説明

流動床反応器中で塩素を製造する方法

流動床反応器中て塩素を製造する方法であって、流動床反応器中では、塩化水素と酸素とを含むガス状反応混合物が、下方から流動床を形成している不均一粒子状触媒を通して上向きに流れ、該流動床は内部構造物を有し、これにより流動床が、流動床反応器中に水平にならび流動床反応器中に垂直に配置された複数の反応室に分割され、該反応室が、ガスを通過させ、不均一粒子状触媒の垂直方向の交換値が、確実に反応器容量1リットル当たり1〜100リットル/時となるようにさせる開口部を有する反応室壁面を持つことを特徴とする方法が、提案されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床反応器中でディーコン法により塩素を製造する方法であって、塩化水素と酸素とを含むガス状の反応混合物が下方から、流動床を形成している不均一粒子状触媒上を上向きに流れる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、ディーコン法は、塩化水素を酸素で酸化して塩素を製造する方法であり、英国人科学者ヘンリー・ディーコンにより1868に特許出願されたものである。この反応は発熱性であり、その反応エンタルピーは−114.8kJ/molであり、また平衡反応であって反応は完結までに至らず、その平衡変換率は温度上昇とともに低下する。しかしながら、工業用途向けに十分に高い反応速度を確保するには、反応温度を少なくとも450℃にまであげる必要がある。しかしながら、ディーコンにより発見されたこの銅系触媒は、このような温度では不安定であった。
【0003】
いろいろな開発が、特にできる限り低温で高活性な触媒に関するいろいろな開発が行われた。その例としては、例えばUS4,828,815に記載のような、硝酸クロムや塩化クロム、有機酸クロム塩とアンモニアとの反応で得られた化合物を、あるいは上記化合物とケイ素化合物の混合物を焼成して、好ましくは800℃未満の温度で焼成して得られたクロム系触媒があげられる。
【0004】
低温で有効な他の触媒としては、例えばGB−B1,046,313に記載されているような、ルテニウム化合物、特にルテニウム塩化物系触媒で、好ましくは支持体上に坦持されたものがあげられる。他のディーコン法用のルテニウム系触媒は、DE−A19748299に対応する坦持酸化ルテニウム触媒または坦持ルテニウム複合酸化物型触媒であり、酸化ルテニウム含量が0.1〜20重量%であり、酸化ルテニウムの平均粒子径が1.0〜10.0nmであるものである。
【0005】
坦持銅化合物を触媒として用いるディーコン反応を実施するに当たっての流動床反応器の使用については、シェル塩素法、J. T. Quant et al., The Chemical Engineer, July/August 1963, pages CE 224 −CE232に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を考えるに、本発明の目的は、収率と選択性の改善が可能な流動床反応器中でのディーコン法の実施方法を提供することである。本目的は、流動床反応器中て塩素を製造する方法であって、流動床反応器中では、塩化水素と酸素とを含むガス状反応混合物が、下方から流動床を形成している不均一粒子状触媒を通して上向きに流れ、該流動床は内部構造物を有し、これにより流動床が、流動床反応器中に水平にならび流動床反応器中に垂直に配置された複数の反応室に分割され、該反応室が、ガスを通過させ、不均一粒子状触媒の垂直方向の交換値が、確実に反応器容量1リットル当たり1〜100リットル/時となるようにさせる開口部を有する反応室壁面を持つことを特徴とする方法により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により用いる流動床は、改善された、特に滞留時間特性が改善された内部構造物を有し、不均一粒子状触媒が、ガス流と較べてかなり長期間にわたり、約10の二乗倍以上の期間、局所的に存在する。その結果として、質量移動が改善され変換率が増加する。
【0008】
流動床を反応室(セル)に分割することが、具体的にはガスを通過させるガス透過性壁面をもち固体を流動床反応器中で垂直方向に交換させることが可能な開口部を有する反応室の内部構造物で、流動床を水平および垂直の両方向に、反応室壁面(セル壁面)により覆われた中空空間に分割することが重要であることが明らかとなった。また、この反応室壁面は、固体が水平方向に交換可能が開口部を備えていても良い。したがって、不均一粒子状触媒が、流動床反応器中で垂直方向にまた水平方向に移動可能となるが、このような開口部を持たない流動床と較べると、個々の反応室内で保持され、上記の交換値が保証されることとなる。
【0009】
この交換値は、例えば、G. Reed 「工業プロセス設備の問題解決のための放射性同位元素法」、第9章(滞留時間の測定と滞留時間の分布)、p. 112−137, (J.S. Charlton, ed.), Leonard Hill, Glasgow and London 1986, (ISBN 0−249− 44171−3)に記載のように、流動化された反応系に導入された照射線標識した固体トレーサー粒子を用いて測定される。これらの放射線標識した粒子の時間と位置を記録することで、局所的な固体の動きの測定が可能となり、交換値の計算が可能となる(G. Reed in: 「工業プロセス設備の問題解決のための放射性同位元素法」,第11章(いろいろな放射性同位元素法)、11.1.「混合法」), p. 167−176, (J. S. Charlton, ed.), Leonard Hill, Glasgow and London 195S, (ISBN U−249−441 /I−3)。
【0010】
反応室の幾何学的な配置をうまく選択することにより反応室中の不均一粒子状触媒の滞留時間を、特定の場合の反応の特徴に合わせることができる。
【0011】
複数の反応室を直列配列すると、すなわち、特に床高の、つまり反応器を通して下方から上向きに流れるガスの垂直流動方向の、メートル当たり0〜100個の反応室、または10〜50個の反応室を直列配列すると、逆混合を制限し、選択性と変換率を向上させることとなる。さらに複数の反応室を配列させると、即ち流動床反応器の水平方向のメートル当たり10〜100個の反応室、または10〜50個の反応室を配列させると、すなわち内部を反応混合物が並列または直列で流れる反応室配列とすると、反応器の性能を必要な量に調和させることとなる。したがって、本発明の反応器の性能を、制限されることなく、具体的な要件、例えば工業スケールでの反応のための要件に調和させることができる。
【0012】
反応室が粒子状不均一触媒を入れる中空空間を覆っているため、反応室の材料自体は、流動床反応器の断面のほんの一部を、具体的には流動床反応器の断面積の約1〜10%を占めるのみであるため、先行技術の内部構造物の場合に認められる断面占有率の増大に伴う欠点が引起されることがない。
【0013】
本発明の方法で用いられる流動床反応器には、従来と同様に、ガス状の出発原料がガス分配器を経由して下方(底部)から供給される。このガス状出発原料は、反応ゾーンを通過中に、ガス流で流動化されている不均一粒子状触媒上で部分的に反応させられる。部分的に反応した出発原料は次の反応室に流入し、さらに部分的な反応を起こす。
【0014】
反応ゾーンの上には、固体分離装置があり、同伴する触媒を気相から分離する。反応生成物は、固体を含まない形で、本発明の流動床反応器の上端から出て行く。
【0015】
また、本発明により用いる流動床に、液体出発原料を下方あるいは側面から供給してもよい。しかしながら、触媒の流動性を確保するには、これらの液体を導入直後に気化させることができる必要がある。
【0016】
ディーコン法で用いられる既知の不均一粒子状の坦持または非坦持触媒を、特に一種以上のルテニウム、銅またはクロム化合物を含む触媒を、触媒として使用することができる。
【0017】
反応室の形状に制限はなく、これらの反応室は、例えば、円形壁面を持つ反応室、特に中空球状の反応室であってもよいし、角状壁面を持つ反応室であってもよい。壁面が角状である場合は、反応室の持つ角の数は、好ましくは50個以下、好ましくは30個以下、特に好ましくは10個以下である。
【0018】
内部構造物の反応室の反応室壁面はガス透過性であり、反応室を流れる気相により不均一粒子状触媒が確実に流動化するようになっている。このため、反応室壁面が、例えば円状などの開口部を有する織布状メッシュやシート状材料でできていてもよい。
【0019】
なお、用いる織布状メッシュのメッシュ状開口部の大きさ、または好ましい反応室壁面の開口部の幅は、特に、50〜1mmであり、より好ましくは10〜1mmであり、特に好ましくは5〜1mmである。
【0020】
流動床の内部構造物としては、流路横断型充填材の使用が特に好ましく、具体的には、折りたたんだガス透過性の金属シート、発泡金属シートまたは織布状メッシュを有する充填材で、流動床反応器中で垂直方向に相互に平行に並べられ、垂直方向に対してゼロではない傾斜角度を持つ折り目間平坦部を与える折り目を持ち、連続する金属シート、発泡金属シートまたは織布状メッシュの折り目間平坦部が、逆方向の同一の傾斜角度を持ち、折り目間のくびれにより垂直方向に区切られた反応室を形成する充填材を使用することが特に好ましい。
【0021】
流路横断型の充填材の例としては、スルザー社(CH−8404、ウィンタートゥール)のメルパック(R)CYまたはBX型の充填材や、モンズ社(D−40723、ヒルデン)のA3、BSH、B1、またはM型の充填材があげられる。
【0022】
これらの折り目構造の結果、流路横断型充填材中では、折り目間のくびれにより区切られた中空空間、即ち反応室が、二枚の連続する金属シート、発泡金属シートまたは織布状メッシュ間で、縦方向に形成される。
【0023】
反応室の平均水力直径、例えば上述の交換値の測定に関して述べた引用文献に記載されている放射性トレーサー法で求めた平均水力直径は、好ましくは500〜1mmの範囲であり、より好ましくは100〜5mm、特に好ましくは50〜5mmの範囲である。
【0024】
なお、この水力直径は、従来どおり、反応室の水平方向の断面積の4倍を上から見た反応室の円周で割った値と定義する。
【0025】
反応室の平均高さ、具体的には放射線トレーサー法により求められた流動床反応器中の垂直方向の平均高さは、好ましくは100〜1mmであり、より好ましくは100〜3mm、特に好ましくは40〜5mmである。
【0026】
上記の流路横断型充填材は、流動床反応器断面積のほんの一部を占めるのみであり、具体的には約1〜10%の部分を占めるのみである。
【0027】
折り目間の平坦部の垂直方向に対する傾斜角度は、10〜80°の範囲であり、特に20〜70°、特に好ましくは30〜60°の範囲である。
【0028】
金属シート、発泡金属シートまたは織布状メッシュ中の折り目間の平坦部では、折り目高さが100〜3mmの範囲、特に好ましくは40〜5mmであり、折り目のくびれの間隔は、50〜2mmの範囲であり、特に好ましくは20〜3mmの範囲である。
【0029】
反応温度を目的通り制御するために、吸熱反応の場合熱を導入するためのあるいは発熱反応の場合熱を除くための熱交換器を、反応室を形成する内部構造物に設置してもよい。この熱交換器は、例えば板状あるいはチューブ状であってもよく、流動床反応器中で垂直な状態であっても、水平、あるいは傾いた状態であってもよい。
【0030】
伝熱面積は、具体的な反応に合わせることができる。このように熱設計により、どのような反応でも本発明の反応器で実施可能となる。
【0031】
反応室を形成する内部構造物は、非常に高熱伝導性の材料でできており、反応室壁面での熱輸送が妨げられないようになっていることが好ましい。したがって、本発明の反応器の熱伝導性は、従来の流動床反応器のものに相当する。
【0032】
反応室を形成する内部構造物の材料は、反応条件下で十分な安定性を持つ必要がある。特に、化学的ストレスや熱的ストレスに対する抵抗性ばかりか、流動化された触媒による機械的な攻撃に対する抵抗性を考慮する必要がある。
【0033】
作業性が良いため、金属、セラミック、ポリマー、またはガラス材料が特に有用である。
【0034】
流動床の体積の10〜90%が反応室となるように、内部構造物を取り付けることが好ましい。
【0035】
なお、ガス状反応混合物の流動方向における流動床下部の領域には、内部構造物を形成しないことが好ましい。
【0036】
流動床を反応室に区切る内部構造物は、熱交換器の上に位置していることが特に好ましい。これにより、特にこの滞留変換を増加させることができる。
【0037】
反応室を形成する内部構造物が断面のほんの一部を占めるのみであるため、本発明の反応室は、流動状粒子状触媒の混合防止と排出の点での欠点を持たない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明により用いる流動床反応器の好ましい一実施様態を模式的に示すものであり、
【図2】図2は、本発明により用いる内部構造物の好ましい一実施様態を模式的に示すものである。
【0039】
本発明を、図を参照しながら説明する。
図中、
図1は、本発明により用いる流動床反応器の好ましい一実施様態を模式的に示すものであり、
図2は、本発明により用いる内部構造物の好ましい一実施様態を模式的に示すものである。
【0040】
図1の流動床反応器1は、固体−自由ガス分配器ゾーン2と、反応室4を形成する内部構造物3と、内部構造物3の領域において熱交換器5とを有している。
【0041】
反応ゾーンの上で、この反応器は、その幅が増加し、少なくとも一個の固体分離器6を有している。矢印7は供給されるガス状出発原料を示し、矢印8は排出されるガス状生成物流を示す。さらに液状の出発原料を、破線の矢印9を経由して側面から導入することができる。
【0042】
図2は、金属シート10を折り目間の平坦部12に分割する長さ方向に相互に平行な折り目11を有する金属シート10を有する流路横断型充填材の形状の本発明の内部構造物3の好ましい実施様態を示す。なお、二枚の連続金属シートは、それぞれ符号が反対(反対向き)ではあるが同一の傾斜角度を有し、このためくびれ13により垂直方向に区切られた反応室4を形成している。
【符号の説明】
【0043】
1 流動床反応器
2 固体−自由ガス分配器ゾーン
3 熱交換器
4 内部構造物
5 反応室
6 固体分離器
7 ガス状出発原料
8 ガス状生成物流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床反応器中て塩素を製造する方法であって、流動床反応器中では、塩化水素と酸素とを含むガス状反応混合物が、下方から流動床を形成している不均一粒子状触媒を通して上向きに流れ、該流動床は内部構造物を有し、これにより流動床が、流動床反応器中に水平にならび流動床反応器中に垂直に配置された複数の反応室に分割され、該反応室が、ガスを通過させ、不均一粒子状触媒の垂直方向の交換値が、確実に反応器容量1リットル当たり1〜100リットル/時となるようにさせる開口部を有する反応室壁面を持つことを特徴とする方法。
【請求項2】
一種以上のルテニウム、銅またはクロム化合物を含む坦持または非坦持触媒が不均一粒子状触媒として用いられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流動床反応器中に配置された反応室の反応室壁面内の開口部により、確実に、垂直方向での不均一な粒子状触媒の交換値が、反応器容量1リットル当たり100リットル/時の領域となるようにされている請求項1に記載の方法。
【請求項4】
流動床反応器中に配置された反応室の反応室壁面内の開口部により、確実に、垂直方向での不均一な粒子状触媒の交換値が反応器容量1リットル当たり10〜50リットル/時の範囲となり、水平方向のそれが反応器容量1リットル当たりゼロまたは10〜50リットル/時となるようにされている請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
流動床反応器中で垂直方向に相互に平行に配置された折り目のあるガス透過性金属シート、発泡金属シートまたは織布状メッシュを有し、また垂直方向に対してゼロではない傾斜角度を有する折り目間平坦部を形成する折り目を有し、その折り目間の平坦部が、連続する金属シート、発泡金属シートまたは織布状メッシュからなり、向きが反対である同一の傾斜角度を有し、折り目間のくびれにより垂直方向に区切られた反応室が形成されている流路横断型の充填材として、上記内部構造物が構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記折り目間の平坦部の垂直方向への傾斜角度が、10〜80°の範囲、好ましくは20〜70°、特に好ましくは30〜60°の範囲である請求項4に記載の方法。
【請求項7】
上記内部構造物が中空状の球の床により形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
内部構造物の反応室の、放射線トレーサー法で測定した水力直径が、100〜5mm、好ましくは50〜5mmである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
内部構造物の反応室の、放射線トレーサー法で測定した流動床反応器中の垂直方向の高さが、100〜3mm、好ましくは40〜5mmである請求項1〜5または7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
金属シート、発泡金属シートまたは織布状メッシュ中の折り目間の平坦部の折り目高さが、100〜3mmの範囲、特に好ましくは40〜5mmの範囲であり、折り目間のくびれの間隔が、50〜2mmの範囲、特に好ましくは20〜3mmの範囲である請求項1〜5、7または8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
熱交換器が、上記内部構造物に設置されている請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
上記熱交換器が、プレート状またはチューブ状に構成されている請求項10に記載の方法。
【請求項13】
上記内部構造物が、金属、セラミック、ポリマーまたはガラス材料からなる請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
上記内部構造物が、流動床容量の10〜90%を分割して反応室とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
流動床内のガス状反応混合物の流れ方向の下部領域には内部構造物が存在しない請求項14に記載の方法。
【請求項16】
流動床を反応室に分割する内部構造物が熱交換器の上に位置している請求項11または12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−503607(P2010−503607A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528711(P2009−528711)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059870
【国際公開番号】WO2008/034836
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】