説明

浄水処理システム及びその制御方法

【課題】低濃度の放射性ヨウ素を含有する原水からヨウ素を除去し、ヨウ素濃度の暫定基準値を満たした水を供給する浄水処理システム及びその制御方法を提供する。
【解決手段】浄水処理システム100は、pH調整剤、塩素剤、活性炭、凝集剤などの各種薬品を用いて原水を浄水処理する。設定部13は、塩素剤注入後の原水中におけるヨウ素の特定の化学形態のものと、ヨウ素イオンとの目標比率を設定する。この設定は、原水中におけるヨウ素イオンよりも活性炭への吸着性が高いヨウ素の特定の化学形態のものとヨウ素イオンとの比率を用いて行われる。制御部11Aは、設定部13による目標比率の設定に基づいて、pH計10a及び残留塩素計10bの計測値が所定の範囲になるように、各種薬品の注入量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水を処理して上水道水を生産する浄水処理システムに関し、特に放射性ヨウ素を含む原水からヨウ素を除去する浄水処理システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、飲用に用いられる上水道水は、所定の水質基準を満たすように浄水場で浄水処理された上で各需要者へ給配水されている。上水道水の水質基準は、およそ50項目が定められており、これらの項目及び基準値は、逐次改定される。水質基準の項目には、上水道原水に混入する可能性が高い物質又は混入した実績がある物質、人への健康影響が懸念される物質、利水上の不適合を生じさせる物質などが選定されている。具体的には、例えば、急性毒性を持つヒ素、発がん性や慢性毒性を持つトリハロメタン、飲料水のおいしさに影響する臭気、外観上や着色が問題となる色度などが水質基準の項目となっている。
【0003】
浄水場では、これらの物質を除去する処理、例えば、凝集沈殿処理、ろ過(例えば、砂ろ過、膜ろ過)処理、消毒処理、及び、高度処理として活性炭処理、オゾン処理、生物処理、軟化処理(例えば、イオン交換)などが行われている。これらの処理で使用される薬剤や資機材についても、法令で技術基準が定められており、この基準を満たすものが用いられている。すなわち、従来の水質基準項目を浄水処理で除去するための技術は、すでに確立されており、良質な上水道水が需要家に供給されてきた。
【0004】
一方、昨今人体への健康影響が無視できないレベルであるものとして、あらたに上水道水の暫定基準値が設定された項目として、放射性物質が挙げられる。例えば、放射性ヨウ素の暫定基準は100Bq/L(ベクレル/リットル)、放射性セシウムの暫定基準は200Bq/Lである。放射性ヨウ素や放射性セシウムは、従来の上水道水の水質基準項目に含まれていないため、浄水場における除去方法は確立されていない。
【0005】
水溶液中のヨウ素を抽出する方法としては、例えば、特許文献1に記載されているように、アルカリ金属ヨウ化物を含有する水溶液を塩素で処理することによって、ヨウ素を析出させてヨウ素を溶液中から回収する方法が開示されている。また、例えば、非特許文献1には、水溶液に対して、活性炭、次亜塩素酸ナトリウム、凝集剤を、前記の順番で添加することによって、水中のヨウ素を数十%除去できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−35302号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】渡辺祟一他6名、「浄水処理におけるヨウ素の除去に関する調査結果」、水道協会雑誌、2011年6月、第80巻、第6号、P23〜30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、高濃度のヨウ素含有水溶液からヨウ素を回収して再利用することを目的としている。特許文献1の方法の処理対象とする水溶液中のヨウ素濃度は、上水道の原水中の放射性ヨウ素の濃度に比べて極めて高いものであるため、特許文献1に記載の技術を適用しても、原水中の放射性ヨウ素濃度を上水道水の暫定基準値を満たすほど低くすることができないという問題点がある。
また、特許文献1に記載の技術を水道水処理に適用する場合、水中の塩化物イオン濃度やpH値を従来の水質基準に調整するためには別の工程を追加する必要が生じるという問題点がある。
【0009】
また、非特許文献1に記載の方法では、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムの注入率が多量になると、酸化されたヨウ素が、除去することができないヨウ素酸イオンになってしまうという問題がある。非特許文献1に記載の方法における酸化剤の効果は、原水の水質、例えば、注入された酸化剤を消費するNH、有機物、濁質の濃度に依存しており、酸化剤や活性炭の注入率に一定の最適な値があるわけではない。
【0010】
現状では、浄水場において、過去の経験に基づいて雨天時に活性炭を注入したり、凝集剤の注入を強化したりして、前記の放射性物質の暫定基準値を満たすように処理が行われている。しかしながら、このような処理は、放射性物質の除去性能が十分評価されていない暫定的なものであるので、活性炭や凝集剤の注入が過剰に行われてしまう傾向がある。
【0011】
本発明はこうした事情を鑑みてなされたものであり、特に低濃度の放射性ヨウ素を含有する原水からヨウ素を除去する浄水処理システム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した課題を解決するため、本発明にかかる浄水処理システムは、原水中におけるヨウ素イオンよりも活性炭への吸着性が高い予め選択可能とされたヨウ素の特定の化学形態のものとヨウ素イオンとの入力された目標比率に基づき、pHの計測値及び酸化特性計測値の所定の範囲を設定して、pH計測手段によるpHの計測値及び酸化特性計測手段による酸化特性計測値が所定の範囲内になるように、pH調整手段による酸性剤又はアルカリ性剤の注入率を制御するとともに、塩素剤注入手段による塩素剤の注入率を制御することを特徴とする浄水処理システム。
【0013】
本発明によれば、原水中のヨウ素の化学形態に影響するpH値及び酸化特性値を指標として、pH調整手段により酸性剤又はアルカリ性剤の原水への注入率を制御するとともに、塩素剤の注入率を制御することによって、原水中のヨウ素を活性炭で吸着しやすい化学形態に調整することができる。これにより、原水中のヨウ素を活性炭で吸着しやすくなりヨウ素の除去率を向上させることができる。また、本発明によれば、原水中の予め選択されたヨウ素の特定の化学形態のものの比率に基づいて、各種薬品(酸性剤、アルカリ剤、粉末活性炭、凝集剤)の注入率を制御するので、薬品の過剰な注入を防止して効率的に薬品を使用することができる。
本発明は、浄水処理システムの制御方法を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低濃度の放射性ヨウ素を含有する原水からヨウ素を除去する浄水処理システム及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係わる浄水処理システムの構成概要図である。
【図2】制御部による薬品注入率の制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】所定のpH値と酸化還元電位に対してヨウ素が取る化学形態を示すグラフである。
【図4】第2の実施の形態にかかる浄水処理システムの構成概要図である。
【図5】制御部による薬品注入率の制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】第3の実施の形態にかかる浄水処理システムの構成概要図である。
【図7】活性炭式ガスホールドアップ装置の構成概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、本発明にかかる浄水処理システムの好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
《第1の実施の形態》
(浄水処理システム100の構成)
図1は、第1の実施の形態に係わる浄水処理システムの構成概要図である。
浄水処理システム100では、原水を処理して上水道水を製造する。浄水処理システム100は、着水井1、混和池2、フロック形成池3、沈殿池4、濁度計5、pH調整剤注入手段6、塩素剤注入手段7、活性炭注入手段8、凝集剤注入手段9、pH計(pH計測手段)10a、残留塩素計(酸化特性計測手段)10b、制御部(制御手段)11A、ろ過池12、設定部(目標比率設定手段)13を含んで構成される。このような浄水処理システム100の構成は、通常の水道水処理施設とほぼ同様である。
【0018】
着水井1は、河川などから取水された原水が貯水される。以下、浄水処理システム100の浄水処理対象となっている水を「原水」という。着水井1には、濁度計5、pH調整剤注入手段6、塩素剤注入手段7、活性炭注入手段8が設けられている。濁度計5は、着水井1に貯水された原水の濁度を計測し、計測値を制御部11Aに出力する。pH調整剤注入手段6は、着水井1の原水に対して酸性剤又はアルカリ性剤を注入する。酸性剤又はアルカリ性剤は、原水のpH値を調整するために注入される。例えば、酸性剤としては、炭酸ガスが用いられ、アルカリ性剤としては水酸化ナトリウムが用いられる。
【0019】
塩素剤注入手段7は、着水井1の原水に対して塩素剤を注入する。塩素剤注入手段7で注入する塩素剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)溶液を用いることができる。本実施の形態において、塩素剤注入手段7による塩素剤の注入は、原水中に含まれるヨウ素を除去しやすい、つまり、粉末活性炭に吸着されやすい、ヨウ素の特定の化学形態に変更するために行う。以下、「予め選択されて決定された活性炭に吸着されやすいヨウ素の特定の化学形態」を、単に「ヨウ素の特定の化学形態」と称する。
【0020】
通常の水道水製造処理では、着水井1における塩素剤の注入は、原水中に存在し、臭気の原因となるNHや着色の原因となるFeを酸化させるために行われる。通常の水道水製造処理においては、着水井1における塩素剤の注入率は、例えば、(1)一定、(2)ろ過池12の出口における残留塩素濃度がほぼゼロとなる原水の塩素消費量に応じた値とする、などの方法で制御される。
なお、塩素剤注入の他の目的として、原水の消毒が挙げられるが、需要者の給水栓まで消毒効果を維持させるための残留塩素の濃度調整は、通常、ろ過池12におけるろ過後、浄水池、配水池などで図示しない後塩素注入装置により所定の残留塩素濃度となるように実施される。
【0021】
活性炭注入手段8は、着水井1の原水に対して粉末活性炭(活性炭)を注入する。活性炭の注入は、原水中の臭気物質や有機物などを除去するために行われるが、本実施の形態では、特に、活性炭によって原水中のヨウ素を除去することを重要な目的として注入される。
【0022】
混和池2は、着水井1で酸性剤、アルカリ性剤、塩素剤、粉末活性炭などの各種薬品が注入された原水を撹拌して、前記各種薬品を原水と混和させる。混和池2には、凝集剤注入手段9が設けられている。凝集剤注入手段9は、混和池2の原水に対して凝集剤を注入する。凝集剤の注入は、原水中の濁質や活性炭注入手段8によって注入された粉末活性炭などを除去するために行われる。
【0023】
凝集剤による凝集性能は、主に濁度に対する適切な凝集剤注入率に依存するが、他の要因として、凝集反応に適切なpH値範囲が存在することが知られている。このため、着水井1において、原水に酸性剤やアルカリ性剤を注入してpH値を調整することによって、凝集剤の凝集性能を向上させることができる。また、凝集剤が濁質と結合できる形態になる過程で、原水中のアルカリ度を低下させる。このことから、着水井1において、原水にアルカリ性剤を注入することによって、凝集剤の凝集性能を向上させることができる。
【0024】
フロック形成池3は、原水中の濁質や土砂、浮遊物などを結合させ、沈殿しやすい大きさの粒子(フロック)を形成させる。フロック形成池3には、pH計10a及び残留塩素計10bが設けられている。pH計10a及び残留塩素計10bは、フロック形成池3の原水のpH値及び塩素濃度をそれぞれ計測し、計測値を制御部11Aに出力する。
【0025】
沈殿池4は、フロック形成池3で形成されたフロックを沈降分離する。ろ過池12は、砂や砂利などで形成されたろ過層を有し、沈殿池4でフロックが分離された上澄み水をろ過層でろ過して、沈殿池4で除去しきれなかった細かなフロックなどを除去する。ろ過池12を通過した原水は、図示しない後塩素注入装置で残留塩素濃度の調整をした後に、図示しない送水管、各所に設けられた排水池などの配水設備を介して各需要者に配水される。
【0026】
制御部11Aは、濁度計5、pH調整剤注入手段6、塩素剤注入手段7、活性炭注入手段8、凝集剤注入手段9、pH計10a、残留塩素計10bと、それぞれ通信回線で接続されている。制御部11Aは、pH調整剤注入手段6、塩素剤注入手段7、活性炭注入手段8、凝集剤注入手段9に対して、それぞれの手段が注入する薬品の注入及びその注入率を指示する制御信号を送信する。また、制御部11Aには、pH調整剤注入手段6、塩素剤注入手段7、活性炭注入手段8、凝集剤注入手段9から各薬品の注入率を示す信号が入力される。更に、制御部11Aには、濁度計5から出力される原水の濁度、pH計10a及び残留塩素計10bから出力される原水のpH値及び塩素濃度値が入力される。
【0027】
設定部13は、制御部11A及び塩素剤注入手段7によって塩素剤が注入された後の原水、より詳細には、フロック形成池3におけるヨウ素の特定の化学形態のものの目標比率を設定する。詳細は後述するが、設定部13は、原水中におけるヨウ素イオン(I)よりも活性炭への吸着性が高いヨウ素の特定の化学形態のもの、例えば、ヨウ素分子(I)又は次亜ヨウ素酸(HIO))と、ヨウ素イオン(I)との目標比率(I/(I)又は(HIO/(I)を設定する。設定部13は、キーボードと表示装置を有した装置であり、例えば、運転員からヨウ素の特定の化学形態のものの比率の入力を受けることによって設定をおこなっても良いし、上水道水に対するヨウ素含有量の暫定基準値から予め選択された特定の化学形態のものの比率を算出しても良い。
【0028】
(ヨウ素除去処理の概要)
次に、浄水処理システム100によるヨウ素除去処理の概要について説明する。水中でヨウ素が取りうる形態としては、ヨウ素イオン(I)、ヨードメタン(CHI)、ヨウ素酸イオン(IO)、ヨウ素分子(I)、次亜ヨウ素酸(HIO)が挙げられる。また、ヨウ素イオン(I)やヨウ素分子(I)が単独で水中に存在する場合と、他の粒子に吸着されて存在する場合が考えられる。
【0029】
このうち、ヨウ素酸イオン(IO)、ヨウ素分子(I)、次亜ヨウ素酸(HIO)は、ヨウ素が酸化雰囲気中に存在する場合に現れる化学形態である。上水道水の原水は、不純物の含有率が比較的少ないものが多く、ヨウ素が、ヨウ素酸イオン(IO)、ヨウ素分子(I)、次亜ヨウ素酸(HIO)の形態で安定して存在する可能性は低い。すなわち、上水道水の原水に含まれるヨウ素は、ヨウ素イオン(I)又はヨードメタン(CHI)の形態で存在している可能性が高い。ただし、原水中のヨウ素がどのような形態を取るかは、大気中や土壌中から水中に移行する際のヨウ素の形態や、水中での溶解状態や、他物質との反応などが影響するため、原水中のヨウ素のそれぞれの化学形態の割合を特定することは困難である。
【0030】
原水中でヨウ素が取りうる化学形態に対して、その除去性についてそれぞれ検討すると、まず、ヨウ素イオン(I)はイオンであるため、凝集沈殿や活性炭では除去するのが困難である。ただし、陰イオン交換性をもつ粒子が共存する場合、ヨウ素イオン(I)が粒子に吸着された後に凝集沈殿で除去することができる。特に、陰イオン交換樹脂では除去性能が高い。次に、ヨードメタン(CHI)は極性が小さい分子状であるため、活性炭に吸着されやすく活性炭処理が有効である。同様に、ヨウ素分子(I)や次亜ヨウ素酸(HIO)も、水質基準のpH値の範囲内であれば極性が小さいため、活性炭処理が有効である。ヨウ素酸イオン(IO)はアニオンであるため、ヨウ素イオン(I)と同様の除去性が見込まれる。また、粒子に吸着したヨウ素は、凝集沈殿によって粒子とともに除去することが可能である。
【0031】
浄水処理システム100では、これらの形態のうち、原水中の存在割合が高いと予想され、かつ、通常の浄水処理、つまり、凝集沈殿処理や活性炭処理による除去性能が低いヨウ素イオン(I)の除去性能を向上させることによって、原水中のヨウ素除去率の向上を図る。具体的には、pH値と塩素剤濃度のバランスによる酸化還元反応によって、ヨウ素イオン(I)を活性炭に吸着されやすい化学形態に変更することで、原水中のヨウ素を除去しやすくする。
【0032】
(ヨウ素イオンの除去メカニズム)
次に、原水中のヨウ素イオン(I)の除去メカニズムについて説明する。塩素剤は酸化剤であるので、例えば、ヨウ素イオン(I)に次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)や次亜塩素酸(HClO)を注入することによって、ヨウ素分子(I)、次亜ヨウ素酸(HIO)、又はヨウ素酸イオン(IO)に酸化することができる。本実施の形態では、ヨウ素イオン(I)を、活性炭に吸着しやすい形態であるヨウ素分子(I)又は次亜ヨウ素酸(HIO)にすることを目標とする。そのためには、塩素剤の注入率を適切に制御する必要がある。これは、塩素剤を過剰に注入した場合、除去性が低いヨウ素酸イオン(IO)が生成されるためである。
【0033】
次亜塩素酸イオン(ClO)は、次式(1)の反応で酸化剤として作用する。
一方、ヨウ素イオン(I)は、酸化剤によって、次式(2)又は式(3)の反応でそれぞれヨウ素分子(I)又は次亜ヨウ素酸(HIO)となる。また、ヨウ素分子(I)は、次式(4)によって、更にヨウ素酸イオン(IO)になる。運転者は、放射性ヨウ素の暫定基準を満足するための、ヨウ素分子(I)とヨウ素イオン(I)の目標比率、又は次亜ヨウ素酸(HIO)とヨウ素イオン(I)の目標比率を設定部13に設定入力する。制御部11Aは、この目標比率を達成するため、反応に関わるpH値と残留塩素濃度、すなわち、次亜塩素酸イオン濃度を、次式(1)〜(4)を用いて決定する。
【0034】
ClO+HO = Cl+2OH+2e ・・・・・・・・・・・・(1)
2I = I+2e ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
+HO = HIO+H++2e ・・・・・・・・・・・・・・・(3)
+6HO = 2IO+12H+10e ・・・・・・・・・・(4)
【0035】
式(1)〜(4)における酸化還元電位とpH値との関係式を、次式(5)〜(8)に示す。式(5)〜(8)は、水温が25℃における関係式であり、それぞれの式において左辺Eの添え字となっている数字が、それぞれ対応する反応式の番号(式(1)〜(4))である。E01〜E04の単位は標準水素電極に対する電位V(vs.NHE、NHE:Normal Hydrogen Electrode)であり、イオンや分子の濃度の単位はmol/L(モル/リットル)である。
【0036】
01 = 1.715−0.0591・pH+0.0295・log((ClO)/(Cl)) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
02 = 0.621+0.0295・log((I)/(I) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
03 = 0.987−0.0295・pH+0.0295・log((HIO)/(I)) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
04 = 1.178−0.0709・pH+0.0059・log((IO/(I)) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ここでpHは、pH計10a計測されたpH値を意味する。
【0037】
「ヨウ素の特定の化学形態」のものとしてヨウ素分子(I)を取り扱う場合、式(1)−式(2)から得られる反応式を考慮する。このとき、平衡が成り立つので電位E01とE02が等しい、すなわち式(5)−式(6)=0となる。残留塩素計10bが設置されているフロック形成池3におけるヨウ素イオン(I)とヨウ素分子(I)の目標比率を設定し、又、原水中のヨウ素のモル濃度が注入される次亜塩素酸(HClO)のモル濃度に比べて非常に少ないと仮定すると、あるpH値に対して(残留塩素濃度)/(次亜塩素酸注入率)=一定の関係式を導くことができる。これらの関係を用いて、制御部11Aは、図2に示すフローチャートに従って、塩素剤注入手段7による塩素剤注入率、活性炭注入手段8による活性炭注入率、凝集剤注入手段9による凝集剤の注入率を制御する。
【0038】
図2は、制御部による薬品注入率の制御処理の手順を示すフローチャートである。
図2のフローチャートにおいて、制御部11Aは、まず、濁度計5、pH計10a、残留塩素計10bからそれぞれ出力される計測値、及び現時点における塩素剤注入手段7による塩素剤、ここでは次亜塩素酸(HClO)の注入率を取得する(ステップS201)。次に、制御部11Aは、設定部13に設定入力された、例えば、ヨウ素分子(I)とヨウ素イオン(I)の比率(I/(I)の目標値(目標比率)Uを取得する(ステップS202)。
【0039】
つづいて、制御部11Aは、ステップS201で取得したpH値、ステップS202で取得した目標値U、式(5)及び式(6)を用いて、目標値Uに応じた残留塩素濃度と次亜塩素酸注入率の比((残留塩素濃度)/(次亜塩素酸注入率))の目標値Sを算出する(ステップS203)。また、制御部11Aは、ステップS201で取得した残留塩素濃度及び現状の塩素剤の注入率を用いて、現状の計測値に基づく残留塩素濃度と次亜塩素酸注入率との比Tを算出する(ステップS204)。以下、前記計測値に基づく残留塩素濃度と次亜塩素酸注入率との比Tを「計測値T」と称する。
【0040】
制御部11Aは、ステップS204算出した計測値Tと目標値Sとの差分の絶対値を求め、この絶対値が予め設定された範囲(ε)であるかどうかを判断する(ステップS205)。絶対値が予め設定された範囲、つまりε以下である場合(ステップS205:Yes)は、ステップS207の処理に進む。一方、絶対値が予め設定された範囲でない(εより大きい)場合(ステップS205:No)、制御部11Aは、塩素剤注入率をa×(計測値T−目標値S)に設定する(ステップS206)。ここで、aは、例えば、実験的に予め求められた定数である。
【0041】
つづいて、制御部11Aは、ヨウ素分子とヨウ素イオンの比率(I/(I)の目標値Uを用いて、活性炭注入率a×(U)を算出する(ステップS207)。ここで、a及びmは、それぞれ定数であり、例えば、実験的に予め求められたものである。また、制御部11Aは、ステップS201で取得した原水の濁度とステップS207で算出した活性炭注入率を用いて、凝集剤注入率a×(原水濁度)+a×(活性炭注入率)+bを算出する(ステップS208)。ここで、a,a,n,bは定数であり、例えば、実験的に予め求められたものである。そして、制御部11Aは、前記のステップS206,S207,S208で算出した塩素剤注入率、活性炭注入率、凝集剤注入率となるよう、塩素剤注入手段7、活性炭注入手段8、凝集剤注入手段9に対して制御信号を出力して(ステップS209)、本フローチャートによる処理を終了し、ステップS201に戻り所定の一定の周期で制御する。
【0042】
なお、図2に示したフローチャートでは、塩素剤の注入率の算出方法として、計測値Tと目標値Sの差分による比例制御を適用したが、これに限定されるものでなく、例えば、フィードバック制御であるPI制御やPID制御を用いても良い。また、活性炭の注入率をI/(Iの比率を用いて算出する比例制御を適用したが、活性炭の注入率を所定の一定値としても良い。
【0043】
また、図2に示したフローチャートでは、残留塩素濃度の目標値算出に式(5)及び式(6)を用いたが、これ以外に、他の形態のヨウ素への反応式、水温を考慮して、より高精度に目標値を設定することもできる。更に、図2に示したフローチャートでは、pHの実測値を用いて残留塩素濃度の目標値を算出したが、pH値の範囲を予め設定し、まず、このpH値範囲となるようにpH調整剤注入手段6によって酸性剤又はアルカリ性剤を注入して、得られたpHの実測値(pH計10aの値)を用いて残留塩素濃度の目標値を求めるようにしても良い。
【0044】
ここまでの説明では、着水井1に注入された塩素剤による酸化後の「ヨウ素の特定の化学形態」のものをヨウ素分子(I)としたが、酸化後の「ヨウ素の特定の化学形態」のものを次亜ヨウ素酸(HIO)としても良い。この場合、前記した式(5)−式(7)=0となる。残留塩素計10bの位置におけるヨウ素イオン(I)と次亜ヨウ素酸(HIO)の比率の目標値を設定すると、pH計10aの値に対して、(残留塩素濃度)/(次亜塩素酸注入率)=一定の関係式を導くことができる。この関係式に合致するように塩素剤注入手段7の注入率を制御部11により制御する。
【0045】
また、このように原水中のヨウ素除去性能を向上させた運転(「ヨウ素除去モード」という)を常時行うのではなく、従来の水質基準項目のみを考慮した通常の浄水処理(以下、「通常モード」という)と、ヨウ素除去モードとを切り替えて行うようにしても良い。この場合、ヨウ素除去モードと通常モードとの切り替えは、例えば、原水中のヨウ素濃度の計測値や予測値に基づいて手動又は自動で行う。このような構成とすれば、原水中のヨウ素濃度が基準値以上となることが予測される場合のみヨウ素除去モードでの運転を行うことができ、酸性剤、アルカリ性剤、塩素剤、粉末活性炭などの薬品の使用量を低減させることができる。
【0046】
(効果)
以上説明したように、第1の実施の形態にかかる浄水処理システム100によれば、比較的低濃度の放射性ヨウ素含有原水からヨウ素を除去し、放射性ヨウ素濃度の暫定基準値を満たした水を供給することができる。
また、浄水処理システム100によれば、酸化剤である塩素剤の注入率を制御することによって、原水中のヨウ素の化学形態を活性炭に吸着しやすい化学形態に変更することができ、原水からの放射性ヨウ素の除去率を向上させることができる。
また、浄水処理システム100は、浄水処理中に注入する前記薬品の量を、着目する「ヨウ素の特定の化学形態」のものの比率に基づいて適切に制御するので、薬品の過剰投入を防止することができ、ヨウ素除去にかかるコストを低減させることができる。
また、浄水処理システム100は、従来の水道処理施設とほぼ同様であるので、あらたな設備を追加することなく水道処理施設のヨウ素除去性能を向上させることができる。
【0047】
《第1の実施形態の変形例》
次に第1の実施形態の変形例について説明する。
図1に示した浄水処理100では、酸化特性計測手段として残留塩素計10bを用いたが、酸化特性計測手段としてORP(Oxidation−reduction Potential:酸化還元電位)計を用いることも可能である。この場合、制御部11Aは、pH計10aによる計測値とORP計による計測値とを用いて塩素剤注入手段7を制御する。
【0048】
図3は、所定のpH値と酸化還元電位に対してヨウ素が取る化学形態を示すグラフであり、図3(a)では、ヨウ素の取りえる化学形態をヨウ素イオン(I)、ヨウ素分子(I)、ヨウ素酸イオン(IO)とし、図3(b)では、ヨウ素イオン(I)、次亜ヨウ素酸(HIO)、次亜ヨウ素酸イオン(IO−)とした。図3において、横軸はpH値、縦軸は酸化還元電位V(vs.NHE)である。図3のグラフは、いずれも25℃におけるヨウ素の状態を示している。図3は、前記した式(2)〜(4)を用いて作図したものであり、水(HO)−ヨウ素(I)の純粋な系における状態を示すものである。
【0049】
図3のグラフ内の境界線では、両側の成分のモル比が1:1となる場合を示している。実際の原水には、これら以外の元素が含まれている点、水温が変化する点、及び、平衡状態に達していない可能性がある点で、原水の状態は厳密には図3の関係とは異なるが、本実施例では図3のグラフに示した関係を用いて塩素剤注入手段7の制御を行う。
【0050】
残留塩素計10bを用いる例では、塩素剤の注入率と残留塩素濃度との比から酸化還元電位を求めたが、ORP計を用いる例では、より直接的に酸化還元電位を計測できる点が特徴である。着目する「ヨウ素の特定の化学形態」ものをヨウ素分子(I)として取り扱う場合、前記した式(2)を考慮する。すなわち、制御部11Aは、前記した式(6)の関係から、ヨウ素分子(I)とヨウ素イオン(I)の比の目標値Uを達成できるpH値と酸化還元電位の組み合わせを求める。制御部11Aは、pH値と酸化還元電位の上下限値は予め設定し、この条件を満たす範囲で、pH調整剤注入手段6及び塩素剤注入手段7による薬品注入率を制御する。
【0051】
しかし、pH値と酸化還元電位の組み合わせは複数あるため、更に制約条件を設ける必要がある。制約条件としては、例えば、(1)pH値を固定する、(2)酸化還元電位を固定する、(3)酸性剤、アルカリ性剤、塩素剤の必要量から薬剤費用を算出し、費用が最小となる組み合わせを用いる、(4)酸性剤、アルカリ性剤、塩素剤のいずれかの注入率を一定とする、などの制約条件の1つを設定部13から制御部11Aに入力して設定することができる。
【0052】
望ましいpH値と酸化還元電位の範囲としては、前記した式(6)〜式(8)を用いて全ヨウ素成分中におけるヨウ素分子(I)の割合が所定の値以上となる範囲を探索することができる。全ヨウ素成分中においてヨウ素分子(I)が50%以上となる領域の例としては、pH値が5.8〜7.0、酸化還元電位が0.63〜0.68V(vs.NHE)とすることが求められる。pH値が高いとき、ヨウ素分子(I)の割合を高くできる酸化還元電位の領域が狭くなるため、pH値の上限を中性の7.0とした。このとき酸化還元電位が0.63〜0.68V(vs.NHE)であれば、全ヨウ素成分中においてヨウ素分子(I)が50%以上となる。この酸化還元電位範囲でpH値を低下させた場合、pH=5.8まではヨウ素分子(I)の割合を50%以上に維持することができる。pH=5.8は上水道の水質基準(pH=5.8〜8.6)も満たしており、制御目標の範囲として好適である。従って、制御部11Aはこのような好適なpH値と酸化還元電位の範囲を設定して、pH調整剤注入手段6、塩素剤注入手段7を制御する。
【0053】
制御部11Aは、更に、活性炭注入手段8及び凝集剤注入手段9を制御するが、この制御方法は残留塩素計10bを用いる場合と同様にすることができる。
このように、酸化特性計測手段としてORP計を用いることによって、原水中の酸化還元反応の特性を直接計測して塩素剤を制御することができるので、前記した着目する「ヨウ素の特定の化学形態」のもの、例えば、ヨウ素イオン(I)からヨウ素分子(I)への変更をより正確に行うことができる。
【0054】
(第2の実施の形態)
図4は、第2の実施の形態にかかる浄水処理システムの構成概要図である。
第2の実施の形態にかかる浄水処理システム400では、酸化特性計測手段としてORP計(酸化特性計測手段)10cを用いるとともに、図1に示した浄水処理システム100の構成に加えて、情報LAN31、Webサーバ32、ネットワーク33、降雨データ提供サーバ34、切換弁35、放射能計測手段10dを有する構成としている。本実施の形態において、情報LAN31、Webサーバ32、ネットワーク33、降雨データ提供サーバ34及び制御部11Bは、降雨情報取得手段として機能する。
なお、図4において、第1の実施の形態にかかる浄水処理システム100(図1参照)と同様の構成部分には、図1と同じ符号を付して重複する詳細な説明を省略する。
本実施形態における制御部11Bは、第1の実施形態における制御部11Aと異なる点は、放射能計測手段10dからの放射性ヨウ素の放射能測定結果の入力を受ける点と、LAN31と接続している点と、活性炭注入手段8を介して粉末活性炭の注入場所を原水の着水井1の入口段階と着水井1のいずれかに切り換えることができる点である。
【0055】
浄水処理システム400では、降雨情報や原水中の放射能計測値を用いて、原水中のヨウ素除去処理を行う。図4において、Webサーバ32は、情報LAN31を介して制御部11Bと接続されている。Webサーバ32は、ネットワーク33を介して降雨データ提供サーバ34と通信し、降雨に関する情報を定期的に取得する。降雨データとしては、固定された観測点における観測値や、これらのデータを用いて地図上のメッシュごとの降雨量を計算によって求めた値でも良い。降雨データは、観測日時、観測点、及び、降雨量観測値を一組のデータセットとして取り扱われる。
【0056】
切換弁35は、粉末活性炭の注入点を、塩素剤の注入場所より後段、又は、他のいずれの薬品よりも前段に切り替える弁である。このように活性炭の注入点を切り換えるのは、通常モード時と放射性ヨウ素除去モード時とでは、活性炭の使用目的が異なるためである。具体的には、放射性ヨウ素除去モード時には、原水中のヨウ素の形態の調整が必要となるため、塩素剤を注入してヨウ素の形態を変化させた後に活性炭を注入するようにする。これにより、活性炭による塩素剤の吸着・分解を抑制し、より効果的にヨウ素の酸化に塩素剤を使用することができる。一方、通常モード時には、原水中のヨウ素の形態の調整が必要なく、臭気物質や有機物の吸着を目的に活性炭を用いる。この場合は、臭気物質や有機物と活性炭との接触時間がより重要となるため、他のいずれの薬品よりも前段で活性炭を注入するようにする。
【0057】
また、浄水処理システム400において、着水井1の前段には放射能計測手段10dが設けられている。放射能計測手段10dは、浄水処理システム400によって処理される原水中の放射性ヨウ素の濃度を検出する。放射能計測手段10dは、放射性ヨウ素や放射性セシウムなどの検出が可能な種類であれば良く、Ge検出器、NaIシンチレーションカウンタなどを使用することができる。
【0058】
図5は、制御部による薬品注入率の制御処理の手順を示すフローチャートである。
まず、制御部11Bは、Webサーバ32から降雨情報を取得し(ステップS501)、降雨情報に含まれる観測日時、観測点、降雨量観測値を用いて、原水に混入する放射性ヨウ素濃度と、当該放射性ヨウ素の含んだ雨水が着水井1に到達する日時を予測する(ステップS502)。次に、制御部11Bは、放射能計測手段10dによって計測された原水中の計測値を取得する(ステップS503)。
【0059】
制御部11Bは、この放射能計測値と、ステップS502で予測された最も近い日時における放射性ヨウ素濃度の予測値とを用いて、ヨウ素濃度の補正係数を算出する(ステップS504)。補正係数は、例えば、計測値/予測値とすることができる。原水中の放射能の計測値をリアルタイムに塩素剤注入手段の制御に用いることも考えられるが、原水中の放射能レベルが非常に低く、計測に時間を要する場合には対応が遅れる可能性があるため、本実施の形態では予測値を用いている。
【0060】
つづいて、制御部11Bは、ステップS504で求めた補正値を用いて、ステップS502で求めた放射性ヨウ素濃度の予想値を補正する(ステップS505)。そして、制御部11Bは、設定部13に設定された目標比率と放射性ヨウ素の予測値とから、着目する「ヨウ素の特定の化学形態」のものに変更するべき目標ヨウ素の比率を算出する(ステップS506)。このとき、原水中に含まれるヨウ素の化学形態の割合は、運転者が設定しても良いが、安全側に評価するために全量がヨウ素イオン(I)であるとしても良い。また、制御部11Bは、目標とするpH値を取得する(ステップS507)。これは、前記した第1の実施形態に記載した所定の範囲のpH値である。
【0061】
制御部11Bは、ステップS506で算出した変更するべき目標ヨウ素の比率と、ステップS507で取得したpH値のそれぞれの目標値を入力とし、前記した式(6)を用いて目標とする酸化還元電位を算出する(ステップS508)。一方、制御部11Bは、pH計10a及びORP計10cからpHの実測値と酸化還元電位の実測値を取得する(ステップS509)。制御部11Bは、ステップS507,S508で算出したpH及び酸化還元電位の目標値と、ステップS509で取得したpH及び酸化還元電位の計測値の差分の絶対値を求め、この絶対値が予め設定された範囲(ε、図5では、「εpH」、「εORP」と表示)であるかどうかを判断する(ステップS510)。絶対値がε以下である場合は(ステップS510:Yes)、そのまま本フローチャートによる処理を終了する。
【0062】
一方、差分の絶対値がεより大きい場合(ステップS510:No)、制御部11Bは、pH調整のための酸性剤又はアルカリ性剤、塩素剤、活性炭、凝集剤などの各薬品の注入率を算出し(ステップS511)、算出した注入率による注入を行うよう各薬品の注入手段を制御する制御信号を出力して(ステップS512)、本フローチャートによる処理を終了する。
なお、ステップS511における注入率の算出は、第1の実施の形態と同様に行うことができる(図2のステップS206〜S208参照)。
【0063】
なお、ステップS506において、ヨウ素の化学形態を着目する「ヨウ素の特定の化学形態」のものに変更するヨウ素の比率が所定値以下(例えばゼロ)である場合は、切換弁35によって活性炭の注入点を他の薬品よりも前段とし、着目する「ヨウ素の特定の化学形態」のものに変更するヨウ素の比率が所定値より多い場合は、切換弁35によって塩素剤よりも後段で活性炭を注入するように切り替える。
【0064】
更に、本実施形態においては、放射能計測手段10dによって原水中の放射性ヨウ素の濃度を制御部11Bにおいて容易に算出することができ、ステップS505で放射性ヨウ素濃度の予想値を補正して、補正された放射性ヨウ素濃度を得ることができる。従って、制御部11Bは、ステップS511において活性炭の注入量を演算する際に、ステップS506において算出された着目する「ヨウ素の特定の化学形態」のものに変更するべき目標ヨウ素の比率と、pH計10aで計測されたpH値、ORP計10cで計測された酸化還元電位とから、前記した式(5)〜(8)を用いて、着目する「ヨウ素の特定の化学形態」のものの原水中の濃度を容易に算出することができる。そして、制御部11Bは、それに応じて活性炭の注入率を設定して活性炭注入手段8に活性炭の注入率の制御信号を出力するようにしても良い。このようにすれば、放射性ヨウ素吸着のために必要な活性炭の注入率をより正確に評価して注入することができ活性炭を無駄に過大に着水井1に投入することを抑制できる。
【0065】
また、浄水処理システム400においても、第1の実施の形態と同様に、ヨウ素除去モードと通常モードとを切り替えられるようにしても良い。この場合、浄水処理システム400は、例えば、通常時は通常モードでの運転をおこないつつ、降雨データを用いて浄水処理システム400に対して流入する原水のヨウ素濃度の予測、及び原水の放射性物質濃度の計測を行う。そして、ヨウ素濃度が所定以上の原水が流入すると予測、又は原水の放射性物質濃度が所定濃度以上となった場合に、ヨウ素除去モードでの運転を開始する。このような構成とすれば、原水中のヨウ素濃度が基準値以上となることが予測される場合のみヨウ素除去モードでの運転を行うことができ、薬品の使用量を低減させることができる。
【0066】
以上説明したように、第2の実施の形態にかかる浄水処理システム400によれば、第1の実施の形態にかかる浄水処理システム100の効果に加えて、原水中の放射能濃度を予測して薬品の注入量を制御するので、薬品注入量をより適切に制御することができ、薬品の過剰注入を防止して、浄水処理にかかるコストを低減させることができる。
【0067】
《第3の実施の形態》
図6は、第3の実施の形態にかかる浄水処理システムの構成概要図である。
第3の実施の形態にかかる浄水処理システム600では、第1の実施の形態の構成において、混和池及びフロック形成池に対して覆蓋を施し、覆蓋混和池51及び覆蓋フロック形成池52とした。また、覆蓋混和池51及び覆蓋フロック形成池52にそれぞれブロワB1,B2を設けるとともに、ヨウ素分子(I)回収手段53を有する構成とした。なお、図4において、第1の実施の形態にかかる浄水処理システム100(図1参照)と同様の構成部分には、図1と同じ符号を付して重複する詳細な説明を省略する。
【0068】
蓋で覆われた混和池である覆蓋混和池51と蓋で覆われたフロック形成池である覆蓋フロック形成池52では、各池内を混和することから、塩素剤によって酸化されたヨウ素分子(I)の一部がガスとして水中から気相に出る。そこで、ブロワB1、B2によって覆蓋混和池51と覆蓋フロック形成池52の気相を吸引し、内部を換気するようにした。ヨウ素分子(I)含むブロワB1,B2からの排気は、ヨウ素分子回収手段53に送られ、ヨウ素分子(I)が回収される。ヨウ素分子(I)の回収方法としては、例えばヨウ素の吸収溶液に排気を接触させることによって行う。ヨウ素の吸収溶液としては、ヨウ化カリウム水溶液、アルカリ水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液の他、Agを担持した吸着材などを用いることができる。
【0069】
また、ヨウ素分子回収手段53として、活性炭を用いたガスホールドアップ装置53Aを用いても良い。
図7は、活性炭式ガスホールドアップ装置の構成概要図である。
活性炭式ガスホールドアップ装置53Aには、活性炭が充てんされた吸着筒71が複数設けられている。吸着筒71内の活性炭には、非放射性のヨウ素分子(I)及びヨウ化カリウム(KI)が数パーセント添着されている。ブロワB1,B2から排気される覆蓋混和池51及び覆蓋フロック形成池52からの排気(放射性ヨウ素を含んだガス)を吸着筒71に通すと、排気は活性炭内を吸着・脱着を繰り返しながらゆっくりと移動する。この過程で、放射性ヨウ素は放射性希ガスXeに崩壊し、例えば、ヨウ素131の半減期は8.06日であり、これ以上の時間をかけて排気がすべての吸着筒71内を移動するようにする。この間に排気内の放射能が減衰し、排気による放射線被ばくを抑制することができる。すべての吸着筒71を通過した排気は、HEPAフィルタ72を通過した後、屋外に排気される。
【0070】
なお、図6においては、第1の実施の形態にかかる浄水処理システム100の混和池及びフロック形成池に覆蓋を施すこととしたが、残留塩素計10bに代えてORP計10cを設置する変形例、及び第2の実施の形態にかかる浄水処理システム400においても、同様に覆蓋を施すことによって、周辺への放射能の再拡散を防止することができる。
【0071】
以上説明したように、第3の実施の形態にかかる浄水処理システム600によれば、第1の実施の形態にかかる浄水処理システム100の効果に加えて、浄水処理中に発生する放射性ガス内の放射性物質を回収してから排気するので、浄水場における放射能の再飛散を抑制し、作業者や近隣住民の被ばくを抑制することができる。
【符号の説明】
【0072】
100,400,600 浄水処理システム
1 着水井
2 混和池
3 フロック形成池
4 沈殿池
5 濁度計
6 pH調整剤注入手段
7 塩素剤注入手段
8 活性炭注入手段
9 凝集剤注入手段
10a pH計(pH計測手段)
10b 残留塩素計(酸化特性計測手段)
10c ORP計(酸化特性計測手段)
11A,11B 制御部(制御手段)
12 ろ過池
13 設定部(目標比率設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を処理して上水道水を生産する浄水処理システムであって、
前記原水に酸性剤又はアルカリ性剤を注入して、前記原水のpH値を調整するpH調整手段と、
前記原水中に含まれるヨウ素の化学形態を、酸化剤として変更する塩素剤を前記原水に注入する塩素剤注入手段と、
前記原水中の前記ヨウ素を吸着する活性炭を前記原水に注入する活性炭注入手段と、
前記原水中の濁質と前記注入された活性炭を凝集する凝集剤を注入する凝集剤注入手段と、
前記塩素剤注入手段によって前記塩素剤が注入された後の前記原水のpH値を計測するpH計測手段と、
前記塩素剤注入手段によって前記塩素剤が注入された後の前記原水の酸化特性を計測する酸化特性計測手段と、
前記塩素剤注入手段によって前記塩素剤が注入された後の前記原水中における予め選択可能とされた前記ヨウ素の特定の化学形態のものの目標比率を、運転者が入力設定可能な目標比率設定手段と、
前記pH計測手段によるpHの計測値及び前記酸化特性計測手段による酸化特性計測値が所定の範囲内になるように、前記pH調整手段による前記酸性剤又は前記アルカリ性剤の注入率を制御するとともに、前記塩素剤注入手段による前記塩素剤の注入率を制御する制御手段と、を備え、
前記目標比率は、前記原水中におけるヨウ素イオンよりも前記活性炭への吸着性が高い予め選択可能とされた前記ヨウ素の特定の化学形態のものと、前記ヨウ素イオンとの比率であり、
前記制御手段は、前記目標比率設定手段により入力設定された前記目標比率に基づいて前記pHの計測値及び前記酸化特性計測値の前記所定の範囲を設定して、前記pH調整手段及び前記塩素剤注入手段を前記所定の範囲に入るように制御することを特徴とする浄水処理システム。
【請求項2】
前記酸化特性計測手段は、残留塩素計又は酸化還元電位計であることを特徴とする請求項1に記載の浄水処理システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記目標比率に基づいて前記活性炭注入手段による前記活性炭の注入率を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の浄水処理システム。
【請求項4】
前記目標比率設定手段は、前記ヨウ素イオンよりも前記活性炭への吸着性が高い前記ヨウ素の特定の化学形態のものとして、ヨウ素分子又は次亜ヨウ素酸の少なくともいずれかの選択に基づいて前記ヨウ素イオンとの前記目標比率を設定可能とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の浄水処理システム。
【請求項5】
前記原水の放射能を計測する放射能計測手段を更に備え、
前記制御手段は、前記放射能手段による計測値に基づいて、前記原水の放射性ヨウ素濃度を推定して、前記pH調整手段による前記酸性剤又は前記アルカリ性剤の注入率を制御するとともに、前記塩素剤注入手段による前記塩素剤の注入率を制御することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の浄水処理システム。
【請求項6】
降雨情報を取得する降雨情報取得手段を更に備え、
前記制御手段は、前記降雨情報に基づいて前記原水の放射性ヨウ素濃度を推定して、前記pH調整手段による前記酸性剤又は前記アルカリ性剤の注入率を制御するとともに、前記塩素剤注入手段による前記塩素剤の注入率を制御することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の浄水処理システム。
【請求項7】
前記目標比率設定手段は、前記ヨウ素イオンよりも前記活性炭への吸着性が高い前記ヨウ素の特定の化学形態のものとして、運転員による前記ヨウ素分子の選択に基づいて前記ヨウ素イオンとの前記目標比率を設定可能とし、
前記制御手段は、前記pHの計測値及び前記酸化特性計測値の前記所定の範囲として、pH値をpH5.8〜7.0の範囲、前記酸化特性計測値としての酸化還元電位を標準水素電極に対して0.63〜0.68Vの範囲と設定することを特徴とする請求項1に記載の浄水処理システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記pHの計測値及び前記酸化特性計測値としての酸化還元電位に基づいて、前記原水中における前記ヨウ素イオンよりも前記活性炭への吸着性が高い前記予め選択された前記ヨウ素の特定の化学形態のものと、前記ヨウ素イオンとの比率を算出し、該算出された比率に応じて前記活性炭注入手段による前記活性炭の注入率を制御することを特徴とする請求項7に記載の浄水処理システム。
【請求項9】
原水を処理して上水道水を生産する浄水処理システムの制御方法であって、
前記浄水処理システムは、
前記原水に酸性剤又はアルカリ性剤を注入して、前記原水のpH値を調整するpH調整手段と、
前記原水中に含まれるヨウ素の化学形態を、酸化剤として変更する塩素剤を前記原水に注入する塩素剤注入手段と、
前記原水中の前記ヨウ素を吸着する活性炭を前記原水に注入する活性炭注入手段と、
前記原水中の濁質と前記注入された活性炭を凝集する凝集剤を注入する凝集剤注入手段と、
前記塩素剤注入手段によって前記塩素剤が注入された後の前記原水のpH値を計測するpH計測手段と、
前記塩素剤注入手段によって前記塩素剤が注入された後の前記原水の酸化特性を計測する酸化特性計測手段と、
前記塩素剤注入手段によって前記塩素剤が注入された後の前記原水中における予め選択可能とされた前記ヨウ素の特定の化学形態のものの目標比率を、運転者が入力設定可能な目標比率設定手段と、
前記pH計測手段によるpHの計測値及び前記酸化特性計測手段による酸化特性計測値が所定の範囲内になるように、前記pH調整手段による前記酸性剤又は前記アルカリ性剤の注入率を制御するとともに、前記塩素剤注入手段による前記塩素剤の注入率を制御する制御手段と、を備え、
前記目標比率は、前記原水中におけるヨウ素イオンよりも前記活性炭への吸着性が高い予め選択可能とされた前記ヨウ素の特定の化学形態のものと、前記ヨウ素イオンとの比率であり、
前記制御手段が、前記目標比率設定手段により入力設定された前記目標比率に基づいて前記pHの計測値及び前記酸化特性計測値の前記所定の範囲を設定して、前記pH調整手段及び前記塩素剤注入手段を前記所定の範囲に入るように制御することを特徴とする浄水処理システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−75245(P2013−75245A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214842(P2011−214842)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】