説明

流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法

【課題】有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法を提供すること。
【解決手段】金属水酸化物又は金属酸化物、有機修飾剤、無極性有機溶媒及び水を含む混合流体を反応管に導入し、該反応管から排出される混合流体の温度が300〜500℃になるように反応管を加熱制御することを特徴とする流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法、特に、ヘキサン酸で修飾されたセリアナノ粒子の連続合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子、特にナノ粒子は、蛍光特性、磁性特性、半導体特性、触媒特性等においてバルク体とは異なる挙動を示す。そのため、ナノ粒子はセラミックスのナノ構造改質材、光機能コーティング材、電磁波遮蔽材料、二次電池用材料、蛍光材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料などの産業・工業材料、医薬品・化粧品材料等の幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
しかしながら、ナノ粒子は表面エネルギーが高いため凝集しやすいことが問題となっている。そのため、本発明者等は、先に、有機修飾剤存在下で、超臨界水熱合成法をバッチ式又は連続式装置で行うことで、有機分子をナノ粒子表面に結合させた有機修飾金属酸化物ナノ粒子を合成し、ナノ粒子を凝集することなく有機溶媒に高濃度分散することに成功している(特許文献1参照)。
【0004】
図1は上記特許文献1に記載されているバッチ式装置、図2は連続式装置の概略を示す図である。バッチ式装置を用いた有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、管型オートクレーブ(Tube Bomb Reactor)の反応管の中に金属酸化物微粒子、有機修飾剤、水等の原料を仕込み、反応管を加熱後、反応管を冷水に投入することで反応を停止し、生成物を回収している。一方、連続式装置を用いた場合は、金属塩溶液と蒸留水を別々に用意し、水を加熱して超臨界又は亜臨界状態にして金属塩溶液を接触させることで金属酸化物ナノ粒子を形成し、次いで、有機修飾剤で修飾することで、有機修飾金属酸化物ナノ粒子が合成される。
【0005】
しかしながら、バッチ式装置を用いる場合は、比較的粒子径がそろった有機修飾金属酸化物ナノ粒子が合成されるが、合成量は反応管の容量に依存するため大量生産ができないという問題がある。勿論、反応管の容量を大きくすることで生産性をあげることは可能であるが、バッチ式では反応管を外部のヒーター等で加熱するため、反応管内の原料への熱の伝わり方を均一にすることは難しく、その結果、合成される有機修飾金属酸化物ナノ粒子の粒子径の分布が広くなるおそれがある。
【0006】
一方、連続式装置を用いる場合は、生産性には優れるものの、後述する比較例で示す通り、産業・工業材料、医薬品・化粧品材料として満足が得られる程度の有機修飾金属酸化物ナノ粒子を製造することができないという問題がある。また、超臨界又は亜臨界状態にした水に金属塩溶液を接触させて金属酸化物ナノ粒子を形成する工程を経て、引き続き超臨界又は亜臨界状態で有機修飾剤を修飾する工程が必要であることから、装置が複雑化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−193237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、金属水酸化物又は金属酸化物、有機修飾剤、無極性有機溶媒及び水を含む混合流体を反応管に導入し、該反応管から排出される混合流体の温度が300℃〜500℃になるように反応管を加熱制御することで、均一な有機修飾金属酸化物ナノ粒子を連続的に合成できることを新たに見出した。本発明は、この新知見に基づいて成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、有機修飾金属酸化物ナノ粒子を連続的に合成できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す、有機修飾金属酸化物ナノ粒子を連続的に合成できる製造方法に関する。
【0011】
(1)金属水酸化物又は金属酸化物、有機修飾剤、無極性有機溶媒及び水を含む混合流体を反応管に導入し、該反応管から排出される混合流体の温度が300〜500℃になるように反応管を加熱制御することを特徴とする流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
(2)前記混合流体は、金属水酸化物又は金属酸化物及び有機修飾剤を無極性有機溶媒に添加した原料溶液と水、又は、有機修飾剤を無極性有機溶媒に添加した原料溶液と金属水酸化物又は金属酸化物を添加した水を、常温で混合することで形成されることを特徴とする上記(1)に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
(3)前記混合流体中の水と原料溶液の混合割合が、2:8から5:5の範囲であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
(4)前記金属水酸化物が水酸化セリウム、前記有機修飾剤がヘキサン酸、前記無極性有機溶媒がトルエンであることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか一に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
(5)前記混合流体の温度を、300〜500℃に達する前に、50℃から300℃の温度で1〜10分間保持することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか一に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
(6)前記反応管から排出される時の混合流体の温度が、水が超臨界状態になる温度以上であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか一項に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
(7)反応管から回収した回収溶液を放置し、次いでエタノール添加による貧溶媒化及び遠心分離を行うことで有機修飾金属酸化物ナノ粒子を回収することを特徴とする上記(1)〜(6)の何れか一に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、均一な有機修飾金属酸化物ナノ粒子を連続的に合成することができる。また、本発明は、従来の連続合成のように、水を予め超臨界又は亜臨界状態にする必要が無く、また、金属酸化物ナノ粒子の製造工程と有機修飾剤の修飾工程を別々に設ける必要が無いので、製造工程を簡略化することができる。更に、本発明の製造方法では、混合流体中の水の濃度を変えることで、有機修飾金属酸化物ナノ粒子の形状を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、従来のバッチ式製造装置の概略を示す図である。
【図2】図2は、従来の連続式製造装置の概略を示す図である。
【図3】図3は、本発明の有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造に用いられる装置の概略を示す図である。
【図4】図4は、図面代用写真であり、実施例1〜4で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】図5は、図面代用写真であり、実施例5及び6で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】図6は、図面代用写真であり、実施例7で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図7】図7は、図面代用写真であり、比較例1で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図8】図8は、実施例2で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の粒度分布を示したグラフである。
【図9】図9は、実施例2で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の赤外線吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の、流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法について、以下に、具体的に説明する。
【0015】
先ず、本発明において、「ナノ粒子」とは、平均粒子径が約100nm以下であることを意味し、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下の粒子を意味する。
【0016】
図3は、本発明の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法に使用される装置の一例の概略を示している。原料溶液1と水2は、高圧ポンプ3でそれぞれ送液・混合され混合流体を形成後、混合流体は加熱手段6で加熱される反応管5に送液され加熱される。加熱後の混合流体は、冷却装置7で冷却された後、系内の圧力を調整する背圧弁8を通り、回収容器9に回収される。
【0017】
本発明に用いられる金属水酸化物又は金属酸化物中の「金属」としては、典型的にはナノ粒子を製造することが可能であり、カルボン酸と反応して無極性有機溶媒に溶解可能なものであれば特に限定されず、当業者に知られたものから選択して使用できる。代表的な金属としては、長周期型周期表で第IIIB族のホウ素(B)−第IVB族のケイ素(Si)−第VB族のヒ素(As)−第VIB族のテルル(Te)の線を境界として、その線上にある元素並びにその境界より長周期型周期表において左側ないし下側にあるものが挙げられ、例えば、第VIII族の元素ではFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptなど、第IB族の元素ではCu、Ag、Auなど、第IIB族の元素ではZn、Cd、Hgなど、第IIIB族の元素ではB、Al、Ga、In、Tlなど、第IVB族の元素ではSi、Ge、Sn、Pbなど、第VB族の元素ではAs、Sb、Biなど、第VIB族の元素ではTe、Poなど、そして第IA〜VIIA族の元素などが挙げられる。金属水酸物としては、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Mn、Eu、Y、Nb、Ce、Baなどの水酸化物が挙げられる。また、金属酸化物としては、Co、Cu等の酸化物が挙げられる。これら金属水酸化物又は金属酸化物は、無極性有機溶媒に分散されてもよいし、水に分散されてもよい。
【0018】
有機修飾剤としては、後述する無極性有機溶媒に溶解するものであれば、特に制限は無いが、例えば、RCOOH(n=2〜20)で表されるカルボン酸類が挙げられ、具体的には、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸が挙げられる。上記カルボン酸類は、任意の位置に1以上の二重結合及び/又は任意の位置の1以上の水素が側鎖に置換されていてもよい。置換基としては直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基などが挙げられる。
【0019】
無極性有機溶媒としては、常温で水に溶けないものであれば特に限定されず、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルカン;トルエン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、グリセリンカーボネート、アセトニトリル、リモネン等が挙げられる。これらの無極性有機溶媒は、単独でも組み合わせて用いてもよい。本発明の製造方法では、後述する混合流体が50〜300℃、好ましくは200〜250℃の予備反応領域に一定時間保持されることで金属水酸化物又は金属酸化物とカルボン酸が反応し、そして、更に加熱を続けると無極性有機溶媒と水が溶解することで金属酸化物ナノ粒子が製造されると考えられる。そのため、無極性有機溶媒は、水と溶解する温度が高い方が好ましく、具体的には、トルエンが好ましい。
【0020】
本発明では、有機修飾剤は無極性有機溶媒に溶解して使用されることが好ましい。特許文献1に記載されているバッチ式の例では、有機修飾剤は無極性有機溶媒に溶解されていない。これは、金属水酸化物又は金属酸化物は固体の微粒子であるため、有機修飾剤とのみに混合したスラリーでは粘性が高くなり過ぎ、ポンプで連続供給することが難しくなるが、バッチ式では、スラリーを送液する必要が無いからである。更に、金属水酸化物又は金属酸化物に対する有機修飾剤の割合が大き過ぎると、有機修飾金属酸化物ナノ粒子を合成し難くなる。したがって、有機修飾剤は、金属水酸化物又は金属酸化物に対して、1〜100倍となるように無極性有機溶媒に添加することが好ましい。
【0021】
また、上記のとおり、金属水酸化物又は金属酸化物は、無極性有機溶媒又は水の何れに分散されてもよいが、分散後の溶液の流動性の観点から、無極性有機溶媒又は水1Lに対する金属水酸化物又は金属酸化物の添加量は、0.01〜1molが好ましい。なお、以下においては、無極性有機溶媒に有機修飾剤が添加された溶液、及び、無極性有機溶媒に有機修飾剤並びに金属水酸化物又は金属酸化物が添加された溶液を「原料溶液」と記載することがある。また、水、及び、水に金属水酸化物又は金属酸化物が添加された溶液を、単に「水」と記載することもある。
【0022】
水は、水道水を用いることもできるが、より精度を上げるためには、精製水を用いることが望ましい。
【0023】
原料溶液、及び水は、それぞれ、高圧ポンプ3で送液され、常温(15〜25℃)で混合され混合流体を形成し、反応管に送液される。混合流体中の水の割合により、合成される有機修飾金属酸化物ナノ粒子の形状や凝集度が変わることから、水:原料溶液の混合割合は、2:8〜5:5の範囲が好ましい。水の割合が2より少ないと、得られる有機修飾金属酸化物ナノ粒子の形状がやや長方形になるとともに徐々に凝集し易くなる。逆に、水の割合が5より大きくなると無極性有機溶媒と水が溶解し易くなり、金属水酸化物又は金属酸化物と有機修飾剤が十分反応する前に粒子化してしまい、製造される有機修飾金属酸化物ナノ粒子のサイズが不均一になり好ましくない。水と原料溶液の混合割合は、水と原料溶液を送液する高圧ポンプの送液量を変えることで適宜調整すればよい。
【0024】
反応管は、連続的に混合流体を供給及び排出でき、且つ耐腐食性合金であれば特に限定はされず、例えば、ステンレス、インコネル、ハステロイ等で作成された細い管等が挙げられる。反応管は、直線、折り曲げ又はコイル状にする等、所望とする加熱制御に応じて適宜形状を決めればよい。また、加熱手段としては、反応管を加熱できるものであれば特に限定されず、例えば、加熱ヒーター、オイルバス、熱交換器等が挙げられる。反応管に供給される時の混合流体の温度は常温(15〜25℃)であるが、反応管から排出される時の混合流体の温度は、使用される無極性有機溶媒と水が溶解する温度以上であればよく、使用される無極性有機溶媒にもよるが、約300〜500℃が好ましい。反応管から排出される時の混合流体の温度が500℃を超えると、有機修飾剤が加熱分解され好ましくない。また、水が超臨界状態になると無極性有機溶媒と水が均一相を形成することから、反応管から排出される時の混合流体の温度は、水の超臨界温度以上にすることが更に好ましい。
【0025】
上記のとおり、本発明においては、先ず、金属水酸化物又は金属酸化物とカルボン酸が反応し、そして、更に加熱を続けると無極性有機溶媒と水が溶解することで有機修飾金属酸化物ナノ粒子が製造されると考えられる。したがって、混合流体が反応管を移動中に、常温→金属水酸化物又は金属酸化物とカルボン酸が反応する温度→反応管から排出される時の混合流体の温度(300〜500℃)に昇温するように反応管全体を加熱及び/又は混合流体の流速を制御すればよい。また、例えば、反応管の入り口付近で混合流体の温度を急激に上げ、反応管の中程では金属水酸化物又は金属酸化物とカルボン酸が反応する温度に一定時間、例えば、1〜10分間維持し、反応管の出口付近で300〜500℃となるように、混合流体の流速及び/又は加熱を制御してもよい。また、系内の圧力は背圧弁7により、約10〜50MPaの圧力に維持することが望ましい。
【0026】
反応管から排出された混合流体は、例えば、水等を充填した冷却装置6で冷却された後、背圧弁7を通り回収容器8に回収される。排出時の混合流体の温度が300℃より低いと、合成した有機修飾金属酸化物ナノ粒子が凝集し易くなり、背圧弁7が目詰まりするので好ましくない。
【0027】
回収容器8に回収された混合流体は10分以上放置し、無極性有機溶媒相と水相に分離し、エタノール、アセトン、メタノール等を添加することで無極性有機溶媒を貧溶媒化し、次いで、遠心分離をすることで、生成した有機修飾金属酸化物ナノ粒子が回収される。回収された有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、例えば、シクロヘキサン等、分散性の良い溶媒に分散して保管することができる。
【0028】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0029】
<実施例1>
無極性有機溶媒としてトルエンを用い、該トルエン1Lに、水酸化セリウムの濃度は0.05mol、ヘキサン酸の濃度は0.3molとなるようにそれぞれ添加し、原料溶液を作成した。水には精製水を用い、水:原料溶液=2:8の割合となるように高圧ポンプを用いて常温で送液・混合し、得られた混合流体を加熱式反応管に導入した。反応管はステンレス製で、外径約3.2mm、内径約1.7mmで、長さは約10mの細長いパイプ状のものを螺旋形状にして用いた。混合流体の送液速度は、反応管内での滞留時間が約1分30秒となるように調整した。また、反応管内の混合流体の昇温速度は約270℃/minとなるようにヒーターを調整し、反応管から排出された時の混合流体の温度は約400℃であった。水冷による間接冷却により混合流体を冷却後、背圧弁を通して、回収容器に回収した。系内の圧力は、背圧弁で約30MPaに調節した。回収した混合流体を10分以上放置し、トルエン相と水相に分離させた。トルエン相に存在するヘキサン酸修飾セリアナノ粒子は、エタノール添加による貧溶媒化および遠心分離を用いて回収した。回収した有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、シクロヘキサンに分散させた。
【0030】
<実施例2>
水と原料溶液の割合を、水:原料溶液=3:7とした以外は、実施例1と同様の手順でヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を合成した。
【0031】
<実施例3>
水と原料溶液の割合を、水:原料溶液=4:6とした以外は、実施例1と同様の手順でヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を合成した。
【0032】
<実施例4>
水と原料溶液の割合を、水:原料溶液=5:5とした以外は、実施例1と同様の手順でヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を合成した。
【0033】
図4の(1)は実施例1、(2)は実施例2、(3)は実施例3、(4)は実施例4で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。水の割合が2又は5の場合でも、ヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の合成は確認されたものの、粒子の形状がやや不均一で、若干の凝集が見られた。また、水の割合が、3又は4の場合は、正方形の形状で凝集の無いヘキサン酸修飾セリアナノ粒子が得られた。上記の結果から、水と原料溶液の割合は、約2:8〜5:5にすることが好ましいことが分かった。
【0034】
<実施例5>
反応管内の混合流体の昇温速度を約200℃/min、反応管から排出された時の混合流体の温度が約300℃であった以外は、実施例3と同様の手順でヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を合成した。
【0035】
<実施例6>
反応管内の混合流体の昇温速度を約235℃/min、反応管から排出された時の混合流体の温度が約350℃であった以外は、実施例3と同様の手順でヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を合成した。
【0036】
図5の(1)は実施例5、(2)は実施例6で得られたヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。写真から明らかなように、反応管から排出された時の混合流体の温度が300℃でヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の合成が確認され、反応管から排出された時の混合流体の温度が高くなるほど、凝集の無いヘキサン酸修飾セリアナノ粒子が合成できることが確認された。
【0037】
なお、実施例1〜6の条件で30分連続運転を行ったところ、全ての実施例で約1gのヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を回収することに成功した。
【0038】
<実施例7>
水酸化セリウムを無極性有機溶媒ではなく水に添加した以外は、実施例3と同様の手順でヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を合成した。
【0039】
図6は実施例7で得られたヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。写真から明らかなように、水酸化セリウムを無極性有機溶媒ではなく、水に分散しても、凝集の無いヘキサン酸修飾セリアナノ粒子を合成できることが確認された。
【0040】
<比較例1>
特許文献1に記載されている連続式装置を用いて、混合流体を昇温する過程を有しない以下の手順で連続合成を行った。原料溶液及び超臨界状態形成用の水として精製水を用い、水1Lに対して、硝酸セリウムの濃度が0.05molとなるように溶解して原料溶液を作成した。次に、高圧ポンプを用いて水を送液し、ヒーターを用いて約450℃に加熱して超臨界状態にし、前記原料溶液と反応させた。反応した流体を超臨界状態に維持したまま、トルエン1Lに対してヘキサン酸の濃度が0.5molとなるように溶解した有機修飾剤溶液と混合した。混合流体を冷却後、背圧弁を通して、回収容器に回収した。系内の圧力は、背圧弁で約30MPaに調節した。回収した混合流体は10分以上放置し、トルエン相と水相に分離させた。トルエン相に存在する生成物は、エタノール添加による貧溶媒化および遠心分離を用いて回収した。回収した生成物は、シクロヘキサンに分散させた。
【0041】
図7は、比較例1で合成した生成物の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。写真から明らかなように、比較例1の方法では、粒子径が揃わず、凝集してしまった。
【0042】
図8は、実施例2で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の粒度分布を示し、平均粒径は6.7nmであった。
【0043】
図9は、実施例2で合成したヘキサン酸修飾セリアナノ粒子の赤外線吸収スペクトルを示す。図9からカルボアニオンのピークが観測されたので、粒子表面がヘキサン酸で修飾されていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水酸化物又は金属酸化物、有機修飾剤、無極性有機溶媒及び水を含む混合流体を反応管に導入し、該反応管から排出される混合流体の温度が300〜500℃になるように反応管を加熱制御することを特徴とする流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
【請求項2】
前記混合流体は、金属水酸化物又は金属酸化物及び有機修飾剤を無極性有機溶媒に添加した原料溶液と水、又は、有機修飾剤を無極性有機溶媒に添加した原料溶液と金属水酸化物又は金属酸化物を添加した水を、常温で混合することで形成されることを特徴とする請求項1に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
【請求項3】
前記混合流体中の水と原料溶液の混合割合が、2:8から5:5の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
【請求項4】
前記金属水酸化物が水酸化セリウム、前記有機修飾剤がヘキサン酸、前記無極性有機溶媒がトルエンであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
【請求項5】
前記混合流体の温度を、300〜500℃に達する前に、50℃から300℃の温度で1〜10分間保持することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
【請求項6】
前記反応管から排出される時の混合流体の温度が、水が超臨界状態になる温度以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。
【請求項7】
反応管から回収した回収溶液を放置し、次いでエタノール添加による貧溶媒化及び遠心分離を行うことで有機修飾金属酸化物ナノ粒子を回収することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の流通式合成による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の連続合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60358(P2013−60358A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183049(P2012−183049)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】