説明

浄化装置及び浄化装置の運転方法

【課題】洗浄等のメンテナンス作業を簡単に行うことができる。
【解決手段】飼育水中の固形分や溶解成分を除去する浄化資材を備えた飼育水の浄化装置であって、上部及び下部に通水口36、38が形成された浄化装置本体14と、浄化装置本体14内を上下方向に複数の空間に仕切る多孔板40、42及び44と、仕切られた複数の空間において、上側の多孔板40(又は多孔板42)との間に所定の隙間を設けて下側の多孔板42(又は多孔板44)上に載置された浄化資材と、浄化装置本体14の下部の通水口38から上部の通水口36へと向かう洗浄水の上向流を生じさせる水道水流通ライン18と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化装置及び浄化装置の運転方法に係り、特に、観賞魚や食用魚,或いは淡水や海水で生育する水棲動物の飼育水の浄化方法、浄化装置、及び浄化装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水棲動物を飼育水槽内の水(飼育水という)に含まれるアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素の除去資材としては、フィルタやスポンジ、多孔質セラミック等に硝化細菌(アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌)を自然付着させた付着型の浄化資材が使用されている。このような付着型の浄化資材は、例えば、フィルタやスポンジ、多孔質セラミック等を水槽内又は飼育水を循環する外部浄化装置内に投入し、飼育水と接触させることで形成する。
【0003】
一般的に、付着型の浄化資材は、資材上に硝化細菌を充分に付着させなければ、飼育水中のアンモニア性窒素や亜硝酸性窒素等を除去する浄化性能を有しない。このため、資材上に硝化細菌が充分に付着するまでの間、具体的には約2〜4週間程度の間、飼育水中のアンモニア性窒素濃度が上昇する。また、アンモニア性窒素を分解できるようになっても、初期は亜硝酸までしか酸化できないため、アンモニア性窒素よりも毒性の強い亜硝酸性窒素が飼育水中に蓄積し易くなる。また、資材に亜硝酸酸化細菌を付着させて、亜硝酸性窒素を毒性の比較的弱い硝酸性窒素に酸化するまでには、更に2〜4週間程度必要となる。すなわち、水槽内に資材を設置した後、2週間〜2ヶ月間は水棲動物にとって好ましくない水質状態となる。
【0004】
この対策として、例えば、特許文献1では、硝化細菌が生息する浄化槽中に炭化綿を浸漬して自然着床させて固定化したシート状の魚及び水棲動物用の浄化フィルタが提案されている。この浄化フィルタは、予め硝化細菌を着床させた状態で水槽内に設置するので、直ぐに浄化性能を発揮できるとされている。
【0005】
ところで、浄化装置では、上述したアンモニア性窒素や亜硝酸性窒素等の有害な溶解成分を除去する他、固形分としての生物の排泄物や残餌、枯れた水草等を物理的にこし取る必要がある。このような固形分の汚れは、溶解成分を除去する硝化細菌等を付着させた多孔質ろ材の前段に、ウールマットや粒状、リング状等のろ材等を配置してこし取っている。
【0006】
上記ろ材は固形分の汚れによって詰まり易いため、浄化装置内の流路閉塞が起こり、浄化能力の低下や浄化不能を引き起こすことが問題であった。このため、ウールマットにおいては定期的に交換したり、粒状やリング状ろ材においては定期的に取り出して洗浄したりする必要があり、メンテナンスが面倒であった。また、比較的細かい固形分は上記のろ材でも捕捉できずに通過し、硝化細菌等を付着させた多孔質ろ材を汚すことがあった。このため、多孔質ろ材も定期的に洗浄する必要があった。
【0007】
しかしながら、硝化細菌等が付着した多孔質ろ材を水道水で洗浄すると、水道水に含まれる塩素成分により硝化細菌等を死滅させたり、過度の洗浄により硝化細菌等を洗い流したりすることがあった。このため、洗浄後の多孔質ろ材を浄化装置内に設置しても、再度硝化細菌等の微生物が増殖するまでの間、アンモニア等の浄化性能が低下するという問題があった。このため、硝化細菌等を付着させた多孔質ろ材を洗浄する際は、飼育水や塩素中和済みの水道水等の、硝化細菌にとって無害な水を使用すると共に、硝化細菌等を洗い流し過ぎないよう慎重に洗浄しなければならなかった。
【0008】
また、浄化装置内では水棲動物にとって有害な病原菌類も蓄積されることがある。このため、上記の洗浄作業にてろ材の出し入れを繰り返すと、沈着又は沈降していた病原菌が浮上し、浄化装置の運転再開時に水槽内へ病原菌を流入させるおそれがあった。したがって、浄化装置の洗浄作業等のメンテナンスを行った後は、硝化細菌等が減少したり病原菌等が浮上したりすることで、水棲動物に悪影響を与えることが多かった。
【0009】
これに対して、浄化装置のメンテナンスを軽減するために、固形分の物理的除去と溶解成分の分解除去とを別の装置として設ける方法がある(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−117925号公報
【特許文献2】特開平5−138194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2の方法では、ろ材の増加や装置の追設により流路抵抗が増大するため、循環用ポンプへの負荷も増大し、運転コストがかかるという問題があった。
【0011】
また、別々に設置したろ過容器には硝化細菌等を付着させる必要がないため、容器を一旦取り外した後、水道水等を通常運転時とは逆に通水する(逆洗)こともできる。しかしながら、図11に示すように、従来のろ過容器2内には各種のろ材(ウールマット4、多孔質ろ材5、リング状ろ材6等)が圧密された状態で隙間なく詰められているため、ろ材間に挟まれた汚れを十分に除去することは困難であり、ろ材をろ過容器2から取り出して洗浄しなければならなかった。
【0012】
このように、浄化装置のメンテナンスは、飼育者にとって難しく、面倒かつ手間のかかる作業であった。また、洗浄作業後に水棲動物に発病又は死滅させることもあり、飼育そのものを難しく面倒と感じさせ、飼育愛好者が定着しない要因にもなっていた。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、洗浄等のメンテナンス作業を簡単に行うことができる浄化装置及び浄化装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、飼育水中の固形分や溶解成分を除去する浄化資材を備えた飼育水の浄化装置であって、上部及び下部に通水口が形成された浄化装置本体と、前記浄化装置本体内を上下方向に複数の空間に仕切る多孔板と、前記仕切られた複数の空間において、上側の多孔板との間に所定の隙間を設けて下側の多孔板上に載置された浄化資材と、前記浄化装置本体の下部の通水口から上部の通水口へと向かう洗浄水の上向流を生じさせる上向流発生手段と、を備えたことを特徴とする飼育水の浄化装置を提供する。
【0015】
請求項1によれば、浄化装置内を、上下方向に多孔板により複数の空間に仕切るとともに、該仕切られた各空間において、多孔板との間に所定の隙間を設けるように浄化資材を載置し、洗浄水の上向流を生じさせる上向流発生手段を備えるようにする。これにより、浄化資材を洗浄水の上向流で洗浄する際、浄化資材を各空間内で浮上及び流動させることができ、洗浄効率を飛躍的に向上できる。
【0016】
請求項2は請求項1において、前記上向流発生手段は、前記浄化装置本体の下部の通水口と連通し、前記洗浄水を供給する洗浄水供給流路と、前記浄化装置本体の上部の通水口と連通し、前記洗浄水を回収する洗浄水回収流路と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項2において、例えば、洗浄水供給流路には、上水道や水を溜めたタンク等が接続され、洗浄水回収流路には、排水機構(ドレイン)や回収タンク等に接続される。
【0018】
請求項3は請求項1又は2において、水棲動物を飼育する水槽と前記上部の通水口とを連通し、前記飼育水を前記浄化装置本体の上部から導入する飼育水導入流路と、前記水槽と前記下部の通水口とを連通し、前記浄化した飼育水を前記浄化装置本体の下部から前記水槽内へ戻す飼育水戻し流路と、を備え、前記洗浄水供給流路と前記飼育水戻し流路とを切替える第1の切替手段と、前記洗浄水回収流路と前記飼育水導入流路とを切替える第2の切替手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項3によれば、浄化装置の上部及び下部に形成された各通水口を、飼育水を通水する通常運転時と洗浄水を流す逆洗運転時とで兼用し、且つ両者の切り替えを第1、第2の切替手段により行うようにする。これにより、省スペースで且つ迅速に運転モードの切替えを行うことができる。
【0020】
請求項4は請求項1〜3の何れか1項において、前記浄化装置本体内において、前記隙間は、前記多孔板により区画された各空間の高さに対して5〜20%であることを特徴とする。
【0021】
請求項4によれば、上記範囲の隙間を設けることで、洗浄水の上向流を発生させたときに、浄化資材を各空間内で効果的に浮上及び流動させることができる。したがって、浄化資材に付着した固形分等の汚れを浮上させ、洗浄効率を向上させることができる。
【0022】
請求項5は請求項1〜4の何れか1項において、前記多孔板により形成された複数の空間に、前記各空間を通水方向に平行に仕切る仕切板が設けられたことを特徴とする。
【0023】
洗浄水の上向流により浄化資材を各空間内で浮上させると、堆積沈降する際に偏りが生じることがある。請求項5によれば、各空間において、通水方向に平行に仕切る仕切板により形成されるスペース内で、浄化資材を均一に浮上、沈降させる。これにより、通水方向断面に偏流が生じるのを抑制し、均一に洗浄水を流すことができる。
【0024】
請求項6は請求項1〜5の何れか1項において、前記浄化資材として、前記飼育水中の固形分をろ過する1種類以上のろ過資材と、前記いずれのろ過資材よりも下側に投入され、前記飼育水中の溶解成分を分解する微生物を固定した包括固定化担体と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
このように、塩素成分等が含まれる水道水等のように、微生物に対するダメージが比較的大きい洗浄水を使用したときでも、包括固定化担体の内部までは洗浄水は浸透し難い。このため、微生物に対するダメージを最小限に抑えることができる。
【0026】
本発明の請求項7は前記目的を達成するために、請求項1〜6の何れか1項に記載の飼育水の浄化装置の運転方法であって、前記浄化装置本体の上部から前記飼育水を導入し、浄化資材により浄化した飼育水を前記浄化装置本体の下部から排出すると共に、前記水槽内へ戻す第1のステップと、前記浄化装置本体の下部から洗浄水を導入し、前記浄化装置本体の上部から排出することにより、前記浄化装置本体内に上向流を生じさせて前記浄化資材を洗浄する第2のステップと、を備えたことを特徴とする浄化装置の運転方法を提供する。
【0027】
請求項8は請求項7において、前記浄化装置本体内において、前記隙間は、前記多孔板により区画された各空間の高さに対して5〜20%であることを特徴とする。
【0028】
請求項8によれば、上記の隙間からなるスペースが形成されることで、洗浄水の上向流を発生させたときに、浄化資材を各空間内で浮上させる(流動攪拌させる)。したがって、浄化資材に付着した固形分等の汚れを浮上させ、洗浄効率を向上させることができる。
【0029】
また、多孔板と浄化資材との間に形成される隙間は、各空間の高さに対して10〜15%であることがより好ましい。
【0030】
請求項9は請求項7又は8において、前記浄化装置本体の上部及び下部に形成された通水口には、飼育水が流通する飼育水循環流路と洗浄水が流通する洗浄水流通流路とが連通するとともに、前記第1、第2のステップは、前記洗浄水流通流路と前記飼育水循環流路とを流路切替手段により切替えることを特徴とする。
【0031】
請求項9によれば、流路切替手段の切替操作によって、簡単に飼育水の浄化運転と浄化資材の洗浄運転とを切り替えることができる。
【0032】
請求項10は請求項7〜9の何れか1項において、前記第1のステップにおいては、
前記飼育水中の固形分を1種類以上のろ過資材により分離除去した後、前記固形分以外の溶解成分を、固定化材料内に微生物を包括固定した包括固定化担体により分解することを特徴とする。
【0033】
請求項11は請求項7〜10の何れか1項において、前記洗浄水は、水道水であることを特徴とする。
【0034】
このように、塩素成分等が含まれる水道水のように、微生物に対するダメージが比較的大きい洗浄水を使用した場合でも、包括固定化担体の内部までは洗浄水が浸透しにくい。このため、微生物に対するダメージを最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、洗浄等のメンテナンス作業を簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付図面に従って、本発明に係る浄化装置及び浄化装置の運転方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0037】
図1は、本発明の浄化装置システム10の一態様を示す概念図である。本実施形態の浄化装置システム10は、筒状容器に各種浄化資材(ろ材等)を装填し、水槽から飼育水を取り込み、浄化後の飼育水をポンプ動力によって水槽へ戻す密閉式又は密閉外部式とよばれる浄化方法である。
【0038】
図1に示すように、本発明の浄化装置システム10は、主として、水槽12内の飼育水を浄化する浄化装置本体14と、水槽12と浄化装置本体14とを連通する飼育水循環ライン16と、浄化装置本体14に洗浄水を通水する水道水流通ライン18(上向流発生手段)と、を備えている。
【0039】
浄化装置本体14には、飼育水中に含まれる固形分や溶解成分等を除去するための各種浄化資材が収納されている。また、浄化装置本体14の上部及び下部に、飼育水又は水道水(洗浄水)を導入又は排出するための通水口(不図示)がそれぞれ形成されている。浄化装置本体14は、市販の二重構造の上部給排水式でもよいが、浄化資材(ろ材)を通過する水流が上から下へ流れるように構成されたものが好ましい。なお、浄化装置本体14の構成については、後で詳細に説明する。
【0040】
飼育水循環ライン16は、水槽12と浄化装置本体14の上部とを連通し、飼育水を浄化装置本体14内に導入する飼育水導入流路20と、浄化装置本体14の下部と水槽12とを連通し、浄化した飼育水を水槽12内へ戻す飼育水戻し流路22と、を備えている。
飼育水戻し流路22の末端には散水機構が設けられており、浄化した飼育水を水槽12内に散布される。
【0041】
水道水流通ライン18は、上水道と浄化装置本体14の下部とを連通し、水道水(洗浄水)を浄化装置本体14内に導入する水道水供給流路(洗浄水供給流路)24と、浄化装置本体14の上部とドレインとを連通し、浄化装置本体14内を通過した水道水を廃棄又は回収する水道水回収流路26(洗浄水回収流路)と、を備えている。
【0042】
飼育水導入流路20と水道水回収流路26とは、三方弁28(バルブ28a、28b及び28c)により切替え自在に構成され、飼育水戻し流路22と水道水供給流路24とは、三方弁30(バルブ30a、30b及び30c)により切替え自在に構成されている。
【0043】
これにより、例えば、バルブ28a、28b、30a、及び30bを開き、バルブ28b及び30cを閉じることで、飼育水循環ライン16を形成できる。また、バルブ28b、28c、30b及び30cを開き、バルブ28a及び30aを閉じることで、水道水流通ライン18を形成できる。このように、飼育水循環ライン16と水道水流通ライン18を三方弁28、30によって切り替えることができる。
【0044】
三方弁30よりも下流側の飼育水戻し流路22上には、飼育水を送液するためのポンプ32が設けられている。送液ポンプ26としては、飼育水を安定に送液できるものであれば、特に限定されず、例えば、マグネットポンプ等が使用できる。また、浄化装置本体14に直接設置された送液ポンプを用いることもできる。
【0045】
洗浄水としては、特に限定されないが、本実施形態の水道水の他、貯留した別の水槽の水や飼育水を使用することもできる。
【0046】
図2は、図1の浄化装置本体14を示す斜視図であり、図3は図2の断面模式図である。図4は、図2の浄化装置本体14内の構成部材を説明する分解斜視図である。
【0047】
図2に示すように、浄化装置本体14の上部と下部には、それぞれ飼育水又は洗浄水を通水する通水口36、38が形成され、浄化装置本体14の内部に、上側から下側に向かって、複数の空間に仕切る複数の多孔板40、42、44、及び46が設けられている。そして、上記複数の多孔板により区画された各空間には、上側から順に、固形分をろ過するリング状ろ材50、砂利等の粒状ろ材52(浄化資材)、及びアンモニア性窒素等の溶解成分を除去する硝化細菌等が固定化された包括固定化担体54(浄化資材)がそれぞれ収納されている。なお、上部の通水口36は、浄化装置本体14の上部中央に設けてもよく、特に限定されるものではない。
【0048】
本発明では、リング状ろ材50、粒状ろ材52、及び包括固定化担体54等の浄化資材を洗浄する際、水道水の上向流を生じさせ、各空間内で上記浄化資材を浮上させることが重要となる。このため、上記浄化資材と各空間を区画する多孔板との間に、浄化資材を浮上又は流動させるためのスペース(隙間)を設ける。
【0049】
具体的には、図3に示すように、上記浄化資材を浄化装置本体14の断面方向に均一に載置するとともに、浄化資材の上面と上側の多孔板40との隙間の高さhが、各空間の高さHに対して5〜20%程度、好ましくは10〜15%程度となるようにする。
【0050】
リング状ろ材50としては、比較的粗い固形分を除去するものであり、例えば、テトラEXリング(テトラジャパン株式会社)を使用できる。
【0051】
粒状ろ材52としては、リング状ろ材50で捕捉できなかった比較的細かい固形分を除去するものであり、例えば、粒径約2〜5mmの砂利等が好ましく使用できる。
【0052】
包括固定化担体54は、固定化材料に硝化細菌等の微生物を包括固定したものであり、例えば、3mm角状の立方体形状のものが使用できる。
【0053】
この包括固定化担体54は、活性汚泥等の微生物と固定化材料を混合した混合液に、過硫酸カリウム等の重合開始剤を添加し、重合させる。このとき、重合温度は15〜40℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。重合時間は1〜60分が好ましく、1.5〜60分がより好ましい。その後、重合させてゲル化した担体を、例えば、約3mm角の角型形状に切断することで、包括固定化担体54を得ることができる。
【0054】
微生物としては、活性汚泥に限定されるものではなく、純粋培養した微生物を使用してもよい。微生物の種類としては、例えばBOD成分酸化細菌、ダイオキシン分解菌、ビスフェノールA分解菌、アオコ分解菌、硝化細菌、脱窒細菌,嫌気性アンモニア酸化細菌等が挙げられる。本発明では、観賞魚等を飼育する飼育水槽内の水を浄化する観点から、例えば、アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌、有機物分解菌、脱窒細菌等が挙げられる。
【0055】
固定化材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール系、ポリビニルアルコール系のポリマ等が使用され、具体的には、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの含有比が7:3であり、末端基がジアクリレートである分子量1000〜10000のプレポリマを使用できる。このほか、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリレート等を使用することもできる。成形方法としては、特に限定されるものではなく、ブロック成形法、シート成形法、チューブ成形法、滴下造粒法等を採用することができる。
【0056】
粒状ろ材52や包括固定化担体54が、多孔板44、46の孔を通過するのを抑制するため、多孔板44、46上には粒状ろ材52、包括固定化担体54が通過しない孔径のメッシュ56、56をそれぞれ設けることが好ましい。
【0057】
多孔板40、42、44、及び46のデザインは、いずれも載置する浄化資材が孔を通過することなく、飼育水又は水道水を通水方向断面において均一に流通させることができれば、図4に示す形態に限定されない。また、多孔板40、42、44及び46は、底面が多孔板又は網状となったかご状容器であってもよい。
【0058】
また、各空間内には、上下方向に複数の仕切板58、60、62、及び整流板64が設けられている。これにより、浄化資材の洗浄運転時において、更に分割された空間内で浄化資材を均一に浮上及び流動させ、運転を停止したときに偏って堆積沈降するのを抑制する。なお、仕切板58、60、62のレイアウトや設置数は、図2〜図4の形態に限定されず、必要に応じて変えることができる。また、整流板64も必要に応じて設置すればよい。
【0059】
次に、上記のように構成された浄化装置システム10を用いて、本発明に係る浄化装置の運転方法を図5、図6を参照して説明する。図5は、各運転モードにおける通水方向を説明する説明図であり、図6は、浄化装置本体14内における作用を説明する説明図である。このうち、図6(A)は、飼育水の浄化運転時(通常運転)であり、図6(B)は、浄化資材の洗浄運転時(逆洗運転)である。なお、浄化装置本体14内において、多孔板40、42により区画される空間をろ過室Aとし、多孔板42、44により区画される空間をろ過室Bとし、多孔板44、46により区画される空間をろ過室Cとする。
【0060】
飼育水の浄化運転(通常運転)では、図5に示すように、バルブ28a、28b及びバルブ30a、30bを開き、バルブ28c及び30cを閉じておく。これにより、飼育水導入流路20及び飼育水戻し流路22からなる飼育水循環ライン16を形成する。
【0061】
次いで、送液ポンプ26を作動させ、水槽12内の飼育水を飼育水導入流路20を介して浄化装置本体14の上部から導入し、浄化した飼育水を浄化装置本体14の下部から排出すると共に、飼育水戻し流路22を介して水槽12内に戻す(斜線矢印)。
【0062】
このとき、浄化装置本体14内では、図6(A)に示すように、飼育水が上側から下側へ向かって流れる。この過程において、ろ過室Aではリング状ろ材50により比較的大きな固形分が除去され、次いで、ろ過室Bでは粒状ろ材52により比較的細かい固形分が除去される(同図において、固形分の汚れは黒く塗りつぶした粒状で示している。以下の図においても同様とする)。そして、ろ過室A、Bにおいて固形分が除去された飼育水は、ろ過室Cにおいて飼育水中のアンモニア性窒素等が包括固定化担体54内の硝化細菌らによって分解除去される。このようにして、固形分やアンモニア性窒素等の溶解成分が除去された飼育水は、浄化装置本体14の下部から排出されることとなる。
【0063】
このようにして飼育水を浄化運転を継続すると、浄化装置本体14内における固形分の捕捉量が増加すると共に流路抵抗も増加し、規定の浄化処理能力を発揮しなくなる。このとき、一旦、浄化運転を停止し、以下の浄化資材の洗浄運転(逆洗運転)に切り替える。
【0064】
すなわち、図5に示すように、バルブ28a、28c及びバルブ30a、30cを開き、バルブ28b及び30bを閉じておく。これにより、水道水供給流路24及び水道水回収流路26を備えた水道水流通ライン18を形成する。
【0065】
次いで、上水道から水道水供給流路24を介して、浄化装置本体14内の下部から水道水を供給し、浄化装置本体14の上部から水道水回収流路26を介してドレインへ廃棄する(白色矢印)。
【0066】
このとき、浄化装置本体14内では、図6(B)に示すように、水道水が下側から上側へ向かって流れる。これに伴い、ろ過室A〜Cにおいてリング状ろ材50、砂利等の粒状ろ材52、及び包括固定化担体54等の浄化資材が浮上する。この水道水の上向流と浄化資材の浮上によって、浄化資材に付着した汚れや浄化資材間に詰まっていた汚れも浮上し、最終的に多孔板40の孔を通過する。通過した汚れは、浄化装置本体14の上部の通水口36から水道水と共にドレインへ排出される。なお、洗浄性の観点から、水道水の流量は飼育水の浄化運転時(通常運転)よりも大きな流量であることが好ましく、通常運転における飼育水の流量の約5倍以上であることがより好ましい。
【0067】
このように、各ろ過室において隣り合う多孔板との間に所定の隙間を設けておくことで、浄化資材を浮上及び沈降させ、洗浄効率を飛躍的に向上させることができる。
【0068】
また、浄化資材の洗浄運転(逆洗運転)において、図7(A)のように一旦浮上した浄化資材は、図7(B)に示すように堆積沈降する際に、高さが不均一となり、これによりろ過流路抵抗に分布が生じ、偏流を起こすことがある。
【0069】
これを回避するため、本発明では図8に示すように、各空間を仕切板58、60、62によりそれぞれ仕切り、浄化資材の充填範囲を細かく分割する。これにより、図8(A)のように浄化資材が均一に浮上すると共に、図8(B)に示すように均一に堆積沈降する。このように、分割されたスペースで浄化資材を均一に浮上及び流動させるので、偏って堆積沈降するのを抑制し、偏流が生じるのを抑制できる。また、整流板64により、多孔板46に流入する水道水を整流することで、断面方向に偏流が生じるのを抑制できる。
【0070】
また、浄化資材の洗浄運転(逆洗運転)では、包括固定化担体54が水道水と直接さらされることとなるが、水道水は包括固定化担体54の内部までは浸透し難く、内部の硝化細菌等の微生物は水道水の塩素成分によるダメージを受け難い。また、包括固定化担体54は、微生物を高濃度に保持しているので、水道水に含まれる塩素成分により死滅しても、十分な菌量を保持できる。このため、包括固定化担体54の分解活性を劇的に低下させることもなく、通常運転(飼育水の浄化運転)を再開した後も、十分に浄化性能を発揮できる。
【0071】
このように、本実施形態によれば、浄化装置本体14内を洗浄する際、簡単な流路切替操作を行うだけでよく、浄化装置本体14を開けて浄化資材を取り出して洗浄する必要がない。このため、浄化資材を取り出す煩わしさや作業者の手を汚すこともなく、浄化装置のメンテナンス作業を簡単に行うことができる。
【0072】
また、微生物を保持した包括固定化担体を使用することにより、包括固定化担体が水道水に直接さらされても、メンテナンス作業の前後で浄化性能を劇的に低下させることなく、安定に維持することができる。
【0073】
なお、上記実施形態では、水道水供給流路24を上水道と直接接続して、洗浄水として水道水を使用する例を示したが、これに限定されず、洗浄水として飼育水を使用してもよい。図9は、本発明に係る浄化装置システム10の別態様について説明する概念図である。
【0074】
図9の浄化装置システム10’は、上水道と水道水供給流路24を取り除き、送液ポンプ26の代わりに正逆運転可能なポンプ26’を配置した以外は、図6と同様に構成される。
【0075】
これにより、洗浄運転モードでは、正逆運転可能なポンプ26’を通常運転時とは逆方向に作動させることで、水槽12内の飼育水を、水道水供給流路24’を通じて浄化装置本体14の下部へ供給することができる(白色矢印)。飼育水の浄化運転(通常運転)は、前述と同様であるため説明は省略する(斜線矢印)。
【0076】
このように、洗浄水として飼育水を使用することで、微生物を固定化した包括固定化担体へダメージを与えることなく浄化資材を洗浄することができる。正逆運転可能なポンプ26’としては、例えば、チューブポンプ、ギアポンプ(歯車ポンプ)、軸流ポンプ等が好ましく使用できる。
【0077】
図10は、浄化装置本体14の別態様について説明する説明図である。
【0078】
図10に示すように、浄化装置本体14上部の通水口36が狭められ、且つ該通水口36が形成された蓋部材68が回転手段70により浄化装置本体14に対して回転するように形成されることが好ましい。
【0079】
すなわち、浄化資材の洗浄運転(逆洗運転)では、最上段の多孔板40に集められた固形分等の汚れが上部の通水口36から吸引される。このため、通水口36を狭めることで水道水の排出流速及び吸引力を増加させ、且つ通水口36が形成された蓋部材68を浄化装置本体14に対して回転させることで、上記汚れを全体的に吸い出せるようにする。このような回転手段70としては、特に限定されないが、例えば、手動ハンドルと連通する歯車、低速回転する専用モータ、ポンプ駆動モータと減速歯車を介して連通する機構等が採用できる。
【0080】
以上、本発明に係る浄化装置及び浄化装置の運転方法の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0081】
たとえば、上記各実施形態では、飼育水中のアンモニア性窒素等の溶解成分を包括固定化担体によって除去する例を述べたが、これに限定されず、微生物を付着させた担体やろ材を用いてもよい。
【0082】
また、通常運転(飼育水の浄化運転)から逆洗運転(浄化資材の洗浄運転)への切り替えは、以下のように浄化装置本体14における流路閉塞状態をセンシングし、それに応じて自動的に行うようにしてもよい。センシング方法としては、例えば、飼育水戻し流路26から排出される浄化後の飼育水の流量を監視する方法、浄化装置本体14を透明な容器で構成して光の透過度等を測定する方法、又はタイマ機能を搭載する方法等が挙げられる。
【0083】
また、上記実施形態では、飼育水循環ライン16と水道水流通ライン18の流路の一部を共有し、三方弁28、30により流路を切替える構成としたが、これに限定されず、例えば、飼育水循環ライン16と水道水流通ライン18の流路をそれぞれ独立させた構成にすることもできる。
【0084】
また、上記実施形態では、浄化資材として微生物を含む担体と、固形分を除去するろ材とを同一容器(浄化装置本体14)内で併用する例を示したが、両者を別々の容器に収納し、直列に接続した場合でも、本発明の運転方法を適用できる。
【0085】
また、上記実施形態において、逆洗運転では水道水を下から上へと流したが、このとき水道水にエアを混ぜながら逆洗することもできる。これにより、更に洗浄効率を向上できる。エアを水中に混合する方法としては、例えば、ベンチュリの原理を用いる方法が適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の浄化装置システム10の一態様を示す概念図である。
【図2】図1の浄化装置本体を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図2の浄化装置本体内の構成部材を説明する分解斜視図である。
【図5】図1の各運転モードにおける通水方向を説明する説明図である。
【図6】図2の浄化装置本体内における作用を説明する説明図である。
【図7】図2の浄化装置本体内における作用を説明する説明図である。
【図8】図2の浄化装置本体内における作用を説明する説明図である。
【図9】本発明に係る浄化装置システムの別態様について説明する概念図である。
【図10】図2の浄化装置本体の別態様について説明する説明図である。
【図11】従来の浄化装置本体について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0087】
10、10’…浄化装置システム、12…水槽、14…浄化装置本体、16…飼育水循環ライン、18…水道水流通ライン、20…飼育水導入流路、22…飼育水戻し流路、24…水道水供給流路、26…水道水回収流路、28、30…三方弁、28a、28b、28c、30a、30b、30c…バルブ、40、42、44、46…多孔板、50…リング状ろ材、52…粒状ろ材、54…包括固定化担体、58、60、62…仕切板、64…整流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼育水中の固形分や溶解成分を除去する浄化資材を備えた飼育水の浄化装置であって、
上部及び下部に通水口が形成された浄化装置本体と、
前記浄化装置本体内を上下方向に複数の空間に仕切る多孔板と、
前記仕切られた複数の空間において、上側の多孔板との間に所定の隙間を設けて下側の多孔板上に載置された浄化資材と、
前記浄化装置本体の下部の通水口から上部の通水口へと向かう洗浄水の上向流を生じさせる上向流発生手段と、
を備えたことを特徴とする飼育水の浄化装置。
【請求項2】
前記上向流発生手段は、
前記浄化装置本体の下部の通水口と連通し、前記洗浄水を供給する洗浄水供給流路と、
前記浄化装置本体の上部の通水口と連通し、前記洗浄水を回収する洗浄水回収流路と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の飼育水の浄化装置。
【請求項3】
水棲動物を飼育する水槽と前記上部の通水口とを連通し、前記飼育水を前記浄化装置本体の上部から導入する飼育水導入流路と、
前記水槽と前記下部の通水口とを連通し、前記浄化した飼育水を前記浄化装置本体の下部から前記水槽内へ戻す飼育水戻し流路と、を備え、
前記洗浄水供給流路と前記飼育水戻し流路とを切替える第1の切替手段と、
前記洗浄水回収流路と前記飼育水導入流路とを切替える第2の切替手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の飼育水の浄化装置。
【請求項4】
前記浄化装置本体内において、
前記隙間は、前記多孔板により区画された各空間の高さに対して5〜20%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の飼育水の浄化装置。
【請求項5】
前記多孔板により形成された複数の空間に、前記各空間を上下方向に平行に仕切る仕切板が設けられたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の飼育水の浄化装置。
【請求項6】
前記浄化資材として、
前記飼育水中の固形分をろ過する1種類以上のろ過資材と、
前記いずれのろ過資材よりも下側に投入され、前記飼育水中の溶解成分を分解する微生物を固定した包括固定化担体と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の飼育水の浄化装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の飼育水の浄化装置の運転方法であって、
前記浄化装置本体の上部から前記飼育水を導入し、浄化資材により浄化した飼育水を前記浄化装置本体の下部から排出すると共に、前記水槽内へ戻す第1のステップと、
前記浄化装置本体の下部から洗浄水を導入し、前記浄化装置本体の上部から排出することにより、前記浄化装置本体内に上向流を生じさせて前記浄化資材を洗浄する第2のステップと、
を備えたことを特徴とする浄化装置の運転方法。
【請求項8】
前記浄化装置本体内において、
前記隙間は、前記多孔板により区画された各空間の高さに対して5〜20%であることを特徴とする請求項7に記載の浄化装置の運転方法。
【請求項9】
前記浄化装置本体の上部及び下部に形成された通水口には、飼育水が流通する飼育水循環流路と洗浄水が流通する洗浄水流通流路とが連通するとともに
前記第1、第2のステップは、前記洗浄水流通流路と前記飼育水循環流路とを流路切替手段により切替えることを特徴とする請求項7又は8に記載の浄化装置の運転方法。
【請求項10】
前記第1のステップにおいては、
前記飼育水中の固形分を1種類以上のろ過資材により分離除去した後、
前記固形分以外の溶解成分を、固定化材料内に微生物を包括固定した包括固定化担体により分解することを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の浄化装置の運転方法。
【請求項11】
前記洗浄水は、水道水であることを特徴とする請求項7〜10の何れか1項に記載の浄化装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−283873(P2008−283873A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129274(P2007−129274)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】