説明

流量調整弁

【課題】流量調整弁において、高精度に流量を調整することである。
【解決手段】流量調整弁10は、設定装置20と弁本体部30とで構成される。設定装置20は、流量の設定を行う設定操作盤22と、設定された流量に対応して、弁本体部30の調整部34を移動させるアクチュエータ部24を含んで構成される。弁本体部30は、筐体部32と、筐体部32の内部の流量調整室40に配置される複数の平板可動子50と、流量調整室40の体積を縮小拡大するための調整部34とを含んで構成される。平板可動子50は、中央部に支持穴52を有し、支持穴52の外側に第1くぼみ56と、第1くぼみ56の外側に第2くぼみ58と、第2くぼみ58から外周側に向かって放射状に延びる浅溝部としての複数の細溝60を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量調整弁に係り、特に精密な流量の調整が可能な流量調整弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体供給回路において、管路の圧力調整や流量調整には、ポペットバルブ等、種々の形式の制御弁が用いられている。ポペットバルブとは、主として内燃機関に用いられ、構造的には、弁体が弁座シート面から直角方向に移動する形式のバルブである。
【0003】
本発明に関連する技術として、特許文献1には、高圧・大流量の気体用の制御弁であるが、衝撃波による騒音を抑制する手動操作制御弁が述べられている。ここでは、バルブハウジング内に収容された弁は、中心に円穴を開けた環状円盤と弾性ゴム等の弾性体スペーサを交互に積層し、最上層に中心穴のない円盤を載置して、周方向のスリットを形成している。ここで、弾性スペーサは、円盤の盤面とバルブシートの周囲に一定角度で放射状に配列した凹部に装着される。そして、弁はバルブシートの上にセットされ、上部円盤はバルブハウジングの上部スリーブに嵌合し、上部スリーブのネジ穴にねじ込んだハンドル付調整ネジが上部円盤のステムに接している。
【0004】
この構造においては、1次側管路の圧力気体は、環状円盤の中心穴から円盤間のスリットを通じて2次側に排出される。そして、円盤間のスリットを通過する圧力気体は、スリットの整流作用により断面が線状の薄い層流として全周方向へ放射状に排出され、流れを攪乱する渦流や乱流の発生が極めて少なく、気体のバルブ通過騒音はほとんど発生しないと述べられている。
【0005】
そして、ハンドル付調整ネジを、例えば時計方向に回転すると、上部円盤が下方に押圧され、弾性体スペーサを圧縮して各円盤の間のスリット幅が縮小し、スリット開口面積が減少する。逆に、ハンドル付調整ネジを反時計方向に回転すれば、弁は弾性スペーサの復元力により伸長して各円盤の間のスリット幅が拡大し、ハンドル操作により流量を調整できると述べられている。
【0006】
なお、本発明と同じ発明者は、特許文献2に示すように、作動範囲の広い高精度の微小移動を可能とする気体圧制御アクチュエータを発明している。この気体圧制御アクチュエータは、筒状の案内部と、案内部の底面に取り付けられる支持軸と、支持軸に軸方向に整列配置されて支持される複数の平板可動子を含んで構成される。平板可動子は、薄板円板の中央部に支持穴を有し、支持穴の外側に板厚を薄くした第1くぼみと、第1くぼみの外側に第1くぼみよりも板厚が厚いが、やはり最外周側の板厚よりも薄い第2くぼみと、第2くぼみから外周側に向かって放射状に延びる複数の細溝を含んで構成される。第1くぼみには、軸方向に貫通して気体が通ることができる貫通穴が複数設けられる。この構造によって、気体圧を制御することで、平板可動子の間の隙間を精密に変化させ、そして、先端側の平板可動子が気体層を介して駆動対象物に駆動力を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−169792号公報
【特許文献2】特開2009−63046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
管路の圧力調整や流量調整に用いられるポペットバルブ等は、流量の精密な調整には限度がある。特許文献1の構造を用いると、ハンドル付調整ネジの操作によって弾性体スペーサを圧縮または復元して各円盤の間のスリット幅を変更でき、これによって流量を調整できる。しかし、弾性体スペーサを用いているので、そのバラつき等によって、流量のばらつきが生じ得る。
【0009】
本発明の目的は、新しい概念で、高精度に流量を調整することが可能な流量調整弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特許文献2に開示されている気体圧アクチュエータは、制御された気体圧を入力として、微小変位が出力となっている。この構造における入力と出力を逆にして、変位を入力とし、気体圧あるいは流量を出力とすれば、精密に流量調整が行えるのではないかと考えられる。この場合に、変位を変化させて、複数の平板可動子の間の隙間が、その変位の変化に応じて均等に変化するかどうかがカギである。
【0011】
つまり、複数の平板可動子は、流量がゼロのときは互いに隙間なしで重なっている状態である。この状態で、気体を流すと、複数の平板可動子が、互いに均等な隙間で、浮上するかどうかである。実験を進めたところ、外周側に向かって放射状に延びる複数の細溝があることで、気体を流さない状態から、気体を流すと、複数の平板可動子が、互いに均等な隙間で浮上し、変位を変化させることで、その隙間間隔が変化し、これによって流量が精密に調整されることが分かった。以下の手段は、かかる知見を具体化するものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る流量調整弁は、流体入力ポートと、流体出力ポートとを有する筐体部と、筐体部において、流体入力ポートを底部側に、流体出力ポートを側面側に配置されるように設けられる流量調整室と、流量調整室の内壁に沿って底部側から、あるいは底部側に向かって、移動可能に案内され、流量調整室の内部空間の体積を縮小拡大する調整部と、流量調整室の内部空間において、調整部の移動方向に垂直な方向に平板面を平行に揃えて配置される複数の平板状可動子であって、平板面の中央部に設けられ、流体入力ポートからの流体が流れることができる窓部と、窓部から径方向に延びる複数の浅溝部とを有する複数の平板可動子と、を備え、流体入力ポートからの流体は、流量調整室において調整部の移動量によって規定される内部空間内で、複数の平板可動子の窓部から複数の浅溝部に沿って隣接する平板可動子の間の隙間を流れ、外径側の端部で平板面に溢れ出て、流体出力ポートから出力されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る流量調整弁において、浅溝部は、隣接する平板可動子の間の隙間において、静圧気体軸受として働く絞り構造であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る流量調整弁において、浅溝部は、径方向に延びて端部を有する有端浅溝部、または、径方向に延びて段差を有する段付浅溝部、または径方向に延びて外径側に行くほど溝深さが浅くなるテーパ浅溝部のいずれか1であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る流量調整弁において、流量調整室の内部空間における平板可動子の径方向の移動と平板面に垂直な軸周りの回転とを規制する規制部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成により、流量調整弁は、筐体内の内部空間である流量調整室に複数の平板可動子が配置され、流量調整室の内部空間の体積を縮小拡大する調整部が設けられる。複数の平板可動子は、平板面を平行に揃えて配置され、各平板可動子は、流体入力ポートからの流体が流れることができる窓部と、窓部から径方向に延びる複数の浅溝部とを有する。流体入力ポートからの流体は、流量調整室において調整部の移動量によって規定される内部空間内で、複数の平板可動子の窓部から複数の浅溝部に沿って隣接する平板可動子の間の隙間を流れ、外径側の端部で平板面に溢れ出て、流体出力ポートから出力される。
【0017】
この構造によって、上記のように、気体を流さない状態から、気体を流すと、複数の平板可動子が、互いに均等な隙間で浮上し、調整部によって流量調整室の内部空間の体積を変化させることで、その隙間間隔が変化し、これによって流量を精密に調整できる。
【0018】
また、流量調整弁において、浅溝部は、隣接する平板可動子の間の隙間において、静圧気体軸受として働く絞り構造であるので、気体を流すことで、隣接する平板可動子の間に隙間が形成される。
【0019】
また、流量調整弁において、浅溝部は、径方向に延びて端部を有する有端浅溝部、径方向に延びて段差を有する段付浅溝部、径方向に延びて外径側に行くほど溝深さが浅くなるテーパ浅溝部のいずれかである。これによって、気体を流さない状態から、気体を流すと、複数の平板可動子が、互いに均等な隙間で浮上し、精密な流量調整が可能となる。
【0020】
また、流量調整弁において、平板可動子の径方向の移動と平板面に垂直な軸周りの回転とが規制される。これによって、各平板可動子の間の隙間の流れが安定し、精密な流量調整が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施の形態の流量調整弁の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の流量調整弁における流量調整室の構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の流量調整弁における平板可動子を示す図である。
【図4】図3の平板可動子の断面図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の流量調整弁の流量特性として、調整部の移動量と流量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、平板可動子は、円形の外形を有し、中央に支持軸に遊合支持される支持穴を有するものとして説明するが、平面寸法に比較して板厚の薄い平板であればよく、外形は円形でなくてもよい。例えば多角形の外形、楕円の外形、曲面の外形を有する平板であってもよい。また、以下で述べる材質、寸法等は、説明のための一例であり、気体圧制御アクチュエータの仕様に適合する材質、寸法等を適宜選択できる。
【0023】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0024】
図1は、流量調整弁10の構成を示す図である。流量調整弁10は、管路等を流れる流体の流量を精密に調整するために用いられる調整弁であり、例えば、流量設定を行い、その流量を表示する流量計として用いることができる。
【0025】
流量調整弁10は、設定装置20と弁本体部30とで構成される。設定装置20は、流量の設定を行う設定操作盤22と、設定された流量に対応して、弁本体部30の調整部34を移動させるアクチュエータ部24を含んで構成される。なお、図1で、弁本体部30は断面図で示されている。
【0026】
設定操作盤22は、流量の設定値を増減するための増加スイッチ26と減少スイッチ27と、設定された流量値を表示する表示盤28を含んで構成される。ユーザは、表示盤28の表示を見ながら、増加スイッチ26を押すことで、設定流量値を増加させることができ、設定流量値が所望値より多すぎるときは、減少スイッチ27を押すことで、設定流量値を減少させることができる。
【0027】
アクチュエータ部24は、軸方向に精密に移動するフォースモータと、フォースモータを駆動する駆動回路と、設定操作盤22で設定された設定流量値に対応する移動量になるように駆動回路を制御する制御回路を含む。制御回路は、弁本体部30の流量特性に対応する流量と移動量の関係を予めメモリに記憶し、その関係に基づいて、設定操作盤22で設定された設定流量値に対応する移動量を求め、その移動量になるように、駆動回路を制御して、フォースモータを駆動する。なお、フォースモータに代えて、精密ステッピングモータ等を用いることもできる。
【0028】
このように、アクチュエータ部24は、流量を設定するための機構である。アクチュエータ部24としては、上記のフォースモータのように、力を与えて流量を設定する手段であってもよく、上記のステッピングモータのように、変位を与えて流量を設定する手段であってもよい。モータによる力、変位に代えて、バネによる力、変位を用いてもよく、圧力その他の力を用いてもよい。モータを用いる場合は、位置決め制御を用いるものとしてもよい。
【0029】
弁本体部30は、筐体部32と、筐体部32の内部の流量調整室40に配置される複数の平板可動子50と、流量調整室40の体積を縮小拡大するための調整部34とを含んで構成される。図2は、弁本体部30の部分拡大断面図である。
【0030】
筐体部32は、上部側に調整部34が配置される開口部を有する上部開口の筒状形状の部材である。
【0031】
筐体部32の底部側に設けられる流体入力ポート12は、図示されていない流体管路から流体が供給される流体供給口である。筐体部32の側面側に設けられる流体出力ポート14は、弁本体部30から調整された流量で流体が出力される流体出力口である。流体管路の流量を調整するために流量調整弁10が用いられるときは、流体管路の途中に直列に弁本体部30が取り付けられる。すなわち、流体管路の上流側取付部に流体入力ポート12が取り付けられ、流体管路の下流側取付部に流体出力ポート14が取り付けられ、流体は、弁本体部30を経由して流体管路の中を流れる。
【0032】
流量調整室40は、底面と側面を筐体部32の筒状空間の底部壁と側面壁で規定され、上方側を調整部34の底部壁で規定される筐体部32の内部空間である。流体入力ポート12は、流量調整室40を規定する筐体部32の底部壁に設けられ、流体出力ポート14は、流量調整室40を規定する筐体部32の側面壁に設けられる。
【0033】
ここで、底部壁、側面壁は、重力方向と関係なく、単に、筐体部32の筒状空間の底部の壁を底部壁とし、筒状内側面の壁を側面壁と呼ぶことにしただけである。図1では、紙面の下方側を底部側、左右側を側壁側となっているが、これは、弁本体部30を重力方向に対し縦置きにすることを意味せず、弁本体部30を重力方向に対し横置きにしてもよく、斜め置きとしてもよく、平置きとしても構わない。
【0034】
流量調整室40の底部側に設けられる入口室36は、流体入力ポート12から供給された流体が導かれ、適当な体積空間を有する緩衝室である。この入口室36に適当な絞り部を設けて、流体の流れを滑らかなものとしてもよい。流体入力ポート12から供給された流体は、入口室36を経て流量調整室40の内部空間に流れ込む。
【0035】
流量調整室40の側面側に設けられる出口室38は、流量調整室40において流量調整された流体が導き出され、適当な体積空間を有する緩衝室である。流量調整室40からの流体は、出口室38を経て、流体出力ポート14に流れ出る。
【0036】
調整部34は、筐体部32の円筒状の内側面壁に案内され、アクチュエータ部24によって、底部側から、あるいは底部側に向かって移動可能な筒部材である。調整部34の移動によって、流量調整室40の内部空間に設けられる後述の複数の平板可動子50の隙間量を調整することができる。
【0037】
調整部34の移動方向に沿って平行に流量調整室40に設けられる中心軸42は、複数の平板可動子50の軸回りの回転と、径方向の移動を規制する規制軸である。中心軸42は、一方端が筐体部32の底部壁に固定され、他方端は、その先端部が調整部34の底部壁側に向かって延び、調整部34の底部に接触しないように寸法関係が設定され、自由端となる。
【0038】
流量調整室40に配置される複数の平板可動子50は、中心軸42によって、軸方向に整列配置されて支持される。図3、図4は、平板可動子50の構成を示す図で、これらの図には、中心軸42もあわせて示されている。図3は、平板可動子50の側面図と正面図で、図4は、図3におけるA−A線に沿った断面図で、厚み方向を拡大して示す部分図である。
【0039】
平板可動子50は、薄板円板の中央部に支持穴52を有し、支持穴52の外側に板厚を薄くした第1くぼみ56と、第1くぼみ56の外側に第1くぼみ56よりも板厚が厚いが、やはり最外周側の板厚よりも薄い第2くぼみ58と、第2くぼみ58から外周側に向かって放射状に延びる浅溝部としての複数の細溝60を含んで構成される。そして、第1くぼみ56には、軸方向に貫通して気体が通ることができる貫通穴54が複数設けられる。
【0040】
支持穴52は、中心軸42との間で遊合隙間を有する穴である。図3の例では、中心軸42の外形が四角軸であるので、支持穴52も四角穴の内径形状を有している。これによって、平板可動子50が中心軸42の軸方向周りに回転することを抑制する。すなわち、四角軸と四角穴との組合せによって、回転止めを構成している。回転止めのためには、四角軸と四角穴との組合せ以外のものを用いてもよい。例えば、支持軸と支持穴に楕円形状の組合せ、多角形形状の組合せ等を用いることができる。
【0041】
遊合隙間とは、軸外形寸法に対し穴内径寸法が大きく、軸外形と穴内径との間に必ず隙間があり、軸方向に沿って、穴と軸とが相対的に移動可能である隙間状態のことである。しかしながら、軸外形と穴内径との寸法差があまりに大きくて、穴と軸とが相対的にかなり傾きながら移動可能である場合を含まない。すなわち、遊合隙間とは、穴と軸との間の相対的傾きがほとんどない状態で、軸方向に沿って、穴と軸とが相対的に移動可能である隙間状態のことである。したがって、遊合隙間の具体的な隙間量は、中心軸42の外形寸法あるいは支持穴52の内径寸法と、平板可動子50の第1くぼみ56における板厚によって、その大きさが異なってくる。一例をあげると、支持穴52の外形寸法を約1mm角とし、平板可動子50の第1くぼみ56における板厚を約0.1mmとして、中心軸42の外形と支持穴52の内径との間の隙間を、約10μm程度とすることができる。この例では、遊合隙間が約10μmとなる。
【0042】
上記では、複数の平板可動子50のそれぞれの中心が1つの軸に揃うセンタリング手段として、各平板可動子50のそれぞれに設けられる支持穴52と、これに対応する中心軸42を説明した。ここでは、各平板可動子50と中心軸42は、遊合隙間によって、軸方向に移動可能にセンタリングを行うことができる。センタリング手段としては、このような遊合隙間を用いるほかに、平板可動子50と中心軸42との間を、軸方向の剛性が低く、径方向の剛性が高いバネを用いて接続する構成を用いてもよい。このようなバネを用いることで、平板可動子50が中心軸42の軸方向周りに回転することを抑制することができる。このようなバネとしては、薄板に雲形のように蛇行する貫通隙間を形成した雲形バネを用いることができる。
【0043】
第1くぼみ56に設けられる貫通穴54は、複数の平板可動子50が中心軸42に整列配置されたときに、中心軸42の軸方向に沿って気体が流れることができる気体貫通流路としての機能を有する。その意味で、貫通穴54は、流体が通る窓部である。貫通穴54は、図3に示されるように、第1くぼみ56において、支持穴52を中心穴として、中心穴から同一半径上で、周方向に沿って均等な間隔で複数個設けられる。図3の例では、8個の貫通穴54が設けられている。貫通穴54の穴径は、適当な大きさであればよい。
【0044】
第1くぼみ56は、離散的に配置される貫通穴54を通って気体の流れを平均化する機能を有する空間である。
【0045】
第2くぼみ58と細溝60は、平板可動子50の表面に沿って径方向に気体が流れるときに、絞り効果を奏するように設けられる。すなわち、平板可動子50の平板面が、他の面と対向し、2つの面の間の隙間に気体が流れて、この第2くぼみ58及び細溝60を流れる気体が細溝60の終端等で平板面にあふれるときに、流路が狭くなって絞られ、いわゆる表面絞りとなる。この表面絞りの効果により、2つの面の間の流れが安定し、2つの面の間の間隔も安定する。勿論、場合によって、第2くぼみを設けないものとしてもよい。
【0046】
かかる平板可動子50としては、例えば、セラミックを成形したものを用いることができる。これにより、平板可動子50の隙間調整等における電磁的な影響を排除することができる。勿論、用途によっては、SUS等の金属円板を加工して得られるものを平板可動子として用いてもよい。
【0047】
上記では、表面絞りとして、径方向に延びて端部を有する有端浅溝部である細溝60を説明した。表面絞りは、隣接する平板可動子の間の隙間において、静圧気体軸受として働く絞り構造であればよい。表面絞りとして働く浅溝部としては、有端浅溝部以外にも、径方向に延びて段差を有する段付浅溝部、あるいは、径方向に延びて外径側に行くほど溝深さが浅くなるテーパ浅溝部を用いることができる。
【0048】
また、上記では、平板可動子の片側の表面にのみ表面絞りを形成することを述べたが、表裏の両面にそれぞれ表面絞りを設けた平板可動子を用いてもよい。また、表面絞りを有する平板可動子と、表面絞りを有さない平坦面の平板可動子を交互に軸方向に沿って配置して用いてもよい。
【0049】
複数の平板可動子50を流量調整室40に配置したときの流体の流れは次のようになる。すなわち、流体入力ポート12からの流体は、入口室36を通り、流量調整室40において調整部34の移動量によって規定される内部空間内で、複数の平板可動子50の窓部である貫通穴54から複数の浅溝部である細溝60に沿って、隣接する平板可動子50の間の隙間を流れ、外径側の端部で平板可動子50の平板面に溢れ出る。その際に、調整部34の移動量によって規定される隣接する平板可動子50の間の隙間間隔で流量が調整される。流量が調整された流体は、出口室38を通って、流体出力ポート14から出力される。
【0050】
流量調整室40に配置される複数の平板可動子50は、流体が流れ込むまでは、互いの表裏面を合わせた態様で、積層された状態である。流体が流体入力ポート12から供給されると、その流体は、窓部である貫通穴54から第1くぼみ56、第2くぼみ58、細溝60を通って流れ、そのときの流体圧で、各平板可動子50は、隣接する平板可動子50に対し、流体的に浮上し、隣接する平板可動子50の間に隙間を形成する。この隙間形成の原理は、流体理論によって定まる流体軸受の原理と同じである。
【0051】
隣接する平板可動子50の間の隙間の間隔は、複数の平板可動子50において形成される各隙間において、同じ間隔となる。例えば、平板可動子50がN枚あると、流量調整室40内に、細溝60を流れる流体によってN個の隙間が形成される。
【0052】
各平板可動子50が接触しているときの状態を基準とし、調整部34の移動量設定で定まる最先端側の平板可動子50と調整部34の底部壁までの距離をΔZとすると、ΔZは、N個の隙間量の合計量となる。すなわち、ΔZ=N×(隣接する平板可動子50の間の隙間量)である。このΔZを流れる流体の流量は、流体の圧力と、細溝60等を流れるときの流体抵抗等によって定まる。流体の圧力と、細溝60等を流れるときの流体抵抗等が流量によって変化しないとすれば、流量調整室40を流れる流体の流量は、ΔZで一意的に定まることになる。
【0053】
図5は、弁本体部30を流れる流体の流量Qと、調整部34の移動量Zとの間の流量特性図である。このように、移動量Zを変更することで、流量Qを調整することができる。この流量特性は、予め計算で、あるいは実験的に求めることができる。
【0054】
なお、特許文献1における構成も、ハンドル付調整ネジの回転量の設定によって、各円盤の間のスリット幅を変更するものである。特許文献1の円盤には、細溝等の表面絞りが設けられていない。したがって、そのままでは、流体が流れる前の状態において各円盤は相互に接触し、流体が供給されても、各円盤の間に流体が流れない。そこで、特許文献1では、弾性スペーサを用い、各円盤の間の初期隙間を確保し、ハンドル付調整ネジによって、弾性スペーサを圧縮しあるいは復元させて、この初期隙間を変更する。このように、特許文献1では、弾性スペーサの厚さを調整することで、円盤間の初期隙間を変更する。
【0055】
これに対し、図1から図4の構成では、細溝60等の表面絞りを用いるので、弾性スペーサを要せず、また、各平板可動子50の間の隙間量は、調整部34の移動量を設定すれば、流体の圧力によって流体軸受の原理によって自動的に定まる。流体軸受の原理による隙間と流量の関係は、理論で定まるもので、具体的には、実験によって精密に求めることができる。また、隣接する平板可動子50の間には、ゴム等のスペーサが設ける必要がないので、流量がほぼゼロのところから、流量調整が可能である。このように、図1から図4の構成は、表面絞りを用いた流体軸受の作用を用いることで、調整部34の移動量設定に対応して流量を精密に調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る流量調整弁は、気体等の流体の精密流量計として用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
10 流量調整弁、12 流体入力ポート、14 流体出力ポート、20 設定装置、22 設定操作盤、24 アクチュエータ部、26 増加スイッチ、27 減少スイッチ、28 表示盤、30 弁本体部、32 筐体部、34 調整部、36 入口室、38 出口室、40 流量調整室、42 中心軸、50 平板可動子、52 支持穴、54 貫通穴、56 第1くぼみ、58 第2くぼみ、60 細溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体入力ポートと、流体出力ポートとを有する筐体部と、
筐体部において、流体入力ポートを底部側に、流体出力ポートを側面側に配置されるように設けられる流量調整室と、
流量調整室の内壁に沿って底部側から、あるいは底部側に向かって、移動可能に案内され、流量調整室の内部空間の体積を縮小拡大する調整部と、
流量調整室の内部空間において、調整部の移動方向に垂直な方向に平板面を平行に揃えて配置される複数の平板状可動子であって、平板面の中央部に設けられ、流体入力ポートからの流体が流れることができる窓部と、窓部から径方向に延びる複数の浅溝部とを有する複数の平板可動子と、
を備え、
流体入力ポートからの流体は、流量調整室において調整部の移動量によって規定される内部空間内で、複数の平板可動子の窓部から複数の浅溝部に沿って隣接する平板可動子の間の隙間を流れ、外径側の端部で平板面に溢れ出て、流体出力ポートから出力されることを特徴とする流量調整弁。
【請求項2】
請求項1に記載の流量調整弁において、
浅溝部は、隣接する平板可動子の間の隙間において、静圧気体軸受として働く絞り構造であることを特徴とする流量調整弁。
【請求項3】
請求項2に記載の流量調整弁において
浅溝部は、径方向に延びて端部を有する有端浅溝部、または、径方向に延びて段差を有する段付浅溝部、または径方向に延びて外径側に行くほど溝深さが浅くなるテーパ浅溝部のいずれか1であることを特徴とする流量調整弁。
【請求項4】
請求項1に記載の流量調整弁において、
流量調整室の内部空間における平板可動子の径方向の移動と平板面に垂直な軸周りの回転とを規制する規制部を有することを特徴とする流量調整弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−72486(P2013−72486A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211821(P2011−211821)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(503094070)ピー・エス・シー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】