説明

流調弁装置

【課題】弁体の位置を確認することで弁体を正確に制御しつつステッピングモータにて移動させることのできる流調弁装置を提供する。
【解決手段】流調弁28と、ステッピングモータ26と、減速機構72とを備えて成る流調弁装置24において、ステッピングモータ26からの駆動力を減速機構72を介して受けるカム部材76の移動時にカム部材76が特定の基準位置に位置したことを検出する基準位置検出センサ90を設ける。そしてその基準位置を、主弁体36が吐水開始する位置である吐水開始位置と主弁体36が止水待機状態となる位置の止水待機位置との間の位置に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は流調弁装置に関し、詳しくは流調弁の駆動部としてステッピングモータを用いたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流調弁(流量調節弁)と、流調弁の弁体を駆動するステッピングモータと、ステッピングモータからの駆動力を弁体に伝達する伝達機構と、吐止水及び流量調節のための操作部と、ステッピングモータを動作制御する制御部とを備えたものが公知である。
【0003】
ところで、駆動部としてこのようなステッピングモータを用いた流調弁装置にあっては、ステッピングモータにて弁体を駆動するに際し、弁体の位置を連続的に検出し、その検出結果に基づいてステッピングモータを回転させ、弁体を目的とする位置まで移動させるフィードバック制御を行うとコストが高くなることから、通常はそのようなフィードバック制御を行わず、弁体を目的の位置(開度)まで移動させるのに必要なパルス数だけステッピングモータにパルス供給して弁体を移動させるようにする。
【0004】
しかしながらこの場合、使用前の非通電状態において弁体の位置が確認できないことから、つまり現在ステッピングモータが弁体をどの位置に位置させているかが分らないことから、例えば目的とする流量で吐水部から吐水させるべく、吐水流量に応じた(即ち弁体の予定移動量に応じた)パルス数だけステッピングモータにパルスを送って弁体を移動させたときに、当初の弁体の位置が正しく確認できていないことによって、正確に求める流量で吐水を行わせることが難しいといった問題がある。
【0005】
この問題を解決することを狙いとしたものが下記特許文献に開示されている。
この下記特許文献1に開示のものでは、弁体を閉弁状態から全開状態までステッピングモータの回転により移動させ、このときのストッパへの当接による脱調を利用して全開位置を確認し、その後指定流量に対応した弁開度となるまでステッピングモータを逆転させて弁体を移動させ、吐水を行わせるようになしている。
しかしながらこのようにすると当初に無駄な吐水が行われることとなり、また使用者の予期しない吐水が行われてしまって使用者を驚かせてしまう。
【0006】
またステッピングモータを用いた流調弁装置では、ステッピングモータの駆動力を弁体側に伝達する伝達機構の各部材間のバックラッシ(隙間)に起因して、弁体を開方向に移動させるときと閉方向に移動させるときとで弁体の位置にずれが生じる、所謂ヒステリシス現象が生じてしまう問題がある。
【0007】
詳しくは、ある位置から弁体を一定量開方向に移動させるのに必要なパルス数でステッピングモータを回転させた後、同じパルス数でステッピングモータを逆転させても、弁体の位置が元の位置に戻らず、吐水流量を増大させる方向と減少させる方向とで吐水流量に差を生ぜしめる問題がある。
この場合、吐水流量が不正確となって使用者の使用感を害してしまう。
【0008】
下記特許文献2には、吐水流量を増大させる場合と減少させる場合とで、減速機のギヤ間に生じるバックラッシに相当するパルス数を補正パルス数として算入し、ステッピングモータの回転を制御する点が開示されている。
また特許文献1においても、バックラッシに相当するパルス分を補正パルス数として算入し、ステッピングモータの回転を制御する点が開示されている。
しかしながらこれら特許文献2,特許文献1にはどのようにしてバックラッシに相当するパルス数を求めるかについての記載はなされていない。
【0009】
一方、特許文献3にはバルブ用減速機についての発明が示され、そこにおいて減速機におけるギヤ間のバックラッシの計測方法が開示されている。
しかしながらこの特許文献3に開示のものは、減速機におけるバックラッシを求めること自体を目的とするもので、そこにはステッピングモータによって弁体の位置をどのようにして制御するか、またそのための弁体の基準位置をどこに設定するかといった流調弁装置における本質的で重要な点については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2998525号公報
【特許文献2】特許第2898477号公報
【特許文献3】特開2001−221362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上のような事情を背景とし、弁体の位置を正確に制御しつつステッピングモータにて弁体を移動させることのできる流調弁装置を提供することを目的としてなされたものである。
また本発明の他の目的は、ステッピングモータの駆動力を弁体側に伝達する伝達機構の各部材間のバックラッシを補正して、弁体を正確に所要の移動量でステッピングモータにて移動させることのできる流調弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
而して請求項1のものは、流調弁と、該流調弁の弁体を駆動するステッピングモータと、該ステッピングモータからの駆動力を該弁体に伝達する伝達機構と、吐止水及び流量調節のための操作部と、前記ステッピングモータを動作制御する制御部と、を備えて成る流調弁装置において、前記ステッピングモータからの駆動力を前記伝達機構を介して受ける弁体側部材の移動時に該弁体側部材の被検知部位の到達を検知することで該弁体側部材が特定の基準位置に位置したことを検出する基準位置検出センサを設け、且つ該基準位置を、前記弁体が吐水開始する位置である吐水開始位置よりも該弁体の閉方向側に移動した位置に設定してあることを特徴とする。
【0013】
請求項2のものは、請求項1において、前記基準位置を、前記吐水開始位置と、該吐水開始位置よりも前記弁体の閉方向側に移動した位置であって該弁体が止水待機状態となる位置の止水待機位置との間の位置に設定してあることを特徴とする。
【0014】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記ステッピングモータを前記弁体を開かせる方向の正方向又は閉じる方向の逆方向の何れか一方向に回転させ、前記センサが前記弁体側部材が前記基準位置に位置したことを検出したときに、対応する前記ステッピングモータの回転位置を基準回転位置として制御部に記憶した上、該ステッピングモータを該基準回転位置から前記一方向とは反対方向に回転させ、前記センサが前記弁体側部材の被検知部位の離間を検知するまで前記ステッピングモータに供給したパルス数を前記伝達機構のバックラッシに相当する補正パルス数として求め、前記ステッピングモータの回転動作制御を行うようになしてあることを特徴とする。
【0015】
請求項4のものは、請求項2において、使用者の吐水操作に基づいて前記ステッピングモータを前記弁体を開かせる方向の正方向に回転させて、前記弁体側部材を前記基準位置を通過させて前記弁体が開弁し吐水部から吐水させる位置である吐水位置まで移動させるとともに、使用者による止水操作に基づいて前記ステッピングモータを逆方向に回転させて前記弁体側部材を前記基準位置に到らしめ、該弁体側部材を前記基準位置から前記吐水位置まで移動させる際の前記ステッピングモータへの供給パルス数と、該吐水位置から前記基準位置まで移動させる際の該ステッピングモータへの供給パルス数の差をもって前記伝達機構のバックラッシに相当する補正パルス数として求め、ステッピングモータの回転動作制御を行うようになしてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0016】
以上のように本発明は、弁体側部材の移動時に被検知部位の到達を検知することで弁体側部材が特定の基準位置に位置したことを検出する基準位置検出センサを設け、そしてその基準位置を、弁体が吐水開始する位置である吐水開始位置よりも弁体の閉方向側に移動した位置に設定したものである。
【0017】
本発明においては、ステッピングモータを弁体を開かせる方向の正方向又は閉じる方向の逆方向の何れか一方向に回転させ、弁体側部材を吐水開始位置よりも閉方向側において移動させることで、弁体側部材を基準位置に到らしめることができる。
而して弁体側部材が基準位置に到るとセンサがこれを検出し、ここにおいて現在の弁体側部材の位置(基準位置)、即ち弁体の位置を確認することができる。
【0018】
そしてこのときのステッピングモータの回転位置を基準回転位置として、ステッピングモータを回転させ、弁体を駆動することで、弁体を正しく位置制御することが可能となる。
併せて過去のステッピングモータの脱調を補正し、脱調による影響を無くすことができる。
例えばその後求める吐水流量に対応したパルス数だけステッピングモータにパルス供給することで、弁体を確実に予定した開弁位置まで移動させることができ、正確に所望流量で吐水を行わせることができる。
【0019】
本発明では、弁体側部材の基準位置が吐水開始位置よりも閉方向の側に設定してあるため、弁体の開弁により吐水を行わせることなく弁体の位置を確認することが可能であり、弁体の位置確認のために無駄な吐水が行われてしまうのを防ぐことができ、また弁体の位置確認の動作によって使用者の予期しない吐水が行われてしまって、使用者を驚かせてしまうといった問題を回避することができる。
【0020】
この場合において上記の基準位置を、吐水開始位置と、吐水開始位置よりも弁体の閉方向側に移動した位置であって弁体が止水待機状態となる位置の止水待機位置との間の位置に設定しておくことができる(請求項2)。
ここで止水待機位置は、経年変化等があっても弁体が確実に止水を行うことのできる位置として、更に通常の使用時に弁体が閉弁したときの位置として予め設定しておくことができる。
【0021】
この請求項2においては、ステッピングモータへの通電時に通常は止水待機位置にある弁体側部材を吐水開始位置に向けて移動させることで、弁体側部材をそれら吐水開始位置と止水待機位置との間に設定してある基準位置に到らしめることができ、少ない動きで弁体側部材を基準位置に到らしめることができる。
【0022】
次に請求項3は、ステッピングモータを弁体を開かせる方向の正方向又は閉じる方向の逆方向の何れか一方向に回転させ、弁体側部材が基準位置に位置したことをセンサが検出したときに、対応するステッピングモータの回転位置を基準回転位置として制御部に記憶した上、今度はステッピングモータを基準回転位置から前記一方向とは反対方向に回転させ、そしてセンサが弁体側部材の被検知部位の離間を検知するまでステッピングモータに供給したパルス数を上記伝達機構のバックラッシに相当する補正パルス数として求め、ステッピングモータの回転動作制御を行うようになしたものである。
【0023】
伝達機構にバックラッシがあると、ステッピングモータを基準回転位置から上記の反対方向に回転させても、その反対方向回転の一部がバックラッシによって吸収されてしまい、ステッピングモータの反対方向回転にも拘らず弁体、詳しくは弁体側部材が移動しない。
バックラッシの分だけステッピングモータが反対方向に回転したところで、そこで初めてステッピングモータからの駆動力が弁体側部材に伝達機構を介して伝達されて、弁体側部材が移動せしめられる。ここにおいてセンサが弁体側部材の被検知部位の離間を検知する。
そこでここではセンサが弁体側部材の被検知部位の離間を検知するまでステッピングモータに供給されたパルス数を、バックラッシに相当する補正パルス数として求め、この補正値に基づいてステッピングモータの回転動作制御を行う。
【0024】
この請求項3では、弁体を開弁させることなくバックラッシの補正を行うことができ、補正のための動作の際に無駄な吐水が行われることはなく、使用者の気付かないところでバックラッシの補正を行うことができる。
【0025】
尚この請求項3では、ステッピングモータ起動時に先ずこれを逆回転方向に一杯まで、即ち弁体側部材を限度一杯(閉限度位置)まで閉方向に移動させ、その後においてステッピングモータを正方向に回転させることで弁体側部材を確実に基準位置に持ち来たすことができる。
ステッピングモータの起動時に、たとえ弁体側部材が基準位置と吐水開始位置との間に位置していたとしても、ステッピングモータの上記の逆方向回転及びこれに続く正方向回転により確実に弁体側部材を限度一杯の閉方向の位置から基準位置の側に移動させ得、弁体側部材を基準位置へと到らしめることができる。これによりバックラッシの補正動作を確実に行うことができる。
【0026】
次に請求項4は、使用者の吐水操作に基づいてステッピングモータを弁体を開かせる方向の正方向に回転させて、弁体側部材を基準位置を通過させて弁体が開弁し吐水部から吐水させる位置である吐水位置まで移動させるとともに、使用者による止水操作に基づいてステッピングモータを逆方向に回転させて弁体側部材を基準位置に到らしめ、そして弁体側部材を基準位置から吐水位置まで移動させる際のステッピングモータへの供給パルス数と、吐水位置から基準位置まで移動させる際の供給パルス数との差をもって伝達機構のバックラッシに相当する補正パルス数として求め、ステッピングモータの回転動作制御を行うようになしたもので、この請求項4においても無駄な吐水を行うことなくバックラッシ補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の流調弁装置を備えた水栓を示した図である。
【図2】同実施形態の流調弁装置の断面図である。
【図3】図2の要部の断面図である。
【図4】同実施形態における各弁体側部材を分解して示す斜視図である。
【図5】同実施形態におけるカム部材の各位置に対応した弁体の状態を示した図である。
【図6】図2の各状態における基準位置検出センサと光遮蔽部との位置関係を示す図である。
【図7】同実施形態におけるバックラッシ補正の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は水栓で、12は水栓10における吐水管である。
吐水管12は、カウンタ上面等の取付面(図示省略)から起立する形態で設けられている。
吐水管12は、ここでは全体として逆U字状のグースネック形状をなしており、その先端に吐水口14が備えられている。
また吐水管12には、最上位から先端にかけて下向きに下がった下がり形状部且つその先端部の上面に、吐水の流量調節を行う回転式のダイヤル操作部(流調操作部)16,自動吐止水のための赤外線式の人体検知センサ(吐止水操作部)18が設けられている。
【0029】
ここでダイヤル操作部16は電気的操作部として構成してあって、このダイヤル操作部16を回転させると、回転位置検出センサがこれを検知して、その回転位置に応じた信号を発生する。そしてその信号が後述の制御部20に送られる。
人体検知センサ18は、発光部から赤外線を発光し、人体による反射光を受光部で受光して人体検知を行う。水栓10は、この人体検知センサ18による人体検知に基づいて自動吐水及び止水を行う。
ここで人体検知センサ18は、人体検知するごとに吐水と止水を交互に行わせる交互センサとして構成してある。
【0030】
図1において22は給水路で、この給水路22上に本実施形態の流調弁装置24が設けられている。
流調弁装置24は、流調弁28とその駆動部となるステッピングモータ26とを有している。
ステッピングモータ26は制御部20に電気的に接続され、制御部20によって動作制御される。
制御部20にはまた上記の人体検知センサ18及びダイヤル操作部16(詳しくはその回転位置を検出する回転位置検出センサ)が電気的に接続されている。
【0031】
図2〜図4に流調弁装置24の具体的構成が示してある。
図において30は流調弁28のボデーで、このボデー30には1次側の流入水路32と2次側の流出水路34とが設けられており、それら流入水路32と流出水路34とで形成される主水路上に弁部が設けられている。
【0032】
36はその弁部における主弁体で、この主弁体36は図3にも示しているように硬質の主弁本体38と、これにより保持された、シール部材を兼ねたゴム製のダイヤフラム膜40とから成っている。
この主弁体36は、主弁座42に向けて進退移動して上記の主水路を開閉し、また開度を変化させる。
【0033】
詳しくは、主弁体36は主弁座42への着座によって主水路を遮断し、また主弁座42から図中上向きに離間することによって主水路を開放する。
また主弁座42からの離間量に応じて主水路の開度を大小変化させ、主水路を流れる水の流量を調節する。
【0034】
この主弁体36の図中上側、即ち主弁体36に対し流出水路34と反対側に背圧室44が設けられている。
背圧室44は、内部の圧力を主弁体36に対し図中下向きの閉弁方向の押圧力として作用させる。
主弁体36には、これを貫通して1次側の流入水路32と背圧室44とを連通させる導入小孔46が設けられている。
導入小孔46は、流入水路32からの水を背圧室44に導いて背圧室44の圧力を増大させる。
【0035】
主弁体36にはまた、これを貫通して背圧室44と2次側の流出水路34とを連通させる、水抜水路としてのパイロット水路48が設けられている。
このパイロット水路48は、背圧室44内の水を流出水路34に抜いて背圧室44の圧力を減少させる。
【0036】
45は上記弁部におけるパイロット弁体で、その下部にはゴム等の弾性材から成るシール部材47が設けられている。
このパイロット弁体45は図中上下方向、即ち主弁体36に設けられたパイロット弁座50に対し図中上下方向(軸方向)に進退移動して、パイロット水路48の開度を変化させる。
【0037】
詳しくは、パイロット弁体45がパイロット弁座50に着座することでパイロット水路48が閉鎖され、またパイロット弁体45がパイロット弁座50から図中上向きに離間することで、パイロット水路48が開放される。
更にパイロット弁体45のパイロット弁座50からの離間量に応じてパイロット水路48の開度が変化せしめられる。
【0038】
但しこの実施形態では、実際にはパイロット弁体45が図中上下方向に進退移動すると、主弁体36がこのパイロット弁体45に追従して図中上下方向に進退移動する。
その際、主弁体36はパイロット弁座50とパイロット弁体45との間に一定の微小な追従間隙を保持した状態で、パイロット弁体45の進退移動に追従して同方向に進退移動する。
【0039】
詳しくは、パイロット弁体45が図中上方向に後退移動すると、パイロット水路48が開いて背圧室44内の水がパイロット水路48を通じて流出水路34に抜け、背圧室44の圧力が低下する。
すると背圧室44の圧力と流入水路32の圧力とをバランスさせるようにして、主弁体36がパイロット弁体45の後退移動に追従して上向きに後退移動し、主水路を開いて流入水路32から流出水路34へと水を流通させる。
【0040】
主弁体36は、パイロット弁座50とパイロット弁体45との間隙を一定に維持しつつ、パイロット弁体45の更なる後退移動に追従して同方向に移動し、主水路の開度を更に拡くして、主水路における水の流量を増大変化させる。
【0041】
また逆にパイロット弁体45が図中下向きに前進移動すると、背圧室44の圧力と流入水路32の圧力とをバランスさせるようにして、主弁体36がパイロット弁体45の前進移動に追従して図中下向きに移動し、主水路の開度を減少変化させて、主水路における水の流量を減少させる。
そして最終的に主弁体36及びパイロット弁体45が主弁座42,パイロット弁座50に着座して、それぞれが閉弁状態となる。
【0042】
尚、パイロット弁体45からは図中下向きに細径のピン54が突出しており、このピン54が主弁体36の中心部の貫通孔を下向きに挿通している。
上記パイロット水路48は、このピン54と主弁体36の貫通孔の内周面との間に狭小幅で環状に形成されている。
一方ピン54とは反対側において、パイロット弁体45の上側に金属製のコイルばね52が配設されており、このコイルばね52によってパイロット弁体45が図中下向きに付勢されている。
【0043】
図2において、56はパイロット弁体45、詳しくは上記のピン54に対して上下方向に対向して同軸状に設けられた弁体側部材としての軸体で、図中上部がボデー30から流出水路34内に突き出している。
軸体56は、図中上向きの移動によってパイロット弁体45を図中上方に後退移動させ、そしてパイロット弁体45を介して主弁体36を同方向に後退移動せしめる。
尚、軸体56とボデー30との間はシール部材としてのOリング58によって水密にシールされている。
【0044】
軸体56は、図中下部がボデー30に形成された凹所60内に下向きに挿入されており、凹所60の下部に上下摺動可能に配置された、後述のカム部材76に対して従動する従動部材62にその下部が結合されている。
【0045】
従動部材62には、その下面側に従動部としての突起64が設けられ、また上面側には中心部に挿入孔66が形成されていて、そこに軸体56の下端部が圧入によって挿し込まれ、以て軸体56と従動部材62とが上下に一体移動状態に結合されている。
尚この従動部材62もまた弁体側部材をなすものである。
【0046】
凹所60の上部にはグリースキャップ68が嵌挿されている。
このグリースキャップ68の内側にはグリース溜りが形成され、そこにグリースが保持されている。
このグリースキャップ68と従動部材62との間には金属製のコイルばね(ばね部材)70が介装されており、このコイルばね70によって、従動部材62が図中下向きに付勢されている。即ち軸体56がコイルばね70によって図中下向きに付勢されている。
【0047】
図2に示しているように、ステッピングモータ26の出力軸は複数のギヤを有する減速機構72を介して回転軸74に連結されている。そしてその回転軸74がカム部材76に一体回転状態に結合されている。
カム部材76は円筒形状をなしていて、図4に示しているように中心部に挿入孔78を有しており、そこに回転軸74が上向きに挿入されている。
【0048】
図4に詳しく示しているように、回転軸74とカム部材76の中心部の挿入孔78とには、切落し形状の平坦な係合面80,82がそれぞれ形成されており、回転軸74と挿入孔78とがそれら係合面80と82とにおいて互いに係合させられている。
そしてそれらの係合作用によりカム部材76が回転軸74と一体回転するようになっている。
【0049】
カム部材76の上面は、周方向に沿って図中反時計方向に移動するにつれ上方に移行する形状の、部分螺旋形状をなすカム面86を成している。
そしてこのカム面86に対して、従動部材62における突起64がコイルばね70の付勢力に基づいて下向きに当接させられている。
従ってステッピングモータ26を回転させると、詳しくはその出力軸を回転させると、カム部材76が回転して軸体56を図中上下方向に移動させ、そしてその軸体56の上下方向の移動によってパイロット弁体45を介して主弁体36を動作させる。
【0050】
詳しくは、ステッピングモータ26を正方向に回転させると、カム部材76が図2及び図4中時計方向に回転し、突起64に対するカム面86の押上作用で軸体56を上向きに押し上げ、これによりパイロット弁体45を図中上向きに後退移動させる。そしてパイロット弁体45の図中上向きの後退移動に追従して主弁体36を図中上向きの開弁方向に移動させる。
【0051】
また逆にステッピングモータ26を上記とは逆方向に回転させると、カム部材76が図中反時計方向に回転し、これに伴って従動部材62の突起64がコイルばね70の付勢力によりカム面86に沿って下向きに移行し、ここにおいて軸体56が下向きに移動して、パイロット弁体45を介し主弁体36を下向きに移動せしめる。即ち主弁体36を閉弁方向に動作させる。
【0052】
本実施形態において、上記の減速機構72はステッピングモータ26の駆動力を主弁体36の側に伝達する伝達機構をなしており、そして減速機構72を介してステッピングモータ26からの駆動力を受ける上記の回転軸74,カム部材76もまた軸体56,従動部材62とともに弁体側部材を成している。
【0053】
ボデー30は、上記のカム部材76を回転可能に収容する凹所88を有しており、その凹所88の内面に、弁体側部材としてのカム部材76が特定の基準位置に位置したことを検出する基準位置検出センサ90が設けられている。
この基準位置検出センサ90は光電式のセンサであって、互いに上下方向に対向する投光部92と受光部94とを有している。
そしてそれら投光部92と受光部94との間に挿入空間96を形成している。
【0054】
一方カム部材76の外周面には、周方向に沿って且つ投光部92と受光部94との間の上下方向位置において光遮蔽部98がカム部材76と一体回転する状態に設けられている。
この実施形態では、カム部材76の回転に伴って光遮蔽部98の周方向の端(被検知部位)100が、基準位置検出センサ90の挿入空間96内に挿入し到達すると、投光部92から受光部94への光の遮蔽によって基準位置検出センサ90が光遮蔽部98の端100の到達を検知し、カム部材76が回転方向において特定の基準位置に到ったことを検出する
この実施形態では、図7に示しているようにその基準位置が図5に示す吐水開始位置と止水待機位置との間の位置に設定してある。
【0055】
ここで吐水開始位置は、図2の軸体56が上向きに移動することによって主弁体36が今から吐水開始するときのカム部材76の位置(回転位置)であり、また止水待機位置は、カム部材76の回転及び軸体56の図中下向きの引込移動によって主弁体36が止水待機状態となるときのカム部材76の位置である。ここで止水待機位置はカム部材76が吐水開始位置よりも閉方向側に移動した位置である。
従って基準位置は、軸体56とパイロット弁体45のピン54との間の間隔dが、止水待機位置のときの間隔dよりも小となる位置である。
【0056】
尚、吐水開始位置では軸体56とピン54との間の間隔はゼロとなり、軸体56がこれよりも更に上向きに移動すると直ちに主弁体36が上向き移動して開弁し、吐水を行わせる。
一方図5の閉限度位置は、カム部材76が主弁体36の閉方向に限度一杯まで回転した位置で、このときの軸体56とピン54との間隔dは止水待機位置のときの間隔dよりも更に大となる。
尚この閉限度位置は、図示を省略するストッパによるストッパ作用によって規定される。
【0057】
図6は閉限度位置,止水待機位置,基準位置,吐水開始位置のそれぞれにおける光遮蔽部98の端100、即ち被検知部位と基準位置検出センサ90との相対的な位置関係を表している。
図6に示しているように、閉限度位置では光遮蔽部98の端100が基準位置検出センサ90から図中反時計方向に最も離れた位置にあり、この状態からカム部材76が図2及び図4中時計方向に回転して止水待機位置に到ると、端100と基準位置検出センサ90との距離は接近し、更にこの止水待機位置からカム部材76が時計方向に回転して基準位置に到ると、端100が基準位置検出センサ90による検知位置に到達し、更にこの基準位置からカム部材76が時計方向に回転して吐水開始位置に到ると、端100は基準位置検出センサ90を通過してこれから遠ざかった位置となる。
【0058】
即ちこの実施形態ではカム部材76の位置(回転位置)が止水待機位置と吐水開始位置との間の基準位置に到ると、基準位置検出センサ90が光遮蔽部98の端100の到達を検知してカム部材76が基準位置に到ったことを検出する。
以上の説明から分るように閉限度位置,止水待機位置,基準位置,吐水開始位置は、何れも主弁体36のダイヤフラム膜40が主弁座42に接触した状態の閉弁状態にある(図5参照)。
【0059】
以上のような本実施形態においては、ステッピングモータ26への通電時に通常は止水待機位置にあるカム部材76を吐水開始位置に向けて移動させることで、カム部材76をそれら吐水開始位置と止水待機位置との間に設定してある基準位置に到らしめることができる。
而してカム部材76が基準位置に到ると基準位置検知センサ90がこれを検出し、ここにおいて現在のカム部材76の位置(基準位置)、即ち主弁体36の位置ないし状態を確認することができる。
【0060】
そしてこのときのステッピングモータ26の回転位置を基準回転位置として記憶し、ステッピングモータ26にパルス供給してこれを回転させることで、主弁体36を正しく駆動し位置制御することが可能となる。
例えばその後求める吐水流量に対応したパルス数だけステッピングモータ26にパルス供給することで、主弁体36を確実に予定した開弁位置まで移動させることができ、正確に所望流量で吐水を行わせることができる。
【0061】
本実施形態では、カム部材76の基準位置が吐水開始位置よりも閉方向の側に設定してあるため、カム部材76の位置確認即ち主弁体36の位置確認のために無駄な吐水が行われてしまうのを防ぐことができ、また主弁体36の位置確認の動作によって使用者の予期しない吐水が行われてしまって、使用者を驚かせてしまうといった問題を回避することができる。
【0062】
尚、図7の破線で示しているように基準位置を止水待機位置よりも更に閉方向側に設定しておくといったことも可能である。
この場合においても、ステッピングモータ26を主弁体36を開かせる方向の正方向又は閉じる方向の逆方向の何れか一方向に回転させ、カム部材76を吐水開始位置よりも閉方向側において移動させることで、これを確実に基準位置に到らしめることができる。
但し通常はカム部材76は止水待機位置にあるので、一旦これを閉方向側に移動させることで、基準位置に到らしめることができる。
【0063】
一方基準位置を止水待機位置と吐水開始位置との間に設定しておけば、通常はステッピングモータ26を正方向に回転させるだけで、カム部材76を基準位置に到らしめることができる。
【0064】
従って基準位置を止水待機位置と吐水開始位置との間の位置に設定しておくことで、主弁体36の通常の止水から吐水動作の際に、或いは吐水動作から止水動作に変化させたときにカム部材76が確実に基準位置を通過することとなり、カム部材76の基準位置を検出し易い。
【0065】
ところでステッピングモータ26からの駆動力を伝達する伝達機構としての上記の減速機構72はギヤとギヤとの間にバックラッシ(遊び)を有する。このバックラッシは、ステッピングモータ26にて主弁体36を駆動する際の位置制御の精度を悪化させる。
この実施形態ではそのバックラッシを次のようにして補正し、ステッピングモータ26にて主弁体36を精度高く駆動し位置制御する。
【0066】
図7(I)は、そのバックラッシの補正の一例を示している。
この実施形態では、ステッピングモータ26への通電時に先ずステッピングモータ26を主弁体36を閉める方向に限度一杯まで回転させる(逆方向回転させる)。
図7の閉限度位置は、カム部材76が主弁体36の閉方向側に限度一杯まで回転した位置を表しており、この実施形態ではカム部材76がこの閉限度位置に到ったところで、次にステッピングモータ26を今度は主弁体36を開かせる方向の正方向に回転させ、そしてカム部材76が止水待機位置を越えて基準位置に到ったことを基準位置検出センサ90が検出したとき、対応するステッピングモータ26の回転位置を基準回転位置として制御部20に記憶する。
【0067】
その上でステッピングモータ26を再び基準回転位置から逆方向に回転させ、そして基準位置検出センサ90がカム部材76と一体回転する光遮蔽部98の端100の離間を検知するまでにステッピングモータ26に供給したパルス数を、減速機構72のギヤのバックラッシに相当する補正パルス数として求める。
【0068】
そしてカム部材76を基準位置から止水待機位置まで回転させるのに必要なパルス数(基準位置と止水待機位置との位置関係は予め分っており、従って基準位置から止水待機位置までカム部材を回転させるのに必要なパルス数も予め分っている)に補正パルス数を加えたパルス数をステッピングモータ26に供給することで、カム部材76を止水待機位置に位置させることができる。
そしてその後使用者からの吐水操作を待つべくそこに待機させる。
【0069】
この例では、主弁体36を開弁させることなくバックラッシの補正を行うことができ、補正のための動作の際に無駄な吐水が行われることはなく、使用者の気付かないところでバックラッシの補正を行うことができる。
【0070】
図7(II)は、バックラッシ補正の他の例を示している。
ここでは使用者による吐水操作によって、通常止水待機位置にあるカム部材76をステッピングモータ26の正方向回転により図2及び図4中時計方向に回転させる。
【0071】
そしてカム部材76が基準位置に到ったことを基準位置検出センサ90により検出して、そのときのステッピングモータ26の対応する基準回転位置を制御部20に記憶する。
そして更にステッピングモータ26を正方向に回転させてカム部材76を、主弁体36が開弁して吐水口14から吐水させる吐水位置まで移動させる。
【0072】
その後使用者が止水操作を行ったときに、今後はステッピングモータ26を逆方向に回転させてカム部材76を上記の基準位置に到らしめる。そして基準位置から吐水位置までカム部材76を回転させる際のステッピングモータ26への供給パルス数(N)と、吐水位置から基準位置まで回転させる際のステッピングモータ26への供給パルス数(N+α)の差αをもって、減速機構72のバックラッシに相当する補正パルス数として求め、以後ステッピングモータ26の回転動作制御を行わしめる。
この実施形態においても、無駄な吐水を行うことなくバックラッシ補正を行うことができる。
【0073】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上記実施形態ではカム部材76に設けた光遮蔽部98が基準位置検出センサ90の挿入空間に挿入したときに、光遮蔽部98の端100の到達を検知するものとなしているが、挿入空間94に位置して光を遮蔽した状態の光遮蔽部98が、カム部材76の回転により投光部92から受光部94への光の透過を許容する位置に到ったときに、光遮蔽部98の端100の到達を基準位置検出センサ90で検知し、カム部材76の基準位置を検出するようにし、またそのように光遮蔽部98の配置位置を定めておくといったことも可能である。
【0074】
また上記実施形態ではカム部材76を弁体側部材とし、その位置を検出することによって主弁体36の状態ないし開度を確認するようになしているが、従動部材62や軸体56等の他の弁体側部材の位置を検出することによって主弁体36の状態ないし開度を確認するようになしても良いし、或いは主弁体36自体を対象としてその基準位置を検出することによって、ステッピングモータの回転位置と主弁体36の状態との関係を求めるようになすことも可能である。
【0075】
更に上記実施形態では減速機構72をもってステッピングモータ26からの駆動力を弁体側に伝達する伝達機構となしているが、かかる伝達機構を他の様々な構造で構成し、その伝達機構を構成する複数の部材間の遊び全体をバックラッシとして補正パルス数を求め、ステッピングモータ26による弁体の駆動を制御するようになすことも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0076】
16 ダイヤル操作部(流調操作部)
18 人体検出センサ(吐止水操作部)
20 制御部
24 流調弁装置
26 ステッピングモータ
28 流調弁
36 主弁体
72 減速機構
76 カム部材
90 基準位置検出センサ
98 光遮蔽部
100 端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流調弁と、該流調弁の弁体を駆動するステッピングモータと、該ステッピングモータからの駆動力を該弁体に伝達する伝達機構と、吐止水及び流量調節のための操作部と、前記ステッピングモータを動作制御する制御部と、を備えて成る流調弁装置において
前記ステッピングモータからの駆動力を前記伝達機構を介して受ける弁体側部材の移動時に該弁体側部材の被検知部位の到達を検知することで該弁体側部材が特定の基準位置に位置したことを検出する基準位置検出センサを設け、
且つ該基準位置を、前記弁体が吐水開始する位置である吐水開始位置よりも該弁体の閉方向側に移動した位置に設定してあることを特徴とする流調弁装置。
【請求項2】
請求項1において、前記基準位置を、前記吐水開始位置と、該吐水開始位置よりも前記弁体の閉方向側に移動した位置であって該弁体が止水待機状態となる位置の止水待機位置との間の位置に設定してあることを特徴とする流調弁装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記ステッピングモータを前記弁体を開かせる方向の正方向又は閉じる方向の逆方向の何れか一方向に回転させ、前記センサが前記弁体側部材が前記基準位置に位置したことを検出したときに、対応する前記ステッピングモータの回転位置を基準回転位置として制御部に記憶した上、該ステッピングモータを該基準回転位置から前記一方向とは反対方向に回転させ、前記センサが前記弁体側部材の被検知部位の離間を検知するまで前記ステッピングモータに供給したパルス数を前記伝達機構のバックラッシに相当する補正パルス数として求め、前記ステッピングモータの回転動作制御を行うようになしてあることを特徴とする流調弁装置。
【請求項4】
請求項2において、使用者の吐水操作に基づいて前記ステッピングモータを前記弁体を開かせる方向の正方向に回転させて、前記弁体側部材を前記基準位置を通過させて前記弁体が開弁し吐水部から吐水させる位置である吐水位置まで移動させるとともに、使用者による止水操作に基づいて前記ステッピングモータを逆方向に回転させて前記弁体側部材を前記基準位置に到らしめ、該弁体側部材を前記基準位置から前記吐水位置まで移動させる際の前記ステッピングモータへの供給パルス数と、該吐水位置から前記基準位置まで移動させる際の該ステッピングモータへの供給パルス数の差をもって前記伝達機構のバックラッシに相当する補正パルス数として求め、ステッピングモータの回転動作制御を行うようになしてあることを特徴とする流調弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−33090(P2011−33090A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178299(P2009−178299)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】