説明

浮遊系細胞の培養に好適な材料

【課題】 白血球等の浮遊性細胞の増殖を促進することのできる培養容器の材料、並びにこの材料を用いた雑菌汚染等の恐れなく浮遊系細胞を培養するための容器に関する。
【解決手段】 本発明は、浮遊系細胞に対する増殖促進因子を表面に担持しているハニカム状多孔質体を提供する。また本発明は浮遊系細胞を培養するための密封可能な容器であって、浮遊系細胞に対する増殖促進因子を表面に担持させたハニカム状多孔質構造体を該容器の内壁として有する、前記容器を提供する。本発明は、リンパ球等の浮遊系細胞の培養を閉鎖系バックを用いて簡便に行うことを可能にし、その結果、浮遊系細胞の大量調製に要する費用を最小限に抑えて患者の負担を減ずる他、調製された浮遊系細胞の安全性を高いレベルで維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白血球等の浮遊性細胞を活性化する、又はその増殖を促進することのできる培養容器の材料、並びにこの材料を用いた雑菌汚染等の恐れなく浮遊系細胞を培養するための容器に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を培地中で培養する方法の代表例は、滅菌された培養ディッシュまたは培養フラスコに細胞と培地とを入れ、これを空気/二酸化炭素の混合ガスを供給することの出来る培養器に置き、前記混合ガス雰囲気下で培養するといった開放系の培養である。
【0003】
この開放系の培養は、培養ディッシュまたは培養フラスコに混合ガスを導いて培養液乃至細胞と接触させることによって、細胞培養に必要なガスの供給が行なわれる。そのため、培養器を開放した時などに培養器内に取り込まれる空気中の雑菌等によって、該培養液が汚染される危険性がある。
【0004】
この雑菌汚染を防止する方法の一つに、オレフィン系の樹脂またはジエン系のエラストマーからなる酸素透過性を有する材質からなる細胞培養用の密封バッグがある。特に、予め培地を充填した培養用バッグを無菌的に外包装したものが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、単に増殖を目的とする浮遊系細胞の培養は、上記の細胞培養用の密封バッグ内でも通常は良好に増殖するが、活性化、増殖促進などの付着培養工程が必要な場合には、通常の培養細胞用のバッグ内では浮遊系細胞はバッグに付着しにくく、十分には活性化されないか、あるいは増殖しない場合もある。
【0006】
そのため、浮遊系細胞、例えばリンパ球の活性化及び/又は増殖促進など付着培養工程が必要な培養方法としては、現在も開放系の培養フラスコを用いる方法が主流である。この方法は、上記の雑菌汚染を回避するために、この様な汚染が無いことを確認する作業(バリデーション)、特別に設計された無菌調整室の準備、作業中無菌を維持する為の無塵衣の用意など、全ての点において手間と維持費を必要とし、それは自由診療費、高度先進医療費における患者負担増に関連する。
【0007】
また血液細胞、例えば白血球の大量調製を全末梢血や臍帯血等の天然原料から密度段階勾配法、溶出、遠心分離等の手法を用いて分取する方法もあるが、これらの方法は面倒な洗浄工程を必要とし、またその過程において常に雑菌汚染の危険に晒されることは、上記の開放系の培養フラスコを用いる方法と変わりはない。
【0008】
一方、いわゆるハニカム状多孔質体を足場とした細胞の増殖方法は幾つか知られている(例えば特許文献2、特許文献3)が、この方法によって増殖する細胞は、いずれも付着精細胞であり、浮遊系細胞の活性化及び/又は増殖促進にハニカム状多孔質体を利用した例は報告されていない。
【特許文献1】特許第2854394号公報
【特許文献2】特開2001−157574
【特許文献3】特開2002−335949
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、血液細胞等の浮遊系細胞の培養に有用な材料と、これを用いた雑菌汚染の恐れを回避して浮遊系細胞を培養するための密封可能な容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来、付着系細胞の培養において良好な足場として利用されてきたハニカム状多孔質体の特徴的な構造が、浮遊系細胞の良好な増殖を促すことを見いだし、下記の各発明を完成した。
【0011】
(1)浮遊系細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子を表面に担持しているハニカム状多孔質体。
【0012】
(2)浮遊性細胞が血液細胞又は骨髄細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、(1)に記載のハニカム状多孔質体。
【0013】
(3)血液細胞が末梢血細胞又は臍帯血細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、(2)に記載のハニカム状多孔質体。
【0014】
(4)浮遊性細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子が抗ヒトCD抗体である、(1)に記載のハニカム状多孔質体。
【0015】
(5)ハニカム状多孔質体の孔径が5μm〜10μmである、(1)に記載のハニカム状多孔質体。
【0016】
(6)浮遊系細胞を培養するための密封可能な容器であって、浮遊系細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子を表面に担持させたハニカム状多孔質構造体を該容器の内壁として有する、前記容器。
【0017】
(7)浮遊系細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子を表面に担持させたハニカム状多孔質構造体を内壁に、酸素透過性を有するポリマーシートを外壁とする複層構造を有する、(6)に記載の容器。
【0018】
(8)浮遊性細胞が血液細胞又は骨髄細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、(6)又は(7)に記載の容器。
【0019】
(9)血液細胞が末梢血細胞又は臍帯血細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、(8)に記載の容器。
【0020】
(10)浮遊性細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子が抗ヒトCD抗体である、(6)又は(7)に記載の容器。
【0021】
(11)ハニカム状多孔質体の孔径が5μm〜10μmである、(6)又は(7)に記載の容器。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、活性化リンパ球等の浮遊系細胞の培養において、閉鎖系バックを用いて簡便に行うことを可能にし、その結果、浮遊系細胞の大量調製に要する費用を最小限に抑えて患者の負担を減ずる他、調製された浮遊系細胞の安全性を汚染防止の観点において高いレベルで維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一態様は、浮遊系細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子を表面に担持しているハニカム状多孔質体である。
【0024】
本発明に言う浮遊系細胞とは、血液細胞や体性幹細胞などの、通常は血液、髄液あるいはリンパ液などの体液中に浮遊して存在する細胞をいい、具体的には白血球、骨髄細胞、骨髄幹細胞、造血幹細胞、間葉系細胞などが含まれる。
【0025】
また浮遊系細胞に対する活性化因子又は増殖促進因子とは、上記の浮遊系細胞の各種機能を活性化させる物質や、浮遊系細胞の増殖を促すあるいは促進させる物質をいう。例えば、活性化因子としては、白血球に対する抗ヒトCD3抗体等を挙げることができる。
【0026】
ハニカム状多孔質体とは、非水溶性の高分子(ポリマー)でできた多孔性の薄膜であって、膜の垂直方向に向けられたサブミクロンスケールないしミクロンスケールの微少な孔(窪みを含む)が膜の平面方向に蜂の巣状(ハニカム状)に設けられているものをいう。孔及び/又は窪みは膜の平面方向に存在する周囲の孔及び/又は窪みと連通していてもよい。この様なハニカム状という規則的な配置で孔が設けられている多孔質の薄膜は、孔の口径、形状あるいは深さなどがまちまちである不規則な孔を有する通常の多孔質体とは全く異なる構造体として理解される。
【0027】
本発明におけるハニカム状多孔質体の形状としては、膜厚が0.01μm〜100μm、好ましくは0.1μm〜50μm、より好ましくは1μm〜20μmであり、孔径が0.001μm〜100μm、好ましくは0.1μm〜50μm、より好ましくは1μm〜20μm、特に好ましくは5μm〜10μmである。
【0028】
この様な構造的特徴を有するハニカム状多孔質体は、種々の公知の方法に従って製造することができる。例えばフォトリソグラフィーやソフトリソグラフィー(ホワイトサイドら、 Angew. Chem. Int. Ed.,1998年、第37巻、 第550−575頁)、ブロックコポリマーの相分離(アルブレヒトら,マクロモレキュール(Macromolecules)、 2002年、第35巻、第8106−8110頁)、サブミクロンのコロイド微粒子を集積することで2次元、3次元の周期構造を作製する方法(グら、ラングミュア(Langmuir)、第17巻)、これを鋳型にしてインバースドオパール構造を作製する方法(カルソら、ラングミュア(Langmuir)、1999年、第15巻、第8276−8281頁)などを挙げることができる。
【0029】
また、これらの方法と製造原理を大きく異にする方法である特開平8−311231、特開2001−157475、特開2002−347107あるいは特開2002−335949に記載された方法も使用することができる。これらの方法は、高分子の水不溶性有機溶媒溶液表面上に水滴を結露させ、該水滴を鋳型としてハニカム状の多孔質体を調製するものであり、製造コストや効率等の点でその他の製造法に比べて有利である。以下、さらに詳しく説明する。
【0030】
この方法では、水不溶性有機溶媒、特に50dyn/cm以下の表面張力γLを有する水不溶性有機溶媒に非水溶性ポリマーを溶解した非水溶性ポリマーの水不溶性有機溶媒溶液を、表面の表面張力をγSとし、塗布される水不溶性有機溶媒の表面張力γLならびに該基板と該溶媒との間の表面張力γLSとした場合にγS−γSL>γLの関係を満たす基板の表面に塗布し、さらに30%以上の空気の存在下で基板上に塗布された非水溶性ポリマーの水不溶性有機溶媒溶液を蒸発させることが好ましい。
【0031】
ここにいう水不溶性有機溶媒は、50dyn/cm以下の表面張力を有し、かつ該溶液表面に結露した水滴を保持し得る程度の水不溶性と、大気圧下で0〜150℃、好ましくは10〜50℃の沸点を有する有機溶媒を言う。例えば四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性のケトン類、二硫化炭素などを挙げることができる。
【0032】
また非水溶性ポリマーは、水に不溶性でかつ上記の水不溶性有機溶媒に可溶な、あるいは適当な界面活性剤の存在下で水不溶性有機溶媒に溶解し得るポリマーから、適宜選択して使用することができる。
【0033】
本発明で利用することのできる水不溶性有機溶媒としては、溶媒表面に結露した水滴を保持し得る程度の水不溶性を有し、大気圧下の沸点が0〜150℃、好ましくは10〜50℃であれば、何れも利用可能である。具体的には、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性のケトン類、二硫化炭素などを挙げることができる。
【0034】
これらの中から、具体的に使用するポリマー(次項で述べる)に対する溶解性を考慮して、適宜選択して使用することができる。
【0035】
本発明で使用する非水溶性ポリマーは、水に不溶性でかつ上記の水不溶性有機溶媒に可溶な、あるいは後述する本願発明で使用される界面活性剤の存在下で同有機溶媒に溶解し得るポリマーであればいずれも使用することができる。
【0036】
例えば、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸のような生分解性ポリマー、脂肪族ポリカーボネート、両親媒性ポリマーなどを挙げることができる。
【0037】
特に本発明においては、非水溶性ポリマーはこれをシート上に加工したときに酸素透過性に優れるものを選択して利用することが望ましい。かかるポリマーの例としては、オレフィン系の樹脂、ジエン系のエラストマー、ポリイミド、シリコーン、ポリカーボネート等を挙げることができる。
【0038】
上記の水不溶性有機溶媒と非水溶性ポリマーとの具体的な組み合わせの例としては、例えばポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアルキルシロキサン、ポリメタクリル酸メチルなどのポリアルキルメタクリレートまたはポリアルキルアクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ乳酸、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリアルキルアクリルアミド、およびこれらの共重合体よりなる群から選ばれるポリマーに対しては、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、キシレン、二硫化炭素などの有機溶媒を組み合わせて使用することができる。
【0039】
水不溶性有機溶媒溶液中の非水溶性ポリマー濃度は、0.1g/L〜20g/Lの範囲で適宜調節すればよい。この濃度を調節することで、ハニカム状多孔質体の孔径を制御することも可能である。例えば水不溶性有機溶媒溶液中の非水溶性ポリマー濃度を0.5 g/L〜10g/Lとすることで、孔径5μm〜10μmの孔を有するハニカム状多孔質体を調製することも可能である。
【0040】
非水溶性ポリマーの水不溶性有機溶媒溶液を塗布する基板は、基板表面の表面張力γSと塗布される水不溶性有機溶媒の表面張力γLならびに該基板と該溶媒との間の表面張力γLSとの間で、γS−γSL>γLの関係を満たす基板を選択して用いることが望ましい。これは、非水溶性ポリマー溶液の水不溶性有機溶媒溶液を塗布する基板自体の水不溶性有機溶媒に対する濡れ性が、基板上に形成される液膜の厚みに影響を与え得るためである。基板には、塗布される非水溶性ポリマーの水不溶性有機溶媒溶液との親和性が高いものであることが好ましい。具体的には、水不溶性有機溶媒の表面張力γLを指標にして上記式で表すことのできる表面張力を示す表面を有する基板を利用すればよい。そのような基板の好適な例としては、ガラス板、シリコン製板あるいは金属板などを挙げることができる。
【0041】
また、水不溶性有機溶媒溶液との親和性を高めることのできる加工を表面に施した基板の使用も可能である。この様な基板表面の濡れ性の改良は、基板と使用する水不溶性有機溶媒に合わせて、自体公知の方法、例えばガラス製や金属製の基板に対してはそれぞれシランカップリング処理やチオール化合物による単分子膜形成処理方法などを利用することができる。
【0042】
例えば、クロロホルムなどの疎水性有機溶媒を水不溶性有機溶媒として用いる場合の基板としては、十分に洗浄されたSi基板や、アルキルシランカップリング剤などで表面を修飾したガラス基板などの使用が好ましい。また、フッ素系溶媒を用いる場合は、テフロン(登録商標)基板、あるいはフッ素化アルキルシランカップリング剤などで修飾したガラス基板などの使用が好ましい。
【0043】
非水溶性ポリマーの水不溶性有機溶媒溶液を基板に塗付して同溶液の液膜を形成させる際の液膜厚としては1μm〜100μm、好ましくは30μm以下とすることが望ましい。また基板に非水溶性ポリマーの水不溶性有機溶媒溶液を塗付する方法としては、基板に同溶液を滴下する方法の他、バーコート、ディップコート、スピンコート法などを挙げることができ、バッチ式、連続式の何れも利用することができる。
【0044】
この様にして基板上に置いた薄膜から水不溶性有機溶媒を蒸発させることで、非水溶性ポリマーからなるハニカム状多孔質体を製造することができる。その際、溶媒の蒸発速度を調節することでも、ハニカム状多孔質体の孔径を調節することができる。
【0045】
溶媒の蒸発速度は、相対湿度30%以上の湿度を有する流速0.1〜100L/分の気流下に上記の基板上の薄膜を置くことで調節することができる。本願において使用する貫通した孔を有するハニカム状多孔質体の製造においては、相対湿度30〜99%、流速0.1〜100L/分の範囲内で調節した気流に非水溶性ポリマーの水不溶性有機溶媒溶液の液膜を置くことが好ましい。気流方向に対する薄膜の配置の仕方としては、基板上の薄膜に対して斜め上方向から、あるいは垂直方向から気流を当たるような配置では、気流による風圧によって薄膜に歪みや亀裂が発生することもあり得る。その様な場合には、薄膜は、気流に対して基板上の有機溶媒溶液の薄膜を平行に、あるいは上方向に生じさせることが好ましい。この場合、気流はその上流からの陽圧あるいは下流からの負圧の何れによって発生させても構わない。例えば、基板に向けて設置したノズルから所定の空気を噴射しても、基板上部の空気を一方向から吸引しても、何れでも良い。
【0046】
本発明のハニカム状多孔質体は、上記の方法によって調製されるハニカム状多孔質体の表面に、浮遊系細胞に対する増殖促進因子を担持させたものである。増殖促進因子のハニカム状多孔質体への担持は、例えば、増殖促進因子の活性を損なわない条件の下で、増殖促進因子を含む溶液(好ましくは適当な緩衝液)とハニカム状多孔質体とを接触させ、インキュベートすることで行うことができる。また、適当なリンカー分子を介して増殖因子をハニカム状多孔質体に担持させてもよい。
【0047】
この様にして製造される本発明のハニカム状多孔質体は、これを浮遊系細胞を懸濁した液体培地中に置いて浮遊系細胞を培養することで、浮遊系細胞の増殖に従来用いられていたポリスチレン製の培養容器中で浮遊系細胞を培養する場合に比べて、細胞の増殖をより促進させることができる。
【0048】
本発明の別の態様は、上記の浮遊系細胞に対する増殖促進因子を担持したハニカム状多孔質体を内壁とする、浮遊系細胞を培養するための密封可能な容器である。この容器の一態様は、上記の方法によって調製される、浮遊系細胞に対する増殖促進因子を担持し、貫通孔ではなく窪みのみを有するハニカム状多孔質体からなる、単層構造を有する容器である。この容器は、浮遊系細胞に対する増殖促進因子を担持し、貫通孔ではなく窪みのみを有するハニカム状多孔質体を複数枚利用し、窪み側を内側にして向かい合わせて周辺部を密封する、あるいは貫通孔ではなく窪みのみを有するハニカム状多孔質体1枚を、窪み側を内側にして曲げた後に周辺部を密封するなどして製造することができる。
【0049】
また本発明の容器の好ましい態様は、貫通孔を有し、かつ浮遊系細胞に対する増殖促進因子を担持したハニカム状多孔質体と酸素透過性を有するポリマーシートとの複層シート構造を有し、該ハニカム状多孔質体を内壁とし、酸素透過性を有するポリマーシートを外壁とする容器である。この容器は、複数枚の前記複層シートを、ハニカム状多孔質体を内側にして向かい合わせて周辺部を密封する、あるいは1枚の複層シートを、ハニカム状多孔質体を内側にして曲げた後に周辺部を密封するなどして製造することができる。
【0050】
酸素透過性を有するポリマーシートは、オレフィン系の樹脂またはジエン系のエラストマー、例えばポリエチレン、ポリブタジエン等の中から適宜選択されるポリマーを公知の方法によってシート状に成形したものを利用すればよい。このポリマーシートの厚みは 0.1mm〜0.2mm、好ましくは0.1mm〜0.15mmである。
【0051】
上記のハニカム状多孔質体とポリマーシートとの複層シートは、両者を融着させることで、調製することができる。あるいは、予めポリマーシートを少なくとも一方が開放されている部分を有するバッグに成形し、ハニカム状多孔質体を前記開放されている部分からバッグに入れて、シートとハニカム状多孔質体とを貼り合わせてもよい。
【0052】
なお、上記にいう周辺部の密封とは、後に培地や培養すべき細胞を添加したり、あるいは培養中にバッグ中の培地あるいは培養細胞をサンプリングしたり、必要に応じて培地や添加成分を追加して加えたりすることのできる、開閉可能な口を確保しながら行う場合も含む。
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
1)ハニカム状多孔質体の調製
生分解性高分子であるポリ(ε-カプロラクトン)(PCL、Wako製 分子量70,000〜100,000)と両親媒性ポリアクリルポリマー(Cap)を重量比10:1で5mg/mLとなるようにクロロホルムに溶解した。この溶液をガラスシャーレ(φ90mm)上に5mLキャストし、相対湿度80%の雰囲気下でクロロホルムを蒸発させることで、孔径5μmの孔を有するハニカム状多孔質体(φ90mm)を作製した。
【0055】
また、上記の方法において高分子溶液量を10mLとすることで、孔径10μmの孔を有するハニカム状多孔質体(φ90mm)を作製した。
【0056】
2)抗CD3抗体のハニカム状多孔質体への担持
抗ヒトCD3抗体(ヤンセンファーマ社製)を5μg/ml含むリン酸緩衝液0.1mlを、上記1)で得た2種類のハニカム状多孔質体ならびに平膜にそれぞれ浸し、20℃で2時間、軽く浸透しながらインキュベートした。その後、PBSで2回ハニカム状多孔質体をそれぞれ洗浄し、抗ヒトCD3抗体を担持したハニカム状多孔質体A(孔径5μm)、B(孔径10μm)を製造した。
【0057】
<試験例>
CD3抗体を担持したハニカム状多孔質体での白血球細胞の増殖
1)比較例の調製
PCL濃度が5mg/mLのクロロホルム溶液をカバーガラス上にキャストした後、カバーガラスをスピンコーター(MIKASA 1H-D7)で1000rpm、30秒間回転させて全面をポリマーで被覆させることで、孔のないフラットフィルム(平膜)φ14mm を作成し、実施例1の2)の条件に従い、フラットフィルム上にヒトCD3抗体を担持させて、比較例(平膜)を得た。
【0058】
またポリスチレン(PS)製24ウエルプレート(φ15.49に)を用意し、実施例1の2)の条件に従い、PS製24ウエルプレート上に抗ヒトCD3抗体を担持させて、もう一つの比較例(PS)を得た。
【0059】
2)ヒト白血球細胞の培養
実施例1で製造した抗ヒトCD3抗体を担持したハニカム状多孔質体AとB(各n=2)、ならびに上記1)で製造した平膜(n=3)をそれぞれ24ウエルプレート内に置き、ここにFicoll-Paque密度勾配遠心分離らの方法で回収、単離したヒト白血球12×10個をそれぞれ加えて、温度37度、CO濃度5%の条件下で7日間静置培養した。
【0060】
ヒト白血球細胞の増殖は、測定時に上記ハニカム状多孔質体A、B、平膜並びにPSがそれぞれ浸されている培養液をピペッティング(ピペッターを用いて培養液を吸い上げ、排出する操作を数回繰り返すこと)した後に、培養液中に存在する白血球細胞数と、フィルムやプレートの上に剥がれずに残っているヒト白血球細胞数を血球計算板を用いて計測し、その合計数の増加で確認した。その結果、PS上で培養したヒト白血球細胞の増殖を100としたときの比較を表1に示す。
【0061】
結果は、PSに比べて平膜上でのヒト白血球細胞の増殖は114、ハニカム状多孔質体A上での増殖は137〜144、ハニカム状多孔質体B上での増殖は111〜128となり、ハニカム状多孔質体の利用によるヒト白血球の増殖促進効果(培養後の細胞数の増加)が確認された。
【表1】

【0062】
また、ハニカム状多孔質体を、ポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリブチルメタクリレート、ポリ乳酸の各非水溶性ポリマーを用いて、実施例1に記載の方法に従ってハニカム状多孔質体を調製したところ、いずれにおいてもヒト白血球細胞の増殖を促進する効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊系細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子を表面に担持しているハニカム状多孔質体。
【請求項2】
浮遊性細胞が血液細胞又は骨髄細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、請求項1に記載のハニカム状多孔質体。
【請求項3】
血液細胞が末梢血細胞又は臍帯血細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、請求項2に記載のハニカム状多孔質体。
【請求項4】
浮遊性細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子が抗ヒトCD抗体である、請求項1に記載のハニカム状多孔質体。
【請求項5】
ハニカム状多孔質体の孔径が5μm〜10μmである、請求項1に記載のハニカム状多孔質体。
【請求項6】
浮遊系細胞を培養するための密封可能な容器であって、浮遊系細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子を表面に担持させたハニカム状多孔質構造体を該容器の内壁として有する、前記容器。
【請求項7】
浮遊系細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子を表面に担持させたハニカム状多孔質構造体を内壁に、酸素透過性を有するポリマーシートを外壁とする複層構造を有する、請求項6に記載の容器。
【請求項8】
浮遊性細胞が血液細胞又は骨髄細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、請求項6又は7に記載の容器。
【請求項9】
血液細胞が末梢血細胞又は臍帯血細胞よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の細胞である、請求項8に記載の容器。
【請求項10】
浮遊性細胞に対する活性化因子及び/又は増殖促進因子が抗ヒトCD抗体である、請求項6又は7に記載の容器。
【請求項11】
ハニカム状多孔質体の孔径が5μm〜10μmである、請求項6又は7に記載の容器。

【公開番号】特開2007−308439(P2007−308439A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141093(P2006−141093)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(500141984)株式会社 ラボ (3)
【Fターム(参考)】