説明

浴室用コーティング剤

【課題】紫外線照射によらず、可視光の照射のみでガス分解機能や抗菌,防汚機能を奏する浴室用コーティング剤を提供する。
【解決手段】浴室部材の少なくとも一部に、酸化タングステン光触媒粉末の色がL*a*b*表色系で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有する可視光応答型光触媒粉末を塗布し、太陽光や蛍光灯などの可視光を照射することにより、浴室内のガス分解効果や浴室部材の防汚、抗菌効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光の照射を受けて、ガス分解や抗菌、防汚等の光触媒機能を奏する浴室用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室内で使用される部材は、汚れ等が堆積しやすく、また高温多湿の環境下に長時間晒されている為に、黴等が発生して、こまめに清掃しないと、直ぐに汚れがひどくなってしまう。浴室部材の、この様な問題に対処する為、最近では光触媒体を浴室部材に応用し、浴室部材自身に防汚、抗菌機能を付加する試みが行われる様になってきた。例えば、浴室鏡にチタニア薄膜を付加して汚れ防止機能を持たせた特許文献1、浴室内の様々な部材に塗布した光触媒体と浴室内照明装置を組合せた特許文献2等の技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−346173号公報
【特許文献2】特開2006−325762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来技術において活用されている光触媒は、紫外線領域の波長による励起が大半であるため、照明光源から漏れる微弱な紫外線を利用する等の、特性的に不十分なものであった。一方、可視光応答型光触媒については、開発がすすんではいるものの、未だその光触媒性能は満足できるものではなく、わざわざ紫外光照射手段を付加する必要がある等の不便なものであった。
【0004】
本発明は上記点に着目してなされたものであり、紫外線励起によることなく、可視光励起にて十分な光触媒特性を奏する浴室用コーティング剤に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る浴室用コーティング剤は、可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末であって、前記酸化タングステン光触媒粉末の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の態様に係る浴室部材によれば、浴室窓から入射する太陽光や、浴室内の照明より照射される可視光を受けて光触媒が励起され、浴室部材自身の汚れを防止すると共に黴の発生を防ぎ、また浴室内で発生する臭気物質を光触媒効果により分解して、脱臭効果を得ることもできる。また、可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末の色や粒径に基づいて光触媒性能の向上並びに安定化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。浴室部材には様々なものがあるが、例えば浴槽のほぼ全表面に、可視光応答型酸化タングステンを具備する塗料を塗布する。この場合、塗布面積は特に限定されるものでは無く、少なくとも一部に塗布しておけば、脱臭・防汚機能を発揮することができるが、浴槽自身の汚れを防止するには、なるべく多くの面積で効果を発揮させた方が良く、特に掃除の行き届かない四隅等を逃さず塗布しておくのが良い。
【0008】
可視光応答型酸化タングステンの塗布された光触媒層の厚さは、0.01〜5.0μmの間にあり、殆ど透明に近い膜である。従い光触媒体が浴槽表面に塗布された場合でも、不自然に着色されることは無く、また元の素材の風合いを損なうこともない。
【0009】
なお、前記光触媒層はほぼ透明に近い膜であるが、元の可視光応答型酸化タングステン光触媒自体は粉末状であり、その色をL*a*b*表色系(エルスター・エースター・ビースター表色系)で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有している。
【0010】
L*a*b*表色系は物体色を表すのに用いられる方法で、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本ではJIS Z−8729に規定がある。L*は明度を表し、a*とb*とで色相と彩度を表すものである。L*が大きいほど明るいことを示す。a*とb*は色の方向を示しており、a*は赤方向、−a*は緑方向、b*は黄方向、−b*は青方向を示す。また、彩度(c*)=((a*)+(b*)1/2で示される。
【0011】
この実施形態の酸化タングステン光触媒粉末はa*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有している。これは酸化タングステン光触媒粉末が黄色から緑色付近の色相を有し、かつ彩度や明度が高いことを示しており、このような光学特性を持つ場合に、可視光励起による光触媒性能を向上されることが可能となる。酸化タングステン光触媒粉末の色調は酸素欠損等による組成変動や光の照射等に基づいて変化するものと考えられ、上記したような色相、彩度、明度を有する場合に良好な光触媒性能が得られる。
【0012】
青色付近の色相を有する場合には酸素欠損などが多いと考えられ、そのような色相を有する酸化タングステン粉末では十分な光触媒性能を得ることができない。つまり、a*が−5を超えたり、b*が−5未満の場合には、十分な光触媒性能を得ることができない。これは酸素欠損等に基づいて酸化タングステン(WO3)に組成変動が生じているためと考えられる。同様に、L*が50未満の場合にも十分な光触媒性能を得ることができない。
【0013】
従って、酸化タングステン粉末の色相を示すa*が−5以下、b*が−5以上で、明度を示すL*で50以上の場合に、良好な光触媒性能を再現性良く得ることが可能となる。酸化タングステン光触媒はa*が−8以下、b*が3以上、L*が65以上の色を呈することが好ましく、このような場合に光触媒性能がさらに向上する。さらに、a*は−20〜−10の範囲、b*は5〜35の範囲、L*は80以上であることがより望ましい。
【0014】
また、可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末は、1〜548nmの範囲の平均粒径(D50)であることが好ましい。ここで、平均粒径(D50)はSEMやTEM等の写真の画像解析から、n=50個以上の粒子の平均粒径により求めるものとする。
【0015】
光触媒材料の性能は比表面積が大きく、粒径が小さい方が高くなる。平均粒径(D50)は1〜75nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは3.3〜15nmの範囲である。酸化タングステン光触媒粉末の光触媒性能を高める上で、平均粒径が小さい方が好ましいが、酸化タングステン光触媒粉末の粒径が小さすぎると粒子の分散性が低下して均一な塗料が得られにくくなるため、分散方法に注意が必要である。
【0016】
この実施形態による可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末によれば、その色調を適切化した酸化タングステン粉末を使用しているため、可視光励起による光触媒性能の向上並びに安定化を図ることが可能となる。さらに酸化タングステン光触媒粉末の平均粒径を制御することで、光触媒性能をより一層向上させることができる。
【0017】
したがって、前記可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を浴槽表面に塗布すれば、光触媒効果が発揮され、浴室内を快適に保つことができる。つまり、浴室外からの太陽光の入射や、浴室内のランプからの可視光の照射を受けて、光触媒体が励起され、抗菌、防汚、脱臭などの光触媒機能を発揮することができる。
【0018】
具体的には、抗菌効果により浴槽表面の黴の発生を防止すると共に、長時間お湯をためておいても、細菌等の発生を最小限に抑えることができる。また、浴槽表面には脂分等の不純物が付着しやすいが、付着した不純物は、光触媒により分解除去され、浴槽表面を清潔で綺麗な状態に保つことができる。また浴槽自身に対する効果ばかりで無く、例えば浴室内で異臭が発生した場合でも、異臭ガスを分解除去する脱臭効果も発揮される。
【0019】
なお本発明による、この様な光触媒効果は、従来の紫外線励起タイプのものに比べて、より大きな効果が期待できる。何故なら、本発明の光触媒体を具備した浴槽は、浴室内のランプばかりで無く、浴室外から入射する可視光を受けて十分な光触媒機能を発揮できる為、従来の様に浴室内の紫外ランプ点灯時に限定されるものでは無く、長時間に亘り効果が発揮できるからである。なお浴室外から入射する太陽光には、紫外光も含まれてはいるが、窓ガラスを通して入射する場合、紫外線がガラスで吸収される為、浴室内には微弱な紫外光しか入射出来ないことになる。
【0020】
また本発明による光触媒粉末は可視光励起タイプであるため、照明器具の選択が制限されない、とのメリットもある。例えばシェードの付設された照明器具の場合、仮に光源から紫外光が照射される場合でも、シェード部材が紫外線を吸収してしまう為、従来の光触媒では効果が得られないとの問題があったが、本発明の光触媒では、どの様なシェード部材でも、十分な光触媒効果を発揮することが可能である。
【0021】
ここで可視光とは波長が390〜830nmの領域の光を示す。具体的には、太陽光線に加えて、蛍光ランプ、白熱ランプ、ハロゲンランプ、LED等、一般の照明光源に使用されている様々なものが該当する。
【0022】
本実施形態の酸化タングステン光触媒粉末は可視光領域の光で光触媒特性を発現するが、特に430〜500nmの光を照射したときの光触媒性能に優れている。市販の三波長型蛍光ランプや、青色LEDと黄色発光蛍光体を組合せた白色LED等の光源は、これら波長の光を十分な強度で照射することが出来る。
【0023】
なお、前記光触媒効果は、照射光量については前記使用条件で発揮されるが、浴室内空気の停滞しだ状態では、光触媒効果等が十分に得られない場合がある。従い、ガス分解効果を促進するために、対流を促すのが望ましく、換気扇を同時に使用するとか、窓等の一部を開放しておくことが望ましい。
【0024】
なお本発明の可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末は、どの様な部材に対しても効果を発揮できる。従い浴室部材としては浴槽に限られる事無く、例えば、浴室内壁、浴室天井、浴室マット、椅子、浴槽フタ、洗面具、換気扇及びその羽、浴室内で使用する諸道具等々、また素材に関しても、樹脂、木材、セラミック、琺瑯、ガラス、金属、タイル等々、あらゆる物に適用が可能である。
【0025】
上述した実施形態の可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末は、例えば以下のようにして作製される。原料とな
る酸化タングステン粉末は昇華工程を適用して作製される。また、昇華工程に熱処理工程を組合せることも有効であ
る。昇華工程もしくは昇華工程と熱処理工程との組合せを適用して作製した酸化タングステン粉末によれば、上述し
た色調や好ましい平均粒径を有した、粒径ばらつきの小さい光触媒材料を安定して提供することができる。
【0026】
まず、昇華工程について述べる。昇華工程は、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、酸素雰囲気中で昇華させることによって、酸化タングステン粉末を得る工程である。昇華とは固相から気相、あるいは気相から固相への状態変化が、液相を経ずに起こる現象である。原料としての金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、昇華させながら酸化させることによって、微粉末状態の酸化タングステン粉末を得ることができる。
【0027】
昇華工程の原料(タングステン原料)には、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液のいずれを使用してもよい。原料として使用するタングステン化合物としては、例えば三酸化タングステン(WO)、二酸化タングステン(WO)、低級酸化物等の酸化タングステン、炭化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸等が挙げられる。
【0028】
上述したようなタングステン原料の昇華工程を酸素雰囲気中で行うことで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を瞬時に固相から気相とし、さらに気相となった金属タングステン蒸気を酸化することによって酸化タングステン微粉末が得られる。溶液を使用した場合でも、タングステン酸化物あるいは化合物を経て気相となる。このように、気相での酸化反応を利用することによって、酸化タングステン微粉末を得ることができる。さらに、酸化タングステン微粉末の色調を制御することができる。
【0029】
昇華工程の原料としては、酸素雰囲気中で昇華して得られる酸化タングステン粉末に不純物が含まれにくいことから、金属タングステン粉末、酸化タングステン粉末、炭化タングステン粉末、およびタングステン酸アンモニウム粉末から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。金属タングステン粉末や酸化タングステン粉末は、昇華工程で形成される副生成物(酸化タングステン以外の物質)として有害なものがふくまれないことから、特に昇華工程の原料として好ましい。
【0030】
原料に用いるタングステン化合物としては、その構成元素としてタングステン(W)と酸素(O)を含む化合物が好ましい。構成成分としてWおよびOを含んでいると、昇華工程で後述する誘導結合型プラズマ処理等を適用した際に瞬時に昇華されやすくなる。このようなタングステン化合物としては、WO、W2058、W1849、WO等が挙げられる。また、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウムの溶液あるいは塩等も有効である。
【0031】
タングステン原料としての金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は0.1〜100μmの範囲の平均粒径を有することが好ましい。タングステン原料の平均粒径は0.3μm〜10μmの範囲がより好ましく、さらに好ましくは0.3μm〜3μmの範囲、望ましくは0.3μm〜1.5μmの範囲である。上記範囲内の平均粒径を有する金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を用いると、昇華が生じやすい。
【0032】
タングステン原料の平均粒径が0.1μm未満の場合には原料粉が微細すぎるため、原料粉の事前調整が必要になったり、取扱い性が低下することに加えて、高価になるために工業的に好ましくない。タングステン原料の平均粒径が100μmを超えると均一な昇華反応が起きにくくなる。平均粒径が大きくても大きなエネルギー量で処理すれば均一な昇華反応を生じさせることができるが、工業的には好ましくない。
【0033】
昇華工程でタングステン原料を酸素雰囲気中で昇華させる方法としては、誘導結合型プラズマ処理、アーク放電処理、レーザ処理、電子線処理、およびガスバーナー処理から選ばれる少なくとも1種の処理が挙げられる。これらのうち、レーザ処理や電子線処理ではレーザまたは電子線を照射して昇華工程を行う。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、一度に大量の原料を処理するためには時間がかかるものの、原料粉の粒径や供給量の安定性を厳しく制御する必要がないという長所がある。
【0034】
誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理は、プラズマやアーク放電の発生領域の調整が必要であるものの、一度に大量の原料粉を酸素雰囲気中で酸化反応させることができる。また、一度に処理できる原料の量を制御することができる。ガスバーナー処理は動力費が比較的安いものの、原料粉や原料溶液を多量に処理することが難しい。このため、ガスバーナー処理は生産性の点で劣るものである。なお、ガスバーナー処理は昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定させるものではない。プロパンガスバーナーやアセチレンガスバーナー等が用いられる。
【0035】
昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用する場合、通常アルゴンガスや酸素ガスを用いてプラズマを発生させ、このプラズマ中に金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を供給する方法が用いられる。プラズマ中にタングステン原料を供給する方法としては、例えば金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を所定の液状分散媒中に分散させた分散液を吹き込む方法が挙げられる。
【0036】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をプラズマ中に吹き込む場合に用いられるキャリアガスとしては、例えば空気、酸素、酸素を含有した不活性ガス等が挙げられる。これらのうち、空気は低コストであるために好ましく用いられる。キャリアガスの他に酸素を含む反応ガスを流入する場合や、タングステン化合物粉末が三酸化タングステンの場合等、反応場中に酸素が十分に含まれているときには、キャリアガスとしてアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。反応ガスには酸素や酸素を含む不活性ガス等を用いることが好ましい。酸素を含む不活性ガスを用いる場合、酸化反応に必要な酸素量を十分に供給することが可能なように、酸素量を設定することが好ましい。
【0037】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法を適用すると共に、ガス流量や反応容器内の圧力等を調整することによって、酸化タングステン光触媒粉末の色調を制御することができる。具体的には、上述したL*a*b*表色系で表される色調を有する酸化タングステン光触媒粉末が得られやすい。
【0038】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末の分散液の作製に用いられる分散媒としては、分子中に酸素原子を有する液状分散媒が挙げられる。分散液を用いると原料粉の扱いが容易になる。分子中に酸素原子を有する液状分散媒としては、例えば水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種を20容量%以上含むものが用いられる。液状分散媒として用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。水やアルコールはプラズマの熱で容易に揮発しやすいため、原料粉の昇華反応や酸化反応を妨害することはなく、分子中に酸素を含有していることから酸化反応を促進しやすい。
【0039】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散媒に分散させて分散液を作製する場合、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は分散液中に10〜95質量%の範囲で含ませることが好ましく、さらに好ましくは40〜80質量%の範囲である。このような範囲で分散液中に分散させることで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液中に均一に分散させることができる。均一に分散していると原料粉の昇華反応が均一に生じやすい。分散液中の含有量が10質量%未満では原料粉の量が少なすぎて効率よく製造ができない。95質量%を超えると分散液が少なく、原料粉の粘性が増大することで、容器にこびりつき易くなるために取扱い性が低下する。
【0040】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液にしてプラズマ中に吹き込む方法を適用することによって、酸化タングステン光触媒粉末の色調を制御しやすい。さらに、タングステン化合物溶液を原料として用いることによっても、昇華反応を均一に行うことができ、酸化タングステン光触媒粉末の色調の制御性が向上する。分散液を用いる方法は、アーク放電処理にも適用することが可能である。
【0041】
レーザや電子線を照射して昇華工程を実施する場合は、金属タングステンやタングステン化合物をペレット状にしたものを原料として使用することが好ましい。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末を用いることで効率よく昇華させることができる。レーザは金属タングステンやタングステン化合物を昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではないが、COレーザが高エネルギーであるために好ましい。
【0042】
レーザや電子線をペレットに照射する際に、レーザ光や電子線の照射源またはペレットの少なくとも一方を移動させると、ある程度の大きさを有するペレットの前面を有効に昇華することができる。これによって、所定の色調を有する酸化タングステン光触媒粉末が得られやすくなる。上記したようなペレットは誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理にも適用することができる。
【0043】
この実施形態の可視光応答型酸化タングステン光触媒は上述したような昇華工程のみによっても得ることができるが、昇華工程で作製した酸化タングステン粉末に熱処理工程を実施することも有効である。熱処理工程は、昇華工程で得られた酸化タングステン粉末を、酸化雰囲気中にて所定の温度と時間で熱処理するものである。昇華工程の条件制御等で酸化タングステン粉末の色調や平均粒径にばらつきがあったり、光触媒の特性が不安定な場合でも、熱処理を施すことで色調や平均粒径のばらつきを低減し、その結果、光触媒特性を安定させることができる。
【0044】
熱処理工程で用いられる酸化雰囲気としては、例えば空気や酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスとは、酸素を含有した不活性ガスを意味する。熱処理温度は300〜1000℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは500〜700℃である。熱処理時間は10分から2時間とすることが好ましく、さらに好ましくは30分〜1.5時間である。熱処理工程の温度および時間を上記範囲内にすることによって、所定の特性を有する酸化タングステン光触媒を形成しやすい。
【0045】
熱処理温度が300℃未満の場合には、酸化タングステン粉末の色調や平均粒径のばらつきを十分低減することができない。一方、熱処理温度が1000℃を超えると酸化タングステン微粒子が急激に粒成長するため、得られる酸化タングステン粉末の粒径が大きくなってしまい、光触媒性能が低下してしまう。上記したような温度と時間で熱処理工程を制御することによって、酸化タングステン光触媒粉末の色調を調整することが可能となる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。なお以下の実施例では昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
まず本発明の光触媒粉末によるガス分解効果について、以下の実施例1〜4に示す。
(実施例1)
原料粉末として平均粒径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、反応ガスとしてアルゴン80L/min、酸素5L/minの流量で流し、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を実施して、酸化タングステン粉末を作製した。さらに得られた酸化タングステン粉末を900℃×1.0hの条件で熱処理を行い、酸化タングステン光触媒粉末を作製した。
【0048】
得られた酸化タングステン光触媒粉末のL*a*b*表色系の各数値、TEM写真の画像解析による平均粒径を測定した。L*a*b*の測定はコニカミノルタ社製分光側色計CM−2500dを用いて行った。TEM観察は日立社製H−7100FAを使用し、拡大写真を画像解析にかけて粒子50個以上を抽出し、体積基準の積算径を求めてD50を算出した。
【0049】
L*a*b*表色系による色の測定結果および平均粒径(D50)の測定結果を表2に示す。この可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を樹脂片に塗布し、アセトアルデヒドの分解能力を測定、評価した。アセトアルデヒドガスの分解性能は、JIS−R−1701−1(2004)の窒素酸化物の除去性能(分解能力)評価と同様の流通式の装置を用いて、以下に示す条件で行った。ガス分析装置としてはINOVA社製マルチガスモニタ1412を使用した。
【0050】
アセトアルデヒドガスの分解性能評価において、アセトアルデヒドガスの初期濃度は10ppm、ガス流量は140mL/minとし、5×10cmの樹脂片に厚さ0.5μmで塗布した。前処理はブラックライトで12時間照射した。光源に蛍光灯(東芝ライテック社製FT−21001N−GL15)を使用し、アクリル板で400nm以下の波長をカットした。照度は6000lxとした。初めに光を照射せずにガス吸着がなくなり安定するまで待つ。安定した後に光照射を開始する。このような条件下で光を照射し、15分後のガス濃度を測定してガス残存率を求める。ただし、15分経過後もガス濃度が安定しない場合には、安定するまで継続して濃度を測定する。
【0051】
(実施例2)
原料粉末として平均粒径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとしてアルゴンを80L/minの流量で流し、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を実施して、酸化タングステン粉末を作製した。さらに得られた酸化タングステン粉末を550℃×0.5hの条件で熱処理を行い、酸化タングステン光触媒粉末を作製した。得られた酸化タングステン光触媒粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行い、結果を表2に示す。この酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を樹脂片に塗布し、実施例1と同様の評価を行った。
【0052】
(実施例3)
原料粉末として平均粒径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとして酸素を75L/minの流量で流し、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を実施して、酸化タングステン光触媒粉末を作製した。得られた酸化タングステン光触媒粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行い、結果を表2に示す。この酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を樹脂片に塗布し、実施例1と同様の評価を行った。
【0053】
(比較例1)
反応容器内の圧力を30kPaと減圧側に調整する以外は、実施例1と同様の昇華工程を実施して、酸化タングステン光触媒粉末を作製した。尚、昇華工程後の熱処理は実施しなかった。得られた酸化タングステン光触媒について、実施例1と同様の測定、評価を行い、結果を表2に示す。この酸化タングステン光触媒を具備する塗料を樹脂片に塗布し、実施例1と同様の評価を行った。
【0054】
(比較例2)
実施例1と同様の樹脂片に光触媒を塗布せず、実施例1同様、アセトアルデヒドガスの分解性能の評価を行った。
【0055】
(比較例3)
実施例1と同様の樹脂片に紫外線励起光触媒である酸化チタンを塗布し、実施例1同様、アセトアルデヒドガスの分解性能の評価を行った。
【0056】
(実施例4)
実施例2で得られた酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を塗布した試料を用いて、光源を青色LEDとして実施例1と同様の評価を行った。
【0057】
表2に各実施例と比較例における測定結果を示す。この結果によれば、酸化タングステン光触媒粉末のL*a*b*表色系の各数値が本発明を満たす酸化タングステン光触媒粉末を塗布したものは、アセトアルデヒドガスの分解性能が高く、光触媒効果が高いことがわかる。さらに、青色LEDを照射したサンプルはさらに効果が大きかった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
つぎに本発明の光触媒粉末による抗菌効果について、以下の実施例5〜8に示す。
(実施例5)
実施例1で使用したのと同じ酸化タングステン粉末を、樹脂片の全体に厚さ0.5μmで塗布した。この樹脂片と黄色ブドウ球菌を水1リットルとともに容器に入れ、容器を冷蔵庫内に収納して、48時間後の菌のコロニー数を測定した。冷蔵庫の扉は、30分間に1回、90度まで開き、1回の開扉時間を1分とした。冷蔵庫の扉の開放時は、庫内のランプが点灯し、容器および容器内の水に可視光が放射されるのを確認した。
【0061】
(実施例6)
実施例2使用したのと同じ酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を樹脂片の表面全体に塗布し、実施例5と同様の評価を行った。
【0062】
(実施例7)
実施例3に使用したのと同じ酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を樹脂片の表面全体に塗布し、実施例5と同様の評価を行った。
【0063】
(比較例4)
比較例1に使用したのと同じ酸化タングステン光触媒を具備する塗料を樹脂片の表面全体に塗布し、実施例5と同様の評価を行った。
【0064】
(比較例5)
樹脂片の表面には光触媒を塗布せず、実施例5同様、容器内に黄色ブドウ球菌とともに水1リットルを入れて冷蔵庫内に設置し、実施例5と同様の評価を行った。
【0065】
(比較例6)
樹脂片の表面全体に紫外線励起光触媒である酸化チタンを塗布し、紫外線照射をせず、実施例5と同様の評価を行った。
【0066】
(実施例8)
実施例2で得られた酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を塗布した樹脂片を用いて、光源として、庫内灯に加えて青色LEDを設置し、閉扉時1時間当たり5分間照射する以外は実施例5と同様、48時間後の菌のコロニー数の変化を測定した。
【0067】
表3に各実施例と比較例における、48時間後の菌のコロニー数の測定結果を示す。この結果によれば、酸化タングステン光触媒粉末のL*a*b*表色系の各数値が本発明を満たす酸化タングステン光触媒粉末を塗布したものは、菌のコロニー数が大幅に減少したことがわかる。さらに、青色LEDを配置し、一定時間照射を実施したサンプルはさらに効果が大きかった。
【0068】
【表3】

【0069】
以上のように、本発明による可視光応答型酸化タングステン光触媒を具備する塗料を浴室部材の少なくとも一部に塗布することによって、特別な紫外線照射手段を付加せずとも、可視光のみを照射することにより光触媒が励起され、浴室内の脱臭や有害ガスの分解効果を得ることが出来ると共に、抗菌効果により黴等の発生を抑えることも可能である。また、可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末の色や粒径に基づいて光触媒性能の向上並びに安定化を図ることができる。
【0070】
なお、前記実施例において、抗菌効果の測定に黄色ブドウ球菌を用いたが、その他細菌や、各種黴に対する効果についても同様である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室用コーティング剤であって、前記コーティング剤が可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末からなり、前記酸化タングステン粉末の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有することを特徴とする浴室用コーティング剤。
【請求項2】
請求項1に記載した浴室用コーティング剤おいて、可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末は、画像解析による平均粒径(D50)が1〜548nmの範囲であることを特徴とする浴室用コーティング剤。
【請求項3】
請求項1ないし請求項2に記載の浴室用コーティング剤において、可視光応答型酸化タングステン粉末を具備する塗料を、浴室部材の少なくとも一部に塗布して使用されることを特徴とする浴室用コーティング剤。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の浴室用コーティング剤において、可視光応答型酸化タングステン光触媒を励起させる光源が、波長が390〜830nmの領域の光を放出することを特徴とする浴室用コーティング剤。
【請求項5】
請求項4に記載の浴室用コーティング材において、前記可視光応答型酸化タングステン光触媒を励起させる光源が、青色発光成分を有する白色光を放射する光源であることを特徴とする浴室用コーティング剤。

【公開番号】特開2009−132789(P2009−132789A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309461(P2007−309461)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】