説明

浮遊微粒子捕集体及びその製造方法

【課題】大気中に浮遊する液体の微粒子を容易に個別に付着させ捕集することができ、付着部分で発色又は発光した反応痕の大きさや形状を測定することができ、pH等の性質を個別に分析することができる浮遊微粒子捕集体の提供、及び、簡単且つ少ない工程で安価に製造することができる浮遊微粒捕集用シートの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の浮遊微粒子捕集体は、支持体と、支持体上に製膜された水溶性高分子化合物からなる反応膜と、を備え、反応膜が1種又は2種以上の発色反応試薬及び/又は発光反応試薬を含有する構成を有する。本発明の浮遊微粒子捕集体の製造方法は、水溶性高分子化合物水溶液と、水を主な溶媒とする1種又は2種以上の発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを混合する混合工程と、得られた混合液を支持体上に塗布する塗布工程と、塗布された塗膜を乾燥させる乾燥工程と、を備えた構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に浮遊している浮遊微粒子を捕集し分析することができる浮遊微粒子捕集体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大気汚染の原因となる物質としては、炭酸ガスやNOx、SOx等のガス状化学物質が重視されてきたが、これらは基本的に大気中の濃度の平均値として把握されてきた。また、大気汚染の原因となる他の物質としては煤塵や粉塵等のガス状でない物質もあり、これらも捕集された後分析され大気中の濃度の平均値として測定されてきた。しかしながら、平均値測定では大気汚染の原因を正確に把握するのは不十分であり、酸性雨の例を考えても、実際は雨になる以前のミストの状態が最もpHが低い。
なお、生態に影響を与える汚染物質は、上述した酸性のミストやシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒド等の揮発性化学物質等の化学物質を含む微量な液体の浮遊微粒子か、海塩粒子や黄砂、金属系酸化物、花粉、塵埃等の固体の浮遊微粒子であることが多い。したがって、大気中に浮遊している浮遊微粒子の個々の大きさや形状、或いは含まれる化学物質の成分の性質を測定して検知することが極めて重要である。しかしながら、従来、このような大気中に浮遊している液体又は固体の浮遊微粒子の個々の大きさや形状或いは性質等を測定し、分析してその大気中のある平面における二次元分布や粒径分布、またその二次元分布や粒径分布の時間的な変化を簡便に求める手法が確立されていなかった。
個々の浮遊微粒子を対象とする従来の分析方法としては、大きく分けて、大気等の雰囲気中に浮遊する微粒子を一旦フィルタ等に捕集し、捕集された個々の微粒子を分析する方法と、大気等の雰囲気中に浮遊する浮遊微粒子を浮遊状態のままで連続的に分析する方法とがある。浮遊する微粒子を一旦フィルタ等に捕集して分析する分析方法としては、雰囲気中に浮遊する微粒子を一旦フィルタ等に捕集し、捕集された個々の微粒子をX線マイクロアナリシスや発光分光分析、二次イオン質量分析法、レーザマイクロプローブ質量分析法等により分析する方法が用いられている。発光分光分析により分析を行う場合には、フィルタ等に捕集された個々の浮遊微粒子を順次取り出してプラズマ発光させ、その強度および発光波長に基づいて大きさおよび成分を測定すると共に、その取り出し回数から粒子数を算出している。
これに対し、大気等の雰囲気中に浮遊する浮遊微粒子を浮遊状態のままで連続的に分析する分析方法としては、例えば、大気等の雰囲気中に浮遊する個々の浮遊微粒子をイオン化加熱源に衝突させ、この衝突により生じたイオン群を質量分析計に導入して分析する方法が知られている。また、雰囲気中にある浮遊微粒子をキャピラリやノズル等を介して真空中に引き込むと共に、引き込まれた個々の浮遊微粒子をエキシマレーザで励起させてレーザ脱離によりイオン化し、イオン化された浮遊微粒子の粒径や成分を飛行時間型質量分析計により分析する方法や、雰囲気中に浮遊する浮遊微粒子を高周波誘導結合プラズマにより分解、励起及びイオン化し、イオン化された浮遊微粒子の成分を四重極質量分析計等により分析する方法が知られている。
【0003】
しかしながら上述した従来の分析方法では、いずれも浮遊微粒子を一旦捕集し、さらに捕集した浮遊微粒子を気体や液体中で分散又はイオン化等により分離して分析するため、液体の浮遊微粒子を測定する場合はイオン化の際等に物質が溶け込んだ浮遊微粒子の溶媒が蒸発して浮遊微粒子の粒径が小さくなったり、その物質の濃度が高くなったりして正確に測定することができず液体微粒子の測定には適さないという問題点と、微粒子を捕集した際に、捕集された浮遊微粒子の種類によっては微粒子同士が反応してしまい大気中での浮遊状態とは異なる化合物になる可能性があり正確な分析を行うことができないという問題点があった。
したがって、大気等の雰囲気中に浮遊するミスト等の液体微粒子を捕集する場合は、ポリビニルアルコール(以下、PVAという)を塗布したガラスプレート上に大気中に浮遊する霧粒子を捕集し、捕集した霧粒子(ミスト)の痕跡を顕微鏡で観察してその粒径を求めるという方法が行われていた。
一方、繊維、紙、プラスチックシート、木材ボート等に塗布して表面の変色によりpH測定を行うことができるものとして、特許文献1には「極性をもつ吸水性ポリマー粒子とpH指示薬とを組み合わせることを特徴とするpHセンサー機能を有する色素粒子組成物」が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−191013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、以下のような課題を有していた。
(1)従来のPVAを塗布したガラスプレートを用いた方法では、PVAの膜に単に霧粒子の痕跡が形成されるだけなので、視認し難く或いは視認が不可能で目視による大きさや形状の測定が困難であると共に、液体微粒子の性質を分析することはできないという課題を有していた。
(2)特許文献1の色素粒子組成物では、バインダーを加えてプラスチックシート等に塗布しただけでは、酸性雨のような大粒の液体が付着した場合は変色するかもしれないが、大気中を浮遊する酸性ミスト等の液体微粒子が付着しても浸透せず弾いたり或いは滲んだりし易く、反応痕が残らなかったり或いは浮遊微粒子の浮遊時の大きさや形状とは異なる反応痕が残るため、その大きさや形状を正確に測定できないという課題を有していた。
(3)また、色素粒子組成物を製造する際に、2以上の重合体の共重合体に架橋剤等を添加して部分架橋させる等の調整が必要になり工程が煩雑で生産性に欠けると共に高価になり易いという課題を有していた。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、大気中に浮遊する液体の微粒子を容易に個別に付着させ捕集することができ、付着部分で発色又は発光した反応痕の大きさや形状を測定することができると共に、pH等の性質を捕集された各々の浮遊微粒子について個別に分析することができる浮遊微粒子捕集体を提供することを目的とする。
また、本発明は上記従来の課題を解決するもので、大気中に浮遊する液体等の微粒子を付着させ捕集することができる捕集体を簡単且つ少ない工程で安価に製造することができる浮遊微粒子捕集体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の浮遊微粒子捕集体及びその製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の浮遊微粒子捕集体は、支持体と、前記支持体上に製膜された水溶性高分子化合物からなる反応膜と、を備え、前記反応膜が1種又は2種以上の発色反応試薬及び/又は発光反応試薬を含有する構成を有している。
【0008】
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)反応膜が支持体上に製膜されているので破れたりするのを防止して容易に試験器に装着できると共に、反応膜の表面が平坦になり、付着した浮遊微粒子の反応痕が膜表面に正確に残るので正確な測定を行うことができる。
(2)反応膜が親水性高分子化合物からなるので、大気中を浮遊する酸性ミスト等の液体微粒子を反応膜に付着させて個別に捕集することができ、付着した液体微粒子はその表面から容易に浸透すると共に、反応膜に含まれた発色反応試薬又は発光反応試薬発色と確実且つ迅速に反応してその反応痕を残すことができる。
(3)反応膜が発色反応試薬や発光反応試薬を含有しているので、浮遊微粒子が反応膜の上面に付着すると、付着部分がその性質、例えばpH等に応じて発色又は発光し反応痕を残すことができ、この反応痕を測定することにより浮遊微粒子の大きさや形状と共に、その性質を分析することができる。
(4)反応膜が2種以上の発色反応試薬や発光反応試薬を含有することにより、例えば広範囲のpHを測定することができ、大気中を浮遊する種々の浮遊微粒子を捕集してその性質を広範囲に渡って分析することができる。
(5)反応膜が発色反応試薬及び発光反応試薬の両方を含有している場合は、発色反応試験又は発光反応試験のいずれの測定装置を用いた場合であっても測定を行うことができる。
【0009】
ここで、支持体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂からなる板状又はシート状、フィルム状のものや、ガラス板等が用いられる。なお、支持体の表面に親水性の表面処理を施し、反応膜との密着性を高めることができる。
水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP),ポリアクリルアミド,ポリエチレンオキシド,ポリエチレングリコール(PEG)等が用いられる。
発色反応試薬としては、pH指示薬やキレート化剤等が用いられる。pH指示薬としては、チモールブルー、ブロモフェノールブルー、ブロモクレゾールグリーン、メチルオレンジ、メチルレッド等の水を主な溶媒とするものが用いられる。キレート化剤としては、ジエチルジチオカルバミン酸塩、ジチゾン等が用いられる。
また、発光反応試薬としては、アルカリ性溶液に対して青緑色に発光するルミノール等が用いられる。なお、発色反応試薬又は発光反応試薬としては、可視領域で発色又は発光するものだけでなく、紫外領域やX線等の可視領域以外で発色又は発光するものを用いることができる。この場合、浮遊微粒子が捕集された部分に紫外光やX線等を照射して撮像装置等により撮像して測定することができる。
【0010】
本発明の請求項2に記載の浮遊微粒子捕集体は、請求項1に記載の発明において、前記反応膜の含水率(ω)が、0wt%<ω≦30wt%である構成を有している。
【0011】
この構成により、請求項1の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)反応膜の含水率(ω)が0wt%<ω≦30wt%、好ましくは1wt%≦ω≦3wt%であることにより、反応膜に付着した液体の浮遊微粒子が反応膜の表面に浸透せずに弾かれたり、或いは滲んだりすることがなく、その反応痕が浮遊状態と同様の大きさ及び形状で確実に残るので、正確な測定を行うことができる。
【0012】
ここで、反応膜の含水率が3wt%より大きくなるにつれ液体微粒子が反応膜の表面で滲む傾向があり、含水率が30wt%より大きくなるとこの傾向が更に著しくなるため好ましくない。また、反応膜の含水率が1wt%より小さくなるにつれ液体微粒子が反応膜に浸透せず弾かれて反応痕が形成されない傾向があり、含水率が0wt%に近づくにつれこの傾向が更に著しくなるため好ましくない。
また、反応膜の含水率は例えば標準状態(温度20℃、相対湿度65%)における平衡含水率とすることが好ましい。これにより、反応痕がより明瞭に残るので、正確な測定を行うことができる。なお、平衡含水率とは反応膜中の水分が所定の温度及び湿度のもとで平衡し一定になった場合の含水率のことをいう。
【0013】
本発明の請求項3に記載の浮遊微粒子捕集体は、請求項1又は2に記載の発明において、前記水溶性高分子化合物が、けん化度が80mol%〜87mol%のポリビニルアルコールである構成を有している。
【0014】
この構成により、請求項1又は2の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)けん化度が80mol%〜87mol%のポリビニルアルコール(PVA)を用いることにより、反応膜表面に付着した液体の浮遊微粒子が弾かれて反応痕が形成されなかったり反応膜表面に浸透し過ぎて滲んだりすることを防止でき、その反応痕が浮遊状態と同様の大きさ及び形状で確実に残るので、正確な測定を行うことができる。
【0015】
本発明の請求項4に記載の浮遊微粒子捕集体の製造方法は、水溶性高分子化合物水溶液と、水を主な溶媒とする1種又は2種以上の発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを混合する混合工程と、得られた混合液を支持体上に塗布する塗布工程と、塗布された塗膜を乾燥させる乾燥工程と、を備えた構成を有している。
【0016】
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)水溶性高分子化合物水溶液と発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを混合し、支持体上に塗布して乾燥させるだけで、浮遊微粒子の分離捕集性、反応痕の視認性、及び分析の容易性に優れる浮遊微粒子捕集体を簡単且つ少ない工程で生産性に優れ低原価で量産性に優れる。
(2)反応膜が、水溶性高分子化合物水溶液と、水を主な溶媒とする1種又は2種以上の発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを原料とするので、乾燥工程で乾燥し水分を蒸発させるだけで製膜でき製造工数を低減できる。
(3)予め水溶性高分子化合物を水に溶解させた水溶液と発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを混合することにより、両者が混合液中に均一に分散するので、発色又は発光の安定性が向上すると共に、溶け残りがないので反応膜の表面を平坦にでき反応痕の視認性を向上できる。
【0017】
ここで、水溶性高分子化合物や発色反応試薬又は発光反応試薬としては、上述したものが用いられる。なお、水溶性高分子化合物と発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液の混合比は重量比で99:1〜1:99とし、混合液中の水溶性高分子化合物の濃度は1wt%〜10wt%に調整される。これにより、所定の均質な膜厚を有する反応膜を容易に製造できる。
親水性高分子化合物水溶液のpHは7(中性)であることが好ましいが、例えばPVA水溶液のように弱酸性を呈すものや、水との親和性を高めるために架橋剤等を添加して弱アルカリ性等を呈すものを用いる場合は、水溶液の濃度を小さくして水溶液のpHを7に近づけることができる。これにより、製膜された反応膜のpHを7に近づけることができるので、付着した浮遊微粒子の実際のpHと変色pHとのずれを小さくし、安定して正確な測定を行うことができる。なお、水溶液の濃度を小さくした場合は、その濃度に応じて乾燥工程における乾燥温度を高くしたり乾燥時間を長くする。
塗布工程における塗布方法としては、ディッピングやスピンコーティング、キャスティング等が用いられる。
乾燥工程における乾燥温度や乾燥時間は、水溶性高分子化合物の種類やその水溶液の濃度、塗膜の膜厚等により適宜設定される。
【0018】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の浮遊微粒子捕集体の製造方法であって、前記水溶性高分子化合物水溶液のpHが4〜8好ましくは5〜7である構成を有している。
【0019】
この構成により、請求項4の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)pHが4〜8好ましくは5〜7の水溶性高分子化合物水溶液を混合することにより、反応膜に付着した液体微粒子のpHが反応膜のpHにより変化することを防ぎ、或いは微量な変化に留めることができるので、液体微粒子のpHを正確に測定することができる。
【0020】
ここで、水溶性高分子化合物水溶液のpHが5より小さく、又は7より大きくなるにつれ、反応膜のpHが7から大きく外れるため反応膜に付着した液体微粒子のpHが反応膜のpHにより例えば酸性やアルカリ性へ大きく変化し正確なpHの測定が難しくなる傾向があり、pHが4より小さく、又は8より大きくなるとこの傾向がさらに著しくなるため好ましくない。
【0021】
本発明の請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の浮遊微粒子捕集体の製造方法であって、前記乾燥工程における乾燥温度は100℃〜150℃である構成を有している。
【0022】
この構成により、請求項4又は5の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)塗膜の変色を防止しながら短時間で乾燥させ、所定の含水率の反応膜を製膜することができる。
【0023】
ここで、乾燥温度が100℃より低くなるにつれ所定の含水率にならなかったり乾燥に多大な時間がかかる傾向があり、150℃より高くなるにつれ塗膜の表面が変質して固化したり変色したりするため好ましくない。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明の浮遊微粒子捕集体及びその製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、
(1)反応膜が支持体上に製膜されているので破れたりするのを防止して容易に試験器に装着できる使用性に優れた浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
(2)支持体上に製膜された反応膜はその表面が平坦になり付着した浮遊微粒子の反応痕が膜表面に正確に残るので正確な測定を行うことができる浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
(3)反応膜が親水性高分子化合物からなるので、反応膜に含まれた発色反応試薬又は発光反応試薬発色と確実且つ迅速に反応してその反応痕を残すことができる反応安定性の高い浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
(4)反応膜が発色反応試薬や発光反応試薬とを含有しているので、反応痕を測定することにより浮遊微粒子の大きさや形状と共に、その性質を分析することができる分析性能に優れた浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
(5)反応膜が2種以上の発色反応試薬や発光反応試薬を含有することにより、大気中を浮遊する種々の浮遊微粒子を捕集してその性質を広範囲に渡って分析することができる汎用性の高い浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
(6)反応膜が発色反応試薬及び発光反応試薬の両方を含有している場合は、発色反応試験又は発光反応試験のいずれの測定装置を用いた場合であっても測定を行うことができ、測定装置の有無や状況等に応じて適宜装置を選択して試験を行うことができ利便性に優れる。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)反応膜の含水率(ω)が0wt%<ω≦30wt%、好ましくは1wt%≦ω≦3wt%であることにより、反応膜に付着した液体の浮遊微粒子が反応膜の表面に浸透せずに弾かれたり、或いは滲んだりすることがなく、その反応痕が浮遊状態と同様の大きさ及び形状で確実に残るので、正確な測定を行うことができる浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
【0027】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)反応膜表面に付着した液体の浮遊微粒子が弾かれて反応痕が形成されなかったり反応膜表面に浸透し過ぎて滲んだりすることを防止でき、その反応痕が浮遊状態と同様の大きさ及び形状で確実に残るので、正確な測定を行うことができる浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)水溶性高分子化合物水溶液と発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを混合し、支持体上に塗布して乾燥させるだけで、浮遊微粒子の分離捕集性、反応痕の視認性、及び分析の容易性に優れる浮遊微粒子捕集体を簡単且つ少ない工程で生産性に優れ低原価で量産性に優れる浮遊微粒子捕集体の製造方法を提供することができる。
(2)反応膜が、水溶性高分子化合物水溶液と、水を主な溶媒とする1種又は2種以上の発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを原料とするので、乾燥工程で乾燥し水分を蒸発させるだけで製膜でき製造工数を低減できる生産性に優れた浮遊微粒子捕集体の製造方法を提供することができる。
(3)予め水溶性高分子化合物を水に溶解させた水溶液と発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを混合することにより、両者が混合液中に均一に分散するので、発色又は発光の安定性が向上すると共に、溶け残りがないので反応膜の表面を平坦にでき反応痕の視認性を向上できる浮遊微粒子捕集体の製造方法を提供することができる。
【0029】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)pHが6〜8の水溶性高分子化合物水溶液を混合することにより、反応膜に付着した液体微粒子のpHが反応膜のpHにより変化することを防ぎ、或いは微量な変化に留めることができるので、正確な測定が可能な浮遊微粒子捕集体の製造方法を提供することができる。
【0030】
請求項6に記載の発明によれば、請求項4又は5の効果に加え、
(1)塗膜の変色を防止しながら短時間で乾燥させ、所定の含水率の反応膜を製膜することができる浮遊微粒子捕集体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
ポリビニルアルコール(PVA)粉末(関東化学株式会社製)を精製水に溶解させた10wt%水溶液(精製水に溶解した1wt%水溶液でpH約5.8)と、チモールブルー溶液(チモールブルー0.04wt%、水99.954wt%、水酸化ナトリウム約0.006wt%)と、を重量比で1:9で混合し、得られた混合液を支持体としてのガラス板上にディッピングして約1μm〜500μmの厚さに塗布した後、乾燥機を用いて温度130℃で10分乾燥させて実施例1の浮遊微粒子捕集体を作製した。
(実施例2)
pH指示薬としてブロモフェノールブルー溶液(ブロモフェノールブルー0.04wt%、水99.954wt%、水酸化ナトリウム約0.006wt%)を用いた点以外は実施例1と同様にして実施例2の浮遊微粒子捕集体を作製した。
(実施例3)
pH指示薬としてブロモクレゾールグリーン溶液(ブロモクレゾールグリーン0.04wt%、水99.958wt%、水酸化ナトリウム約0.002wt%)を用いた点以外は実施例1と同様にして実施例3の浮遊微粒子捕集体を作製した。
なお、実施例1乃至3の浮遊微粒子捕集体の反応膜の含水率を調べるために、実施例1乃至3で用いたPVA粉末を精製水に溶解させた1wt%水溶液を実施例1乃至3と同様の条件で支持体に塗布及び乾燥して乾燥膜を作製し、この乾燥膜についてTG/DTA測定(昇温速度10℃/min、100cm3/minの空気流通下)を行ったところ、重量の減少が約2〜3%になったところでTG曲線が安定した。重量の減少は水分の蒸発によるものと考えられるので、反応膜中に約2〜3wt%の含水率が確認できた。
【0033】
(実施例1乃至3の変色反応の評価)
実施例1乃至3の浮遊微粒子捕集体についてその性能を評価するために、各実施例の浮遊微粒子捕集体の反応膜表面にpH2に調整した硝酸水溶液を噴霧し、粒径数百μmの酸性の液体微粒子を付着させその変色反応の評価を行った。図1(a)乃至(c)は実施例1乃至3の浮遊微粒子捕集体の変色反応を示す拡大写真である。
なお、変色反応の評価方法は、表面を光学顕微鏡で拡大したものを撮像し、その画像を目視により観察して行った。評価の結果を(表1)に示す。
【表1】

【0034】
(表1)及び下記の(表2)の変色反応の評価を示す記号は、「○」は良好な変色反応が確認できたことを示し、「×」は良好な変色反応が表れなかったことを示す。図1(a)乃至(c)及び(表1)に示すように、ブロモフェノールブルー溶液及びブロモクレゾールグリーン溶液を混合した実施例2及び3では、良好な変色反応を確認でき、その大きさや形状を測定できたにも関わらず、チモールブルー溶液を混合した実施例1では、変色反応を伴わなかった。これは、PVA水溶液が中性又は中性に近い弱酸性を呈すため反応膜に付着した酸性の液体微粒子が中和され、pHが2から3〜4程度に大きくなったためと考えられる。すなわち、実施例1乃至3における反応膜の変色pH範囲はそれに含有されるpH指示薬の変色pH範囲より1〜2程度中性側へ変化していると考えられる。
このように変色pH範囲の異なる種々のpH指示薬溶液を用いて複数の浮遊微粒子捕集体を作製し、作製した複数の浮遊微粒子捕集体を使用して液体の浮遊微粒子を捕集し、その各々の発色について比較分析し、データベース化することにより、浮遊微粒子のpHを測定することができることがわかる。
また、実施例1乃至3の結果から、水溶性高分子化合物水溶液が弱酸性を呈す場合であっても、水溶液の濃度を1wt%と小さくして水溶液のpHを7に近づけたり、pH指示薬溶液の種類を適宜選択することにより、液体微粒子のpHを測定できることがわかる。
【0035】
(実施例4乃至10)
(表2)に示すようにけん化度、粘度、及び1wt%水溶液におけるpHの異なる7種のPVA粉末を各々精製水に溶解させた10wt%水溶液と、チモールブルー溶液と、を重量比で1:9で混合し、得られた混合液を支持体としてのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上にディッピングして約1μm〜500μmの厚さに塗布した後、乾燥機を用いて温度130℃で10分間乾燥させて実施例4乃至10の浮遊微粒子捕集体を作製した。
(実施例4乃至10の反応痕の視認性の評価)
実施例4乃至10の浮遊微粒子捕集体についてその反応痕の視認性を評価するために、各実施例の浮遊微粒子捕集体の反応膜表面に所定のpHに調整した硝酸水溶液又はpH標準液を噴霧し、粒径約10μm〜100μmの酸性の液体微粒子を付着させその反応痕の視認性の評価を行った。図2(a)は実施例4の浮遊微粒子捕集体の拡大写真であり、図2(b)は実施例8の浮遊微粒子捕集体の拡大写真である。評価の結果を(表2)に示す。
【表2】

【0036】
(表2)の視認性の評価を示す記号は、「○○」は境界が鮮明で滲み(反応痕の拡がり)もなく最も良好な反応痕が確認できたことを示し、「○」は僅かに滲みがあるが境界は鮮明であり良好な反応痕が確認できたことを示し、「△」は境界が不鮮明で滲みがあるが反応痕は視認可能であったことを示し、「×」は反応痕が視認できなかったことを示す。図2及び(表2)に示すように、実施例4乃至実施例7の浮遊微粒子捕集体では、反応痕を視認できなかったが、実施例8乃至実施例10では視認でき、特に実施例8及び実施例9では良好な反応痕が確認できた。これは、けん化度が87mol%より高くなると反応膜に付着した液体の浮遊微粒子が反応膜の表面に浸透せずに弾かれ易くなるため反応痕が残らなず、また、けん化度が80mol%より低くなると液体微粒子が反応膜に浸透し過ぎて滲みが生じ易くなる傾向があるためと考えられる。
以上の実施例4乃至10の結果から、けん化度が80mol%〜87mol%のPVAを用いることにより、反応膜表面に付着した液体微粒子が弾かれることなく且つ滲むことがない浮遊微粒子捕集体を作製できることがわかった。
【0037】
(実施例11)
上述した実施例8の浮遊微粒子捕集体では、反応痕は境界が鮮明で滲みもなかったが変色を確認することはできなかった。また、上述した実施例9の浮遊微粒子捕集体では、反応痕は僅かに滲みがあったが変色を確認することができた。そこで、実施例8で用いたPVA粉末と実施例9で用いたPVA粉末とを重量比で1:1で混合した混合PVA粉末を精製水に溶解させた10wt%水溶液と、チモールブルー溶液と、を重量比で1:9で混合し、得られた混合液を支持体としてのPET製のフィルム上にディッピングして約1μm〜500μmの厚さに塗布した後、乾燥機を用いて温度130℃で10分間乾燥させて実施例11の浮遊微粒子捕集体を作製した。
【0038】
(実施例11の反応痕の視認性の評価)
実施例11の浮遊微粒子捕集体についてその反応痕の視認性及び変色を評価するために、反応膜表面に所定のpH(pH1.68、pH4.01、pH7.41、pH9.01)に調整したpH標準液を噴霧し、粒径約10μm〜100μmの酸性の液体微粒子を付着させその反応痕の視認性及び変色の評価を行った。図3(a)はpH1.68のpH標準液の反応痕を示す拡大写真であり、図3(b)はpH4.01のpH標準液の反応痕を示す拡大写真であり、図3(c)pH7.41のpH標準液の反応痕を示す拡大写真であり、図3(d)はpH9.01のpH標準液の反応痕を示す拡大写真である。
【0039】
図3に示すように、実施例11では境界が鮮明で滲みもなく良好な反応痕が確認できると共に、pH1.68からpH7.41の広範囲のpHに対して変色を示すことがわかった。
なお、実施例8,9,11の浮遊微粒子捕集体の反応膜の含水率を調べるために、実施例8,9,11で用いたPVA粉末を各々精製水に溶解させた1wt%水溶液を実施例8,9,11と同様の条件で支持体に塗布及び乾燥して乾燥膜を作製し、この乾燥膜についてTG/DTA測定(昇温速度10℃/min、100cm3/minの空気流通下)を行い重量の減少を調べたところ、実施例8のPVA粉末を用いた乾燥膜は減少率が約1〜2%になったところでTG曲線が安定し、その時の温度(以下、安定域到達温度という)は約50℃であった。実施例9のPVA粉末を用いた乾燥膜は減少率が約2〜3%になったところでTG曲線が安定し、その安定域到達温度は85℃〜90℃であった。実施例11のPVA粉末を用いた乾燥膜は減少率が約2%になったところでTG曲線が安定し、その安定域到達温度は60℃〜70℃であった。重量の減少は水分の蒸発によるものと考えられるので、各々の反応膜中に約1〜3wt%の含水率が確認できた。反応膜の含水率を1〜3wt%とすることにより、境界が鮮明で滲みも少ない反応痕を確認できることがわかった。乾燥膜の安定域到達温度が50℃〜90℃好ましくは60℃〜70℃であるPVAを用いて反応膜を作製することにより、境界が鮮明で滲みもなく良好な反応痕が確認できることがわかった。
【0040】
次に、実施例8,9,11で用いたPVA粉末の成分分析を行い、反応膜の特性とPVAの成分との関係を調べた。
まず、実施例8,9,11で用いたPVA粉末を各々精製水に溶解させた1wt%水溶液を準備し、各々の1wt%水溶液中のナトリウムイオン(Na+)及びカリウムイオン(K+)の濃度をフレーム原子吸光分析法により測定した。また、各々の1wt%水溶液中の硫酸イオン(SO42-)の濃度をイオンクロマトグラフ法により測定した。なお、イオンクロマトグラフ法においては溶離液として炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの混合系水溶液を用いて行った。測定結果を(表3)に示す。
【表3】

(表3)において、記号「<」は、その数値より小さいことを示す。すなわち「<0.1」であれば0.1より小さいことを示す。
(表3)に示すように、境界が鮮明で滲みも少ない反応痕が確認できた実施例8,9,11の反応膜の作製に用いたPVA粉末は、1wt%水溶液中のナトリウムイオン濃度が12mg/L〜14mg/Lであり、硫酸イオン濃度が0.3mg/L以下であることがわかった。この結果から、1wt%水溶液中のナトリウムイオン濃度が12mg/L〜14mg/L、好ましくは12.5mg/L〜13.5mg/LのPVA粉末を用いて反応膜を作製することにより、及び/又は、1wt%水溶液中の硫酸イオン濃度が0.3mg/L以下、好ましくは0.05mg/L〜0.2mg/LのPVA粉末を用いて反応膜を作製することにより、境界が鮮明で滲みもなく良好な反応痕が確認でき、浮遊微粒子の捕集及び分析に好適な親水性、液体微粒子の形状保持性を有することがわかった。
【0041】
また、発色反応試薬の代わりに発光反応試薬としてルミノール試薬を用いた他は実施例1と同様にして浮遊微粒子捕集体を作製した。次いで、その表面にヘミン溶液を噴霧しヘミン溶液の液体微粒子を付着させ発光反応を確認したところ、良好な結果が得られた。したがって、浮遊酸性物質やルミノール試薬を酸性とした場合のアルカリの検出ができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明したように、本発明は、大気中に浮遊している浮遊微粒子を捕集し分析することができる浮遊微粒子捕集体に関し、特に本発明によれば、大気中に浮遊する液体の微粒子を容易に個別に付着させ捕集することができ、付着部分で発色又は発光した反応痕の大きさや形状を測定することができると共に、pH等の性質を捕集された各々の浮遊微粒子について個別に分析することができる浮遊微粒子捕集体を提供することができる。
また、本発明は、大気中に浮遊している浮遊微粒子を捕集し分析することができる浮遊微粒子捕集体の製造方法に関し、特に本発明によれば、大気中に浮遊する液体等の微粒子を付着させ捕集することができる捕集体を簡単且つ少ない工程で安価に製造することができる浮遊微粒子捕集体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)実施例1の浮遊微粒子捕集体の変色反応を示す拡大写真(b)実施例2の浮遊微粒子捕集体の変色反応を示す拡大写真(c)実施例3の浮遊微粒子捕集体の変色反応を示す拡大写真
【図2】(a)実施例4の浮遊微粒子捕集体の拡大写真(b)実施例8の浮遊微粒子捕集体の拡大写真
【図3】(a)pH1.68のpH標準液の反応痕を示す拡大写真(b)pH4.01のpH標準液の反応痕を示す拡大写真(c)pH7.41のpH標準液の反応痕を示す拡大写真(d)pH9.01のpH標準液の反応痕を示す拡大写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体上に製膜された水溶性高分子化合物からなる反応膜と、を備え、前記反応膜が1種又は2種以上の発色反応試薬及び/又は発光反応試薬を含有することを特徴とする浮遊微粒子捕集体。
【請求項2】
前記反応膜の含水率(ω)が、0wt%<ω≦30wt%であることを特徴とする請求項1に記載の浮遊微粒子捕集体。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物が、けん化度が80mol%〜87mol%のポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の浮遊微粒子捕集体。
【請求項4】
水溶性高分子化合物水溶液と、水を主な溶媒とする1種又は2種以上の発色反応試薬溶液及び/又は発光反応試薬溶液とを混合する混合工程と、得られた混合液を支持体上に塗布する塗布工程と、塗布された塗膜を乾燥させる乾燥工程と、を備えていることを特徴とする浮遊微粒子捕集体の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子化合物水溶液のpHが4〜8好ましくは5〜7であることを特徴とする請求項4に記載の浮遊微粒子捕集体の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程における乾燥温度は100℃〜150℃であることを特徴とする請求項4又は5に記載の浮遊微粒子捕集体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−308284(P2006−308284A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105140(P2005−105140)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】