流路部材、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
【課題】弁体の作動圧のばらつきを抑制できる流路部材、これを用いて液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体流路の一部を構成する溝状流路51の開口をフィルム60で封止して形成した圧力室53と、圧力室53に連通する液体流路を開閉する弁体90と、圧力室53の負圧により圧力室53側に変位したフィルム60に押圧されるとともに弁体90を開弁状体となる方向に押圧可能な受圧部材80とを備え、フィルム60を、脂肪族炭化水素を含む接着剤70で溝状流路51の開口縁部51aに接着する。
【解決手段】液体流路の一部を構成する溝状流路51の開口をフィルム60で封止して形成した圧力室53と、圧力室53に連通する液体流路を開閉する弁体90と、圧力室53の負圧により圧力室53側に変位したフィルム60に押圧されるとともに弁体90を開弁状体となる方向に押圧可能な受圧部材80とを備え、フィルム60を、脂肪族炭化水素を含む接着剤70で溝状流路51の開口縁部51aに接着する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流路部材、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドのノズルからターゲットに液体を噴射する液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」ともいう)のノズルからインク滴を噴射するインクジェット式記録装置(以下、単に「記録装置」ともいう)が広く知られている。
【0003】
記録ヘッドは、インクを吐出するヘッド本体と、インクカートリッジ等のインク貯留手段からインクが供給され、そのインクを該ヘッド本体に供給する流路部材とから構成されたものがある。この流路部材には、例えば、ヘッド本体に供給されるインクの圧力を所定の範囲となるように調整するための圧力調整手段が設けられたものがある。
【0004】
圧力調整手段としては、例えば、溝状流路の開口をフィルムで封止して圧力室を形成し、この圧力室内部の圧力変動により、圧力室に連通する連通路を弁体で開閉するように構成したものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−230196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溝状流路の開口をフィルムで封止する方法は、接着剤による接着が挙げられる。この場合、若干の接着剤が圧力室内部にはみ出し、そのはみ出した部分は、フィルムと溝状流路の内壁部分とに亘って付着して硬化する。このため、フィルムが溝状流路の開口を封止した部分の周縁は、硬化した接着剤で固定されることになる。この結果、フィルムの変位可能な領域(以下、可動領域と称する)がはみ出した接着剤の分だけ小さくなってしまう。
【0007】
このように、はみ出した接着剤により、フィルムの可動領域の大きさが変動するが、その変動幅は溝状流路をフィルムで封止した圧力室ごとに異なる。これは、接着剤のはみ出す量を一定量に制御することが難しいからである。フィルムの可動領域が圧力室ごとに異なると、フィルムが弁体を押圧して連通路を開放するために必要な作動圧も、圧力室ごとにばらついてしまう。当該作動圧にばらつきが生じると、各圧力室を経由してノズルから吐出されるインクの速度や吐出されたインク滴の重量にばらつきが生じる虞がある。
【0008】
なお、接着剤が圧力室内部にはみ出さないように、溝状流路の開口縁部から離れた位置に接着剤でフィルムを接着することも考えられる。しかし、この場合、溝状流路の開口縁部の接着剤が塗布されていない部分とフィルムとの間で気泡が成長してしまう。インクの流路中で気泡が成長すると、インクの吐出不良などを生じる虞がある。
【0009】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッド用の流路部材に限らず、インク以外の液体を他の部材に供給する流路部材においても同様に存在する。また、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに限らず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置においても同様に存在する。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑み、弁体の作動圧のばらつきを抑制できる流路部材、これを用いて液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体が流通する液体流路と、前記液体流路の一部を構成する溝状流路と、前記溝状流路の開口を封止して該溝状流路とで圧力室を形成するとともに、該圧力室内の圧力変動で撓み変形する可撓性部材と、前記圧力室に液体が流入しない閉弁状態及び前記圧力室に液体が流入する開弁状態となることが可能であり、閉弁状態となるように付勢された弁体と、前記可撓性部材の前記圧力室側への変位に伴い該可撓性部材から押圧力を受けて変位することで、前記弁体を付勢力に抗して開弁状態となる方向に押圧可能な受圧部材とを備え、前記可撓性部材は、脂肪族炭化水素を含む接着剤で前記溝状流路の開口縁部に接着されていることを特徴とする流路部材にある。
かかる態様では、接着剤に脂肪族炭化水素が含まれることで、接着剤は液体で軟化しやすくなる。これにより、該接着剤が圧力室にはみ出す量によらず、可撓性部材の変形可能な領域が圧力室ごとにばらつくことが抑制される。これにより、可撓性部材が受圧部材を介して弁体を押圧して開弁状態にするために必要な作動圧は、圧力室ごとにばらつくことなく、一定にすることができる。したがって、本発明に係る流路部材は、圧力室における弁体の作動圧にばらつきが生じることを抑制できるので、各液体流路間でばらつきのない均等な圧力で液体をヘッド本体に供給することができる。
【0012】
ここで、前記接着剤は、シリコーン系接着剤であることが好ましい。これによれば、耐液性が高いので信頼性の高い流路部材が提供される。
【0013】
また、前記接着剤は、ジブチル錫を含むことが好ましい。これによれば、高温環境下で放置された場合でも可撓性部材が剥がれにくい流路部材が提供される。
【0014】
また、本発明の他の態様は、上記態様の流路部材と、前記流路部材から供給された液体を吐出するヘッド本体とを備えることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、流路部材から液体流路間でばらつきのない均等な液体がヘッド本体に供給されるので、高品質な液体の吐出を行うことができる液体噴射ヘッドが提供される。
【0015】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、流路部材から液体流路間でばらつきのない均等な液体がヘッド本体に供給されるので、高品質な液体の吐出を行うことができる液体噴射装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】インクジェット式記録装置の平面図である。
【図2】流路部材(カバー部材を取り外した状態)の平面図である。
【図3】第1流路部材の平面図である。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】図2のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。インクジェット式記録ヘッドは液体噴射ヘッドの一例であり、単に記録ヘッドとも言う。また、インクジェット式記録装置は液体噴射装置の一例である。さらに、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」という場合は各図の「前」「右」「上」と表示された各矢印で示す方向をそれぞれ示すものとする。
【0018】
図1は、インクジェット式記録装置の平面図である。図1に示すように、インクジェット式記録装置11は平面視矩形状をなす本体フレーム12を備えている。この本体フレーム12内にはプラテン13が主走査方向となる左右方向に沿って延設されている。プラテン13上には、図示しない紙送り機構により記録用紙(図示略)が副走査方向となる前後方向に沿って給送されるようになっている。また、本体フレーム12内におけるプラテン13の上方には、プラテン13の長手方向(左右方向)と平行に延びる棒状のガイド軸14が架設されている。
【0019】
ガイド軸14には、キャリッジ15がガイド軸14に沿って往復移動可能な状態で支持されている。キャリッジ15は、本体フレーム12の後壁内面に設けられた一対のプーリー16a間に掛装された無端状のタイミングベルト16を介して本体フレーム12の背面に設けられたキャリッジモーター17に連結されている。これにより、キャリッジ15は、キャリッジモーター17の駆動によってガイド軸14に沿って往復移動されるようになっている。
【0020】
キャリッジ15におけるプラテン13と対向する下端側には、液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッド18が支持されている。記録ヘッド18は、インクを噴射するヘッド本体19と、インクカートリッジ22からのインクをヘッド本体19に供給する流路部材30とを具備している。
【0021】
ヘッド本体19の下面には図示しない複数のノズルが開口しており、ヘッド本体19内に設けられた図示しない圧電素子を駆動することにより、各ノズルからプラテン13上に給送された記録用紙(図示略)にそれぞれインク滴が噴射されることで印刷が行われるようになっている。
【0022】
本体フレーム12内の右端部にはカートリッジホルダー21が設けられており、カートリッジホルダー21には液体供給源としての複数のインクカートリッジ22がそれぞれ着脱自在に装着されている。本実施形態ではインクカートリッジ22は5個設けられている。各インクカートリッジ22には、互いに種類(色)の異なるインクが収容されている。
【0023】
カートリッジホルダー21に装着された各インクカートリッジ22は、各インク供給チューブ24を介して流路部材30に接続されている。流路部材30は、各インクカートリッジ22から各インク供給チューブ24を介して供給される各色のインクをそれぞれ一時貯留するようになっており、個別に一時貯留した各色のインクはそれぞれヘッド本体19に供給されるようになっている。
【0024】
本体フレーム12内における右端部寄りの位置であって、キャリッジ15のホームポジション領域には、ヘッド本体19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット26が設けられている。このメンテナンスユニット26は、ヘッド本体19の各ノズルの開口を囲うように該ヘッド本体19に当接したり各ノズルの開口からフラッシングによって吐出されるインクを受容したりするためのキャップ27と、キャップ27内を吸引可能な吸引ポンプ(図示略)とを備えている。
【0025】
そして、ヘッド本体19の各ノズルの開口を囲うようにヘッド本体19にキャップ27を当接した状態でキャップ27内を吸引ポンプ(図示略)によって吸引することで、各ノズルの開口から増粘したインクや気泡などをキャップ27内に強制的に排出させる、いわゆるクリーニングが行われるようになっている。
【0026】
図2は、本実施形態に係る流路部材30(カバー部材を取り外した状態)の平面図であり、図3は、本実施形態に係る第1流路部材40の平面図であり、図4は、図2のA−A線断面図であり、図5は、図2のB−B線断面図である。
【0027】
これらの図に示すように、流路部材30は、有底四角箱状をなす保持部材31と、保持部材31の上部開口を封止可能なカバー部材32と、保持部材31内部に収納された第1流路部材40及び第2流路部材50とを備えている。
【0028】
保持部材31の内底面と第1流路部材40の下面、第1流路部材40の上面と第2流路部材50の下面、及び保持部材31の上面とカバー部材32の下面は、それぞれ互いに接着剤によって接着されている。なお、保持部材31、カバー部材32、第1流路部材40、第2流路部材50は、剛性を有するとともに液体を透過しない合成樹脂によって構成されている。
【0029】
図3に示すように、第1流路部材40の上面における前端側(前方向の端部)には、複数のフィルター室凹部41が設けられている。本実施形態では、用いるインクの種類に応じて5つのフィルター室凹部41を左右方向に並設してある。
【0030】
また、第1流路部材40の内底面における後端側(後方向の端部)には、弁体90(詳細は後述する)が配設される弁体用凹部43が左右方向に並設されている。本実施形態では、1つのフィルター室凹部41につき1つの弁体用凹部43が設けられ、合計5つの弁体用凹部43が左右方向に並設されている。
【0031】
図2〜図5に示すように、第1流路部材40の上面に第2流路部材50が積層されることで、フィルター室44及び弁体収容室46が形成されている。
【0032】
フィルター室44は、各フィルター室凹部41と、第2流路部材50とで囲まれて形成された空間であり、本実施形態では5つのフィルター室44が形成されている。また、弁体収容室46は、弁体用凹部43と、第2流路部材50とで囲まれて形成された空間であり、本実施形態では5つの弁体収容室46が形成されている。
【0033】
フィルター45は、フィルター室凹部41の開口形状と略同一形状であり、フィルター室凹部41のインクが流れる上下方向を横断するように配設されている。フィルター45により、上流側から流入する各インク中に含まれる異物などが除去される。なお、フィルター45は、金属を細かく編み込んで形成したものであってもよいし、微細な単孔が設けられた金属板や不織布等であってもよい。
【0034】
各フィルター室44の底面には、フィルター45で異物等が除去されたインクを、下流側に位置するヘッド本体19側へ流出させるための流出孔47が開口している。流出孔47は、保持部材31の底面に形成された貫通孔である連通孔33に連通しており、連通孔33を介してインクがヘッド本体19へ流出する。
【0035】
また、第1流路部材40には、インク供給チューブ24から供給されるインクが導入されるインク導入路48が形成されている。インク導入路48の一方の開口は、第1流路部材40の上面に形成され、他方の開口は、弁体収容室46の底面に形成されている。
【0036】
第2流路部材50の上面には、流路部材30に形成される液体流路の一部を構成する溝状流路51が前後方向に5つ延設されている。本実施形態では、前後方向の長さを略同一にした5つの溝状流路51が設けられている。
【0037】
溝状流路51は、第2流路部材50の弁体収容室46に対向する領域から、第1流路部材40の後端側のフィルター室44に対向する領域にまで延設されている。溝状流路51の後端側は、弁体収容室46に連通孔52を介して連通している。溝状流路51の前端側は、第1流路部材40の後端側のフィルター室44に連通孔55を介して連通している。
【0038】
第2流路部材50の上面には、可撓性を有する合成樹脂製のフィルム(可撓性部材)60が設けられている。
【0039】
フィルム60は、溝状流路51の上部開口を封止しており、このフィルム60と溝状流路51とで形成された空間は圧力室53とされる。フィルム60の溝状流路51に対向する領域、すなわち、圧力室53の一面を構成する領域を、受圧部61と称する。各溝状流路51の開口形状は、それぞれ同一形状としたので、受圧部61の形状も同一となっている。フィルム60の受圧部61は、大気と圧力室53内の気圧との差で撓み変形する。圧力室53内が大気に対して負圧になることで、受圧部61は、圧力室53の内部側に撓む。
【0040】
本実施形態では、フィルム60は、第2流路部材50の上面全体を覆う一枚のフィルムである。フィルム60は、第2流路部材50の上面のうち溝状流路51の開口縁部51aに、接着剤70で接着されている。もちろん、開口縁部51aのみならず、フィルム60は第2流路部材50の上面全体に接着剤で接着されていてもよい。この接着剤についての詳細は後述する。なお、フィルム60は、一枚で形成する必要はなく、溝状流路51ごとに形成してもよい。
【0041】
上述したように、流路部材30には、各インク導入路48、各弁体収容室46、各圧力室53、各連通孔55、各フィルター室44、各流出孔47、及び連通孔33から構成される液体流路が設けられている。各インク供給チューブ24(図1参照)から供給されたインクは、流路部材30の液体流路を流通してヘッド本体19に供給される。
【0042】
第2流路部材50と、フィルム60との間には、受圧部材80が配設されている。受圧部材80は、フィルムの圧力室53側への変位に伴い、フィルムから押圧力を受けて変位し、後述する弁体90を押圧するものである。
【0043】
具体的には、受圧部材80は、5つの作動板81と、各作動板81が共通して接続される基端部82とから構成されている。受圧部材80の材料は特に限定されないが、本実施形態では、適度な弾力性を有するステンレス製の1枚の薄板から形成されている。作動板81は、その幅が圧力室53の幅よりも若干狭い程度に形成され、前後方向に長尺に形成されている。
【0044】
受圧部材80は、基端部82で第2流路部材50の上面に接着されるとともに、その上面がフィルム60に覆われている。そして、受圧部材80の基端部82が第2流路部材50とカバー部材32とに挟持されている。また、各作動板81は、平面視において受圧部61に対向するように配置され、溝状流路51の底部からは離間している。すなわち、受圧部材80は、基端部82が固定端、作動板81が自由端である片持ち梁構造となっている。
【0045】
受圧部材80の下方には、弁体90が設けられている。弁体90は、圧力室53にインクが流入しない閉弁状体及び圧力室53にインクが流入する開弁状体となることが可能に構成され、閉弁状体となるように付勢されている。具体的には、弁体90は、次のように構成されている。
【0046】
第2流路部材50の底面には、弁体収容室46内に上下方向に延びる円筒状のケース部54が形成されており、ケース部54の下面は弁体収容室46の底面に当接している。ケース部54の前端側には、ケース部54の内外を連通するスリット54aが形成されている。したがって、ケース部54内と弁体収容室46内とは連通している。
【0047】
圧力室53内及び弁体収容室46内には、これらの圧力室53内及び弁体収容室46を跨ぐように弁体90が収容されている。この弁体90は、連通孔52に挿通された円柱状のバルブ軸91と、ケース部54内においてバルブ軸91の下端部に設けられたバルブ軸91の外径よりも大きい外径を持つ円板状の鍔部92とを備えている。バルブ軸91の下端は鍔部92の上面における中心に連結されているとともに、バルブ軸91の上端は作動板81の下面に当接している。
【0048】
鍔部92の外径は、連通孔52の内径よりも大きく、且つケース部54の内径よりも僅かに小さくなっている。鍔部92の上面には、この上面の周縁に沿って可撓性材料よりなる円環状のシール部材93がバルブ軸91を囲むように固着されている。このシール部材93の外径は鍔部92の外径とほぼ同じになっている。また、ケース部54内において、鍔部92の下面と弁体収容室46の底面との間には付勢部材の一例であるコイルばね94が介装されている。
【0049】
コイルばね94は、弁体90を常に閉弁状態となる方向である上方に向かって付勢するようになっている。そして、この弁体90の閉弁状態では、シール部材93が連通孔52を囲んだ状態でケース部54内の上壁面に密着して連通孔52が閉鎖された状態、すなわちケース部54内と圧力室53内とが非連通状態になっている。
【0050】
そして、圧力室53内がヘッド本体19へのインクの供給によって負圧になると、大気圧との差圧によって受圧部61が圧力室53側(下側)に撓むように変位する。この受圧部61の変位に伴って作動板81が基端部82をヒンジとして下方に向かって屈曲するように弾性変形する。
【0051】
作動板81の弾性変形により、作動板81によってバルブ軸91がコイルばね94の付勢力に抗して下方に押し下げられてシール部材93がケース部54内の上壁面から離間することで、弁体90が開弁されるようになっている。そして、弁体90が開弁状態にある場合には、連通孔52が開放された状態、すなわち、ケース部54内と圧力室53内とが連通状態になっている。
【0052】
なお、フィルム60の変位に伴い作動板81を押圧する構成であれば、フィルム60と作動板81とは、常時当接している必要は無く、離間していてもよい。同様に、作動板81の変位に伴い弁体90を押圧する構成であれば、作動板81と弁体90とは、常時当接している必要は無く、離間していてもよい。
【0053】
上述した流路部材30には、インクカートリッジ22からのインクが、インク供給チューブ24を介して供給され、該インクはヘッド本体19に供給される。このとき、受圧部材80や圧力室53、弁体90等は次のように動作する。
【0054】
初期充填もしくは以前のインクの吐出により、インクが液体流路に供給された状態で、ヘッド本体19から各インクが噴射されると、各圧力室53内のインクが減少する。これにより、各圧力室53は負圧となり、受圧部61が圧力室53側(下側)に撓むように変位する。受圧部61に押圧されて各作動板81が弾性変形し、さらに作動板81に押圧されて各弁体90が押し下げられる。弁体90が、圧力コイルばね94の付勢力に抗して押し下げられると、弁体90が開弁状態となる。すると、各弁体収容室46のインクが連通孔52を介して各圧力室53内に流れ込む。そして、各圧力室53内にそれぞれインクが十分に補充されると、各圧力室53内の負圧が解消されて各受圧部61及び各作動板81が元の位置に戻るとともに、各コイルばね94の付勢力により各弁体90がそれぞれ閉弁状態となり、各圧力室53は常に一定の圧力に保たれる。
【0055】
ここで、接着剤70について詳細に説明する。
本発明に係る接着剤70は、脂肪族炭化水素を含む樹脂接着剤である。樹脂接着剤としては、インク(液体)に対して耐インク性(耐食性)を有するものであれば特に限定されないが、熱硬化接着剤、紫外線硬化接着剤、湿気硬化接着剤などを用いることができる。例えば、エポキシ系、アクリル系、シリコーン系の接着剤を用いることができ、特に、耐インク性に優れるシリコーン系接着剤を用いることが好ましい。
【0056】
脂肪族炭化水素は、炭素数が5〜9であるもの及びその異性体である。具体的には、ペンタン(C5H12)、ヘキサン(C6H14)、ヘプタン(C7H16)、オクタン(C8H18)、ノナン(C9H20)及びこれらの異性体である。これらの脂肪族炭化水素は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
これらの脂肪族炭化水素は、接着剤70の溶剤として添加されたものであり、揮発性が比較的高いものである。例えば、ペンタンの沸点は36℃であり、ヘキサンの沸点は69℃であり、ヘプタンの沸点は98℃であり、オクタンの沸点は126℃であり、ノナンの沸点は151℃である。
【0058】
このような組成の接着剤70は、図5に示すように、第2流路部材50とフィルム60とを接着している。接着剤70の一部は、圧力室53内側にはみ出している。接着剤70のうち、溝状流路51の開口縁部51aから圧力室53内部にはみ出した部分を符号70aで示す。
【0059】
フィルム60と第2流路部材50とを接着した接着剤70は、接着剤の硬化を促進するために加熱されている。この加熱により、接着剤70が脂肪族炭化水素の沸点を超えるような温度に達すると、脂肪族炭化水素が接着剤70から蒸発する。この結果、接着剤70(接着剤70a)には、脂肪族炭化水素が蒸発したことによる間隙が形成されている。
【0060】
また、接着剤70aは、圧力室53内に露出しているため、圧力室53内に供給されたインクに接する。上述したように、接着剤70aには間隙が形成されているため、インクは接着剤70a内部にまで浸透する。インクが浸透した接着剤70aは、インクの水分を吸収して膨潤する。インクの水分で膨潤した接着剤70aは、当初の硬化した状態から比較して軟化したものとなる。
【0061】
この接着剤70aは、軟化したことで変形しやすい状態となっている。したがって、圧力室53内の負圧で変形するフィルム60の受圧部61とともに接着剤70aも変形する。つまり、接着剤70aは、接着剤70aが接着している受圧部61の周縁部が変形することを阻害しない。
【0062】
すなわち、接着剤70aが圧力室53内にどれだけはみ出していようとも、受圧部61が変形可能な領域Sは受圧部61全体となる。
【0063】
脂肪族炭化水素が含まれていない接着剤を用いた場合は、当該接着剤はフィルム60とともに変形しないので、当該接着剤が接着している受圧部61の周縁部は固定された状態となる。つまり、受圧部61のうち、接着剤70aと接していない部分が変形可能な領域S’となる。従来技術の説明に述べたように、はみ出した接着剤70aの幅Dを全ての圧力室53について同じ幅にすることは困難であり、幅Dは圧力室53ごとに異なる。結局、脂肪族炭化水素が含まれていない接着剤を用いた場合では、受圧部61のうち変形可能な領域S’は圧力室53ごとに異なってしまう。
【0064】
しかしながら、本発明では、脂肪族炭化水素を含む接着剤70を用いたことで、受圧部61の変形可能な領域Sは受圧部61の大きさそのものとなり、接着剤70aのはみ出す幅Dによらない。これにより、フィルム60が作動板81を介して弁体90を押圧して開弁状態にするために必要な作動圧は、圧力室53ごとにばらつくことなく、一定にすることができる。
【0065】
したがって、流路部材30は、圧力室53における弁体90の作動圧にばらつきが生じることを抑制できるので、各液体流路間でばらつきのない均等な圧力でインクをヘッド本体19に供給することができる。
【0066】
そして、このような流路部材30とヘッド本体19とを備えた記録ヘッド18及びインクジェット式記録装置11によれば、上述したように流路部材30により各液体流路間でばらつきのない均等な圧力でインクがヘッド本体19に供給されるので、各液体流路を経由してノズルから吐出されるインクの吐出速度や、吐出されたインク滴の重量にばらつきが生じることを抑制することができる。このようにインクの吐出特性が向上することで、高品質な印刷を行うことができる記録ヘッド18及びインクジェット式記録装置11が提供される。
【0067】
ここで、具体的な接着剤の組成例と、受圧部61の作動圧のばらつきを測定した結果を示す。
【0068】
比較例に係る接着剤A、本発明の実施例に係る接着剤B及び接着剤Cは、可塑剤、溶剤、触媒、樹脂、フィラーからなる組成物であり、組成比は表1の通りである。
【0069】
【表1】
【0070】
これらの接着剤A〜Cを用いて、上述したような流路部材30を形成した。すなわち、フィルム60を第2流路部材50に接着する接着剤70としてこれらの接着剤A〜Cを用いた。
【0071】
製作した流路部材30について、接着剤70のはみ出した幅Dを測定した。また、流路部材30の液体流路にインクを通液し、その後の弁体90の作動圧を測定し、一定期間放置後、再度、弁体90の作動圧を測定した。さらに、10日間70℃の環境下に流路部材30を放置し、接着剤の信頼性を評価した。この結果を表2に示す。
【0072】
なお、接着剤のはみ出した幅は、マイクロスコープ(株式会社キーエンス社製 VHX−500)を用いて溝状流路51からはみ出した接着剤の幅を測定したものである。また、作動圧の測定は、次のように行った。まず、インクを貯留したインクボトルから液体流路にインクを供給し、ノズルから吐出されたインクをインクボトルに回収する循環流路を形成し、さらに、この循環流路にチューブポンプを介装した。このチューブポンプを作動させることで、インクが、インクボトルから流路部材30、チューブポンプ、インクボトルと循環するようにした。そして、バルブが開閉したときの受圧部61(弁体90)に掛かる圧力を圧力計(オムロン株式会社製 E8Y)で測定した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、接着剤Aに関しては、通液直後・一定期間放置後の弁体の作動圧に変化はなかった。すなわち、接着剤Aが膨潤・軟化していないと考えられる。そして、はみ出し幅Dが最も小さい0.1mmの場合の弁体90の作動圧は−1.3(kPa)であり、はみ出し幅Dが最も大きい0.3mmの場合の弁体90の作動圧は−1.6(kPa)であり、差は、0.3(kPa)である。
【0075】
一方、接着剤B及び接着剤Cに関しては、一定期間放置後の弁体の作動圧は、通液直後の弁体の作動圧に比べて小さくなっており、接着剤B及び接着剤Cが膨潤・軟化していると考えられる。そして、接着剤B及び接着剤Cを用いた場合の、はみ出し幅Dが最も小さい0.1mmの場合の弁体90の作動圧は−1.24(kPa)であり、はみ出し幅Dが最も大きい0.3mmの場合の弁体90の作動圧は−1.37(kPa)であり、差は、0.13(kPa)である。
【0076】
この結果から、比較例に係る接着剤Aを用いた場合、接着剤のはみ出し幅Dが異なれば、それに応じて弁体の作動圧のばらつきも大きくなると言える。一方、本発明に係る接着剤B及び接着剤Cを用いた場合、接着剤のはみ出し幅Dが異なっても、弁体の作動圧のばらつきは小さいと言える。
【0077】
また、接着剤の信頼性が「○」の場合は、フィルム60が第2流路部材50から剥離しなかったことを表しており、「×」の場合は、フィルム60が第2流路部材50から剥離したことを表している。この結果によれば、触媒にジブチル錫を用いた接着剤B(及び接着剤A)が「○」であった。このことから、触媒としてジブチル錫を含む接着剤を用いた場合、高温放置後における接着剤の信頼性が高い流路部材30が提供されることがわかった。
【0078】
〈他の実施形態〉
本発明に用いられるインクは、特に限定されないが、水を主溶媒とし、水に溶解・分散可能な含量を含む水系インクを用いることができる。このようなインクであれば接着剤70が上述したように膨潤・軟化する作用を奏する。また、インク以外の液体を吐出する場合には、当該液体は、水を溶媒に含むものであれば特に限定されない。
【0079】
脂肪族炭化水素を蒸発させるための加熱温度は、脂肪族炭化水素の沸点を超える温度とするが、流路部材30の構成部材が許容できる温度以下とすることが好ましい。逆に言えば、流路部材30の構成部材が許容できる温度以下の沸点を有する脂肪族炭化水素を接着剤に含めることができる。
【0080】
また、接着剤70として、脂肪族炭化水素を含む紫外線硬化接着剤や湿気硬化接着剤を用いた場合、これらを硬化させた後、別途加熱を行って、脂肪族炭化水素を蒸発させてもよい。
【0081】
また、脂肪族炭化水素の蒸発に伴い、接着剤にインクの水分が浸透しやすくなるような間隙が形成される。このことに鑑みれば、接着剤に揮発しやすい成分が含まれていれば、同様の作用効果を奏すると考えられる。そのような揮発しやすい成分としては、低級アルコールやケトン系化合物を挙げることができる。
【0082】
また、上述したインクジェット式記録装置11では、記録ヘッド18がキャリッジ15に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されない。例えば、記録ヘッド18が固定されて、紙等の記録シートを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0083】
なお、上記各実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0084】
11 インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 18 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 19 ヘッド本体、 30 流路部材、 31 保持部材、 32 カバー部材、 40 第1流路部材、 50 第2流路部材、 51 溝状流路、 51a 開口縁部、 53 圧力室、 61 受圧部、 70、70a 接着剤、 80 受圧部材、 81 作動板、 90 弁体
【技術分野】
【0001】
本発明は流路部材、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドのノズルからターゲットに液体を噴射する液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」ともいう)のノズルからインク滴を噴射するインクジェット式記録装置(以下、単に「記録装置」ともいう)が広く知られている。
【0003】
記録ヘッドは、インクを吐出するヘッド本体と、インクカートリッジ等のインク貯留手段からインクが供給され、そのインクを該ヘッド本体に供給する流路部材とから構成されたものがある。この流路部材には、例えば、ヘッド本体に供給されるインクの圧力を所定の範囲となるように調整するための圧力調整手段が設けられたものがある。
【0004】
圧力調整手段としては、例えば、溝状流路の開口をフィルムで封止して圧力室を形成し、この圧力室内部の圧力変動により、圧力室に連通する連通路を弁体で開閉するように構成したものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−230196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溝状流路の開口をフィルムで封止する方法は、接着剤による接着が挙げられる。この場合、若干の接着剤が圧力室内部にはみ出し、そのはみ出した部分は、フィルムと溝状流路の内壁部分とに亘って付着して硬化する。このため、フィルムが溝状流路の開口を封止した部分の周縁は、硬化した接着剤で固定されることになる。この結果、フィルムの変位可能な領域(以下、可動領域と称する)がはみ出した接着剤の分だけ小さくなってしまう。
【0007】
このように、はみ出した接着剤により、フィルムの可動領域の大きさが変動するが、その変動幅は溝状流路をフィルムで封止した圧力室ごとに異なる。これは、接着剤のはみ出す量を一定量に制御することが難しいからである。フィルムの可動領域が圧力室ごとに異なると、フィルムが弁体を押圧して連通路を開放するために必要な作動圧も、圧力室ごとにばらついてしまう。当該作動圧にばらつきが生じると、各圧力室を経由してノズルから吐出されるインクの速度や吐出されたインク滴の重量にばらつきが生じる虞がある。
【0008】
なお、接着剤が圧力室内部にはみ出さないように、溝状流路の開口縁部から離れた位置に接着剤でフィルムを接着することも考えられる。しかし、この場合、溝状流路の開口縁部の接着剤が塗布されていない部分とフィルムとの間で気泡が成長してしまう。インクの流路中で気泡が成長すると、インクの吐出不良などを生じる虞がある。
【0009】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッド用の流路部材に限らず、インク以外の液体を他の部材に供給する流路部材においても同様に存在する。また、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに限らず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置においても同様に存在する。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑み、弁体の作動圧のばらつきを抑制できる流路部材、これを用いて液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体が流通する液体流路と、前記液体流路の一部を構成する溝状流路と、前記溝状流路の開口を封止して該溝状流路とで圧力室を形成するとともに、該圧力室内の圧力変動で撓み変形する可撓性部材と、前記圧力室に液体が流入しない閉弁状態及び前記圧力室に液体が流入する開弁状態となることが可能であり、閉弁状態となるように付勢された弁体と、前記可撓性部材の前記圧力室側への変位に伴い該可撓性部材から押圧力を受けて変位することで、前記弁体を付勢力に抗して開弁状態となる方向に押圧可能な受圧部材とを備え、前記可撓性部材は、脂肪族炭化水素を含む接着剤で前記溝状流路の開口縁部に接着されていることを特徴とする流路部材にある。
かかる態様では、接着剤に脂肪族炭化水素が含まれることで、接着剤は液体で軟化しやすくなる。これにより、該接着剤が圧力室にはみ出す量によらず、可撓性部材の変形可能な領域が圧力室ごとにばらつくことが抑制される。これにより、可撓性部材が受圧部材を介して弁体を押圧して開弁状態にするために必要な作動圧は、圧力室ごとにばらつくことなく、一定にすることができる。したがって、本発明に係る流路部材は、圧力室における弁体の作動圧にばらつきが生じることを抑制できるので、各液体流路間でばらつきのない均等な圧力で液体をヘッド本体に供給することができる。
【0012】
ここで、前記接着剤は、シリコーン系接着剤であることが好ましい。これによれば、耐液性が高いので信頼性の高い流路部材が提供される。
【0013】
また、前記接着剤は、ジブチル錫を含むことが好ましい。これによれば、高温環境下で放置された場合でも可撓性部材が剥がれにくい流路部材が提供される。
【0014】
また、本発明の他の態様は、上記態様の流路部材と、前記流路部材から供給された液体を吐出するヘッド本体とを備えることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、流路部材から液体流路間でばらつきのない均等な液体がヘッド本体に供給されるので、高品質な液体の吐出を行うことができる液体噴射ヘッドが提供される。
【0015】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、流路部材から液体流路間でばらつきのない均等な液体がヘッド本体に供給されるので、高品質な液体の吐出を行うことができる液体噴射装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】インクジェット式記録装置の平面図である。
【図2】流路部材(カバー部材を取り外した状態)の平面図である。
【図3】第1流路部材の平面図である。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】図2のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。インクジェット式記録ヘッドは液体噴射ヘッドの一例であり、単に記録ヘッドとも言う。また、インクジェット式記録装置は液体噴射装置の一例である。さらに、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」という場合は各図の「前」「右」「上」と表示された各矢印で示す方向をそれぞれ示すものとする。
【0018】
図1は、インクジェット式記録装置の平面図である。図1に示すように、インクジェット式記録装置11は平面視矩形状をなす本体フレーム12を備えている。この本体フレーム12内にはプラテン13が主走査方向となる左右方向に沿って延設されている。プラテン13上には、図示しない紙送り機構により記録用紙(図示略)が副走査方向となる前後方向に沿って給送されるようになっている。また、本体フレーム12内におけるプラテン13の上方には、プラテン13の長手方向(左右方向)と平行に延びる棒状のガイド軸14が架設されている。
【0019】
ガイド軸14には、キャリッジ15がガイド軸14に沿って往復移動可能な状態で支持されている。キャリッジ15は、本体フレーム12の後壁内面に設けられた一対のプーリー16a間に掛装された無端状のタイミングベルト16を介して本体フレーム12の背面に設けられたキャリッジモーター17に連結されている。これにより、キャリッジ15は、キャリッジモーター17の駆動によってガイド軸14に沿って往復移動されるようになっている。
【0020】
キャリッジ15におけるプラテン13と対向する下端側には、液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッド18が支持されている。記録ヘッド18は、インクを噴射するヘッド本体19と、インクカートリッジ22からのインクをヘッド本体19に供給する流路部材30とを具備している。
【0021】
ヘッド本体19の下面には図示しない複数のノズルが開口しており、ヘッド本体19内に設けられた図示しない圧電素子を駆動することにより、各ノズルからプラテン13上に給送された記録用紙(図示略)にそれぞれインク滴が噴射されることで印刷が行われるようになっている。
【0022】
本体フレーム12内の右端部にはカートリッジホルダー21が設けられており、カートリッジホルダー21には液体供給源としての複数のインクカートリッジ22がそれぞれ着脱自在に装着されている。本実施形態ではインクカートリッジ22は5個設けられている。各インクカートリッジ22には、互いに種類(色)の異なるインクが収容されている。
【0023】
カートリッジホルダー21に装着された各インクカートリッジ22は、各インク供給チューブ24を介して流路部材30に接続されている。流路部材30は、各インクカートリッジ22から各インク供給チューブ24を介して供給される各色のインクをそれぞれ一時貯留するようになっており、個別に一時貯留した各色のインクはそれぞれヘッド本体19に供給されるようになっている。
【0024】
本体フレーム12内における右端部寄りの位置であって、キャリッジ15のホームポジション領域には、ヘッド本体19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット26が設けられている。このメンテナンスユニット26は、ヘッド本体19の各ノズルの開口を囲うように該ヘッド本体19に当接したり各ノズルの開口からフラッシングによって吐出されるインクを受容したりするためのキャップ27と、キャップ27内を吸引可能な吸引ポンプ(図示略)とを備えている。
【0025】
そして、ヘッド本体19の各ノズルの開口を囲うようにヘッド本体19にキャップ27を当接した状態でキャップ27内を吸引ポンプ(図示略)によって吸引することで、各ノズルの開口から増粘したインクや気泡などをキャップ27内に強制的に排出させる、いわゆるクリーニングが行われるようになっている。
【0026】
図2は、本実施形態に係る流路部材30(カバー部材を取り外した状態)の平面図であり、図3は、本実施形態に係る第1流路部材40の平面図であり、図4は、図2のA−A線断面図であり、図5は、図2のB−B線断面図である。
【0027】
これらの図に示すように、流路部材30は、有底四角箱状をなす保持部材31と、保持部材31の上部開口を封止可能なカバー部材32と、保持部材31内部に収納された第1流路部材40及び第2流路部材50とを備えている。
【0028】
保持部材31の内底面と第1流路部材40の下面、第1流路部材40の上面と第2流路部材50の下面、及び保持部材31の上面とカバー部材32の下面は、それぞれ互いに接着剤によって接着されている。なお、保持部材31、カバー部材32、第1流路部材40、第2流路部材50は、剛性を有するとともに液体を透過しない合成樹脂によって構成されている。
【0029】
図3に示すように、第1流路部材40の上面における前端側(前方向の端部)には、複数のフィルター室凹部41が設けられている。本実施形態では、用いるインクの種類に応じて5つのフィルター室凹部41を左右方向に並設してある。
【0030】
また、第1流路部材40の内底面における後端側(後方向の端部)には、弁体90(詳細は後述する)が配設される弁体用凹部43が左右方向に並設されている。本実施形態では、1つのフィルター室凹部41につき1つの弁体用凹部43が設けられ、合計5つの弁体用凹部43が左右方向に並設されている。
【0031】
図2〜図5に示すように、第1流路部材40の上面に第2流路部材50が積層されることで、フィルター室44及び弁体収容室46が形成されている。
【0032】
フィルター室44は、各フィルター室凹部41と、第2流路部材50とで囲まれて形成された空間であり、本実施形態では5つのフィルター室44が形成されている。また、弁体収容室46は、弁体用凹部43と、第2流路部材50とで囲まれて形成された空間であり、本実施形態では5つの弁体収容室46が形成されている。
【0033】
フィルター45は、フィルター室凹部41の開口形状と略同一形状であり、フィルター室凹部41のインクが流れる上下方向を横断するように配設されている。フィルター45により、上流側から流入する各インク中に含まれる異物などが除去される。なお、フィルター45は、金属を細かく編み込んで形成したものであってもよいし、微細な単孔が設けられた金属板や不織布等であってもよい。
【0034】
各フィルター室44の底面には、フィルター45で異物等が除去されたインクを、下流側に位置するヘッド本体19側へ流出させるための流出孔47が開口している。流出孔47は、保持部材31の底面に形成された貫通孔である連通孔33に連通しており、連通孔33を介してインクがヘッド本体19へ流出する。
【0035】
また、第1流路部材40には、インク供給チューブ24から供給されるインクが導入されるインク導入路48が形成されている。インク導入路48の一方の開口は、第1流路部材40の上面に形成され、他方の開口は、弁体収容室46の底面に形成されている。
【0036】
第2流路部材50の上面には、流路部材30に形成される液体流路の一部を構成する溝状流路51が前後方向に5つ延設されている。本実施形態では、前後方向の長さを略同一にした5つの溝状流路51が設けられている。
【0037】
溝状流路51は、第2流路部材50の弁体収容室46に対向する領域から、第1流路部材40の後端側のフィルター室44に対向する領域にまで延設されている。溝状流路51の後端側は、弁体収容室46に連通孔52を介して連通している。溝状流路51の前端側は、第1流路部材40の後端側のフィルター室44に連通孔55を介して連通している。
【0038】
第2流路部材50の上面には、可撓性を有する合成樹脂製のフィルム(可撓性部材)60が設けられている。
【0039】
フィルム60は、溝状流路51の上部開口を封止しており、このフィルム60と溝状流路51とで形成された空間は圧力室53とされる。フィルム60の溝状流路51に対向する領域、すなわち、圧力室53の一面を構成する領域を、受圧部61と称する。各溝状流路51の開口形状は、それぞれ同一形状としたので、受圧部61の形状も同一となっている。フィルム60の受圧部61は、大気と圧力室53内の気圧との差で撓み変形する。圧力室53内が大気に対して負圧になることで、受圧部61は、圧力室53の内部側に撓む。
【0040】
本実施形態では、フィルム60は、第2流路部材50の上面全体を覆う一枚のフィルムである。フィルム60は、第2流路部材50の上面のうち溝状流路51の開口縁部51aに、接着剤70で接着されている。もちろん、開口縁部51aのみならず、フィルム60は第2流路部材50の上面全体に接着剤で接着されていてもよい。この接着剤についての詳細は後述する。なお、フィルム60は、一枚で形成する必要はなく、溝状流路51ごとに形成してもよい。
【0041】
上述したように、流路部材30には、各インク導入路48、各弁体収容室46、各圧力室53、各連通孔55、各フィルター室44、各流出孔47、及び連通孔33から構成される液体流路が設けられている。各インク供給チューブ24(図1参照)から供給されたインクは、流路部材30の液体流路を流通してヘッド本体19に供給される。
【0042】
第2流路部材50と、フィルム60との間には、受圧部材80が配設されている。受圧部材80は、フィルムの圧力室53側への変位に伴い、フィルムから押圧力を受けて変位し、後述する弁体90を押圧するものである。
【0043】
具体的には、受圧部材80は、5つの作動板81と、各作動板81が共通して接続される基端部82とから構成されている。受圧部材80の材料は特に限定されないが、本実施形態では、適度な弾力性を有するステンレス製の1枚の薄板から形成されている。作動板81は、その幅が圧力室53の幅よりも若干狭い程度に形成され、前後方向に長尺に形成されている。
【0044】
受圧部材80は、基端部82で第2流路部材50の上面に接着されるとともに、その上面がフィルム60に覆われている。そして、受圧部材80の基端部82が第2流路部材50とカバー部材32とに挟持されている。また、各作動板81は、平面視において受圧部61に対向するように配置され、溝状流路51の底部からは離間している。すなわち、受圧部材80は、基端部82が固定端、作動板81が自由端である片持ち梁構造となっている。
【0045】
受圧部材80の下方には、弁体90が設けられている。弁体90は、圧力室53にインクが流入しない閉弁状体及び圧力室53にインクが流入する開弁状体となることが可能に構成され、閉弁状体となるように付勢されている。具体的には、弁体90は、次のように構成されている。
【0046】
第2流路部材50の底面には、弁体収容室46内に上下方向に延びる円筒状のケース部54が形成されており、ケース部54の下面は弁体収容室46の底面に当接している。ケース部54の前端側には、ケース部54の内外を連通するスリット54aが形成されている。したがって、ケース部54内と弁体収容室46内とは連通している。
【0047】
圧力室53内及び弁体収容室46内には、これらの圧力室53内及び弁体収容室46を跨ぐように弁体90が収容されている。この弁体90は、連通孔52に挿通された円柱状のバルブ軸91と、ケース部54内においてバルブ軸91の下端部に設けられたバルブ軸91の外径よりも大きい外径を持つ円板状の鍔部92とを備えている。バルブ軸91の下端は鍔部92の上面における中心に連結されているとともに、バルブ軸91の上端は作動板81の下面に当接している。
【0048】
鍔部92の外径は、連通孔52の内径よりも大きく、且つケース部54の内径よりも僅かに小さくなっている。鍔部92の上面には、この上面の周縁に沿って可撓性材料よりなる円環状のシール部材93がバルブ軸91を囲むように固着されている。このシール部材93の外径は鍔部92の外径とほぼ同じになっている。また、ケース部54内において、鍔部92の下面と弁体収容室46の底面との間には付勢部材の一例であるコイルばね94が介装されている。
【0049】
コイルばね94は、弁体90を常に閉弁状態となる方向である上方に向かって付勢するようになっている。そして、この弁体90の閉弁状態では、シール部材93が連通孔52を囲んだ状態でケース部54内の上壁面に密着して連通孔52が閉鎖された状態、すなわちケース部54内と圧力室53内とが非連通状態になっている。
【0050】
そして、圧力室53内がヘッド本体19へのインクの供給によって負圧になると、大気圧との差圧によって受圧部61が圧力室53側(下側)に撓むように変位する。この受圧部61の変位に伴って作動板81が基端部82をヒンジとして下方に向かって屈曲するように弾性変形する。
【0051】
作動板81の弾性変形により、作動板81によってバルブ軸91がコイルばね94の付勢力に抗して下方に押し下げられてシール部材93がケース部54内の上壁面から離間することで、弁体90が開弁されるようになっている。そして、弁体90が開弁状態にある場合には、連通孔52が開放された状態、すなわち、ケース部54内と圧力室53内とが連通状態になっている。
【0052】
なお、フィルム60の変位に伴い作動板81を押圧する構成であれば、フィルム60と作動板81とは、常時当接している必要は無く、離間していてもよい。同様に、作動板81の変位に伴い弁体90を押圧する構成であれば、作動板81と弁体90とは、常時当接している必要は無く、離間していてもよい。
【0053】
上述した流路部材30には、インクカートリッジ22からのインクが、インク供給チューブ24を介して供給され、該インクはヘッド本体19に供給される。このとき、受圧部材80や圧力室53、弁体90等は次のように動作する。
【0054】
初期充填もしくは以前のインクの吐出により、インクが液体流路に供給された状態で、ヘッド本体19から各インクが噴射されると、各圧力室53内のインクが減少する。これにより、各圧力室53は負圧となり、受圧部61が圧力室53側(下側)に撓むように変位する。受圧部61に押圧されて各作動板81が弾性変形し、さらに作動板81に押圧されて各弁体90が押し下げられる。弁体90が、圧力コイルばね94の付勢力に抗して押し下げられると、弁体90が開弁状態となる。すると、各弁体収容室46のインクが連通孔52を介して各圧力室53内に流れ込む。そして、各圧力室53内にそれぞれインクが十分に補充されると、各圧力室53内の負圧が解消されて各受圧部61及び各作動板81が元の位置に戻るとともに、各コイルばね94の付勢力により各弁体90がそれぞれ閉弁状態となり、各圧力室53は常に一定の圧力に保たれる。
【0055】
ここで、接着剤70について詳細に説明する。
本発明に係る接着剤70は、脂肪族炭化水素を含む樹脂接着剤である。樹脂接着剤としては、インク(液体)に対して耐インク性(耐食性)を有するものであれば特に限定されないが、熱硬化接着剤、紫外線硬化接着剤、湿気硬化接着剤などを用いることができる。例えば、エポキシ系、アクリル系、シリコーン系の接着剤を用いることができ、特に、耐インク性に優れるシリコーン系接着剤を用いることが好ましい。
【0056】
脂肪族炭化水素は、炭素数が5〜9であるもの及びその異性体である。具体的には、ペンタン(C5H12)、ヘキサン(C6H14)、ヘプタン(C7H16)、オクタン(C8H18)、ノナン(C9H20)及びこれらの異性体である。これらの脂肪族炭化水素は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
これらの脂肪族炭化水素は、接着剤70の溶剤として添加されたものであり、揮発性が比較的高いものである。例えば、ペンタンの沸点は36℃であり、ヘキサンの沸点は69℃であり、ヘプタンの沸点は98℃であり、オクタンの沸点は126℃であり、ノナンの沸点は151℃である。
【0058】
このような組成の接着剤70は、図5に示すように、第2流路部材50とフィルム60とを接着している。接着剤70の一部は、圧力室53内側にはみ出している。接着剤70のうち、溝状流路51の開口縁部51aから圧力室53内部にはみ出した部分を符号70aで示す。
【0059】
フィルム60と第2流路部材50とを接着した接着剤70は、接着剤の硬化を促進するために加熱されている。この加熱により、接着剤70が脂肪族炭化水素の沸点を超えるような温度に達すると、脂肪族炭化水素が接着剤70から蒸発する。この結果、接着剤70(接着剤70a)には、脂肪族炭化水素が蒸発したことによる間隙が形成されている。
【0060】
また、接着剤70aは、圧力室53内に露出しているため、圧力室53内に供給されたインクに接する。上述したように、接着剤70aには間隙が形成されているため、インクは接着剤70a内部にまで浸透する。インクが浸透した接着剤70aは、インクの水分を吸収して膨潤する。インクの水分で膨潤した接着剤70aは、当初の硬化した状態から比較して軟化したものとなる。
【0061】
この接着剤70aは、軟化したことで変形しやすい状態となっている。したがって、圧力室53内の負圧で変形するフィルム60の受圧部61とともに接着剤70aも変形する。つまり、接着剤70aは、接着剤70aが接着している受圧部61の周縁部が変形することを阻害しない。
【0062】
すなわち、接着剤70aが圧力室53内にどれだけはみ出していようとも、受圧部61が変形可能な領域Sは受圧部61全体となる。
【0063】
脂肪族炭化水素が含まれていない接着剤を用いた場合は、当該接着剤はフィルム60とともに変形しないので、当該接着剤が接着している受圧部61の周縁部は固定された状態となる。つまり、受圧部61のうち、接着剤70aと接していない部分が変形可能な領域S’となる。従来技術の説明に述べたように、はみ出した接着剤70aの幅Dを全ての圧力室53について同じ幅にすることは困難であり、幅Dは圧力室53ごとに異なる。結局、脂肪族炭化水素が含まれていない接着剤を用いた場合では、受圧部61のうち変形可能な領域S’は圧力室53ごとに異なってしまう。
【0064】
しかしながら、本発明では、脂肪族炭化水素を含む接着剤70を用いたことで、受圧部61の変形可能な領域Sは受圧部61の大きさそのものとなり、接着剤70aのはみ出す幅Dによらない。これにより、フィルム60が作動板81を介して弁体90を押圧して開弁状態にするために必要な作動圧は、圧力室53ごとにばらつくことなく、一定にすることができる。
【0065】
したがって、流路部材30は、圧力室53における弁体90の作動圧にばらつきが生じることを抑制できるので、各液体流路間でばらつきのない均等な圧力でインクをヘッド本体19に供給することができる。
【0066】
そして、このような流路部材30とヘッド本体19とを備えた記録ヘッド18及びインクジェット式記録装置11によれば、上述したように流路部材30により各液体流路間でばらつきのない均等な圧力でインクがヘッド本体19に供給されるので、各液体流路を経由してノズルから吐出されるインクの吐出速度や、吐出されたインク滴の重量にばらつきが生じることを抑制することができる。このようにインクの吐出特性が向上することで、高品質な印刷を行うことができる記録ヘッド18及びインクジェット式記録装置11が提供される。
【0067】
ここで、具体的な接着剤の組成例と、受圧部61の作動圧のばらつきを測定した結果を示す。
【0068】
比較例に係る接着剤A、本発明の実施例に係る接着剤B及び接着剤Cは、可塑剤、溶剤、触媒、樹脂、フィラーからなる組成物であり、組成比は表1の通りである。
【0069】
【表1】
【0070】
これらの接着剤A〜Cを用いて、上述したような流路部材30を形成した。すなわち、フィルム60を第2流路部材50に接着する接着剤70としてこれらの接着剤A〜Cを用いた。
【0071】
製作した流路部材30について、接着剤70のはみ出した幅Dを測定した。また、流路部材30の液体流路にインクを通液し、その後の弁体90の作動圧を測定し、一定期間放置後、再度、弁体90の作動圧を測定した。さらに、10日間70℃の環境下に流路部材30を放置し、接着剤の信頼性を評価した。この結果を表2に示す。
【0072】
なお、接着剤のはみ出した幅は、マイクロスコープ(株式会社キーエンス社製 VHX−500)を用いて溝状流路51からはみ出した接着剤の幅を測定したものである。また、作動圧の測定は、次のように行った。まず、インクを貯留したインクボトルから液体流路にインクを供給し、ノズルから吐出されたインクをインクボトルに回収する循環流路を形成し、さらに、この循環流路にチューブポンプを介装した。このチューブポンプを作動させることで、インクが、インクボトルから流路部材30、チューブポンプ、インクボトルと循環するようにした。そして、バルブが開閉したときの受圧部61(弁体90)に掛かる圧力を圧力計(オムロン株式会社製 E8Y)で測定した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、接着剤Aに関しては、通液直後・一定期間放置後の弁体の作動圧に変化はなかった。すなわち、接着剤Aが膨潤・軟化していないと考えられる。そして、はみ出し幅Dが最も小さい0.1mmの場合の弁体90の作動圧は−1.3(kPa)であり、はみ出し幅Dが最も大きい0.3mmの場合の弁体90の作動圧は−1.6(kPa)であり、差は、0.3(kPa)である。
【0075】
一方、接着剤B及び接着剤Cに関しては、一定期間放置後の弁体の作動圧は、通液直後の弁体の作動圧に比べて小さくなっており、接着剤B及び接着剤Cが膨潤・軟化していると考えられる。そして、接着剤B及び接着剤Cを用いた場合の、はみ出し幅Dが最も小さい0.1mmの場合の弁体90の作動圧は−1.24(kPa)であり、はみ出し幅Dが最も大きい0.3mmの場合の弁体90の作動圧は−1.37(kPa)であり、差は、0.13(kPa)である。
【0076】
この結果から、比較例に係る接着剤Aを用いた場合、接着剤のはみ出し幅Dが異なれば、それに応じて弁体の作動圧のばらつきも大きくなると言える。一方、本発明に係る接着剤B及び接着剤Cを用いた場合、接着剤のはみ出し幅Dが異なっても、弁体の作動圧のばらつきは小さいと言える。
【0077】
また、接着剤の信頼性が「○」の場合は、フィルム60が第2流路部材50から剥離しなかったことを表しており、「×」の場合は、フィルム60が第2流路部材50から剥離したことを表している。この結果によれば、触媒にジブチル錫を用いた接着剤B(及び接着剤A)が「○」であった。このことから、触媒としてジブチル錫を含む接着剤を用いた場合、高温放置後における接着剤の信頼性が高い流路部材30が提供されることがわかった。
【0078】
〈他の実施形態〉
本発明に用いられるインクは、特に限定されないが、水を主溶媒とし、水に溶解・分散可能な含量を含む水系インクを用いることができる。このようなインクであれば接着剤70が上述したように膨潤・軟化する作用を奏する。また、インク以外の液体を吐出する場合には、当該液体は、水を溶媒に含むものであれば特に限定されない。
【0079】
脂肪族炭化水素を蒸発させるための加熱温度は、脂肪族炭化水素の沸点を超える温度とするが、流路部材30の構成部材が許容できる温度以下とすることが好ましい。逆に言えば、流路部材30の構成部材が許容できる温度以下の沸点を有する脂肪族炭化水素を接着剤に含めることができる。
【0080】
また、接着剤70として、脂肪族炭化水素を含む紫外線硬化接着剤や湿気硬化接着剤を用いた場合、これらを硬化させた後、別途加熱を行って、脂肪族炭化水素を蒸発させてもよい。
【0081】
また、脂肪族炭化水素の蒸発に伴い、接着剤にインクの水分が浸透しやすくなるような間隙が形成される。このことに鑑みれば、接着剤に揮発しやすい成分が含まれていれば、同様の作用効果を奏すると考えられる。そのような揮発しやすい成分としては、低級アルコールやケトン系化合物を挙げることができる。
【0082】
また、上述したインクジェット式記録装置11では、記録ヘッド18がキャリッジ15に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されない。例えば、記録ヘッド18が固定されて、紙等の記録シートを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0083】
なお、上記各実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0084】
11 インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 18 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 19 ヘッド本体、 30 流路部材、 31 保持部材、 32 カバー部材、 40 第1流路部材、 50 第2流路部材、 51 溝状流路、 51a 開口縁部、 53 圧力室、 61 受圧部、 70、70a 接着剤、 80 受圧部材、 81 作動板、 90 弁体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流通する液体流路と、
前記液体流路の一部を構成する溝状流路と、
前記溝状流路の開口を封止して該溝状流路とで圧力室を形成するとともに、該圧力室内の圧力変動で撓み変形する可撓性部材と、
前記圧力室に液体が流入しない閉弁状態及び前記圧力室に液体が流入する開弁状態となることが可能であり、閉弁状態となるように付勢された弁体と、
前記可撓性部材の前記圧力室側への変位に伴い該可撓性部材から押圧力を受けて変位することで、前記弁体を付勢力に抗して開弁状態となる方向に押圧可能な受圧部材とを備え、
前記可撓性部材は、脂肪族炭化水素を含む接着剤で前記溝状流路の開口縁部に接着されている
ことを特徴とする流路部材。
【請求項2】
請求項1に記載する流路部材において、
前記接着剤は、シリコーン系接着剤である
ことを特徴とする流路部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する流路部材において、
前記接着剤は、ジブチル錫を含む
ことを特徴とする流路部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する流路部材と、
前記流路部材から供給された液体を吐出するヘッド本体とを備える
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載する液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項1】
液体が流通する液体流路と、
前記液体流路の一部を構成する溝状流路と、
前記溝状流路の開口を封止して該溝状流路とで圧力室を形成するとともに、該圧力室内の圧力変動で撓み変形する可撓性部材と、
前記圧力室に液体が流入しない閉弁状態及び前記圧力室に液体が流入する開弁状態となることが可能であり、閉弁状態となるように付勢された弁体と、
前記可撓性部材の前記圧力室側への変位に伴い該可撓性部材から押圧力を受けて変位することで、前記弁体を付勢力に抗して開弁状態となる方向に押圧可能な受圧部材とを備え、
前記可撓性部材は、脂肪族炭化水素を含む接着剤で前記溝状流路の開口縁部に接着されている
ことを特徴とする流路部材。
【請求項2】
請求項1に記載する流路部材において、
前記接着剤は、シリコーン系接着剤である
ことを特徴とする流路部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する流路部材において、
前記接着剤は、ジブチル錫を含む
ことを特徴とする流路部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する流路部材と、
前記流路部材から供給された液体を吐出するヘッド本体とを備える
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載する液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2013−52513(P2013−52513A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190103(P2011−190103)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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