説明

流入管用カフ及び補助人工心臓血液ポンプの監視装置

【課題】流入管と左心室または右心房との接触部における心内膜の過剰な成長あるいは血栓の成長を容易に観察可能にした流入管用カフを提供する。
【解決手段】補助人工心臓血液ポンプとともに使用され、該補助人工心臓血液ポンプに繋がる流入管を心臓の左心室または右心房とを接続して固定するために流入管用カフが用いられる。この流入管用カフは、鍔状の円筒部を有しており、この鍔状の円筒部に超音波振動子アレイが取り付けられ、この超音波振動子アレイが心壁に向けて取り付けられるように構成されている。このため、この流入管用カフは、心臓内の血栓や心内膜等の監視をする超音波診断装置のプローブとしての機能をもち、強いエコー源であるポンプや流入管等を避けて超音波の送受信を行うことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助人工心臓の血液ポンプの入り口で使用される流入管用カフ及び心臓内の血栓等を監視するための補助人工心臓血液ポンプの監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体内組織を観察するには超音波診断装置、コンピュータ断層撮影(CT:Computed Tomography)等が使用されている。しかしながら、部位によっては、超音波診断装置やCT等では観察できない場合や、仮に観察はできても、機器が大型のため、必要なときに、すぐに使用することは難しい場合がある。一例として、左心補助人工心臓用の心尖部が挙げられる。
【0003】
左心補助人工心臓は、心臓をバイパスして、心臓の左心室へ血液を送るポンプである。このポンプの入り口と、左心室を接続して血液の流路を構成する流入管を左心室に接続するために必要とされるのが流入管用カフである。この流入管用カフを心臓に取り付けるためには、心臓の心尖部の切開と縫合を必要とするため、いったん流入管用カフを心臓に取り付けた後には、仮に補助人工心臓本体を交換するような場合でも心尖部の開口をふさいで心臓内の血液が外に押し出されないようにしなければならない。そのための工夫をした人工心臓の着脱機構も提案されている(特許文献1を参照)。なお、補助人工心臓の場合、流入管用カフは心尖部にて接続されるので心尖部カフとも呼ばれる。
【0004】
図8は、特許文献1に示されるような、従来の流入管用カフを心臓の左心室に接続したときの図であり、(a)は概略斜視図、(b)は流入管用カフをB−B’で切断したときの断面図である。
【0005】
流入管用カフ802は鍔状の部分を有する円筒状になっており、心臓804の左心室806の心壁805に縫いつけられて固定される。この流入管用カフ802の穴部で心室を切開し、流入管803を左心室806に挿入する。つまり、流入管803は、左心室806の内部に心壁805から突出された状態で固定されるようになっている。
【0006】
ここで、流入管803の突出長をいくらにするかは重要である。突出長が長いと、心房中隔に接触しやすくなり、ポンプの動作条件によっては流入管の入り口で中隔との吸いつきが起こり、流量が不足し重篤な症状に到ることもある。
【0007】
一方、流入管803の突出長が短いと、心臓804に流入管803を装着後、時間とともに心内膜が流入管803の外周を這うように成長して、流入管803を覆い、入り口を閉塞してしまうことがある。また、流入管803の外周と心室壁との間に血液の鬱滞する領域ができ、この領域に血栓が形成されることもある。
さらに、成長した心内膜の一部が剥がれた組織片あるいは血栓が、流入管803の入り口に吸い込まれ、末梢の血管を閉塞してしまうこともある。例えば、閉塞した血管が脳の場合、脳梗塞という重篤な症状に到るおそれもある。
【0008】
したがって、流入管が心室内にどの程度突出しているか、つまり突出長の長さが重要な意味を持つ。そして、流入管と心筋の接触部はどうなっているか、例えば心内膜が流入管の突出方向に成長しているかどうか等の状態観察が極めて重要である。つまり、流入管用カフを心臓に取り付けたときに、流入管の突出長は適切な長さになっているかどうか、流入管と心室の接触部から心内膜が過剰に成長していないかどうか、あるいは血栓が成長していないかどうかを常時観察することが望まれている。
【0009】
このような心内膜や血栓の成長が確認された場合は、例えば血栓であれば通常溶解剤を投与して、取り除くことが考えられる。血栓溶解剤を投与する場合、マイクロバブルを用いて患部に誘導する場合(Drug Delivery Systemの1種)があるが、この場合には、体外からの強力な超音波を照射することによってマイクロバブルを破壊して血栓溶解剤を放出する方法が考えられている。この方法によれば、血栓溶解剤の少量の投与で、血栓による閉塞を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−327764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に示されるような流入管用カフでは、血栓等の有無を確認するための診断をする際には、通常の超音波診断装置のプローブで心臓の流入管用カフ周辺を観察しなければならなかった。そのため、補助人工心臓血液ポンプや流入管自体が強いエコー源となり、診断に適切な超音波画像が得られないという問題があった。つまり、これらのエコー源がノイズとなって、左心室内の流入管の出口付近に、接触部から心内膜の過剰成長や血栓の成長を正確に観察することができなかった。
【0012】
また、超音波診断装置以外のCT等の大型機器は、使用するのに予約が必要であり、必要な場合にすぐに使用することができないという問題もあった。
【0013】
ここでは、左心補助人工心臓を中心に記載するが、流入管および流入管周囲の心臓内の血栓等の監視は右心補助人工心臓の場合も有用である。右心補助人工心臓の場合、流入管は右心房に接続される。
【0014】
本発明では、補助人工心臓血液ポンプと心臓とを接続する流入管は、心臓の左心室あるいは右心房に接続されることを想定している。
【0015】
本発明は、上述の問題に鑑み、流入管と左心室または右心房の接触部における心内膜の過剰な成長あるいは血栓の成長を容易に観察可能にした流入管用カフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の流入管用カフは、補助人工心臓血液ポンプとともに使用され、該補助人工心臓血液ポンプと心臓とを接続する流入管を内部に挿入した状態で固定する流入管用カフ本体に、超音波振動子アレイを取り付け、心臓内の血栓等を監視する超音波診断装置のプローブとして用いることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の流入管用カフは、補助人工心臓血液ポンプとともに使用され、該補助人工心臓血液ポンプと心臓とを接続する流入管を内部に挿入した状態で固定する流入管用カフであって、流入管が挿入される所定の内径と外径を持つ第1の円筒部と、第1の円筒部と内径が同じで、前記第1の円筒部よりも外径が大きい第2の円筒部と、第2の円筒部に設けられた超音波振動子アレイと、を備えている。そして、第2の円筒部を心臓の外壁に取り付ける際に、超音波振動子アレイを、心臓の外壁に向けて取り付けることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の好ましい形態として、本発明の流入管用カフは、第2の円筒部に設けられた超音波振動子アレイが第1の円筒部の軸と直交する平面上または第1の円筒部の軸に対して所定の角度を持つ平面上に配置されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の好ましい形態として、本発明の流入管用カフは、超音波診断装置の超音波プローブとしての役割を有しており、そのため、超音波振動子アレイと超音波診断装置とを機械的かつ電気的に接続するコネクタを備えている。なお、このコネクタは通常頭部に固定される。
【0020】
また、本発明の補助人工心臓血液ポンプの監視装置は、流入管用カフと、該流入管用カフにケーブルで接続される超音波診断装置を有し、心臓内の血栓等を監視するものであるが、流入管用カフは、超音波振動子アレイを備えている。
【0021】
そして、超音波振動子アレイは、一端にコネクタを有する超音波振動子用ケーブルに接続され、該超音波振動子用ケーブルのコネクタは、人体の外部と機械的かつ電気的に接続するために体表面に配置されており、前記超音波診断装置に接続するための超音波診断装置用ケーブルに接続され、流入管用カフに配置された超音波振動子アレイを心臓の外壁に向けて取り付けることを特徴としている。
【0022】
さらに、本発明の補助人工心臓血液ポンプの監視装置の好ましい形態としては、超音波振動子アレイが接続される超音波振動子用ケーブルの一端に、体内に配置される第1の平面コイルを有し、超音波診断装置に接続される超音波診断装置用ケーブルの一端には、体外に配置される第2の平面コイルを備えるようにする。そして、第1の平面コイルと第2の平面コイルとの間で、電磁誘導現象を利用して非接触で信号の接受を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、強いエコー源を避けて超音波の送受信を行うことができるので、心室内の流入管付近の血栓や心内膜等、体内組織の正確な超音波画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る流入管用カフと超音波診断装置を接続して構成される左心補助人工心臓血液ポンプ装置の全体構成を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る流入管用カフを心臓に取り付けたときの状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る流入管用カフを展開した図であり、(a)は心臓側からみた底面図、(b)は側面図、(c)は心臓と反対側から見た上面図である。
【図4】流入管用カフが備える超音波振動子アレイをプローブとして用いたときの超音波診断装置のブロック構成図である。
【図5】本発明の実施の形態に用いられる超音波診断装置に表示される超音波画像の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に用いられる流入管用カフの超音波振動子アレイを超音波診断装置に接続するためのコネクタを頭部に設けた、流入管用カフの接続例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に用いられる流入管用カフの超音波振動子アレイを体内と体外に配置した平面コイルにより非接触で体外の超音波診断装置に接続する場合の説明図である。
【図8】従来の流入管用カフを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための実施の形態例(以下、「本例」ということもある。)について説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例である。そのため、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかしながら、本発明は、特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。例えば、以下の説明で挙げる各パラメータの数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法、形状及び配置関係も概略的なものである。
【0026】
以下、図1〜図5に基づいて、本発明の一実施形態例の構成と動作について説明する。
図1は、本例の流入管用カフに設けた超音波振動子アレイを超音波診断装置と接続して、心室内の様子を観察可能とした左心補助人工心臓血液ポンプ装置の全体構成を示す説明図である。
【0027】
左心補助人工心臓血液ポンプ装置101は、図1に示すように心臓108を中心とする胸部付近に埋め込まれ、左心室のポンプ機能を補助するものである。また、左心補助人工心臓血液ポンプ装置101を左心室に接続するための流入管用カフ103を備え、この流入管用カフ103には、所定の方向に超音波を送信するとともに、対象物から反射した超音波を受信する超音波振動子アレイを有している。なお、図1に示す左心補助人工心臓血液ポンプ装置101では、主に本発明の効果を奏するために必要な構成部分のみを示しており、左心室のポンプ機能を補助する機能に関する部分は省略している。
【0028】
図1に示すように、左心補助人工心臓血液ポンプ装置101は、流入管102に接続され、この流入管102の一部が心臓108の左心室内に突入される。流入管用カフ103は、流入管102と心臓108を固定するための部材である。言うまでもなく、流入管102及び流入管用カフ103は、体内に埋め込まれている。
【0029】
この流入管用カフ103に設けられる超音波振動子アレイは、超音波振動子用ケーブル104に接続されている。この超音波振動子アレイは、超音波を送信するとともに、対象物から反射された超音波(以下、「反射超音波」という)を受信する、いわゆる超音波診断装置107のプローブとして機能するものである。そして、超音波振動子アレイは、超音波振動子用ケーブル104、超音波振動子用コネクタ105及び超音波診断装置用ケーブル106を介して超音波診断装置107と電気的に接続されている。超音波振動子用コネクタ105は、超音波振動子用ケーブル104と超音波診断装置用ケーブル106とを機械的かつ電気的に接続するコネクタであり、例えば、人体の腹部表面に設けられる。なお、このコネクタ105は図7で後述するように、人体の頭部に設けるようにしてもよい。
【0030】
超音波診断装置107は、流入管用カフ103に設けられた超音波振動子アレイからの超音波の送信、及び超音波振動子アレイによる反射超音波の受信のタイミングを、超音波振動子アレイの、超音波振動子ごとに制御する装置である。また、この超音波診断装置107によって、反射超音波である受信信号が処理されて、その処理結果に基づいて超音波画像が生成され、ディスプレイ等の表示部に表示される。
【0031】
次に、本発明の一実施形態例に係る流入管用カフ103について図2及び図3を参照して説明する。ただし、図3に示す流入管用カフ103は、超音波振動子用ケーブル104及び超音波振動子用コネクタ105を省略している。
【0032】
図2(a)は、心臓108に配置された流入管用カフ103を中心とする斜視図である。
図2(b)は、図2(a)に示す流入管用カフ103のA−A’断面図である。図3(a)は、流入管用カフ103を底面から見た底面図、図3(b)は、側面から見た側面図、図3(c)は、上面から見た上面図である。
【0033】
流入管用カフ103は、第一円筒部202と、この第一円筒部202に連続する第二円筒部203と、超音波振動子アレイ204とを含む。
第一円筒部202は、略筒状を成しており、体内に埋め込んだ際に腐食しない素材、例えばプラスティックで形成されることが好ましい。この第一円筒部202の内径は約16mmであり、外径が約20mmとなっている。また、第一円筒部202の軸方向の長さは約32mmである。
【0034】
第二円筒部203は、略筒状を成しており、第一円筒部202と同じ素材でできている。第二円筒部203の内径は、第一円筒部202と等しく、約16mmであるが、外径は約32mmとされる。また、第二円筒部203の軸方向の長さは約8mmと鍔状の平たい形状に形成されている。なお、第一円筒部202及び第二円筒部203の空洞部分は共通となっている。
【0035】
超音波振動子アレイ204は、円盤状に並べた32個の超音波振動子302よりなり、第二円筒部203の第一円筒部202と連続している面と、反対側の面に配置されている。
この実施例では、超音波振動子302は、流入管102あるいは第一の円筒部202の軸と直交する平面上に配置されている。
【0036】
このため、当該流入管用カフ103を左心室206の外壁である心壁205に接触するように固定して超音波振動子アレイ204が超音波を送信すると、超音波は心室内の領域207に到達するようになっている。このように、超音波振動子アレイ204が固定されることで、流入管102及びポンプ等の強いエコー源を避けて心尖部の断面を観察することができる。つまり、図2に示した領域207が、当該観察することができる心尖部の断面に相当する。
【0037】
また、図2(b)では、概略、送信する超音波の音線が流入管102と平行になるように、超音波振動子アレイが配置されている。これは流入管からの反射超音波は、心内膜や血栓からの反射超音波と比較して、レベルが大きいのでノイズ源となるのを避けるためである。このような配置であっても、検知したい心内膜や血栓は、流入管表面にて成長するので、検知は可能である。
【0038】
または、より早期に心内膜や血栓の成長を検知できるよう、左心室内にある流入管102の流入口付近に音線が通過するように、超音波振動子アレイを配置してもよい。
この場合、超音波振動子302は、流入管102あるいは第一の円筒部202に対して所定の角度を持って配置することが好ましい。具体的には、領域207が流入管102の流入口付近に重なるような角度であることが望ましい。
【0039】
以下では、32個の各超音波振動子302をチャンネル(以下、「CH」という)1〜32として説明を行う。なお、本例では、流入管用カフ103内に設けられた超音波振動子アレイ204を構成する超音波振動子302の数を32個としたが、これに限られるものではない。
【0040】
図3(a)に示すように、1個の超音波振動子302は内側の半径10mm、外側の半径14mm、中心角11.25度の扇形をしている。超音波振動子302が送信する超音波の周波数は、例えば10〜20MHzである。この周波数の場合、その波長は体内では0.15〜0.075mmとなる。そのため、空間分解能は、当該波長と同程度になる。超音波は体内で減衰するがこの周波数では深度(超音波振動子302からの距離)は30mm程度とれるので、心尖部の観察には十分である。
【0041】
次に、流入管用カフ103に設けた超音波振動子アレイ204をプローブとする超音波診断装置107の構成について図4を参照して説明する。
図4は、流入管用カフ103の備える超音波振動子アレイ204を含めた超音波診断装置107を示すブロック図である。
【0042】
図4に示すように、超音波診断装置107は、超音波振動子302から超音波を発生させるタイミングを制御するための回路と、超音波振動子302が受信した信号を処理するための回路を含んでいる。まず、超音波振動子302に超音波を発生させるタイミングを制御する回路としては、システム制御部402と、送信遅延制御回路404と、複数の送信駆動回路403Aがある。また、超音波振動子302が受信した反射超音波を処理する回路としては、複数のプリアンプ405Aと、受信遅延回路406と、受信遅延制御回路407と、ログ(log)変換部408と、検波回路410とSTC(Sensitivity Time Control)部409を含む。そして、さらに、検波回路が接続されるA/D変換部411と、DSC(Digital Scan Converter)部412と、D/A変換部413と、表示部414とから構成されている。
【0043】
システム制御部402は、システム全体の制御を行う回路である。送信駆動回路403は、送信遅延制御回路404からの信号に従って駆動信号を出力し、この駆動信号により流入管用カフ103の超音波振動子アレイ204を構成する各超音波振動子302(CH1〜CH32)が駆動される。送信遅延制御回路404は、送信駆動回路403から出力される駆動信号の遅延時間を制御する回路である。
【0044】
また、プリアンプ405は、各超音波振動子302(CH1〜CH32)からの受信信号を増幅し、受信遅延回路406に供給する。受信遅延回路406は、プリアンプ405からの受信信号を、受信遅延制御回路407からの制御信号に基づいて遅延させる。受信遅延制御回路407は、受信遅延回路406の遅延時間を制御するための制御信号を発生する回路である。
【0045】
ログ変換部408は、受信遅延回路406の出力信号に対し対数圧縮変換を行う回路であり、このログ変換部408における対数圧縮時に、STC部409からの信号により、受信遅延回路406からの出力信号の感度補正が行われる。
【0046】
ログ変換部408で対数圧縮された受信信号は、検波回路410に供給される。そして、検波回路410において、ログ変換部408の出力信号が検波され、A/D変換部411に供給される。A/D変換部411は、検波回路410からの出力信号をA/D変換してディジタルデータを生成し、DSC部412に供給する。
【0047】
DSC部412は、A/D変換部411から送られたディジタルデータを、ディスプレイ等の表示部に表示できるような形式のディジタル画像データに変換するディジタル走査変換器である。このDSC部412では、フレームレートの調整も行われる。DSC部412で変換されたディジタル画像データは、D/A変換部413に供給され、ここでアナログ画像データに変換される。そして、表示部414において、D/A変換部413によって変換された画像信号に基づいて超音波画像が表示される。
【0048】
次に、流入管用カフ103の超音波振動子アレイ204を含めた超音波診断装置107の動作について説明する。
まず、超音波診断装置107の送信駆動回路403A1〜A4から所定のタイミングで駆動信号が超音波振動子302(CH1〜CH4)に出力される。つまり、超音波振動子302のCH1〜CH4の4チャンネルを作動させて超音波を発生させる。このとき、送信遅延制御回路404は、中央の2個の超音波振動子302(CH2,3)と両端の2個の超音波振動子302(CH1,4)の超音波の送信タイミングに時間差を設けるように送信駆動回路403A1〜A4をそれぞれ制御する。これにより、超音波振動子302(CH1〜CH4)から送信される超音波を所定の深度にフォーカスすることができる。
【0049】
このようにすることで、超音波振動子302(CH1〜CH4)が時間差をもったタイミングで励振され、CH2,3の間を中心として超音波が送信される。すると、超音波振動子302(CH1〜CH4)から送信された超音波は、心尖部周辺にある反射体、例えば心壁205、左心室206(図2(b)参照)の内壁または血栓等によって反射される。
【0050】
これらの反射超音波は、超音波振動子302(CH1〜CH3)によって受信される。ここでは、超音波振動子302(CH4)では、受信しないようにする。つまり、CH2を中心に受信する。そして、超音波振動子302(CH1〜CH3)によって受信された受信信号がプリアンプ405A1〜A3で増幅されて、受信遅延回路406に出力される。受信遅延回路406では、受信遅延制御回路407の制御の下で入力された受信信号が遅延され、遅延された受信信号がログ変換部408に出力される。このとき、受信遅延制御回路407は、中央の1個の超音波振動素子(CH2)と両端の2個の超音波振動素子(CH1,3)からの受信信号の遅延時間に差をつけるように受信遅延回路406により制御される。これにより、超音波振動素子(CH1〜CH3)は、超音波振動子302(CH2)中心として反射超音波を所定の深度にフォーカスして受信することができる。
このようにして、1番目の走査ビームに関する受信信号が、受信遅延回路406からログ変換部408に出力される。
【0051】
次に、超音波診断装置107の送信駆動回路403A1〜A4から所定のタイミングで駆動信号が超音波振動子302(CH1〜CH4)に出力される。このときの超音波振動子302(CH1〜CH4)への駆動信号は、1番目の走査ビームのときと同じであるが、今度は受信する超音波振動子を異ならせている。つまり、2番目の走査ビームは、送信する超音波振動子302は、CH1〜CH4と同じであるが、受信する超音波振動子302は、CH2〜CH4になる。
【0052】
すなわち、心室の内壁あるいは血栓等から反射超音波は、超音波振動子302(CH2〜CH4)によって受信される。つまり、反射超音波の受信を行う3つの超音波振動子を1つずつ隣にずらしている。そして、超音波振動子302(CH2〜CH4)によって受信された受信信号がプリアンプ405A2〜A4で増幅されて受信遅延回路406に出力される。受信遅延回路406では、受信遅延制御回路407からの制御信号に基づいて、受信信号が遅延され、遅延された受信信号がログ変換部408に出力される。このとき、受信遅延回路406は、中央の1個の超音波振動素子(CH3)と両端の2個の超音波振動素子(CH2,4)からの受信信号の遅延時間に差をつけるようにする。これにより、超音波振動素子(CH2〜CH4)は、超音波振動子302(CH3)中心として反射超音波を所定の深度にフォーカスして受信することができる。
以上のようにして、2番目の走査ビームに関する受信信号が、受信遅延回路406からログ変換部408に出力される。
【0053】
次に、3番目の走査ビームの検出について説明する。今度は、超音波診断装置107の送信駆動回路403A2〜A5から、所定のタイミングで駆動信号が超音波振動子302(CH2〜CH5)に供給される。つまり、超音波の送信を行う4つの超音波振動子を1つずつ隣にずらして駆動信号を供給することになる。このとき、送信遅延制御回路404は、中央の2個の超音波振動子302(CH3,4)と両端の2個の超音波振動子302(CH2,5)の超音波の送信タイミングに時間差を設けるようにする。これにより、前述の超音波振動子302(CH1〜CH4)での送信のときと同様に、超音波振動子302(CH2〜CH5)から送信される超音波が所定の深度にフォーカスされる。
【0054】
このようにすることで、超音波振動子302(CH2〜CH5)が時間差をもったタイミングで励振され、CH3,4の間を中心として超音波が送信される。すると、超音波振動子302(CH2〜CH5)から送信された超音波は、心壁205、左心室206の内壁または血栓等によって反射される。
【0055】
そして、反射超音波は、まず、最初の3つの超音波振動子302(CH2〜CH4)によって受信される。つまり、反射超音波の受信を行う3つの超音波振動子をさらに1つずつ隣にずらしたことになる。但し、4番目の超音波振動子304(CH5)は反射超音波を受信しないように制御される。
【0056】
このようにして得られる受信信号は、プリアンプ405で増幅されて受信遅延回路406に供給される。そして、受信遅延回路406において、受信遅延制御回路407からの制御信号に基づいて受信信号の遅延時間が制御される。このとき、受信遅延回路406は、中央の1個の超音波振動素子(CH3)と両端の2個の超音波振動素子(CH2,4)からの受信信号の遅延時間に差をつけるようにされる。
【0057】
これにより、超音波振動素子(CH2〜CH4)は、超音波振動子302(CH3)中心として反射超音波を所定の深度にフォーカスして受信することができる。
以上のようにして、3番目の走査ビームに関する受信信号が、受信遅延回路406からログ変換部408に出力される。
【0058】
以下、同様に、4番目、5番目、・・・の走査ビームに関する受信信号が順次受信遅延回路406に供給され、受信遅延回路406から、反射超音波の受信信号を取り出すことができる。つまり、上述したような順序で、超音波を送信する超音波振動子および超音波を受信する超音波振動子を変更していく走査、すなわちリニア電子走査型の超音波診断装置と同様の走査が行われる。
【0059】
このように、残りの4〜64番目の走査ビームに関する受信信号が、順次、受信遅延回路406からログ変換部408に出力される。そして、この1〜64番目までの走査ビームで得られた情報に基づいて、後述する、1枚の超音波画像が生成される。走査ビームが64番目まであるのは、32個ある超音波振動子が、前述したように、同じ組み合わせで2回の超音波の送信を行うためである。
【0060】
以上の処理が完了した後、受信遅延回路406から入力された、1〜64番目の各走査ビームに関する受信信号は、ログ変換部408で対数変換されるとともに、深度に基づいた感度補正がなされて検波回路410に出力される。そして、ログ変換部408からの出力信号は、検波回路410で検波され、A/D変換部411でアナログ信号からディジタルデータに変換される。そして、このディジタルデータは、DSC変換部に入力され、表示部で表示可能な形式のデータに変換されてD/A変換部に出力される。
【0061】
D/A変換部413では、DSC変換部から入力されたディジタルがアナログ信号に変換されて表示部414に入力される。すると、表示部414には、D/A変換部413から出力されるアナログ信号に応じた超音波画像が表示される。
【0062】
次に、超音波画像について図5を参照して説明する。
図5は、表示部414に表示される超音波画像の一例を示す説明図である。
超音波画像502は、領域207(図2(b)を参照)からのエコーを示す画像である。縦軸は深度を示しており、横軸は流入管102に平行な領域207を0°〜360°までの角度として表している(図2(b)を参照)。図5に示されるように、縦軸方向において、超音波振動端子直下、すなわち上から心壁のエコー503と、左心室内側のエコー504(心内膜、血栓及び組織等からのエコー)が表示される。図5では、左心室内側のエコー504から判断して、心内膜が成長していることが確認される。
【0063】
以上説明したように、本発明では、流入管用カフ103に超音波振動子302を設けたので、体内に埋め込まれた他のデバイスからのエコーを避けて、体内組織の超音波画像502を観察することができる。特に補助人工心臓の血液ポンプ入り口で使用される流入管102用の流入管用カフ103に応用した場合、心尖部の流入管102と心壁205との接触の状態を容易に観察できる、という効果がある。さらに、治療用に誘導入される、血栓溶解剤が封入されたマイクロバブルの検知も容易に行うことができる。
【0064】
なお、上述した一実施形態例は、超音波振動子用ケーブル104と超音波診断装置用ケーブル106とを機械的かつ電気的に接続する超音波振動子用コネクタ105を腹部表面に設けている(図1参照)。しかしながら、図6に示すように、超音波振動子用ケーブル104と超音波診断装置用ケーブル106とを後頭部で接続するように、超音波振動子用コネクタ105を後頭部の頭蓋骨602に固定することもできる。この場合、腹部よりも固い頭蓋骨602に超音波振動子用コネクタ105を固定するので、当該超音波振動子用コネクタ105の固定をより強固にすることができる。また、頭蓋骨602に超音波振動子用コネクタ105を固定すると、超音波振動子用コネクタ105が人体を貫通している部分からの感染の確率を低減できる、という効果もある。
【0065】
また、上述した一実施形態は、人体表面に超音波振動子用コネクタ105を固定するために、人体に穴を開ける必要があった。このような超音波振動子用コネクタ105の代替として、図7(a)に示すような体内コイル702と体外コイル703(いずれも平面状コイル)からなるトランス構成にしてもよい。このようにすれば、人体に穴を開ける必要がなくなり、感染のリスクがさらに低下するという利点がある。
【0066】
ここで、トランスを構成する体内コイル702及び体外コイル703について説明する。
トランスを構成する体内コイル702及び体外コイル703は、図7(b)に示す円形の平面コイル705である。
この円形の平面コイル705は、外径が約100mm、内径が約20mm、角度11.25度の扇形の部分に1ch分のコイルを巻き、これが、32ch分(超音波振動子302と同じ数)あることで、360度の円を形成するような構成にしている。そして、体内、体外に体表組織704を介してこの円形の平面コイル705を対向させることで、体内コイル702と体外コイル703間の電磁誘導現象を利用して信号伝達を行うようにする。この一対のコイルは、いわばトランスとして働き、超音波振動子302(1CH〜32CH)と超音波診断装置107との間で送受信のRF信号のやりとりが行われる。なお、体内コイル702及び体外コイル703は、胸部付近に固定することが望ましい。
【0067】
ところで、トランスの伝送効率を上げるためには、以下の2つの方法がある。
(1)1つの円で16ch分とし、2個のトランスにする(円形の体内コイル702、体外コイル703が各々2個ある構成)。
(2)1つの円で8ch分とし、4個のトランスにする(円形の体内コイル702、体外コイル703が各々4個ある構成)。
以上のようにすれば、1chあたりの対向面積を増やすことができるので、伝送効率が向上する。
【0068】
また、一定の伝送効率を維持するには体内コイル702と体外コイル703の中心軸を一致させることが必要である。例えば、体内コイル702の内径20mmの部分に凹凸を設け、体外コイル703のガイドとすれば、体外コイル703と体内コイル702の中心を一致させることが容易になる。体内コイル702と体外コイル703の中心が一致したならば、角度方向の一致については、体外コイル703を角度方向にずらすことで画像の輝度(反射超音波の強度)から、1chあたりのコイルが対向する位置を見つけることが可能である。見つかった場所で、医療用テープを用いて体外コイル703を固定すればよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態の例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含むことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0070】
101…補助人工心臓血液ポンプ装置、102…流入管、103…流入管用カフ、104…超音波振動子用ケーブル、105…超音波振動子用コネクタ、106…超音波診断装置用ケーブル、107…超音波診断装置、108…心臓、202…第一円筒部、203…第二円筒部、204…超音波振動子アレイ、205…心壁、206…左心室、207…領域、302…超音波振動子、402…システム制御部、403…送信駆動回路、404…送信遅延制御回路、405…プリアンプ、406…受信遅延回路、407…受信遅延制御回路、408…ログ変換部、409…STC部、410…検波回路、411…A/D変換部、412…DSC部、413…D/A変換部、414…表示部、502…超音波画像、503…心壁のエコー、504…心室内側のエコー、602…頭蓋骨、702…体内コイル、703…体外コイル、704…体表組織、705…円形の平面コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助人工心臓血液ポンプとともに使用され、該補助人工心臓血液ポンプと心臓とを接続する流入管を内部に挿入した状態で固定する流入管用カフ本体に、超音波振動子アレイを取り付け、心臓内の血栓等を監視する超音波診断装置のプローブとして用いることを特徴とする流入管用カフ。
【請求項2】
補助人工心臓血液ポンプとともに使用され、該補助人工心臓血液ポンプと心臓とを接続する流入管を内部に挿入した状態で固定する流入管用カフであって、
前記流入管が挿入される所定の内径と外径を持つ第1の円筒部と、
前記第1の円筒部と内径が同じで、前記第1の円筒部よりも外径が大きい第2の円筒部と、
前記第2の円筒部に設けられた超音波振動子アレイと、を備え、
前記第2の円筒部を前記心臓の外壁に取り付ける際に、前記超音波振動子アレイを、心臓の外壁に向けて取り付けることを特徴とした流入管用カフ。
【請求項3】
前記第2の円筒部に設けられた前記超音波振動子アレイは、前記第1の円筒部の軸と直交する平面上に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の流入管用カフ。
【請求項4】
前記第2の円筒部に設けられた前記超音波振動子アレイは、前記第1の円筒部の軸に対して所定の角度を持つ平面上に配置されることを特徴とする請求項3に記載の流入管用カフ。
【請求項5】
前記超音波振動子アレイは、超音波振動子用ケーブルと、該超音波振動子用ケーブルとコネクタにより接続される超音波診断装置用ケーブルを介して接続される超音波診断装置のプローブとしての役割を担うことを特徴とする、請求項4に記載の流入管用カフ。
【請求項6】
前記コネクタは、患者の頭部に配置されることを特徴とする請求項5に記載の流入管用カフ。
【請求項7】
流入管用カフと、該流入管用カフにケーブルで接続される超音波診断装置を有し、心臓内の血栓等を監視する補助人工心臓血液ポンプの監視装置であって、
前記流入管用カフは、
超音波振動子アレイを備え、
前記超音波振動子アレイは、一端にコネクタを有する超音波振動子用ケーブルに接続され、
該超音波振動子用ケーブルのコネクタは、人体の外部と機械的かつ電気的に接続するために体表面に配置されており、前記超音波診断装置に接続するための超音波診断装置用ケーブルに接続され、
前記流入管用カフに配置された前記超音波振動子アレイを心臓の外壁に向けて取り付けることを特徴とする
補助人工心臓血液ポンプの監視装置。
【請求項8】
流入管用カフと、該流入管用カフにケーブルで接続される超音波診断装置を有し、心臓内の血栓等を監視する補助人工心臓血液ポンプの監視装置であって、
前記流入管用カフは、
超音波振動子アレイを備え、
前記超音波振動子アレイは、体内に配置される第1の平面コイルを一端に有する超音波振動子用ケーブルに接続され、
前記超音波診断装置は、体外に配置される第2の平面コイルを一端に有する超音波診断装置用ケーブルと接続され、
前記第1の平面コイルと前記第2の平面コイルとの間で、電磁誘導現象を利用して非接触で信号の接受を行うことを特徴とする
補助人工心臓血液ポンプの監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−201041(P2010−201041A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51350(P2009−51350)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】