説明

流動性媒体を均質化するための分散ロータ

【課題】流動性媒体の均質化に多方面にわたって適用でき、容易かつ効率的に均質化を行うことができる分散ロータの提供。
【解決手段】軸方向に向いたロータ歯5を備えて、流動性媒体を均質化する分散ロータ2において、ロータ歯は、媒体をロータ軸1方向から半径方向外側へ向かわせるラビリンス歯を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に向いたロータ歯を有し、流動性媒体を均質化するための分散ロータに関する。
【0002】
均質化装置は、とりわけクリーム,軟膏,ペースト,マヨネーズなどの製品を製造する医薬品.化粧品,化学品,食品工業に用いられている。混合容器の底部には、通常ロータ・ステータ・分散機として形成された均質化装置が通常配置される。このような均質化装置は、例えば欧州公開公報EP 0 988 887 A1号に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、流動性媒体の均質化に多方面に亘って適用でき、容易かつ効率的に均質化を行うことができる分散ロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の分散ロータは、媒体をロータ軸方向から半径方向外側へ向かわせるラビリンス歯をもつロータ歯を備える。
【0005】
まず、本発明で用いられる幾つかの用語の概念を説明する。本発明の分散ロータとは、流動性媒体の分散(均質化,乳化または懸濁化)に用いられるロータをいう。流動性媒体の分散には、ゲルのような単一相または複数混合相、エマルジョンおよびサスペンジョンが含まれる。分散ロータは、軸方向に向いたロータ歯を備える。本発明の歯とは、ロータの周方向に延びる壁に設けられた開口をいい、運転中に媒体および混合物がこの開口を通って半径方向外方へ流れる。このような歯は、周方向に延び,その他は閉じた壁に個々に設けられた開口とすることができる。しかし、歯は、通常ロータの周部分に配置された軸方向に延びる多数の歯からなり、混合すべき媒体のための衝突面を有する。本発明でいう軸方向および半径方向は、ロータの回転軸に関連づけられる。本発明のロータ歯は、ロータ軸から半径方向外側へ出る媒体のためのラビリンス開口を形成する。ラビリンス歯の概念は、ロータの軸領域に供給される混合物が、歯によって、半径方向に向いた直線に出ることができるのではなく、混合物が歯の配置によって必ず方向変更を起こす、つまり、ラビリンス路を貫流しなければならないことである。
【0006】
本発明では、驚くべきことに、このロータがこのロータに対して相対回転する(通常静止した)ステータ歯と協働する必要なく、このロータのみで良好な混合作用および均質化作用が達成できることが知られている。本発明によるラビリンス歯は、このような分散ロータを用いるだけで、良好な混合および均質化を可能にする。
【0007】
本発明による媒体の均質化は、入力エネルギが少なく、従って熱発生が少ないので、従来のロータ・ステータ・分散機を用いる場合よりも本質的に媒体に優しい。これに対応して、均質化に必要なエネルギも少なくなる。少ない熱入力は、ゲルやクリームなどの敏感な製品に対して、より優しい均質化を可能にする。
【0008】
本発明では、従来技術で必要と考えられていたロータ歯とステータ歯の交互による媒体の強力な剪断が不要で、これに代えて、ラビリンス路での恒常的な速度変化が、(例えばエマルジョンなどの)流体の小滴の伸張と粉砕を可能にし、従って均質化を可能にする。媒体は、歯列を通過する際、回転するロータによって媒体の速度と流れ方向およびロータの回転速度に依存する衝撃を受けて、媒体の流れ方向と速度が対応して変化する。
【0009】
本発明の分散ロータは、いわゆる歯列を備えるのが好ましい。歯列においては、周円上の歯をロータ軸から半径方向に等しい距離に配置することが重要である。
【0010】
分散ロータは、軸方向一端または両端で密封して形成するのが好ましい。これは、密封して形成された領域においては、媒体の漏出が全くないか万一の場合でもごく僅かであることを意味する。ロータの軸方向両端の全円形面を密封に形成せずに、少なくとも軸方向一端に媒体が軸側から入り込むことができる中心開口を設けることが好ましい。軸方向一端(前面)を、ロータ歯によって受け取られる円環のみで密封して形成することが好ましい。こうして、設けられたラビリンス路を通る媒体が、分散ロータの内側から外側へ貫流することが確保される。
【0011】
ロータ歯の軸方向高さは、10〜30mm,さらに12〜25mmにできる。軸方向高さの概念は、媒体の通り抜けが可能な対応するロータ歯の環状面内の自由高さを表す。本発明の分散ロータの直径は、取り付け条件に適合させることができる。導管内へ組み込む場合は、小径の例えば5〜10cmである。大きな混合容器内へ組み込む場合、直径は10〜30cmにできる。この値は、本発明による上限値および下限値と任意に組み合わせることができる。
【0012】
上記ロータ歯の歯は、半径方向の相互間に0.3〜3mm、好ましくは0.5〜1.5mmの隙間を有する。この場合、同心に配置された歯列の夫々の間の半径方向内法間隔が重要である。
【0013】
歯(好ましくは同心の各歯列の歯)は、周方向において、好ましくは0.5〜4mm、より好ましくは1〜3mm、更に好ましくは1.5〜2.5mmの隙間をもつ。
【0014】
歯列の周囲を覆う覆いは、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜70%である。これらの限界は、本発明による範囲と任意に組み合わせることができる。この覆いという概念は、媒体の半径方向への通り抜けが歯列によって阻止される歯列の円形周囲の割合を意味する。例えば60%の覆いは、対応する歯列の円形周囲の60%が歯によって阻止され、残りの円形周囲の40%が媒体を通り抜けさせうることを意味する。
【0015】
本発明の特に好ましい実施形態は、半径方向に隣接して配置した2つの歯列が、一緒に完全な覆いを形成する。これは、媒体が半径方向に重なり合う2つの歯列を、半径方向から反れることなしに通り抜けることはできないことを意味する。2つの歯列のうちの一方の2つの歯の間の隙間を通り抜ける半径方向の直線は、上記歯列の他方の歯とぶつかる。半径方向に隣接して配置した2つの歯列による完全な覆いは、これによって強められる媒体の方向変化により均一化の改善をもたらす。
【0016】
本発明によれば、歯の少なくとも一部が、周方向に向いた搬送面を有するのが好ましく、この搬送面は、入ってきた媒体に半径方向外側に向かう衝撃成分を与えるように形成されている。「周方向に向いた」とは、搬送面が正確に周方向に整列していて、搬送面の法線が正確に周方向を向いていることを意味する。むしろ、搬送面は、通常は法線が半径方向外側に向かう方向成分をもつ斜面であるのが好ましい。回転する分散ロータにおいて搬送面が通り抜ける媒体にぶつかると、媒体に半径方向外側へ向かう方向成分衝撃が加えられる。これにより、媒体は、半径方向外側に向かう加速度成分および速度成分によって加速される。
【0017】
本発明の主題は、更に本発明の分散ロータを備えた均一化装置を提供することである。ステータ歯の放棄は、一連の本質的に有利な点を提供する。即ち、ロータ歯に噛合するステータ歯のための構造を備える必要がないので、均質化装置内で分散ロータを比較的自由に配置することが可能である。本発明によれば、分散ロータを例えば均質化装置の下部領域、好ましくは底部領域に配置することができる。また、例えばこのような容器の蓋または底部を貫く軸に多くのこのようなロータを配置して、容器の内部に多くの分散ロータを配置することができる。また、本発明の範囲内で混合すべき媒体を導く導管内に分散ロータを配置することも可能である。本発明の分散ロータは、このように導管内でのいわゆるインライン混合のために用いることもできる。
【0018】
ステータ歯の放棄によって、本発明の分散ロータを、ステータ歯との流路を正確に調整した協働が必要である従来の技術に比較して、均質化装置内に大きな許容誤差で組み込むことができる。このことは、通常大きな許容誤差でロータを取り付けることができる例えば磁石駆動などの非接触駆動装置の使用を可能にする。非接触駆動は、均質化容器の壁を貫いて駆動軸を通す必要がないので、清掃および無菌状態の維持を最大化できるように容器および分散ロータを構成できるという利点を有する。
【0019】
次に、本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の分散ロータの軸方向部分概略断面図である。
【図2】図2は、本発明のロータ歯を半径方向面で切断した概略図である。
【図3】図3は、本発明の均質化装置内に種々の状態で組み込んだ分散ロータの概略図である。
【図4】図4は、本発明の均質化装置内に種々の状態で組み込んだ分散ロータの概略図である。
【図5】図5は、本発明の均質化装置内に種々の状態で組み込んだ分散ロータの概略図である。
【図6】図6は、本発明の均質化装置内に種々の状態で組み込んだ分散ロータの概略図である。
【図7】図7は、本発明の均質化装置内に種々の状態で組み込んだ分散ロータの概略図である。
【図8】図8は、ラビリンス歯における更に可能な形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の分散ロータは、(図1に示さない)駆動軸のための収容穴1を備える。駆動軸には、回転不能にロータ2が固定され、ロータ2にはポンプ羽根4が配置され、ポンプ羽根4は、入口3を通って入り込む媒体を半径方向外側へ搬送する役割を果たす。ポンプ羽根4の配置は、例えば欧州公開公報EP 0 988 887号の図2に示されたポンプ羽根18の配置に対応する。
【0022】
半径方向外側に配置された円環内に,本発明の分散ロータは、半径方向外方へ段状にした4つの歯列5を備え、入口3に入り込んだ媒体は、この歯列を通って半径方向外方へ搬送される。この歯列は、半径方向外方へ移動する媒体に対してラビリンス路を形成し、媒体が方向を変化せずにこの歯列を通り抜けることができないようになっている。歯列5の領域において、分散ロータは、軸方向前面に向かって閉ざされていて、混合物が歯列から軸方向上方または下方へ逃げられないようになっている。
【0023】
図1の実施形態では、半径方向に段状になった6つの歯列が配置される。図2は、これらの歯列を貫く半径方向断面の概略を示している。各歯6をもつ半径方向に段状になった歯列が認められる。図2では、拡大表示されている点が重要である。隙間の周方向の長さ(参照番号7)は、略2mmであり、隙間の半径方向幅(参照番号8)は、略0.5mmである。歯6は、媒体が外側へ向かって通り抜けざるを得ないラビリンス路を形成することが分かる。ロータが周方向15に回転されると、法線が周方向へ延びる歯の面16は、ぶつかった媒体に半径方向外側へ向かう衝撃成分を与える。
【0024】
図1に示された分散ロータの直径は、この実施形態では略10cmである。運転時の代表的な回転数は、例えば6,500〜14,000rpmである。
【0025】
図3は、本発明による分散ロータを混合容器内の容器底部9上に配置した組み込み状態の概略を示す。駆動軸10は、容器底部を貫通している。
【0026】
図4は、本発明による均質化装置の他の変形例を示しており、この変形例では、より長い駆動軸10が容器底部9を貫通している。この駆動軸10では、2つまたは必要に応じて多数の分散ロータが配置される。
【0027】
図5の実施形態では、本発明の分散ロータが、混合容器の底ハウジング内に組み込まれている。カバー17が、ロータをその外周で覆って閉ざし、底ハウジングと一緒に環状隙間11を形成し、この環状隙間を通ってロータの外周に出てくる媒体を、容器内に戻すように導けるようになっている。これに代えて、外周に出てくる媒体を、図5に示さない循環導管によって容器から運び去り、例えば容器の他の領域(好ましくは上部)に再び供給することも可能である。
【0028】
図6は、電磁クラッチを介してロータが駆動される実施形態を示す。容器9の外側に駆動軸13が配置され、この駆動軸は、ロータに回転不能に固定され,容器9内に配置されたた磁石12を共回りさせる磁石を備える。
【0029】
図7は、駆動軸15が混合容器の蓋を貫いて設けられた実施形態を示す。
【0030】
図8は、本発明によるラビリンス歯の更に可能な実施形態の概略を示す。16は、個々の歯が棒状,つまり断面が円形である歯を示す。17は、矩形断面に形成され,チェス盤のように配置された歯を示す。部分18は、不規則なラビリンス歯を示す。ここで、ロータの全周に亘って均等な質量分布が生じ、不均衡が生じないことに留意するのが好ましい。19は、不規則なラビリンス歯の概略を示し、このラビリンス歯は、個々の歯の断面が幾何学的基礎形状から外れた形状を有する。断面16〜19は、本発明による唯一の分散ロータに存在するものではなく、或る1つのロータのラビリンス歯の4つの可能な形態の概略を示したものと理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に向いたロータ歯を備えて、流動性媒体を均質化する分散ロータにおいて、
上記ロータ歯は、媒体をロータ軸方向から半径方向外側へ向かわせるラビリンス歯を形成することを特徴とする分散ロータ。
【請求項2】
請求項1に記載の分散ロータにおいて、この分散ロータは、少なくとも2つ, 好ましくは2〜16個, より好ましくは2〜8個, 更に好ましくは4〜8個の半径方向に互いに隔たった歯列(5)を備えることを特徴とする分散ロータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分散ロータにおいて、この分散ロータは、軸方向の一端または両端が閉ざされて形成されていることを特徴とする分散ロータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の分散ロータにおいて、上記ロータ歯の軸方向高さは、10〜30mm、好ましくは12〜25mmであることを特徴とする分散ロータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の分散ロータにおいて、上記ロータ歯の歯(6)は、0.3〜3mm, 好ましくは0.5〜1.5mmの半径方向の隙間を有することを特徴とする分散ロータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の分散ロータにおいて、上記ロータ歯の上記歯(6)および歯列は、0.5〜4mm、好ましくは1〜3mm、より好ましくは1.5〜2.5mmの周方向の隙間を有することを特徴とする分散ロータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の分散ロータにおいて、上記歯列の周囲を覆う覆いは、40〜80%、好ましくは50〜70%であることを特徴とする分散ロータ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つにきさいの分散ロータにおいて、半径方向に隣接して配置された2つの歯列が、完全な覆いを成すことを特徴とする分散ロータ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載の分散ロータにおいて、上記歯の少なくとも一部は、周方向に向いた搬送面(16)を有し、この搬送面は、入ってきた媒体に半径方向外側に向かう衝撃成分を与えるように形成されていることを特徴とする分散ロータ。
【請求項10】
流動性媒体を均質化するための均質化装置において、
この均質化装置は、請求項1乃至9のいずれか1つに記載の分散ロータを備えるとともに、上記ロータ歯に噛合するステータ歯を備えないことを特徴とする均質化装置。
【請求項11】
請求項10に記載の均質化装置において、上記分散ロータは、均質化装置の下部領域、好ましくは均質化装置の底部領域に配置されていることを特徴とする均質化装置。
【請求項12】
請求項10に記載の均質化装置において、上記分散ロータは、媒体を導く導管内に配置されることを特徴とする均質化装置。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれか1つに記載の均質化装置において、上記分散ロータは、非接触駆動手段、好ましくは電磁クラッチを備えることを特徴とする均質化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−250228(P2012−250228A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−117911(P2012−117911)
【出願日】平成24年5月23日(2012.5.23)
【出願人】(512135218)ヴァクミックス・リューア−ウント・ホモゲニジールテッヒニク・アクチエンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】VAKUMIX RUEHR− UND HOMOGENISIERTECHNIK AG
【Fターム(参考)】