説明

流入量予測装置、流入量予測方法、及びプログラム

【課題】流入量を精度良く予測することができるようにする。
【解決手段】流入量予測装置10は、融雪期における貯水池への水の流入量を予測するシステムである。流入量予測装置10は、過去の流入量の実績値に基づいて流入量の予測値を算出する流入量予測部123と、貯水池に対応する地点における最高気温及び最低気温のそれぞれの予測値を取得する気象情報取得部121と、最高気温の予測値が0℃以下の場合には最低気温を、最低気温が0℃以上の場合は最低気温を、それ以外の場合は、最高気温及び最低気温の較差で最高気温を割った値と上記較差で最低気温の絶対値を割った値との合計値を、それぞれ加重気温として算出し、加重気温が所定の閾値以上の場合には流入量の予測値を増加させる流入量予測調整部124と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流入量予測装置、流入量予測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
貯水池の運用に当たり流入量を予測する必要がある。水源となる地域に降雪がある場合には積雪や融雪を考慮して流入量を行う必要がある。例えば特許文献1には、融雪量を考慮して流入量の予測を行うシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−167751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気温に応じて融雪量は変化するが、最高気温が高くても最低気温が低ければ融雪に影響しない場合がある。しかしながら、特許文献1では、融雪が始まる気温を用いてモデルを構築しているため、最高気温が高くても最低気温が低く融雪に影響しないような状況では正確な融雪量を予測することができない。
【0005】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、流入量を精度良く予測することのできる、流入量予測装置、流入量予測方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、融雪期における貯水池への水の流入量を予測するシステムであって、過去の前記流入量の実績値に基づいて前記流入量の予測値を算出する流入量予測部と、前記貯水池に対応する地点における最高気温及び最低気温のそれぞれの予測値を取得する気温取得部と、前記最高気温及び前記最低気温を加算した気温である加重気温を算出し、前記加重気温が所定の閾値以上の場合には前記流入量の予測値を増加させる流入量予測調整部と、を備えることとする。
【0007】
また、本発明の流入量予測システムでは、前記流入量予測調整部は、前記最高気温の予測値が所定値以下の場合には前記最低気温を前記加重気温とし、前記最低気温の予測値が前記所定値以上の場合は前記最低気温を前記加重気温とし、前記最高気温の予測値が前記所定値より大きく、かつ、前記最低気温の予測値が前記所定値未満の場合は、前記最高気温及び前記最低気温の較差で前記最高気温を割った値で前記最高気温に重み付けをし、前記較差で前記最低気温の絶対値を割った値で前記最低気温に重み付けをして前記加重気温を算出するようにしてもよい。
【0008】
また、本発明の流入量予測システムでは、前記気温取得部は、前日の最高気温及び最低気温の実績値を取得し、前記流入量予測調整部は、前日の前記最高気温及び最低気温の実測値から前記加重気温を算出し、前日の前記加重気温と当日の前記加重気温との差が所定値以上である場合には、当該差が当該所定値より小さい場合よりも多く前記流入量の予測値を増加させるようにしてもよい。
【0009】
また、本発明の流入量予測システムでは、前記地点における積雪量の予測値を取得する積雪量取得部を備え、前記流入量予測調整部は、前記積雪量が所定値以上である場合は、前記積雪量が当該所定値より小さい場合よりも多く前記流入量の予測値を増加させるようにしてもよい。
【0010】
また、本発明の流入量予測システムは、天気図が冬型であるか否かの入力を受け付ける冬型入力部と、前記過去の流入量の実績値又は過去の積雪量の実績値に基づいて、過去に前記流入量が増加していたか否かを判定する増加判定部と、をさらに備え、前記流入量予測調整部は、前記天気図が冬型であり、かつ、過去に前記流入量が増加していた場合には、前記流入量の予測値を減少させるようにしてもよい。
【0011】
また、本発明の他の態様は、融雪期における貯水池への水の流入量を予測する方法であって、コンピュータが、過去の前記流入量の実績値に基づいて前記流入量の予測値を算出し、前記貯水池に対応する地点における最高気温及び最低気温のそれぞれの予測値を取得し、前記最高気温の予測値が所定値以下の場合には前記最低気温を、前記最低気温が前記所定値以上の場合は前記最低気温を、それ以外の場合は、前記最高気温及び前記最低気温の較差で前記最高気温を割った値と前記較差で前記最低気温の絶対値を割った値との合計値を、それぞれ加重気温として算出し、前記加重気温が所定の閾値以上の場合には前記流入量の予測値を増加させることとする。
【0012】
また、本発明の他の態様は、融雪期における貯水池への水の流入量を予測するプログラムであって、コンピュータに、過去の前記流入量の実績値に基づいて前記流入量の予測値を算出するステップと、前記貯水池に対応する地点における最高気温及び最低気温のそれぞれの予測値を取得するステップと、前記最高気温の予測値が所定値以下の場合には前記最低気温を、前記最低気温が前記所定値以上の場合は前記最低気温を、それ以外の場合は、前記最高気温及び前記最低気温の較差で前記最高気温を割った値と前記較差で前記最低気温の絶対値を割った値との合計値を、それぞれ加重気温として算出し、前記加重気温が所定の閾値以上の場合には前記流入量の予測値を増加させるステップと、を実行させることとする。
【0013】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流入量を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】流入量予測装置10のハードウェア構成例を示す図である。
【図2】流入量予測装置10のソフトウェア構成を示す図である。
【図3】実績値記憶部131に記憶される実績データの構成例を示す図である。
【図4】流入量予測装置10による実績データの解析処理の流れを示す図である。
【図5】融雪開始気温を決定する処理の流れを示す図である。
【図6】融雪開始時期を決定する処理の流れを示す図である。
【図7】流入量増加加重気温を決定する処理の流れを示す図である。
【図8】流入量増加加重気温前日差を決定する処理の流れを示す図である。
【図9】流入量増加量算出式を決定する処理の流れを示す図である。
【図10】流入量の予測処理の流れを示す図である。
【図11】流入量の増加量を予測する処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係る流入量予測装置10について説明する。本実施形態の流入量予測装置10は、融雪期における貯水池への水の流入量を予測するシステムであり、後述するように、最高気温と最低気温との差に応じた気温(以下、加重気温という。)を算出し、この加重気温に応じた予測式を用いて流入量の予測を行う。なお、以下の説明では、予測対象日は、予測処理を行う時点が属する当日であるものとする。
【0017】
詳細な予測については後述するが、本実施形態の流入量予測装置10では、過去の実績を解析し、積雪量に応じて融雪による流入量が増加する加重気温(以下、流入量増加加重気温という。)を決定し、また前日からの加重気温の変化に応じて流入量が増加する予測式(以下、流入量増加予測式という。)を求めるようにしている。また、上記の流入量増加加重気温や流入量増加予測式などを用いて流入量の増減量を予測し、例えば、過去の実績値に基づいて算出するなどの一般的な手法で予測した流入量に、上記増減量の予測値を加えて流入量の予測値を調整するようにしている。
【0018】
==ハードウェア構成==
図1は、流入量予測装置10のハードウェア構成例を示す図である。流入量予測装置10は、CPU101、メモリ102、記憶装置103、通信インタフェース104、入力装置105、出力装置106を備える。記憶装置103は、各種のデータやプログラムを記憶する、例えばハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリなどである。CPU101は記憶装置103に記憶されているプログラムをメモリ102に読み出して実行することにより各種の機能を実現する。通信インタフェース104は、通信ネットワーク30に接続するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)に接続するためのアダプタ、公衆電話回線網に接続するためのモデム、無線通信網に接続するための無線通信機などである。流入量予測装置10は、通信インタフェース104を介して気象の測定装置(不図示)と接続し、測定装置から積雪量や積雪深、降水量などのデータを受信することができるものとする。入力装置105は、データの入力を受け付ける、例えばキーボードやマウス、トラックボール、タッチパネル、マイクロフォンなどである。出力装置106は、データを出力する、例えばディスプレイやプリンタ、スピーカなどである。流入量予測装置10は複数の入力装置105及び出力装置106を備えるようにすることもできる。
【0019】
==ソフトウェア構成==
図2は、流入量予測装置10のソフトウェア構成を示す図である。流入量予測装置10は、解析部11、予測部12及び記憶部13を備えている。なお、解析部11及び予測部12は、流入量予測装置10が備えるCPU101が記憶装置103に記憶されているプログラムをメモリ102に読み出して実行することにより実現され、記憶部13は、流入量予測装置10が備えるメモリ102や記憶装置103が提供する記憶領域の一部として実現される。
【0020】
==記憶部13==
記憶部13は、実績値記憶部131、予測情報記憶部132を備える。
実績値記憶部131は、流入量を予測するために使用する各種実績値を含むデータ(以下、実績データという。)を記憶する。実績値記憶部131に記憶される実績データの構成例を図3に示す。実績データには、日付に対応付けて、当該日付における積雪量の実績値、融雪量の実績値及び流入量の実績値、前日からの流入量の増加量(増加した場合は正の値が設定され、減少した場合は負の値が設定される。)、当該日付における最高気温及び最低気温の実績値、最高気温及び最低気温に基づいて算出される加重気温、当該加重気温と前日の加重気温との差(加重気温前日差)、天気図に示される気圧配置が冬型であったかどうかを示す冬型フラグが含まれる。積雪量、融雪量及び流入量は、例えば貯水池において実測した測定値である。最高気温及び最低気温は、例えば気象庁や民間気象会社などから取得したデータである。冬型フラグは、オペレータが入力するものとする。加重気温は次式(1)により計算される。

【0021】
すなわち、加重気温は、最高気温が0℃(なお、0℃に限らず任意の所定値としてもよち。)以下の場合には最低気温であり、最低気温が0℃(上記任意の所定値としてもよい。)以上の場合には最高気温であり、それ以外の場合には、最高気温及び最低気温の較差で最高気温を割った値と、上記較差で最低気温の絶対値を割った値との合計値である。
【0022】
予測情報記憶部132は、流入量の増減量を予測するために必要な情報(以下、予測情報ともいう。)を記憶する。予測情報記憶部132には、融雪が始まる最高気温(以下、融雪開始最高気温という。)や、融雪が始まる日付(以下、融雪開始日という。)、融雪の始まりを決定するための所定の閾値(以下、融雪閾値という。)、融雪の水が凍結することにより減少する流入量(以下、凍結減少量という。)、流入量増加加重気温、流入量増加加重気温を決定するための所定の閾値(以下、第1増加閾値という。)、融雪による流入量が増加する加重気温前日差(以下、流入量増加加重気温前日差という。)、流入量増加荷重気温前日差を決定するための所定の閾値(以下、第2増加閾値という。)、流入量の増減量を予測するための統計モデル(以下、流入量増加量算出式という。)などを記憶する。
【0023】
==解析部11==
解析部11は、実績値記憶部131に記憶されている実績データを解析して、積雪や融雪に応じた流入量の増減量を予測するための予測式やパラメータなどを算出する。解析部11は、融雪開始最高気温決定部111、融雪開始時期決定部112、流入量増加加重気温決定部113、流入量増加加重気温前日差決定部114、流入量増加予測式算出部115を備える。
【0024】
融雪開始最高気温決定部111は、融雪開始気温を決定し、決定した融雪開始気温を予測情報記憶部132に登録する。融雪開始最高気温決定部111は、実績値記憶部131から、各年にについて当該年に対応する実績データのうち融雪量が融雪閾値以上となるものに含まれる最高気温の中で最も低いものを読み出し、読み出した最高気温を平均して融雪開始最高気温を決定する。なお、最高気温の中央値や最多値などを融雪開始最高気温としてもよい。
【0025】
融雪開始時期決定部112は、融雪開始日を決定し、決定した融雪開始日を予測情報記憶部132に登録する。また、融雪開始時期決定部112は、凍結減少量を決定する。融雪開始時期決定部112は、実績値記憶部131から、各年について当該年に対応する実績データのうち融雪量が融雪閾値以上となるものに含まれる日付の中で最先のものを読み出し、読み出した日付の月日を平均して融雪開始日を決定する。なお、日付の中央値や最多値などを融雪開始日としてもよい。融雪開始時期決定部112は、日付の月日が融雪開始日以降であり、かつ、冬型フラグが「真」である実績データの増加流入量を読み出し、読み出した増加流入量を平均して凍結減少量を決定する。なお、冬型の気圧配置の場合には、気温が下がり、融雪が始まっていてもその融雪による水が凍ってしまうことが多いため、上記の増加流入量の平均値は負の値になると期待される。
【0026】
流入量増加加重気温決定部113は、積雪量に応じて流入量増加加重気温を決定し、決定した流入量増加加重気温を予測情報記憶部132に登録する。本実施形態では、積雪量は所定のステップ値(以下、積雪ステップ量という。)ごとに増やすものとする。すなわち、流入量増加加重気温決定部113は、積雪量1を積雪ステップ量ごとに増加させて、各年について当該年に対応する実績データのうち積雪量が上記積雪量1以上であり、かつ、当該積雪量1に積雪ステップ量を加算した積雪量2より小さく、また、増加流入量が第1増加閾値以上となるものに含まれる加重気温の中で最も低いものを読み出し、読み出した加重気温を平均して流入量増加加重気温を決定する。なお、上記加重気温の中央値や最多値などを流入量増加加重気温としてもよい。加重気温が流入量増加加重気温を超えなければ、加重気温が流入量増加加重気温以上の場合に比べて増加しない、あるいは全く増加しないことが期待される。そこで、本実施形態では、加重気温が流入量増加加重気温を超えない場合には流入量は増加しない(予測増減流入量が0である。)こととしている。
【0027】
流入量増加加重気温前日差決定部114は、流入量増加加重気温前日差を決定し、決定した流入量増加加重気温前日差を予測情報記憶部132に登録する。流入量増加加重気温前日差決定部114は、実績値記憶部131から、各年について当該年に対応する実績データのうち増加流入量が第2増加閾値(なお、第2増加閾値は上記第1増加閾値よりも大きい値であるものとする。)以上となるものに含まれる加重気温前日差の中で最も低いものを読み出し、読み出した加重気温前日差を平均して流入量増加加重気温前日差を決定する。なお、上記加重気温の中央値や最多値などを流入量増加加重気温前日差としてもよい。加重気温の前日からの変化が大きい場合には、流入量も大きくなることが期待される。そこで、本実施形態では、加重気温前日差が流入量増加加重気温前日差以上となるか否かにより異なる流入量増加量算出式を用いて流入量の増加量(予測増減流入量)を算出するようにしている。
【0028】
流入量増加予測式算出部115は、流入量増加量算出式を作成する。流入量増加予測式算出部115は、過去の流入量増加量の近似式を求めて流入量増加量算出式とする。流入量増加予測式算出部115は、実績データのうち、加重気温が上記積雪量ごとの流入量増加加重気温以上であり、かつ、加重気温前日差が上記流入量増加加重気温前日差以上となっているものに含まれる流入量増加量を読み出し、読み出した流入量増加量に対する近似式を求めて、積雪量に対応する流入量増加量算出式を決定する。また、流入量増加予測式算出部115は、実績データのうち、加重気温前日差が流入量増加加重気温前日差よりも小さいものに含まれる流入量増加量を読み出し、読み出した流入量増加量についても近似式を求めて、加重気温前日差が大きくない場合の流入量増加量算出式(以下、デフォルト流入量増加量算出式という。)を決定する。流入量増加予測式算出部115は、上記積雪量ごとの流入量増加量算出式及びデフォルト流入量増加量算出式を予測情報記憶部132に登録する。なお、加重気温前日差が流入量増加加重気温前日差以上となる場合に、積雪量ごとの流入量増加量算出式を用いて算出される流入量の増加量は、デフォルト流入量増加量算出式を用いて算出される流入量の増加量よりも多いことが期待される。
【0029】
==予測部12==
予測部12は、流入量の予測を行う。予測部12は、気象情報取得部121、気圧配置入力部122、流入量予測部123、流入量予測調整部124を備える。
【0030】
気象情報取得部121は、気象庁や気象会社などから予測対象日の、貯水池に対応する所定の気象予報地点における気象予報に関する情報(以下、気象情報という。)を取得する。なお、気象情報取得部121による気象情報の取得処理は一般的なものであるものとする。本実施形態では、気象情報には、天気図、最高気温、最低気温、降水量、降雪量、積雪量の予報値が含まれているものとする。なお、積雪量の予報値は、例えば積雪量の測定装置から取得するようにしてもよい。本実施形態では、貯水池に対応する地点は、予め設定されているものとするが、ユーザから指定を受け付けるようにしてもよい。
【0031】
気圧配置入力部122は、予測対象日の気圧配置が冬型であるか否かの冬型フラグの入力を受け付ける。気象情報取得部121が予測対象日の予報天気図を取得できた場合、気圧配置入力部122は、予報天気図を表示して、ユーザが予報天気図を見て気圧配置が冬型か否かを判断できるようにし、当該判断の結果を受け付けるようにすることができる。
【0032】
流入量予測部123は、気象情報及び実績データの少なくともいずれかに基づいて流入量の予測を行う。流入量予測部123による予測処理には一般的なものを用いることができる。例えば、流入量予測部123は、予測対象日と月及び日が同じ実績データの流入量の平均値や中央値などを流入量の予測値としたり、実績データのうち、予測対象日の最高気温の予報値との差が所定値以内の最高気温を含み、かつ、予測対象日の最低気温の予報値との差が所定値以内の最低気温を含む実績データの流入量の平均値や中央値などを流入量の予測値としたりすることができる。なお、流入量予測部123は、実績データに基づかず、気象予報に基づいて流入量を予測するようにしてもよい。
【0033】
流入量予測調整部124は、積雪量や加重気温に応じて流入量の増減量の予測値(以下、予測増減流入量という。)を算出する。予測増減流入量の算出処理の詳細については後述する。
【0034】
==解析処理==
以下、流入量予測装置10において行われる処理について説明する。
図4は、流入量予測装置10による実績データの解析処理の流れを示す図である。
【0035】
融雪開始最高気温決定部111は、図5に示す融雪開始気温の決定処理を行う(S31)。融雪開始最高気温決定部111は、各年について、当該年に対応する日付の実績データを読み出し(S311)、読み出した実績データのうち融雪量が融雪閾値以上となるものに含まれる最高気温の最低値を抽出する(S312)。融雪開始最高気温決定部111は、抽出した最高気温の最低値を平均して融雪開始最高気温とし(S313)、融雪開始最高気温を予測情報記憶部132に登録する(S314)。
【0036】
融雪開始時期決定部112は、図6に示す融雪開始時期の決定処理を行う(S32)。すなわち、融雪開始時期決定部112は、各年について、当該年に対応する日付の実績データを読み出し(S321)、読み出した実績データのうち融雪量が融雪閾値以上となるものに含まれる日付の中で最先の日付を抽出する(S322)。融雪開始時期決定部112は、抽出した日付の月日を平均して融雪開始日とする(S323)。次に、融雪開始時期決定部112は、日付の月日が融雪開始日以降となる実績データのうち、冬型フラグが「真」となるものに含まれる増加流入量を読み出し(S324)、読み出した増加流入量を平均して凍結減少量とする(S325)。融雪開始時期決定部112は、融雪開始日及び凍結減少量を予測情報記憶部132に登録する(S326)。
【0037】
流入量増加加重気温決定部113は、図7に示す流入量増加加重気温の決定処理を行う(S33)。流入量増加加重気温決定部113は、積雪量1及び積雪量2にそれぞれ0(ゼロ)及び所定の積雪ステップ量を設定し(S331)、実績値記憶部131から、積雪量が積雪量1以上でありかつ積雪量2未満である実績データを読み出す(S332)。実績値記憶部131は、各年について、上記読み出した実績データから当該年に対応するものを抽出し(S333)、抽出した実績データに含まれる増加流入量が第1増加閾値以上となるものに含まれる加重気温の中で最低値を抽出する(S334)。流入量増加加重気温決定部113は、抽出した加重気温の最低値を平均して、積雪量1から積雪量2までの積雪量に対応する流入量増加加重気温(以下、流入量増加加重気温(積雪量)と表記する。)を算出する(S335)。流入量増加加重気温決定部113は、積雪量1及び積雪量2にそれぞれ積雪ステップ量を加算し(S336)、積雪量1が所定の上限値(以下、最大積雪量という。)未満であれば(S337:NO)、ステップS332からの処理を繰り返す。積雪量1が最大積雪量以上になると(S337:YES)、流入量増加加重気温決定部113は、0から最大積雪量未満の積雪ステップ量ごとの各積雪量についての流入量増加加重気温(積雪量)を予測情報記憶部132に登録する。
【0038】
流入量増加加重気温前日差決定部114は、図8に示す流入量増加加重気温前日差の決定処理を行う(S34)。流入量増加加重気温前日差決定部114は、0から最大積雪量未満の積雪ステップ量ごとの各積雪量について、実績値記憶部131から、加重気温が流入量増加加重気温(積雪量)以上となる実績データを読み出す(S341)。流入量増加加重気温前日差決定部114は、各年について、上記読み出した実績データから当該年に対応するものを抽出し(S342)、抽出した実績データに含まれる増加流入量が第2増加閾値以上となるものに含まれる加重気温前日差の中で最低値を抽出する(S343)。流入量増加加重気温前日差決定部114は、抽出した加重気温前日差の最低値を平均して、積雪量に対応する流入量増加荷重気温前日差(以下、流入量増加荷重気温前日差(積雪量)と表記する。)を算出する(S344)。以上の処理を繰り返した後、流入量増加加重気温前日差決定部114は、0から最大積雪量未満の積雪ステップ量ごとの各積雪量について、積雪量に応じた流入量増加加重気温前日差(積雪量)を予測情報記憶部132に登録する(S345)。
【0039】
流入量増加予測式算出部115は、図9に示す流入量増加量算出式の決定処理を行う(S35)。流入量増加予測式算出部115は、0から最大積雪量未満の積雪ステップ量ごとの各積雪量について、実績値記憶部131から、加重気温前日差が流入量増加加重気温前日差(積雪量)となる実績データを読み出し(S351)、読み出した実績データに含まれる加重気温を説明変数とし、増加流入量を目的変数とする近似式を算出して、積雪量に応じた流入量増加量算出式(以下、流入量増加量算出式(積雪量)と表記する。)を求める(S352)。近似式は、一般的な近似処理により求めることができる。例えば、最小二乗法により算出するようにしてもよい。また、流入量増加量算出式は、任意の次数とすることもできる。流入量増加予測式算出部115は、0以上最大積雪量未満の積雪ステップ量ごとの各積雪量について流入量増加量算出式(積雪量)を予測情報記憶部132に登録するとともに、デフォルト流入量増加量算出式を予測情報記憶部132に登録する(S355)。
【0040】
以上のようにして予測情報が予測情報記憶部132に登録される。
【0041】
==予測処理==
図10は、本実施形態の流入量予測装置10による流入量の予測処理の流れを示す図である。
【0042】
流入量予測調整部124が予測対象日の入力を受け付けると(S401)、気象情報取得部121が気象情報を取得し(S402)、気圧配置入力部122は、取得した気象情報に含まれる天気図を表示して、オペレータから冬型フラグの入力を受け付ける(S403)。流入量予測部123は、気象情報や実績データに基づいて流入量を予測する(S403)。なお、流入量の予測処理には公知の手法を採用することができる。
【0043】
入力された冬型フラグが「真」の場合(S404:YES)、流入量予測調整部124は、予測対象日の月日が融雪開始日以降であるか否かを判定し(S406)、融雪開始日以降であれば(S406:YES)、凍結減少量を予測増減流入量とし(S407)、融雪開始日より後であれば(S406:NO)、予測増減流入量は0にする(S408)。
【0044】
冬型フラグが「偽」の場合(S404:NO)、流入量予測調整部124は、気象情報に含まれる最高気温の予報値が融雪開始最高気温以上であり(S409:YES)、気象情報に含まれる降水量の予報値が0より大きい場合、又は降雪量の予測値が0の場合には(S410:YES)、予測増減流入量を0とする(S411)。流入量予測調整部124は、最高気温の予報値が融雪開始最高気温未満であるか(S409:NO)、予報降雪量が0より大きい場合には(S410:NO)、図11に示す流入量増加予測処理により予測増減流入量を予測し(S412)、流入量予測部123が予測した流入量に予測増減流入量を加算することで流入量の予測値を調整する(S413)。
【0045】
図11は、流入量増加予測処理の流れを示す図である。流入量予測調整部124は、気象情報に含まれる積雪量の予報値を積雪ステップ量単位に丸めて予測積雪量とし(S421)、気象情報に含まれる最高気温及び最低気温の予報値を上記式(1)に適用して予測加重気温を算出する(S422)。流入量予測調整部124は、流入量増加加重気温(予測積雪量)を予測情報記憶部132から読み出し、予測加重気温が流入量増加加重気温(積雪量)未満であれば(S423:NO)、予測増減流入量を0とする(S424)。
【0046】
流入量予測調整部124は、予測加重気温が流入量増加加重気温(予測積雪量)以上であれば(S423:YES)、予測対象日の前日の加重気温を実績値記憶部131から読み出し、予測加重気温から読み出した加重気温を引いた値を予測前日差とする(S425)。なお、予測対象日の前日の加重気温が実績値記憶部131に登録されていない場合には、気象情報取得部121が予測対象日の前日の気象情報を取得し、この気象情報に含まれる最高気温及び最低気温を式(1)に適用して前日の加重気温を算出するようにする。
【0047】
流入量予測調整部124は、流入量増加加重気温前日差(予測積雪量)を予測情報記憶部132から読み出し、上記算出した予測前日差が流入量増加加重気温前日差(予測積雪量)以上であれば(S426:YES)、予測情報記憶部132から流入量増加量算出式(予測積雪量)を読み出し、読み出した流入量増加量算出式(予測積雪量)に予測加重気温を適用して予測増減流入量を算出する(S427)。
【0048】
流入量予測調整部124は、予測前日差が流入量増加加重気温前日差(予測積雪量)未満であれば(S426:NO)、予測情報記憶部132からデフォルト流入量増加量算出式を読み出し、予測加重気温をデフォルト流入量増加量算出式に適用して予測増減流入量を算出する(S428)。
【0049】
以上のようにして、本実施形態の流入量予測装置10によれば、流入量予測調整部124が融雪により増加又は減少する流入量の増減分(予測増減流入量)を求め、これにより流入量予測部123が算出した流入量の予測値を調整することができる。すなわち、融雪を考慮して流入量の予測値を調整することができる。したがって、流入量の予測精度を向上することができる。
【0050】
また、本実施形態では、単純な最高気温や最低気温、平均気温を用いて流入量の増加具合を判定せず、上記式(1)のようにして求められる加重気温を用いて流入量の増加具合を判定するようにしている(図11のS423、S426など)。最高気温が高くても最低気温が低ければ融雪に影響しない場合があるが、本実施形態の流入量予測装置10によれば、最高気温と最低気温との差を用いて、最高気温及び最低気温に重み付けを行った上で、加重気温を算出しているので、最高気温が高くても最低気温が低いような場合には、加重気温も低くなるようにすることができるので、融雪による流入量の増加量を精度良く予測することができる。よって、最終的な流入量の予測値の精度をも向上することができる。
【0051】
また、本実施形態では、加重気温により最高気温及び最低気温を評価し、加重気温が流入量増加加重気温以上となるかどうかにより、積雪となるか融雪となるかの判断を行うことができる。一般に、積雪となるか融雪となるかの判断が難しい状況では予測の精度も下がるところ、本実施形態の流入量予測装置10によれば、加重気温を用いて積雪か融雪かの判定を行った上で流入量の増減分を予測することができるので、流入量の予測精度を向上することができる。
【0052】
また、本実施形態では、気圧配置が冬型である場合には、融雪により増加するはずの流入量が凍結により減少することを考慮して、流入量が減少するように流入量の予測値を調整することができる。これにより、流入量の予測値の精度を向上することができる。
【0053】
また、本実施形態では、最高気温の予報値が融雪開始最高気温未満である場合や、降水予報がない場合(降水量が0である場合)にのみ、流入量の増加又は減少の予測を行うようにしている。最高気温が高く、降水量が予報されている場合には、融雪に応じた流入量の予測は比較的精度良く行われることが期待されるが、本実施形態の流入量予測装置10では、積雪となるか融雪となるかの判断が難しい状況についてのみ流入量の増加又は減少の予測を行うことができる。したがって、正しく予測されている流入量の予測値を変動させることなく、流入量の予測精度を向上することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、1台のコンピュータにより流入量予測装置10が実現されるものとしたが、複数のコンピュータにより実現するようにしてもよい。例えば、解析部11、予測部12及び記憶部13をそれぞれ別のコンピュータに実現させるようにすることもできる。
【0055】
また、本実施形態では、実績値記憶部131に記憶されている実績データに基づいて融雪開始気温、融雪開始日、流入量増加加重気温、流入量増加加重気温前日差などの閾値を決定するものとしたが、これらの閾値をオペレータから入力するようにしてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、実績値記憶部131に記憶されている実績データから近似式を求めるようにしたが、ユーザから、加重気温を説明変数とし、増加流入量を目的変数とする統計モデルを受け付けるようにして、入力された統計モデルの係数を実績データに基づいて推計するようにしてもよい。また、算出式(1)をユーザから入力するようにしてもよい。この場合、算出式(1)は、積雪量が多いほど増加流入量が大きくなり、加重気温が高いほど増加流入量が大きくなるようなモデルであればよい。
【0057】
また、本実施形態では、加重気温は算出式(1)により求めるものとしたが、これに限らず、最高気温と最低気温とに応じた温度であって、最高気温が高くなるほど高くなり、最低気温が低くなるほど低くなればよい。したがって、加重気温=最高気温+最低気温として算出するようにしてもよい。
【0058】
また、積雪量に代えて積雪の深さ(積雪深)を用いるようにしてもよい。この場合、単純に積雪量を積雪深と置き換え、雪量の単位を容積から長さに変更すればよい。
【0059】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10 流入量予測装置
11 解析部
111 融雪開始最高気温決定部
112 融雪開始時期決定部
113 流入量増加加重気温決定部
114 流入量増加加重気温前日差決定部
115 流入量増加予測式算出部
12 予測部
121 気象情報取得部
122 気圧配置入力部
123 流入量予測部
124 流入量予測調整部
13 記憶部
131 実績値記憶部
132 予測情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融雪期における貯水池への水の流入量を予測するシステムであって、
過去の前記流入量の実績値に基づいて前記流入量の予測値を算出する流入量予測部と、
前記貯水池に対応する地点における最高気温及び最低気温のそれぞれの予測値を取得する気温取得部と、
前記最高気温及び前記最低気温を加算した気温である加重気温を算出し、前記加重気温が所定の閾値以上の場合には前記流入量の予測値を増加させる流入量予測調整部と、
を備えることを特徴とする流入量予測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の流入量予測システムであって、
前記流入量予測調整部は、
前記最高気温の予測値が所定値以下の場合には前記最低気温を前記加重気温とし、
前記最低気温の予測値が前記所定値以上の場合は前記最低気温を前記加重気温とし、
前記最高気温の予測値が前記所定値より大きく、かつ、前記最低気温の予測値が前記所定値未満の場合は、前記最高気温及び前記最低気温の較差で前記最高気温を割った値で前記最高気温に重み付けをし、前記較差で前記最低気温の絶対値を割った値で前記最低気温に重み付けをして前記加重気温を算出すること、
を特徴とする流入量予測システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流入量予測システムであって、
前記気温取得部は、前日の最高気温及び最低気温の実績値を取得し、
前記流入量予測調整部は、前日の前記最高気温及び最低気温の実測値から前記加重気温を算出し、前日の前記加重気温と当日の前記加重気温との差が所定値以上である場合には、当該差が当該所定値より小さい場合よりも多く前記流入量の予測値を増加させること、
を特徴とする流入量予測システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の流入量予測システムであって、
前記地点における積雪量の予測値を取得する積雪量取得部を備え、
前記流入量予測調整部は、前記積雪量が所定値以上である場合は、前記積雪量が当該所定値より小さい場合よりも多く前記流入量の予測値を増加させること、
を特徴とする流入量予測システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の流入量予測システムであって、
天気図が冬型であるか否かの入力を受け付ける冬型入力部と、
前記過去の流入量の実績値又は過去の積雪量の実績値に基づいて、過去に前記流入量が増加していたか否かを判定する増加判定部と、
をさらに備え、
前記流入量予測調整部は、前記天気図が冬型であり、かつ、過去に前記流入量が増加していた場合には、前記流入量の予測値を減少させること、
を特徴とする流入量予測システム。
【請求項6】
融雪期における貯水池への水の流入量を予測する方法であって、
コンピュータが、
過去の前記流入量の実績値に基づいて前記流入量の予測値を算出し、
前記貯水池に対応する地点における最高気温及び最低気温のそれぞれの予測値を取得し、
前記最高気温及び前記最低気温を加算した気温である加重気温を算出し、前記加重気温が所定の閾値以上の場合には前記流入量の予測値を増加させること、
を特徴とする流入量予測方法。
【請求項7】
請求項6に記載の流入量予測方法であって、
前記コンピュータは、
前記最高気温の予測値が所定値以下の場合には前記最低気温を前記加重気温とし、
前記最低気温の予測値が前記所定値以上の場合は前記最低気温を前記加重気温とし、
前記最高気温の予測値が前記所定値より大きく、かつ、前記最低気温の予測値が前記所定値未満の場合は、前記最高気温及び前記最低気温の較差で前記最高気温を割った値で前記最高気温に重み付けをし、前記較差で前記最低気温の絶対値を割った値で前記最低気温に重み付けをして前記加重気温を算出すること、
を特徴とする流入量予測方法。
【請求項8】
融雪期における貯水池への水の流入量を予測するプログラムであって、
コンピュータに、
過去の前記流入量の実績値に基づいて前記流入量の予測値を算出するステップと、
前記貯水池に対応する地点における最高気温及び最低気温のそれぞれの予測値を取得するステップと、
前記最高気温の予測値が所定値以下の場合には前記最低気温を、前記最低気温が前記所定値以上の場合は前記最低気温を、それ以外の場合は、前記最高気温及び前記最低気温の較差で前記最高気温を割った値と前記較差で前記最低気温の絶対値を割った値との合計値を、それぞれ加重気温として算出し、前記加重気温が所定の閾値以上の場合には前記流入量の予測値を増加させるステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムであって、
前記流入量の予測値を増加させるステップにおいて、前記コンピュータに、
前記最高気温の予測値が所定値以下の場合には前記最低気温を前記加重気温とし、
前記最低気温の予測値が前記所定値以上の場合は前記最低気温を前記加重気温とし、
前記最高気温の予測値が前記所定値より大きく、かつ、前記最低気温の予測値が前記所定値未満の場合は、前記最高気温及び前記最低気温の較差で前記最高気温を割った値で前記最高気温に重み付けをし、前記較差で前記最低気温の絶対値を割った値で前記最低気温に重み付けをして前記加重気温を算出するようにさせること、
を特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−79530(P2013−79530A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220335(P2011−220335)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)