説明

流動性向上剤、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形品

【課題】 芳香族ポリカーボネート樹脂成形品の耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、透明性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性と成形品の耐薬品性とを向上させる流動性向上剤を提供する。
【解決手段】 芳香族ポリカーボネート樹脂92.5質量部に流動性向上剤7.5質量部を配合した樹脂組成物について、|nPC−nP |≦0.01、0.01μm≦dv≦0.3μm、SPL≧1.2LPCの関係を満足する流動性向上剤を用いる。(式中、nPCは芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、nP は流動性向上剤の屈折率、dvは芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する流動性向上剤の体積平均ドメイン径、SPLは樹脂組成物のスパイラル流動長、LPCは芳香族ポリカーボネート樹脂のスパイラル流動長である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂用の流動性向上剤、該流動性向上剤が配合された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、および該樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂の成形品は、機械強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性等に優れていることから、OA(オフィスオートメーション)機器、情報・通信機器、電子・電気機器、家庭電化機器、自動車、建築等の幅広い分野に使用されている。しかし、芳香族ポリカーボネート樹脂は非晶性であるため、(i)成形加工温度が高く、溶融流動性に劣る、(ii)耐薬品性に劣る、という問題点を有している。
【0003】
また近年、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形品の大型化、薄肉化、形状複雑化、高性能化が進み、また、環境問題への関心の高まりも伴って、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形品の優れた特性を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融流動性を向上させ、かつ射出成形性を高める樹脂改質剤(以下、流動性向上剤と記す。)、およびこれを用いた樹脂組成物が求められている。
【0004】
芳香族ポリカーボネート樹脂の成形品の特性(透明性、耐熱性等)を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性を向上させる方法としては、以下の方法が知られている。
(1)マトリクス樹脂である芳香族ポリカーボネート樹脂自体を低分子量化する方法。
(2)芳香族ポリカーボネート樹脂と特定のスチレン系樹脂とをポリマーアロイ化する方法(例えば特許文献1、2)。
(3)芳香族ポリカーボネート樹脂と特定のメタクリレート系樹脂とをポリマーアロイ化する方法(例えば特許文献3)。
(4)特定の溶解度パラメーターの範囲にある、極性基を有する芳香族ビニル系樹脂を芳香族ポリカーボネート樹脂に加える方法(例えば特許文献4)。
【0005】
しかし、これら従来の方法においては、溶融流動性がある程度向上するものの次のような問題点がある。
(1)の方法は、溶融流動性が大きく向上するものの、必要以上の分子量低下は成形品の耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性を損なう。よって、成形品の優れた特性を保持したまま、芳香族ポリカーボネート樹脂の低分子量化によって芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性を向上させるには限界がある。
【0006】
(2)〜(4)の方法においては、成形品の耐剥離性と、透明性と、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性とのバランスがいまだ不充分である。具体的には、(2)の方法は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性に優れるものの、相溶性がいまだ不充分のため、成形品に表層剥離が生じやすく、外観および機械強度が大きく低下する。(3)の方法は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の相溶性に優れ、成形品の透明性が良好であるが、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性の向上効果が小さい。そのため、溶融流動性を向上させるためには、メタクリレート系樹脂の配合量を多くする必要があり、成形品の耐熱性、耐衝撃性等を保持したまま、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性を向上させるには限界がある。
【0007】
このように(2)〜(4)の方法では、流動性向上剤を添加することにより芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性の改良はみられるものの、表層剥離、流動性向上剤のドメインサイズの肥大化、ドメインの層状構造等が原因となって、透明性を重要視するヘッドランプレンズまたは導光板等の光学用材料に要求されるスペックをクリアする成形品を得ることは困難であった。
【0008】
流動性向上剤のドメインサイズの肥大化、ドメインの層状構造を改善する方法としては、以下の方法が考えられる。
(5)流動性向上剤と芳香族ポリカーボネート樹脂との界面を安定化させる重合体を添加する方法(例えば特許文献5、6)。
しかし、(5)方法でも、成形品の透明性と芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性とを両立するまでには到っていない。
以上のように、従来の方法のいずれも、成形品の優れた特性を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性を向上させるという点ではいまだ不充分である。
【特許文献1】特公昭59−42024号公報
【特許文献2】特開昭62−138514号公報
【特許文献3】特許第2622152号公報
【特許文献4】特開平11−181197号公報
【特許文献5】特開2001−172491号公報
【特許文献6】特開2003−147030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形品の耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、透明性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性(成形加工性)と成形品の耐薬品性とを向上させる流動性向上剤;耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、透明性、耐薬品性等に優れる成形品を得ることができ、かつ溶融流動性(成形加工性)に優れる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、および耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、透明性、耐薬品性等に優れる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の流動性向上剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂92.5質量部に、流動性向上剤7.5質量部を配合した樹脂組成物について下記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足することを特徴とする。
|nPC−nP |≦0.01 ・・・(1−1)
0.01μm≦dv≦0.3μm ・・・(1−2)
SPL≧1.2LPC ・・・(1−3)
(式中、nPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、nP は、流動性向上剤の屈折率、dvは、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する流動性向上剤の体積平均ドメイン径、SPLは、樹脂組成物のスパイラル流動長、LPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂のスパイラル流動長である。)
【0011】
本発明の流動性向上剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂に相溶するマクロモノマーの存在下で、不飽和単量体を重合して得られた重合体(Z)を含有することが好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂と、本発明の流動性向上剤とを含有することを特徴とする。
本発明の成形品は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の流動性向上剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形品の耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、透明性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性(成形加工性)と成形品の耐薬品性とを向上させる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、透明性、耐薬品性等に優れる成形品を得ることができ、かつ溶融流動性(成形加工性)に優れる。
本発明の成形品は、耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、透明性、耐薬品性等に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<流動性向上剤>
本発明の流動性向上剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂92.5質量部に、流動性向上剤7.5質量部を配合した樹脂組成物について下記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足するものである。
|nPC−nP |≦0.01 ・・・(1−1)
0.01μm≦dv≦0.3μm ・・・(1−2)
SPL≧1.2LPC ・・・(1−3)
(式中、nPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、nP は、流動性向上剤の屈折率、dvは、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する流動性向上剤の体積平均ドメイン径、SPLは、樹脂組成物のスパイラル流動長、LPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂のスパイラル流動長である。)
【0014】
屈折率、体積平均ドメイン径、スパイラル流動長の測定に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、目的の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を調製する際に、流動性向上剤を配合する対象となる芳香族ポリカーボネート樹脂とする。
【0015】
(屈折率)
芳香族ポリカーボネート樹脂(マトリックス)の屈折率nPCと、流動性向上剤(ドメイン)の屈折率nP との差(絶対値)は、0.01以下である。屈折率nPCと屈折率nP との差(絶対値)をこの範囲とすることにより、成形品の透明性が充分なレベルとなる。屈折率nPCと屈折率nP との差(絶対値)が0.01を超えると、光の散乱が発生し、成形品に透過率、ヘイズの悪化が見られ、性能が大幅に低下する。
透明性が重要視されるヘッドランプレンズまたは導光板等の光学用材料に用いる場合、屈折率nPCと屈折率nP との差(絶対値)は、0.005以下が好ましく、0.001以下がより好ましい。
屈折率は、アッベ式屈折率計を用い、JIS K7142に準拠して測定する。
【0016】
(体積平均ドメイン径)
芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する流動性向上剤の体積平均ドメイン径dvは、0.01〜0.3μmである。体積平均ドメイン径dvをこの範囲とすることにより、成形品の透明性と芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性とを両立できる。体積平均ドメイン径dvが0.01μm未満では、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を低分子量化する方法、可塑剤を導入する方法といった従来の溶融流動性を向上させる方法に対して有意差が見られない。また、芳香族ポリカーボネート樹脂に可塑剤を配合した場合に見られるような成形品の耐衝撃性および耐熱性の低下が見られる。体積ドメイン径dvが0.3μmを超えると、成形品の耐衝撃性の低下、表層剥離等が起こる。また、流動性向上剤のドメインサイズの肥大化、ドメインの層状構造等によって、光の散乱が引き起こされるため、透明性を重要視するヘッドランプレンズまたは導光板等の光学用材料に要求されるスペックをクリアすることが困難となる。
【0017】
耐衝撃性、透明性等を重視する場合、体積平均ドメイン径dvは、0.25μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましく、0.15μm以下がさらに好ましい。また、体積平均ドメイン径dvは、0.05μm以上が好ましく、0.07μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。
体積平均ドメイン径dvは、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」と記す。)を用いて樹脂組成物のTEM写真を撮影し、該写真を画像解析することによって求められる。
【0018】
TEM写真の撮影に用いられる樹脂組成物の試料は、以下のようにして調製される。
射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて、成形温度:280℃、金型温度:80℃の条件で、厚さ2mm、縦横50mmの平板成形品を作製する。該成形品の中心部から、凍結ミクロトームにて薄片を切り出し、該薄片を、四酸化ルテニウム、四酸化オスミウム、クロロスルホン酸、酢酸ウラニル、リンタングステン酸、ヨウ素イオン、トリフルオロ酢酸等の染色剤を用いて染色し、試料を得る。染色剤としては、樹脂組成物に含まれる官能基の種類に応じて最適なものを選択する。本発明における染色剤としては、四酸化ルテニウム、四酸化オスミウムが適している。
【0019】
TEMを用い、得られた試料のTEM写真(例えば倍率:5000倍)を撮影する。
体積平均ドメイン径dvは、TEM写真の画像解析より求められる。画像解析には、例えば、画像解析ソフトとして、Image−ProPlus Ver.4.0 for Windows(登録商標)等を用いる。画像解析より、TEM写真に写ったすべてのドメイン(n個)について、各ドメインの面積Rj (j=1〜n)を求め、下記式(2)によってドメインの面積から真円換算した場合の直径(dj )を計算し、下記式(3)によって直径(dj )から体積平均ドメイン径dvを計算する。具体的には、J.MACROMOL.SCI.−PHYS.,B38(5&6),527(1999)に記載されている計算方法を用いる。
【0020】
【数1】

【0021】
【数2】

【0022】
なお、得られる試料は射出成形により流動が印加されているため、試料中のドメイン(流動性向上剤)は流動方向に配向している。そのため、TEM写真の画像解析により求められる体積平均ドメイン径dvに異方性が生じることがある。よって、本発明においては、TEM写真の撮影に用いる薄片の面は、流動方向に対して直交する面とする。
【0023】
(スパイラル流動長)
樹脂組成物のスパイラル流動長(SPL)は、芳香族ポリカーボネート樹脂のスパイラル流動長(LPC)より1.2倍以上長いことが必要であり、1.3倍以上長いことが好ましく、1.5倍以上長いことがより好ましい。SPLがLPCより1.2倍以上長くない場合、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性と、成形品の耐衝撃性と、透明性とのバランスに関して、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を低分子量化する方法、可塑剤を導入する方法といった従来の溶融流動性を向上させる方法に対して有意差が見られず、近年求められている成形品の大型化、薄肉化、形状複雑化を達成するための射出成形性を得ることができる流動性向上剤とはならない。
【0024】
スパイラル流動長の測定は、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて行う。成形条件は、成形温度:280℃、金型温度:80℃、射出圧力:98MPaとし、成形品の厚さは2mm、幅は15mmとする。
【0025】
(重合体(Z))
流動性向上剤としては、芳香族ポリカーボネート樹脂に相溶するマクロモノマーの存在下で、不飽和単量体を重合して得られた重合体(Z)を含有するものが好ましい。流動性向上剤が該重合体(Z)を含有することにより、上記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足し、透明性が重視されるヘッドランプレンズ、導光板等の光学用材料に好適な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、成形品が得られる。
重合体(Z)は、芳香族ポリカーボネート樹脂と流動性向上剤との界面を安定化させるものであり、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた特性を低下させることなく、溶融流動性、成形品の耐薬品性等を向上させるものである。
【0026】
重合体(Z)中のマクロモノマーの含有量は、重合体(Z)(100質量%)中5〜95質量%が好ましい。マクロモノマーの含有量が5質量%未満では、体積ドメイン径が大きくなり、流動性向上剤のドメインサイズの肥大化、ドメインの層状構造が引き起こされ、透明性や機械的強度が低下する傾向にある。マクロモノマーの含有量が95質量%を超えると、過度に芳香族ポリカーボネートと相溶化され、流動性が低下する傾向にある。
【0027】
(マクロモノマー)
マクロモノマーとは、マクロモノマーとは、重合可能な官能基を持った高分子であり、別名マクロマーとも呼ばれるものである。
本発明における「芳香族ポリカーボネート樹脂に相溶するマクロモノマー」とは、芳香族ポリカーボネート樹脂95質量部に、マクロモノマー5質量部を配合した樹脂組成物について、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散するマクロモノマーの体積平均ドメイン径dvが0.05μm以上の相分離が観察されないものを意味する。体積平均ドメイン径dvの測定は、上述の方法と同様に行う。また、体積平均ドメイン径の測定に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、目的の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を調製する際に、流動性向上剤を配合する対象となる芳香族ポリカーボネート樹脂とする。
【0028】
マクロモノマーとしては、例えば、ラジカル重合性単量体からなる単量体単位を含み、かつ下記式で表されるものが挙げられる。
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、nは整数、Wは、COOH(およびその金属塩)、COOR、CN、CONH2 、CONHR、またはCONR2 ;Sは、HまたはR;Tは、COOH(およびその金属塩)、COOR、CN、CONH2 、CONHR、またはCONR2 ;Rは、任意の置換基;Qは、水素原子または開始剤に由来する置換基を表す。)
【0031】
芳香族ポリカーボネート樹脂に相溶するマクロモノマーとしては、スチレンとフェニルメタクリレートとの共重合体であって、フェニルメタクリレート単位を90質量%以上含むものが好ましい。
マクロモノマーの質量平均分子量は、3000〜100000が好ましく、5000〜50000がより好ましい。
【0032】
マクロモノマーは、公知の方法で製造できる。その製造方法は、特に限定されないが、製造工程の経済性の点から、例えば、コバルト連鎖移動剤を用いて製造する方法(例えば米国特許第4680352号明細書)、αブロモメチルスチレン等のα置換不飽和化合物を連鎖移動剤として用いる方法(例えば国際公開第88/04304号パンフレット)、重合性基を化学的に結合させる方法(例えば特開昭60−133007号公報、米国特許第5147952号明細書)、熱分解による方法(例えば特開平11−240854号公報)が好ましい。
【0033】
(不飽和単量体)
マクロモノマーの存在下で、重合させる不飽和単量体としては、(i)下記式(4)の関係を満足する不飽和単量体(a)と下記式(5)の関係を満足する不飽和単量体(b)との混合物(以下、不飽和単量体混合物(i)と記す。)、または(ii)下記式(6)の関係を満足する不飽和単量体(c)と下記式(7)の関係を満足する不飽和単量体(d)との混合物(以下、不飽和単量体混合物(ii)と記す。)が好ましい。
ηa ≦ηPC、かつna ≧nPC ・・・(4)
ηb ≧ηPC、かつnb ≦nPC ・・・(5)
ηc ≧ηPC、かつnc ≧nPC ・・・(6)
ηd ≦ηPC、かつnd ≦nPC ・・・(7)
【0034】
(式中、ηPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶解性パラメーター、nPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、ηa は、不飽和単量体(a)からなるホモポリマーの溶解性パラメーター、ηb は、不飽和単量体(b)からなるホモポリマーの溶解性パラメーター、ηc は、不飽和単量体(c)からなるホモポリマーの溶解性パラメーター、ηd は、不飽和単量体(d)からなるホモポリマーの溶解性パラメーター、na は、不飽和単量体(a)からなるホモポリマーの屈折率、nb は、不飽和単量体(b)からなるホモポリマーの屈折率、nc は、不飽和単量体(c)からなるホモポリマーの屈折率、nd は、不飽和単量体(d)からなるホモポリマーの屈折率である。)
【0035】
溶解性パラメーターは、Jozef Bicerand著,「Prediction of Polymer Properties」,p.104−128に記載の方法におけるFedors−typeの値を用いる。また、溶解性パラメーターは、アクセルリス社のソフトウェア「シンシア」にて容易に求めることができる。
屈折率は、アッベ式屈折率計を用い、JIS K7142に準拠して測定する。
【0036】
不飽和単量体(a)としては、スチレン、αメチルスチレン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
不飽和単量体(b)としては、フェニルメタクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、メチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
不飽和単量体(c)としては、塩化ビニリデン、p−クロロスチレン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
不飽和単量体(d)としては、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボロニルアクリレート、イソボロニルメタクリレート、メチルメタクリレート、p−t−ブチルスチレン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(重合体(X))
前記不飽和単量体混合物(i)は、該不飽和単量体混合物(i)を重合して得られる質量平均分子量が40000〜100000の重合体(以下、重合体(X)と記す。)が、ガラス転移温度が100℃以上となり、かつ芳香族ポリカーボネート樹脂92.5質量部に、重合体(X)7.5質量部を配合した樹脂組成物について下記式(8−1)〜(8−3)の関係を満足するようになる不飽和単量体混合物であることが好ましい。
|nPC−nPX|≦0.01 ・・・(8−1)
0.01μm≦dv≦0.5μm ・・・(8−2)
SPL≧1.2LPC ・・・(8−3)
(式中、nPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、nPXは、重合体(X)の屈折率、dvは、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する重合体(X)の体積平均ドメイン径、SPLは、樹脂組成物のスパイラル流動長、LPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂のスパイラル流動長である。)
【0039】
ガラス転移温度は、粘弾性測定法にて得られる損失弾性率G”のピークを指す。
屈折率は、アッベ式屈折率計を用い、JIS K7142に準拠して測定する。
体積平均ドメイン径dv、スパイラル流動長の測定は、上述の方法と同様に行う。また、屈折率、体積平均ドメイン径、スパイラル流動長の測定に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、目的の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を調製する際に、流動性向上剤を配合する対象となる芳香族ポリカーボネート樹脂とする。
【0040】
式(8−1)の関係を満足することにより、成形品の透明性が充分なレベルとなる。
式(8−2)の関係を満足することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中における流動性向上剤(重合体(X)を含む)の非相溶ドメインの分散性がよくなり、成形品の透明性と芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性とのバランスがよくなる。
式(8−3)の関係を満足することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性と、成形品の耐衝撃性と、透明性とのバランスがよくなる。
【0041】
式(8−1)〜(8−3)の関係を満足する不飽和単量体(a)と不飽和単量体(b)との組み合わせとしては、スチレンとフェニルメタクリレートとの組み合わせが好ましい。重合体(X)中のスチレン単位の含有量は、式(8−1)〜(8−3)の関係を満足する含有量であればよく、重合体(X)(100質量%)中40〜99.5質量%が好ましい。スチレン単位の含有量が99.5質量%を超えると、流動性向上剤と芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が不充分となることに起因して、成形品の耐剥離性が低下し、その結果、成形品が層状剥離を引き起こし、機械特性を損なう可能性がある。スチレン単位の含有量が40質量%未満では、流動性向上剤と芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が過度となり、溶融混練時に充分な相分離挙動を示さず、溶融流動性が低下する傾向があるとともに、成形品の耐薬品性も不充分となる可能性がある。
【0042】
また、不飽和単量体(a)と不飽和単量体(b)との組み合わせとしては、スチレンと、極性基を含有する不飽和単量体との組み合わせが好ましく、スチレンとメタクリル酸との組み合わせがより好ましい。この場合、重合体(X)中のスチレン単位の含有量は、式(8−1)〜(8−3)の関係を満足する含有量であればよく、80〜99.5質量%が好ましい。スチレン単位の含有量が99.5質量%を超えると、流動性向上剤と芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が不充分となることに起因して、成形品の耐剥離性が低下し、その結果、成形品が層状剥離を引き起こし、機械特性を損なう可能性がある。スチレン単位の含有量が80質量%未満では、流動性向上剤と芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差(絶対値)が0.01より大きくなってしまうことから透明性が低下する。
【0043】
(重合体(Y))
前記不飽和単量体混合物(ii)は、該不飽和単量体混合物(ii)を重合して得られる質量平均分子量が40000〜100000の重合体(以下、重合体(Y)と記す。)が、ガラス転移温度が100℃以上となり、かつ芳香族ポリカーボネート樹脂92.5質量部に、重合体(Y)7.5質量部を配合した樹脂組成物について下記式(9−1)〜(9−3)の関係を満足するようになる不飽和単量体混合物であることが好ましい。
|nPC−nPY|≦0.01 ・・・(9−1)
0.01μm≦dv≦0.5μm ・・・(9−2)
SPL≧1.2LPC ・・・(9−3)
(式中、nPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、nPYは、重合体(Y)の屈折率、dvは、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する重合体(Y)の体積平均ドメイン径、SPLは、樹脂組成物のスパイラル流動長、LPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂のスパイラル流動長である。)
【0044】
ガラス転移温度は、粘弾性測定法にて得られる損失弾性率G”のピークを指す。
屈折率は、アッベ式屈折率計を用い、JIS K7142に準拠して測定する。
体積平均ドメイン径dv、スパイラル流動長の測定は、上述の方法と同様に行う。また、屈折率、体積平均ドメイン径、スパイラル流動長の測定に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、目的の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を調製する際に、流動性向上剤を配合する対象となる芳香族ポリカーボネート樹脂とする。
【0045】
式(9−1)の関係を満足することにより、成形品の透明性が充分なレベルとなる。
式(9−2)の関係を満足することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中における流動性向上剤(重合体(Y)を含む)の非相溶ドメインの分散性がよくなり、成形品の透明性と芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性とのバランスがよくなる。
式(9−3)の関係を満足することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性と、成形品の耐衝撃性と、透明性とのバランスがよくなる。
【0046】
式(9−1)〜(9−3)の関係を満足する不飽和単量体(c)と不飽和単量体(d)との組み合わせとしては、p−クロロスチレンとp−t−ブチルスチレンとの組み合わせが好ましい。重合体(Y)中のp−t−ブチルスチレン単位の含有量は、式(9−1)〜(9−3)の関係を満足する含有量であればよく、重合体(Y)(100質量%)中20〜30質量%が好ましい。p−t−ブチルスチレン単位の含有量が20〜30質量%の範囲外では、流動性向上剤と芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差(絶対値)が0.01より大きくなってしまうことから透明性が低下する。
【0047】
(流動性向上剤の組成)
流動性向上剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた特性を低下させることなく、溶融流動性、成形品の耐薬品性を向上させるために、芳香族ポリカーボネート樹脂と流動性向上剤との界面を安定化させる重合体(Z)を含むことが好ましい。重合体(Z)の含有量は、流動性向上剤(100質量%)中、10〜100質量%が好ましい。
【0048】
また、必要により、重合体(Z)と、重合体(X)または重合体(Y)とを併用することで、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性を大きく向上させることができる。重合体(X)または重合体(Y)と重合体(Z)との配合割合は、上記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足するような割合が好ましく、重合体(X)または重合体(Y)50〜99.5質量部、重合体(Z)0.5〜50質量部(重合体(X)または重合体(Y)と重合体(Z)との合計は100質量部である。)が特に好ましい。重合体(Z)の配合割合が0.5質量部未満であると、非相溶ドメインの分散性の低減が見られず、上記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足しない場合がある。重合体(Z)の配合割合が50質量部を超えると、重合体(X)または重合体(Y)が仮に重合体(Z)より溶融流動性が高いとすると、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性を損なうおそれがある。重合体(X)または重合体(Y)と重合体(Z)との合計の含有量は、流動性向上剤(100質量%)中、75〜100質量%が好ましい。
【0049】
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂と、本発明の流動性向上剤とを含有するものである。
【0050】
芳香族ポリカーボネート樹脂と流動性向上剤との配合割合は、上記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足するような割合が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた特性を低下させることなく、溶融流動性、成形品の耐薬品性を向上させるために、芳香族ポリカーボネート樹脂80〜99.5質量部、流動性向上剤0.5〜20質量部(芳香族ポリカーボネート樹脂と流動性向上剤の合計は100質量部である。)が好ましい。流動性向上剤の配合割合が0.5質量部未満であると、配合効果が充分には得られない可能性がある。流動性向上剤の配合割合が20質量部を超えると、芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた特性のうち、特に機械特性を損なうおそれがある。流動性向上剤の配合割合は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましく、3質量部以上が特に好ましい。また、流動性向上剤の配合割合は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0051】
(芳香族ポリカーボネート樹脂)
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわちビスフェノールA)のポリカーボネート等の4,4’−ジオキシジアリールアルカン系ポリカーボネートが挙げられる。
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、所望に応じて適宜決定すればよく、特に制限はない。
【0052】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、従来より知られている各種の方法で製造できる。例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン系ポリカーボネートを製造する場合、(i)2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを原料として用い、アルカリ水溶液および溶剤の存在下にホスゲンを吹き込んで反応させる方法;(ii)2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと炭酸ジエステルとを、触媒の存在下にエステル交換させる方法が挙げられる。
【0053】
(添加剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、安定剤、耐候剤、帯電防止剤、離型剤、染顔料等を、成形品の透明性等の本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
安定剤としては、例えば、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジフェニルハイドロジジェンフォスファイト、イルガノックス1076〔ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。
耐候剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0054】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の調製方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単純スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、2本ロール、ニーダー、ブラベンダー等を用いた公知の混練方法が挙げられる。
【0055】
<成形品>
本発明の成形品は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、注型成形法等の公知の方法で成形することにより得られる。本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、射出成形品の原料として特に有用である。
本発明の成形品は、ランプカバー、光ディスク、導光板、医療材料、雑貨等の幅広い用途に展開が可能である。
【0056】
以上説明した本発明の流動性向上剤にあっては、上記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足することによって、溶融混練時に、芳香族ポリカーボネート樹脂と相分離挙動を示し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性を向上させる一方で、成形品の使用温度領域では耐剥離性が良好なレベルとなるような相溶性(親和性)を示すこととなる。これにより、本発明の流動性向上剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形品の透明性、耐熱性、耐衝撃性、耐剥離性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に従来にない著しい溶融流動性(成形加工性)付与し、かつ成形品に耐薬品性を付与することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の記載において、「部」および「%」は特に断らない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
実施例、比較例中の重合率、質量平均分子量、数平均分子量は、特別に注釈のない限り、それぞれ下記の方法によって求めた。
(重合率)
得られた重合体の固形物の質量換算により算出した。
(質量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、標準ポリスチレンによる検量線から求めた。
【0058】
〔製造例1〕
重合体(Z−1)の製造:
(手順1)
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、フェニルメタクリレート550部、トルエン1500部、あらかじめ合成したコバルトグリオキシム錯体0.007部を仕込み、70℃に加温した状態で、コバルトグリオキシム錯体を溶解させ、窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。ついで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2部を加えた後、内温を70℃に保った状態で、6時間保持し重合を完結させた。得られた重合体溶液を、メタノール6000部中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して精製し、重合性不飽和基を有するマクロモノマー(f−1)を得た。マクロモノマー(f−1)の質量平均分子量は11000であった。また、マクロモノマー(f−1)の末端二重結合の導入率はほぼ100%であった。
【0059】
マクロモノマー(f−1)5部、芳香族ポリカーボネート樹脂(「パンライトL1225Z−100」、帝人化成社製、粘度平均分子量2.2万、屈折率1.587)95部(合計100部)を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて、成形温度:280℃、金型温度:80℃の条件で成形し、厚さ2mm、縦横50mmの平板成形品を作製した。該成形品の中心部から薄片を切り出し、上述の方法にて体積平均ドメイン径dvの測定を行った。その結果、相分離が体積平均ドメイン径dvにて0.05μm以上の大きさで観察されなかった。したがって、マクロモノマー(f−1)は、本発明で規定する「芳香族ポリカーボネート樹脂に相溶するマクロモノマー」である。
【0060】
(手順2)
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、マクロモノマー(f−1)100部、トルエン264部、不飽和単量体混合物(i)としてスチレン181部、フェニルメタクリレート19部を仕込み、窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。ついで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2部を加えた後、内温を90℃に保った状態で、6時間保持し重合を完結させた。得られた重合体溶液を、メタノール6000部中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して精製し、重合体(Z−1)を得た。重合体(Z−1)の質量平均分子量は20000、分子量分布(Mw/Mn)は2.3であった。ガスクロマトグラフィー測定より、グラフト共重合体を構成する幹セグメントのスチレン/フェニルメタクリレート質量比は85/15であり、その幹セグメントとフェニルメタクリレート枝セグメントの質量比率は50/50であった。
【0061】
〔製造例2〕
重合体(Z−2):
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、マクロモノマー(f−1)14.3部、トルエン264質量部、不飽和単量体としてスチレン200部を仕込み、70℃に加温した状態で、窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。ついで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2部を加えた後、内温を90℃に保った状態で、6時間保持し重合を完結させた。得られた重合体溶液を、メタノール6000質量部中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して精製し、重合体(Z−2)を得た。重合体(Z−2)の質量平均分子量は23000、分子量分布(Mw/Mn)は2.3であった。ガスクロマトグラフィー測定より、グラフト共重合体を構成するスチレン幹セグメントとフェニルメタクリレート枝セグメントの質量比率は85/15であった。
【0062】
〔製造例3〕
重合体(Z−3):
(手順1)
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、フェニルメタクリレート550部、トルエン1500部、あらかじめ合成したコバルトグリオキシム錯体0.002部を仕込み、70℃に加温した状態で、コバルトグリオキシム錯体を溶解させ、窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。ついで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2部を加えた後、内温を70℃に保った状態で、6時間保持し重合を完結させた。得られた重合体溶液を、メタノール6000部中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して精製し、重合性不飽和基を有するマクロモノマー(f−2)を得た。マクロモノマー(f−2)の質量平均分子量は28000であった。また、マクロモノマー(f−2)の末端二重結合の導入率はほぼ100%であった。
【0063】
マクロモノマー(f−2)5部、芳香族ポリカーボネート樹脂(「パンライトL1225Z−100」、帝人化成社製、粘度平均分子量2.2万、屈折率1.587)95部(合計100部)を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて、成形温度:280℃、金型温度:80℃の条件で成形し、厚さ2mm、縦横50mmの平板成形品を作製した。該成形品の中心部から薄片を切り出し、上述の方法にて体積平均ドメイン径dvの測定を行った。その結果、相分離が体積平均ドメイン径dvにて0.05μm以上の大きさで観察されなかった。したがって、マクロモノマー(f−2)は、本発明で規定する「芳香族ポリカーボネート樹脂に相溶するマクロモノマー」である。
【0064】
(手順2)
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、マクロモノマー(f−2)14.3部、トルエン264質量部、不飽和単量体としてスチレン200部を仕込み、70℃に加温した状態で、窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。ついで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2部を加えた後、内温を90℃に保った状態で、6時間保持し重合を完結させた。得られた重合体溶液を、メタノール6000部中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して精製し、重合体(Z−3)を得た。重合体(Z−3)の質量平均分子量は30000であった。ガスクロマトグラフィー測定より、グラフト共重合体を構成するスチレン幹セグメントとフェニルメタクリレート枝セグメントの質量比率は85/15であった。
【0065】
〔製造例4〕
重合体(Z−4):
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、リン酸カルシウム1.2部、硫酸ナトリウム1部、蒸留水300部を仕込み、窒素雰囲気下にて充分に攪拌しながら、スチレン56部、αメチルスチレン24部、マクロモノマー(f−2)20部、アゾビスイソブチロニトリル2部の混合物を投入した。その後90℃に昇温して360分間攪拌し、重合を完結させた。重合率は95%であった。得られた重合体を十分に水洗し、乾燥して重合体(Z−4)を得た。重合体(Z−4)の質量平均分子量は17000であった。ガスクロマトグラフィー測定より、全体の組成質量比は、スチレン/αメチルスチレン/フェニルメタクリレート=56/24/20であった。
【0066】
〔製造例5〕
重合体(X−1):
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王(株)製、固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で60℃まで加熱した。ついで、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部、ロンガリット0.3部を蒸留水5部に溶かして加え、その後スチレン87.5部、フェニルメタクリレート12.5部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.2部、n−オクチルメルカプタン0.5部の混合物を180分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、重合を完結させた。重合率は98%であった。
【0067】
ついで、0.08%の硫酸水溶液750部を70℃に加温し攪拌した。この中に、得られた重合体エマルションを徐々に滴下し、重合体を凝固させた。凝固物を分離洗浄後、75℃で24時間乾燥し、重合体(X−1)を得た。重合体(X−1)の質量平均分子量は50000であった。
表1により重合体(X−1)は、本発明における重合体(X)に相当することがわかる。
【0068】
〔製造例6〕
重合体(X−2):
冷却管付フラスコに、トルエン21.5部を仕込み、滴下漏斗にスチレン99部、メタクリル酸1部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.5部、トルエン21.5部を仕込み、冷却管付フラスコに接続した。フラスコ内を窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。90℃に加温した状態で、滴下漏斗の不飽和単量体溶液を、4時間かけて滴下し、2時間保持し重合を完結させた。得られた重合体溶液を、メタノール500部中に投じ、沈殿物をろ過して白色固体を得た。この白色固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して精製し、重合体(X−2)を得た。重合体(X−2)の質量平均分子量は42000であった。
表1により重合体(X−2)は、本発明における重合体(X)に相当することがわかる。
【0069】
〔製造例7〕
重合体(X−3):
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王(株)製、固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で60℃まで加熱した。ついで、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部、ロンガリット0.3部を蒸留水5部に溶かして加え、その後スチレン56部、αメチルスチレン24部、フェニルメタクリレート20部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.2部、n−オクチルメルカプタン0.5部の混合物を360分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、重合を完結させた。重合率は96%であった。
【0070】
ついで、0.08%の硫酸水溶液750部を70℃に加温し攪拌した。この中に、得られた重合体エマルションを徐々に滴下し、重合体を凝固させた。凝固物を分離洗浄後、75℃で24時間乾燥し、重合体(X−3)を得た。重合体(X−3)の質量平均分子量は50000であった。
【0071】
〔製造例8〕
重合体(Y−1):
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王(株)製、固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で60℃まで加熱した。ついで、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部、ロンガリット0.3部を蒸留水5部に溶かして加え、その後p−クロロスチレン80部、p−tブチルスチレン20部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.2部、n−オクチルメルカプタン0.7部の混合物を180分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、重合を完結させた。重合率は97%であった。
【0072】
ついで、0.08%の硫酸水溶液750部を70℃に加温し攪拌した。この中に、得られた重合体エマルションを徐々に滴下し、重合体を凝固させた。凝固物を分離洗浄後、75℃で24時間乾燥し、重合体(Y−1)を得た。重合体(Y−1)の質量平均分子量は50000であった。
表1により重合体(Y−1)は、本発明における重合体(Y)に相当することがわかる。
【0073】
〔製造例9〕
重合体(B−1):
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王(株)製、固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。ついで、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部、ロンガリット0.3部を蒸留水5部に溶かして加え、その後スチレン100部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.2部、n−オクチルメルカプタン0.5部の混合物を180分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、重合を完結させた。重合率は97%であった。
【0074】
ついで、0.08%の硫酸水溶液750部を70℃に加温し攪拌した。この中に、得られた重合体エマルションを徐々に滴下し、重合体を凝固させた。凝固物を分離洗浄後、75℃で24時間乾燥し、重合体(B−1)を得た。重合体(B−1)の質量平均分子量は50000であった。
【0075】
【表1】

【0076】
〔実施例1〜14、比較例1〜4〕
表2に示す割合(質量比)にて、芳香族ポリカーボネート樹脂と流動性向上剤とを混合したものを、二軸押出機(機種名「TEM−35」、東芝機械製)に供給し、280℃で溶融混練して芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得た。
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、これを成形した成形品について、以下の評価を行った。評価結果を表2〜4に示す。
【0077】
(評価方法)
(1)溶融流動性:
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のスパイラル流動長(SPL)を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて評価した。成形温度は280℃、金型温度は80℃、射出圧力は98MPaとした。また、成形品の厚さは2mm、幅は15mmとした。
【0078】
(2)耐薬品性:
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて成形し、厚さ2mm、15cm角の平板を作製し、これを切断し、厚さ2mm、3.5cm×15cmの成形品(試験片)を得た。
試験片を120℃で2時間アニール処理した後、1/4楕円法溶剤試験(定歪試験)を行い、溶媒塗布後60分後のクラック発生位置を測定し、限界応力(MPa)を計算した。測定条件は試験温度23℃、溶媒[トルエン/イソオクタン=1/1vol%]で実施した。
なお、自動車等のヘッドランプ等として用いるためには、上記耐薬品性が8.5MPa以上の範囲内であることが好ましい。
【0079】
(3)表層剥離性(耐剥離性):
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて成形し、厚さ3mm、縦横5cmの平板成形品を作製した。該成形品の突き出しピン跡にカッターで切り込みを入れ、剥離状態を目視観察した。表中の略号は以下の内容を示す。
○:剥離なく良好。
×:表層剥離が見られる。
【0080】
(4)荷重たわみ温度(耐熱性):
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて成形し、厚さ1/4インチの成形品を作製した。該成形品の荷重たわみ温度をASTM D648に準拠して測定した。アニールは120℃、1時間で行い、荷重は1.82MPaとした。
【0081】
(5)透明性:
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて成形し、厚さ3mm、縦横5cmの平板成形品を作製した。該成形品の全光線透過率、ヘイズをASTM D1003に準拠して23℃で測定した。
【0082】
(6)落錘衝撃強度(耐衝撃性):
成形品の落錘衝撃強度をASTM D3763−86に準拠して測定した。速度は7m/s、荷重は3.76kgとした。
【0083】
(7)体積平均ドメイン径dv:
射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて、成形温度:280℃、金型温度:80℃の条件で、厚さ2mm、縦横50mmの平板成形品を作製した。該成形品の中心部から、成形品における流動方向に対して直交する面が薄片の面となるように、薄片を切り出した。該薄片を、四酸化ルテニウム染色剤を用いて染色し、試料を得た。TEMを用い、得られた試料のTEM写真(倍率:5000倍)を撮影した。
画像解析ソフトとして、Image−ProPlus Ver.4.0 for Windows(登録商標)を用い、画像解析より、TEM写真に写ったすべてのドメイン(n個)について、各ドメインの面積Rj (j=1〜n)を求め、上記式(2)によってドメインの面積から真円換算した場合の直径(dj )を計算し、上記式(3)によって直径(dj )から体積平均ドメイン径dvを計算した。
【0084】
(8)ガラス転移温度:
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて成形し、厚さ3mm、6cm×1cmの平板成形品を作製した。該成形品を用いて動的粘弾性測定を行い、ガラス転移温度を求めた。測定条件等を以下に示す。
装置:セイコー電子工業(株)のDMS110の張り曲げ方式、
測定温度:昇温速度3℃/minにて20℃から200℃、
周波数:10Hz、
ひずみ量:20μm。
ガラス転移温度は、損失弾性率G”のピーク値とした。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、芳香族ポリカーボネート樹脂のピークおよび流動性向上剤のピークのそれぞれの値が検出されるが、本実施例の芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−1)のG”のピークは、160〜170℃に検出された。
【0085】
(9)屈折率:
流動性向上剤の屈折率を、JIS K7142に準拠して測定した。
重合体(X−1)〜(X−3)、(Y−1)、(B−1)と、重合体(Z−1)〜(Z−3)とを表2に示す割合(質量比)で混合したものを、PL2000型(プラベンダー社、型番W−50E、2ゾーンタイプ)に供給し、200℃で溶融混練して、流動性向上剤を得た。流動性向上剤を加熱プレスして縦横20mm×8mm、厚さ2mmの成形品を作製し、下記の測定条件にて屈折率を測定した。
アッベ式屈折率計:NAR−2((株)アタゴ製)、
測定条件:測定温度23±1℃、測定湿度50±5%RH(相対湿度)。
【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
表中の略号は以下の通りである。
PC−1:芳香族ポリカーボネート樹脂(「パンライトL1225Z−100」、帝人化成社製、粘度平均分子量2.2万、屈折率1.587))。
PC−2:芳香族ポリカーボネート樹脂(「パンライトL1225ZL−100」、帝人化成社製、粘度平均分子量1.8万、屈折率1.587))。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の流動性向上剤によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形品の透明性、耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に溶融流動性(成形加工性)を付与し、かつ成形品に耐薬品性を付与することができる。そのため 本発明は、ランプカバー、光ディスク、導光板、医療材料、雑貨など幅広い用途に展開が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂92.5質量部に、流動性向上剤7.5質量部を配合した樹脂組成物について下記式(1−1)〜(1−3)の関係を満足する、流動性向上剤。
|nPC−nP |≦0.01 ・・・(1−1)
0.01μm≦dv≦0.3μm ・・・(1−2)
SPL≧1.2LPC ・・・(1−3)
(式中、nPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、nP は、流動性向上剤の屈折率、dvは、芳香族ポリカーボネート樹脂のマトリックス中に分散する流動性向上剤の体積平均ドメイン径、SPLは、樹脂組成物のスパイラル流動長、LPCは、芳香族ポリカーボネート樹脂のスパイラル流動長である。)
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート樹脂に相溶するマクロモノマーの存在下で、不飽和単量体を重合して得られた重合体(Z)を含有する、請求項1に記載の流動性向上剤。
【請求項3】
芳香族ポリカーボネート樹脂と、
請求項1または2に記載の流動性向上剤と
を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2007−39490(P2007−39490A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222638(P2005−222638)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】