説明

浮屋根揺動防止装置

【課題】浮屋根式の液体タンクにおいて、簡素かつ低コストの設備で浮屋根の揺動を防止する。
【解決手段】浮屋根式タンクに備えられる浮屋根揺動防止装置10であって、
タンク本体2の浮屋根3の上方位置に設けられる上側線材掛け部13と、前記タンク本体2の内底近傍に設けられる下側線材掛け部12と、前記浮屋根3に支持され、前記上側線材掛け部13及び前記下側線材掛け部12に掛けられる線材11と、前記線材11の動きを規制する制動装置13bと、を有する浮屋根固定装置1を複数備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮屋根式タンクの浮屋根の揺動を防止する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料や化学薬品、水、その他の液体を大量に貯蔵しておくための施設として浮屋根式タンクがある。浮屋根式タンクは、屋根の構造強度面の制約がなく、建設コストを低く抑えられるため、容量にして十数万キロリットル、直径で90〜100メートルの大規模なものを建設することが可能である。しかし、その一方で、地震時に発生するスロッシング現象により浮屋根が大きく揺動し、貯蔵液が浮屋根上や貯槽外部に洩れだす、浮屋根自身が損壊する、タンクの内容物によっては浮屋根と側壁の摩擦により火災が発生する、等の問題を生じる恐れがある。
【0003】
浮屋根が大きく揺動するのを抑制する技術としては、タンク本体に設けられる支柱によって浮屋根の傾きを規制するものがある。すなわち、タンク本体の内部に複数の支柱を立設し、浮屋根にも複数の貫通孔を空けて支柱を浮屋根に貫通させ、浮屋根の貫通孔の上下にテーパー状の応力装置を取り付けている。このようにすることで、スロッシングにより浮屋根が傾き始めると、浮屋根が支柱に引っかかり、浮屋根の揺動が小幅に止められる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−247420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、直径数十メートルにもなる浮屋根が一度傾き始めてしまうと、たとえ角度が微小であっても支柱に加える曲げ応力は相当な大きさとなる。浮屋根に応力分散部材を取り付けて支柱に局所的な応力がかかることを防いでいるとはいえ、この応力を受け、分散させるためには、支柱の強度を相当に高めるか、支柱をかなりの本数設ける必要が出てくる。このような支柱を設置するには大変な手間とコストがかかるし、既存のタンクへの設置ともなれば更に困難である。
【0005】
本発明の課題は、浮屋根式の液体タンクにおいて、低コストかつ簡素な設備で浮屋根の揺動を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、浮屋根式タンクに備えられる浮屋根揺動防止装置であって、タンク本体の浮屋根の上方位置に設けられる上側線材掛け部と、前記タンク本体の内底近傍に設けられる下側線材掛け部と、前記浮屋根に支持され、前記上側線材掛け部及び前記下側線材掛け部に掛けられる線材と、前記線材の動きを規制する制動装置と、を有する浮屋根固定装置を複数備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の浮屋根揺動防止装置であって、前記線材の両端は接続されて環状をなしていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の浮屋根揺動防止装置であって、前記上側線材掛け部又は前記下側線材掛け部に前記線材を滑らかに移動させるための滑車を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の浮屋根揺動防止装置であって、前記制動装置は、前記滑車の回転を止めることにより前記線材の動きを規制することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置であって、前記制動装置は、前記線材を直接押さえることにより前記線材の動きを規制することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置であって、前記下側線材掛け部は、前記内底に設置される重錘であることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置であって、前記下側線材掛け部は、前記タンク本体に固定されることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置であって、前記浮屋根に前記線材を通す孔が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スロッシング現象の原因となる貯蔵液の上昇流が液面に達しても、制動装置によって動きが規制された線材の下向きの張力により、浮屋根は貯蔵液の上昇流を押さえつけて液面を強制的に水平状態に保ち、自身も傾くことがない。このため、浮屋根が揺動したときの応力を受けるための頑丈な支柱を設ける必要がなく、簡単な設備で浮屋根の揺動を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用した浮屋根揺動防止装置10の一実施形態の構成を示すもので、1は浮屋根固定装置、2はタンク本体、3は浮屋根である。
【0016】
タンク本体2は、底盤21と、底盤21に対して垂直に設けられる側壁22からなる円筒形の構造物で、その内部には原油などの燃料やナフサなどの化学薬品、水、その他の液体が貯蔵されている。タンク本体2は鉄や鉄筋コンクリート等で作られている。
【0017】
浮屋根3は、タンク本体2の内部を水平に上下動することが可能に設けられている。浮屋根3は円盤状のデッキ31と、デッキ31の周囲に環状に設けられるポンツーン32からなる。ポンツーン32の内部は気密な空洞となっているため、タンク本体2に液体が貯蔵されているときには、ポンツーン32に浮力が作用し浮屋根3が液面に浮かぶ。このため、液面と浮屋根3との間に気相が生じることがなく、貯蔵液の蒸発損失を少なくすることができる。また、ポンツーン32には上下方向に貫通する孔32aが、ポンツーン32の円周上に等間隔に複数形成されている。孔32aは、図1の破線で示す箇所が壁面となっているので、ポンツーン32の気密性が保たれる。なお、タンク本体2と浮屋根3との間にできる隙間には図示しないシール部材が取り付けられており、貯蔵液の漏出を防止できると共に、浮屋根3が水平方向に揺動した際の側壁22と浮屋根3の衝突を防止できるようになっている。
【0018】
次に、浮屋根揺動防止装置10の構成について説明する。
浮屋根揺動防止装置10は、線材であるワイヤ11、下側線材掛け部であるシンカー12、上側線材掛け部である支持部13等を一組の浮屋根固定装置1とし、その浮屋根固定装置1を浮屋根3の円周に沿って等間隔に複数配置(例えば、上方から見て45度間隔に8組配置)することで構成されている。
【0019】
シンカー12は、タンク本体2の内底に沈められている重錘である。シンカー12の上部には下部滑車12aが取り付けられており、ワイヤ11を掛けて滑らかに移動させることができるようになっている。シンカー12は浮屋根3の浮力と、スロッシング現象による貯蔵液の上昇力を合わせても持ち上がらない程度に十分な重量を有している。シンカー12は貯蔵液中に沈めるだけで設置可能なので、既存のタンクにも本発明の適用が容易である。必要であればシンカー12をタンク本体2に固定してもよい。
【0020】
支持部13は、タンク本体2の側壁22の内側から、タンク本体の中心方向に向かって突出するように取り付けられている。支持部13の下部には上部滑車13aが取り付けられており、ワイヤ11を掛けることができるようになっている。
【0021】
上部滑車13aには図示しない滑車回転速度検知手段と、滑車を両面から挟み込んで回転を規制する制動装置であるストッパー13bが備えられている。また、浮屋根揺動防止装置10には図示しない制御装置が備えられており、制御装置は滑車回転速度検知手段の検知結果に基づいてストッパー13bを制御する。例えば、制御装置に所定の滑車回転速度を記憶させておき、滑車が所定速度より速く回転した場合や、複数の滑車速度検知手段のうち一部において、滑車が異なる方向に回転していることを検知した場合等にストッパー13bを作動させる。
【0022】
ストッパー13bが解除されているときには、上部滑車13aは回転することができ、ストッパー13bが作動しているときには上部滑車13aの回転が規制されるようになっている。複数のストッパー13bは図示しない制御装置によって、同期をとりながら作動するようになっている。すなわち、ストッパー13bを作動・解除させるときにはすべてのストッパー13bが一斉に作動・解除されるようになっている。
【0023】
ワイヤ11は、上部滑車13a及びシンカー12の下部滑車12aに掛けられ、両端が接続されている。ワイヤ11は緊張した状態となっているため、ワイヤ11は図1に示すように縦に細長い環状をなしている。また、ワイヤ11には上下方向に延びる直線部11a及び11bができる。二本の直線部11a及び11bは、ポンツーン32を貫通している。直線部11aは、ポンツーンの孔32aに通され、ポンツーン32と直線部11aが相対的に移動することが可能となっている。直線部11bはポンツーン32を貫通しつつポンツーン32に固定されている。このため、上部滑車13aのストッパー13bが解除された状態で浮屋根3が上下動すると、それに合わせてワイヤ11も動き、ワイヤ11の動きに合わせて下部滑車12a及び上部滑車13aがそれぞれ回転するようになっている。上部滑車13aのストッパー13bが作動していると、上部滑車13aが回転しないため、ワイヤ11の動きが規制される。
【0024】
このように簡単な構成の装置を用いるため、設置コストも抑えられるし、既存のタンクへの設置も容易である。
【0025】
次に、浮屋根揺動防止装置1の動作について説明する。
タンク本体2に液体が貯蔵されているとき、浮屋根3はある高さで、液面上に水平に浮いている。この状態ではストッパー13bは解除されておりワイヤ11の動きは規制されてはいないが、ワイヤ11は緊張されているので、浮屋根3はワイヤ11の上下方向からの張力により、浮屋根揺動防止装置1が取り付けられていないものより揺動しにくい状態となっている。
【0026】
ところで、タンクは液体を一時的に貯蔵しておくものであるから、液体をタンク本体2に運び込む、或いはタンク本体2から貯蔵液を運び出すことで、タンク本体2内の液体貯蔵量は増減するものである。液体を外部から運び込むと、貯蔵液の増加と共に浮屋根3がゆっくりと水平に上昇する。反対に、貯蔵液を外部へと運び出すと貯蔵液の減少と共に浮屋根3がゆっくりと水平に下降する。このとき図示しない複数の滑車回転速度検出手段は、所定範囲内速度の回転を同時に検知するので、ストッパー13bを作動させない。このため、液体の出し入れに特別な作業を必要としない。
【0027】
このタンク本体2の設置箇所付近で地震が発生した場合、タンク本体2も地盤の揺れに合わせて揺動する。タンク本体2が水平方向に揺動した場合、タンク本体2に貯蔵されている貯蔵液も水平方向に揺動し始める。貯蔵液が側壁22に衝突すると、水平方向に流れていた貯蔵液が方向を変えて上昇し始める。上昇してきた貯蔵液が液面に達すると、貯蔵液は液面を盛り上げようとすると共に浮屋根3を下方から押し上げ始める。このとき、図示しない各滑車回転速度検知手段は、所定速度よりも速い回転を検知したり、それぞれで異なる速度の回転を検知する。すると、図示しない制御装置が即座に全てのストッパー13bを作動させワイヤ11の動きを規制する。すると浮屋根3は上下方向に固定された状態となり、浮屋根3はワイヤ11によって下方向から十分な力で引っ張られる。このため、貯蔵液は浮屋根3を押し上げることができずに再び方向を変える。貯蔵液は非圧縮性流体であるため、浮屋根3を押し上げて、液面に盛り上がる箇所ができない以上、液面が沈み込む箇所もできない。従って、タンク本体2内部でどのような液流が生じたとしても、液面は強制的に水平の状態に保たれ、浮屋根3は傾くことがない。このため、各浮屋根固定装置1にも無理な力がかかることはない。
【0028】
なお、以上の実施形態においては、円筒形のシングルデッキ式の浮屋根式タンクとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、四角形など他の形状のタンクであっても良いし、ダブルデッキの浮屋根を採用してもよい。
また、ここではワイヤの直線部のうち、内側に位地する方を浮屋根に固定しているが、外側を固定するようにしても良い。その他、ワイヤの両端を接続せずにC字状とし、ワイヤの両端を浮屋根に貫通させずに浮屋根の上面及び下面にそれぞれ固定するようにしてもよい。
また、ワイヤをタンク底部に掛けるためにシンカーを用いたが、滑車を直接タンク本体に固定するようにしてもよい。
ワイヤの通し方についても、ポンツーンに貫通させずにデッキを貫通するようにしてもよいし、ポンツーンと側壁の間を通すようにしてもよい。
また、ストッパー13b付滑車の代わりに通常の滑車を用い、ストッパー13bをワイヤ11上の何処かに設置して、ワイヤを直接押さえるようにしてもよい。支持部13は、タンク本体2の外側に逆L字状のポール等を設置し、そこに固定してもよい。
また、浮屋根と線材の固定方法等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を適用した浮屋根揺動防止装置の一実施形態の構成を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 浮屋根揺動防止装置
1 浮屋根固定装置
11 ワイヤ(線材)
12 シンカー(下側線材掛け部)
12a 下部滑車
13 支持部(上側線材掛け部)
13a 上部滑車
13b ストッパー(制動装置)
2 タンク本体
21 底盤
22 側壁
3 浮屋根
31 デッキ
32 ポンツーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮屋根式タンクに備えられる浮屋根揺動防止装置であって、
タンク本体の浮屋根の上方位置に設けられる上側線材掛け部と、前記タンク本体の内底近傍に設けられる下側線材掛け部と、前記浮屋根に支持され、前記上側線材掛け部及び前記下側線材掛け部に掛けられる線材と、前記線材の動きを規制する制動装置と、を有する浮屋根固定装置を複数備えることを特徴とする浮屋根揺動防止装置。
【請求項2】
前記線材の両端は接続されて環状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の浮屋根揺動防止装置。
【請求項3】
前記上側線材掛け部又は前記下側線材掛け部に前記線材を滑らかに移動させるための滑車を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の浮屋根揺動防止装置。
【請求項4】
前記制動装置は、前記滑車の回転を止めることにより前記線材の動きを規制することを特徴とする請求項3に記載の浮屋根揺動防止装置。
【請求項5】
前記制動装置は、前記線材を直接押さえることにより前記線材の動きを規制することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置。
【請求項6】
前記下側線材掛け部は、前記内底に設置される重錘であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置。
【請求項7】
前記下側線材掛け部は、前記タンク本体に固定されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置。
【請求項8】
前記浮屋根に前記線材を通す孔が設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の浮屋根揺動防止装置。

【図1】
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