説明

流量調整弁

【課題】装置を大型化させることなく、温度変化による流量弁とアクチュエータとの間の相対位置変化を効果的に吸収できるようにする。
【解決手段】ベースと、ベースに固定された流量弁と、アクチュエータと、ベース及びアクチュエータが熱変位部材を介して連結されている流量調整弁である。そして、熱変位部材とベース又はアクチュエータとの間に、熱変位部材の変位を、温度変化よって生ずる流量弁とアクチュエータとの相対位置の変化を相殺する方向に伝達する梃子手段を更に備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電式又は磁歪式のアクチュエータにより駆動される流量調整弁に関する。このような流量弁調整はガスクロマトグラフにおいてキャリアガスを一定流量で供給するフローコントローラなどのように、ガスを所定流量で供給するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
圧電式又は磁歪式のアクチュエータによる流量調整弁では、アクチュエータの圧電素子又は磁歪素子(以下、両者を含めて「駆動素子」と呼ぶ)により流量弁に変位を入力することで弁を開閉する機能を持つ。従来の流量調整弁では、流量弁が固定されているベースにアクチュエータも固定されている。
アクチュエータもベースに固定されている流量調整弁では、温度変化により流量弁とアクチュエータとの間の相対位置が変化する。その相対位置の変化を吸収するために、所定の熱膨張係数を有する熱変位調整部材を介在させる方法が知られている(特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−129481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、単に熱変位調整部材を介在させるだけでは変位量が不足する場合がある。大きな変位量を吸収するために熱変位調整部材を大きくすると、それだけ装置が大型化し、重量が増大する。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑み、圧電式又は磁歪式のアクチュエータの変位を利用した流量調整弁において、装置を大型化させることなく、温度変化による流量弁とアクチュエータとの間の相対位置変化を効果的に吸収できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流量調整弁では、流量弁はベースに固定されているが、流量弁を駆動するアクチュエータは、ベースに直接固定されるのではなく、熱変位部材と梃子手段を介してベースに固定する。
【0007】
すなわち、本発明の流量調整弁は、ベースと、ベースに固定された流量弁と、アクチュエータと、ベース及びアクチュエータが熱変位部材を介して連結されている流量調整弁である。そして、熱変位部材とベース又はアクチュエータとの間に、熱変位部材の変位を、温度変化よって生ずる流量弁とアクチュエータとの相対位置の変化を相殺する方向に伝達する梃子手段を更に備えている。
【0008】
好ましい形態では、熱変位部材は熱膨張率の異なる複数の部材で構成され、熱変位部材の変位がそれらの複数の熱変位部材の熱膨張率の差による変位の差となるように構成されている。
【0009】
一例として、熱変位部材は第1の支持柱と第2の支持柱からなり、両支持柱は25℃における長さが等しく設定され、ともに正の熱膨張係数をもつ材質で構成されている。より具体的には、第1の支持柱の材質がステンレス合金であり、第2の支持柱の材質がアルミニウム合金である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば温度変化による流量弁とアクチュエータとの間の相対位置変化を梃子手段により相殺するようにしたので、装置を大型化させることを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施例を示す断面図である。
【図2】同実施例における流量弁を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は一実施例の流量調整弁を示している。この流量調整弁の用途は特に限定されるものではないが、例えばガスクロマトグラフにおいて分析流路にキャリアガスを供給するための流量調整弁として使用することができる。
【0013】
流量弁1は例えばダイアフラム弁であり、ベース2に固定されている。ダイアフラム弁1は、図2で後述するように、ルビー球3を押下すると開状態となり、ルビー球3の押し下げを解除すると閉状態となる。
【0014】
ベース2には流路2a、2bが設けられている。流路2aは上流側流路であり、例えばキャリアガスが送られてくる流路である。流路2bは下流側流路であり、例えばキャリアガスをガスクロマトグラフの分析流路に供給する流路である。流路2a、2b間の断続及び流量がダイアフラム弁1により制御される。この例では流路2a、2bはベース2と一体的に形成されているが、流路2a、2bがベース2とは別の部品で構成されていてもよい。
【0015】
ルビー球3の押下げとその解除の動作を行うために、ルビー球3の上方にアクチュエータ4が配置されている。アクチュエータ4は電圧印加により伸縮する圧電式又は磁歪式の駆動素子5をケース8内に収容しており、駆動素子5の固定端5Aはスペーサ9及びキャップ10によってケース8の基端側でケース8内に固定されている。ケース8内にはケース8の先端側にニードル6も収容されている。ケース8の先端には穴が設けられており、ニードル6の先端部がケース8の先端のその穴から突出し、かつその穴に対して摺動可能になっている。ニードル6は基端部に鍔をもっており、ニードル6のその鍔とケース8の先端部の内面との間にコイルバネ7が圧縮状態で挿入されていて、そのコイルバネ7によってニードル6の基端面が駆動素子5の出力端5Bに常に接触するように押しつけられている。これにより、駆動素子5へ電圧印加により駆動素子5が伸縮し、ケース8から突出したニードル6の先端の位置が変位する。
【0016】
ケース8は、その基端側の位置で止めねじ11によって保持梁12に固定されており、保持梁12は第1の支持柱13と第2の支持柱14を介してベース2に固定されている。
【0017】
保持梁12、第1の支持柱13及び第2の支持柱14によりアクチュエータ4を変位させる梃子手段を構成している。第1の支持柱13及び第2の支持柱14は熱変位部材の具体例である。
【0018】
支持柱13がその一端側で保持梁12を支持している支持位置13Aはアクチュエータ4の中心から所定の距離Aだけ離れた位置である。支持柱14がその一端側で保持梁12を支持している支持位置14Aはアクチュエータ4の中心からは支持位置13Aよりもさらに所定の距離Bだけ離れた位置、すなわちアクチュエータ4の中心から距離(A+B)だけ離れた位置である。支持柱13と14は互いに熱膨張係数が異なる材料により構成されている。この流量調整弁を使用している装置の通常の動作時の環境温度(基準温度)でのそれぞれの支持位置13A,14Aからベース2までの高さが基準になる。この実施例では基準温度下で支持位置13A,14Aからベース2までの高さLが等しく設定されている。しかし、基準温度下で支持位置13A,14Aからベース2までの高さは必ずしも等しくしなくてもよい。ただし支持位置13A,14Aは同じ高さになければならない。(これは支持位置13A,14Aの高さが異なる場合、保持梁が傾くため、新たに保持梁の熱膨張を考慮する必要があることによる。)アクチュエータ4は保持梁12と支持柱13,14だけによってニードル6の先端が流量弁1側を向き、かつ基準温度下でニードル6の先端が流量弁1のルビー球3を押すことのできる位置に位置決めされている。アクチュエータ4の先端部をベース2に直接固定する部材は設けられていない。
【0019】
保持梁12は支持柱13、14に対し、それぞれの支持位置13A,14Aにおいてピンによりガタなく回転自由となるように結合されている。ただし、この結合はボルトなどを用いて回転自由でないように固定してもよい。
【0020】
この流量調整弁を作動させているときの環境温度が基準温度から変化すると、ケース8の先端位置に対してニードル6の先端位置の突出量が変化し、支持柱13と14は互いに熱膨張係数が異なっていることにより異なった長さになる。このとき、支持位置13Aを支点とし、支持位置14Aを力点とし、保持梁12がケース8に固定されている点を作用点とする保持梁12による梃子の原理により、環境温度変化によるニードル6の先端位置の突出量変化を相殺する方向にケース8を変位させるように、支持位置13A,14A、支持柱13,14のそれぞれの支持位置13A,14Aからベース2までの長さL、支持柱13,14のそれぞれの熱膨張係数が設定されている。
【0021】
ここで、流量弁の一例としてのダイアフラム弁1を図2に示す。流路2aと2b間の断続と流量制御のためにダイアフラムを備えた弁体20が弁シート22に対し着脱可能に設けられている。弁体20は支持棒24により他のダイアフラム26に吊り下げられて弁体20が弁シート22に密着して弁を閉じる方向に付勢されている。ダイアフラム26上には押し球としてルビー球3が配置され、ルビー球3をニードル6の先端で押し下げることにより弁体20が弁シート22から離れて弁が開くようになっている。
【0022】
本実施の形態においては、ダイアフラム弁1の開閉に必要なルビー球3の変位は5μmである。駆動素子5は最大で100Vの電圧を印加することで12μmの変位が得られる圧電素子である。そのため、駆動素子5が無通電の状態でニードル先端6Aとルビー球3との隙間が0μm以上7.0μm以下の範囲になるようにアクチュエータ4の高さ方向の位置が調整され、止めねじ11で固定されている。これにより、アクチュエータ4に電圧を印加することでダイアフラム弁1を駆動して流量を調整することができる。
【0023】
次に、環境温度変化により構造全体の温度が基準状態から変化した場合の動作について説明する。ただし前提として、構造材の熱膨張が温度変化に比例するものとする。この前提は流量弁を使用する温度領域が室温±25℃程度であることからすれば妥当な前提条件である。
【0024】
本実施の形態では駆動素子5の線膨張係数は−3.0×10-6/℃、長さは20mmである。また、ニードル6、ケース8、スペーサ9、キャップ10、保持梁12及び支持柱13は線膨張係数10.5×10-6/℃のステンレス合金で作られているものとする。ニードル6の長さは7mm、支持柱13及び14の長さ(支持位置13A,14Aからベース2までの長さLのこと)は21mm、ベース2の上面から圧電素子固定端5Aまでの高さ寸法は30mmである。
【0025】
25℃を基準温度とする。例えば環境温度が50℃になったとすると、ニードル6の熱膨張は10.5×10-6×7×(50−25)=1.8μm、駆動素子5の熱膨張は−3.0×10-6×20×(50−25)=−1.5μmである。よって駆動素子固定端5Aとニードル先端6Aの間の寸法は1.8−1.5=0.3μm膨張する。
【0026】
ここで仮に支持柱14の材質として支持柱13と同じステンレス合金を用いたとすると、ベース2の上面から圧電素子固定端5Aまでの高さ寸法は10.5×10-6×30×(50−25)=7.9μm膨張する。
【0027】
ダイアフラム弁1とルビー球3の熱膨張は、寸法および熱膨張係数が小さいため無視できる。
【0028】
これらの結果として、環境温度が50℃では、ニードル先端6Aとルビー球3との隙間は7.9−0.3=7.6μm広がる。このため25℃で隙間を0μμm以上7.0μm以下の範囲になるように調整したとしても、50℃では隙間が、最大値に調整されたときの7.0μmよりも大きくなり、アクチュエータ4でダイアフラム弁1を正常に駆動することができない。
【0029】
そこで、一実施形態では、支持柱14を支持柱13より線膨張係数が大きい材料で形成する。さらに流量弁駆動構造の寸法を下記の式1を満たすように設計する。
Δx=(A/B)(α14−α13)LΔT (式1)
ここで、それぞれの変数は以下のとおりである。
Δx:相殺すべきニードル先端6Aとルビー球3との隙間の変化量。
A:アクチュエータ4と柱13の中心間距離。
B:および柱13と柱14の中心間距離。
α13:柱13の線膨張係数。
α14:柱14の線膨張係数。
L:柱13および柱14の長さ。
Δ:構造の温度変化。
【0030】
環境温度の変化により構造全体の温度が基準温度からΔT変化したとき、支持柱14は支持柱13に比べて(α14−α13)LΔTだけ長くなる。すると、梃子の原理により保持梁12がベース2に対して傾き、アクチュエータ4が支持柱13に対して相対的に(A/B)(α14−α13)LΔTだけ下方に変位する(矢印12A)。式1により、下方への変位量(A/B)(α14−α13)LΔTが相殺すべき隙間の変化量Δxと等しくなる。そのため、アクチュエータ4の先端6Aは温度によって上下方向に変位せず、熱膨張の影響が相殺される。
【0031】
さらに隙間の変化量Δxは構造材の線形な熱膨張に起因するものであるから、ΔxはΔTに比例する。同様にアクチュエータ4の下方への変位量(A/B)(α14−α13)LΔTもΔTに比例する。すなわち本発明によれば任意の温度変化ΔTにおいて熱膨張の影響を相殺できる。構造の温度が上昇したときだけでなく、低下したときにも有効であることは明らかである。
【0032】
本実施の形態においては支持柱13にステンレス合金、支持柱14にアルミニウム合金を用いる。それぞれの材料の線膨張係数はα13=10.5×10-6/℃、α14=23.4×10-6/℃である。また前述よりΔx=7.6μm、L=21mm、ΔT=50−25=25℃である。
【0033】
ここで式1を満たすためには、例えばA=10mm、B=9mmと設計する。すると式1の右辺は(10/9)×(23.4×10-6−10.5×10-6)×21×25=7.5μmとなり、隙間の変化量Δx=7.6にほとんど等しい量を相殺できる。このようにして、熱膨張に影響されない流量弁の駆動機構が実現できる。
【符号の説明】
【0034】
1 ダイアフラム弁
2 ベース
2a 流路
3 ルビー球
4 圧電または磁歪アクチュエータ
5 圧電または磁歪素子
5A 素子の固定端
5B 素子の出力端
6 ニードル
6A ニードル先端
7 バネ
8 ケース
9 スペーサ
10 キャップ
11 止めねじ
12 保持梁
13,14 柱
13A,14A 回転支持中心
15 保持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
当該ベースに固定された流量弁と、
アクチュエータと、
前記ベース及び前記アクチュエータが、熱変位部材を介して連結されている流量調整弁であって、
前記熱変位部材と前記ベース又は前記アクチュエータとの間に、前記熱変位部材の変位を、温度変化よって生ずる前記流量弁と前記アクチュエータとの相対位置の変化を相殺する方向に伝達する梃子手段を更に有することを特徴とする流量調整弁。
【請求項2】
前記熱変位部材は、熱膨張率の異なる複数の部材で構成され、
前記熱変位部材の変位が、当該複数の前記熱変位部材の熱膨張率の差による変位の差となるように構成されている請求項1に記載の流量調整弁。
【請求項3】
前記熱変位部材は第1の支持柱と第2の支持柱からなり、両支持柱は25℃における長さが等しく設定され、ともに正の熱膨張係数をもつ材質で構成されている請求項2に記載の流量調整弁。
【請求項4】
第1の支持柱の材質がステンレス合金であり、第2の支持柱の材質がアルミニウム合金である請求項3に記載の流量調整弁。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100851(P2013−100851A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244358(P2011−244358)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】