説明

浮遊ウイルス不活化評価方法およびその装置

【課題】空間中にウイルスを安定的に浮遊させることができ、ウイルス不活化評価を高精度に行うことが可能な浮遊ウイルス不活化評価方法およびその装置の提供。
【解決手段】隔離壁により外部空間と隔離された評価室1内に、安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス含有浮遊粒子を供給し、評価室1内の浮遊ウイルスの数を計測して評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮遊ウイルス不活化評価方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新型インフルエンザ(H1N1)の流行により、空気清浄機などのウイルスを不活化または除去する家電製品のニーズが高まっている。ウイルスを不活化・除去する方法としては、従来から提案されているHEPA等を用いたフィルターによる空気中のウイルス浮遊粒子の除去方法がある。この方法は、空気中の微小物質を物理的に捕集することにより、空気中から除去するものである。また、近年はラジカルやイオンに代表される様々な空気浄化技術が注目されている。この技術は、不活化デバイスにより生成したラジカルやイオン等の変性や分解等の作用により、空気中に浮遊するウイルスの有害性をなくす方法である。
【0003】
このような技術を用いた家電製品の開発においては、該製品の性能評価を正確に行うことにより、要求される空気浄化機能と低エネルギー化等を両立させた設計が可能になる。このため、空気環境の測定技術は商品開発において非常に重要なものとなっており、浮遊ウイルスの不活化評価方法の確立が不可欠となっている。
【0004】
特許文献1においては、微生物の除去評価方法および装置を利用して、閉じられた空間内の浮遊物質に何らかの作用を施すことによる除去効果試験の定量的評価を効果的に行えることを提案している。
【0005】
また、特許文献2には、隔離壁により外部空間と隔離された評価室内に微生物を浮遊させ、微生物を除去するための除去粒子を放出した後、評価室内の微生物を採取して測定し、除去粒子による除去効果を評価する装置が提案されている。この装置では、隔離壁のほぼ全面に多数の空気供給孔を設け、この空気供給孔から評価室内へ空気を流入させ、この空気流により、隔離壁付近の微生物を評価室内側へはじき飛ばすようにしている。これにより、隔離壁に微小物質が付着するのを防止して評価室内に安定的に微生物を浮遊させるようにしている。
【0006】
また、評価室内に浮遊しているウイルスの数を計測するにあたっては、浮遊しているウイルスを回収液中に採取し、そのウイルス懸濁液中のウイルス数を、50% tissue culture infective dose(TCID50)法やプラーク法を用いて計測する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−159508号公報(第7頁、第8頁、図1)
【特許文献2】WO2008/010394A1号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
空気中のウイルス粒子に対する不活化効果を調べるには、比較的長時間での浮遊ウイルス不活化効果を調べる必要がある。よって、評価室内に、ウイルスを長時間安定して浮遊させる必要がある。しかしながら、特許文献1の技術では、評価対象の浮遊物質を評価室内に安定的に浮遊させる点について考慮されていない。
【0009】
特許文献2の技術では、評価対象の浮遊物質を評価室内に安定的に浮遊させる点について考慮されている。しかし、特許文献2では、その方法として、壁面等から空気を送る方法を採用している。この方法は、特許文献2のように浮遊物質として芽胞形成菌を用いる場合には有効であるが、乾燥に弱いウイルスに対しては有効ではない。すなわち、この方法でウイルスを浮遊させたとしても、著しく自然減衰してしまい、安定的に浮遊させることはできない。よって、そのようなウイルス浮遊環境下で評価試験を行っても、ウイルス不活化デバイスの効果を正当に評価することはできず、十分な精度で評価試験を行うことができないという問題があった。
【0010】
また、上記の50% tissue culture infective dose(TCID50)法やプラーク法によるウイルス数の計測は、感染細胞の細胞変性効果(Cytopathic effect, CPE)や培養細胞に生ずるプラークを指標としている。このため、測定方法、操作法が煩雑で、且つ判定方法にかなりの習熟度を必要とし、さらには、判定までに1日から約一週間の日数を必要とするという問題があった。
【0011】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、評価室中にウイルスを安定的に浮遊させることができ、ウイルス不活化評価を高精度に行うことが可能な浮遊ウイルス不活化評価方法およびその装置を提供することを第1の目的とする。
【0012】
また、本発明は、空間中のウイルスを迅速に測定可能な浮遊ウイルス不活化評価方法およびその装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る浮遊ウイルス不活化評価方法は、隔離壁により外部空間と隔離された評価室内に、安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス含有浮遊粒子(以下、ウイルス粒子)を供給し、評価室内の浮遊ウイルスの数を計測して評価するものである。
【0014】
また、本発明に係る浮遊ウイルス不活化評価方法は、隔離壁により外部空間と隔離された評価室内に所定のウイルス液を噴霧することにより、評価室内に、所定の粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、所定の粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより評価室内のウイルス数を計測して評価するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、評価室内に、安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス含有浮遊粒子を供給するため、評価室内にウイルス粒子を安定して浮遊させることができる。よって、ウイルスの不活化評価を高精度に行うことができる。
また、本発明によれば、所定のウイルス液を噴霧して、評価室内に、所定の粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、所定の粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより評価室内のウイルス数を計測するため、評価室内のウイルス数を迅速に測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る浮遊ウイルス不活化評価装置を示す概略断面図である。
【図2】ウイルス液中の残栄養塩濃度と、その濃度のウイルス液を噴霧した際の粒子径0.3〜0.5μmの粒子数との関係を示した図である。
【図3】ウイルス液中の残栄養塩濃度と、その濃度のウイルス液を噴霧した際の、粒子径0.3〜0.5μmの粒子の全粒子数に占める割合との関係を示した図である。
【図4】残栄養塩濃度と表面張力との関係を示した図である。
【図5】残栄養塩濃度と電気伝導度との関係を示した図である。
【図6】噴霧高さを変えた場合の浮遊ウイルス粒子数を示した図である。
【図7】壁からの噴霧位置を変えた場合の浮遊ウイルス粒子数を示した図である。
【図8】JIS3800Kで規定されているミゼットインピンジャーを示した図である。
【図9】流速と浮遊ウイルス回収量の関係の一例を示した図である。
【図10】評価室床面・壁面の帯電量と浮遊ウイルス付着数の関係を示した図である。
【図11】風向き可変攪拌方法を用いた場合の評価室内での空気の流れを示す図である。
【図12】空間体積10m3の室内空気を、風向き可変攪拌ファンを7.8m3/分の風量で攪拌した場合の、ウイルス噴霧時の評価室内での浮遊粒子測定ポイント(7箇所)での粒子径0.3〜0.5μmの浮遊粒子数の経時変化を示す流量と浮遊ウイルス回収量の関係の一例を示した図である。
【図13】評価室内の浮遊粒子数測定ポイントを示した図である。
【図14】空間体積10m3の室内空気を、攪拌しなかった場合のウイルス噴霧時の評価室内での浮遊粒子測定ポイント(6箇所)での粒子径0.3〜0.5μmの浮遊粒子数の経時変化を示した図である。
【図15】図1の採取部4bの概略構成を示す図である。
【図16】実施の形態1による空気調和装置を運転しない状態でのウイルス数変化を計測した結果である。
【図17】実施の形態1による空気調和装置を運転した状態でのウイルス数変化を計測した結果である。
【図18】実施の形態1による空気調和装置を運転しない状態での評価室内でのウイルス噴霧後の直径0.3μm〜0.5μmの粒子数の変化結果である。
【図19】実施の形態1による温度とウイルスの浮遊量の相関を調べた結果である。
【図20】実施の形態1による湿度とウイルスの浮遊量の相関を調べた結果である。
【図21】本発明の実施の形態2に係る浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。
【図22】図21の噴霧装置2の概略構成図である。
【図23】本発明の実施の形態3に係る浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。
【図24】図23の噴霧装置20Aの概略構成図である。
【図25】本発明の実施の形態4に係る浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。
【図26】図25のウイルス採取装置4fの概略構成図である。
【図27】本発明の実施の形態5に係る浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構成に限定されるものではない。
【0018】
実施の形態1.
まず、浮遊ウイルス不活化評価装置の具体的な構成を説明するに先立ち、浮遊ウイルス不活化評価装置における試験方法の概要について説明する。
浮遊ウイルス不活化評価装置は、外壁により外部空間と隔離された評価室内にウイルスを供給し、続いてウイルス不活化デバイスを備えた装置(例えば、空調機や、空気清浄機といった空気調和装置等)を駆動して評価室内にウイルスを不活化させる不活化粒子を供給し、ウイルスを不活化する。そして、ウイルス不活化デバイスによるウイルス不活化後の評価室内のウイルス数を計測し、ウイルス不活化デバイスによるウイルスに対する不活化能力を評価する。
【0019】
以下、本実施の形態1の浮遊ウイルス不活化評価装置で使用するウイルスや、評価室内に長期間、安定してウイルスを浮遊させるための構成等について説明する。なお、本実施の形態1では、下記の方法で作成した大腸菌ファージφX174(ATCC13706−B1)液を原液として、滅菌超純水にて100倍希釈したものをウイルス噴霧液とする。そして、その液を、評価室10m3中に、噴霧流量0.45mL/min、10分間で噴霧した場合に関して説明する。しかし、大腸菌ファージの作成方法および本噴霧方法はこれに限ったものではない。なお、大腸菌ファージとは、大腸菌にのみ感染するウイルスのことである。
【0020】
(大腸菌ファージの作成方法)
以下、大腸菌ファージの作成方法について説明する。普通寒天培地で前培養した1コロニーを釣菌し、大腸菌用液体培地に植菌して、37℃18時間培養した。培養後、大腸菌液体培地の吸光度が0.1以上であることを確認し、試験に供した。50ml遠沈管に、上記で作成した大腸菌液体培地5mL(約108CFU/ml)(CFU:Colony forming unit)とファージ5mL(約106PFU/ml)(PFU: Plaque forming unit)を加えて混合し、37℃10分間静置した。この液に、45℃の軟NB寒天培地10mlを添加混合し、当日作製した角型シャーレ下層へ重層し、固定化させて倒置せずに37℃で24時間培養した。培養後、角型シャーレ上層をコンラージ棒およびピペットを用いて、フィルター付きストマッカー用袋に回収し、2分間ストマッキングした。この液を別の50ml遠沈管に移し、3500rpmで10分間遠心し、上澄みをさらに別の50ml遠沈管に移した。
【0021】
この遠心操作を2回繰り返しした後、上澄みを30分間氷冷し寒天を析出させ、さらに1回遠心して寒天を除いた。遠心後の上澄みを孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過したものを大腸菌ファージ原液として試験に供した。なお、作成したファージ原液は、試験に供すまで−85℃で凍結保存している。
【0022】
上記に記載した大腸菌ファージ原液を用い、ウイルスを噴霧する場合、ウイルス噴霧液としては、液の表面張力が60〜70(×10-3N/m)、望ましくは65〜69(×10-3N/m)に調節した液を用いるのが望ましい。このようにして噴霧した場合、ウイルス含有浮遊粒子(以下、ウイルス粒子と記載する)の粒子径は0.3〜0.5μmとなる。ウイルスは、ウイルス粒子のみを分離噴霧することができないため、基本的に水溶液中に懸濁された状態で噴霧される。ウイルスは、他の微生物に比べ、粒子径が数十nmと非常に小さいため、ウイルス粒子の粒子径は、噴霧する際に、ウイルスとともに飛散する水分性状に支配される。
【0023】
(安定浮遊に好ましいウイルス粒子直径)
ウイルスをウイルス粒子として浮遊させた場合、粒子径が大きいと、自重により自然落下してしまう。逆に、粒子径が小さいと、ウイルスを包む水分が少なくなり、乾燥によりウイルスが不活化しやすい状態となってしまう。以上のようなことから、ウイルスを不活化することなく、安定に浮遊させるためには、ウイルス粒子の噴霧粒子径は、直径0.3〜0.5μmが望ましい。
【0024】
(噴霧方式)
以下、噴霧方式について説明する。ウイルスは、残栄養塩濃度を、表面張力、または電気伝導度、または粘度により規定したウイルス噴霧液をジェット式ネブライザで噴霧するのがよい。大腸菌ファージ原液を噴霧する場合、原液は上記のように、寒天培地内で、感染させ、増殖させた大腸菌ファージを精製し、作成する。そのため、大腸菌ファージ原液中には、どうしても培地成分である栄養塩が残存してしまう。本報では、その残存する培地成分を、残栄養塩と定義する。具体的には、肉エキス、ペプトン、寒天、塩化ナトリウム、グルコース、酵母エキス、ブドウ糖等であるが、これらだけでなく、大腸菌ファージ、またそのホスト等、本評価において、浮遊させる微生物を培養する際に用いられる成分すべてを残栄養塩とする。
【0025】
また、ネブライザとは、液体を噴霧する装置のことである。液体の噴霧方法としては、ジェット式と超音波式とがあり、前者は高速の空気流を利用して霧吹きの原理で細かな液滴を作り出すもの、後者は超音波振動子によって液体を液滴にし、それをファンによる風にのせて噴霧するものである。大腸菌ファージ原液の100倍希釈液をウイルス噴霧液として、ジェット式、超音波式の両者で、評価室内に噴霧した場合の、評価室中央でのウイルス粒子の粒子径分布を比較した場合、超音波方式に比べ、ジェット式のほうが粒子径は細かく、直径0.3〜0.5μm粒子を噴霧でき、かつ粒子数も多い。そのため、ウイルス噴霧液は、ジェット式ネブライザで噴霧するのがよい。ウイルス噴霧液は、先に示した大腸菌ファージ原液作成方法のように、ウイルスを栄養塩含有液体状で培養した後、それを精製することにより作成される。
【0026】
(残栄養塩濃度)
大腸菌ファージ原液を用いる場合において、ウイルス噴霧液中の残栄養塩濃度と、その液を、評価室内にジェット式ネブライザにより噴霧した際に生じる浮遊物質の粒子径分布との関係では、残栄養塩濃度とともに、噴霧粒子数が変化し、濃度が高くなるほど、全測定粒子径の噴霧粒子数量が多くなった。また、残栄養塩濃度とともに、粒子径0.3〜0.5μmの粒子数比が異なった。
【0027】
図2は、ウイルス液中の残栄養塩濃度と、その濃度のウイルス液を噴霧した際の粒子径0.3〜0.5μmの粒子数との関係を示した図である。図3は、ウイルス液中の残栄養塩濃度と、その濃度のウイルス液を噴霧した際の、粒子径0.3〜0.5μmの粒子の全粒子数に占める割合との関係を示した図である。残栄養塩比が0.001の場合、8×107個/10m3程度存在させることができる。また、0.1倍以上にすると、更に109個/10m3以上噴霧させることができる。なお、粒子数の検出限界は104個/10m3であるため、ウイルス除去デバイス性能を的確に評価するためには、106〜107個/10m3以上対象粒子が存在することが望まれている。
【0028】
また、残栄養塩濃度と粒子径0.3〜0.5μmの粒子の全粒子数に占める割合では、ウイルス噴霧液を噴霧した際に、残栄養塩比として0.1以下と調節すると、粒子径0.3〜0.5μmの粒子の全粒子数に占める割合が50%以上、0.01〜0.001に調節すると、90%程度にすることができる。
【0029】
以上のことより、残栄養塩比として、0.1〜0.001、望ましくは、0.01程度に調節したウイルス噴霧液を噴霧した際に、ウイルス粒子を沈降しにくい直径0.3〜0.5μmの粒子径として、浮遊させることができる。
なお、この各粒子径での噴霧粒子数は、大腸菌ファージの種類によらず、かつ、大腸菌ファージの全く入っていない大腸菌ファージ作成液を原液として用いた場合にも同様の結果が得られる。
【0030】
(残栄養塩濃度:表面張力による設定)
図4は、大腸菌ファージ原液を用いた場合のウイルス噴霧液の残栄養塩濃度と表面張力との関係を示す図である。図4に示すように、ウイルス噴霧液中の残栄養塩濃度が高いほど、表面張力が低下している。これは、残栄養塩が界面活性剤の性質を有していることを示しており、ウイルス噴霧液中の残栄養塩が界面活性作用を有しているため、希釈率が低いほうが、ネブライザで噴霧した際の粒子中の水の蒸散が抑制され、その結果、噴霧粒子数が増加、かつ、噴霧粒子径が大きいほうにシフトする結果となったと考えられる。
【0031】
先の方法にて作成した大腸菌ファージ原液を用いる場合、ウイルス噴霧液の表面張力を60〜70(×10-3N/m)、望ましくは、65〜69(×10-3N/m)と規定することで、残栄養塩濃度を制御し、ウイルス噴霧液を噴霧した際に生じるウイルス粒子を、沈降しにくい直径0.3〜0.5μmの粒子径として、浮遊させることができる。
【0032】
(残栄養塩濃度:電気伝導度又は粘度による設定)
図5に、大腸菌ファージ原液を用いた場合のウイルス噴霧液の残栄養塩濃度(噴霧粒子径)と電気伝導度との関係を示す。残栄養塩濃度と、電気伝導度においても相関があることがわかる。表面張力のかわりに、電気伝導度を、10〜1000μs/cm、望ましくは100μs/cmと規定したウイルス噴霧液を噴霧することにより、ウイルス粒子の粒子径分布を制御したウイルス噴霧が可能となる。また、ウイルス噴霧液の粘度を規定することによっても、ウイルス噴霧液を噴霧することにより、ウイルス粒子の粒子径分布を制御したウイルス噴霧が可能となる。
【0033】
なお、大腸菌ファージ、またウイルスの原液の作成方法として、先の方法とは別の方法を用いた場合は、ウイルス噴霧液の性状と噴霧した際のウイルス粒子の粒子径分布の関係を明確化し、上記の方法にて、ウイルス噴霧液中の残栄養塩濃度を規定することで、ウイルス粒子の粒子径分布を制御したウイルス噴霧が可能となる。
【0034】
(ウイルス数の計測)
評価室内に浮遊するウイルス数を計測する場合、浮遊しているウイルスを回収液中に採取し、そのウイルス懸濁液中のウイルス数を、50% tissue culture infective dose(TCID50)法やプラーク法を用いて計測する必要がある。これらの方法は、感染細胞の細胞変性効果(Cytopathic effect, CPE)や培養細胞に生ずるプラークを指標としているため、測定方法、操作法が煩雑であり、かつ判定方法にかなりの習熟度を必要とし、さらには、判定までに1日から約一週間の日数を必要とする。
【0035】
大腸菌ファージφX174の原液(1010PFU/ml)を表面張力が65、または69(×10-3N/m)となるよう、滅菌水にて、10倍希釈および100倍希釈し、ジェット式ネブライザ(NE−C29、オムロン製)を用いて、評価室10m3中に、それぞれ噴霧流量0.45mL/min、10分間、噴霧した。100倍希釈液を噴霧した場合、噴霧粒子径が0.3〜0.5μmの粒子数は5.0×108個/10m3で、最も粒子数が高く確認され、この際、噴霧されたウイルス噴霧数は、4.5×10810PFU/10m3と算出され、粒子径0.3〜0.5μmの粒子数とほとんど同数検出された。また、10倍希釈液を噴霧した場合においても、噴霧粒子径が0.3〜0.5μmの粒子数は9.0×109個/10m3で、最も粒子数が高く確認され、この際、噴霧されたウイルス噴霧数は、5.0×10910PFU/10m3と算出され、粒子径0.3〜0.5μmの粒子数とほとんど同数検出された。
【0036】
つまり、この噴霧方法で、ウイルス噴霧液を噴霧すると、粒子径0.3〜0.5μmのウイルス粒子一つに対し、ウイルス、具体的には大腸菌ファージφX174が1存在する系を確立することができる。その結果、粒子径0.3〜0.5μmの粒子をパーティクルカウンターで計測することで、ウイルス数、具体的には大腸菌ファージφX174数を推定することが可能となる。つまり、本来上記のように計測するのに時間を有したウイルス数を、パーティクルカウンター等で粒子数を測定することにより、リアルタイムに推定することができる。ただし、ウイルス不活化メカニズムは、多種多様であるため、パーティクルカウンターでの粒子数の測定と、ウイルス数との間にずれが生じる場合がある。その場合は、粒子数の減少数が物理的除去の効果となるとともに、粒子数とウイルス数の差数がウイルス不活化による効果となるため、ウイルス不活化メカニズムを検証する方法として使用することが可能となる。
【0037】
(ウイルス噴霧場所)
以下、ウイルス噴霧場所について説明する。評価室内の噴霧ウイルス場所は特に規定しない。図6、図7は、評価室10m3の中で、大腸菌ファージ原液を用いたウイルス噴霧液をジェット式ネブライザを用いて噴霧させる場合に、噴霧場所を変えた際の、パーティクルカウンターによる評価室中央での粒子径0.3〜0.5μmの粒子数を測定した結果を示す図である。噴霧場所に関係なく、噴霧ウイルス数が一定であり、噴霧場所が浮遊ウイルス数に影響を与えないことがわかる。ただし、ウイルス不活化評価デバイスの設置に影響を与えない場所で噴霧するのがよい。
【0038】
(ウイルス採取手段)
以下、評価室内のウイルスを採取するウイルス採取手段について説明する。浮遊ウイルスの採取には、図8に示すJIS3800Kで規定されているミゼットインピンジャー(以下、インピンジャーと記載する)を用いると、ウイルス採取率が高く、有効である。具体的な採取方法としては、インピンジャーノズル先端部での流速が105m/s以下、望ましくは105m/sで、インピンジャーを直列に多段式に連結させるのがよい。特に、四連連結が望ましい。また、各インピンジャーの前に差圧計および圧力可変なオリフィスを接続させるのが望ましい。以下、その理由について順次説明する。
【0039】
(ウイルス採取手段:インピンジャーノズル先端部での流速)
まず、インピンジャーノズル先端部での流速が105m/s以下である必要性に関して説明する。一般的に、芽胞菌等をインピンジャーで採取する際には、インピンジャー入口流量を12.5L/minまで増加させる。これは、インピンジャーのノズル径が入口径φ8mmから先端径φ1mmと急激に細くなることを利用して、ノズル先端での速度を265m/sと音速程度まで増大させ、採取空気が回収水に衝突する慣性力を利用して採取効率を高めるためである。音速まで速度を増大させると、ノズル径が小さくなったインピンジャー内部の空気は、圧縮系となり、その結果、熱が上昇する。芽胞形成菌等は、硬い細胞壁で覆われているため、圧力・熱に強く、上記の状態に曝されても性状が変わることはない。
【0040】
しかし、ウイルスは、たんぱく質とDNAやRNAのみから単純な構造を有しており、圧縮、熱がかかった系では容易に感染力が低下し、不活化してしまう。そのため、圧縮、熱のかからない状態、すなわちウイルスに負荷が掛からない状態での採取方法がよい。したがって、インピンジャーノズル先端部での流速を、芽胞菌等を採取する場合よりも下げる必要がある。
【0041】
表1に、インピンジャー入口径φ8mm、先端部φ1mmでの入口流量(回収速度L/min)毎の、ノズル先端での速度とマッハ数と空気状態との関係を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
マッハ数とは、式1に示される流体の流れの速さと音速との比で求まる無次元数で、流れ場のもつ運動エネルギーと内部エネルギーの比率、つまり流れ場における圧縮性の影響力を表している。つまり、マッハ数とは、圧縮性を考慮するか否かの指標であり、マッハ数が小さい=圧縮性の影響が小さい(概ね0.3より小さいとき)流れでは圧縮性を無視できるといわれている。そのため、ノズル先端部での流速は、マッハ数0.3となる流速105m/s以下とするのが望ましい。
【0044】
図9は、φ1mmにおけるインピンジャーノズル先端部での流速とウイルス回収量との関係を示す図である。図9に示すように、回収流速が大きいほどウイルス回収量が高い。そのため、回収流速は105m/sとするのが最も良い。
【0045】
M=ω/a ・・・式1
M:マッハ数
ω:流速(m/s)
a:音速(340m/s)
【0046】
なお、インピンジャー入口径φ8mm、先端部φ1mmの場合、表1に示すとおり、マッハ数0.3となる採取流量は、インピンジャー入口流量5L/minの時であるため、採取流量としては、5L/minがよいことになる。
【0047】
(ウイルス採取手段:インピンジャーの直列多段連結)
インピンジャーを多段式に直列に連結させる理由を説明する。インピンジャー1本で捕集できる粒子数は、10〜20%弱であり、ウイルス採取時においても当てはまる。インピンジャーでの先の大腸菌ファージ原液を用い、ウイルス噴霧液を噴霧した場合のウイルス採取量は、採取空気中のウイルス数に対して17%程度であるため、2本直列で繋いだ場合の1本目、2本目でのウイルス採取量は、17%、14%となり、2本目のインピンジャーにおいても、総採取量の45%を占める。
【0048】
表2に、連結本数と総ウイルス採取量の関係を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
連結本数が増加するほど、回収量が増大する。一般的に、ウイルス回収効率が高いと報告されているゼラチンフィルターにおいての回収効率は40%〜50%である。このゼラチンフィルター以上の回収効率を有するには、表2よりインピンジャーを四連連結させる必要があることがわかる。以上のことから、インピンジャーを多段式に、特に直列に4連以上連結させることにより、他の回収効率よりも高い効率を得ることができる。ただし、多段式にした場合、インピンジャーの連結本数が多くなるほど、必要吸気ポンプ容量が大きくなり、エネルギーが多量にかかる。そのため、回収量が50%を超える四連連結程度が望ましい。
【0051】
(ウイルス採取手段:差圧計および圧力可変なオリフィス)
直列に繋ぐ各インピンジャーの前に差圧計および圧力可変なオリフィスを接続することについて説明する。なお、オリフィスとは、圧力差を作るための絞りのことである。インピンジャー先端ノズル径は、インピンジャー作成のガラス管径によって決定する。一般に市販のガラス管φ1mmの公差は±10%であるため、ノズルの公差も必然的に±10%となり、その結果、ノズル先端部での速度公差は約±20%となる。
【0052】
表3は、インピンジャー先端部ノズル径毎に、ノズル先端部での速度と、ノズル径φ1mmに対する速度比(速度の交差)と、回収率との関係を示した表である。
【0053】
【表3】

【0054】
インピンジャーノズル先端部での流速とウイルス回収量とには、図9に示したように指数的な相関があることがわかり、ノズルの先端部での速度公差が±20%である場合、ウイルス回収量の公差には±24%程度の差が生じてしまう。なお、図9は、単連での試験結果である。
【0055】
しかし、インピンジャー前に、差圧計およびオリフィスを設置し、ノズル先端部での圧力を調節し、ノズル先端部での流速を105m/sに調節することにより、このばらつきは解消される。以下に具体的に説明する。
【0056】
流速と圧力の関係は、式2に示すベルヌーイの式から算出できる。ベルヌーイの定義とは、流れに沿って成り立つエネルギー保存の法則のことで、流体の挙動を平易に表した式である。インピンジャー入口での流量を5L/minとした場合、使用したインピンジャーノズルでの流速、その時の圧力(大気圧)を基準にして、流速を105m/sに変化させるのに必要な圧力が、式2から、算出できる。
【0057】
V2/2+P/ρ+gZ=k・・・式2
V:流速(m/s)、P:圧力(N/m2)、ρ:密度(kg/m3、0℃1atmの場合、1.293)
t℃における空気の密度ρは下記の式3で表される。
ρ=1.293×P/(1+0.00367t) ・・・式3
【0058】
表4に、ノズル先端径をφ0.9mm、1.0mm、1.1mmとした場合のノズル先端での速度と、ノズル先端部での流速を105m/sにするために必要な圧力を上記式1から算出した結果を示す。
【0059】
【表4】

【0060】
ノズル径が最も小さくなるφ0.9mmのインピンジャーを用いる場合には、3.7kPaの圧力をさげるオリフィスをインピンジャー前に設置する必要がある。また、ノズル径が最も大きくなるφ1.1mmのインピンジャーを用いる場合には、2kPaの圧力を加えるオリフィスを設置する必要がある。なお、ノズル径がφ1.0mmの場合は、圧力をかける必要がない。
【0061】
なお、ウイルスは、先に述べたとおり、圧縮系、つまり圧力をかけた条件で回収すると、ウイルスの感染価の低下等を招く恐れがある。しかし、インピンジャーノズル部の流速を変えるのに必要な圧力(−3.7〜2.0kPa)による圧縮は、ウイルス感染価に全く影響を与えないことは確認済みである。
【0062】
以上のことから、各インピンジャーの前段に、差圧計および圧力可変なオリフィスを設置することにより、必然的に生じるノズル先端部の直径の公差によらず、ノズル先端での流速を105m/sに調節することが可能となる。その結果、回収量のばらつきが劇的に減少し、±5%以下に抑えられる。なお、ここでは、各インピンジャーの前段に差圧計およびオリフィスを設けるとしたが、連結させる複数のインピンジャーのうち、ノズル径が等しいインピンジャーが存在し、且つそのノズル径が等しいインピンジャーを順番に直列に連結させる場合には、ノズル径が等しいインピンジャー間の差圧計およびオリフィスは省略できる。
【0063】
また、連結させるインピンジャーのノズル径がすべて等しい場合に限っては、インピンジャーノズル先端部における流速が105m/sとなる入口流量を、式4により算出し、入口流量を変化させ、ウイルスを回収する方法を用いても良い。
U×A=K・・・式4
U:流速(m/s)
A:断面積(m2
K:定数(=流量 m3/s)
【0064】
(評価室)
評価室には、外部空間から評価室内への空気を取り入れるための空気取入口を設ける。空気取入口には、取り入れられる空気中の埃や微生物等を採取する吸気中微小物質採取手段を設けることが望ましい。具体的な方法としては、空気取入口にHEPA等のフィルターを設ける。これにより、評価室内の微小物質による汚染を防ぐことができる。
【0065】
また、評価室には、評価室内の空気を外部空間へ排出する空気排出口を設ける。空気排出口には、排出される空気中のウイルスを採取する排気中ウイルス採取手段を設ける。これにより、評価室内のウイルスが外気中に漏れるのを防ぐことができる。
【0066】
評価室は、常圧が望ましいが、陰圧状態であることが望まれる。評価室内が加圧状態とならないようにするための手段として、空気排出口から、評価室内の空気を吸引し、評価室内を陰圧状態に保持する吸引手段を設ける方法がある。評価室内の空気を強制的に外部空間へ排出することにより、評価室内の気圧を下げることができる。
【0067】
また、その他の評価室内が加圧状態とならないようにするための手段として、評価室内を仕切り、評価室内で移動可能な可変壁を設け、該可変壁の移動により評価室の容積を変更可能とする方法が挙げられる。容積を大きくすることにより、評価室が加圧状態となるのを防ぐことができる。
【0068】
評価室内の温度、湿度は調節されていることが望ましい。温度や湿度の変化に弱いウイルスを安定的に空間中に浮遊させることができる。具体的には、空気取入口よりも上流側に温度、または湿度を調節する空気調和部を設けることができる。また、評価室内に空気調和部を設ける構成としてもよい。
【0069】
試験環境における湿度の調節は、水の加熱により蒸発させた高温水蒸気を一度冷ました後飛散させる低温加湿器がよい。水を加熱し、蒸発させる場合、水蒸気の殺菌につながり、無菌化される。また、その高温水蒸気を一度冷ますことにより、高温によるウイルスの不活化効果を無効化することができる。加湿器には、一般的超音波で水にエネルギーを与え、空気中に飛散させる方法があるが、この方法では、噴霧させる水中の殺菌工程がないため、浮遊ウイルス除去試験装置内の加湿方法としては望ましくない。なお、最適浮遊ウイルス温度、湿度は、噴霧するウイルスにより異なるため、それぞれのウイルスの最適環境に合わせた設定を行うことが望ましい。
【0070】
評価室の床面、壁面の材質は、帯電量108Ω以下が望ましい。塗装鋼板やステンレス鋼である。床面、壁面が109Ω以上と帯電すると、物質が吸着しやすくなり、浮遊させたウイルス粒子が床面や壁面に付着してしまう。
【0071】
図10に、帯電量と浮遊ウイルス付着数の関係を示す。帯電量が108Ω以上になると急激に浮遊ウイルスが付着する。そのため、帯電量を108Ω以下にすると、浮遊ウイルス粒子が床面、壁面に付着するのを防ぐことができる。また、評価室の内部空間で、ウイルスを浮遊させるために、浮遊ウイルスの下方から評価室の内部空間を攪拌して行うことができる。攪拌方法としては、風向き可変攪拌方法を用いるのが良い。風向き可変攪拌とは、攪拌方向が一方向ではなく、常時円を描きながら、他方に風向きを変え、攪拌を行う方法である。
【0072】
図11は、この手法により、評価室内の空気の攪拌を行った場合の室内の空気の流れを示す図である。評価室内の空気は、床から円を描くように上昇する攪拌となる。その結果、評価室内に噴霧されたウイルス粒子の自重による自然沈降を防ぐことができる。なお、図11には、風向きを時計回りに記載しているが、風の向きは攪拌ファンの風向き可変方向等により異なる。具体的には、評価室の空間体積10m3においては、7.8m3/分以上の風速で、風向き可変攪拌を行うのがよい。
【0073】
図12は、空間体積10m3の室内空気を、風向き可変攪拌ファンにより7.8m3/分の風量で攪拌した場合の、ウイルス噴霧時の評価室内での浮遊粒子測定ポイント(7箇所)における、粒子径0.3〜0.5μmの浮遊粒子数の経時変化を示す図である。なお、図13は、評価室内の浮遊粒子数測定ポイントを示している。また、図14は、比較として空間体積10m3の室内空気を攪拌しなかった場合のウイルス噴霧時の評価室内での浮遊粒子測定ポイント(6箇所)における、浮遊粒子測定ポイントでの粒子径0.3〜0.5μmの浮遊粒子数の経時変化を示している。
【0074】
(攪拌ファン)
風向き可変攪拌ファンを用い、評価室内空気を攪拌した場合、浮遊粒子測定ポイントすべてにおいて同程度の粒子が測定されるとともに、時間的経過とともに、すべてのポイントにおいて同様に推移できた。その一方で、攪拌ファンを用いない場合は、浮遊粒子測定ポイントすべてにおいて時間的にばらつきが大きく、評価室内で浮遊粒子数にばらつきがあった。
【0075】
空間体積が10m3よりも大きくなる場合は、評価室内全体を1台の風向き可変攪拌ファンで均一に攪拌することは難しい。なぜなら、どうしても、評価室内の中で、風が到達しない部分がでてくるからである。そのため、主に、評価室内全体を攪拌しようとする主的風向き可変攪拌ファンを1台用いるに加え、その攪拌により十分攪拌できない部分を補う補助的風向き攪拌ファンを1台以上用いるのが望ましい。補助的風向き攪拌ファンの設置場所は、評価室の構造によるため、特に限定されるものではないが、主的風向き可変攪拌ファンが設置された場所に対し、評価室内で最も遠くなり、ファンの影響を受けにくい、対角から攪拌することが望ましい。
【0076】
(浮遊ウイルス)
浮遊させるウイルスとしては、特に限定されるものではないが、人体に影響を与えず、かつ、乾燥に強く、浮遊時に自然減衰しにくい大腸菌ファージが望ましい。ウイルスを不活化させる不活化因子としては、オゾンガス、ラジカル粒子、イオン粒子、放射光、X線等を、また、ウイルス不活化デバイスとしては、それらの発生機能を有する空調機、空気清浄機等を用いることができる。
【0077】
(不活化処理)
ここで、上記不活化因子がウイルスを不活化処理できる理由を、以下に述べる。
オゾンは、酸素、または空気を原料としての放電法、紫外線照射法、放射線照射法等により生成する。特に放電法の中でもコロナ放電においては、空気清浄機、空調機等内でのオゾンガスを生成するときに使用されている。以下に、コロナ放電に関して説明する。針状の電極が空中に配置されて高電圧がかけられた場合、その針の先端の周辺に気中放電が生じ、暗くするとその電極周辺にCorona(王冠)状の光が確認される。
【0078】
このように、局所的に放射状の強い電界が存在する場合に現れる気中放電をコロナ放電といい、本放電を行った結果、オゾンが生成する。オゾンは、ウイルスのたんぱく質と結合し、変性させ、また、直接DNAやRNAにアタックし、感染力をなくすことにより、ウイルス不活化作用を生じさせるという効果が生じ得る。また、オゾンは、不活化処理能力を発揮した後、無害な酸素になり、残存することがない。そして、かかるオゾンによりウイルスを不活化処理する能力を評価することが可能になる。
【0079】
オゾンガスと、過酸化水素やUVによる反応によりラジカルOH・が生成される。ラジカル・OH・はきわめて強力な活性を示し、たんぱく質の変性や、DNA、RNAの損傷に作用し、ウイルス不活化作用を生じさせる。また、ラジカルは、即座に、ウイルスや空気中の諸分子と結合し、不活性な物質に変化するため、残存することはない。そして、かかるラジカルによりウイルスを不活化処理する能力を評価することが可能になる。
【0080】
また、ウイルスを不活化処理するにあたり、薬剤を用い、薬剤の粒子を照射して不活化処理することもできる。薬剤を用いて不活化処理すると、前記イオンやオゾンよる場合に比べ、その粒子の供給を簡易な装置で行うことができる。そして、かかる薬剤によるウイルスの不活化効果を評価することが可能になる。
【0081】
なお、特に、ウイルス不活化因子として、オゾンガス、ラジカル等の不活化能力を有するガスまたは粒子を用いた試験方法に本試験方法を好適に用いることができる。空気中にオゾンガス、ラジカル等の不活化能力を有する粒子を放出し、その効果を検証する試験においては、一般家庭用途を想定し、ウイルス粒子が存在する空間内に、人体に害のない範囲で不活化能力を有する粒子を放出する試験が一般的である。したがって、空気中のウイルス粒子に対する不活化効果を調べるには、比較的長時間での浮遊ウイルス不活化効果を調べる必要がある。よって、長時間安定してウイルスを浮遊させる必要がある。その方法として、上述したように、ウイルス粒子径が安定浮遊に好ましい0.3〜0.5μmとなるように残栄養塩濃度を調整するべく、表面張力、電気伝導度及び粘度等を設定する方法が特に顕著に有効である。
【0082】
また、人等が存在する室内空間で、ウイルスを不活化させる試験方法にも本試験方法を好適用いることができる。このような試験の場合においては、人体に害のない範囲での不活化能力試験が一般的である。したがって、空気中のウイルス粒子に対する不活化効果を調べるには、比較的長時間での浮遊ウイルス不活化効果を調べる必要がある。よって、長時間安定してウイルスを浮遊させる必要がある。その方法として、上述したように、ウイルス粒子径が安定浮遊に好ましい0.3〜0.5μmとなるように残栄養塩濃度を調整するべく、表面張力、電気伝導度及び粘度等を設定する方法が特に顕著に有効である。
【0083】
また、採取されたウイルスを計測するにあたり、さらにその粒子の曝露時間による経時変化を測定することもできる。これにより、ウイルスを不活化処理する能力の時間の経過に対する定量的な評価を行うことができる。
【0084】
また、採取されたウイルスを測定するにあたり、ウイルス不活化因子の濃度依存性を測定することもできる。これにより、ウイルスを不活化処理する能力の粒子濃度依存性に対する定量的評価を行うことができる。
【0085】
(浮遊ウイルス不活化評価装置の具体的な構成)
以下、上記の構成を具体化してなる浮遊ウイルス不活化評価装置について説明する。
【0086】
図1は、本発明の実施の形態1に係る浮遊ウイルス不活化評価装置を示す概略断面図である。
本浮遊ウイルス不活化評価装置は、外壁により外部空間と隔離された評価室1内にウイルスを供給するウイルス供給装置としての噴霧装置2と、評価室1内のウイルスを不活化する空気調和装置3と、ウイルス採取装置4と、パーティクルカウンター5aと、室内粒子数測定装置5とを有している。
【0087】
評価室1は、その4方が隔離壁により外部空間と隔離され、気密性の高いクリーンルームとなっている。評価室1の空間サイズは、約10m3(2.2×2.2×2.2m)とされるが、サイズは限定されるものではない。また、評価室1入り口壁側に、前室100が設けられている。また、評価室1の床面、壁面の材質は、帯電量108Ω以下のものを採用することが望ましい。
【0088】
また、評価室1の下方に攪拌ファン6が設けられている。攪拌ファン6は、風向き可変式のファンで、その周囲に気流を形成して空間を攪拌することができ、ウイルス粒子の自重による下方への自然沈降を防ぐことができる。評価室1の空間サイズが10m3の本装置の場合、7.8m3/分以上、望ましくは7.8m3/分の風量がよい。なお、本風量は、人が風を感じない程度の微量な風量である。
【0089】
また、評価室1内には殺菌灯7を装備しており、室内の除菌が可能である。この殺菌灯7は、主に、評価試験前における評価室1内の殺菌に用いられる。また、評価室1内の気圧を計測する気圧計(図示せず)が設けられている。この気圧計は、前室100内の気圧を計測する気圧計(図示せず)と共に、評価室1外から確認可能な位置に配置されている。評価室1の外壁には、評価試験前後に換気を行うための換気口として、空気取入口1aと、空気排出口1bとが設けられる。更に、前室100側に空気出入口1cが設けられている。この空気取入口1a、空気排出口1bおよび空気出入口1cは閉塞可能であり、評価試験中には閉じられている。また、評価室1には、評価室1内部に出入りするための扉9が設けられている。
【0090】
空気取入口1aには、HEPA/活性炭フィルターが設けられ、清浄化された空気を導入することができる。また、空気排出口1bには、HEPA/活性炭フィルターが設けられ、空気を清浄化した後に外部空間に排気することができる。なお、空気取入口1aおよび空気排出口1bに設けられるフィルターはHEPA/活性炭フィルターに限定されるものではなく、他の種類のフィルターを用いても良い。また、空気出入口1cにも同様にHEPA/活性炭フィルターが設けられている。
【0091】
噴霧装置2は、ネブライザ2aと、コンプレッサー2bと、コンプレッサー2bの駆動をON/OFFする電源2cとを有している。ネブライザ2aとコンプレッサー2bは評価室1内に配置され、コンプレッサー2bの駆動により、ネブライザ2a内にセットされた噴霧液が評価室1内へ噴霧される。ネブライザ2aは、床面から100cm、壁面から50cmの部分に、噴霧側が真上になるようにコンプレッサー2b上に設置されている。
【0092】
噴霧装置2により噴霧する噴霧液は、上述の方法によって作成された大腸菌ファージφX174(ATCC13706−B1)液を原液として、滅菌超純水にて100倍希釈したものとする。φX174は、大腸菌に感染するウイルスで、1−DNAを有する直径約26nmで、正20面体のウイルスである。φX174を初めとする大腸菌ファージは、一般的に、人に対しては病原性を有しない。また、乾燥による不活化や、自重による自然落下を防止可能な粒子径0.3〜0.5μmとなるように、表面張力、電気伝導度または粘度の何れかが上述したように調整されたものである。また、ここで使用するネブライザ2aは、上述したように、粒子径0.3〜0.5μmの粒子を噴霧できるジェット式ネブライザを用いることが好ましい。
【0093】
また、ウイルス不活化デバイスとしての空気調和装置3は、具体的には例えばエアコンや空気清浄機で構成され、HEPAフィルターによるウイルス捕集機能や、空気中にオゾンガス、ラジカル等の不活化能力を有する粒子を放出し、ウイルスを不活化させる機能を有する。ここでは、空気調和装置3は、空気中のウイルスを電気集塵により、装置内に捕集し、その後、空気中の水分に高電圧をかけ作成した10〜40nmの水分粒子(イオンが多数存在)によりウイルスを装置内で不活化するシステムとしている。空気調和装置3は支持台3aによって支持されている。
【0094】
ウイルス採取装置4は、評価室1内に配置され、評価室1内のウイルスを採取するための採取管4aと採取部4bとを備えており、第1計測方法によりウイルス計測して評価する第1ウイルス計測装置に相当する。採取管4aは、評価室1及び前室100を貫通して前室100内に延び、採取部4bに接続されている。また、採取管4aの評価室1内の先端は、支持台4cによって支持されている。ウイルス採取装置4には更に、ウイルスを採取して除去された空気を評価室1内に戻すための戻し管4dが接続され、戻し管4dの先端は評価室1の壁面に開口している。このようにウイルスを採取して除去された空気を評価室1内に戻すことにより、評価室1内の圧力を一定に保つようにしている。
【0095】
図15は、図1の採取部4bの概略構成を示す図である。
図15に示すように、採取部4bは、図8のインピンジャー40を四連連結させた後、流量計41およびポンプ42を接続する。流量は5L/minで吸引する。また、各インピンジャー40の前に差圧計43および圧力可変なオリフィス44を接続させ、各インピンジャーノズル先端部(以下、ノズル先端部と略す)40aでの流速が105m/sとなるようオリフィス44を調節している。
【0096】
パーティクルカウンター5aは、評価室1内の粒子径0.3〜0.5μmのウイルス粒子数を計測し、計測結果を評価室1外に配置された室内粒子数測定装置5に出力する。室内粒子数測定装置5は、評価室1内の粒子数をウイルス数としてリアルタイムに測定する。パーティクルカウンター5aおよび室内粒子数測定装置5が第2計測方法によりウイルス計測して評価する第2ウイルス計測装置に相当する。
【0097】
以上のような構成の浮遊ウイルス不活化評価装置を用いた試験手順を以下に説明する。
【0098】
(1)試験準備
試験開始前に、空気取入口1aおよび空気排出口1bを開けて評価室1内に塵の少ない清浄な空気が満たされるようにしておく。また、紫外線を発生する殺菌灯7により、評価室1内部の壁面等をあらかじめ一定時間照射して消毒しておき、さらに加湿器(図示せず)により、評価室1内の空気の湿度を調節しておくことが望ましい。また、例えば空気調和装置3の空調機能により、評価室1内の温度も調整しておくことが望ましい。評価室1内の消毒が終了した後、空気取入口1aおよび空気排出口1bを閉じると共に、殺菌灯7の運転を停止する。そして、パーティクルカウンター5aおよび室内粒子数測定装置5を作動させ、評価室1内の粒子数を計測する。攪拌ファン6を風向き可変をON、風速を7.8m3/分とし、後に噴霧されるウイルス粒子が空間中に拡散するように、送風を行う。
【0099】
(2)菌の噴霧
予め作成しておいたウイルス懸濁液7mlをネブライザ2aにセットし、コンプレッサー2bをONし、ウイルス溶液を評価室1内に10分間噴霧する。噴霧液は、上述したように、乾燥による不活化や、自重による自然落下を防止可能な粒子径0.3〜0.5μmとなるように、表面張力、電気伝導度または粘度の何れかが上述したように調整されたものである。よって、ウイルス粒子を評価室1内に安定して長時間浮遊させることが可能となっている。また、評価室1内には攪拌ファン6により気流が形成されているため、この点からも、噴霧されたウイルス粒子は、自然落下することなく評価室1内で安定して浮遊する。
【0100】
(3)空気調和装置3の駆動
空気調和装置3を駆動させる。空気調和装置3は、吸引した空気中のウイルスを電気集塵により、空気調和装置3内に捕集し、評価室1内の浮遊ウイルスを減少させることが可能である。
【0101】
(4)ウイルスの計測(第1計測方法):ウイルス採取装置
ウイルス採取装置4のポンプ42を作動させ、その後、評価室空気入り口コック1dを開き、評価室1内の空気を採取管4aにより採取し、ウイルス粒子を採取部4bのインピンジャー40で捕集する。採取部4bにおける採取流量は、ここでは上述したように、5L/min、採取流速は105m/sに調整されており、ウイルス粒子に対して圧縮、熱のかからない状態、すなわちウイルスに負荷が掛からない状態で採取できるようになっている。そして、採取された空気は、インピンジャー40、ポンプ42および空気戻り口1eを通って、再度、評価室1内に返送される。
【0102】
(5)ウイルスの計測(第2計測方法):パーティクルカウンターおよび室内粒子数測定装置
パーティクルカウンター5aは、評価室1内の粒子径0.3〜0.5μmのウイルス粒子数を計測し、計測結果を評価室1外に配置された室内粒子数測定装置5に出力する。室内粒子数測定装置5は、評価室1内の粒子数をウイルス数と推定し、推定結果を表示手段(図示せず)に表示する。このように、評価室1内に、ウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、0.3〜0.5μmのウイルス粒子数を計測することにより評価室内のウイルス数を計測するため、評価室1内のウイルス数を迅速に測定でき、リアルタイムにモニタリングすることができる。また、ウイルス数の測定結果は時系列に室内粒子数測定装置5内に記憶でき、ウイルス数の経時変化を確認できるものとする。
【0103】
インピンジャー40によるウイルス粒子の採取後、ポンプ42を停止させ、評価室空気入り口コック1dを閉めた後、インピンジャー40を回収し、インピンジャー40の中の回収水中のウイルス数をプラーク法にて計測した。
【0104】
ウイルスの採取は、1時間おきに、6回行い、6時間で合計7回行う。これにより、浮遊ウイルス濃度の経時変化を測定するようにする。
【0105】
(6)終了
浮遊ウイルスの評価が終わったら、空気調和装置3を停止し、空気取入口1aから評価室1内に清浄空気を入れ、評価室1内の浮遊ウイルスを含む空気を空気排出口1bを通過させることで清浄化した上で、外部に排出するようにする。
【0106】
以上のような構成によると、ウイルスを評価室1内に自然落下することなく、安定的に浮遊させることができる。その結果、複数回試験によっても回収結果の統計的ばらつきが小さい安定した試験を行うことが可能となる。よって、ウイルス不活化デバイスの効果を正当に評価することができ、ウイルスの不活化評価精度を高精度なものとすることができる。
【0107】
なお、本実施の形態1では、ウイルス計測評価装置として、ウイルス採取装置4と、リアルタイムなモニタリング可能なパーティクルカウンター5aおよび室内粒子数測定装置5との両方を用い、併用して計測評価している。しかし、本実施の形態1は、両方併用することに限定されない。
【0108】
また、ここでは、ウイルス不活化デバイスとしての空気調和装置3の条件については特に言及しなかったが、各種条件を自由に設定可能にすることで、ウイルス不活化条件等を定量的に評価することが可能である。
【0109】
次に、本試験設備により得られた試験結果を以下に示す。なお、以下の試験は、ウイルス不活化デバイス評価装置において本来目的とするウイルス不活化デバイス評価試験ではなく、いわば、本装置自体の性能試験や、試験環境の試験等に相当するものである。
【0110】
〔ウイルス粒子の安定性試験〕
空気調和装置3を運転しない状態における評価室1内のウイルス粒子の安定性試験について説明する。ここでは、ウイルス原液を滅菌した超純水で100倍希釈し、表面張力を69gyn/cmに調節したウイルス懸濁液をジェット式ネブライザで評価室1内に噴霧した。図16は、温度20℃、相対湿度60%RHに設定し、空気調和装置3を運転しない状態でのウイルス数変化を計測した結果である。図16において、横軸は時間、縦軸はウイルスを浮遊させた10m3評価室1内の浮遊ウイルス濃度をとって示したものである。図16に示すように、6hr後におけるウイルス数の減衰は、約1/10で、大きな減少はみられていない。ウイルスは、乾燥に弱いために、相対湿度60%RHほどの高い湿度環境にすると、ウイルスが死滅することなく、不活化しない状態で、長時間浮遊させることができるものと推定される。
【0111】
このように、本実施の形態1の浮遊ウイルス不活化評価装置では、ウイルスを噴霧させても、長時間ウイルスを不活化させず、浮遊させることができる。
【0112】
〔ウイルス不活化試験〕
図17は、空気調和装置3を運転した状態での評価室1内のウイルス数変化を計測した結果である。本試験結果は、空気調和装置3を運転しない場合(図16)に比較して、空気調和装置3を運転した場合には、4hr後には、約99%の浮遊ウイルスが不活化されている。本発明者らによる実験により、同条件で複数回の試験によっても、プロットの近似曲線の傾きにおいて、10%以下のばらつきレベルに制御された安定した試験を行えることが確認されている。
【0113】
〔ウイルス数評価方法〕
図18は、空気調和装置3を運転しない状態での評価室1内でのウイルス噴霧後の直径0.3μm〜0.5μmの粒子数の変化を示す図である。図18を図16と比較すると分かるように、計測された浮遊ウイルス数と粒子径0.3〜0.5μmの粒子数とがほぼ同数で測定されている。そのため、本来ウイルス数を計測しなくてはならない浮遊ウイルス不活化評価において、パーティクルカウンター5a等で粒子径0.3〜0.5μmの粒子数を測定することにより、浮遊ウイルス数をリアルタイムに推定することができる。
以上説明したように、ウイルスを浮遊させた10m3評価室1の浮遊ウイルス濃度および直径0.3〜0.5μm粒子径の粒子数をモニタリングできる。本手法では、10m3評価室1の浮遊ウイルス濃度と直径0.3〜0.5μm粒子径の粒子数はほぼ同数であるため、ウイルス数を測定することなく、直径0.3〜0.5μm粒子径の粒子を計測することにより、ウイルス数をモニタリングすることができる。
【0114】
〔温度、湿度試験〕
上記においては、ウイルスの自然減衰を防ぐために、温度20℃、相対湿度60%RHに設定した評価室1内にウイルスを噴霧している。温度の影響を評価するため、湿度は60%RHと一定条件とし、温度を10℃、15℃、20℃、25℃と異なる評価室1内にウイルスを噴霧させ、空気調和装置3を運転しない状態でのウイルス数変化を計測した結果を図19に示す。
【0115】
図19は、温度とウイルスの浮遊量の相関を調べた結果であって、評価室1内の温度を変化させ、0、1、2、4、6hr後の浮遊ウイルス数を調べた結果である。図19から10℃〜25℃内でのすべての温度条件において、6時間放置しても、ウイルスは、10%以上存在できる。そのため、温度は、10〜25℃の範囲内で評価するのが望ましい。ただし、温度が変化すると若干ながら生存率が変化していることから、ウイルス不活化デバイスを運転する状態、および運転しない状態をついで試験する際は、温度を一定に保ち試験するのが望ましい。
【0116】
湿度の影響を評価するため、温度は20℃と一定条件とし、温度を40、50、60、70%RHと異なる評価室1内にウイルスを噴霧させ、空調機を運転しない状態でのウイルス数変化を計測した結果を図20に示す。
【0117】
図20は、湿度とウイルスの浮遊量の相関を調べた結果であって、評価室1内の湿度を変化させ、0、1、2、4、6hr後の浮遊ウイルス数を調べた結果である。図20より、湿度を50%RH以上にすると、6時間放置しても、ウイルスは、5%以上存在できることがわかる。また、湿度が60%RH以上であれば、6時間放置しても、ウイルスは1桁以上生存できることがわかる。そのため、湿度は50%以上、可能であれば60%RHで制御するのが望ましい。
【0118】
このように、本実施の形態1による浮遊ウイルス不活化評価においては、温度、湿度制御下でウイルスを噴霧して試験するため、ウイルスを長時間、不活化しない状態で浮遊させることができる。
【0119】
なお、上記温湿度は、大腸菌ファージφX174を評価室1内に噴霧した場合の最適温湿度であり、最適浮遊ウイルス温度、湿度は、噴霧するウイルスにより異なる。よって、それぞれのウイルスの最適環境に合わせた設定を行うことが望ましい。なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の範囲内で上記実施の形態に多くの修正および変更を加え得ることはもちろんである。
【0120】
以上説明したように、本実施の形態1による浮遊ウイルス不活化評価装置では、ウイルスを噴霧させても、ウイルスを長時間不活化させず、安定して浮遊させることができる。
【0121】
実施の形態2.噴霧装置の自動化
実施の形態2は、実施の形態1の噴霧装置2の他の構成例(その1)について説明するものであり、噴霧装置2以外の構成は、図1に示した上記実施の形態1と同様である。以下、実施の形態2の噴霧装置20について詳細に説明する。
【0122】
図21は、本発明の実施の形態2に係る浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。図22は、図21の噴霧装置20の概略構成図である。なお、図22においてコンプレッサー2bの図示は省略している。また、図21および図22において、図1に示した実施の形態1と同一部分には同一符号を付す。
図21に示すように、本実施の形態2の噴霧装置20は、ネブライザ2aと、コンプレッサー2bと、噴霧液調合装置21とを備えている。噴霧液調合装置21は、図22に示すように、上記の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を貯留するウイルス原液タンク22aと残栄養塩含有液タンク22bと純水タンク22cとがそれぞれポンプ23a〜23cを介してチューブにより液混合装置24に接続され、液混合装置24にて混合された液がネブライザ2aに送り込まれるように構成されている。
【0123】
また、液混合装置24には表面張力測定装置25が接続され、更に、図示していないが、各タンク22a〜22cから液混合装置24に至る流路には流量計が設けられている。また、各タンク22a〜22cおよび液混合装置24は冷蔵室内に配置されており、各タンク22a〜22cからの各液の配合が調整されたウイルス噴霧液は、噴霧直前まで4℃以下で保存されるようになっている。また、噴霧液調合装置21には、実施の形態1と同様の電源2cが配置されており、電源2cによりコンプレッサー2bの駆動をON/OFFできるようになっている。また、各ポンプ23a〜23cの駆動は図示しない制御装置により制御されるものとする。
【0124】
制御装置により各ポンプ23a〜23cをそれぞれ独立して制御して、ウイルス原液、残栄養塩含有液および純水の混合液の表面張力が65〜69(×10-3N/m)となるように配合を調節した混合液を自動的に作成する。その後、制御装置は、その混合液をネブライザ2aに注入させ、コンプレッサー2bをONし、ネブライザ2aにより評価室1内にウイルス噴霧液を噴霧させる。
【0125】
以上のような構成によると、実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、ウイルス噴霧液を自動的に作成することができ、人に感染するウイルスを取り扱う場合においても安全に作業できる。また、制御装置によるコンプレッサー2bのON/OFF制御により、連続噴霧、間欠噴霧も可能となり、効率的に浮遊ウイルス不活化評価を行うことができる。また、ウイルス原液を純水や不純物液と混合せずに単独でタンクに貯留するようにしたため、保存濃度が薄いと内部のウイルスが減衰してしまうウイルス液を試験直前まで高濃度に維持できる。また、ウイルス液を冷蔵や冷凍で保存できるので、状態の安定したウイルスを噴霧することができる。
【0126】
実施の形態3.噴霧装置の自動化
実施の形態3は、実施の形態1の噴霧装置2の他の構成例(その2)について説明するものであり、噴霧装置2以外の構成は、図1に示した上記実施の形態1と同様である。以下、実施の形態3の噴霧装置20Aについて詳細に説明する。
【0127】
図23は、本発明の実施の形態3における浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。図24は、図23の噴霧装置20Aの概略構成図である。なお、図24においてコンプレッサー2bの図示は省略している。また、図23および図24において、図1に示した実施の形態1と同一部分には同一符号を付す。
図23に示すように、本実施の形態3の噴霧装置20Aは、ネブライザ2aと、コンプレッサー2bと、噴霧液調合装置21Aとを備えている。噴霧液調合装置21Aは、図24に示すように、上記の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を貯留するウイルス原液タンク22aと残栄養塩含有液タンク22bと純水タンク22cとがそれぞれポンプ23a〜23cを介してチューブにより液混合装置24に接続され、液混合装置24にて混合された液がネブライザ2aに送り込まれるように構成されている。
【0128】
また、液混合装置24には電気伝導度測定装置25Aが接続され、更に、図示していないが、各タンク22a〜22cから液混合装置24に至る流路には流量計が設けられている。また、各タンク22a〜22cおよび液混合装置24は冷蔵室内に配置されており、各タンク22a〜22cからの各液の配合が調整されたウイルス噴霧液は、噴霧直前まで4℃以下で保存されるようになっている。また、噴霧液調合装置21Aには、実施の形態1と同様の電源2cが配置されており、電源2cによりコンプレッサー2bの駆動をON/OFFできるようになっている。また、各ポンプ23a〜23cの駆動は図示しない制御装置により制御されるものとする。
【0129】
制御装置により各ポンプ23a〜23cをそれぞれ独立して制御して、ウイルス原液、残栄養塩含有液および純水の混合液の電気伝導度が200μs/cm となるように配合を調節した混合液を自動的に作成する。その後、制御装置は、その混合液をネブライザ2aに注入させ、コンプレッサー2bをONし、ネブライザ2aにより評価室1内にウイルス噴霧液を噴霧させる。
【0130】
以上のような構成によると、実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、ウイルス噴霧液を自動的に作成することができ、人に感染するウイルスを取り扱う場合においても安全に作業できる。また、制御装置によるコンプレッサー2bのON/OFF制御により、連続噴霧、間欠噴霧も可能となり、効率的に浮遊ウイルス不活化評価を行うことができる。また、ウイルス原液を純水や不純物液と混合せずに単独でタンクに貯留するようにしたため、保存濃度が薄いと内部のウイルスが減衰してしまうウイルス液を試験直前まで高濃度に維持できる。また、ウイルス液を冷蔵や冷凍で保存できるので、状態の安定したウイルスを噴霧することができる。なお、電気伝導度測定装置の代わりに粘度計を接続し、同様の機能を有することもできる。
【0131】
実施の形態4.
実施の形態4の浮遊ウイルス不活化評価装置は、実施の形態1の浮遊ウイルス不活化評価装置のウイルス採取装置4に代えてウイルス採取装置4fを備えたもので、その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0132】
図25は、本発明の実施の形態4における浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。図26は、図25のウイルス採取装置4fの概略構成図である。図25および図26において、図1に示した実施の形態1と同一部分には同一符号を付す。
図26に示すように本実施の形態4のウイルス採取装置4fは、実施の形態1のウイルス採取装置4と採取部4bの構成が異なり、実施の形態4の採取部4eは、幅φ1mm(±0.1mm)、長さ100mmの管45の後に、インピンジャー40を直列に四連連結し、更に流量計41とポンプ42とを接続した構造を有する。すなわち、上記実施の形態1のウイルス採取装置4の採取部4bにおいて各インピンジャー40の前にそれぞれ差圧計43およびオリフィス44を設けていた構成に代えて、直列に四連連結したインピンジャー40群の前に、管45を接続した構成とした点に特徴を有している。なお、空気を採取する場合には、φ1mm(±0.1mm)を通過する際の流速が105m/sとなるようポンプで吸引する。
【0133】
インピンジャー40の先端部直径φ1mmの部分の長さは図8より27mmであるため、直列に繋がっているインピンジャー40の前にφ1mm、100mmの管45を繋ぐと、インピンジャー40に捕集される空気が、φ1mm程度の流路を流れる際の、管部の割合は80%を占めることになる。そのため、その後のノズル先端部40aの直径がφ0.9〜1.1mmと変化しようと、ノズル先端部40aでの流速は、その前段部のφ1mmの100mm管部による差圧が支配的となるため、ノズル先端部40aでの流速公差は±5%以下に抑えられる。
【0134】
以上のような構成によると、インピンジャー40のノズル先端部40aでの流速は、そのノズル先端部40aの直径に関わらず、その前段に設置させた管45を通過する際の管内流速に支配される。このため、ノズル先端部40aでの流速を公差±5%以下に抑えることができる。なお、更なる精度向上のために、100mm以上のφ1mmの管を用いてももちろん良い。
【0135】
実施の形態5.サンプリング位置の移動
図27は、本発明の実施の形態5に係る浮遊ウイルス不活化評価装置の概略構成図である。図27において、図1に示した実施の形態1と同一の部分には同一符号を付す。
本実施の形態5は、インピンジャー40の採取管4aの先端またはパーティクルカウンター5aに空気を誘導するチューブ(図示せず)の先端の位置、すなわち測定ポイントを遠隔操作により変更できるようにした点に特徴を有する。その他の基本的な構成は、実施の形態1と同様である。以下、実施の形態5が実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0136】
評価室1の天井面には、誘導路としてのレール10が設けられている。レール10は、評価室1の両側壁面に平行に設けられた第1のレール10aと、第1のレール10aに掛け渡された第2のレール10bとから構成される。第2のレール10bは車輪10cを有し、第1のレール10a上を移動可能とされる。第1のレール10aの移動は、遠隔制御される。また、第2のレール10b上には、第2のレール10bに沿って移動可能な車輪12を有する台車11が乗せられており、台車11は第2のレール10bに沿って移動可能となっている。
【0137】
また、台車11は、車輪12を駆動する駆動部(図示せず)と、遠隔操作可能な受信部(図示せず)とを有している。台車11には、下方に伸びる棒13が連結され、その下端には載置台14が固定されている。これら台車11、車輪12、棒13および載置台14により移動体15が構成されている。この移動体15の載置台14に、インピンジャー40の採取管4aの先端またはパーティクルカウンター5aへの空気誘導チューブ(図示せず)の先端が載置される。台車11の車輪12の駆動は、遠隔制御される。遠隔操作により、台車11を第2のレール10bに沿って自由に移動させることができる。また、棒13も遠隔操作により自由に上下することができるものとする。
【0138】
上記の構成にすることにより、移動体15は、第2のレール10bに沿って、左右に移動可能となり、また、第2のレール10b自体が第1のレール10aに沿って前後に移動可能となる。さらには、棒13自体の上下運動により、評価室1内において載置台14を上下に移動可能である。よって、全体として、載置台14を評価室1内において前後左右、さらに上下に移動させることができるため、測定ポイントを評価室1内の自由な位置に移動させることができる。
【0139】
以上のような構成によると、評価室1内の粒子数測定ポイントおよびインピンジャー40での回収ポイントを評価室1内で自由に変えることが可能となり、空気調和装置3などの不活化デバイスからの距離、位置等を変化させたサンプリングが可能となる。また、1つの試験中においても、サンプリング位置を変化させることができるため、評価室1内での不活化デバイスによるウイルス不活化分布を取得することが可能となる。
【0140】
なお、上記各実施の形態1〜5では、それぞれ別の実施の形態として説明したが、各実施の形態の特徴的な構成を適宜組み合わせて浮遊ウイルス不活化評価装置を構成してもよい。
【符号の説明】
【0141】
1 評価室、1a 空気取入口、1b 空気排出口、1c 空気出入口、1d 評価室空気入り口コック、1e 空気戻り口、2 噴霧装置、2a ネブライザ、2b コンプレッサー、2c 電源、3 空気調和装置、3a 支持台、4 ウイルス採取装置、4a 採取管、4b 採取部、4c 支持台、4d 戻し管、4e 採取部、4f ウイルス採取装置、5 室内粒子数測定装置、5a パーティクルカウンター、6 攪拌ファン、7 殺菌灯、9 扉、10 レール、10a 第1のレール、10b 第2のレール、10c 車輪、11 台車、12 車輪、13 棒、14 載置台、15 移動体、20 噴霧装置、20A 噴霧装置、21 噴霧液調合装置、21A 噴霧液調合装置、22a ウイルス原液タンク、22b 残栄養塩含有液タンク、22c 純水タンク、23a〜23c ポンプ(ポンプ装置)、24 液混合装置、25 表面張力測定装置、25A 電気伝導度測定装置、40 インピンジャー、40a ノズル先端部、41 流量計、42 ポンプ、43 差圧計、44 オリフィス、45 管、100 前室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔離壁により外部空間と隔離された評価室内に、安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス含有浮遊粒子(以下、ウイルス粒子)を供給し、前記評価室内の浮遊ウイルスの数を計測して評価することを特徴とする浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項2】
前記評価室内にウイルス粒子を供給するにあたり、所定のウイルス液を噴霧して行い、前記所定のウイルス液は、前記所定のウイルス液を噴霧した際のウイルス粒子の粒子径が前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子が主となるように残栄養塩濃度が調整されたウイルス液であることを特徴とする請求項1記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項3】
前記所定のウイルス液の残栄養塩濃度を、前記所定のウイルス液の表面張力により調整することを特徴とする請求項2記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項4】
前記所定のウイルス液の残栄養塩濃度を、前記所定のウイルス液の電気伝導度により調整することを特徴とする請求項2記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項5】
前記所定のウイルス液の残栄養塩濃度を、前記所定のウイルス液の粘度により調整することを特徴とする請求項2記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項6】
第1計測方法として、直列に連結した複数のインピンジャーにより浮遊ウイルスを採取し、その採取されたウイルスの数を計測することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項7】
各インピンジャーの前に差圧計および圧力可変なオリフィスをそれぞれ接続し、各インピンジャーのノズル先端部の空気流入流速を所定の流速に調節することを特徴とする請求項6記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項8】
前記ウイルスは、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174であり、前記空気流入流速を105m/s以下としたことを特徴とする請求項7記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項9】
前記インピンジャーの数を4つとしたことを特徴とする請求項8記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項10】
前記ウイルスは、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174であり、φ1mm、長さ100mm以上の管の後に4つのインピンジャーを直列に連結し、各インピンジャーのノズル先端部の空気流入流速が105m/s以下となるように調整して浮遊ウイルスを採取することを特徴とする請求項6記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項11】
前記所定のウイルス液は、噴霧された際に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を前記評価室内に確立するように調整された液であり、このウイルス液を噴霧することにより、前記評価室内に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、
第2計測方法として、前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項12】
前記所定のウイルス液は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を希釈して表面張力が60〜70(×10-3N/m)となる範囲に調節された液であり、このウイルス液を噴霧することにより、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を前記評価室内に確立し、
第2計測方法として、前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測することを特徴とする請求項3記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項13】
前記所定のウイルス液は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を希釈して電気伝導度が10〜1000μs/cmとなる範囲に調節された液であり、このウイルス液を噴霧することにより、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を前記評価室内に確立し、
第2計測方法として、前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測することを特徴とする請求項4記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項14】
前記安定浮遊可能な粒子径範囲が0.3〜0.5μmであることを特徴とする請求項12または請求項13記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項15】
前記ウイルス粒子数をパーティクルカウンターにより計測することを特徴とする請求項11乃至請求項14の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項16】
前記所定のウイルス液は、噴霧された際に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を前記評価室内に確立するように調整された液であり、このウイルス液を噴霧することにより、前記評価室内に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、
直列に連結した複数のインピンジャーにより浮遊ウイルスを採取し、その採取されたウイルスを計測する第1計測方法と、前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測する第2計測方法とを併用してウイルス数を計測することを特徴とする請求項2記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項17】
隔離壁により外部空間と隔離された評価室内に所定のウイルス液を噴霧することにより、前記評価室内に、所定の粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、
前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記所定の粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測して評価することを特徴とする浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項18】
前記所定のウイルス液は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を希釈して表面張力が60〜70(×10-3N/m)となる範囲に調節したものであることを特徴とする請求項17記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項19】
前記所定のウイルス液は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を希釈して電気伝導度が10〜1000μs/cmとなる範囲に調節したものであることを特徴とする請求項17記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項20】
前記所定の粒子径範囲は0.3〜0.5μmであることを特徴とする請求項18または請求項19記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項21】
前記ウイルス粒子数をパーティクルカウンターにより計測することを特徴とする請求項17乃至請求項20の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項22】
前記所定のウイルス液をジェット式ネブライザで噴霧することを特徴とする請求項1乃至請求項21の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価方法。
【請求項23】
隔離壁により外部空間と隔離された評価室内に、安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子を供給するウイルス供給装置と、
前記評価室内の浮遊ウイルスの数を計測して評価するウイルス計測評価装置と
を有することを特徴とする浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項24】
前記ウイルス供給装置は、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子が主となるように残栄養塩濃度を調整した所定のウイルス液を噴霧して前記評価室内にウイルス粒子を供給することを特徴とする請求項23記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項25】
前記ウイルス供給装置は、ウイルス原液タンクと、残栄養塩含有液タンクと、純水タンクと、液混合装置と、前記各タンクの液をそれぞれ独立して前記液混合装置に供給するポンプ装置と、前記液混合装置で混合された混合液の表面張力を測定する表面張力測定装置と、前記表面張力測定装置の測定結果が所定の表面張力範囲内となるように前記ポンプ装置を制御する制御装置とを備え、前記ウイルス供給装置は、前記所定の表面張力範囲内となるように調整された混合液を、残栄養塩濃度を調整した前記所定のウイルス液として前記評価室内に噴霧することを特徴とする請求項24記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項26】
前記ウイルス供給装置は、ウイルス原液タンクと、残栄養塩含有液タンクと、純水タンクと、液混合装置と、前記各タンクの液をそれぞれ独立して前記液混合装置に供給するポンプ装置と、前記液混合装置で混合された混合液の電気伝導度を測定する電気伝導度測定装置と、前記電気伝導度測定装置の測定結果が所定の電気伝導度範囲内となるように前記ポンプ装置を制御する制御装置とを備え、所定の電気伝導度範囲内となるように調整された混合液を、残栄養塩濃度を調整した前記所定のウイルス液として前記評価室内に噴霧することを特徴とする請求項24記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項27】
前記ウイルス供給装置は、ウイルス原液タンクと、残栄養塩含有液タンクと、純水タンクと、液混合装置と、前記各タンクの液をそれぞれ独立して前記液混合装置に供給するポンプ装置と、前記液混合装置で混合された混合液の粘度を測定する粘度測定装置と、前記粘度測定装置の測定結果が所定の粘度範囲内となるように前記ポンプ装置を制御する制御装置とを備え、所定の粘度範囲内となるように調整された混合液を、残栄養塩濃度を調整した前記所定のウイルス液として前記評価室内に噴霧することを特徴とする請求項24記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項28】
前記各タンク、前記液混合装置および前記ポンプ装置を、温度調整可能な冷蔵庫内に配置したことを特徴とする請求項25乃至請求項27の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項29】
前記ウイルス計測評価装置は、直列に連結した複数のインピンジャーにより浮遊ウイルスを採取し、その採取されたウイルスの数を計測する第1ウイルス計測装置を有することを特徴とする請求項23乃至請求項28の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項30】
前記第1ウイルス計測装置は、各インピンジャーの前に差圧計および圧力可変なオリフィスをそれぞれ接続した構成を有し、前記差圧計および前記オリフィスにより各ノズル先端部の空気流入流速が所定の流速に調節されてなることを特徴とする請求項29記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項31】
前記ウイルスは、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174であり、前記空気流入流速を105m/s以下としたことを特徴とする請求項30記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項32】
前記インピンジャーの数を4つとしたことを特徴とする請求項31記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項33】
前記ウイルスは、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174であり、前記第1ウイルス計測装置は、φ1mm、長さ100mm以上の管の後に、4つのインピンジャーを直列に連結し、各インピンジャーのノズル先端部の空気流入流速が105m/s以下となるように調整して浮遊ウイルスを採取することを特徴とする請求項29記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項34】
前記所定のウイルス液は、噴霧された際に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を前記評価室内に確立するように調整された液であり、このウイルス液を噴霧することにより、前記評価室内に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、
前記ウイルス計測評価装置は、前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測する第2ウイルス計測装置を有することを特徴とする請求項24乃至請求項28の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項35】
前記所定のウイルス液は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を希釈して表面張力が60〜70(×10-3N/m)となる範囲に調節したものであることを特徴とする請求項34記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項36】
前記所定のウイルス液は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を希釈して電気伝導度が10〜1000μs/cmとなる範囲に調節したものであることを特徴とする請求項34記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項37】
前記所定の粒子径範囲が0.3〜0.5μmであることを特徴とする請求項35または請求項36記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項38】
前記第2ウイルス計測装置は、前記ウイルス粒子数をパーティクルカウンターにより計測することを特徴とする請求項34乃至請求項37の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項39】
前記所定のウイルス液は、噴霧された際に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を前記評価室内に確立するように調整された液であり、前記ウイルス供給装置は、この所定のウイルス液を噴霧することにより、前記評価室内に、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立し、
前記ウイルス計測評価装置は、直列に連結した複数のインピンジャーにより浮遊ウイルスを採取し、その採取されたウイルスの数を計測する第1ウイルス計測装置と、前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記安定浮遊可能な粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測する第2ウイルス計測装置とを併用してウイルス数を計測することを特徴とする請求項24記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項40】
隔離壁により外部空間と隔離された評価室内に所定のウイルス液を噴霧することにより、前記評価室内に、所定の粒子径範囲のウイルス粒子一つに対してウイルスが一つ存在する系を確立するウイルス供給装置と、
前記評価室内を浮遊するウイルス粒子のうち、前記所定の粒子径範囲のウイルス粒子数を計測することにより前記評価室内のウイルス数を計測して評価するウイルス計測評価装置とを備えたことを特徴とする浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項41】
前記ウイルス供給装置は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を貯留するウイルス原液タンクと、残栄養塩含有液タンクと、純水タンクと、液混合装置と、前記各タンクの液をそれぞれ独立して前記液混合装置に供給するポンプ装置と、前記液混合装置で混合された混合液の表面張力を測定する表面張力測定装置と、前記表面張力測定装置の測定結果が60〜70(×10-3N/m)となるように前記ポンプ装置を制御する制御装置とを備え、前記ウイルス供給装置は、表面張力が60〜70(×10-3N/m)となるように調整された混合液を、残栄養塩濃度を調整した前記所定のウイルス液として前記評価室内に噴霧することを特徴とする請求項40記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項42】
前記ウイルス供給装置は、特定の方法で作成した大腸菌ファージφX174の原液を貯留するウイルス原液タンクと、残栄養塩含有液タンクと、純水タンクと、液混合装置と、前記各タンクの液をそれぞれ独立して前記液混合装置に供給するポンプ装置と、前記液混合装置で混合された混合液の電気伝導度を測定する電気伝導度測定装置と、前記電気伝導度測定装置の測定結果が10〜1000μs/cmの電気伝導度となるように前記ポンプ装置を制御する制御装置とを備え、前記ウイルス供給装置は、電気伝導度が10〜1000μs/cmとなるように調整された混合液を、残栄養塩濃度を調整した前記所定のウイルス液として前記評価室内に噴霧することを特徴とする請求項40記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項43】
前記所定の粒子径範囲が0.3〜0.5μmであることを特徴とする請求項41または請求項42記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項44】
前記ウイルス計測評価装置は、前記ウイルス粒子数をパーティクルカウンターにより計測することを特徴とする請求項40乃至請求項43の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項45】
前記ウイルス供給装置は、前記所定のウイルス液をジェット式ネブライザで噴霧することを特徴とする請求項40乃至請求項44の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項46】
前記各タンク、前記液混合装置および前記ポンプ装置を、温度調整可能な冷蔵庫内に配置したことを特徴とする請求項41乃至請求項45の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。
【請求項47】
前記評価室内に、外部から位置制御可能で前記ウイルス計測評価装置による計測ポイントを移動可能な移動装置を設けたことを特徴とする請求項24乃至請求項46の何れか1項に記載の浮遊ウイルス不活化評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−44957(P2012−44957A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192191(P2010−192191)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】