説明

流量制御弁

【課題】流体の温度の範囲や流体の種類の制限を受け難く、長期間に亘り安定的に作動する圧力補償型の流量制御弁を提供する。
【解決手段】流体入口22及び流体出口28を有するハウジング14と、ハウジング内に往復動可能に配置されハウジングと共働してそれぞれ流体入口及び流体出口と連通する容積可変の第一の室30及び第二の室32を郭定する弁体24と、弁体を第一の室の容積が減少する方向へ付勢する付勢手段としての圧縮コイルばね36とを有する流量制御弁10。弁体24には第一及び第二の室を相互に連通接続する連通路34が設けられており、弁体が圧縮コイルばねのばね力に抗して第一の室の容積を増大する方向へ移動すると、流体出口28に接近し第二の室と流体出口との連通度合を低減し、これにより流量制御弁10を通過する流体の流量が一定に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御弁に係り、更に詳細には流入する流体の圧力の変動に関係なく流体の流量を一定に制御する圧力補償型の流量制御弁に係る。
【背景技術】
【0002】
圧力補償型の流量制御弁は従来種々の構成のものが提案されている。例えば下記の特許文献1には、コアと共働して流体の流路を郭定するOリングを有し、流体の圧力が上昇するとOリングが弾性変形して流路の通路断面積を低減することにより、流体の圧力が変動しても流体の流量を一定に制御する流量制御弁が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−54875号公報
【発明の概要】
【0004】
〔発明が解決しようとする課題〕
上記公開公報に記載された流量制御弁に於いては、流路の通路断面積の増減はゴム等よりなるOリングの弾性変形により行われ、Oリングの弾性変形特性が流体の温度や種類の影響を受け易いため、流体の温度の範囲や流体の種類が制限されるという問題がある。また流量制御弁の流量制御性能がOリングの経年劣化の悪影響を受け易く、長期間に亘り高い信頼性を確保することが困難である。更に流路の通路断面積はOリングの径方向の弾性変形により増減されるので、流量制御弁の径を小さくすることが困難である。
【0005】
また圧力補償型の流量制御弁として、スプール弁と通路断面積が小さくなる方向へスプール弁を付勢する付勢手段とを有するスプール弁式の流量制御弁も知られている。しかしスプール弁式の流量制御弁に於いては、スプール弁の移動方向の両側に上流側及び下流側の流体の圧力を導く必要があるため、構造が複雑であり、またスプール弁の移動方向の寸法が大きくならざるを得ないという問題がある。
【0006】
本発明は、従来の圧力補償型の流量制御弁に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、流体の温度の範囲や流体の種類の制限を受け難く、長期間に亘り安定的に作動する圧力補償型の流量制御弁を提供することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0007】
上述の主要な課題は、本発明によれば、流体入口及び流体出口を含むハウジングと、前記ハウジング内に往復動可能に配置され前記ハウジングと共働してそれぞれ前記流体入口及び前記流体出口と連通する容積可変の第一及び第二の室を郭定する弁体と、前記第一及び第二の室を相互に連通接続する連通路と、前記第一の室の容積が減少する方向へ付勢する付勢手段とを有し、前記弁体が前記付勢手段の付勢力に抗して前記第一の室の容積を増大する方向へ移動すると、前記流体出口に接近し前記第二の室と前記流体出口との連通度合を低減することを特徴とする流量制御弁(請求項1の構成)によって達成される。
【0008】
上記の構成によれば、流体は流体入口より第一の室へ流入し、第一の室より連通路を経て第二の室へ移動し、流体出口を経て流量制御弁より流出する。そして流体が第一の室より連通路を経て第二の室へ移動する際の圧力降下により第一及び第二の室の間に差圧が発生され、該差圧により弁体が前記付勢手段の付勢力に抗して前記第一の室の容積を増大する方向へ移動される。かくして弁体が移動すると、弁体は流体出口に接近し、第二の室と流体出口との連通度合を低減する。弁体の移動量は流体入口より第一の室へ流入する流体の圧力が高くなって第一及び第二の室の間の差圧が大きくなるほど大きくなるので、第二の室と流体出口との連通度合の低減量も流入する流体の圧力が高いほど大きくなる。よって流入する流体の圧力が高いほど流体出口を経て流量制御弁より流出する流体に対する絞り効果が高くなるので、流入する流体の圧力が変動してもその変動が急激でなければ流量制御弁を通過する流体の流量を一定に維持することができる。
【0009】
また第二の室と流体出口との連通度合は弁体と流体出口との間の間隔により決定され、弁体及びハウジングはOリング等に比して流体の温度や種類の影響を受け難く経年劣化の悪影響を受け難い実質的に剛体であってよい。従って流量制御弁を通過する流体に対する絞りがOリングの弾性変形量により決定される上記公報に記載の従来の流量制御弁に比して、流体の温度の範囲や流体の種類の制限を受け難くすると共に、流量制御弁を長期間に亘り安定的に作動させることができる。
【0010】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、前記流量制御弁に流体が流れていないときには前記弁体は前記ハウジングの当接部に当接する標準位置に位置決めされ、前記連通路の実効通路断面積は前記弁体が前記標準位置に位置決めされているときの前記第二の室と前記流体出口との間の実効通路断面積以下であるよう構成される(請求項2の構成)。
【0011】
上記の構成によれば、流量制御弁に流体が流れ始める当初から連通路は第二の室と流体出口との間よりも流体に対し高い絞り効果を発揮することができ、これにより流体が流れ始める当初から第一及び第二の室の間に差圧を発生させることができる。よって弁体が標準位置に位置決めされているときの第二の室と流体出口との間の実効通路断面積よりも連通路の実効通路断面積が大きい場合に比して、流量制御弁へ流入する流体の圧力が低い領域から効果的に流量を一定に制御することができる。また流量制御弁へ流入する流体の圧力が急激に上昇した場合にも、流量制御弁を通過する流体の流量が急激に増大することを効果的に抑制することがてきる。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、前記弁体はその往復動方向に垂直に延在する円板部と、該円板部と一体をなし前記ハウジングに往復動可能に嵌合する円筒部とを有し、前記流体出口は前記円筒部の内側に位置し、前記付勢手段の一部は前記流体出口の周りにて前記円筒部の内側に位置しているよう構成される(請求項3の構成)。
【0013】
上記の構成によれば、弁体はハウジングに往復動可能に嵌合する円筒部を有し、流体出口は弁体の円筒部の内側に位置し、付勢手段の一部は流体出口の周りにて円筒部の内側に位置している。よって円筒部が設けられていない場合に比して、弁体ががたつく虞れを低減し、弁体が円滑にハウジングに対し相対的に往復動する状況を確保することができる。また例えば弁体が円筒部の長さと同一の厚さを有する円板である場合に比して、弁体を軽量化することができると共に、弁体の往復動方向の流量制御弁の大きさを小さくすることができる。従って長期に亘り安定的に作動可能な流量制御弁を軽量且つコンパクトに構成することができる。
【0014】
また本発明によれば、上記の構成に於いて、前記弁体の往復動方向に沿って見て前記連通路は前記流体出口とは重なっていないよう構成される(請求項4の構成)。
【0015】
上記の構成によれば、弁体が流体出口の第二の室の側の端部に当接すると、第二の室と流体出口との間の連通が遮断される。よって流量制御弁に流入する流体の圧力が非常に高くなると、弁体が流体出口に接近し、弁体と流体出口との間の空間に於ける流体に流速が非常に高くなってその空間の圧力が低下する。また流量制御弁を通過する流体の流量が低下し、第一及び第二の室内の圧力は実質的に同一になる。従って第一及び第二の室内の圧力と流体出口の圧力との間の差圧及び弁体の受圧面積の相違による力によって弁体が付勢手段の付勢力に抗して流体出口に当接せしめられるので、流量制御弁を通過する流体を遮断することができる。
【0016】
尚かくして流量制御弁が流体の通過を遮断する状況になっても、流量制御弁に流入しようとする流体の圧力が低下すれば、第一の室内の圧力と流体出口の圧力との間の差圧が低下し、弁体は付勢手段の付勢力により第一の室の容積を低減する方向へ移動する。よって流量制御弁はそれに流入しようとする流体の圧力が低下すると、自動的に流量を一定に制御する通常の作動状況に復帰することができる。
【0017】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、前記弁体の往復動方向に沿って見て前記連通路は前記流体出口と少なくとも部分的に重なっているよう構成される(請求項5の構成)。
【0018】
上記の構成によれば、弁体が流体出口に当接しても、第二の室と流体出口との間の連通は遮断されない。よって流量制御弁に流入する流体の圧力が非常に高くなっても、流体が流量制御弁を通過して流れる状況を確保することができる。尚弁体が流体出口に当接すると、連通路と流体出口とが重なっている部分がオリフィスとして作用するようになる。従って流入する流体の圧力が非常に高くなると、流量制御弁を通過する流体の流量は一定にはならない。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0019】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記の各構成に於いて、弁体の往復動方向に垂直な断面積は流体入口の断面積よりも大きいよう構成される。
【0020】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、弁体が流体出口に当接すると、流体出口は全周に亘り弁体に密着し、第二の室と流体出口より下流側の通路との間の連通を遮断するよう構成される。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の各構成に於いて、ハウジングは流体出口を有する第一のハウジング部材と、流体入口を有する第二のハウジング部材とを有し、流量制御弁に流体が流れていないときには、弁体は付勢手段の付勢力によって第二のハウジング部材の当接部に当接せしめられることにより標準位置に位置決めされるよう構成される。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の各構成に於いて、付勢手段は圧縮コイルばねであるよう構成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による流量制御弁の第一の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】本発明による流量制御弁の第二の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】第一の実施形態(実線)及び比較例(破線)に於ける第一の室の圧力P1と流量制御弁を通過する流体の流量Vとの関係を模式的に示すグラフである。
【図4】第二の実施形態に於ける第一の室の圧力P1と流量制御弁を通過する流体の流量Vとの関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
【0025】
図1は本発明による流量制御弁の第一の実施形態を示す縦断面図である。
【0026】
図1に於いて、10は流量制御弁を全体的に示している。流量制御弁10は軸線12を有するハウジング14を含んでおり、ハウジング14はハウジング本体16と入口部材18とよりなっている。ハウジング本体16は軸線12に垂直に延在するフランジ部16Fを有し、フランジ部16Fの上面には軸線12の周りに延在する環状溝20が設けられている。
【0027】
入口部材18もフランジ部18Fを有し、フランジ部18Fはその外周の下面に一体に設けられた円筒部が環状溝20に圧入され、これにより入口部材18はハウジング本体6と一体的に連結されている。入口部材18は図にて上端に他の導管に接続される円筒部を有し、該円筒部は流体入口22を郭定している。また入口部材18は円筒部とフランジ部18Fとの間にフランジ部へ向うにつれて漸次直径が増大する円錐部を有している。
【0028】
ハウジング14内には軸線12に沿って往復動可能に弁体24が配置されている。弁体24は軸線12に垂直に延在する円板部24Aと、円板部の外周部と一体に接続され軸線12に沿って延在する円筒部24Bとを有している。ハウジング本体16はフランジ部16Fと一体をなし軸線12に沿って延在する外筒部16Aと、軸線12に垂直に延在する底壁部16Bを介して外筒部16Aと一体をなし軸線12に沿って延在する内筒部16Cとを有している。内筒部16Cには導管26が圧入により連結されており、内筒部16Cの上端は流体出口28を郭定している。
【0029】
円筒部24Bの外面はハウジング本体6の外筒部16Aの内面に実質的に密に当接し、これにより弁体24はハウジング14と共働して流体入口22と連通する第一の室30及び流体出口28と連通する第二の室32を郭定している。第一の室30及び第二の室32の容積は可変であり、弁体24が軸線12に沿って移動することにより増減する。弁体24の円板部24Aには第一の室30及び第二の室32を相互に連通接続する連通路34が設けられている。
【0030】
第一の実施形態に於いては、軸線12に沿って見て連通路34は流体出口28とは重ならないよう、軸線12に対しそれに垂直な方向へオフセットされた位置に設けられている。また弁体24の円板部24Aが内筒部16Cの上端に当接すると、内筒部16Cの上端はその全周に亘り弁体24の円板部24Aに密着するようになっている。よって弁体24の円板部24Aが内筒部16Cの上端に当接すると、第二の室32と流体出口28との間の連通が遮断される。
【0031】
第二の室32内にて弁体24の円板部24Aとハウジング本体16の底壁部16Bとの間には、第一の室30の容積が減少する方向へ弁体24を付勢する付勢手段としての圧縮コイルばね36が弾装されている。弁体24の円板部24Aは入口部材18のフランジ部18Fの内径よりも大きい外径を有しており、これにより流量制御弁10に流体が流れていないときには弁体24はその円板部24Aがフランジ部18Fに当接する標準位置に位置決めされるようになっている。従ってフランジ部18Fの図にて下面の内周部は弁体24を標準位置に位置決めするための当接部として機能する。連通路34の実効通路断面積をA1とし、第二の室32と流体出口28との間の実効通路断面積をA2とする。弁体24が標準位置に位置決めされているときには、実効通路断面積A1が実効通路断面積A2以下になるようそれらの実効通路断面積が設定されている。
【0032】
尚ハウジング本体16、入口部材18、弁体24は、流量制御弁10に流れる流体の温度や種類の影響を受け難く安定性に優れ実質的に剛固な金属又は硬質樹脂にて形成されている。同様に圧縮コイルばね36は、流量制御弁10に流れる流体の温度や種類の影響を受け難く安定性に優れた弾性を有する金属又は樹脂にて形成されている。
【0033】
第一の実施形態に於いて、流量制御弁10にオイルの如き流体が流れる場合には、流体は流体入口22より第一の室30へ流入し、連通路34を経て第二の室32へ移動し、流体出口28を経て流量制御弁10より導管26へ流出する。そして流体が連通路34を通過する際の圧力降下により第二の室32内の圧力P2が第一の室30の圧力P1よりも低くなり、弁体24の両側に差圧P1−P2が生じる。よって圧力P1の変化が急激でなければ、差圧P1−P2と弁体24の有効面積Sとの積に対応する力と圧縮コイルばね36のばね力とが釣り合う位置まで弁体24が第二の室32の容積を低減する方向へ移動する。従って第二の室32と流体出口28との間の実効通路断面積A2が低減され、これにより第二の室32と流体出口28との間に於いても圧力降下が生じる
【0034】
流体出口28に於ける流体の圧力をP3とすると、連通路34を通過する流体の流量V1及び第二の室32と流体出口28との間を通過する流体の流量V2はそれぞれ下記の式1及び2により表される。尚式1及び2に於いて、係数K1及びK2は流量係数、流体の密度等により決定される値である。
【0035】
V1=K1A1(P1−P2)1/2 ……(1)
【0036】
V2=K2A2(P2−P3)1/2 ……(2)
【0037】
流体の流量V1及びV2は互いに等しいので、下記の式3が成立する。
【0038】
K1A1(P1−P2)1/2=K2A2(P2−P3)1/2 ……(3)
【0039】
また圧縮コイルばね36のばね定数をKbとし、弁体24が標準位置に位置決めされているときの圧縮コイルばね36の圧縮変形量をX0とし、弁体24が標準位置より変位することに伴う圧縮コイルばね36の圧縮変形量をXとする。弁体24に軸線12に沿って作用する力の釣り合いより、下記の式4が成立する。
【0040】
S(P1−P2)=Kb(X+X0) ……(4)
【0041】
また第二の室32と流体出口28との間の実効通路断面積A2は弁体24が標準位置より変位する量、従って圧縮コイルばね36の圧縮変形量Xの関数であるので、その関数をF(X)とすると、下記の式5が成立する。
【0042】
A2=F(X) ……(5)
【0043】
よって流体出口28に於ける流体の圧力P3は例えば大気圧の如き既知の一定の値であるとすると、上記式3乃至5により変数P2、A2、Xが一義的に定まる。よって第一の室30の圧力P1の如何に関係なく流体の流量V1及びV2、即ち流量制御弁10を通過する流体の流量が一定に定まる。
【0044】
かくして第一の実施形態によれば、第一の室30へ流入する流体の圧力P1が変動しても、流量制御弁10の制御を要することなく流量制御弁10を通過する流体の流量を一定に制御することができる。
【0045】
図3の実線は第一の実施形態に於ける第一の室30の圧力P1と流量制御弁10を通過する流体の流量Vとの関係を模式的に示している。圧力P1が0より上昇すると流体の流量Vが漸次増大し、圧力P1がP11になると弁体24が圧縮コイルばね36のばね力に抗してハウジング14に対し相対的に変位し始めるとする。図3に示されている如く、圧力P1がP11以上になると、上記式3乃至5が成立するので、流体の圧力P1が変動しても流量制御弁10を通過する流体の流量Vが一定になる。
【0046】
また圧力P1が非常に高いP12以上になると、実効通路断面積A2が漸次非常に小さくなり、これに伴って流体の流量Vが漸次減少する。そして圧力P1がP12よりも更に高いP13以上になると、弁体24の円板部24Aが内筒部16Cの上端に当接し、第二の室32と流体出口28との間の連通が遮断されることにより流体の流量Vが0になる。
【0047】
よって第一の実施形態によれば、流量制御弁10へ流入する流体の圧力が非常に高くなると、流量制御弁10を通過する流体の流量を漸次低下させ、更には流体が流量制御弁10を通過することを阻止することができる。従って第一の実施形態の流量制御弁10は、流入する流体の圧力が非常に高くなると、流量制御弁を通過する流体の流量を漸次0まで低下させる必要がある用途に適している。
【0048】
例えば自動車等のエンジンのオイル供給系に於いては、エンジン回転数が上昇するとオイルの供給圧力が上昇するので、供給通路を経て供給されるオイルの量が増大する。エンジンにはその回転数によらず常に一定量以上のオイルが供給されていればよいものもあるが、エンジン回転数が上昇すると飛散などによるオイルの供給量も増加するので、供給通路を経て供給されるオイルの量が少なくてよいものもある。従って第一の実施形態の流量制御弁10は後者のエンジンオイル供給系に組み込まれるのに適している。
[第二の実施形態]
【0049】
図2は本発明による流量制御弁の第二の実施形態を示す縦断面図である。尚図2に於いて、図1に示された部材に対応する部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
【0050】
この第二の実施形態に於いては、弁体24の円板部24Aに設けられ第一の室30及び第二の室32を相互に連通接続する連通路34は、軸線12に沿って見て流体出口28と部分的に重なる位置に設けられている。従って弁体24の移動により円板部24Aがハウジング本体16の内筒部16Cの先端に当接しても、第一の室30内の流体は連通路34を経て流体出口28へ流動可能である。第二の実施形態の他の点は上述の第一の実施形態と同様に構成されている。
【0051】
特に弁体24の移動により円板部24Aがハウジング本体16の内筒部16Cの上端に当接した場合に於いて、第一の室30より連通路34を経て流体出口28へ至る流路の実効通路断面積をA3とする。第一の室30より連通路34を経て流体出口28へ流れる流体の流量V3は下記の式6により表される。尚式6に於いて、係数K3は流量係数、流体の密度等により決定される値である。
【0052】
V3=K3A3(P1−P3)1/2 ……(6)
【0053】
第二の実施形態に於いては、第一の室30へ流入する流体の圧力P1がP12以下の範囲の値であるときには、流量制御弁10は第一の実施形態の場合と同様に作動する。よって流体の圧力P1がP11以上でP12以下の範囲にあるときには、圧力P1の如何に関係なく流量制御弁10を通過する流体の流量Vは一定に維持される。
【0054】
また流体の圧力P1がP12以上でP13以下の範囲にあるときには、圧力P1の増大につれて流体の流量Vは僅かに減少するが、流体の圧力P1がP13以上の範囲にあるときには、上記式6が成立する。よって流体の圧力P1がP13以上の範囲にあるときには、圧力P1の増大につれて流体の流量Vは増大する。尚圧力P1がP12以上でP13以下の範囲にて増大する場合の流量Vの減少量は、第一の室30より連通路34を経て流体出口28へ至る流路の実効通路断面積A3が小さいほど大きい。特に実効通路断面積A3がA1に近い値である場合には、図4に於いて仮想線にて示されている如く、流量Vの減少量は実質的に0である。
【0055】
かくして第二の実施形態によれば、流体の圧力P1がP11以上でP12以下の範囲にあるときには、上述の第一の実施形態の場合と同様に、流量制御弁10を通過する流体の流量Vを一定に維持することができる。
【0056】
特に第二の実施形態によれば、流体の圧力P1がP13以上の範囲にあっても流体は第一の室30より連通路34を経て流体出口28へ流れることができるので、流体の圧力P1が非常に高くても流体が流量制御弁10を通過する状況を確保することができる。
【0057】
また第一及び第二の実施形態によれば、弁体24等は流量制御弁10に流れる流体の温度や種類の影響を受け難く安定性に優れた金属又は樹脂にて形成されている。よって流量制御弁10に流れる流体に対し絞り作用をなす部材がゴムの如き弾性体にて形成されている場合に比して、流量制御弁10が流体の温度の範囲や流体の種類の制限を受け難くすると共に、流量制御弁を長期間に亘り安定的に作動させることができる。
【0058】
また第一及び第二の実施形態によれば、連通路34の実効通路断面積A1及び第二の室32と流体出口28との間の実効通路断面積A2は、弁体24が標準位置に位置決めされているときには、A1がA2以下になるよう設定されている。よって連通路34は流量制御弁10に流体が流れ始める当初から第二の室32と流体出口28との間よりも流体の流体に対し高い絞り効果を発揮することができ、これにより流体が流れ始める当初から第一及び第二の室の間に差圧を発生させることができる。従って弁体24が標準位置に位置決めされているときの実効通路断面積A2よりも連通路の実効通路断面積A1が大きい場合に比して、流量制御弁10へ流入する流体の圧力が低い領域から効果的に流量を一定に制御することができる。
【0059】
例えば図3の破線は連通路の実効通路断面積A1が実効通路断面積A2よりも大きい比較例の場合を示しており、この場合に流量制御弁10を通過する流体の流量Vが一定になり始める流体の圧力をP11′とする。図3に示されている如く、第一及び第二の実施形態に於ける流体の圧力P11を比較例に於ける流体の圧力をP11′よりも低くすることができる。
【0060】
また第一及び第二の実施形態によれば、弁体24は軸線12に垂直に延在する円板部24Aと、該円板部と一体をなし前記ハウジングに往復動可能に嵌合する円筒部24Bとを有している。そして流体出口28は円筒部の内側に位置し、付勢手段としての圧縮コイルばね36の一部は流体出口の周りにて円筒部の内側に位置している。
【0061】
よって円筒部24Bが設けられていない場合に比して、弁体24ががたつく虞れを低減し、弁体が円滑にハウジング本体16に対し相対的に往復動する状況を確保することができる。また例えば弁体24が円筒部の長さと同一の厚さを有する円板である場合に比して、弁体の厚さ及び重量を低減し、これにより弁体の往復動方向の流量制御弁の大きさを小さくし、流量制御弁を軽量化することができる。従って長期に亘り安定的に作動可能な流量制御弁10をコンパクト且つ軽量に構成することができる。
【0062】
また第一及び第二の実施形態によれば、弁体24の軸線12に垂直な断面積Sは流体入口22の断面積よりも大きく、入口部材18は円筒部とフランジ部18Fとの間にフランジ部へ向うにつれて漸次直径が増大する円錐部を有している。よって弁体24の軸線12に垂直な断面積Sが流体入口22の断面積以下である場合に比して、第一の室30へ流入する流体の圧力P1が急激に変動する場合に流体の動圧が弁体24に作用する度合を低減することができる。
【0063】
また第一及び第二の実施形態によれば、流量制御弁10に流体が流れていないときには、弁体24は圧縮コイルばね36のばね力によって入口部材18のフランジ部18Fの当接部に当接せしめられることにより標準位置に位置決めされる。よって当接部がハウジング本体16に設けられる場合に比して、ハウジング14の構造を簡単なものにすることができる。
【0064】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0065】
例えば上述の各実施形態に於いては、連通路34の実効通路断面積A1及び第二の室32と流体出口28との間の実効通路断面積A2は、弁体24が標準位置に位置決めされているときには、A1がA2以下になるよう設定されている。しかし連通路34の実効通路断面積A1が実効通路断面積A2よりも大きい値に設定されてもよい。
【0066】
また上述の第一及び第二の実施形態に於いては、流体出口28は弁体24の円筒部24Bの内側に位置し、付勢手段としての圧縮コイルばね36の一部は流体出口の周りにて円筒部24Bの内側に位置している。しかし流体出口28及び圧縮コイルばね36の少なくとも一方が円筒部24Bの内側に位置していなくてもよい。
【0067】
また上述の各実施形態に於いては、流量制御弁10に流体が流れていないときには、弁体24は圧縮コイルばね36のばね力によって入口部材18のフランジ部18Fの当接部に当接せしめられることにより標準位置に位置決めされる。しかし当接部はハウジング14の他の部分により形成されてもよい。
【0068】
また上述の各実施形態に於いては、第一の室30及び第二の室32を相互に連通接続する連通路34は弁体24の円板部24Aに設けられた孔である。しかし連通路は例えば弁体24の円筒部24Bの外面又はハウジング本体16の外筒部16Aの内面に設けられた溝であってもよく、また円筒部24Bの外面と外筒部16Aの内面との間のクリアランスにより連通路が形成されてもよい。
【0069】
また上述の各実施形態に於いては、流体入口22は入口部材18の円筒部により郭定され、流体出口28はハウジング本体16の内筒部16Cの上端により郭定されている。しかし流体入口及び流体出口の少なくとも一方が例えば流量制御弁10のハウジングに連結固定される導管により郭定されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…流量制御弁、14…ハウジング、22…流体入口、24…弁体、28…流体出口、30…第一の室、32…第二の室、34…連通路、36…圧縮コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体入口及び流体出口を含むハウジングと、前記ハウジング内に往復動可能に配置され前記ハウジングと共働してそれぞれ前記流体入口及び前記流体出口と連通する容積可変の第一及び第二の室を郭定する弁体と、前記第一及び第二の室を相互に連通接続する連通路と、前記第一の室の容積が減少する方向へ付勢する付勢手段とを有し、前記弁体が前記付勢手段の付勢力に抗して前記第一の室の容積を増大する方向へ移動すると、前記流体出口に接近し前記第二の室と前記流体出口との連通度合を低減することを特徴とする流量制御弁。
【請求項2】
前記流量制御弁に流体が流れていないときには前記弁体は前記ハウジングの当接部に当接する標準位置に位置決めされ、前記連通路の実効通路断面積は前記弁体が前記標準位置に位置決めされているときの前記第二の室と前記流体出口との間の実効通路断面積以下であることを特徴とする請求項1に記載の流量制御弁。
【請求項3】
前記弁体はその往復動方向に垂直に延在する円板部と、該円板部と一体をなし前記ハウジングに往復動可能に嵌合する円筒部とを有し、前記流体出口は前記円筒部の内側に位置し、前記付勢手段の一部は前記流体出口の周りにて前記円筒部の内側に位置していることを特徴とする請求項1又は2に記載の流量制御弁。
【請求項4】
前記弁体の往復動方向に沿って見て前記連通路は前記流体出口の前記第二の室の側の端部とは重なっていないことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の流量制御弁。
【請求項5】
前記弁体の往復動方向に沿って見て前記連通路は前記流体出口の前記第二の室の側の端部と少なくとも部分的に重なっていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の流量制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83296(P2013−83296A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223187(P2011−223187)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】