説明

浮遊粒子状物質の測定装置

【課題】 大気中の浮遊粒子状物質を構成する元素種類を連続自動的に分析する装置を提供する。
【解決手段】 分級器2によって粒径2.5μmを超える粗大粒子CPの全量を含む空気と、PM2.5以下の微小粒子FPを含む空気とに分級し、分級された空気中の浮遊粒子状物質をフィルタ3の第1および第2の位置3a,3bに捕集する。これらを各別に蛍光X線分析器13によって元素分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の浮遊粒子状物質の連続測定装置に関し、特に人の健康に影響の大きい微小浮遊粒子状物質の連続測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中には、種々の粒径の浮遊粒子状物質が存在する。粒径が10μm以下の浮遊粒子状物質は、人が呼吸するに際し、気道で濾過されずに、吸引され、肺に沈降することから、特に人に対する毒性が高い。このような理由で、公害対策基本法に基づく大気汚染に関する環境基準では、大気中の浮遊粒子状物質は、粒径が10μm以下のものと規定されている。そして、従来からこの規定に従って、粒径10μm以下の浮遊粒子状物質の重量を測定する装置が市販されている。なお、本明細書では、浮遊粒子状物質と記載するものは粒径10μm以下の粒子状物質とは限らずに、大気中に浮遊する粒子状物質とする。
【0003】
大気中の浮遊粒子状物質には図7に示すように、粒径2.5μm程度を境として粗大粒子(coarse particle,以下CPと略すことがある)と微小粒子(fine particle,以下FPと略すことがある)とが存在する。CPは、海塩粒子や土壌に由来する砂塵など自然に生じるものを含んでいる。これに対し、FPは工場等から排出されるばいじんやディーゼル車等の発生源から直接大気に放出される一次粒子と、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子がある。最近、都市部における大気中の浮遊粒子状物質の粒径についての人体に及ぼす疫学調査の結果、FPは低濃度においても、心血管疾患、肺がん、喘息などの疾患に影響すると考えられ、FPの重量濃度と死亡率が比例することがわかっている。
【0004】
現在、連続計測が可能なのは、特許文献1記載のように一定の大気中に含まれる浮遊粒子状物質の重量の測定装置があり、1時間に一回のFPとCPの重量濃度の測定装置が市販されている。また、米国では、元素分析を行う手順として、大気採取装置により、1日に一回程度、一定流量でフィルタ上に粒子状物質を採取し、その後人手により、フィルタを実験室に持ち帰り、分析機器により元素分析が行われている。しかしながら、このような人手による方法では、せいぜい、1日に一回の時間分解能でしか観測が行えずたとえ1日に一回だとしても、大変な手間が必要となるので、人件費がかさんでしまう。さらに、それ以上の時間分解能で観測するのは現実的でない。
【0005】
しかしながら、1日に一回の時間分解能での観測では、大気中の浮遊粒子状物質の発生源の特定、大気中での生成メカニズムや挙動の研究、また、疫学的調査を行い、その人体に対する毒性について研究を行うにしても、十分とはいえない。
【0006】
このような背景から、さらに、連続自動による浮遊粒子状物質の元素の一斉分析装置の開発が望まれている

【0007】
【特許文献1】特開2001−343319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大気中に浮遊する粒子状物質の発生源を特定したり、大気中での生成メカニズムや挙動を研究したり、疫学調査により毒性を評価するには、浮遊粒子状物質の重量だけではなく、粒子を構成する元素分析を行う必要がある。
【0009】
本発明の目的は、大気中の浮遊粒子状物質を構成する元素を連続自動的に分析する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一定流量の試料大気を吸引し、試料大気を粗大粒子の全てを含む空気と、微小粒子のみを含む空気とに浮遊粒子状物質を分級し、テープ状フィルタに連続的に浮遊粒子状物質を捕集し、捕集した粗大粒子と微小粒子のうち少なくともいずれか一方をX線蛍光分析法によって測定することで、浮遊粒子状物質中の元素分析を行うことを特徴とする浮遊粒子状物質の測定装置である。
【0011】
また本発明は、X線蛍光分析法が、2次ターゲットを用いた偏光型X線蛍光分析法であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、元素分析によって、Na,Mg,Al,Si,P,S,Cl,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znのいずれの元素を含むかを特定することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、浮遊粒子状物質中の元素分析を行うとともに、β線質量分析法によって浮遊粒子状物質の質量を測定することを特徴とする。
【0014】
また本発明は、一定流量の試料大気を吸引し、試料大気を粗大粒子の全てを含む空気と、微小粒子のみを含む空気とに浮遊粒子状物質を分級して、大気中で浮遊する粒子状物質を捕集する浮遊粒子捕集手段と、
浮遊粒子捕集手段による浮遊粒子状物質の捕集位置へ連続的に送給されるテープ状捕集フィルタと、
捕集フィルタ上の浮遊粒子状物質に向けてX線を照射するX線源と、
X線が照射された浮遊粒子状物質からの蛍光X線を検出する検出器と、
検出器によって検出される蛍光X線エネルギーから浮遊粒子状物質中の元素種類を特定する特定手段とを含むことを特徴とする浮遊粒子状物質の測定装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、試料大気を粗大粒子の全てを含む空気と、微小粒子のみを含む空気とに浮遊粒子状物質を分級し、テープ状フィルタに連続的に浮遊粒子状物質を捕集し、捕集した浮遊粒子状物質をX線蛍光分析法によって測定する。これにより、大気中の浮遊粒子を構成する元素種類を連続自動的に分析することが可能となり、浮遊粒子状物質の発生源特定や、大気中での生成メカニズムや挙動の研究、疫学調査による毒性の評価に役立つ。分級することで、特に分析の必要性が高いFPに対してより詳細に元素分析を行うことができる。
【0016】
また本発明によれば、2次ターゲットを用いた偏光型X線蛍光分析法によって元素分析を行う。
【0017】
これにより、検出結果に影響するノイズを小さくすることができ、元素分析を高精度で行うことができる。
【0018】
また本発明によれば、元素分析によって、軽元素であるNa,Mg,Al,Si,P,S,Cl,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znのいずれの元素を含むかを特定することができる。
【0019】
また本発明によれば、浮遊粒子状物質中の元素分析を行うとともに、β線質量分析法によって浮遊粒子状物質の質量を測定する。
これにより、捕集した同じサンプルで元素分析と質量分析を行うことができる。
【0020】
また本発明によれば、浮遊粒子捕集手段が一定流量の試料大気を吸引し、浮遊粒子状物質の捕集位置へ連続的に送給されるテープ状捕集フィルタによって大気中で浮遊する粒子状物質を捕集する。その際、試料大気は、粗大粒子の全てを含む空気と、微小粒子のみを含む空気とに浮遊粒子状物質を分級される。
【0021】
捕集フィルタ上の浮遊粒子状物質に向けてX線を照射し、X線が照射された浮遊粒子状物質からの蛍光X線を検出器が検出する。特定手段は、検出器によって検出される蛍光X線エネルギーから浮遊粒子状物質中の元素種類を特定する。
【0022】
これにより、大気中の浮遊粒子状物質を構成する元素種類を連続自動的に分析することが可能となり、浮遊粒子状物質の発生源特定や、大気中での生成メカニズムや挙動の研究、疫学調査による毒性の評価に役立つ。分級することで、特に分析の必要性が高いFPに対してより詳細に元素分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施の形態によって、より具体的に説明する。
図1は、本発明の実施の一形態である浮遊粒子状物質の連続測定装置1の構成を示す外観図である。
【0024】
装置外部に露出したサンプルインレットから吸引によって取り込まれた試料大気は、バーチャルインパクタ分級器2によってCPの全てを含む空気と、FPのみを含む空気とに分級され、FPのみを含む空気は、テープ状のフッ素系メンブランフィルタ3の第1の位置3aによって濾過され、第1フィルタ4、第1流量制御部5、第1流量センサ6を通って外部へ排気される。テープフィルタには一般的にガラスフィルタが用いられるが、水分を保持し易く、後述のX線蛍光分析およびβ線質量分析の分析結果に影響を与えてしまうため、本発明では、フッ素系メンブランフィルタを採用している。
【0025】
第1流量センサ6の出力は、CPU(不図示)に送られ、予め入力された第1流量になるように、第1流量制御部5によって制御される。
【0026】
一方、分級器2で分級されたCPの全てを含む空気は、テープフィルタ3の第2の位置3bによって濾過され、温度センサ7、圧力センサ8、第2フィルタ9、第2流量制御部10、第2流量センサ11を通って外部へ排気される。第2流量センサ11の流量が予め定められた第2流量になるように第2流量制御部10によって制御される。分級器2は、吸引ポンプ12によって吸引されて試料大気を吸引する。
【0027】
これによって、フィルタ3の第1の位置3aおよび第2の位置3bには、連続的に分級されたFPとCPとが各別に捕集される。
【0028】
テープフィルタ3は、テープ送給機構12によって連続的に一定の送り速度で送給され、FPおよびCPが捕集された第1の位置3aおよび第2の位置3bは、蛍光X線分析器13(以下では単に分析器という)に送られる。
【0029】
分析器13は、テープフィルタ3がその内部を移動するとともに測定中に内部を真空状態に保持する分析部14と、テープフィルタ3の第1の位置3aおよび第2の位置3bに捕集されたFPおよびCPにX線を照射するX線源15と、X線が照射されたFPおよびCPからの蛍光X線を検出する検出器16と、テープフィルタ3を支持するステージ17とを有する。
【0030】
本発明においては、分析器3は、2次ターゲットを用いた偏光型X線蛍光分析器であることが望ましい。具体的には、単結晶グラファイトの2次ターゲット18を用いてBragg反射偏光構造としナトリウム(Na)から亜鉛(Zn)までの軽元素の測定が可能な分級器3を用いる。ナトリウム(Na)から亜鉛(Zn)までの軽元素とは、具体的には、Na,Mg,Al,Si,P,S,Cl,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znであって、2次ターゲットを用いた偏光型X線蛍光分析によってこれらの軽元素のいずれの元素を含むかを特定することができる。
【0031】
偏光型X線蛍光分析は、検出したスペクトルに対するノイズが小さく、軽元素を分析するにあたって高精度で分析を行うことができる。
【0032】
2次ターゲット18を、単結晶グラファイトからCo,Cuに変更することで、As,Se,Moなどの中重元素についての元素分析が可能であり、単結晶グラファイトからMo,Al23に変更することで、Cd,Sn,Hgなどの重元素についての元素分析が可能である。
【0033】
分析器3は、X線源15としては、空冷式PdターゲットのX線管(50kV,2mA,出力50W)を用い、検出器16としては、SSDD(Super Silicon Drift Detector)を用いたエネルギー分散型X線蛍光分析器である。
【0034】
図2は、分析器3の光学系を示す概略図である。X線源15であるX線管から出射されたX線は、まず2次ターゲット18でBragg反射して、テープフィルタ3の捕集位置(試料スポット)に捕集されているFPおよびCPに照射される。照射されたX線によってFPおよびCPを構成する各元素では外殻からの電子の遷移が起こり元素に固有の波長(固有のエネルギー)を有する蛍光X線が放射される。放射された蛍光X線のエネルギーが、検出器16であるSSDDで検出され、FPおよびCPを構成する元素が特定される。
【0035】
連続してテープフィルタ3の第1および第2の位置3a,3bに空気を透過させていると、第1および第2の位置3a,3b上に捕集された浮遊粒子状物質の量が次第に増え、空気を透過できなくなるので、一定時間毎、たとえば1時間毎に、テープ送給機構12によってテープフィルタ3が一定の長さ分だけ分析器3に送給されて分析され、分級器2には、テープフィルタ3の新たな捕集位置が設定され、捕集が行われる。
【0036】
フィルタ3の浮遊粒子状物質を捕集する第1の位置3aおよび第2の位置3bは、それぞれたとえば直径8mmおよび直径5mmの円形である。
【0037】
特に都市部における測定時には、CPを含む空気と、FPを含む空気とでは流量が異なるとともに、含まれる粒子濃度も異なるので、分析時に最適な感度となるように、フィルタに捕集する面積(直径)を設定することが好ましい。それぞれの捕集面積の比を直径の比で考えると、FPの捕集位置の直径をDfとし、CPの捕集位置の直径をDcとしたとき、Df/Dcが1.2〜1.8となるように設定することが好ましい。たとえば上記のように、第1の位置3a(FPの捕集位置)の直径Dfを8mmに設定し、第2の位置3b(CPの捕集位置)の直径Dcを5mmに設定する。このときのDf/Dc=1.6である。さらに、X線蛍光分析におけるFPとCPの測定積算時間は、それぞれ最適となるように設定することが可能で、たとえばFPの測定では10分間、CPでは20分間に設定することが好ましい。
【0038】
フィルタ3は、テープ状であり供給ロール19に巻かれた状態で供給され、複数のガイドローラによって、第1の位置3aおよび第2の位置3bに供給され、複数のガイドローラを経て、巻取ローラ20に巻取られる。
【0039】
X線蛍光分析の校正においては、NIST(National Institute of Standards &
Technology)で規定された標準物質があり、テープフィルタ3を取り外し、この標準物質を測定位置に挿入することが可能に構成されている。標準物質としては、たとえば、
Standard Reference Material 2783を使用することができる。
【0040】
標準物質を測定することにより、X線蛍光分析器3から出力される測定値(カウント値)に基づいて各元素の重量に換算することができる。
【0041】
また、テープフィルタ3の第1の位置3aおよび第2の位置3bのFPおよびCPをX線蛍光分析するためには、測定位置に到着した順に、すなわち、まず第2の位置3b、次に第1の位置3aに対して測定を行う。X線蛍光分析を行うにはたとえば、最短でも2分の測定時間が必要であり、第2の位置3bに捕集された粒子に対する測定を行っている間、テープフィルタ3の送給が停止することになる。
【0042】
しかし、分級部器2には、新たな捕集位置をセットする必要があるので、分析器13による分析中であっても分析器13より上流側ではテープフィルタ3が送給されることが好ましい。そのため、本発明の連続測定装置1には、分級部器2と分析器13との間にテープ待機機構21を設けている。
【0043】
テープ待機機構21は、テープフィルタ3の送給方向に対して垂直方向に移動可能なローラ22を備える。このローラ22がテープフィルタ3の裏面側からテープフィルタ3を、鉛直上向きに持ち上げることで、テープフィルタ3の迂回路を発生させる。
【0044】
巻取ローラ20が停止することにより、分析器13内でのテープフィルタ3の送給は停止され、測定が行われる。一方、テープ待機機構21によってテープフィルタ3が迂回することで、供給ロール19からの供給を停止することなく、分級器2への送給が行われる。したがって、分析器13によるX線蛍光分析中であってもテープフィルタ3を分級器2に送給して新たにFPおよびCPの捕集を行うことができる。
【0045】
X線蛍光分析が終了すると、ローラ22が鉛直下方に移動するとともに、巻取ローラ20がテープフィルタ3を巻き取ることで、テープ待機機構21から下流側ではテープフィルタ3が移動し、迂回していた分のテープフィルタ3が分析器13へ送給される。これによってテープフィルタ3の第1の位置3aに対するX線蛍光分析を行うことができる。
【0046】
次に、本実施の形態で用いたバーチャルインパクタ分級器2の構成およびフィルタ3の第1の位置3aおよび第2の位置3bを透過する空気量について説明する。図3は、バーチャルインパクタ分級器2の構成を説明するための断面図である。バーチャルインパクタ分級器2は、ノズル部40と、集気部45と、外管部50とから構成される。ノズル部40は、空気を噴出し、内径D0を有する円形の噴出口41と、噴出口41に連なり、長さTの円筒部42と、円筒部42に連なる縮管部43とから成り、空気がスムーズに噴出口41から噴出される。集気部45は、ノズル部41の軸線と同一の軸線と、前記D0よりも大きい内径D1とを有する円筒状の隔壁46によって囲まれ、噴出口41と隔壁46の先端とは長さSの間隔で対峙している。外管部50は、隔壁46より充分大きい内径の外管51によって囲まれ、排出口を有している。排出口52および集気部45は、吸引ポンプ12に接続され、噴出口41から噴出された空気Q0をQ1と(Q0−Q1)との割合に分配する。噴出口41から噴出される空気がレイノズル数約10,000に相当する線速(20,000〜25,000m/min)で噴出されると、空気中の微粒子60は、流線に沿って流れ、前記空気の流量割合に応じて外管部50(主流)と集気部45(二次流)とに配分される。これに対し粗粒子61は、その慣性力のため、ほとんど全部二次流に入る。前記D1/D0,S/D0,T/D0,Q1/Q0を適当に定めれば、CPのほとんど全部が二次流に入る分級器2を得ることができる。D0=3.912mm,D1/D0=1.28,S/D0=1.0,T/D0=2.0,Q0=27.7l/min,Q1/Q0=0.10の条件でバーチャルインパクタ分級器2を運転して、粒子径1〜10μmの浮遊粒子状物質を含む空気を分級した。結果を図4に示す。図4に示すように、前記条件でバーチャルインパクタ分級器2を運転したとき、粒径2.5μmで完全に分級されるものではないが、主流と二次流との分級曲線が、大略粒径2.5μmの位置で交わり、大略粒径2.5μmで分級されている。分級が正確に行われるために、第1および第2流量センサ6,11で、分級器2で主流および二次流の空気流量が監視され、これが予め定めた量、すなわち(Q0−Q1)およびQ1になるように、第1および第2流量制御部5,10で制御される。
【0047】
実際に演算される浮遊粒子状物質の量は、空気量Q0に対するFP全量(以下、PM2.5量という)、FP中の元素状炭素量(以下、PM2.5C量という)および全浮遊粒子状物質量(以下、TSP量という)であり、これは先に計算されたFP量、FPC量(FP中の元素状炭素量)およびCP量から、次の式1で計算される。
PM2.5=Q0/(Q0−Q1)×FP
PM2.5C=Q0/(Q0−Q1)×FPC …(1)
TSP=FP+CF
【0048】
空気中のPM2.5,PM2.5C,TSPの空気中の含有量を算出するために1分間に流れた空気量Q0を基準状態、たとえば0℃1気圧に換算する場合と、その場の温度と気圧における体積に換算する場合とがある。第1および第2流量センサ6,11が熱線式センサの場合、1分毎の基準状態の0℃1気圧流量に換算された出力がされているので、その場の気温と気圧における体積に換算する場合、気圧センサ102と気温センサ103によって得られたデータを元に演算する。これらの計算はCPU100の演算部で行われ、その結果は記録装置101に記録される。
【0049】
図5は、本発明の他の実施形態である浮遊粒子状物質の連続測定装置1の構成を示す外観図である。
【0050】
本実施形態では、上記の実施形態に、β線質量分析法によって浮遊粒子状物質の質量を測定する質量測定部70を追加して設けたことを特徴としている。図1に示した連続測定装置1と同じ動作を行う部位については、同じ参照符号を付して説明を省略する。
【0051】
質量測定部70は、分級器2と一体に設けられ、分級直後にテープフィルタ3の第1の位置3aおよび第2の位置3bに捕集されたFPおよびCPの質量分析を行う。
【0052】
テープフィルタ3の第1の位置3aおよび第2の位置3bには、第1β線源71および第2β線源72からβ線が照射され、透過したβ線量が、たとえば1分毎に連続的に検出される。検出結果は、第1プリアンプおよび第2プリアンプを通してCPU100に入力される。
【0053】
第1および第2β線検出器(シンチレーションカウンタ)73,74の検出結果と、フィルタ上の浮遊粒子状物質の量との関係は、式2で計算される。
j=Ij-1exp(−μΧ) (Χ:カイ) …(2)
【0054】
ここにIjは、ある瞬間に浮遊粒子状物質を捕集したフィルタを透過したβ線量であり、Ij-1はその1分前の同じ量である。μは比例定数であり、Χはフィルタの単位面積当たりの捕集浮遊粒子状物質の量(mg/cm2)である。μはβ線源に固有の値であり、標準物質によって予めcm2/mgの単位で求められる。
【0055】
式2を変形して、式3を得る。
Χ=−ln(Ij/Ij-1)/μ …(3)
【0056】
式3からIjとIj-1との比を求めることによって、たとえば1分間に捕集されたフィルタの単位面積当たりの浮遊粒子状物質の量が計算でき、これに第1の位置3aの面積(これは第2の位置3bの面積に等しく、直径が11mmの場合、約0.95cm2となる)を掛ければ、1分間に捕集された浮遊粒子状物質の量(mg/min)が算出できる。
【0057】
このように、β線質量分析法によって浮遊粒子状物質の質量を測定するとともに、X線蛍光分析法によって浮遊粒子状物質の元素分析を行うことができる。
【0058】
図6は、図1に示す浮流粒子状物質の連続測定装置1を用いて、大気中の浮遊粒子状物質を24時間連続測定した結果の一例を示すグラフである。
【0059】
横軸が時刻を示し、縦軸が捕集量を示している。X線蛍光分析の捕集量は、カウント値で示し、β線質量分析の捕集量は、取り込み大気単位体積当たりの質量で示している。
X線蛍光分析およびβ線質量分析の両方を1時間毎に行った。
【0060】
グラフは、上から4つが元素分析結果で、下の2つが質量分析の結果である。元素分析については、上から順にS(硫黄)の結果、Al(アルミニウム)およびCa(カルシウム)の結果、S(硫黄)およびK(カリウム)の結果、Na(ナトリウム)およびMg(マグネシウム)の結果を示している。質量分析については、上から順にTPS−PM2.5およびPM10−PM2.5の結果、PM2.5およびPM1.0の結果を示している。
【0061】
このように、本発明の連続測定装置1を用いることで、軽元素の元素分析と、質量分析を行うことが可能となり、FPおよびCPの発生源や有害性の判断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の一形態である浮遊粒子状物質の連続測定装置1の構成を示す外観図である。
【図2】分析器3の光学系を示す概略図である。
【図3】バーチャルインパクタ分級器2の断面図である。
【図4】バーチャルインパクタ分級器2による分級の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の他の実施形態である浮遊粒子状物質の連続測定装置1の構成を示す外観図である。
【図6】図1に示す浮流粒子状物質の連続測定装置1を用いて、大気中の浮遊粒子状物質のFP中の元素を24時間連続測定した結果の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 浮遊粒子状物質測定装置
2 バーチャルインパクタ分級器
3 テープフィルタ
3a 第1の位置
3b 第2の位置
13 蛍光X線分析器
14 分析部
15 X線源
16 検出器
17 ステージ
70 質量測定部70

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定流量の試料大気を吸引し、試料大気を粗大粒子の全てを含む空気と、微小粒子のみを含む空気とに浮遊粒子状物質を分級し、テープ状フィルタに連続的に浮遊粒子状物質を捕集し、捕集した粗大粒子と微小粒子のうち少なくともいずれか一方をX線蛍光分析法によって測定することで、浮遊粒子状物質中の元素分析を行うことを特徴とする浮遊粒子状物質の測定装置。
【請求項2】
X線蛍光分析法が、2次ターゲットを用いた偏光型X線蛍光分析法であることを特徴とする請求項1記載の浮遊粒子状物質の測定装置。
【請求項3】
元素分析によって、Na,Mg,Al,Si,P,S,Cl,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znのいずれの元素を含むかを特定することを特徴とする請求項1または2記載の浮遊粒子状物質の測定装置。
【請求項4】
浮遊粒子状物質中の元素分析を行うとともに、β線質量分析法によって浮遊粒子状物質の質量を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の浮遊粒子状物質の測定装置。
【請求項5】
一定流量の試料大気を吸引し、試料大気を粗大粒子の全てを含む空気と、微小粒子のみを含む空気とに浮遊粒子状物質を分級して、大気中で浮遊する粒子状物質を捕集する浮遊粒子捕集手段と、
浮遊粒子捕集手段による浮遊粒子状物質の捕集位置へ連続的に送給されるテープ状捕集フィルタと、
捕集フィルタ上の浮遊粒子状物質に向けてX線を照射するX線源と、
X線が照射された浮遊粒子状物質からの蛍光X線を検出する検出器と、
検出器によって検出される蛍光X線エネルギーから浮遊粒子状物質中の元素種類を特定する特定手段とを含むことを特徴とする浮遊粒子状物質の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−261712(P2008−261712A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104262(P2007−104262)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度、独立行政法人科学技術振興機構、革新技術開発研究事業委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(591081321)紀本電子工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】