説明

流延支持体の表面清掃方法及び溶液製膜フィルムの製造方法

【課題】流延支持体上の汚れの拭き取り時のキズの発生を抑制することができるとともに、流延支持体上の汚れの除去効率を上げることができる流延支持体の表面清掃方法及び溶液製膜フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリマーと溶媒とを含むドープが流延されて流延膜が形成される流延支持体の表面清掃方法において、糸密度が15万〜20万本/cmで毛先長さが1〜6mmの糸からなる布で清掃用溶剤を浸して流延支持体を拭くことで流延支持体表面の汚れを拭き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜においてポリマー溶液が流延される流延支持体の表面清掃方法及び溶液製膜フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学用途のポリマーフィルムに対する要求特性は、近年、ますます厳しくなっており、わずかな異物の含有も許容されず、フィルムの光学特性についてもその均一性の要求レベルが上がる一方である。溶液製膜方法は、周知の通り、ポリマーが溶媒に溶解しているドープを流延支持体の上に流延して流延膜を形成し、流延膜を剥ぎ取って乾燥することによりフィルムを製造する方法である。この溶液製膜方法は、流延膜を流延支持体の上で乾燥する過程で、流延膜の流動性により流延膜の露出面が平らになろうとするいわゆるレベリング作用があり、このレベリング作用により、フィルム面の平滑性が溶融製膜に比べて優れるという利点がある。
【0003】
しかし、このような溶液製膜方法では、高生産性化(生産量増大)が進むと、製膜速度の高速化に伴って、流延支持体の表面が汚れるサイクルも短くなってきている。この流延支持体表面の汚れは、主に原料の酢綿中に微量に含まれる金属塩などの不純物が金属支持体表面に蓄積したものであると考えられ、これらがフィルムに転写して、その部分がモヤモヤした不定形のヘイズっぽい汚れとなってしまう。このような場合、生産を中止して清掃し直す必要がある。また清掃が的確に行なわれなかった場合には、短時間で汚れが再発し、清掃をやり直さなければならない。
【0004】
そこで、特許文献1では、セルロースエステルフィルムの製造装置において、流延支持体(金属支持体)表面への汚れの付着・蓄積は、ドープに溶解した原料セルロースエステルに含まれる種々の極微量不純物が、流延支持体表面に流延された後の乾燥時に過飽和状態となって析出するものであり、これらの汚れは、支持体表面に強固に析出・付着するために、純水と有機溶媒のみで拭き取るのは、非常に時間がかかり、生産性を大きく低下させていたとの知見から、支持体表面を稀薄な酸性水溶液を浸した清掃布で拭いた後に、純水を浸した清掃布で拭いて酸性成分をぬぐい取り、その後、水に非相溶な有機溶剤を浸した清掃布で拭くことにより、支持体表面の汚れを拭き取ることが提案されている。ここで、特許文献1では、清掃布として、旭化成株式会社製のベルコットシリーズのベルコットM−1やM−3が好ましく用いることができることが開示されている(段落番号[0066]等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−110881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように不織布を清掃布として用いるのでは、流延支持体の表面にキズが付き易く、そのキズが存在すると製膜時にキズの形状がフィルムに転写してしまい、フィルムの面状故障となってしまうという問題がある。これは、拭き取りに用いる布と支持体との間に異物が挟まった場合、異物が支持体に押し付けられ擦られることでキズとなるためである。
【0007】
また、特許文献1の方法では、流延支持体上の汚れの除去効率が良くないため、流延支持体に再度汚れが付き易いという問題があった。なお、汚れが付き易くなった流延支持体は、支持体表面を研磨加工して再度使用することが通常行われている。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、流延支持体上の汚れの拭き取り時のキズの発生を抑制することができるとともに、流延支持体上の汚れの除去効率を上げることができる流延支持体の表面清掃方法及び溶液製膜フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するために、ポリマーと溶媒とを含むドープが流延されて流延膜が形成される流延支持体の表面清掃方法において、糸密度が15万〜20万本/cmで毛先長さが1〜6mmの糸からなる布で清掃用溶剤を浸して前記流延支持体を拭くことを特徴とする。
【0010】
上記流延支持体の表面清掃方法において、前記布を構成する糸の太さが0.1〜5D(デニール)であることが好ましい。
【0011】
そして、上記流延支持体の表面清掃方法において、前記清掃用溶剤は、前記ドープに含まれる溶剤の中から選択されることが好ましい。
【0012】
また、上記流延支持体の表面清掃方法において、前記布を構成する糸の材質は合成繊維であることが好ましい。この場合、前記清掃用溶剤は、前記合成繊維を溶解しないものを選択することが好ましい。
【0013】
本発明は、前記目的を達成するために、上記流延支持体の表面清掃方法で汚れを拭き取った流延支持体にポリマー溶液を流延して、該流延支持体上で溶剤を蒸発させて膜を形成する工程と、該膜を前記流延支持体から剥離ローラで剥離する工程と、を含むことを特徴とする溶液製膜フィルムの製造方法を提供する。
【0014】
ドープを流延するための流延支持体(金属支持体又は単に支持体とも云う。)は、表面にキズが付きやすく、また、表面にキズが存在すると製膜時にキズがフィルムへ転写し、面状故障となる問題が発生する。これは拭き取りに使用する布と支持体の間に異物が挟まった場合、異物が支持体に押し付けられ擦られることでキズとなるためである。
【0015】
そこで、本発明では、この拭き取り布に着目し、柔らかく、傷がつきにくい、汚れを掻き取りやすい性能を持つ布を導入したところ、大幅にキズを減らすことに成功した。また、汚れを掻き取る効果により、従来の布よりもきれいな支持体表面が得られることが分かった。
【0016】
さらに、本発明では、上記の汚れの掻き取り効果により、支持体上の汚れが進行しフィルムの面状故障の原因となった場合、支持体表面を研磨して支持体表面状態をリセットしていたが、本発明に係る布によって支持体表面を拭き取ることで汚れを除去できるので、研磨加工を必要とせずに溶液製膜フィルムを製造することができるようになった。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流延支持体上の汚れの拭き取り時のキズの発生を抑制することができるとともに、流延支持体上の汚れの除去効率を上げることができる流延支持体の表面清掃方法及び溶液製膜フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用される溶液製膜フィルムの製造装置の構成を示す構成図
【図2】試験後の布の断面図
【図3】実施例の結果を示す表図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、溶液製膜フィルムの製造装置10は、ポリマーが溶媒に溶解したドープ11の流延により、溶媒を含む状態のフィルム、すなわち湿潤フィルム12を形成する流延装置15と、幅方向に張力を付与した状態で湿潤フィルム12を乾燥するテンタ装置16と、テンタ装置16を出た湿潤フィルム12を複数のローラ17で支持しながら乾燥をさらにすすめてフィルム18とする乾燥室21と、フィルム18を冷却する冷却室22と、フィルム18をロール状に巻き取る巻取装置23とを備える。
【0021】
流延装置15は、断面円形の中心に回転軸26aを有し矢線Z1で示す周方向に回転する流延支持体としてのドラム26と、ドープ11を流出する流延ダイ27とを備える。回転するドラム26の周面26bに向けて流延ダイ27からドープ11を連続的に流出することにより、ドラム26の周面26bでドープ11が流延されて流延膜28が形成される。
【0022】
ドラム26の回転方向Z1における流延ダイ27の上流側には、減圧すべき空間を外部空間と仕切って、内部の雰囲気を吸引する減圧チャンバ30が備えられる。流延ダイ27からドラム26にかけて形成される膜状のドープ(以降、ビードと称する)の上流側のエリアは、この減圧チャンバ30の雰囲気吸引により減圧されて、ビードが保持される。また、ドラム26の回転方向Z1における流延ダイ27の下流には、湿潤フィルム12を支持して、ドラム26からの流延膜28の剥ぎ取り位置PPを一定に保持する剥取ローラ31が備えられる。
【0023】
また、流延装置15には、ドラム26と流延ダイ27と剥取ローラ31との雰囲気の温度を所定範囲に調整する温調機32が備えられ、ドラム26には、周面26bの温度を調整する温調機33が備えられる。これらの温調機32,33により、流延膜28の温度、乾燥速度、ゲル化速度が制御される。
【0024】
流延膜28をゲル化することにより固めて剥ぎ取るいわゆる冷却流延の場合には、流延膜28からの溶媒の蒸発よりもむしろ流延膜28の冷却に主眼をおくために、ドラム26の周面26bの温度を−10℃〜−2℃という低温にする。これに対し、流延膜28を乾燥することにより固めて剥ぎ取るいわゆる乾燥流延の場合には、流延膜28から溶媒の蒸発を進めるために、ドラム26の周面26bの温度を冷却流延の場合よりも高い温度にする。フィルム18の生産効率をより向上させる観点からは、乾燥流延よりも冷却流延の方が好ましい。なお、乾燥流延の場合には、雰囲気における溶媒ガスの濃度が、流延膜28の連続的な乾燥に伴い徐々に上昇していくので、流延膜28の乾燥速度を一定に保持するために、流延装置15の内部に凝縮器(図示無し)を配して溶媒ガスを凝縮させ、これにより溶媒ガス濃度を所定値以下に保持する。
【0025】
流延支持体としては、ドラム26に代えて、無端のバンド(図示無し)を用いてもよい。バンドを用いる場合には、例えば、2つのローラの周面にバンドを巻き掛けるようにして掛け渡し、いずれか一方のローラを周方向に回転させることにより、バンドを周回走行させる。乾燥流延よりも流延膜28を速く固める冷却流延の場合には、流延膜28の搬送路の位置の変動がより少ない点でドラム26を用いる方が好ましい。
【0026】
本発明は、ドラム26の材質が、SUS304等のステンレス製である場合や、周面26bの材質がハードクロムとされている場合に特に有効である。
【0027】
テンタ装置16は、湿潤フィルム12の側端部を保持して湿潤フィルム12を搬送する保持部材(図示無し)と、搬送されている湿潤フィルム12に乾燥空気を吹き付ける送風手段とを備える。保持部材は、走行する無端のチェーンに取り付けられており、チェーンの走行によって移動する。この保持部材の移動によって、湿潤フィルム12は幅方向に張力を付与されながら搬送される。なお、保持部材としてはピンやクリップがある。溶媒含有率が比較的多い湿潤フィルム12を保持する場合にはピンを用いることが好ましく、溶
媒含有率が比較的少ない湿潤フィルム12を保持する場合にはクリップを用いることが好ましい。したがって、溶媒含有率が非常に多いうちにドラム26から剥ぎ取られて搬送される冷却流延の場合には、湿潤フィルム12の搬送方向に沿って、ふたつのテンタ装置16を設け、上流側の一方はピンを保持手段とするピンテンタ装置、下流側の他方はクリップを保持手段とするクリップテンタ装置とすることが好ましく、乾燥流延の場合には、保持手段をクリップとするクリップテンタ装置のみを使用することが好ましい。
【0028】
テンタ装置16の下流には、保持部材で保持された耳部を切断除去する耳切装置36が設けられており、製品部から切り離された耳部は新たなドープ11に再利用される。
【0029】
テンタ装置16の出口近傍で保持手段による保持を解除された湿潤フィルム12は、乾燥室21に案内されると、搬送路に配された複数のローラ17の周面に掛け渡されて支持される。複数のローラ17の中には、周方向に回転する駆動ローラがあり、この駆動ローラの回転により、湿潤フィルム12は搬送される。乾燥室21には、所定温度に加熱され乾燥した空気が送り込まれ、この空気の送り込みにより、湿潤フィルム12の乾燥が進められ、製品としてのフィルム18が得られる。そして、フィルム18は乾燥室21の下流側にある冷却室22で冷却された後、巻取装置でロール状に巻かれる。
【0030】
以上のように溶液製膜フィルムの製造装置10に対しては、定期的にメンテナンス作業が行われる。メンテナンス作業として、ドラム26については、その周面26bの表面清掃を実施する。この表面清掃は、周面26bに付着した汚れを取り除くことを目的とする。なお、ドラム26の周面26bにはポリマーに微量に含まれる金属塩などの不純物等が汚れとして蓄積してくる。
【0031】
しかしながら、ドープ11を流延するためのドラム26は、表面にキズが付きやすく、また、表面にキズが存在すると製膜時にキズが流延膜28へ転写し、面状故障となる問題が発生する。これは拭き取りに使用する布とドラム26の間に異物が挟まった場合、異物がドラム26に押し付けられ擦られることでキズとなるためである。
【0032】
本発明では、糸密度が15万〜20万本/cmで毛先長さが1〜6mmの糸からなる布で清掃用溶剤を浸して流延支持体を拭くことにより表面の汚れを拭き取るようにした。
【0033】
そして、この布を用いて汚れを掻き取ることで、従来の布よりもきれいな支持体表面が得られることが分かった。
【0034】
支持体上の汚れが進行しフィルムの面状故障の原因となった場合には、従来では支持体表面を研磨して支持体表面状態をリセットしていたが、本発明に係る布によって支持体表面を拭き取ることできれいに汚れを除去できるので、研磨加工を必要とせずに溶液製膜フィルムを製造することができるようになった。
【0035】
図2は、強制キズの発生試験後の布の断面を示したものであり、(A)は糸密度が18万本/cmで毛先長さが2mmの糸(合成繊維)からなる布で溶剤を浸してSUS板を拭き取った後を示すものであり、(B)はコットン(天然繊維)からなる布で溶剤を浸してSUS板を拭き取った後を示すものであり、(C)は糸密度が22万本/cmで毛先長さが2mmの糸からなる布で溶剤を浸してSUS板を拭き取った後を示すものである。本実施形態において糸(合成繊維)の直径は、(A)〜(C)において0.3D(デニール)であった。なお、糸の直径とは、毛の断面が円形状ではない場合、一番長い径の長さをいう。また、(A)と(C)はベルベット織りで作成したものを用いており、(B)のコットンは平織りにより作成したものである。
【0036】
ここで、強制キズの発生試験は、異物として、粒度#200のサンドペーパーを擦り合わせ、ペーパー上の粒子を落として使用した。そして、SUS板の表面に一定量の異物(粒子)を置き、その異物の上にアセトンで濡らした(A)〜(C)の各布を置き、布を横方向に動かすことで行った。そして、布が動いた箇所にはキズが発生するので、その箇所について5点、SUS板の表面粗さを測定し、平均値を求めた。
【0037】
また、SUS板の表面にアセトンで濡らした(A)〜(C)の各布を置き、上記と同様に布を横方向に動かした後のSUS板の鏡面度を調べた。
【0038】
本実施形態において鏡面度とは、白黒の2色で描かれた基準パターンを、鏡面度を測定しようとする被測定物に映しだし、被測定物における白黒の輝度の差を算出した値である。鏡面計は、光源と基準パターンが描かれたパターン板とを備えるプローブを用い、光源から射出された光をパターン板を介して被測定物に当て、被測定物で反射した基準パターン(以下、反射パターンと称する)の像を撮像し、その像の写像性や鮮映度等によって表面の粗さを評価する。反射パターンの像の写像性や鮮映度は、白黒の輝度差で表す。この輝度差が大きいほど、反射パターンが鮮明であり鏡面度が大きいことを意味する。被測定物の表面の凹凸を任意の方向で連続的に計測して、横軸を計測した方向での距離、縦軸を凸部の高さ及び凹部の深さ(以降、凹凸の高さ成分と称する)とするグラフを描くと、この鏡面度は、そのグラフでの凹凸の高さ成分と傾斜成分とを併せて評価していることになる。したがって、鏡面度は、表面粗さの指標である算術平均粗さRaでは互いに同じ値となるような被測定物の凹凸の違いを明瞭に表す。すなわち、周面26bのRaはいずれも同じ値であっても、鏡面度は異なることがある。
【0039】
鏡面度は、市販の鏡面計で測定することができる。本実施形態では、アークハリマ(株)製のAHS−300Uを用い、校正はメーカー標準ミラーによる。また、鏡面度の測定時における環境温度は、光源の発光量の温度依存性に応じて決定するとよい。例えば、本実施形態では、光源に白色LEDを用いており、この発光量は10℃〜35℃の範囲の環境下で最も大きいので、鏡面度の測定時における環境温度は、10〜35℃としてある。
【0040】
上記試験での(A)〜(C)の各布でのSUS板の表面粗さ(Ra)及びSUS板の鏡面度の値は、それぞれ、(A)は0.6μm、653、(B)は1.3μm、638、(C)は1.5μm、651であった。
【0041】
なお、ここで、SUS板の表面粗さが小さいものは、キズによる凹凸がないことを意味しており、鏡面度が高いものは、表面の汚れによる曇りがないことを意味している。
【0042】
したがって、(B)のようにコットンを平織りして作成した布ではキズを発生してしまうとともに汚れも残ってしまうことが分かる。また、(A)と(C)のように糸密度が違うことで、効果が変わることが分かる。ここで、キズに関して考察すると、異物はコットンを平織りして作成した布に埋没することは難しいが(図2(B)参照)、糸が高密度であれば異物は布中に埋没できず、表面にはじき出されるため、かえってキズを発生させやすい状況となる(図2(C)参照)。また、密度が低すぎた場合、ベルベットの構造を維持できなくなるため、最適な密度の選択が必要となってくる。
【0043】
図3は、上記観点からさらに詳しく実験を行った実施例である。糸の密度、毛先長さ、糸の太さ、糸の材質を変更して、上記の強制キズの発生試験を行い評価を行った。ここで、布に浸す溶剤として、ジクロロメタン及び/又はアセトンを用いて評価を行った。ここで、図3の表中の表面キズの評価は、0.6μm以下を◎、0.6μmを超え1.0μm以下を○、1.0μmを超え1.4μm以下を△、1.4μmを超えるものを×とし、汚れ拭き取り性の評価は、650を超えるものを◎、640を超え650以下を○、630を超え640以下を△、630以下を×した。総合評価は、表面キズの評価と汚れ拭き取り性の評価とで悪い方の評価とした。
【0044】
図3の総合評価から、ポリマー溶液が流延されて流延膜が形成される流延支持体の表面清掃方法において、糸密度が15万〜20万本/cmで毛先長さが1〜6mmの糸からなる布で溶剤を浸して拭くと評価が△以上であることが分かる。そして、実施例1、6〜9の比較から、布を構成する糸の太さが0.1〜5D(デニール)であることが好ましいことが分かる。また、実施例1、10、11の比較から、布を構成する糸の材質はポリエステル及びナイロンであることが好ましいことが分かる。
【0045】
このように、本発明では、この拭き取り布に着目し、上記のように、柔らかく、傷がつきにくい、汚れを掻き取りやすい持つ布を導入したところ、大幅にキズを減らすことに成功した。また、汚れを掻き取る効果により、従来の布よりもきれいな支持体表面が得られることが分かった。
【0046】
さらに、本発明では、上記の汚れの掻き取り効果により、支持体上の汚れが進行しフィルムの面状故障の原因となった場合、支持体表面を研磨して支持体表面状態をリセットしていたが、本発明に係る布によって支持体表面を拭き取ることで汚れを除去できるので、研磨加工を必要とせずに溶液製膜フィルムを製造することができるようになった。
【0047】
なお、本発明では、溶液製膜でフィルムとすることができるすべてのポリマーについて適用することができる。本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
【0048】
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0049】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0050】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0051】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0052】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0053】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0054】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0055】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子
数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0056】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0057】
本発明において、清掃用溶剤は、ドープに含まれる溶剤の中から選択されることが好ましく、ドープを調製する溶媒と同様に、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。この場合、清掃用溶剤は、布を溶解しないものを選択することが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
10…溶液製膜フィルムの製造装置、12…湿潤フィルム、18…フィルム、26…ドラム(流延支持体)、26b…周面、28…流延膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープが流延されて流延膜が形成される流延支持体の表面清掃方法において、
糸密度が15万〜20万本/cmで毛先長さが1〜6mmの糸からなる布で清掃用溶剤を浸して前記流延支持体を拭くことを特徴とする流延支持体の表面清掃方法。
【請求項2】
前記布を構成する糸の太さが0.1〜5D(デニール)であることを特徴とする請求項1に記載の流延支持体の表面清掃方法。
【請求項3】
前記清掃用溶剤は、前記ドープに含まれる溶剤の中から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の流延支持体の表面清掃方法。
【請求項4】
前記布を構成する糸の材質は合成繊維であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の流延支持体の表面清掃方法。
【請求項5】
前記清掃用溶剤は、前記合成繊維を溶解しないものを選択することを特徴とする請求項4に記載の流延支持体の表面清掃方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1に記載の表面清掃方法で汚れを拭き取った流延支持体にポリマー溶液を流延して、該流延支持体上で溶剤を蒸発させて膜を形成する工程と、該膜を前記流延支持体から剥離ローラで剥離する工程と、を含むことを特徴とする溶液製膜フィルムの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245367(P2011−245367A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118464(P2010−118464)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】