。
【0036】
その後、前記第4手段113は、出水終了を検知したら(s109:YES)、現在の取水口前面累積堆積土砂量(ステップs108までで算定済み)から、後述する式8を用いて取水再開後の土砂流入量を予測する(s110)。前記第4手段113は、ある時点(=取水再開後の所定時点)の前記取水口への土砂流入量と、土砂取除基準流入量(記憶手段101に予め記憶した所定基準値)とを比較する(s111)。
【0037】
ここで、前記土砂流入量が前記土砂取除基準流入量を下回れば(s111:NO)、前記第4手段113は、この時点を取水再開タイミングとして特定する。そして、前記第4手段113は、前記取水再開タイミングに合わせて、取水口6の開閉装置(当該システム100と前記ネットワーク160を介して通信可能に接続)に対し、取水口を開く指示を与え、流れ込み式水力発電所5の取水再開処理を行う。つまり、前記流れ込み式水力発電所5は取水停止状態から復帰し、通常の発電を再開する。また、前記第4手段113は、現在の土砂流入量,取水口前面累積堆積土砂量を次回出水のために記憶手段101に保存し(s116)、処理を終了する。
【0038】
他方、前記ステップs111での比較処理で、前記土砂流入量が前記土砂取除基準流入量を上回っていれば(s111:YES)、前記第4手段113は、例えば、取水口前の堆積土砂の除去指示を出力インターフェイス106に表示させるか、或いは前記NIC107を介して管理者等の端末に堆積土砂の除去指示を送信する(s112)。そして、現在の土砂流入量,取水口前面累積堆積土砂量を次回出水のために記憶手段101に保存し(s116)、処理を終了する。
【0039】
一方、前記ステップs105での比較処理で、前記土砂流入量が前記取水停止基準流入量に達していなければ(s105:NO)、前記第4手段113は、現在の取水口前面累積堆積土砂量から式6を用いてφdpを計算する(s113)。φdp、つまり取水口前面河道に流入した土砂(掃流砂と浮遊砂をあわせた全流砂量)のうち取水口前面に堆積する土砂の割合を算定するのである。また、前記第4手段113は、現在の取水口前面累積堆積土砂量にΔt時間後までの堆積土砂量を加え、Δt時間後の取水口前面累積堆積土砂量を算定する(s114)。その後、前記第4手段113は、出水終了時までは(s115:NO)、処理を前記s100に戻す。その後、前記第4手段113は、出水終了を検知したら(s115:YES)、現在の土砂流入量,取水口前面累積堆積土砂量を次回出水のために記憶手段101に保存し(s116)、処理を終了する。
【0040】
−−−第1モデル(上流域モデル)について−−−
続いて、前記第1手段110らが利用する第1モデル式について詳述する。この第1モデル式は、上流域モデルと称するモデルを河川上流域に想定して導いた数式群となる。この上流域モデルは、図3に示すようなタンクモデルであり、流域を縦に数段ならべたタンクで再現するものである(図3に示す例では3段タンクモデルであるが、4段タンクモデルでもよい)。通常、この3段のタンクモデルは上段タンクが表面流出、中段が中間流出、下段が地下水流出に対応付けされており、各タンク側面の流出孔からの流出が、河川への流出を表す(タンク底面の浸透孔からの流出は、下方帯水層への浸透を示す)。つまり、側面の流出孔から流出する水の合計Qが流出量(=河川水量)の値となる。
【0041】
このタンクモデルを前記上流域モデルとして採用した場合、河川上流域からの水の流出量は、上流域の雨量を入力条件として、図3中で示す各式(第1モデル式としてモデルデータベース125に格納)で推定できる。またここで、ある時刻tのタンク高さHa(t)、Hb(t)、Hc(t)が得られた場合、Δt時間後(例えば1時間後)のタンク高さHa(t+Δt)、Hb(t+Δt)、Hc(t+Δt)は以下の3式(これらをまとめて式1:第1モデル式としてモデルデータベース125に格納)で求められる。
Ha(t+Δt)=Ha(t)+r(t)−(Q1+Q2+qa)
Hb(t+Δt)=Hb(t)−(Q3+qb)
Hc(t+Δt)=Hc(t)−Q4
【0042】
また上記式1で得られたHa(t+Δt)、Hb(t+Δt)、Hc(t+Δt)から、以下の5式(これらをまとめて式2:第1モデル式としてモデルデータベース125に格納)で、Δt時間後の流出量を予測する。
Q1(t+Δt)=α1×(Ha(t+Δt)−Z1)
Q2(t+Δt)=α2×(Ha(t+Δt)−Z2)
Q3(t+Δt)=α3×(Hb(t+Δt)−Z3)
Q4(t+Δt)=α4× Hc(t+Δt)
Q(t+Δt)=(Q1(t+Δt)+Q2(t+Δt)+Q3(t+Δt+Q4(t+Δt))×Ab /3.6
【0043】
以上の計算により、現在時刻の雨量を入力することで、Δt時間後の流出量が計算できる。この計算を例えば毎正時事に繰り返すことで、洪水期間中に変化する雨量からΔt時間後の発電所取水口付近の流量Qが予測できる。
【0044】
なお、各式中のα1、α2、α3、α4、β1、β2は係数であり、流域毎に異なる値であるので、対象とする発電所流域ごとに設定する必要がある。ここでは、既知の雨量と出水量(=河川水量)の実測記録とから同定すればよい。例えば、ある出水で雨量の時系列データと河川水量の記録があるとき、上記の変数α1、α2、α3、α4、β1、β2を仮に与えた場合の計算結果の河川流量と実測の河川水量記録とを比較する。様々なα1、α2、α3、α4、β1、β2で計算を繰り返し、最も計算結果と実測結果との差異が少ない係数の値を採用する。
【0045】
例えば、ある発電所の雨量記録と出水記録を基に、図4に示す表1の係数の組合せ(パターンA〜C)で計算結果と実測結果とを比較すると図4下段のグラフg4のようになった。このグラフg4から、実測値と最も適合性が良い係数パターンは「係数パターンB」であると判定できる。実際には数多くの出水データから膨大な係数パターンで計算機による数値計算を実施し、誤差(実測値と計算値との差)の平均値が最も小さい係数パターンを採用する。
【0046】
以上のタンクモデルによる計算で、現在時刻の雨量を入力することで、Δt(例えば前記現在時刻から1時間後)における取水口付近での河川水量を予測することができる。なお、この部分の説明では、通常の3段タンクモデルの例を用いて説明したが、永井ら(長短期流出両用モデルの標準的定数について,農業土木学会論文集,No.180,pp.59-64, 1995.)による長短期併用のタンクモデルを用いても良い。この長短期併用のタンクモデルを用いた場合は、通常時は日雨量を入力し、出水時には時間雨量を入力することでより精度の高い取水口付近の河川水量の予測が可能となる。
【0047】
続いて、上記上流域モデルによる運搬土砂量(掃流砂量・浮遊砂量)の流出量予測について説明する。上述したタンクモデルで予測した河川水量をもとに、上流域から取水口付近に運ばれてくる浮遊砂と掃流砂の量を予測する。このモデルでは掃流砂量と浮遊砂量をあわせた全流砂量の以下の式3で推定する。
VTL=α×(Q)2 ・・・・・式3
ここに、VTL:発電所取水口付近に運ばれてくる全流砂量(m/s)である。ここでαは係数で、流域毎に異なる値であり、対象とする発電所流域ごとに設定する必要がある。しかし、掃流砂量に浮遊砂量を加えた全流砂量は実測が非常に難しいことから、水の流出と異なり実測データが無いことが多い。その場合は、上述のタンクモデルのように係数を実測値により同定することができない。
【0048】
そこで、上流域の河道網および土砂流出を再現できる数値解析モデル(1次元解析)を別途実施し、この結果を用いて前記係数αを決定する。この数値解析モデルは10分雨量を入力条件として、上流域の山地斜面からの水と土砂の流出、および流出した水と土砂が発電所取水口付近まで河川を流れていく過程を再現するものである。このモデルの精度は過去の出水と発電所流入土砂量との比較から確認されている。
【0049】
ただし、この数値解析モデルは計算時間が標準的な流域でも数時間〜数十時間と非常に長いため、実際の出水時において予測に用いることができない(この数値解析モデルで用いる式、解析手法については後述)。ある発電所流域を対象とした数値解析モデルの結果から、発電所付近の流量と全流砂量の関係を図5に示すグラフg5として得た。
【0050】
このグラフg5から、この発電所では前記係数が、α=1.0×10−6となり、流量から全流砂量が精度よく予測できることがわかる。以上で求めた係数αを前記式3に適用して用いることで、タンクモデルで求めた流量QからΔt時間後(例えば1時間後)に発電所取水口付近に運搬される全流砂量を予測できる。なお、このαは、この数値解析で求めた値を参考として、過去の発電所流入土砂量の実績を最も良く再現する値を試行錯誤的に修正することでさらに精度が向上する。
【0051】
上記の式1〜式3に基づく計算は、比較的簡単な式を用いた計算でもあり、コンピュータによれば計算時間を必要としない。このため、一般的な表計算ソフトウェアなどで迅速な計算が十分に可能である。従って、1時間ごとに発表される気象庁の時間雨量の値を、前記上流域の雨量データとしてこの上流域モデルに適用することで、瞬時にΔt時間後(例えば1時間後)の発電所取水口前面の河道に運搬される河川水量、全流砂量を計算することができる。図6に計算結果g6を例示する。
【0052】
−−−第2モデル(取水口モデル)について−−−
続いて、前記第2モデルとしての取水口周辺モデルについて説明する。上述した通り、上流域モデルを用いることで、現時点の雨量に基づいてΔt時間後において、上流域から取水口前面の河道へ運搬される流量(水)、全流砂量を予測できる。そこで、この取水口モデルでは、図7に示すように、取水口前面河道に流入した土砂(掃流砂と浮遊砂をあわせた全流砂量)は、取水口内に流入する土砂、取水口前面に堆積する土砂、およびダム下流へ流下する土砂に分かれるものと考える。これを式で示すと下記の4式(これらをまとめて式4:第2モデル式としてモデルデータベース125に格納)のとおりである。発電所の流入土砂量を予測して取水停止や再開の判断を行うためには、流入土砂がこれらの3つに分配される割合(式4中のφin、φout、φdp)をあらかじめ設定しておく必要がある。
Vin=φinVup
Vout=φoutVup
Vdp=φdpVup
φin+φout+φdp=1
・・・・・式4
【0053】
そこで、上記式4中のφin、φout、φdpについては、平面2次元数値解析の結果から決定する。平面2次元数値解析の数式、解析手法等の詳細については後述する。例えば、ある水力発電所の取水口前面河道を対象とし、上流からの流量を200m/s一定、掃流砂量、浮遊砂量を一定(式3、4よりQ=200m/sで計算)の条件で平面2次元数値解析を実施すると図8に示す解析結果g8のとおりである。数値解析により、時間の経過(初期状態→5時間後→10時間後→15時間後)にともない上流域からの土砂供給で取水口前面に土砂が堆積し、取水口内に流入している状況が再現されている。
【0054】
この解析結果から、時系列で取水口流入土砂量、下流流下土砂量、取水口前面堆積量が計算できるので、これらの結果からφin、φout、φdpを求めると図9に示すグラフg9のとおりであり、時間によって変動していることがわかる。φinは初めほとんど「0」であるが、2時間後から増加しはじめ6時間後は概ね一定の値である。φoutは初め「0.3」程度の値であるが、5時間後から急激に増加し、9時間後以降は概ね一定の値である。φdpは初め「0.6」程度の値であり、5時間後から急激に減少し、9時間後以降は概ね一定の値である。これらの値の変動は、時間とともに取水口前面に土砂が堆積していくことによるものである。初期状態では取水口前面に土砂が無いため、上流からの土砂は多くの割合が取水口前面に堆積する。時間の経過とともに取水口前面に多くの土砂が堆積すると、取水口に土砂が入りやすくなるとともに、取水ダムを越えて下流へ流下する土砂も増加し、結果的に堆積する土砂量は低下する。以上のようにφin、φout、φdpは取水口前面堆積土砂量によって大きく変動する。
【0055】
そこで、取水口前面堆積土砂量とφin、φdpの関係を示すと図10に示すグラフg10のとおりである。なお,この図での横軸は前面総堆積土砂量(Vdpsum)を取水口前面が満杯になったときの総堆積土砂量(Vdpsummax)で除したものとしている。この図10のグラフg10から、例えば流量が200m/sの場合、その時点の前面総堆積土砂量がわかればφin、φout、φdpを設定できる。なお、実際の出水では流量は一定ではなく、雨量によって変動する。そこで、流量について例えば6パターン(50,100,150,200,250,300m/s)の条件で数値解析を実施し、取水口前面堆積土砂量とφin、φout、φdp の関係を示すと図11に例示したグラフg11a、g11bのとおりである。以上の関係から、計算しやすいようにφinの式(式5)、φoutの式(式6)、φdpの式(式7)を以下のとおり定式化する。これらの式5〜式7は、第2モデル式としてモデルデータベース125に格納されている。
φin=ain・tanh(din×(Vdpsum/Vdpsummax−bin))+cin
ain=MAX(27×Q−1.2,0.047)
bin=MIN(0.0035×Q+0.0745,0.775)
cin=MAX(70×Q−1.4,0.047)
din=15
・・・・・・・・・式5

φdp=MIN(0.6,1.983×(Vdpsum/Vdpsummax−0.3)+0.6)
・・・・・・・・・式6

φout=1−(φin+φdp) ・・・・式7
【0056】
これらの式5、6は発電所のレイアウトや河床材料の条件によって異なるため、検討する発電所ごとに平面2次元解析を実施する必要がある。前記式5、6のグラフを、前記図11中のグラフにてあわせて示す。前記式5、6によるグラフは概ね数値解析結果と一致している。
【0057】
例えば実際の流量が75m/sであった場合には、式5、6、7で求めた50m/sと100m/sのφin、φout、φdpの平均値をとればよい。その他の流量の値でも同様に内挿・外挿することでその流量に対するφin、φout、φdpを求めることができる。精度を高めるためには、検討する流量パターンの数を増やせばよい。
【0058】
以上の式4,5、6、7を、上記で説明した上流域モデルと組み合わせることで、Δt時間後の流量と現時点での取水口前面堆積土砂量(Vdpsum)がわかれば、現在からΔt時間後までに取水口に流入してくる土砂を予測できる。取水口前面堆積土砂量(Vdpsum)はこれまでのVdp(=φdp×Vup)の累積で求めればよい。また、Δt時間後までの取水口流入土砂量が予測できれば、現時点の取水口総流入土砂量(Vinsum)にVinを加えることで、Δt時間後の取水口内の総流入土砂量が予測できる。上流域モデルでの数式と同様に簡単な数式を用いているので、市販の表計算ソフトなどで一般的なパーソナルコンピュータでも瞬時に計算処理でき、発電所のΔt時間後の取水停止や再開の判断に用いることができる。例えば発電所の運転に支障がでる総流入量としてVinsumを「500m」などと設定しておけば、Δt時間後のVinsumが前記「500m」越えると予測された時点で、取水停止処理を実行する。
【0059】
また、一方、出水期間中に取水を停止しても、取水口前面に大量の土砂が堆積していると、取水再開後にその堆積土砂が取水口内に流入することがある。停止後に取水を再開するときにはこの点を考慮する必要がある。そこで、取水を停止した状態で100m/sの河川流量・土砂量を連続して与え、累積堆積土砂量が200、400、600、800、1000および1150mになった河床を初期条件として、出水後の取水再開時を模擬した河川流量20m/s、最大取水の条件で平面2次元解析を実施した。この累積土砂流入量と初期の前面累積堆積土砂量との関係を示すと図12のとおりであり、累積堆積土砂量の増加に伴い出水再開後の土砂流入量が増加することがわかる。取水停止した後の取水再開時にはそのときの前面累積堆積土砂量から図12から求めた式8を用いた量Vafterがさらに取水口に流入すると予測する。すなわちVinsumにVafterを加えるものとする。
Vafter=αaft×(Vdpsum/Vdpsummax)2+βaft×(Vdpsum/Vdpsummax)
・・・式8
この場合で、Vinsumに取水再開した場合のVafterを加えた値がある基準値を越えない場合には取水を再開し、超える場合には取水を再開する前に堆積土砂を重機などで取り除き、土砂流入するおそれがなくなってから取水を再開すればよい。なお、ここでは、αaft=406、βaft=19としたが、実測値を参考にαaft、βaft補正することでさらに精度は向上できる。
【0060】
続いて、上流域モデルと取水口付近モデルとを組み合わせた具体的な計算方法について説明する。ここで、上流域モデルと取水口付近モデルとを組み合わせた予測シート(取水口流入土砂量の予測値を算定するための表計算ソフトのシートであり、上記各式が当該予測シートの所定セルに関数として設定されている)の例を図13に示す。この予測シートg13において、入力時刻と共に現時点での雨量値を雨量欄に入力すると、前記上流域モデルにより、Δt時間後(このシートでは1時間後)の上流域からの流量Qと全流砂量VTLが予測される。この全遊砂量の値から、1時間あたりに取水口周辺に運搬されてくる総流入土砂量Vup(=VTL×3600)が予測される。また、1時間後の流量Q、現時点での取水口前面総堆積土砂量Vdpsumから、前記式5,6、7を用いてφin、φout、φdpが計算できる。このφin、φout、φdpと総流入土砂量Vupから、1時間後までに取水口6へ流入してくる土砂量Vin、下流流下土砂量Voutおよび取水口前面堆積土砂量Vdpが予測できる。このVinと現時点での取水口総流入土砂量Vinsumを加えて、1時間後のVinsumが予測できる。この1時間後のVinsumがあらかじめ設定しておいた限界値を越えることがわかれば取水停止する。前記限界値を越えなければ取水を続けて発電継続となる。その場合、次の時刻(1時間後)のφin、φout、φdpの計算時に必要となるため、現時点のVdpsumに1時間後までのVdpを加えて、1時間後のVdpsumを計算しておく。この過程を出水中に繰り返すことで、現時点の雨量を入力データとして、出水中の取水口流入土砂量、前面堆積量を時系列で予測できる。出水を途中で停止したあとに取水再開をする場合には式8で土砂流入量Vafterを予測し、Vinsumに加える。
【0061】
−−−数値解析について−−−
(1)数値解析モデル(上流域)の概要
上流域の水の流出量については、数ヶ月単位の流出を評価するために出水時と通常時の状態を同時に評価できる永井ら(長短期流出両用モデルの標準的定数について、農業土木学会論文集、No.180,pp.59-64, 1995.)による長短期流出両用のタンクモデルを用いた。ただし、ここでは、流域に所在する各支川からの流入量を評価する必要があるため、全流域を60分割した各斜面ごとにタンクモデルを設定した。上流域の河道内の流れは開水路1次元非定常流として取り扱う。流れの基礎式は図14に示す式(1)、(2)を用いた。
【0062】
また、底面せん断応力はManning則で評価する。なお、運動量方程式の移流項の差分化には、常射流混在流れの計算が可能なFDS法(ダム破壊流れの1次元解析,水工学における計算機利用の講習会講義集, 土木学会,1999.)を用いた。掃流砂量については式(3)の粒径別の芦田・道上式を用い、移動限界には式(4)のEgiazaroff・浅田(山地河川の流砂量と貯水池の堆砂過程に関する研究,電力中央研究所報告,総合報告No2,1976.)の式を用いた。また、浮遊砂については式(5)の粒径別浮遊砂の連続式を用いた。ここで、Cbiは式(6)で評価した。
【0063】
例えば、処理対象とする流域の河川として粒度分布幅が広い礫床河川を想定し、河床からの浮遊砂浮上量は関根ら(平衡および非平衡浮遊砂量算定の確率モデル,土木学会論文集,第375号/II-6,pp.107-116,1986.)と同様に、図15に示す式(7)の芦田・藤田式を用いた。ここで、c、k、は芦田・藤田によると礫の頂部から礫の間隙に充填されている細砂までの距離Δsの関数で求められる。また、河床の連続式は(8)式(図15)を、交換層内の粒径階 の含有率の変動は式(9)(図15)の平野の式を用いた。以上の基礎式を離散化し、数値解析することで、雨量を入力条件として上流域河川からの水と土砂の流入量を計算できる。計算結果の一例は図16に示すとおりである。
【0064】
(2)数値解析モデル(取水口周辺)の概要
水力発電所取水口周辺については平面2次元解析により土砂流入現象を再現する。基本的なモデルは長田ら(一般曲線座標系を用いた平面2次元非定常流れの数値計算,水工学における計算機利用の講演会講義集,土木学会,pp.45-72,1999.)による平面2次元解析モデルを用いることとした。流れの基礎式は図17に示す式(10)、(11)のとおりとした。また、浮遊砂の連続式は図18に示す式(12)を用いる。河床からの浮遊砂浮上量は上流域と同様に芦田・藤田式を用いて評価する。更に、河床の連続式は図18に示す式(13)を用い、交換層内の粒径階 の含有率の変動は上流域と同様に平野の式を用いた。流れ方向の掃流砂量の評価には上流のモデルと同様に芦田・道上式を用い、流れ方向と直角方向の流砂量は長谷川式を用いた。
【0065】
こうした河床変動計算過程においては、取水口前面の砂州前縁部で局所的な地形勾配が安息角以上となることがある。こういった場合には計算1ステップ毎にすべての格子ごとにその格子と隣接する4つの計算格子との地形勾配を計算し、局所的な地形勾配が安息角以上となった場合には、その隣接格子との勾配が安息角となるように最急勾配の隣接格子へと土砂を瞬間的に移動させた。なお、河床が崩壊した場合にはその崩壊した深さ範囲の含有率が崩壊した側の河床に移動するものとした。以上の計算により、水力発電所取水口周辺の流れと河床変動および土砂流入現象が再現できる。図19にその例をしめす。
【0066】
以上のように本実施形態によれば、流込み式水力発電所において、出水時における大量の土砂流入を抑止しつつ最大の発電電力量を得る、取水停止・再開のタイミングを決定できる。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
5 流れ込み式水力発電所
6 取水口
7 取水ダム
8 堆積土砂
9 排砂門
100 流入土砂予測システム
101 HDD(Hard Disk Drive)
102 プログラム
103 RAM(メモリ)
104 CPU(演算装置)
105 入力インターフェイス
106 出力インターフェイス
107 NIC(Network Interface Card)
108 フラッシュROM
109 ブリッジ
110 第1手段
111 第2手段
112 第3手段
113 第4手段
118 OS
120 BIOS
125 モデルデータベース
160 ネットワーク
200 雨量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ込み式の水力発電所における流入土砂量の予測方法であって、
取水河川の上流域における降雨に対し、所定時間後の取水口付近での河川水量および上流からの運搬土砂量を算定する第1モデル式に、所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力し、前記所定時刻から所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1工程と、
所定時刻の取水口付近での河川水量、運搬土砂量、および取水口前の既存土砂堆積量の値に対し、所定時間後の取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2モデル式に、前記第1モデル式により算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を入力し、前記所定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2工程と、
前記取水口への土砂流入量と所定の限界値とを比較して、前記土砂流入量が前記限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3工程と、
からなることを特徴とする流入土砂予測方法。
【請求項2】
第3工程において、前記取水停止タイミングに合わせて、流れ込み式水力発電所の取水停止処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の流入土砂予測方法。
【請求項3】
前記取水停止処理の後、前記第1工程および第2工程を継続して実行し、ある時点の前記取水口への土砂流入量と所定の基準値とを比較し、前記土砂流入量が前記基準値を下回る時点を取水再開タイミングとして特定する第4工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の流入土砂予測方法。
【請求項4】
第4工程において、前記取水再開タイミングに合わせて、流れ込み式水力発電所の取水再開処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の流入土砂予測方法。
【請求項5】
流れ込み式の水力発電所における流入土砂量の予測を行うコンピュータシステムであって、
取水河川の上流域における降雨に対し、所定時間後の取水口付近での河川水量および上流からの運搬土砂量を算定する第1モデル式と、所定時刻の取水口付近での河川水量、運搬土砂量、および取水口前の既存土砂堆積量の値に対し、所定時間後の取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2モデル式とを記憶する記憶装置と、
所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力インターフェイスで取得し、この雨量データを、前記記憶装置から読み出した第1モデル式に適用し、前記所定時刻から所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1工程と、
前記第1工程で算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を、前記記憶装置から読み出した第2モデル式に適用し、前記所定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2工程と、
前記取水口への土砂流入量と所定の限界値とを比較して、前記土砂流入量が前記限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3工程とを実行する演算装置と、
を備えることを特徴とする流入土砂予測システム。
【請求項6】
取水河川の上流域における降雨に対し、所定時間後の取水口付近での河川水量および上流からの運搬土砂量を算定する第1モデル式と、所定時刻の取水口付近での河川水量、運搬土砂量、および取水口前の既存土砂堆積量の値に対し、所定時間後の取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2モデル式とを記憶する記憶装置と、演算装置とを備えて、流れ込み式の水力発電所における流入土砂量の予測を行うコンピュータに、
前記第1モデル式に、所定時刻の上流域における雨量観測所の雨量データを入力し、前記所定時刻から所定時間後の取水口付近での河川水量および運搬土砂量を算定する第1ステップと、
前記第2モデル式に、前記第1モデル式により算定した河川水量、運搬土砂量、および既存土砂堆積量の値を入力し、前記所定時間後における取水口前の土砂堆積量および取水口への土砂流入量を算定する第2ステップと、
前記取水口への土砂流入量と所定の限界値とを比較して、前記土砂流入量が前記限界値に達する時点を取水停止タイミングとして特定する第3ステップと、
を実行させる流入土砂予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−248842(P2010−248842A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101459(P2009−101459)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)