流量修正係数を制御した軸受構造
【課題】軸受部材の摺動面に動圧発生構造を持たせる場合、加工コストを安価にできると共に摺動面の磨耗を抑制できる流量修正係数を制御した軸受構造を提供すること。
【解決手段】流体潤滑膜を介して向かい合う第1軸受部材1、及び、第2軸受部材2であって、これら軸受部材1,2の少なくとも一方に、撥水性もしくは撥油性を有する第1領域R1と、親水性もしくは親油性を有する第2領域R2とを形成し、第1領域においてスリップ流れを生じさせることで軸受支持圧力を発生させるようにした。第1領域R1の表面にフッ素樹脂膜10を形成し、その表面に微小凹凸が形成される。
【解決手段】流体潤滑膜を介して向かい合う第1軸受部材1、及び、第2軸受部材2であって、これら軸受部材1,2の少なくとも一方に、撥水性もしくは撥油性を有する第1領域R1と、親水性もしくは親油性を有する第2領域R2とを形成し、第1領域においてスリップ流れを生じさせることで軸受支持圧力を発生させるようにした。第1領域R1の表面にフッ素樹脂膜10を形成し、その表面に微小凹凸が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面を有する流量修正係数を制御した軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷重が支えられた状態で、第1摺動面と第2摺動面との間に流体潤滑膜(流体潤滑層に相当)を形成するためには、荷重に釣り合うだけの圧力を流体潤滑膜中に発生させる必要がある。また、摺動面外に流出する流体の量に見合うだけの流体が摺動面に供給されなければならない。
【0003】
そこで、上記のような圧力を発生させる原因の主たるものとしてくさび膜効果があげられる。これは、摺動面間の隙間が運動方向において狭くなるように形成された軸受構造により、粘性力でくさび状の隙間に引き込まれた流体分子同士の押し合いにより生じるものである。これを図14により概念的に説明する。
【0004】
図14において、下部摺動面1と上部摺動面2とが流体潤滑膜を介して向かい合っている。下部摺動面1は固定された状態であり、上部摺動面2は速度uで左側から右側へと移動しているものとする。また、下部摺動面1には、機械的な段差1aが形成されている。したがって、流体は隙間が広い部分から隙間の狭い部分へと引き込まれ、これにより、くさび膜効果が生じ動圧が発生する。理論的には、段差1aの位置で最も高い圧力(Pmaxで示されている)が発生する。このような段差により、荷重に釣り合うだけの圧力を発生させることができる。
【0005】
特に、流体が低粘度で負荷の発生が期待できないような水潤滑下(プロセス流体による潤滑の1例である。)での流体潤滑膜の形成においては、上記のような動圧発生構造は、不可欠である。そのため、動圧発生構造を備えた軸受構造 が知られており、これを図15に示す。図15(a)は、流体機械4の外観を示し、(b)はその内部構造の一部を示し、(c)は使用されている軸受部材の1例を示すものである。図15(b)において、中央部に回転軸5が設けられ、その周りに下側軸受部材6と上側軸受部材7とが設けられている。荷重は図示のように上方向から下方向へと作用する。下側軸受部材6は固定されており、上側軸受部材7が回転移動する。潤滑膜を形成する流体は、プロセス流体である水である。そして、下側軸受部材6の形状は(c)に示されており、その摺動面にスパイラルグルーブ6aが形成されている。
【0006】
この軸受部材6は、素材としては炭化ケイ素や窒化ケイ素等のシリコン系セラミックスが用いられる。図15(c)において、黒い部分が溝に相当する。かかる構造を形成する方法は、次のように行う。摺動面の表面のうち白い部分をマスク手段によりマスクし、ショットブラスト法により溝を形成する。この溝により、図14で説明したような、段差を形成することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように機械的な段差(溝)を形成する場合、例えば、上記ショットブラスト法による溝加工は、コストが高くなるという問題がある。軸受部材としては、シリコン系セラミックスのほかにも、銅等のような塑性変形しやすい素材があり、この場合には、転造加工やサイジングパンチによっても溝を形成することが可能である。しかし、シリコン系セラミックスの場合には、加工が難しいため、ショットブラスト法によらざるを得ない状況である。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、軸受部材の摺動面に動圧発生構造を持たせる場合、加工コストを安価にできる流量修正係数を制御した軸受構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る流量修正係数を制御した軸受構造は、
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域は流体のスリップ流れを生じさせるように摺動面が形成され、第2領域はスリップ流れが0もしくは第1領域よりも小さくなるように摺動面が形成されることにより、流体潤滑層に軸受支持圧力を発生させるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
かかる構成による軸受構造の作用・効果を説明する。軸受構造を構成する第1摺動面と第2摺動面の間に、流体潤滑層が形成される。流体潤滑層は、油膜・水のような液体層でもよいし、空気のような気体層、あるいは空気と油のミストのような混相流でもよい。そして、これら摺動面の少なくとも一方に第1領域と第2領域を形成し、第1領域には流体のスリップ流れを生じさせるような摺動面が形成される。第2領域は、スリップ流れが0か第1領域よりも小さくなるようにする。
【0011】
この構成を図1に概念的に示す。下部摺動面1が固定されており、上部摺動面2が速度Uで移動しているものとする。下部摺動面1に第1領域R1と第2領域R2が形成されており、第1領域R1における流速分布がVR1で示され、第2領域R2における流速分布がVR2で示される。第2領域R2においては、下部摺動面1における流速は0(スリップ流れが0の場合)であるが、第1領域R1においては、すべり流れが生じて流速が有限となる。従って、第1領域R1には、より多くの流体が持ち込まれようと作用し、流量バランスをとるために圧力が発生することになる。この圧力により軸受荷重を支持することができる。かかるスリップ流れの大きさが異なる第1領域と第2領域は、以下説明するように、機械的な段差を形成する方法以外の種々の方法で形成することができ、加工コストを安価にすることができる。
【0012】
本発明において、第1領域は撥水性もしくは撥油性を有し、第2領域は親水性もしくは親油性を有することが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、第1領域においてスリップ流れを生じさせることができ、第2領域においてスリップ流れを0もしくはほぼ0にすることができる。これにより、軸受支持圧力を発生させることができる。
【0014】
本発明において、第1領域の表面にフッ素樹脂膜を形成していることが好ましい。この構成によれば、摺動面を部分的にフッ素樹脂膜でコーティング等することで、撥水性もしくは撥油性を有する領域を形成することができる。コーティングの厚さはごく僅かでよく、コストも安価にすることができる。
【0015】
本発明において、第1領域の表面に多数の凹部を形成し、この凹部に撥水性もしくは撥油性を有する材料が充填されることが好ましい。
【0016】
第1領域の全面を撥水性もしくは撥油性を有する材料で形成する方法に比べて、安価に構成することができる。
【0017】
本発明において、第1領域と第2領域の表面の材質を異ならせていることが好ましい。
【0018】
例えば、空気層により支持する場合、空気のスリップが生じやすい材質とそうでない材質とがある。かかる流体の特性に鑑みて、表面に異なる材質を形成することで、スリップ流れを生じさせ、圧力を発生させることができる。
【0019】
上記課題を解決するため本発明に係る流量修正係数を制御した軸受構造は、
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域と第2領域で表面粗さを異ならせていることを特徴とするものである。
【0020】
かかる構成による軸受構造によれば、第1領域と第2領域とで表面粗さが異なっている。表面粗さにより表面に凹凸が形成されるため、例えば、流体潤滑膜を形成する場合の平均膜厚が第1領域と第2領域とで異なってくる。従って、第1領域に持ち込まれる流体と第2領域から出て行く流体の量が異なることになり、流量バランスをとるため、軸受支持圧力が発生する。このように第1領域と第2領域とで表面粗さを異ならせるだけでよいため、安価なコストで構成することができる。
【0021】
本発明において、第1領域は、少なくとも表面が多孔質に形成されることが好ましい。
【0022】
表面を多孔質とすることで、持ち込まれる流量を変えることができ、さらに効果的に軸受支持圧力を発生させることができる。
【0023】
本発明において、第1領域と第2領域が摺動方向に沿って交互に形成されることが好ましい。かかる構成により、摺動面全体にわたって軸受支持圧力を発生し、摺動面全体を均等に支持することができる。
【0024】
本発明において、第1領域が第2領域の中に点在していることが好ましい。かかる構成によっても、摺動面全体にわたって軸受支持圧力を発生し、摺動面全体を均等に支持することができる。
【0025】
本発明において、第1領域は第2領域の中に形成される多数の凹部であり、この凹部の中にスリップ流れを生じさせる材料を充填させることが好ましい。
【0026】
かかる構成によれば、摺動面の中に多数の凹部を適宜の手法により形成し、その凹部にスリップ流れを生じさせる材料を充填すればよく、安価なコストで第1領域の中に第2領域を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明にかかる流量修正係数を制御した軸受構造の好適な実施形態を図面を用いて説明する。まず、本発明による軸受構造において圧力が発生する原理を説明する。スリップ流れにより圧力が発生する原理については、図1に概念図により簡単に説明した通りであるが、さらに理論的な説明を行なう。
【0028】
数式1は、スリップ流れを考慮したレイノルズ方程式であり、流量の連続の式である。この式を満足するように流体が流れる。
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
数式1の左辺は、発生する圧力に伴う流量を表し、右辺はその圧力を発生する元となる持ち込まれる流量である。xyz座標は図2に示すように流れ方向をx、軸受幅方向をy、膜厚方向をzとしている。hは膜厚、ηは粘度、Uは流速、pは圧力である。右辺第2項は、多孔質性を考慮したものであり、Ψは通気度を表している。通気度が大きくなればなるほど、多孔質内を流体が通過しやすいことを表している。多孔質でなければ(稠密であれば)Ψ=0であり、右辺第2項は0である。従って、数式1により、摺動面が鏡面の場合と多孔質面の場合の両方をカバーすることができる。
【0031】
ξ1は、圧力流れ(入口部では押し返される方向、出口部では押し出される方向)に対する流量修正係数であり、ξ0は持ち込まれる流量に対する流量修正係数である。ξ1が0であればスリップ流れがないということを示す。
【0032】
ξ1、ξ0は数式2に示すような関数で表される。すなわち、ξ1、ξ0は夫々通気度Ψと膜厚hの関数で表され、さらに、通気度はαP、rの関数で表される。αPは多孔質体における空孔率(全体積に対して占める割合)を表し、rは空孔の平均径を表している。Ψは通気度を表す。以上がスリップ流れを考慮した場合の式である。
【数3】
【0033】
一方、表面粗さを有する場合のレイノルズ方程式を数式3に示す。この式3においてφxはx方向の圧力流れに対する修正係数を表し、φyはy方向の圧力流れに対する修正係数を表す。φsは剪断流れに対する修正係数を表す。φyについては、幅が長い軸受の場合は小さくなるので無視することができる。表面粗さを有する場合には、表面突起の高さに応じて圧力値が変わる。すなわち、膜厚が薄いところでは圧力が高くなり、膜厚が大きなところでは圧力が低くなる。従って、圧力については平均値pバー(局所平均圧力)により表す。σは表面粗さの標準偏差を表している。
【数4】
【0034】
この式3と式1を対比すると、
pバー → p
φx → 1+ξ1
φy → 1+ξ1
φs → ξ0
φsσ → ξ0h
のように対応する。
【0035】
そこで、y方向(軸受幅方向)が無限に長いものとした場合は、スリップ流れの方向に比べて、幅方向の流れは非常に小さなものになる。従って、数式3において左辺第2項を0と置くことができ数式4となる。そこで、数式4を所定条件下で解くと、図3に示すようなpmaxの解が得られる。添字のOは出口側をiは入口側を表す。Biは入口側における流れ方向の長さB0は出口側における流れ方向の長さを示す。
【0036】
計算をするにあたり、入口側と出口側の両方が多孔質体であるものとし、入口側の膜厚がhi、出口側の膜厚がh0であるとしている。図3に示す解は、表面粗さを考慮した解であるが、スリップ流れを考慮した場合の解は、次のように変数を置き換えればよい。
【0037】
Φx0 → 1+ξ1i
Φxi → 1+ξ1i
σ0φs0 → ξ0oh0
σiφsi → ξ0ihi
以上のように、スリップ流れの場合と表面粗さを有する場合とで理論的には同じように扱うことができる。上記結果に関し、次に示す4つの場合について発生する圧力の大きさを検討する。
【0038】
1)摺動面の入口側と出口側が共に鏡面(共にスリップ流れなし)である場合
鏡面であるため多孔質に関する項は0になる。また、表面粗さがない状態であり、h0=-hiとなる。従って、図4に示すように、pmax=0となる。すなわち、圧力は発生しないことになり、軸受支持構造には不適である。
【0039】
2)摺動面の入口側が表面粗さのない多孔質(スリップ流れを考慮しない状態)で出口側が鏡面(スリップ流れなし)である場合
この場合もh0=-hiであり、同様にpmax=0となる。
【0040】
3)摺動面の入口側が表面粗さを有するな多孔質(スリップ流れを考慮する状態)で出口側が鏡面(スリップ流れなし)である場合
この場合、表面粗さがあるため、表面に凹凸があり、h0≠h1となる。すなわち、表面粗さの存在により流体力学的な透過膜厚が変化するためである。従って、図4の式に示すように、pmaxはある値を持ち、圧力が発生する。従って、軸受支持構造として適しているといえる。
【0041】
4)摺動面の入口側が表面粗さを有する面で、出口側が鏡面である場合
この場合もh0≠h1となるため、pmaxはある値を持ち、軸受支持構造として適している。
【0042】
5)摺動面の入口側も出口側も鏡面で入口側にのみスリップ流れを生じさせる場合
この場合、図4の4)においてσφiをξ0ihiで置き換えてみると、ho=hiであるものの、ξ0iが0ではない(スリップ流れがある場合は0にならない)ため、圧力が発生する。従って、軸受支持構造として好適である。
【0043】
以上のような理論式と図1で説明した圧力発生原理とから次のような軸受構造が好ましい。すなわち、図5に示すように、流体潤滑膜3(流体潤滑層)を介して第1摺動面1と第2摺動面2があり、これら摺動面1,2のうち少なくとも一方(図5では第2摺動面のみ)に第1領域R1と第2領域R2を形成し、第1領域R1の表面2aはスリップ流れを生じさせるような面を形成し、第2領域R2の表面2bはスリップ流れが0あるいは第1領域R1よりも小さなスリップ流れとする。これにより、第1領域R1に持ち込まれる流量と第2領域R2から押し出される流量に差が生じ、バランスを取るために圧力が発生し軸受支持を行なうことができる。スリップ流れを生じさせる具体的な手法については後述する。
【0044】
もう1つは、図6に示すように、第1領域R1と第2領域R2において各表面2a,2bの表面粗さを異ならせることである。表面粗さを異ならせることで、各領域における平均膜厚が異なり、第1領域R1に持ち込まれる流量と第2領域R2から押し出される流量に差が生じ、バランスを取るために圧力が発生し軸受支持を行なうことができる。第1領域R1と第2領域R2のいずれか一方は鏡面に形成されていてもよい。
【0045】
本発明にかかる軸受構造の好適な使用例について説明する。本発明に係る軸受構造は、例えば、上下水供給、雨水排水、海水取水、河川水取水等に用いられている立軸斜流ポンプ等の流体機械において使用されている。これら流体機械では、その構成要素である軸受において、その機械自身が取り扱っている流体、すなわち、プロセス流体である水により、軸受構造の簡略化を実現している。流体機械4の具体例については、例えば、図15に示したとおりである。
【0046】
水潤滑においては水の粘度が低いため、油潤滑のような効率的な動圧の発生が期待できない。特に、軸受の起動停止時の過渡期においては、摺動面に十分な流体潤滑膜が形成されなくなり、混合潤滑や境界潤滑となる可能性が高い。また、定常状態においても、流体潤滑膜の剛性が低いため、局部的には摺動面同士の固体接触が生じることもありうる。油潤滑の場合は、有効な添加剤を添加することで、摺動面に吸着膜を形成し、上記の場合の潤滑特性を改善することができる。しかし、上記のような水潤滑の場合は、添加剤による方法は一般的には用いられていない。
【0047】
したがって、混合・境界潤滑特性の優れた軸受材料の選定と、摺動面への十分な流体潤滑膜の形成が期待できるように、安価でかつ効果的な動圧発生構造を付与することが、軸受の特性向上が必要不可欠である。そこで、本発明の原理による軸受構造が好適に用いられる。
【0048】
<撥水面の形成>
図7は、本発明に係る軸受構造の第1実施形態を概念的に示す図である。第1摺動面1と第2摺動面2のうち、第2摺動面2の第1領域R1には、フッ素樹脂膜10が形成される。フッ素樹脂膜10は、例えば、テフロン(登録商標)をコーティングすることで形成することができる。第2領域R2の表面には、かかるコーティングは施されない。フッ素樹脂膜10は、撥水性を有しており、摺動面1の表面においてすべり流れを生じさせる。第2領域R2では、そのようなすべり流れを生じさせない。このすべり流れを発生させることで、圧力を生じさせ軸受荷重を支持することができる。
【0049】
図7において、フッ素樹脂膜10のA部拡大図を示しており、その表面は粗面であり、微小凹凸が形成される。かかる微小凹凸を形成することで、接触角を大きくすることができ、すべり流れの大きさを大きくすることができる。これにより、より大きな圧力を発生させることができる。なお、微小凹凸は、例えば、イオン照射等の方法により形成することができる。
【0050】
図7の構成例において、フッ素樹脂膜10には僅かではあるが厚みがあるため、第2領域R2と比べた場合、第1領域R1の方が若干高くなるが、実質的に無視できるレベルであり、性能的には全く問題のないレベルであると考えられる。
【0051】
図8は、摺動面における第1領域R1と第2領域R2の分布状態を示す図である。図8(a)は円周方向に沿って第1領域R1と第2領域R2が交互に配置される構成例である。交互に配置する場合のピッチについては、適宜決めることができる。
【0052】
図8(b)は、第2領域R2の中に微小な大きさの第1領域を点在させた構成例である。点在させる場合は、規則的にしてもよいしランダムにしてもよい。第1領域R1の大きさや密度については、適宜決めることができる。また、第1・第2領域R1,R2を扇状に形成するのではなく、例えば、図15で説明したようなスパイラル状に形成してもよい。
【0053】
図9は、図8(a)(b)を組み合わせた構成例であり、第1領域を点在させた領域を所定ピッチで配列した構成例である。
【0054】
図10は、別の実施形態にかかる軸受構造を示す図である。図10において、第1領域R1には、摺動面の表面に多数の凹部1dが形成されている。この凹部1dに、撥水性を有する材料(フッ素樹脂等)が充填される。これにより、撥水性を有する第1領域R1を形成することができる。
【0055】
図10における実施形態では、第1領域R1にも第2領域R2にも凹部1d,1eが夫々形成されている。第1領域R1の凹部1dには、撥水性を有する材料が充填され、第2領域R2の凹部1eには、親水性を有する材料が充填される。これにより、撥水性を有する第1領域R1と親水性を有する第2領域R2を形成することができる。
【0056】
<実験結果>
次に、本発明による構成の効果を確認するために簡単な実験を行った。図11(a)において、市販のガラス板20の表面(鏡面)をA,B,Cの3つの部分に分けて、部分Aには第1領域R1と第2領域R2を交互に形成する。第1領域R1には撥水処理(フッ素樹脂膜の形成)が施される。部分Bの表面は、未処理であり、部分Cの表面は全面が撥水処理が施されている。
【0057】
ガラス板20を水中に入れて、ガラス板20の上に摺動体21(鏡面を有する)を載せておもり22により負荷を作用させる。本発明による構成を採用した部分Aの上を滑らせると、摺動体21は所定条件下で2分以内で滑走した。未処理の部分Bでは、摺動体21は途中で停止した。部分Cでは、動きが遅く3分程度で滑走するか途中で停止した。この傾向は、おもり22の重さを大きくすると、さらに顕著な差が現れる。
【0058】
上記撥水処理は、厚みにすると10nm程度であり、仮に従来技術のような機械的な段差(図 14参照)を10nm程度にしたとしても、圧力を発生するような軸受効果はない。
【0059】
<希薄流体について>
次に、第1摺動面と第2摺動面の間の流体潤滑層として希薄流体を用いる場合について説明する。例えば、音速の1/100〜1/10程度で摺動面が移動し、空気あるいは混相流(空気と油のミスト)を流体潤滑層として用いる。
【0060】
この場合、摺動面を黄銅や鋼の面とするとスリップ流れがほとんど生じなくなり、塗料の塗布面とするとスリップ流れが生じる。このような希薄流体の特性に鑑みて、第1領域と第2領域の表面材質を選択することで、軸受支持圧力を発生させることができる。
【0061】
表面がガラスの場合も空気は滑りやすく、シェラック(ワニスや赤色塗料の原料になる樹脂状物質)の場合はさらに滑りやすくなる。また、油上の空気は比較的滑りやすい。
【0062】
<多孔質表面>
図12に示すように、第1領域R1の表面を多孔質面とし、その凹部に油を保持させる。油の表面の空気は滑りやすいため、部分的に含油軸受とすることで圧力を発生させることができる。多孔質とする場合は、通気度が大きいほどスリップしやすくなる。通気度の大きさは、空孔が大きいこと(例えば、50μm以上)、粘度が大きいこと(水より油で生じやすい)に依存する。
【0063】
また、多孔質面とする場合は、空孔率や空孔径を変えることですべりの大きさを変えることができる。これにより、スリップ流れの程度を制御することができる。
【0064】
<表面粗さ>
表面粗さの形成については図6において説明したように、第1領域と第2領域で平均膜厚が異なるように表面粗さを形成することで圧力を発生させることができる。表面粗さを形成する場合には、図8及び図9で示したような分布状態を採用してもよいし、例えば、図13に示すように表面粗さを有する第1領域R1と鏡面に形成される第2領域R2を交互に形成してもよい。かかる面の形成方法としては、まず摺動面の全体を所定の表面粗さとなるように製作し、その後、第2領域R2の表面粗さを埋めることで表面粗さの異なる部分を形成することができる。表面粗さを埋める場合に接着剤を使用することができる。
【0065】
以上のように本発明による軸受構造は、摺動面に部分的にスリップ流れを生じさせたり、表面粗さを付与することで、流量修正係数を制御した軸受構造を提供することができ、軸受支持圧力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】スリップ流れにより圧力が発生する原理
【図2】理論式を説明するための図
【図3】理論式による計算結果を説明するための図
【図4】理論式による計算結果を説明するための図
【図5】好ましい軸受構造の概念図
【図6】好ましい軸受構造の概念図
【図7】好ましい軸受構造の概念図
【図8】第1領域と第2領域の分布例を示す図
【図9】第1領域と第2領域の分布例を示す図
【図10】好ましい軸受構造の概念図
【図11】実験装置を示す概念図
【図12】多孔質表面の構成例を示す図
【図13】第1領域と第2領域の分布例を示す図
【図14】流体機械の構成例を示す図
【図15】軸受部材の形状例を示す図
【符号の説明】
【0067】
1 第1摺動面
1d,1e 凹部
2 第2摺動面
3 流体潤滑層
R1 第1領域
R2 第2領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面を有する流量修正係数を制御した軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷重が支えられた状態で、第1摺動面と第2摺動面との間に流体潤滑膜(流体潤滑層に相当)を形成するためには、荷重に釣り合うだけの圧力を流体潤滑膜中に発生させる必要がある。また、摺動面外に流出する流体の量に見合うだけの流体が摺動面に供給されなければならない。
【0003】
そこで、上記のような圧力を発生させる原因の主たるものとしてくさび膜効果があげられる。これは、摺動面間の隙間が運動方向において狭くなるように形成された軸受構造により、粘性力でくさび状の隙間に引き込まれた流体分子同士の押し合いにより生じるものである。これを図14により概念的に説明する。
【0004】
図14において、下部摺動面1と上部摺動面2とが流体潤滑膜を介して向かい合っている。下部摺動面1は固定された状態であり、上部摺動面2は速度uで左側から右側へと移動しているものとする。また、下部摺動面1には、機械的な段差1aが形成されている。したがって、流体は隙間が広い部分から隙間の狭い部分へと引き込まれ、これにより、くさび膜効果が生じ動圧が発生する。理論的には、段差1aの位置で最も高い圧力(Pmaxで示されている)が発生する。このような段差により、荷重に釣り合うだけの圧力を発生させることができる。
【0005】
特に、流体が低粘度で負荷の発生が期待できないような水潤滑下(プロセス流体による潤滑の1例である。)での流体潤滑膜の形成においては、上記のような動圧発生構造は、不可欠である。そのため、動圧発生構造を備えた軸受構造 が知られており、これを図15に示す。図15(a)は、流体機械4の外観を示し、(b)はその内部構造の一部を示し、(c)は使用されている軸受部材の1例を示すものである。図15(b)において、中央部に回転軸5が設けられ、その周りに下側軸受部材6と上側軸受部材7とが設けられている。荷重は図示のように上方向から下方向へと作用する。下側軸受部材6は固定されており、上側軸受部材7が回転移動する。潤滑膜を形成する流体は、プロセス流体である水である。そして、下側軸受部材6の形状は(c)に示されており、その摺動面にスパイラルグルーブ6aが形成されている。
【0006】
この軸受部材6は、素材としては炭化ケイ素や窒化ケイ素等のシリコン系セラミックスが用いられる。図15(c)において、黒い部分が溝に相当する。かかる構造を形成する方法は、次のように行う。摺動面の表面のうち白い部分をマスク手段によりマスクし、ショットブラスト法により溝を形成する。この溝により、図14で説明したような、段差を形成することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように機械的な段差(溝)を形成する場合、例えば、上記ショットブラスト法による溝加工は、コストが高くなるという問題がある。軸受部材としては、シリコン系セラミックスのほかにも、銅等のような塑性変形しやすい素材があり、この場合には、転造加工やサイジングパンチによっても溝を形成することが可能である。しかし、シリコン系セラミックスの場合には、加工が難しいため、ショットブラスト法によらざるを得ない状況である。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、軸受部材の摺動面に動圧発生構造を持たせる場合、加工コストを安価にできる流量修正係数を制御した軸受構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る流量修正係数を制御した軸受構造は、
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域は流体のスリップ流れを生じさせるように摺動面が形成され、第2領域はスリップ流れが0もしくは第1領域よりも小さくなるように摺動面が形成されることにより、流体潤滑層に軸受支持圧力を発生させるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
かかる構成による軸受構造の作用・効果を説明する。軸受構造を構成する第1摺動面と第2摺動面の間に、流体潤滑層が形成される。流体潤滑層は、油膜・水のような液体層でもよいし、空気のような気体層、あるいは空気と油のミストのような混相流でもよい。そして、これら摺動面の少なくとも一方に第1領域と第2領域を形成し、第1領域には流体のスリップ流れを生じさせるような摺動面が形成される。第2領域は、スリップ流れが0か第1領域よりも小さくなるようにする。
【0011】
この構成を図1に概念的に示す。下部摺動面1が固定されており、上部摺動面2が速度Uで移動しているものとする。下部摺動面1に第1領域R1と第2領域R2が形成されており、第1領域R1における流速分布がVR1で示され、第2領域R2における流速分布がVR2で示される。第2領域R2においては、下部摺動面1における流速は0(スリップ流れが0の場合)であるが、第1領域R1においては、すべり流れが生じて流速が有限となる。従って、第1領域R1には、より多くの流体が持ち込まれようと作用し、流量バランスをとるために圧力が発生することになる。この圧力により軸受荷重を支持することができる。かかるスリップ流れの大きさが異なる第1領域と第2領域は、以下説明するように、機械的な段差を形成する方法以外の種々の方法で形成することができ、加工コストを安価にすることができる。
【0012】
本発明において、第1領域は撥水性もしくは撥油性を有し、第2領域は親水性もしくは親油性を有することが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、第1領域においてスリップ流れを生じさせることができ、第2領域においてスリップ流れを0もしくはほぼ0にすることができる。これにより、軸受支持圧力を発生させることができる。
【0014】
本発明において、第1領域の表面にフッ素樹脂膜を形成していることが好ましい。この構成によれば、摺動面を部分的にフッ素樹脂膜でコーティング等することで、撥水性もしくは撥油性を有する領域を形成することができる。コーティングの厚さはごく僅かでよく、コストも安価にすることができる。
【0015】
本発明において、第1領域の表面に多数の凹部を形成し、この凹部に撥水性もしくは撥油性を有する材料が充填されることが好ましい。
【0016】
第1領域の全面を撥水性もしくは撥油性を有する材料で形成する方法に比べて、安価に構成することができる。
【0017】
本発明において、第1領域と第2領域の表面の材質を異ならせていることが好ましい。
【0018】
例えば、空気層により支持する場合、空気のスリップが生じやすい材質とそうでない材質とがある。かかる流体の特性に鑑みて、表面に異なる材質を形成することで、スリップ流れを生じさせ、圧力を発生させることができる。
【0019】
上記課題を解決するため本発明に係る流量修正係数を制御した軸受構造は、
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域と第2領域で表面粗さを異ならせていることを特徴とするものである。
【0020】
かかる構成による軸受構造によれば、第1領域と第2領域とで表面粗さが異なっている。表面粗さにより表面に凹凸が形成されるため、例えば、流体潤滑膜を形成する場合の平均膜厚が第1領域と第2領域とで異なってくる。従って、第1領域に持ち込まれる流体と第2領域から出て行く流体の量が異なることになり、流量バランスをとるため、軸受支持圧力が発生する。このように第1領域と第2領域とで表面粗さを異ならせるだけでよいため、安価なコストで構成することができる。
【0021】
本発明において、第1領域は、少なくとも表面が多孔質に形成されることが好ましい。
【0022】
表面を多孔質とすることで、持ち込まれる流量を変えることができ、さらに効果的に軸受支持圧力を発生させることができる。
【0023】
本発明において、第1領域と第2領域が摺動方向に沿って交互に形成されることが好ましい。かかる構成により、摺動面全体にわたって軸受支持圧力を発生し、摺動面全体を均等に支持することができる。
【0024】
本発明において、第1領域が第2領域の中に点在していることが好ましい。かかる構成によっても、摺動面全体にわたって軸受支持圧力を発生し、摺動面全体を均等に支持することができる。
【0025】
本発明において、第1領域は第2領域の中に形成される多数の凹部であり、この凹部の中にスリップ流れを生じさせる材料を充填させることが好ましい。
【0026】
かかる構成によれば、摺動面の中に多数の凹部を適宜の手法により形成し、その凹部にスリップ流れを生じさせる材料を充填すればよく、安価なコストで第1領域の中に第2領域を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明にかかる流量修正係数を制御した軸受構造の好適な実施形態を図面を用いて説明する。まず、本発明による軸受構造において圧力が発生する原理を説明する。スリップ流れにより圧力が発生する原理については、図1に概念図により簡単に説明した通りであるが、さらに理論的な説明を行なう。
【0028】
数式1は、スリップ流れを考慮したレイノルズ方程式であり、流量の連続の式である。この式を満足するように流体が流れる。
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
数式1の左辺は、発生する圧力に伴う流量を表し、右辺はその圧力を発生する元となる持ち込まれる流量である。xyz座標は図2に示すように流れ方向をx、軸受幅方向をy、膜厚方向をzとしている。hは膜厚、ηは粘度、Uは流速、pは圧力である。右辺第2項は、多孔質性を考慮したものであり、Ψは通気度を表している。通気度が大きくなればなるほど、多孔質内を流体が通過しやすいことを表している。多孔質でなければ(稠密であれば)Ψ=0であり、右辺第2項は0である。従って、数式1により、摺動面が鏡面の場合と多孔質面の場合の両方をカバーすることができる。
【0031】
ξ1は、圧力流れ(入口部では押し返される方向、出口部では押し出される方向)に対する流量修正係数であり、ξ0は持ち込まれる流量に対する流量修正係数である。ξ1が0であればスリップ流れがないということを示す。
【0032】
ξ1、ξ0は数式2に示すような関数で表される。すなわち、ξ1、ξ0は夫々通気度Ψと膜厚hの関数で表され、さらに、通気度はαP、rの関数で表される。αPは多孔質体における空孔率(全体積に対して占める割合)を表し、rは空孔の平均径を表している。Ψは通気度を表す。以上がスリップ流れを考慮した場合の式である。
【数3】
【0033】
一方、表面粗さを有する場合のレイノルズ方程式を数式3に示す。この式3においてφxはx方向の圧力流れに対する修正係数を表し、φyはy方向の圧力流れに対する修正係数を表す。φsは剪断流れに対する修正係数を表す。φyについては、幅が長い軸受の場合は小さくなるので無視することができる。表面粗さを有する場合には、表面突起の高さに応じて圧力値が変わる。すなわち、膜厚が薄いところでは圧力が高くなり、膜厚が大きなところでは圧力が低くなる。従って、圧力については平均値pバー(局所平均圧力)により表す。σは表面粗さの標準偏差を表している。
【数4】
【0034】
この式3と式1を対比すると、
pバー → p
φx → 1+ξ1
φy → 1+ξ1
φs → ξ0
φsσ → ξ0h
のように対応する。
【0035】
そこで、y方向(軸受幅方向)が無限に長いものとした場合は、スリップ流れの方向に比べて、幅方向の流れは非常に小さなものになる。従って、数式3において左辺第2項を0と置くことができ数式4となる。そこで、数式4を所定条件下で解くと、図3に示すようなpmaxの解が得られる。添字のOは出口側をiは入口側を表す。Biは入口側における流れ方向の長さB0は出口側における流れ方向の長さを示す。
【0036】
計算をするにあたり、入口側と出口側の両方が多孔質体であるものとし、入口側の膜厚がhi、出口側の膜厚がh0であるとしている。図3に示す解は、表面粗さを考慮した解であるが、スリップ流れを考慮した場合の解は、次のように変数を置き換えればよい。
【0037】
Φx0 → 1+ξ1i
Φxi → 1+ξ1i
σ0φs0 → ξ0oh0
σiφsi → ξ0ihi
以上のように、スリップ流れの場合と表面粗さを有する場合とで理論的には同じように扱うことができる。上記結果に関し、次に示す4つの場合について発生する圧力の大きさを検討する。
【0038】
1)摺動面の入口側と出口側が共に鏡面(共にスリップ流れなし)である場合
鏡面であるため多孔質に関する項は0になる。また、表面粗さがない状態であり、h0=-hiとなる。従って、図4に示すように、pmax=0となる。すなわち、圧力は発生しないことになり、軸受支持構造には不適である。
【0039】
2)摺動面の入口側が表面粗さのない多孔質(スリップ流れを考慮しない状態)で出口側が鏡面(スリップ流れなし)である場合
この場合もh0=-hiであり、同様にpmax=0となる。
【0040】
3)摺動面の入口側が表面粗さを有するな多孔質(スリップ流れを考慮する状態)で出口側が鏡面(スリップ流れなし)である場合
この場合、表面粗さがあるため、表面に凹凸があり、h0≠h1となる。すなわち、表面粗さの存在により流体力学的な透過膜厚が変化するためである。従って、図4の式に示すように、pmaxはある値を持ち、圧力が発生する。従って、軸受支持構造として適しているといえる。
【0041】
4)摺動面の入口側が表面粗さを有する面で、出口側が鏡面である場合
この場合もh0≠h1となるため、pmaxはある値を持ち、軸受支持構造として適している。
【0042】
5)摺動面の入口側も出口側も鏡面で入口側にのみスリップ流れを生じさせる場合
この場合、図4の4)においてσφiをξ0ihiで置き換えてみると、ho=hiであるものの、ξ0iが0ではない(スリップ流れがある場合は0にならない)ため、圧力が発生する。従って、軸受支持構造として好適である。
【0043】
以上のような理論式と図1で説明した圧力発生原理とから次のような軸受構造が好ましい。すなわち、図5に示すように、流体潤滑膜3(流体潤滑層)を介して第1摺動面1と第2摺動面2があり、これら摺動面1,2のうち少なくとも一方(図5では第2摺動面のみ)に第1領域R1と第2領域R2を形成し、第1領域R1の表面2aはスリップ流れを生じさせるような面を形成し、第2領域R2の表面2bはスリップ流れが0あるいは第1領域R1よりも小さなスリップ流れとする。これにより、第1領域R1に持ち込まれる流量と第2領域R2から押し出される流量に差が生じ、バランスを取るために圧力が発生し軸受支持を行なうことができる。スリップ流れを生じさせる具体的な手法については後述する。
【0044】
もう1つは、図6に示すように、第1領域R1と第2領域R2において各表面2a,2bの表面粗さを異ならせることである。表面粗さを異ならせることで、各領域における平均膜厚が異なり、第1領域R1に持ち込まれる流量と第2領域R2から押し出される流量に差が生じ、バランスを取るために圧力が発生し軸受支持を行なうことができる。第1領域R1と第2領域R2のいずれか一方は鏡面に形成されていてもよい。
【0045】
本発明にかかる軸受構造の好適な使用例について説明する。本発明に係る軸受構造は、例えば、上下水供給、雨水排水、海水取水、河川水取水等に用いられている立軸斜流ポンプ等の流体機械において使用されている。これら流体機械では、その構成要素である軸受において、その機械自身が取り扱っている流体、すなわち、プロセス流体である水により、軸受構造の簡略化を実現している。流体機械4の具体例については、例えば、図15に示したとおりである。
【0046】
水潤滑においては水の粘度が低いため、油潤滑のような効率的な動圧の発生が期待できない。特に、軸受の起動停止時の過渡期においては、摺動面に十分な流体潤滑膜が形成されなくなり、混合潤滑や境界潤滑となる可能性が高い。また、定常状態においても、流体潤滑膜の剛性が低いため、局部的には摺動面同士の固体接触が生じることもありうる。油潤滑の場合は、有効な添加剤を添加することで、摺動面に吸着膜を形成し、上記の場合の潤滑特性を改善することができる。しかし、上記のような水潤滑の場合は、添加剤による方法は一般的には用いられていない。
【0047】
したがって、混合・境界潤滑特性の優れた軸受材料の選定と、摺動面への十分な流体潤滑膜の形成が期待できるように、安価でかつ効果的な動圧発生構造を付与することが、軸受の特性向上が必要不可欠である。そこで、本発明の原理による軸受構造が好適に用いられる。
【0048】
<撥水面の形成>
図7は、本発明に係る軸受構造の第1実施形態を概念的に示す図である。第1摺動面1と第2摺動面2のうち、第2摺動面2の第1領域R1には、フッ素樹脂膜10が形成される。フッ素樹脂膜10は、例えば、テフロン(登録商標)をコーティングすることで形成することができる。第2領域R2の表面には、かかるコーティングは施されない。フッ素樹脂膜10は、撥水性を有しており、摺動面1の表面においてすべり流れを生じさせる。第2領域R2では、そのようなすべり流れを生じさせない。このすべり流れを発生させることで、圧力を生じさせ軸受荷重を支持することができる。
【0049】
図7において、フッ素樹脂膜10のA部拡大図を示しており、その表面は粗面であり、微小凹凸が形成される。かかる微小凹凸を形成することで、接触角を大きくすることができ、すべり流れの大きさを大きくすることができる。これにより、より大きな圧力を発生させることができる。なお、微小凹凸は、例えば、イオン照射等の方法により形成することができる。
【0050】
図7の構成例において、フッ素樹脂膜10には僅かではあるが厚みがあるため、第2領域R2と比べた場合、第1領域R1の方が若干高くなるが、実質的に無視できるレベルであり、性能的には全く問題のないレベルであると考えられる。
【0051】
図8は、摺動面における第1領域R1と第2領域R2の分布状態を示す図である。図8(a)は円周方向に沿って第1領域R1と第2領域R2が交互に配置される構成例である。交互に配置する場合のピッチについては、適宜決めることができる。
【0052】
図8(b)は、第2領域R2の中に微小な大きさの第1領域を点在させた構成例である。点在させる場合は、規則的にしてもよいしランダムにしてもよい。第1領域R1の大きさや密度については、適宜決めることができる。また、第1・第2領域R1,R2を扇状に形成するのではなく、例えば、図15で説明したようなスパイラル状に形成してもよい。
【0053】
図9は、図8(a)(b)を組み合わせた構成例であり、第1領域を点在させた領域を所定ピッチで配列した構成例である。
【0054】
図10は、別の実施形態にかかる軸受構造を示す図である。図10において、第1領域R1には、摺動面の表面に多数の凹部1dが形成されている。この凹部1dに、撥水性を有する材料(フッ素樹脂等)が充填される。これにより、撥水性を有する第1領域R1を形成することができる。
【0055】
図10における実施形態では、第1領域R1にも第2領域R2にも凹部1d,1eが夫々形成されている。第1領域R1の凹部1dには、撥水性を有する材料が充填され、第2領域R2の凹部1eには、親水性を有する材料が充填される。これにより、撥水性を有する第1領域R1と親水性を有する第2領域R2を形成することができる。
【0056】
<実験結果>
次に、本発明による構成の効果を確認するために簡単な実験を行った。図11(a)において、市販のガラス板20の表面(鏡面)をA,B,Cの3つの部分に分けて、部分Aには第1領域R1と第2領域R2を交互に形成する。第1領域R1には撥水処理(フッ素樹脂膜の形成)が施される。部分Bの表面は、未処理であり、部分Cの表面は全面が撥水処理が施されている。
【0057】
ガラス板20を水中に入れて、ガラス板20の上に摺動体21(鏡面を有する)を載せておもり22により負荷を作用させる。本発明による構成を採用した部分Aの上を滑らせると、摺動体21は所定条件下で2分以内で滑走した。未処理の部分Bでは、摺動体21は途中で停止した。部分Cでは、動きが遅く3分程度で滑走するか途中で停止した。この傾向は、おもり22の重さを大きくすると、さらに顕著な差が現れる。
【0058】
上記撥水処理は、厚みにすると10nm程度であり、仮に従来技術のような機械的な段差(図 14参照)を10nm程度にしたとしても、圧力を発生するような軸受効果はない。
【0059】
<希薄流体について>
次に、第1摺動面と第2摺動面の間の流体潤滑層として希薄流体を用いる場合について説明する。例えば、音速の1/100〜1/10程度で摺動面が移動し、空気あるいは混相流(空気と油のミスト)を流体潤滑層として用いる。
【0060】
この場合、摺動面を黄銅や鋼の面とするとスリップ流れがほとんど生じなくなり、塗料の塗布面とするとスリップ流れが生じる。このような希薄流体の特性に鑑みて、第1領域と第2領域の表面材質を選択することで、軸受支持圧力を発生させることができる。
【0061】
表面がガラスの場合も空気は滑りやすく、シェラック(ワニスや赤色塗料の原料になる樹脂状物質)の場合はさらに滑りやすくなる。また、油上の空気は比較的滑りやすい。
【0062】
<多孔質表面>
図12に示すように、第1領域R1の表面を多孔質面とし、その凹部に油を保持させる。油の表面の空気は滑りやすいため、部分的に含油軸受とすることで圧力を発生させることができる。多孔質とする場合は、通気度が大きいほどスリップしやすくなる。通気度の大きさは、空孔が大きいこと(例えば、50μm以上)、粘度が大きいこと(水より油で生じやすい)に依存する。
【0063】
また、多孔質面とする場合は、空孔率や空孔径を変えることですべりの大きさを変えることができる。これにより、スリップ流れの程度を制御することができる。
【0064】
<表面粗さ>
表面粗さの形成については図6において説明したように、第1領域と第2領域で平均膜厚が異なるように表面粗さを形成することで圧力を発生させることができる。表面粗さを形成する場合には、図8及び図9で示したような分布状態を採用してもよいし、例えば、図13に示すように表面粗さを有する第1領域R1と鏡面に形成される第2領域R2を交互に形成してもよい。かかる面の形成方法としては、まず摺動面の全体を所定の表面粗さとなるように製作し、その後、第2領域R2の表面粗さを埋めることで表面粗さの異なる部分を形成することができる。表面粗さを埋める場合に接着剤を使用することができる。
【0065】
以上のように本発明による軸受構造は、摺動面に部分的にスリップ流れを生じさせたり、表面粗さを付与することで、流量修正係数を制御した軸受構造を提供することができ、軸受支持圧力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】スリップ流れにより圧力が発生する原理
【図2】理論式を説明するための図
【図3】理論式による計算結果を説明するための図
【図4】理論式による計算結果を説明するための図
【図5】好ましい軸受構造の概念図
【図6】好ましい軸受構造の概念図
【図7】好ましい軸受構造の概念図
【図8】第1領域と第2領域の分布例を示す図
【図9】第1領域と第2領域の分布例を示す図
【図10】好ましい軸受構造の概念図
【図11】実験装置を示す概念図
【図12】多孔質表面の構成例を示す図
【図13】第1領域と第2領域の分布例を示す図
【図14】流体機械の構成例を示す図
【図15】軸受部材の形状例を示す図
【符号の説明】
【0067】
1 第1摺動面
1d,1e 凹部
2 第2摺動面
3 流体潤滑層
R1 第1領域
R2 第2領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域は流体のスリップ流れを生じさせるように摺動面が形成され、第2領域はスリップ流れが0もしくは第1領域よりも小さくなるように摺動面が形成されることにより、流体潤滑層に軸受支持圧力を発生させるようにしたことを特徴とする流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項2】
第1領域は撥水性もしくは撥油性を有し、第2領域は親水性もしくは親油性を有することを特徴とする請求項1に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項3】
第1領域の表面にフッ素樹脂膜を形成していることを特徴とする請求項2に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項4】
第1領域の表面に多数の凹部を形成し、この凹部に撥水性もしくは撥油性を有する材料が充填されることを特徴とする請求項1〜3に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項5】
第1領域と第2領域の表面の材質を異ならせていることを特徴とする請求項1に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項6】
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域と第2領域で表面粗さを異ならせていることを特徴とする流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項7】
第1領域は、少なくとも表面が多孔質に形成されることを特徴とする請求項6に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項8】
第1領域と第2領域が摺動方向に沿って交互に形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項9】
第1領域が第2領域の中に点在していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項10】
第1領域は第2領域の中に形成される多数の凹部であり、この凹部の中にスリップ流れを生じさせる材料を充填させることを特徴とする請求項9に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項1】
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域は流体のスリップ流れを生じさせるように摺動面が形成され、第2領域はスリップ流れが0もしくは第1領域よりも小さくなるように摺動面が形成されることにより、流体潤滑層に軸受支持圧力を発生させるようにしたことを特徴とする流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項2】
第1領域は撥水性もしくは撥油性を有し、第2領域は親水性もしくは親油性を有することを特徴とする請求項1に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項3】
第1領域の表面にフッ素樹脂膜を形成していることを特徴とする請求項2に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項4】
第1領域の表面に多数の凹部を形成し、この凹部に撥水性もしくは撥油性を有する材料が充填されることを特徴とする請求項1〜3に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項5】
第1領域と第2領域の表面の材質を異ならせていることを特徴とする請求項1に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項6】
流体潤滑層を介して向かい合う第1摺動面及び第2摺動面であって、これら摺動面の少なくとも一方に、第1領域と第2領域を形成し、第1領域と第2領域で表面粗さを異ならせていることを特徴とする流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項7】
第1領域は、少なくとも表面が多孔質に形成されることを特徴とする請求項6に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項8】
第1領域と第2領域が摺動方向に沿って交互に形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項9】
第1領域が第2領域の中に点在していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【請求項10】
第1領域は第2領域の中に形成される多数の凹部であり、この凹部の中にスリップ流れを生じさせる材料を充填させることを特徴とする請求項9に記載の流量修正係数を制御した軸受構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−211956(P2007−211956A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35480(P2006−35480)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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