説明

浮体構造物補修方法および浮体構造物補修装置

【課題】設置されている浮体構造物を浮きドックまたは乾ドックまで曳航することなく、浮体構造物が設置されている場所あるいはその近傍で、浮体構造物を溶接にて補修することができる浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いられる止水ボックスを提供すること。
【解決手段】水中にある浮体構造物4を補修する際に用いられる浮体構造物補修方法であって、内部に空間が形成された止水ボックス53を、前記止水ボックス53の開口部が前記浮体構造物4の補修部に面するように、前記浮体構造物4の外側表面に密着するようにして取り付ける段階と、前記空間の内部に存する水を前記空間の外に排出して、前記空間の内部を乾式の環境に保つ段階と、前記空間の内部が乾式の環境に保たれた前記止水ボックス53の内側に位置する前記浮体構造物4の補修部を、溶接にて補修する段階と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮防油堤等の浮体構造物を補修する際に用いられる浮体構造物補修方法および浮体構造物補修装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
さて、図19に示すような上五島石油備蓄基地1等では、各貯蔵船(海上タンク)2を取り囲むようにして、各貯蔵船2の外側に一次浮防油堤3が配置され、さらにこれら一次浮防油堤3を取り囲むようにして、これら一次浮防油堤3の外側に二次浮防油堤(兼浮防衝堤)4が配置されている。
なお、特許文献1には、浮防油堤の一具体例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−150988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、図19において符号Aで示す箇所、すなわち、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の一端部(先端部:末端部)と、貯蔵船2の外側を取り囲むようにして配置された海上アンカー5に直に取り付けられた一次浮防油堤12(図20および図21参照)の一端部(先端部:末端部)とを連結する連結部(取合い部)13(図20および図21参照)等は、図20および図21に示すような構成になっている。すなわち、一次浮防油堤12の一端部の上面12aから上方に突出するようにして延びる(第1の)ヒンジピン14、および一次浮防油堤12の一端部の下面12bから下方に突出するようにして延びる(第2の)ヒンジピン15がそれぞれ、一次浮防油堤11の一端部の上面11aに沿って、ヒンジピン14の側に延びる(第1の)ヒンジブラケット16を板厚方向に貫通するようにして設けられた長穴17内、および一次浮防油堤11の一端部の下面11bに沿って、(第2の)ヒンジピン15の側に延びる(第2の)ヒンジブラケット18を板厚方向に貫通するようにして設けられた長穴19内に嵌り込むように(収容されるように)構成されている。
【0005】
そのため、図19において符号Aで示す箇所では、波浪による一次浮防油堤11,12の浮き沈みや動揺により、ヒンジピン14,15と長穴17,19とが繰り返し接触し、ヒンジピン14,15の外周面および長穴17,19の内周面が摩耗することになり、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替が必要になる。
【0006】
従来、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替は、二次浮防油堤4の外側(沖合)に浮きドック(図示せず)を用意して、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替が必要になった一次浮防油堤11,12を浮きドックまで曳航し、乾式の環境とされた浮きドック内でヒンジピン14,15またはヒンジブラケット16,18の取替作業を行うか、あるいは、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替が必要になった一次浮防油堤11,12を乾ドック(図示せず)まで曳航し、乾式の環境とされた乾ドック内でヒンジピン14,15またはヒンジブラケット16,18の取替作業を行うようにしていた。
【0007】
しかしながら、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替が必要になった一次浮防油堤11,12を浮きドックまたは乾ドックまで曳航して行う補修方法では、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替が必要になった一次浮防油堤11,12を二次浮防油堤4の外側まで曳航したり、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替が完了した一次浮防油堤11,12を二次浮防油堤4の内側まで曳航したりするために、すべての貯蔵船2を取り囲むようにして、すべての貯蔵船2の外側に配置された一次浮防油堤3、および二次浮防油堤4の一部を一時的に、あるいはすべての期間にわたって開放しておくことになる。そのため、ヒンジピン14,15および/またはヒンジブラケット16,18の取替が必要になった一次浮防油堤11,12を浮きドックまたは乾ドックまで曳航して行う補修方法では、防油機能が少なくとも一時的に保持できなくなり、消防法を少なくとも一時的に遵守できなくなるといった問題点があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、設置されている浮体構造物を浮きドックまたは乾ドックまで曳航することなく、浮体構造物が設置されている場所あるいはその近傍で、浮体構造物を溶接にて補修することができる浮体構造物補修方法および浮体構造物補修装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る浮体構造物補修方法は、水中にある浮体構造物を補修する際に用いられる浮体構造物補修方法であって、内部に空間が形成された止水ボックスを、前記止水ボックスの開口部が前記浮体構造物の補修部に面するように、前記浮体構造物の外側表面に密着するようにして取り付ける段階と、前記空間の内部に存する水を前記空間の外に排出して、前記空間の内部を乾式の環境に保つ段階と、前記空間の内部が乾式の環境に保たれた前記止水ボックスの内側に位置する前記浮体構造物の補修部を、溶接にて補修する段階と、を備えている。
【0010】
また、本発明に係る浮体構造物補修装置は、水中にある浮体構造物の補修部に面するように開口部が設けられ、前記浮体構造物の外側表面に密着した後、内部に存する水を排出することで乾式の環境になった前記補修部を、溶接にて補修することが可能な止水ボックスを備えている。
【0011】
本発明に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物補修装置によれば、設置されている浮体構造物を浮きドックまたは乾ドックまで曳航して、浮体構造物の全体を乾式の環境にしなくても、溶接にて補修しようとする箇所は、常に乾式の状態に保たれることになる。
これにより、設置されている浮体構造物を浮きドックまたは乾ドックまで曳航することなく、浮体構造物が設置されている場所あるいはその近傍で、浮体構造物を溶接にて補修することができる。
また、水による急冷を伴う溶接を回避することができ、溶接部の健全性(品質)を良好な状態に保つことができる。
【0012】
さらに、浮体構造物が浮防油堤である場合、防油機能を果たしている浮防油堤を浮きドックまたは乾ドックまで曳航する必要がなくなるので、防油機能を保ったまま浮防油堤の補修工事を行うことができ、浮防油堤の補修工事期間中も消防法を遵守することができる。
【0013】
上記浮体構造物補修方法において、前記止水ボックスの側面と、前記浮体構造物の外側表面と、を固定部材で固定する段階と、を備えているとさらに好適である。
【0014】
このような浮体構造物補修方法によれば、止水ボックスを浮体構造物に対して確実に固定することができ、浮体構造物を安全に補修することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物補修装置よれば、設置されている浮体構造物を浮きドックまたは乾ドックまで曳航することなく、浮体構造物が設置されている場所あるいはその近傍で、浮体構造物を溶接にて補修することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図8】新しいヒンジピンおよびリブプレートを備えたヒンジピンブロックの斜視図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図11】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図12】本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図16】本発明の第3実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図17】本発明の第3実施形態に係る止水ボックスの斜視図である。
【図18】本発明の第3実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【図19】本発明に係る浮体構造物補修方法が適用され得る海上石油備蓄基地の概念図である。
【図20】図19の要部を拡大して示す側面図である。
【図21】図20を上方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いる止水ボックスについて、図1から図12を参照しながら説明する。
図1から図7はそれぞれ本実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図、図8は新しいヒンジピンおよびリブプレートを備えたヒンジピンブロックの斜視図、図9から図12はそれぞれ本実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【0018】
本実施形態では、図19において符号Aで示す箇所、すなわち、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の一端部(先端部:末端部)と、貯蔵船2の外側を取り囲むようにして配置された海上アンカー5に直に取り付けられた一次浮防油堤12の一端部(先端部:末端部)とを連結する連結部(取合い部)13において取替が必要になったヒンジピン15(図20参照)の取替方法(補修方法)について説明する。
【0019】
まず、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の一端部(すなわち、取替が必要になったヒンジピン15に対応するヒンジブラケット18を備えた一次浮防油堤11)と、海上アンカー5に直に取り付けられた一次浮防油堤12の一端部との連結部13における連結を解き(開放し)、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の他端部(基端部)と、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6の一端部との連結部(図示せず)における連結を解いて(開放して)、図1に示すように、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11を、いずれかの貯蔵船2(本実施形態では、図1において左側に位置する貯蔵船2)の側に移動させ、複数本(本実施形態では7本)の係留索21を用いて、貯蔵船2の外側を取り囲むようにして配置された一次浮防油堤11、および貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6に係留する。
【0020】
つぎに、図2に示すように、ヒンジピン15を下方から覆い隠すようにして形成された止水ボックス22を、フーカー(浮力調整機能を備えた浮き)23から吊り下げられるようにし、フーカー23の浮力を調整して、止水ボックス22の浮力を調整する。
つづいて、止水ボックス22の側面に設けられたアイリンク24に一端が固定されたガイドロープ25を用いて、止水ボックス22を一次浮防油堤12の一端部近傍まで移動させる。
なお、図2中の符号26は、水面を示している。
【0021】
つぎに、フーカー23の浮力を調整して、止水ボックス22の上面22aが一次浮防油堤12の下面12bよりも下にくるように止水ボックス22を下方に移動させ(沈め)、ガイドロープ25を用いて、止水ボックス22を一次浮防油堤12の一端部の下方(真下)まで移動させる。
つづいて、図3に示すように、フーカー23の浮力を調整して、止水ボックス22の上面22aが一次浮防油堤12の下面12bとシールパッキン40(図11または図12参照)を介して密着するように止水ボックス22を上方に移動させ(浮き上がらせ)、レバーブロック(図示せず)を用いて、止水ボックス22を一次浮防油堤12の下面12bに引き寄せて仮止めする(据え付ける)。
なお、図3中の符号27は、水中での作業(フーカー23の浮力を調整する等の作業)を行うダイバーを示している。
【0022】
つぎに、図4に示すように、止水ボックス22の側面に設けられたアイリンク24と、一次浮防油堤12の下部(底部)側面に設けられたアイリンク28とをターンバックル等の連結具29を用いて連結し、止水ボックス22を一次浮防油堤12の下面12bに固定する。
つづいて、図5に示すように、止水ボックス22の上部(頂部)側面に設けられたエア注入用バルブ30の入口と、エアボンベ31の出口とをエアホース32で接続する。
【0023】
つぎに、止水ボックス22の下部(底部)側面に設けられた海水排水用バルブ33を開ける。
つづいて、エア注入用バルブ30、およびエアボンベ31に設けられたバルブ34Aを開け、エア注入用バルブ30を介して止水ボックス22の内部にエアを供給するとともに、海水排水用バルブ33を介して止水ボックス22の内部に溜まっている海水を排出する。
なお、止水ボックス22の内部にエアを供給するとともに、止水ボックス22の内部に溜まっている海水を排出する際、図6に示すように、海水排水用バルブ33の出口に一端が接続された排出管34Bの他端が、水面26よりも上方に出るような排出管34Bを用いるとさらに好適である。この場合、排出管34Bの内部の圧力が大気圧と等しくなり、止水ボックス22の内部に溜まっている海水をより容易に排出することができるようになる。
【0024】
つぎに、バラスト水(図示せず)およびコンクリートバラスト(図示せず)が撤去された一次浮防油堤12の内部に入り、図7に示すように、取替が必要になったヒンジピン15を備えた(含めた)ヒンジピンブロック(ヒンジピンアセンブリー)を、一次浮防油堤12の底板12c、および底板12cに立設されたリブプレート35から切断して撤去する。
つづいて、新しいヒンジピン15およびリブプレート36を備えたヒンジピンブロック37(図8参照)を一次浮防油堤12の内部に入れ、図9および図10に示すように、取替が必要になったヒンジピン15を備えたヒンジピンブロックを取り外す際に切断した箇所と、これと対向するヒンジピンブロック37の外周面(端面)とがあうようにしてヒンジピンブロック37を配置し、一次浮防油堤12の底板12c、および底板12cに立設されたリブプレート35と、ヒンジピンブロック37とを溶接する。
【0025】
つぎに、浸透探傷検査により、一次浮防油堤12の底板12c、および底板12cに立設されたリブプレート35と、ヒンジピンブロック37との溶接部(図示せず)の健全性を確認し、バラスト水(図示せず)およびコンクリートバラスト(図示せず)を一次浮防油堤12の内部に戻す。
つづいて、止水ボックス22を、上述した手順と逆の手順で取り外し、係留索21を用いて、貯蔵船2の外側を取り囲むようにして配置された一次浮防油堤11、および貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6に係留されていた一次浮防油堤11を元の位置に戻す(移動させる)。
【0026】
そして、元の位置に戻された一次浮防油堤11の一端部と、海上アンカー5に直に取り付けられた一次浮防油堤12の一端部とを、連結部13を介して連結し、元の位置に戻された一次浮防油堤11の他端部と、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6の一端部とを、連結部(図示せず)を介して連結し、一連の作業を終了する。
【0027】
なお、図4に示すように、止水ボックス22の側面に設けられたアイリンク24と、一次浮防油堤12の下部(底部)側面に設けられたアイリンク28とをターンバックル等の連結具29を用いて連結し、止水ボックス22を一次浮防油堤12の下面12bに固定した後、図11に示すような固定用ラグピース38および/または図12に示すような固定用ラグピース39を用いて止水ボックス22と一次浮防油堤12とをさらに強固に連結するとさらに好適である。
これにより、止水ボックス22を一次浮防油堤12の下面12bにより確実に固定することができ、作業時における安全性をさらに向上させることができる。
【0028】
ここで、図11および図12に示すように、止水ボックス22の上面22aと一次浮防油堤12の下面12bとの間には、止水ボックス22の上面22aに沿ってネオプレンスポンジパッキン等のシールパッキン40が配置されている。
これにより、止水ボックス22の上面22aと一次浮防油堤12の下面12bとの間から止水ボックス22の内部に海水が浸入するのを防止することができ、止水ボックス22の内部を乾式の環境に保つことができる。
【0029】
また、図11に示すように、側面視コ(C)字形状を呈する固定用ラグピース38の一端面は、一次浮防油堤12の下部側面に(水中)溶接にて接合され、固定用ラグピース38の他端面は、止水ボックス22の上部側面に(水中)溶接にて接合されている。
さらに、図12に示すように、側面視L字形状を呈する固定用ラグピース39の一端面は、一次浮防油堤12の下面12bに(水中)溶接にて接合され、固定用ラグピース39の他端面は、止水ボックス22の上部側面に(水中)溶接にて接合されている。
【0030】
本実施形態に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いる止水ボックス22によれば、設置されている一次浮防油堤(浮体構造物)12を浮きドック(図示せず)または乾ドック(図示せず)まで曳航して、一次浮防油堤12の全体を乾式の環境にしなくても、溶接にて補修しようとする箇所は、常に乾式の状態に保たれることになる。
これにより、設置されている一次浮防油堤12を浮きドックまたは乾ドックまで曳航することなく、一次浮防油堤12が設置されている場所の近傍で、一次浮防油堤12を溶接にて補修することができる。
また、水による急冷を伴う溶接を回避することができ、溶接部の健全性(品質)を良好な状態に保つことができる。
【0031】
さらに、防油機能を果たしている一次浮防油堤12を浮きドックまたは乾ドックまで曳航する必要がなくなるので、防油機能を保ったまま一次浮防油堤12の補修工事を行うことができ、一次浮防油堤12の補修工事期間中も消防法を遵守することができる。
【0032】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いる止水ボックスについて、図1、図13から図15、および図19を参照しながら説明する。
図13から図15はそれぞれ本実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【0033】
本実施形態では、図19において符号Aで示す箇所、すなわち、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の一端部(先端部:末端部)と、貯蔵船2の外側を取り囲むようにして配置された海上アンカー5に直に取り付けられた一次浮防油堤12の一端部(先端部:末端部)とを連結する連結部(取合い部)13において取替が必要になったヒンジブラケット18(図20参照)の取替方法(補修方法)について説明する。
【0034】
まず、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の一端部(すなわち、取替が必要になったヒンジブラケット18を備えた一次浮防油堤11)と、海上アンカー5に直に取り付けられた一次浮防油堤12の一端部との連結部13における連結を解き(開放し)、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の他端部(基端部)と、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6の一端部との連結部(図示せず)における連結を解いて(開放して)、図1に示すように、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11を、いずれかの貯蔵船2(本実施形態では、図1において左側に位置する貯蔵船2)の側に移動させ、複数本(本実施形態では7本)の係留索21を用いて、貯蔵船2の外側を取り囲むようにして配置された一次浮防油堤11、および貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6に係留する。
【0035】
つぎに、図13および図14に示すような形状を呈する二つの止水ボックス41、すなわち、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された一次浮防油堤11の両側面11cにおいて、当該一次浮防油堤11の縦方向(高さ方向)および長さ方向に沿って延びて、ヒンジブラケット18と当該一次浮防油堤11とを接合する溶接線と、当該一次浮防油堤11の下面11bにおいて、当該一次浮防油堤11の横方向(幅方向)に沿って延びて、ヒンジブラケット18と当該一次浮防油堤11とを接合する溶接線とを、両側方から覆い隠すようにして形成された二つの止水ボックス41を一つずつ、海上クレーン(図示せず)から吊り下げる。
【0036】
つづいて、止水ボックス41の内面41aが一次浮防油堤11の下面11bおよび両側面11cとシールパッキン(例えば、図11または図12に示すシールパッキン40)を介して密着するとともに、止水ボックス41の下部(底部)における内面41a同士が、シールパッキン(例えば、図11または図12に示すシールパッキン40)を介して密着するように、海上クレーンを用いて図13および図14に示す所定の位置に止水ボックス41を移動させ、図15に示すように、止水ボックス41の側面41aに設けられたアイリンク42と、一次浮防油堤11の側面11cに設けられたアイリンク43とをターンバックル等の連結具44を用いて連結し、止水ボックス41を一次浮防油堤11の対応する側面11cに固定して、図13および図14に示す取り付け完了状態(据え付け完了状態)にする。
【0037】
つぎに、止水ボックス41の上端に形成された平面視矩形状を呈する開口45(図14参照)から、一端がポンプ(図示せず)の吸い込み口に接続されたサクションホース(図示せず)の他端を挿入し、ポンプを運転して止水ボックス41の内部に溜まっている海水を排出する。
つづいて、止水ボックス41の内面41aと一次浮防油堤11の下面11bおよび両側面11cとの間に配置されたシールパッキン(図示せず)、および止水ボックス41の下部における内面41aと内面41aとの間に配置されたシールパッキンの周りから止水ボックス41の内部に海水が浸入していないかを確認する。
【0038】
つぎに、止水ボックス41の内部に入り、一次浮防油堤11の両側面11cにおいて、当該一次浮防油堤11の縦方向および長さ方向に沿って延びて、ヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを切断する切断線と、当該一次浮防油堤11の下面11bにおいて、当該一次浮防油堤11の横方向に沿って延びて、ヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを切断する切断線とに沿って切断する。
つづいて、止水ボックス41の外部から、一次浮防油堤11の両側面11cにおいて、当該一次浮防油堤11の長さ方向に沿って延びて、水面26よりも上に位置してヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを切断する切断線と、当該一次浮防油堤11の正面11d(図14参照)において、当該一次浮防油堤11の横方向に沿って延びて、水面26よりも上に位置してヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを切断する切断線とに沿って切断する。
【0039】
つぎに、止水ボックス41を海上クレーン(図示せず)から吊り下げられた状態にし、アイリンク42とアイリンク43とを連結する連結具44を取り外して、止水ボックス41の上端に形成された開口45から止水ボックス41の内部に海水を注入し、止水ボックス41の浮力がなくなるようにする。
つづいて、海上クレーンを用いて止水ボックス41を撤去するとともに、取替が必要になったヒンジブラケット18を備えた(含めた)ヒンジブラケットブロック(ヒンジブラケットアセンブリー)を一次浮防油堤11から分離して撤去する。
【0040】
つぎに、新しいヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロック(図示せず)を海上クレーンから吊り下げ、所定の場所(取替が必要になったヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックが取り付けられていた場所)に、ターンバックル等の連結具(図示せず)を用いて、あるいは(水中)溶接にて仮止めする(据え付ける)。
つづいて、止水ボックス41の内面41aが一次浮防油堤11の下面11bおよび両側面11cとシールパッキン(例えば、図11または図12に示すシールパッキン40)を介して密着するとともに、止水ボックス41の下部(底部)における内面41a同士が、シールパッキン(例えば、図11または図12に示すシールパッキン40)を介して密着するように、海上クレーンを用いて図13および図14に示す所定の位置に止水ボックス41を移動させ、図15に示すように、止水ボックス41の側面41aに設けられたアイリンク42と、一次浮防油堤11の側面11cに設けられたアイリンク43とをターンバックル等の連結具44を用いて連結し、止水ボックス41を一次浮防油堤11の対応する側面11cに固定して、図13および図14に示す取り付け完了状態(据え付け完了状態)にする。
【0041】
つぎに、止水ボックス41の上端に形成された平面視矩形状を呈する開口45(図14参照)から、一端がポンプ(図示せず)の吸い込み口に接続されたサクションホース(図示せず)の他端を挿入し、ポンプを運転して止水ボックス41の内部に溜まっている海水を排出する。
つづいて、止水ボックス41の内面41aと一次浮防油堤11の下面11bおよび両側面11cとの間に配置されたシールパッキン(図示せず)、および止水ボックス41の下部における内面41aと内面41aとの間に配置されたシールパッキンの周りから止水ボックス41の内部に海水が浸入していないかを確認する。
【0042】
つぎに、止水ボックス41の内部に入り、一次浮防油堤11の両側面11cにおいて、当該一次浮防油堤11の縦方向および長さ方向に沿って延びて、ヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを接合する溶接線と、当該一次浮防油堤11の下面11bにおいて、当該一次浮防油堤11の横方向に沿って延びて、ヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを接合する溶接線とに沿って溶接する。
つづいて、止水ボックス41の外部から、一次浮防油堤11の両側面11cにおいて、当該一次浮防油堤11の長さ方向に沿って延びて、水面26よりも上に位置してヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを接合する溶接線と、当該一次浮防油堤11の正面11d(図14参照)において、当該一次浮防油堤11の横方向に沿って延びて、水面26よりも上に位置してヒンジブラケット18を備えたヒンジブラケットブロックと当該一次浮防油堤11とを接合する溶接線とに沿って溶接する。
【0043】
つぎに、エアを用いた気密試験により、ヒンジブラケットブロックと、一次浮防油堤11との溶接部(図示せず)におけるエア漏れの有無を確認する。
ヒンジブラケットブロックと、一次浮防油堤11との溶接部においてエア漏れが無いのを確認したら、止水ボックス41を海上クレーン(図示せず)から吊り下げられた状態にし、アイリンク42とアイリンク43とを連結する連結具44を取り外して、止水ボックス41の上端に形成された開口45から止水ボックス41の内部に海水を注入し、止水ボックス41の浮力がなくなるようにして、海上クレーンを用いて止水ボックス41を撤去する。
【0044】
つづいて、係留索21を用いて、貯蔵船2の外側を取り囲むようにして配置された一次浮防油堤11、および貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6に係留されていた一次浮防油堤11を元の位置に戻す(移動させる)。
そして、元の位置に戻された一次浮防油堤11の一端部と、海上アンカー5に直に取り付けられた一次浮防油堤12の一端部とを、連結部13を介して連結し、元の位置に戻された一次浮防油堤11の他端部と、貯蔵船2と貯蔵船2との間に配置された係船ドルフィン6の一端部とを、連結部(図示せず)を介して連結し、一連の作業を終了する。
【0045】
本実施形態に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いる止水ボックス41によれば、設置されている一次浮防油堤(浮体構造物)11を浮きドック(図示せず)または乾ドック(図示せず)まで曳航して、一次浮防油堤11の全体を乾式の環境にしなくても、溶接にて補修しようとする箇所は、常に乾式の状態に保たれることになる。
これにより、設置されている一次浮防油堤11を浮きドックまたは乾ドックまで曳航することなく、一次浮防油堤11が設置されている場所の近傍で、一次浮防油堤11を溶接にて補修することができる。
また、水による急冷を伴う溶接を回避することができ、溶接部の健全性(品質)を良好な状態に保つことができる。
【0046】
さらに、防油機能を果たしている一次浮防油堤11を浮きドックまたは乾ドックまで曳航する必要がなくなるので、防油機能を保ったまま一次浮防油堤11の補修工事を行うことができ、一次浮防油堤11の補修工事期間中も消防法を遵守することができる。
【0047】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いる止水ボックスについて、図16から図19を参照しながら説明する。
図16は本実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図、図17は本実施形態に係る止水ボックスの斜視図、図18は本実施形態に係る浮体構造物補修方法の一工程を示す図である。
【0048】
本実施形態では、図19において符号Bで示す箇所、すなわち、二次浮防油堤4を構成する中空円筒状の本体51(図16および図18参照)の内部に、補強材52(図16および図18参照)を新規に取り付ける取付方法(補修方法)について説明する。
【0049】
まず、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51a(図16参照)に付着した海洋生成物を除去する。
つぎに、図16および図17に示すような形状を呈する二つの止水ボックス53、すなわち、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51aを側方から覆い隠すようにして形成された二つの止水ボックス53を、図示しないフロート(浮き)から吊り下げられるようにして、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51a近傍まで移動させる。
つづいて、図16に示すように、止水ボックス53の内面53aが、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51aとシールパッキン54を介して密着するように止水ボックス53を引き寄せる。
【0050】
つぎに、一方の止水ボックス53の上部(頂部)に取り付けられたシャックル55と、他方の止水ボックス53の上部(頂部)に取り付けられたシャックル55とを固縛用ワイヤロープ56を用いて連結する。
つづいて、一方の止水ボックス53の下部(底部)に取り付けられたシャックル57と、二次浮防油堤4を構成する板状の防油板58の下端(先端)に取り付けられたクランプ59とを、ターンバックル等の連結具60、シャックル61、およびワイヤロープ62を用いて連結するとともに、他方の止水ボックス53の下部(底部)に取り付けられたシャックル57と、防油板58の高さ方向における中央に取り付けられたクランプ63とをターンバックル等の連結具60、およびシャックル61を用いて連結し、止水ボックス53の内面53aが、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51aとシールパッキン54を介して密着するように固定して、図16に示す取り付け完了状態(据え付け完了状態)にする。
なお、図16中の符号64は、固縛用ワイヤロープ56が挿通される固縛用アイプレートである。
【0051】
ここで、図16に示すように、止水ボックス53の内面53aと、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51aとの間には、止水ボックス53の内面53aに沿ってネオプレンスポンジパッキン等のシールパッキン54が配置されている。
これにより、止水ボックス53の内面53aと、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51aとの間から止水ボックス53の内部に海水が浸入するのを防止することができ、止水ボックス53の内部を乾式の環境に保つことができる。
【0052】
つぎに、止水ボックス53の上端に形成された開口65から、一端がポンプ(図示せず)の吸い込み口に接続されたサクションホース(図示せず)の他端を挿入し、ポンプを運転して止水ボックス53の内部に溜まっている海水を排出する。
つづいて、止水ボックス53の内面53aと、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の側面51aとの間に配置されたシールパッキン54の周りから止水ボックス53の内部に海水が浸入していないかを確認する。
【0053】
つぎに、補強材52を新たに取り付けようとする本体51の内部に入り、本体51の内側表面51bの所定の位置(図16に示す位置)に、補強材52を溶接にて接合する。
つづいて、止水ボックス53の内部に露出した本体51の側面51aを塗装する。
その後、塗装面が乾いたら、止水ボックス53を、上述した手順と逆の手順で取り外し、一連の作業を終了する。
【0054】
本実施形態に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いる止水ボックス53によれば、設置されている二次浮防油堤(浮体構造物)4を浮きドック(図示せず)または乾ドック(図示せず)まで曳航して、二次浮防油堤4の全体を乾式の環境にしなくても、溶接にて補修しようとする箇所は、常に乾式の状態に保たれることになる。
これにより、設置されている二次浮防油堤4を浮きドックまたは乾ドックまで曳航することなく、二次浮防油堤4が設置されている場所で、二次浮防油堤4を溶接にて補修することができる。
また、水による急冷を伴う溶接を回避することができ、溶接部の健全性(品質)を良好な状態に保つことができる。
【0055】
さらに、防油機能を果たしている二次浮防油堤4を浮きドックまたは乾ドックまで曳航する必要がなくなるので、防油機能を保ったまま二次浮防油堤4の補修工事を行うことができ、二次浮防油堤4の補修工事期間中も消防法を遵守することができる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更して実施することもできる。
例えば、止水ボックス22,41,53の形状は、上述した実施形態において図示した形状に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更することができる。
【0057】
また、本発明に係る浮体構造物補修方法および浮体構造物を補修する際に用いる止水ボックスは、図19に符号A,Bで示す箇所以外にも同様の補修工事が必要となる箇所にも適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
4 二次浮防油堤(浮体構造物)
11 一次浮防油堤(浮体構造物)
11b 下面(外側表面)
11c 側面(外側表面)
12 一次浮防油堤(浮体構造物)
12b 下面(外側表面)
22 止水ボックス
41 止水ボックス
51a 側面(外側表面)
53 止水ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にある浮体構造物を補修する際に用いられる浮体構造物補修方法であって、
内部に空間が形成された止水ボックスを、前記止水ボックスの開口部が前記浮体構造物の補修部に面するように、前記浮体構造物の外側表面に密着するようにして取り付ける段階と、
前記空間の内部に存する水を前記空間の外に排出して、前記空間の内部を乾式の環境に保つ段階と、
前記空間の内部が乾式の環境に保たれた前記止水ボックスの内側に位置する前記浮体構造物の補修部を、溶接にて補修する段階と、を備えていることを特徴とする浮体構造物補修方法。
【請求項2】
請求項1に記載の浮体構造物補修方法において、前記止水ボックスの側面と、前記浮体構造物の外側表面と、を固定部材で固定する段階と、を備えていることを特徴とする浮体構造物補修方法。
【請求項3】
水中にある浮体構造物の補修部に面するように開口部が設けられ、
前記浮体構造物の外側表面に密着した後、内部に存する水を排出することで乾式の環境になった前記補修部を、溶接にて補修することが可能な止水ボックスを備える浮体構造物補修装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−22978(P2013−22978A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156560(P2011−156560)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)