説明

浮動型ディスクブレーキ

【課題】 スライドピンとガイド孔との間のクリアランスを小さくすることで、スライドピンのガイド孔に対する傾斜角度を抑制し、それによって非制動時におけるパッドのロータ軸方向への移動性を向上させることができる浮動型ディスクブレーキを提供する。
【解決手段】 マウンティング2とキャリパ3とスライドピン4とを備える浮動型ディスクブレーキ1であって、スライドピン4の一端部4aをキャリパ4に固定し、スライドピン4の他端部4bを筒状のピンブーツ5を貫通させた状態にてマウンティング2に設けられたガイド孔22に摺動可能に装着する。そしてピンブーツ5の両端部のそれぞれをマウンティング2とキャリパ3のそれぞれに形成されたブーツ取付部23,34に取付ける。そしてスライドピン4にピンブーツ5を取付けるための取付部を設けず、かつスライドピン4を円柱状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータの両側に対向配置される一対のパッドをロータ軸方向に移動可能に支持するマウンティングと、ロータと一対のパッドをロータ軸方向に跨ぐキャリパと、キャリパをマウンティングに対してロータ軸方向に移動可能に支持するスライドピンとを備える浮動型ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々な浮動型ディスクブレーキが知られており、例えば特許文献1に記載の浮動型ディスクブレーキが知られている。
特許文献1に記載の浮動型ディスクブレーキは、キャリパをマウンティングに対してロータ軸方向に移動可能に支持する一対のスライドピンを有している。スライドピンの一端部は、キャリパに固定されており、スライドピンの他端部は、マウンティングに形成されたガイド孔に摺動可能に装着されている。そして図7に示すようにスライドピン104とガイド孔122の間には、スライドピン104をガイド孔122に対して摺動可能にするためにクリアランスが設けられている。そしてスライドピン104が固定されているキャリパ103は、インナ側(図7右側)がアウタ側よりも重い構成になっている。
【0003】
したがってキャリパ103は、非制動時にて自重によってマウンティング102に対して傾き、スライドピン104がガイド孔122に対して傾いた状態にて安定している。
しかし従来は、クリアランスが通常0.1〜0.2mmと大きいためにスライドピン104がガイド孔122に対して大きく傾いてしまっていた。そのためにスライドピンとガイド孔の孔壁面との当接面積が小さくなり、これらの間に生じる面圧が高くなってしまっていた。その結果、スライドピン104とガイド孔の孔壁面との間に大きな摺動抵抗が生じ、キャリパ103がマウンティング102に対して移動しにくく、キャリパ103を介してパッド111,112もロータ軸方向に移動しにくいという問題があった。
【0004】
ところでロータRは、図8に示すようにロータ軸方向に振れながら回転する。したがって非制動時にロータRが回転すると、ロータRがパッド111,112に対して局部的に接触してしまう場合がある(図7参照)。そしてこの場合は、パッド111,112がロータRの振れにともなってロータ軸方向に移動するのだが、上記したように従来構成によると、パッド111,112がロータ軸方向へ移動しにくいという問題がある。そのためパッド111,112の移動の遅れによって、ロータRがパッド111,112によって削られてしまい(図8参照)、ロータに肉厚差が生じやすいという問題があった。
【特許文献1】特開平1−224530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、スライドピンとガイド孔との間のクリアランスを小さくすることで、スライドピンのガイド孔に対する傾斜角度を抑制し、それによって非制動時におけるパッドのロータ軸方向への移動性を向上させることができる浮動型ディスクブレーキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える浮動型ディスクブレーキであることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によると、スライドピンの一端部をマウンティングとキャリパの両部材のいずれか一方の部材に固定し、スライドピンの他端部を筒状のピンブーツを貫通させた状態にて両部材のいずれか他方の部材に設けられたガイド孔に摺動可能に装着する。そしてピンブーツの両端部のそれぞれをマウンティングとキャリパのそれぞれに形成されたブーツ取付部に取付ける。そしてスライドピンにピンブーツを取付けるための取付部を設けず、かつスライドピンを円柱状に形成する。
【0007】
すなわちスライドピンが簡易な構成になっている。
したがってスライドピンの成形精度を高めることが容易であって、例えばスライドピンの外径寸法や真直度などの精度を高めることが容易である。そしてスライドピンの成形精度を高めることで、スライドピンとガイド孔との間に設けられるクリアランスを小さくすることができる。かくしてスライドピンのガイド孔内における傾き角度を抑制することができ、スライドピンとガイド孔の孔壁面との接触面積を広く確保することができ、面圧を小さくすることができる。
【0008】
その結果、スライドピンとガイド孔の孔壁面との間の摺動抵抗が小さくなり、キャリパのロータ軸方向への移動性と、パッドのロータ軸方向への移動性が向上する。それによってロータに肉厚差が生じるという問題を抑制することができる。
またピンブーツの両端部は、それぞれマウンティングとキャリパに取付けられている。そのためスライドピンは、ピンブーツによって覆われ、ピンブーツによってダスト等から保護され得る。
【0009】
ところで従来は、スライドピンの構造を簡易にすることで、スライドピンとガイド孔との間のクリアランスを小さくするという着想が無かった。例えば、特許文献1に係るスライドピンは、外周面にピンブーツを取付けるための取付部を有し、先端部にボルト部等を有していた。そのため従来のピンブーツは、加工数が多く、加工時に生じるバラツキによって成形精度を高めることが容易でない構造になっていた。また加工後に熱処理を必要とするために熱処理によって真直度が悪くなるという問題もあった。その結果、スライドピンとガイド孔との間のクリアランスを小さくすることが容易でない構成になっていた。
【0010】
特開平10−30659号公報にもスライドピンとピンブーツが開示されている。しかしスライドピンとピンブーツに特徴がないためにピンブーツの取付構造が公報に明示されていなかった。そこで出願当時の技術水準と当該公報の段落「0024」の記載等から当業者を基準にピンブーツの取付構造を考察してみたところ、当該文献に係るスライドピンとピンブーツも特許文献1と同様な取付構造になっていると思料された。すなわちピンブーツがキャリパに対して直接取付けられている構成でなく、スライドピンの外周面に取付部が形成され、その取付部にピンブーツが取付けられていると思料された。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、スライドピンは、請求項1に記載の特徴に加えて、外周面の表面硬度がHRC45以上になっている。
ところで従来のスライドピンは、前記したようにピンブーツを取付けるための溝状の取付部や、キャリパに対して回り止めする回り止め等を有していたために鍛造や転造によって加工が施されており、その後に熱処理が施されていた。そして該加工に好適な原材料から成形されていた。したがって従来のスライドピンは、表面硬度がHRC30程度であった。
【0012】
これに対して本発明に係るスライドピンは、外周面の表面硬度がHRC45以上になっている。そしてスライドピンは、請求項1に記載したようにピンブーツを取付けるための取付部を有しておらず、円柱状に形成されている。したがってスライドピンは、簡易な構成になっており加工数が少なく、加工に好適な材料から成形する必要性が少ない。そのためにスライドピンは、硬い材料から成形するのに有効な構成になっている。
【0013】
したがってスライドピンは、従来に比べて表面硬度が高くなっており、摩擦力(摩擦抵抗)が従来に比べて小さくなっている。そして摩擦力は、図4(トライボロジ、松原清著、産業図書より抜粋)に示すようにHRC30〜40にて急激に小さくなっており、HRC45以上にて確実に小さい値を得られる。したがって外周面の表面硬度をHRC45以上にしたスライドピンは、ガイド孔に対してスライドしやすい構成になっている。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、ガイド孔は、マウンティングに内挿された筒状のスリーブの軸孔、またはキャリパに内挿された筒状のスリーブの軸孔にて形成されている。
したがってガイド孔は、マウンティングまたはキャリパと別体に形成されたスリーブによって形成されている。そのためガイド孔の成形精度を高めることが容易であって、例えば径寸法や真直度などの精度を高めることが容易である。そしてガイド孔の成形精度を高めることによって、スライドピンとガイド孔との間に設けられるクリアランスを小さくすることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、スリーブの内周面の表面硬度と、スライドピンの外周面の表面硬度が、ともにHRC45以上になっている。
したがってスリーブの軸孔にて形成されるガイド孔の孔壁面と、スライドピンがともに従来に比べて硬い構成になっている。その結果、これらの間に生じ得る陥没や摩耗を抑制することができ、スライドピンのガイド孔に対する摺動性を長時間維持することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によると、キャリパのブーツ取付部は、キャリパの本体部側からピンブーツに向けて突出し、かつ外表面にピンブーツの一端部が覆い被せられて取付けられる構成になっている。マウンティングのブーツ取付部は、マウンティングの本体部からピンブーツに向けて突出し、かつ外表面にピンブーツの他端部が覆い被せられて取付けられる構成になっている。
したがってピンブーツは、キャリパのブーツ取付部と、マウンティングのブーツ取付部のそれぞれに覆い被せられることで取付けられている。そのためピンブーツは、簡易な構造にてキャリパとマウンティングに取付けられ、キャリパとマウンティングに対して安定良く取付けられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施の形態1)
実施の形態1を図1〜4にしたがって説明する。
ディスクブレーキ1は、図1,2に示すように浮動型のディスクブレーキであって、マウンティング2とキャリパ3と一対のパッド11,12を有している。そしてマウンティング2とキャリパ3の間に一対のスライドピン4とピンブーツ5を有している。
【0018】
マウンティング2は、鍛造品であって車両側の部材に固定される部材であって、インナ側のパッド11を支持するインナ部と、アウタ側のパッド12を支持するアウタ部20と、インナ部とアウタ部20とを連結する一対の連結部21を一体に有している(図1参照)。
インナ部は、車両側の部材に取付けられる取付部と、パッド11を支持する一対のレール24aを有している(図2参照)。レール24aは、凹状に形成されており、パッド11のロータ周方向両端部に凸状に形成された耳部が掛け止められる。そしてレール24aは、ロータ軸方向に延出しており、パッド11をロータ軸方向に移動可能に支持する。
【0019】
アウタ部20は、パッド12のロータ周方向の両端部を摺動可能に支持する一対のレール20aを有している。そしてレール20aは、ロータ軸方向に延出しており、パッド12をロータ軸方向に移動可能に支持する。
したがって一対のパッド11,12は、マウンティング2によってロータRの両側にて対向配置された状態にてロータ軸方向に移動可能に支持されている。
【0020】
一対の連結部21は、図1に示すようにロータRの外周縁外方にてロータRをロータ軸方向に跨いでいる。そして一の連結部21によってインナ部のロータ周方向の一端部とアウタ部20のロータ周方向の一端部とが連結され、他の連結部21によってインナ部のロータ周方向の他端部とアウタ部20のロータ周方向の他端部とが連結されている。
【0021】
連結部21には、図2に示すようにブーツ取付部23が一体状に取付けられている。
ブーツ取付部23は、連結部21のインナ側部からインナ方向に延出し、マウンティング2の本体部側(連結部21、アウタ部20、インナ部)からピンブーツ5に向けて突出している。ブーツ取付部23は、円筒状であって、外周面にピンブーツ5の係止部50aが嵌め込まれる溝部23aを有している。
【0022】
マウンティング2には、図3に示すように連結部21とブーツ取付部23に渡ってガイド孔22が設けられている。
ガイド孔22は、有底円孔であって、インナ側に開口部を有しロータ軸方向に延出している。そして開口部からスライドピン4が摺動可能に挿通されている。
【0023】
キャリパ3は、アルミダイキャスト製であって、図1,2に示すようにロータRをロータ軸方向に跨ぐ本体部30を有している。
本体部30は、ロータRの外周縁外方にてロータRを跨ぎ、パッド11,12をロータ軸方向に跨いでいる。本体部30は、図2に示すようにインナ側にシリンダ部31を有し、シリンダ部31にピストン10が内挿されている。
ピストン10は、シリンダ部31に注入されたオイルの液圧を利用してインナ側のパッド11をロータRに向けて押圧する構成になっている。
【0024】
本体部30のアウタ側には、図1に示すように複数の爪部32が形成されている。爪部32は、アウタ側のパッド12のアウタ面に張出しており、図2に示すようにピストン10によってインナ側のパッド11を押した反力によってキャリパ3がインナ側(図中右側)に移動することで、アウタ側のパッド12をロータRに向けて押圧する構成になっている。
【0025】
キャリパ3は、図2に示すように一対のガイド腕部33とブーツ取付部34を一体に有している。
ガイド腕部33は、本体部30のインナ部のロータ周方向両端からロータ周方向に張出している。ブーツ取付部34は、図3に示すようにガイド腕部33(本体部30側)からピンブーツ5に向けて突出している。ブーツ取付部34は、円筒状であって、外周面にピンブーツ5の係止部50aが嵌め込まれる溝部34aを有している。
【0026】
キャリパ3には、図3に示すようにブーツ取付部34とガイド腕部33に渡って案内穴35が設けられている。
案内穴35は、有底円孔であって、アウタ側に開口部を有しロータ軸方向に延出している。案内穴35には、スライドピン4の一端部4aが圧入されており、スライドピン4の一端部4aが固定される。
【0027】
スライドピン4は、例えばSUJ(高炭素クロム軸受鋼)などの軸受用鋼を原材料として成形されており、高周波焼入れなどの熱処理(例えば浸炭)が外表面に施されている。これによりスライドピン4の外周面の表面硬度は、HRC45以上、好ましくは60以上になっている。
スライドピン4は、図3に示すようにピンブーツ5を取付けるための溝などを有しておらず円柱状に形成されている。好ましくは、外周面に溝や鍔などを全く有しておらず、単一円柱状に形成されている。
【0028】
ピンブーツ5は、ゴム製であって、図2に示すように蛇腹円筒状の蛇腹部51と、蛇腹部51の両端部に一体状に形成された円筒状の取付部50を有している。一対の取付部50の各内周面には、係止部50aが設けられている。係止部50aは、取付部50の内周面から軸中心に向けて突出しており、取付部50の内周の全周に渡って形成されている。
【0029】
スライドピン4とピンブーツ5をマウンティング2とキャリパ3との間に組付ける方法を以下に説明する。
先ず、スライドピン4の一端部4aを図3に示すようにキャリパ3の案内穴35に圧入して、スライドピン4の一端部4aをキャリパ3に固定する。
次に、スライドピン4の他端部4bをピンブーツ5に貫通させ、その状態にてスライドピン4の他端部4bをガイド孔22に挿入する。これによりスライドピン4の他端部4bをマウンティング2に対して摺動可能に装着する。
【0030】
次に、ピンブーツ5の取付部50をブーツ取付部23,34に覆い被せ、係止部50aを溝部23a,34aに嵌合させる。したがってピンブーツ5の両端部は、それぞれマウンティング2とキャリパ3にシールされた状態にて取付けられる。かくしてスライドピン4は、ピンブーツ5によって覆われ、ピンブーツ5によってダストや水等から保護されている。
【0031】
以上のようにしてディスクブレーキ1が形成されている。
すなわちスライドピン4は、図3に示すようにピンブーツ5を取付けるための取付部を有しておらず、かつ円柱状に形成されている。
したがってスライドピン4は、簡易な構成になっている。そのためスライドピン4の成形精度を高めることが容易であって、例えばスライドピン4の外径寸法や真直度などの精度を高めることが容易である。そしてスライドピン4の成形精度を高めることで、スライドピン4とガイド孔22との間に設けられるクリアランスを小さくすることができる。
【0032】
かくしてスライドピン4のガイド孔22内における傾き角度を抑制することができ、スライドピン4とガイド孔22の孔壁面との接触面積を広く確保することができ、面圧を小さくすることができる。
その結果、スライドピン4とガイド孔22の孔壁面間の摺動抵抗が小さくなり、キャリパ3のロータ軸方向への移動性と、パッド11,12のロータ軸方向への移動性が向上する。それによってロータRに肉厚差が生じるという問題を抑制することができる(図2参照)。
またピンブーツ5の両端部は、それぞれマウンティングとキャリパに取付けられている。そのためスライドピン4は、ピンブーツ5によって覆われ、ピンブーツ5によってダスト等から保護され得る。
【0033】
スライドピン4は、さらに外周面の表面硬度がHRC45以上になっている。
ところで従来のスライドピンは、鍛造や転造後に熱処理が施される構成であって、該加工に好適な原材料から成形されていた。したがって従来のスライドピンは、表面硬度がHRC30程度であった。
これに対して本形態に係るスライドピン4は、外周面の表面硬度がHRC45以上になっている。そしてスライドピン4は、ピンブーツ5を取付けるための取付部を有しておらず、円柱状に形成されている。したがってスライドピン4は、簡易な構成になっており加工数が少なく、加工に好適な材料から成形する必要性が少ない。そのためにスライドピン4は、硬い材料から成形するのに有効な構成になっている。
【0034】
したがってスライドピン4は、従来に比べて表面硬度が高くなっており、摩擦力(摩擦抵抗)が従来に比べて小さくなっている。そして摩擦力は、図4(トライボロジ、松原清著、産業図書より抜粋)に示すようにHRC30〜40にて急激に小さくなっており、HRC45以上にて確実に小さい値を得られる。したがって外周面の表面硬度をHRC45以上にしたスライドピン4は、ガイド孔22に対してスライドしやすい構成になっている。
【0035】
ピンブーツ5は、図2,3に示すようにキャリパ3のブーツ取付部34と、マウンティング2のブーツ取付部23のそれぞれに覆い被せられることで取付けられている。そのためピンブーツ5は、簡易な構造にてキャリパ3とマウンティング2に取付けられ、キャリパ3とマウンティング2に対して安定良く取付けられている。
【0036】
(実施の形態2)
実施の形態2を図5にしたがって説明する。
実施の形態2は、実施の形態1とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態2に係るディスクブレーキ1は、マウンティング2に内挿されるスリーブ6を有している。そしてスリーブ6の軸孔にてガイド孔60が形成されている点が実施の形態1と相違している。以下相違する点を中心に実施の形態2について説明する。
【0037】
マウンティング2は、図5に示すように連結部21とブーツ取付部23を有しており、連結部21とブーツ取付部23に渡って取付孔26が形成されている。
取付孔26は、有底円孔であって、インナ側に開口部を有しロータ軸方向に延出している。そして開口部からスリーブ6が内挿されている。
スリーブ6は、筒状(例えば円筒状)であって、マウンティング2とは別体に形成されている。スリーブ6は、硬度の高い材料、例えば軸受用鋼などを原材料として形成されている。これによりスリーブ6の内周面の表面硬度は、HRC45以上、好ましくは60以上になっている。
【0038】
そしてスリーブ6の内周面の表面硬度と、スライドピン4の外周面の表面硬度とがほぼ等しく、どちらもHRC45以上、好ましくは60以上になっている。
スライドピン4は、一端部4aがキャリパ3の案内穴35に圧入されてキャリパ3に固定されている。そして他端部4bがピンブーツ5を貫通させた状態にてスリーブ6の軸孔、すなわちガイド孔60に挿入されている。かくして他端部4bがマウンティング2側に摺動可能に装着されている。
【0039】
以上のようにして実施の形態2に係るディスクブレーキ1が形成されている。
すなわちガイド孔60は、マウンティング2に内挿された筒状のスリーブ6の軸孔にて形成されている。
したがってガイド孔60は、マウンティング2と別体に形成されたスリーブ6によって形成されている。そのためガイド孔60の成形精度を高めることが容易であって、例えば径寸法や真直度などの精度を高めることが容易である。そしてガイド孔60の成形精度を高めることによって、スライドピン4とガイド孔60との間に設けられるクリアランスを小さくすることができる。
【0040】
またスリーブ6の内周面の表面硬度と、スライドピン4の外周面の表面硬度が、ともにHRC45以上になっている。
したがってスリーブ6の軸孔にて形成されるガイド孔60の孔壁面と、スライドピン4がともに従来に比べて硬い。その結果、これらの間に生じ得る陥没や摩耗を抑制することができ、スライドピン4のガイド孔60に対する摺動性を長時間維持することができる。
【0041】
(実施の形態3)
実施の形態3を図6にしたがって説明する。
実施の形態3は、実施の形態1とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態3に係るディスクブレーキ1は、スライドピン4をキャリパ3に取付ける取付部材7を有している点が実施の形態1と相違している。以下、実施の形態1と相違している点を中心に実施の形態3について説明する。
【0042】
キャリパ3には、図6に示すようにスライドピン4の一端部4aが差し込まれる案内穴35が形成されている。キャリパ3のガイド腕部33には、取付部材7の脚部7bが貫通される貫通穴33aが形成されている。取付部材7は、脚部7bと、貫通穴33aを貫通しない頭部7aを有している。
スライドピン4には、脚部7bが螺合されるメネジ4cが形成されている。したがってスライドピン4は、貫通穴33aを貫通した取付部材7の脚部7bがメネジ4cに羅合されることでキャリパ3に固定される。
【0043】
(他の実施の形態)
本発明は、実施の形態1〜3に限定されず、以下の形態等であっても良い。
(1)すなわち実施の形態1〜3に係るディスクブレーキは、キャリパ側にスライドピンが固定され、マウンティング側にスライドピンが挿通されるガイド孔が設けられていた。しかしマウンティング側にスライドピンが固定され、キャリパ側にスライドピンが摺動可能に挿通されるガイド孔が設けられる形態であっても良い。
(2)実施の形態2に係るディスクブレーキは、スライドピンがキャリパに固定され、スリーブがマウンティングに内挿される形態であった。しかしスライドピンがマウンティングに固定され、スリーブがキャリパに内挿される形態であっても良い。
(3)実施の形態3に係るスライドピンは、一つの取付部材によってキャリパに対して取付けられていた。しかしスライドピンが二本の取付部材によってキャリパによって取付けられる形態等であって、スライドピンが軸回り方向の力を受けても軸回り方向に回転しにくい状態にて取付けられる形態であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態1に係るディスクブレーキとロータの斜視図である。
【図2】実施の形態1に係るディスクブレーキの上面図である。
【図3】図2におけるスライドピン近傍の一部断面図である。
【図4】かたさと平均ころがり摩擦力との関係を示す図である。
【図5】実施の形態2に係る図3に相当する一部断面図である。
【図6】実施の形態3に係る図3に相当する一部断面図である。
【図7】非制動時にてキャリパがマウンティングに対して傾き、スライドピンがガイド孔に対して傾いた状態にて安定している様子を示す模式図である。
【図8】ロータが振れる状態を示した模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1…ディスクブレーキ(浮動型ディスクブレーキ)
2,102…マウンティング
3,103…キャリパ
4,104…スライドピン
5…ピンブーツ
6…スリーブ
10…ピストン
11,12,111,112…パッド
21…連結部
22,60…ガイド孔
23,34…ブーツ取付部
23a,34a…溝部
30…本体部
31…シリンダ部
32…爪部
33…ガイド腕部
35…案内穴
R…ロータ(ディスクロータ)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの両側に対向配置される一対のパッドをロータ軸方向に移動可能に支持するマウンティングと、前記ロータと前記一対のパッドをロータ軸方向に跨ぐキャリパと、前記キャリパを前記マウンティングに対してロータ軸方向に移動可能に支持するスライドピンとを備える浮動型ディスクブレーキであって、
前記スライドピンの一端部を前記マウンティングと前記キャリパの両部材のいずれか一方の部材に固定し、前記スライドピンの他端部を筒状のピンブーツを貫通させた状態にて前記両部材のいずれか他方の部材に設けられたガイド孔に摺動可能に装着し、前記ピンブーツの両端部のそれぞれを前記マウンティングと前記キャリパのそれぞれに形成されたブーツ取付部に取付け、
前記スライドピンに前記ピンブーツを取付けるための取付部を設けず、かつ前記スライドピンを円柱状に形成したことを特徴とする浮動型ディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載の浮動型ディスクブレーキであって、
スライドピンの外周面の表面硬度が、HRC45以上であることを特徴とする浮動型ディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の浮動型ディスクブレーキであって、
ガイド孔は、マウンティングに内挿された筒状のスリーブの軸孔、またはキャリパに内挿された筒状のスリーブの軸孔にて形成されていることを特徴とする浮動型ディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項3に記載の浮動型ディスクブレーキであって、
スリーブの内周面の表面硬度と、スライドピンの外周面の表面硬度が、ともにHRC45以上であることを特徴とする浮動型ディスクブレーキ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の浮動型ディスクブレーキであって、
キャリパのブーツ取付部は、キャリパの本体部側からピンブーツに向けて突出し、かつ外表面に前記ピンブーツの一端部が覆い被せられて取付けられる構成になっており、
マウンティングのブーツ取付部は、マウンティングの本体部側から前記ピンブーツに向けて突出し、かつ外表面に前記ピンブーツの他端部が覆い被せられて取付けられる構成になっていることを特徴とする浮動型ディスクブレーキ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−57683(P2006−57683A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238582(P2004−238582)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】