説明

浮動型のディスクブレーキ

【課題】 インナパッドとアウタパッドの偏摩耗を同程度に低くし得る浮動型のディスクブレーキを提供する。
【解決手段】 アウタパッドを押すキャリパ爪部がディスク外周縁側からディスク中心側に向けて片持ち梁状に延出している浮動型のディスクブレーキであって、インナパッド4とアウタパッドは、ディスクDに摺接する摺接面40aを有している。そして中心線40bよりもディスク外周側の外周側領域40a1が、中心線40bよりもディスク中心側の内周側領域40a2の面積よりも大きい。しかもアウタパッドの外周側領域の面積をアウタパッドの内周側領域の面積で割った面積比が、インナパッド4の外周側領域40a1の面積をインナパッド4の内周側領域40a2の面積で割った面積比よりも大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浮動型のディスクブレーキに関する。とりわけ、ディスクの外周縁外方にてディスクをディスク軸方向に跨ぐキャリパと、そのキャリパのインナ側に設けられたピストンによってディスクインナ面に押圧されるインナパッドと、ピストンの押圧反力によって移動するキャリパのアウタ側にて形成されたキャリパ爪部によってディスクアウタ面に押圧されるアウタパッドとを有し、キャリパ爪部がディスク外周縁側からディスク中心側に向けて片持ち梁状に延出している浮動型のディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
浮動型のディスクブレーキは、ピストンによってディスクインナ面に押圧されるインナパッドと、キャリパ爪部によってディスクアウタ面に押圧されるアウタパッドとを有しており、通常、これらインナパッドとアウタパットは、同じ形状の摩擦材を有している。
一方、インナパッドとアウタパッドが異なる形状の摩擦材を有している浮動型のディスクブレーキも従来知られている(例えば特許文献1)。
特許文献1に係るインナパッドの摩擦材は、ディスク回入側とディスク回出側の両端縁にて面取り部を有しており、中央部にディスクに対して摺接する摺接面を有していた。そして摺接面は、略扇形であって外周縁側にて面積が広くなっていた。そのためディスクに対して摺接する量の多い外周縁側にて単位面積当りの圧力が小さくなっていた。かくして摺接面は、外周縁側にて摩耗量が多くなることが抑制され、偏摩耗が抑制されていた。一方アウタパッドは、面取り部を有しておらず、摺接面も扇形ではなかった。
【特許文献1】米国特許第4220223号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし浮動型のディスクブレーキは、インナパッドとアウタパッドにおいて摩耗傾向が異なっている。すなわちインナパッドは、ピストンによって中央部が確実に押されやすいのに対して、アウタパッドは、片持ち梁状に延出するキャリパ爪部によって押される構成になっている。そしてキャリパ爪部は、アウタパッドを強く押した際などにて基端部側を中心に反り返ってしまう。そのためアウタパッドは、キャリパ爪部の基端部側にて強く押されやすく、基端部側にて押されるディスク外周縁側に強い圧力を受けやすい。これによりアウタパッドは、ディスク外周縁側にて摩耗量が大きくなりやすく、インナパッドよりもディスク径方向の偏摩耗が大きくなる傾向にあった。
そしてこの傾向を抑制するための構成を備えた浮動型のディスクブレーキは、従来知られていなかった。
そこで本発明は、インナパッドとアウタパッドのディスク径方向における偏摩耗を同程度に低くすることのできる浮動型のディスクブレーキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える浮動型のディスクブレーキであることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によると、インナパッドとアウタパッドは、ディスクに対して摺接する摺接面を有している。そして摺接面のディスク周方向の幅中心におけるディスク径方向の高さ中心である中心点を通過するディスク周方向に延びる中心線よりもディスク外周側の摺接面外周側領域が前記中心線よりもディスク中心側の摺接面内周側領域の面積よりも大きい。しかもアウタパッドの摺接面外周側領域の面積をアウタパッドの摺接面内周側領域の面積で割った面積比が、インナパッドの摺接面外周側領域の面積をインナパッドの摺接面内周側領域の面積で割った面積比よりも大きくなっている。
【0005】
ところでパッドの摺接面がディスクに対して摺接する量は、ディスクの摺接面に対する径方向の軌跡差から摺接面内周側領域よりも摺接面外周側領域にて長い。これに対して本発明に係る摺接面外周側領域の面積は、摺接面内周側領域の面積よりも広くなっている。そのため摺接面外周側領域に生じる単位面積当りの圧力が摺接面内周側領域に生じる単位面積当りの圧力よりも小さくなっている。その結果、摺接面外周側領域における摩耗量と摺接面内周側領域における摩耗量とがほぼ等しくなり、摺接面内でのディスク径方向の偏摩耗が小さくなる。
【0006】
またアウタパッドを押圧するキャリパ爪部は、片持ち梁状に形成されている。そのためキャリパ爪部が基端部側を中心に反り返ることでアウタパッドの摺接面外周側領域が摺接面内周側領域よりも強く押される傾向にある。これに対して本発明によるとアウタパッドは、摺接面内周側領域に対する摺接面外周側領域の面積比がインナパッドの該面積比よりも大きくなっている。そのためアウタパッド側の摺接面外周側領域における単位面積当りの圧力が小さくなりやすい。そしてアウタパッド側の摺接面で生じやすかったディスク径方向の偏摩耗がインナパッド側の該偏摩耗と同程度にまで抑制され得る。
かくしてインナパッドとアウタパッドのディスク径方向における偏摩耗は、同程度の低い値になり得る。
【0007】
請求項2に記載の発明によると、インナパッドとアウタパッドは、ディスクに対して摺接する摺接面を有している。そしてディスク外周縁に沿って延出する摺接面の外周縁の長さが、ディスク中心寄りにてディスク周方向に沿って延出する摺接面の内周縁の長さよりも長い。しかもアウタパッドの摺接面の外周縁長さをアウタパッドの摺接面の内周縁長さで割った長さ比が、インナパッドの摺接面の外周縁長さをインナパッドの摺接面の内周縁長さで割った長さ比よりも大きくなっている。
【0008】
ところでパッドの摺接面がディスクに対して摺接する量は、内周縁側よりも外周縁側にて長い。これに対して本発明に係る外周縁の長さは、内周縁の長さよりも長い。そのため外周縁側に生じる単位面積当りの圧力が内周縁側の単位面積当りの圧力よりも小さくなっている。その結果、外周縁側と内周縁側における摩耗量がほぼ等しくなり、摺接面内でのディスク径方向の偏摩耗が小さくなる。
またアウタパッドを押圧するキャリパ爪部は、片持ち梁状に形成されている。そのためキャリパ爪部が反り返ることでアウタパッドの外周縁側が内周縁側よりも強く押される傾向にある。これに対して本発明によるとアウタパッドは、内周縁の長さに対する外周縁の長さ比がインナパッドの該長さ比よりも大きくなっている。そのためアウタパッド側の外周縁側における単位面積当りの圧力が小さくなりやすい。そしてアウタパッド側の摺接面で生じやすかったディスク径方向の偏摩耗がインナパッド側の該偏摩耗と同程度にまで抑制され得る。
かくしてインナパッドとアウタパッドのディスク径方向における偏摩耗は、同程度の低い値になり得る。
【0009】
請求項3に記載の発明によると、インナパッドとアウタパッドは、ディスクに対して摺接する摺接面を有している。そしてディスク回入側にてディスク径方向に沿って延出する摺接面のディスク回入側端縁における平均端縁直線と、ディスク回出側にてディスク径方向に沿って延出する摺接面のディスク回出側端縁における平均端縁直線とが摺接面よりもディスク中心側にて交差している。しかもアウタパッドにおけるディスク回入側端縁の平均端縁直線とディスク回出側端縁の平均端縁直線との交差角度が、インナパッドにおけるディスク回入側端縁の平均端縁直線とディスク回出側端縁の平均端縁直線との交差角度よりも大きくなっている。
【0010】
ところでパッドの摺接面がディスクに対して摺接する量は、内周縁側よりも外周縁側にて長い。これに対して本発明によると、摺接面は、ディスク回入側端縁とディスク回出側端縁における各平均端縁直線がディスク中心側にて交差しており、略扇形になっている。そのため外周縁側に生じる単位面積当りの圧力が内周縁側の単位面積当りの圧力よりも小さくなっている。その結果、外周縁側と内周縁側における摩耗量がほぼ等しくなり、摺接面内でのディスク径方向の偏摩耗が小さくなる。
【0011】
またアウタパッドを押圧するキャリパ爪部は、片持ち梁状に形成されている。そのためキャリパ爪部が反り返ることでアウタパッドの外周縁側が内周縁側よりも強く押される傾向にある。これに対して本発明によるとアウタパッドにおけるディスク回入側端縁とディスク回出側端縁の各平均端縁直線の交差角度がインナパッドにおける該交差角度よりも大きくなっている。すなわちアウタパッドの中心角がインナパッドの中心角よりも大きくなっている。そのためアウタパッド側の外周縁側における単位面積当りの圧力が小さくなりやすい。そしてアウタパッド側の摺接面で生じやすかったディスク径方向の偏摩耗がインナパッド側の該偏摩耗と同程度にまで抑制され得る。
かくしてインナパッドとアウタパッドのディスク径方向における偏摩耗は、同程度の低い値になり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1を図1〜5にしたがって説明する。
ディスクブレーキ1は、図1に示すように浮動型のディスクブレーキであって、車体側に固定されるマウンティング2と、マウンティング2に対して移動可能に支持されるキャリパ3と、図2に示す一対のパッド(インナパッド4、アウタパッド5)とを有している。
【0013】
キャリパ3は、図2に示すようにスライドピン20によってマウンティング2に対して移動可能に支持されている。
キャリパ3は、図1に示すようにディスクDの外周外方にてディスクDをディスク軸方向に跨いでおり、ディスク軸方向に移動する。そしてキャリパ3のインナ側(車体側)には、ピストン30が設けられており、アウタ側(車体外側)には、キャリパ爪部31,32が形成されている。
【0014】
ピストン30は、図3に示すようにインナパッド4よりもインナ側に配設されており、インナパッド4をディスクインナ面に向けて押すことができる構成になっている。
キャリパ爪部31,32は、図1に示すようにディスク外周縁側からディスク中心側に向けて片持ち梁状に延出しており、図3に示すようにアウタパッド5のアウタ側面に延出している。したがってピストン30によってインナパッド4をディスクインナ面に向けて押すことで、キャリパ3がピストン30の押圧反力によってインナ側(図中左側)に移動し、キャリパ爪部32がアウタパッド5をディスクアウタ面に向けて押すことができる。
【0015】
インナパッド4とアウタパッド5は、図4,5に示すように裏板41,51と摩擦材40,50を有している。
裏板41,51は、板状であって摩擦材40,50の裏面を支持しており、ディスク周方向両端に耳部41a,51aを有している。耳部41a,51aは、裏板41,51のディスク周方向両端縁からディスク周方向に突出しており、図2に示すようにマウンティング2に凹設されたガイド部に移動可能に掛け止められている。これにより裏板41,51は、ディスク軸方向に移動可能にマウンティング2に支持されている。
【0016】
摩擦材40,50は、図4,5に示すようにディスクDに対して摺接されることで摩擦力を生じる摺接面40a,50aを有している。
摺接面40a,50aは、略扇形であって、ディスク外周縁に沿って延出する外周縁40c,50cと、ディスク中心寄りにてディスク周方向に沿って延出する内周縁40d,50dとを有している。なお外周縁40c,50cと内周縁40d,50dは、どちらも円弧状に延出しているが、直線状に延出する形態などであっても良い。
【0017】
摺接面40a,50aは、ディスク周方向の一端縁にてディスク径方向に沿って延出するディスク回入側端縁40e,50eと、他端縁にてディスク径方向に沿って延出するディスク回出側端縁40f,50fとを有している。ディスクDは、図4,5に示す矢印X方向に回転しており、ディスク回入側端縁40e,50e側から摺接面40a,50aに回入し、ディスク回出側端縁40f,50f側から回出する。なおディスク回入側端縁40e,50eとディスク回出側端縁40f,50fは、略直線状に延出しているが、曲線状に延出する形態などであっても良い。
【0018】
ディスク回入側端縁40e,50eとディスク回出側端縁40f,50fが直線状の場合には、ディスク回入側端縁40e,50e上を通る直線と、ディスク回出側端縁40f,50f上を通る直線とが、摺接面40a,50aよりもディスク中心側における交点40g,50gにて交差する。またディスク回入側端縁40e,50eとディスク回出側端縁40f,50fが直線状でない場合には、これらの各平均端縁直線すなわち平均一次直線を求め、これら平均端縁直線が摺接面40a,50aよりもディスク中心側における交点40g,50gにて交差する。すなわち摺接面40a,50aは、略扇形になっている。
【0019】
摺接面40a,50aは、図4,5に示すように外周縁40c,50cの長さが内周縁40d,50dの長さよりも長い。
また摺接面40a,50aは、図4,5に示すように中心線40b,50bを求めた際に、中心線40b,50bよりもディスク外周側の外周側領域(摺接面外周側領域)40a1,50a1の面積が中心線40b,50bよりもディスク中心側の内周側領域(摺接面内周側領域)40a2,50a2の面積よりも大きくなっている。
【0020】
以下に中心線40b(50b)の求め方を説明する。先ず図4に示すように摺接面40aにおけるディスク周方向の最両端の点40b1,40b2を求める。そしてこれらを結んだ線の中心40b3を通るディスク径方向の線40b4(幅中心)を求める。次に、線40b4と外周縁40cとが交わる点40b5と、線40b4と内周縁40dとが交わる点40b6とを求め、これらを結んだ中心点40b7(高さ中心)を求める。そして中心点40b7を通過するディスク周方向に延びる線を引くことで中心線40bが求められる。なお中心線40bと中心点40b7は、それぞれ請求項に記載の中心線および中心点に相当する。
【0021】
インナパッド4とアウタパッド5は、図4,5を比べるとわかるように摩擦材40,50の形状が異なっている。
摩擦材40,50の摺接面40a,50aは、前記したようにどちらも外周側領域40a1,50a1の面積が内周側領域40a2,50a2の面積よりも広くなっている。しかしながらアウタパッド5の外周側領域50a1の面積をアウタパッド5側の内周側領域50a2の面積で割った面積比は、インナパッド4の外周側領域40a1の面積をインナパッド4の内周側領域40a2の面積で割った面積比よりも大きくなっている。
【0022】
また摺接面40a,50aは、前記したようにどちらも外周縁40c,50cの長さが内周縁40d,50dの長さよりも長くなっている。しかしながらアウタパッド5の外周縁50cの長さをアウタパッド5の内周縁50dの長さで割った長さ比は、インナパッド4の外周縁40cの長さをインナパッド4の内周縁40dの長さで割った長さ比よりも大きくなっている。
【0023】
また摺接面40a,50aは、前記したようにディスク回入側端縁40e,50eとディスク回出側端縁40f,50fの平均端縁直線がディスク中心側にて交差している。しかしながらアウタパッド5におけるディスク回入側端縁50eの平均端縁直線とディスク回出側端縁50fの平均端縁直線との交差角度50hは、インナパッド4におけるディスク回入側端縁40eの平均端縁直線とディスク回出側端縁40fの平均端縁直線との交差角度40hよりも大きくなっている。すなわちアウタパッド5の中心角は、インナパッド4の中心角よりも大きくなっている。
なおインナパッド4とアウタパッド5は、摺接面40a,50aの面積がほぼ同じに形成されている。しかしこれらの面積が異なる形態であっても構わない。
【0024】
以上のようにしてディスクブレーキ1が形成されている。
すなわちインナパッド4とアウタパッド5は、図4,5に示すようにディスクDに対して摺接する摺接面40a,50aを有している。そして摺接面40a,50aの外周側領域40a1,50a1が内周側領域40a2,50a2の面積よりも大きい。しかもアウタパッド5における外周側領域50a1の面積を内周側領域50a2の面積で割った面積比は、インナパッド4における外周側領域40a1の面積を内周側領域40a2の面積で割った面積比よりも大きくなっている。
【0025】
ところで摺接面40a,50aがディスクDに対して摺接する量は、摺接面40a,50aに対するディスクDの径方向の軌跡差から内周側領域40a2,50a2よりも外周側領域40a1,50a1にて長い。これに対して本形態に係る外周側領域40a1,50a1の面積は、内周側領域40a2,50a2の面積よりも広くなっている。そのため外周側領域40a1,50a1に生じる単位面積当りの圧力が内周側領域40a2,50a2に生じる単位面積当りの圧力よりも小さくなっている。その結果、外周側領域40a1,50a1における摩耗量と内周側領域40a2,50a2における摩耗量とがほぼ等しくなり、摺接面40a,50a内でのディスク径方向の偏摩耗が小さくなる。
【0026】
またアウタパッド5を押圧するキャリパ爪部31,32は、図1に示すように片持ち梁状に形成されている。そのためキャリパ爪部31,32が基端部側を中心に反り返ることでアウタパッド5の外周側領域50a1が内周側領域50a2よりも強く押される傾向にある。これに対して本形態によるとアウタパッド5は、内周側領域50a2に対する外周側領域50a1の面積比がインナパッド4の該面積比よりも大きくなっている。そのためアウタパッド5側の外周側領域50a1における単位面積当りの圧力が小さくなりやすい。そしてアウタパッド5側の摺接面50aで生じやすかったディスク径方向の偏摩耗がインナパッド4側の該偏摩耗と同程度にまで抑制され得る。
かくしてインナパッド4とアウタパッド5のディスク径方向における偏摩耗は、同程度の低い値になり得る。
【0027】
またインナパッド4のディスク径方向における偏摩耗を低く抑えることができることで、インナパッド4をディスクDに押圧した際におけるインナパッド4のピストン30に対する傾き量を小さくすることができる。
またアウタパッド5のディスク径方向における偏摩耗を低く抑えることができることで、アウタパッド5をディスクDに押圧した際におけるアウタパッド5のキャリパ爪部31,32に対する傾き量を小さくすることができる。
かくしてディスクブレーキ1の制動時におけるインナパッド4とピストン30間およびアウタパッド5とキャリパ爪部31,32間の摺動抵抗を小さくすることができる。
またインナパッド4とアウタパッド5のディスク径方向における偏摩耗を低く抑えることができることで、制動時における面圧中心の位置ズレが防止され得る。かくしてブレーキの異音やブレーキ振動を抑えることができる。
【0028】
(実施の形態2)
実施の形態2を図6〜8にしたがって説明する。
実施の形態2は、実施の形態1とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態2に係るインナパッド4とアウタパッド5は、図4,5に示す摩擦材40,50に代えて図6,7に示す摩擦材42,52を有している点が実施の形態1と相違している。以下、相違点を中心に実施の形態2について説明する。
【0029】
摩擦材42,52は、図6,7に示すように摺接面42a,52aと面取り部42b,42c,52b,52cを有している。
インナパッド4の摺接面42aは、図4に示す実施の形態1に係る摺接面40aとほぼ同じ形状に形成されており、アウタパッド5の摺接面52aは、図5に示す実施の形態1に係る摺接面50aとほぼ同じ形状に形成されている。
【0030】
面取り部42b,52bは、摺接面42a,52aのディスク回入側に形成されており、面取り部42c,52cは、摺接面42a,52aのディスク回出側に形成されている。
インナパッド4の面取り部42b,42cは、それぞれ図8に示すように摩擦材42のディスク周方向の端縁を面取り状に形成されており、摺接面42aの端縁から裏板41側に向けて斜めに傾斜している。
アウタパッド5の面取り部52b,52cも、インナパッド4の面取り部42b,42cと同様に摩擦材52のディスク周方向の両端縁に形状されている。
【0031】
(実施の形態3)
実施の形態3を図9,10にしたがって説明する。
実施の形態3は、実施の形態1とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態3に係るインナパッド4とアウタパッド5は、図4,5に示す摩擦材40,50に代えて図9,10に示す摩擦材43,53を有している点が実施の形態1と相違している。以下、相違点を中心に実施の形態3について説明する。
【0032】
摩擦材43,53は、図9,10に示すように摺接面43a,53aを有している。
摺接面43a,53aは、略扇形であって、外周縁43c,53cと内周縁43d,53dとを有している。外周縁43c,53cは、円弧状に延出しており、内周縁43d,53dは、略直線状に延出している。
摺接面43a,53aのディスク回入側端縁43e,53eとディスク回出側端縁43f,53fは、ディスク径方向に沿って延出しているものの延出途中において延出角度が変わっている。したがってディスク回入側端縁43e,53eとディスク回出側端縁43f,53fは、それぞれ外寄り直線縁43e1,43f1,53e1,53f1と内寄り直線縁43e2,43f2,53e2,53f2とを有している。そして内寄り直線縁43e2,43f2,53e2,53f2が外寄り直線縁43e1,43f1,53e1,53f1よりもディスクの径線に対して傾斜角度が大きくなっている。かくして摺接面43a,53aは、外周縁43c,53cから内周縁43d,53dに向けて段階的に先細り状になっている。
【0033】
ディスク回入側端縁43e,53eの平均端縁直線43e3,53e3と、ディスク回出側端縁43f,53fの平均端縁直線43f3,53f3は、摺接面43a,53aよりもディスク中心側における交点43g,53gにて交差している。そしてアウタパッド5におけるディスク回入側端縁53eとディスク回出側端縁53fの各平均端縁直線53e3,53f3の交差角度53hは、インナパッド4におけるディスク回入側端縁43eとディスク回出側端縁43fの各平均端縁直線43e3,43f3の交差角度43hよりも大きくなっている。
【0034】
摺接面43a,53aは、それぞれ外周側領域43a1,53a1の面積が内周側領域43a2,53a2の面積よりも大きくなっている。そしてアウタパッド5の外周側領域53a1の面積を内周側領域53a2の面積で割った面積比は、インナパッド4の外周側領域43a1の面積を内周側領域43a2の面積で割った面積比よりも大きくなっている。
摺接面43a,53aは、外周縁43c,53cの長さが内周縁43d,53dの長さよりも長くなっている。そしてアウタパッド5の外周縁53cの長さを内周縁53dの長さで割った長さ比は、インナパッド4の外周縁43cの長さを内周縁43dの長さで割った長さ比よりも大きくなっている。
【0035】
(実施の形態4)
実施の形態4を図11,12にしたがって説明する。
実施の形態4は、実施の形態1とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態4に係るインナパッド4とアウタパッド5は、図4,5に示す摩擦材40,50に代えて図11,12に示す摩擦材44,54を有している点が実施の形態1と相違している。以下、相違点を中心に実施の形態4について説明する。
【0036】
摩擦材44,54は、図11,12に示すように摺接面44a,54aを有しており、摺接面44a,54aは、円弧状の外周縁44c,54cと直線状の内周縁44d,54dを有している。
摺接面44a,54aのディスク回入側端縁44e,54eとディスク回出側端縁44f,54fは、ディスク径方向に沿って延出しているものの延出途中において延出角度が変わっている。したがってディスク回入側端縁44e,54eとディスク回出側端縁44f,54fは、それぞれ外周縁44c,54c側から内周縁44d,54dに向けて第一直線縁44e1,44f1,54e1,54f1と、第二直線縁44e2,44f2,54e2,54f2と、第三直線縁44e3,44f3,54e3,54f3とを有している。そして第二直線縁44e2,44f2,54e2,54f2が第一直線縁44e1,44f1,54e1,54f1と第三直線縁44e3,44f3,54e3,54f3よりもディスクの径線に対して傾斜角度が大きくなっている。
【0037】
ディスク回入側端縁44e,54eの平均端縁直線44e4,54e4と、ディスク回出側端縁44f,54fの平均端縁直線44f4,54f4は、摺接面44a,54aよりもディスク中心側における交点44g,54gにて交差している。そしてアウタパッド5のディスク回入側端縁54eとディスク回出側端縁54fの各平均端縁直線54e4,54f4における交差角度54hは、インナパッド4のディスク回入側端縁44eとディスク回出側端縁44fの各平均端縁直線44e4,44f4における交差角度44hよりも大きくなっている。
【0038】
摺接面44a,54aは、それぞれ外周側領域44a1,54a1の面積が内周側領域44a2,54a2の面積よりも大きくなっている。そしてアウタパッド5の外周側領域54a1の面積を内周側領域54a2の面積で割った面積比は、インナパッド4の外周側領域44a1の面積を内周側領域44a2の面積で割った面積比よりも大きくなっている。
摺接面44a,54aは、外周縁44c,54cの長さが内周縁44d,54dの長さよりも長くなっている。そしてアウタパッド5の外周縁54cの長さを内周縁54dの長さで割った長さ比は、インナパッド4の外周縁44cの長さを内周縁44dの長さで割った長さ比よりも大きくなっている。
【0039】
(他の実施の形態)
本発明は、実施の形態1〜4に限定されず、これらの組合せから構成される浮動型のディスクブレーキなどであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施の形態1に係るディスクブレーキの斜視図である。
【図2】実施の形態1に係るディスクブレーキの上面図である。
【図3】図2のA−A線断面矢視図である。
【図4】実施の形態1に係るインナパッドの正面図である。
【図5】実施の形態1に係るアウタパッドの正面図である。
【図6】実施の形態2に係るインナパッドの正面図である。
【図7】実施の形態2に係るアウタパッドの正面図である。
【図8】図6のB−B線断面矢視図である。
【図9】実施の形態3に係るインナパッドの正面図である。
【図10】実施の形態3に係るアウタパッドの正面図である。
【図11】実施の形態4に係るインナパッドの正面図である。
【図12】実施の形態4に係るアウタパッドの正面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…ディスクブレーキ
2…マウンティング
3…キャリパ
4…インナパッド
5…アウタパッド
30…ピストン
31,32…キャリパ爪部
40,50,42,52,43,53,44,54…摩擦材
40a,50a,42a,52a,43a,53a,44a,54a…摺接面
40b,50b,43b,53b,44b,54b…中心線
40e,50e,43e,53e,44e,54e…ディスク回入側端縁
40f,50f,43f,53f,44f,54f…ディスク回出側端縁
40h,50h,43h,53h,44h,54h…交差角度
40a1,50a1,43a1,53a1,44a1,54a1…外周側領域(摺接面外周側領域)
40a2,50a2,43a2,53a2,44a2,54a2…内周側領域(摺接面内周側領域)
40c,50c,43c,53c,44c,54c…外周縁
40d,50d,43d,53d,44d,54d…内周縁
D…ディスク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの外周縁外方にてディスクをディスク軸方向に跨ぐキャリパと、そのキャリパのインナ側に設けられたピストンによってディスクインナ面に押圧されるインナパッドと、前記ピストンの押圧反力によって移動する前記キャリパのアウタ側にて形成されたキャリパ爪部によってディスクアウタ面に押圧されるアウタパッドとを有し、前記キャリパ爪部がディスク外周縁側からディスク中心側に向けて片持ち梁状に延出している浮動型のディスクブレーキであって、
前記インナパッドと前記アウタパッドは、前記ディスクに対して摺接する摺接面を有し、その摺接面のディスク周方向の幅中心におけるディスク径方向の高さ中心である中心点を通過するディスク周方向に延びる中心線よりもディスク外周側の摺接面外周側領域が前記中心線よりもディスク中心側の摺接面内周側領域の面積よりも大きく、
かつ、前記アウタパッドの摺接面外周側領域の面積を前記アウタパッドの摺接面内周側領域の面積で割った面積比が、前記インナパッドの摺接面外周側領域の面積を前記インナパッドの摺接面内周側領域の面積で割った面積比よりも大きくなっていることを特徴とする浮動型のディスクブレーキ。
【請求項2】
ディスクの外周縁外方にてディスクをディスク軸方向に跨ぐキャリパと、そのキャリパのインナ側に設けられたピストンによってディスクインナ面に押圧されるインナパッドと、前記ピストンの押圧反力によって移動する前記キャリパのアウタ側にて形成されたキャリパ爪部によってディスクアウタ面に押圧されるアウタパッドとを有し、前記キャリパ爪部がディスク外周縁側からディスク中心側に向けて片持ち梁状に延出している浮動型のディスクブレーキであって、
前記インナパッドと前記アウタパッドは、前記ディスクに対して摺接する摺接面を有し、ディスク外周縁に沿って延出する前記摺接面の外周縁の長さが、ディスク中心寄りにてディスク周方向に沿って延出する前記摺接面の内周縁の長さよりも長く、
かつ、前記アウタパッドの摺接面の外周縁長さを前記アウタパッドの摺接面の内周縁長さで割った長さ比が、前記インナパッドの摺接面の外周縁長さを前記インナパッドの摺接面の内周縁長さで割った長さ比よりも大きくなっていることを特徴とする浮動型のディスクブレーキ。
【請求項3】
ディスクの外周縁外方にてディスクをディスク軸方向に跨ぐキャリパと、そのキャリパのインナ側に設けられたピストンによってディスクインナ面に押圧されるインナパッドと、前記ピストンの押圧反力によって移動する前記キャリパのアウタ側にて形成されたキャリパ爪部によってディスクアウタ面に押圧されるアウタパッドとを有し、前記キャリパ爪部がディスク外周縁側からディスク中心側に向けて片持ち梁状に延出している浮動型のディスクブレーキであって、
前記インナパッドと前記アウタパッドは、前記ディスクに対して摺接する摺接面を有し、ディスク回入側にてディスク径方向に沿って延出する前記摺接面のディスク回入側端縁における平均端縁直線と、ディスク回出側にてディスク径方向に沿って延出する前記摺接面のディスク回出側端縁における平均端縁直線とが前記摺接面よりもディスク中心側にて交差し、
かつ、前記アウタパッドにおけるディスク回入側端縁の平均端縁直線と前記ディスク回出側端縁の平均端縁直線との交差角度が、前記インナパッドにおけるディスク回入側端縁の平均端縁直線と前記ディスク回出側端縁の平均端縁直線との交差角度よりも大きくなっていることを特徴とする浮動型のディスクブレーキ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−9821(P2006−9821A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183535(P2004−183535)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】