浴槽装置
【課題】人体の前面全体などに作用して、さわさわとした心地よさと暖まり感が得られる浴槽装置を提供する。
【解決手段】内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置を提供する。
【解決手段】内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対向する一対の短辺側浴槽壁のそれぞれにノズルを設け、各ノズルから対向壁方向へ直線的に水流を生じさせる浴槽がある(例えば、特許文献1)。
また、ノズル部から噴射される温水が浴槽本体部の周壁面に沿って通流することによって、渦流を発生させる浴槽がある(例えば、特許文献2)。
また、気泡混じりの浴湯の噴出量を周期的に変化させるようにした浴槽がある(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開平7−178142号公報
【特許文献2】特開平8−38570号公報
【特許文献3】特開平2−307457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、浴槽装置としては、直線的な噴流を人体に当ててその刺激によるマッサージを実現するものが主であり、特に刺激をより高めるには気泡入り噴流を噴出させることが有効であると考えられてきたことから、気泡を発生させる装置が開発されてきた。しかしながら、これら浴槽装置の場合、噴流噴出音が騒々しく、且つ入浴者は噴流刺激を人体に受けながら入浴することになるため、長時間リラックスして噴流浴を楽しむことは難しかった。
【0004】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、人体の前面全体などに作用して、さわさわとした心地よさと暖まり感が得られる浴槽装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、人体の前面などに作用して、さわさわとした心地よさと暖まり感が得られる浴槽装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
第1の発明は、内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感を感じることができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、前記制御部は、前記パチニ小体が受容可能な圧力変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感をより感じることができる。
【0009】
第3の発明は、内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水において、水流の高周波数域の強度の時間微分の絶対値の総和が、前記噴流の流量が時間に対して一定である場合の前記総和の略2倍以上となる水流変化を生じさせるように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感を感じることができる。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、前記制御部は、前記水流変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感をより感じることができる。
【0011】
第5の発明は、第2または第4の発明において、前記ノズルは、前記第1の壁面とは異なる面に設けられたことを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はノズルから吐出された噴流による局所的な圧力を感じることなく、さわさわとした心地よさと暖まり感を感じることができる。
【0012】
第6の発明は、第5の発明において、前記浴槽の内面は、前記第1の壁面とは異なる第2の壁面をさらに有し、前記ノズルは、前記第2の壁面に設けられたことを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は身体全体に均等に心地よいさわさわ感を感じることができる。
【0013】
第7の発明は、第6の発明において、前記第2の壁面は、前記第1の壁面に対向する壁面であることを特徴する浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は身体全体に均等に心地よいさわさわ感を感じることができる。
【0014】
第8の発明は、第2、第4〜第7のいずれか1つの発明において、前記ノズルは、前記第1の壁面に向けて前記噴流が吐出されるように設けられることを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は身体全体に均等に心地よいさわさわ感を感じることができる。
【0015】
第9の発明は、第1〜第8のいずれか1つの発明において、前記制御部は、前記噴流の流量を非周期的に変化させることを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は水流の変化に飽きを感じることなく、長時間入浴を楽しむことができる。
【0016】
第10の発明は、第1〜第8のいずれか1つの発明において、前記制御部は、前記噴流の流量を周期的に変化させることを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、心地よいさわさわ感をもたらす水流を良好に形成することができる。
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る浴槽装置の概略構成を表すブロック図である。また、図2は、本発明の実施形態に係る浴槽装置の一例(具体例1)の概略構成を表す模式斜視図である。
【0018】
図1及び図2に表したように、本実施形態(具体例1)に係る浴槽装置1は、浴槽4と、噴流発生装置Jと、制御部Rと、を備える。浴槽4は、内面に、吸入口5と、単数または複数のノズル11(図1及び図2では、第1のノズル11a及び第2のノズル11b)と、を有する。噴流発生装置Jは、具体的には、例えば加圧装置であるポンプ7であり、浴槽4から吸入口5を介して水(浴槽水。温水を含む)を吸入し、浴槽4にノズル11を介して噴流を吐出する装置である。
【0019】
制御部Rは、噴流発生装置Jを介して噴流の流量を制御する。より詳細には、パチニ小体(人体の皮膚に存在する感覚器で、圧力刺激を知覚する機械受容器の1つ)が受容可能な圧力変化(流速変動)が浴槽4において発生するように、噴流の流量を制御する。
【0020】
また、浴槽4は、略平行に対向する一対の短辺浴槽壁4a(第2の壁面)及び短辺浴槽壁4b(第1の壁面)と、略平行に対向する一対の長辺浴槽壁3a、3b(第3の壁面)とを有し、平面視が略矩形状または長円形状に形成されている。
【0021】
一般に、入浴者200は、短辺浴槽壁4a、4bのうちの一方の短辺浴槽壁(図2では、短辺浴槽壁4b(第1の壁面))に背をもたれかけて、他方の短辺浴槽壁(図2では、短辺浴槽壁4a(第2の壁面))に足を向けた姿勢で入浴する。
【0022】
一対の長辺浴槽壁3a、3bのうちの一方には吸入口5が形成されている。吸入口5と、ポンプ7の吸込口との間には循環路6が接続され、ポンプ7が駆動されると、浴槽4の内部に貯留された浴槽水は吸入口5から循環路6へと吸い込まれる。
【0023】
吸入口5は、入浴者の身体の一部等によってふさがれにくい長辺浴槽壁3a、3bに形成するのが望ましい。仮に、吸入口5を短辺浴槽壁4a、4bに形成した場合、入浴者200の背中や足裏で吸入口5がふさがれ、ポンプ7に過剰の負荷がかかることが懸念される。
【0024】
ポンプ7の吐出口と各ノズル11a、11bとの間は吐出管8で接続される。ポンプ7は、吸入口5から循環路6内に浴槽水を吸い込むとともに、その吸い込んだ浴槽水を加圧して吐出管8に吐出する。このポンプ7から吐出された加圧浴槽水は、ノズル11a、11bを介して浴槽4に吐出される。吸い込んだ浴槽水に加える圧力を変えることにより、浴槽4に供給される浴槽水の流量が変わる。ポンプ7の加圧動作は、後に詳述するように制御部Rによって制御される。なお、使用していないときに、ポンプ7内部の残留水を抜くために、ポンプ7は吸入口5よりも上方に設けることが望ましい。
【0025】
次に、具体例1に係る浴槽装置1における噴流の流動態様について説明する。
図3は、浴槽装置1における噴流の流動態様の一例を表す模式図である。図3(a)は模式平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A線断面図である。
【0026】
図3(a)に表したように、ノズル11a、11bから吐出された噴流は、浴槽4内において、ノズル11a、11bが設けられた短辺浴槽壁4aから反対側の短辺浴槽壁4bに向けて、長辺浴槽壁3a、3bに対して略平行に流れる。
【0027】
ここで、ノズル11a、11bから浴槽4内へと吐出される浴槽水の吐出流量は、制御部Rによって所望の値に変更することができる。本実施形態では、制御部Rからの制御信号によってポンプ7の印加電圧を制御し、ポンプ7による浴槽水の加圧力を制御する。これにより、浴槽水の吐出流量の大小を変更する。
【0028】
このように構成される具体例1に係る浴槽装置1において、浴槽4近傍に設けられた図示しないコントローラのスイッチを入浴者200が操作すると、ポンプ7が起動し、浴槽4内に貯留された浴槽水が吸入口5から循環路6内へと吸入される。この吸入された浴槽水は、制御部Rによって制御されるポンプ7で加圧され、ノズル11a、11bを介して浴槽4内に、より詳細には浴槽4内に貯留された浴槽水中に、短辺浴槽壁4bに向けて長辺浴槽壁3a、3bに略平行に吐出される。
【0029】
ノズル11a、11bから噴流が吐出されると、噴流の外縁部において、周囲流体との速度差に起因した渦などの乱れが形成される。この渦などの乱れは、噴流の主流や外部流体との間で運動量交換を行うことで、噴流の主流速度を低下させるとともに、渦の分裂や減衰、あるいは渦同士の相互干渉によって新たな流速を励起する。
【0030】
このため、浴槽4内に形成される流れは、ノズル11a、11bから遠ざかるほど、速度が低く、且つ、細かな渦などに起因した高周波数の流速変動(圧力変化)が優位な流れとなる。これにより、入浴者200が背をもたれかける短辺浴槽壁4b(第1の壁面)近傍においては、高周波数の流速変動を有した渦流れなどが形成される。
【0031】
この微小な高周波の流速変動を有する渦流れなどは、入浴者200のパチニ小体に作用する。パチニ小体とは、人体の皮膚に存在する主要な4種類の機械受容器の1つであり、機械受容器の中で最も鋭敏な感覚器である。すなわち、微小な圧力変化に反応し、手触り感等の知覚に関与していることが知られている。また、パチニ小体は、刺激に対して最も急速に順応することが知られている。すなわち、短い時間で刺激に慣れて、これを感じなくなる。このように、パチニ小体は、圧力刺激の加速度的変化を知覚するといわれている。
【0032】
これにより、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。このため、入浴者200は、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
さらに、この渦流れなどは、入浴者200の身体表面の広範囲において、人体表面に接する浴槽水の交換を促し、入浴による暖まり効果をよりいっそう高めることができる。すなわち、温度境界層の形成を妨げ、湯から人体に伝わる熱量を大きくすることができる。
【0033】
本実施例においては、噴流中に実質的に気泡を混入させない。気泡を混入させた場合には、前述の渦流れなどの形成が妨げられ、さわさわ感を感じにくくなる。ここで、「実質的に気泡を混入させない」とは、気泡を全く混入させないことの他、気泡が僅かに混入するものの、視覚的、体感的等において気泡を全く混入させないのと同等であると認められることを含む。
【0034】
具体例1では、ノズルと作用位置とが離れており、減衰した噴流や、弱い水流(噴流によって励起された浴槽内全体の緩やかな流れ)が身体に作用する。これらの流れが、入浴者200の身体に広範囲に作用する。したがって、よりいっそうのさわさわ感を感じさせるためには、浴槽4における、入浴者が背を凭れ掛ける第1の壁面と対向する反面側にノズル11を設置するのが望ましい。
【0035】
次に、パチニ小体が受容可能な圧力変化について、実施例1を用いて、図4〜図13を参照しつつ説明する。
ここで、流体中の物体の壁面に印加される圧力は、水面からの深さに起因した静圧と、流れから受ける動圧(流れが身体表面でせき止められることにより作用する圧力)との和となる。ここで、流れから受ける動圧の大きさは、流速の2乗に比例する。このため、水中で人体が受ける圧力の変化は、水の流速の変動と一義的に対応する。従って、以下、パチニ小体の受容可能性については、「圧力変化」と対応する「流速変動」を指標として用いることとする。
【0036】
(実施例1)
本発明者は、異なる流量パターンの噴流を吐出させた場合について、浴槽4内に形成される水流の流速の時間変化を測定した。
【0037】
図4は、実施例1で用いた浴槽4を表す模式平面図である。
図4に表したように、測定に用いた浴槽4の長辺方向内寸は1240mmであり、短辺方向内寸は640mmである。浴槽水は、浴槽内槽部底面から380mmの高さまで溜めた。
【0038】
2つのノズル11a、11bは、略同じ高さ、具体的には、浴槽内槽部底面から140mmの高さに設置した。また、ノズル11a、11bは、それぞれの中心の間の距離が160mmになるように、短辺浴槽壁4a、4bの中心を通る中心線Cを挟んで中心線Cから等距離に離間させた。
【0039】
測定は、入浴者200が背をもたれかける短辺浴槽壁4bから250mm離間し、中心線Cから160mm離間した測定位置Aにおいて行った。測定位置A、及び中心線Cを基準とした測定位置Aの線対称位置A’は、概ね入浴者200が座る位置の横、すなわち、概ね入浴者200の脇付近に位置する。
なお、気泡は発生させなかった。
【0040】
図5は、吐出する噴流の流量Qの対時間パターンを表す模式グラフ図である。ここで、流量Qは2つのノズル11a、11bから吐出される流量の和であり、各ノズルあたりの流量は概ね等しい。つまり、各ノズルから噴出される流量はQの半分である。また、ノズル11a、11bの断面積は一定であることから、流速と流量は概ね比例関係にある。
本実施例で用いた図5(a)、(b)、及び(c)に係る流量Qのパターンは、強弱を有する。すなわち、これらは、流量Qの時間変化割合(Qmax−Qmin)/dtを変えた3つのパターンである。
一方、比較例として、図5(d)及び(e)に表した、流量Qを一定にしたパターンを用いた。
【0041】
本実施形態において、流量Qは周期的に変化してもしなくてもよいが、本実施例(図5(a)〜(c))では周期的に変化する構成にした。また、周期は、好ましくは略12秒以上略16秒以下であり、より好ましくは略13秒とするのが良い。これにより、最も落ち着いた感じを得られる。本実施例では、図5(a)〜(c)のいずれも13秒である。
【0042】
流量Qは、積極的に周期的に変化してもしなくてもよい。周期的に変化させないことによって、馴化防止に寄与する(変化に飽きがこない)ことが考えられる。尚、この場合にも、流量Qの周期は略12秒以上略16秒以下で変化させることで、高い落ち着き感が得られると考えられる。
【0043】
また、流量Qの極小値と極大値との間で移行するのに要する時間は、適宜設定することができるが、例えば略1.5秒以上略7.5秒以下であってよい。本実施例において、極小値から極大値へ移行するのに要する時間は、図5(a)で4.5秒、図5(b)で1.5秒、図5(c)で7.0秒である。また、本実施例において、極大値から極小値へ移行するのに要する時間は、図5(a)で4.5秒、図5(b)で7.5秒、図5(c)で2.0秒である。
【0044】
また、流量Qは、一定時間の間連続して略同一の極大値を有してよい。この一定時間は、適宜選択することができるが、例えば略4.0秒であってよい。本実施例では、図5(a)〜(c)のいずれも4.0秒である。
【0045】
また、噴流の流量は、適宜選択することができるが、例えば略35リットル/分と略50リットル/分との間で変動する構成にしてよい。本実施例では、図5(a)〜(c)のいずれも、35リットル/分と50リットル/分との間で変動している。
【0046】
それぞれの変数をこれら数値範囲から選択した場合は、良好なさわさわ感が得られる。
【0047】
以下、解析結果について説明する。
図6は、図5(a)に係るパターンについて、測定位置Aにおいて、サンプリング周波数80Hzで、375秒間(30000点)を計測した測定データを表す模式グラフ図である。横軸は時間(秒)を、縦軸は流速(m/秒)を表す。この測定データに対して、256点のFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)窓を時間方向に移動させて周波数解析を行った。時間方向の移動は、80点(=1秒)ごとに行った。窓関数には、矩形窓を用いた。図5(b)〜(e)に係るパターンついても、同様の周波数解析を行った。
【0048】
図7は、周波数解析の手法を説明するための模式グラフ図である。
図7において、平面の一方向軸は時間(秒)を表し、平面の他の方向軸は流速変動の周波数(Hz)を表す。また、垂直軸は、周波数スペクトルの大きさ、すなわち、周波数解析により得られた各周波数の流速変動が有する強度(Power)を示している。
【0049】
図8は、図5(a)に係るパターンについて、周波数解析の結果を表す模式グラフ図である。ここで、図8において、前述したように、高周波数の速度変動を持つ渦流れなどが身体近傍に作用することによって、さわさわ感が得られることから、5Hz〜20Hzの周波数範囲に着目することとする。
【0050】
図9は、図5(a)に係るパターンについての計測結果を表す模式グラフ図である。
図9(a)は、図5(a)に表した噴流の流量Qの対時間パターンを表す模式グラフ図と同じ図である。
【0051】
図9(b)の実線及び左縦軸は、測定位置Aにおける流速に係る周波数解析のDC成分(直流成分)の大きさ「u」を表すグラフ図である。すなわち、「u」は、測定位置Aにおける平均流速の、サイクル13秒内での時間推移を表している。
【0052】
図9(b)の破線及び右縦軸は、測定位置Aにおける流速変動が保有する強度(Power)と時間との関係を表す模式グラフ図である。破線で示した「P」は、5〜20Hz(高周波数域)のPowerの総和(積分値)を表しており、さわさわ感に寄与していると考えられる高周波数域の流速変動が保有する強度を表している。すなわち、図9(b)は、高周波数域にある流速変動が保有する強度の時間的推移を表している。
【0053】
図10は、図5(a)〜(e)の全ての流量パターンについて、図9(b)に相当する図を表した模式グラフ図である。図10において、「パターン(a)」〜「パターン(e)」のグラフ図は、それぞれ図5(a)〜(e)の流量パターンに対応している。
【0054】
図10(a)〜(e)からわかるように、身体に到達する流れの平均流速「u」は、ノズルから噴出される流量パターンと概ね同期して変化する。さらに、図10(a)〜(c)のように、吐出流量を変化させた場合、身体に到達する平均流速「u」が変化(増加、或いは、減少)している時にPの値は断続的に大小を繰り返すように急激に変化している(図10(a)〜(c)において、楕円で囲まれた部分)。
一方、図10(d)及び(e)のように、吐出流量が一定の場合、Pの値は緩やかに変化する。また、吐出流量に比較的大きな加速度を付与した場合に比べて、大きな値とはならない。
【0055】
これらから、吐出流量を変化させた場合に、測定位置Aにおいて、次々と高周波の流速変動が生じていると考えられる。
【0056】
図11は、測定位置Aにおける断続的に変動するPの時間的な変動の大きさを指標化した手法を説明するための模式図である。例として、図5(a)に係る流量パターンを用いた。
図11(a)に表したように、サイクル13秒において、P(高周波数域のPowerの積分値)の時間微分(差分)をとり、その絶対値の和を算出した。
【0057】
図11(b)は、算出結果を示す表である。図11(b)の表の左欄は、Pの微分値の絶対値の和、すなわちPの時間的な変化量の総和である。
【0058】
また、図11(b)の表の右欄は、図5(d)に係る流量パターン(流量が一定のパターン)の数値を基準(1)とした相対値である。
【0059】
図12は、図11(b)の表に示した数値結果を表す模式図である。
図12から、本実施例(図5(a)〜(c)の流量パターン)の場合、Pの時間的な変化量の総和は比較的高く、比較例(図5(d)及び(e)の流量パターン)の場合、Pの時間的な変化量の総和は比較的低いことがわかる。すなわち、流量に強弱を付与した本実施例の場合、流量が一定である比較例のおおよそ2倍程度の値となることがわかる。このことから、流量に強弱を付与した本実施例の場合、高周波数域における流速変動が保有する強度(の総和)Pの時間的強弱変化が大きいといえる。
【0060】
この高周波数域における流速変動が、入浴者200の皮膚に存在し圧力刺激を知覚する機械受容器の1つであるパチニ小体に作用することで、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。これにより、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
【0061】
上述したように、パチニ小体は微小な圧力刺激を感知すると共に、急激に順応することが知られており、刺激圧力の急激な変化がある場合の方がより知覚されることが知られている。このことから、流量に強弱を付与した本実施例の場合、高周波数域における流速変動の時間的強弱変化が大きいことにより、パチニ小体による知覚が促され、よりさわさわ感を受けることができると考えられる。
【0062】
換言すれば、パチニ小体が受容可能な水流変化とは、水流における高周波数域(例えば、周波数が略5Hz以上略20Hz以下)の流速変動が保有する強度の時間的な変化量(絶対値)の総和が、噴流の流量Qが時間に対して一定(上限流量を揃える)である場合の、同じ測定場所(かかる高周波数域の流速変動が発生する場所と同じ場所)における前記総和、すなわち高周波数域の流速変動が保有する強度の時間的な変化量の総和、の略2倍以上であるような水流変化であるといえる。
【0063】
図13は、噴流の流量Qの増加速度Aa(=(Qmax−Qmin)/dt)と減少速度Ad(=(Qmin−Qmax)/dt)に対する、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の変化を示した模式グラフ図である。
図13より、増加速度または減少速度の絶対値が大きい、すなわち、流量を急激に変化させた場合にPが大きくなることがわかる。本実施例においては、|Aa|、|Ad|<3とすることで、流量一定の場合よりPの大きさが増す。
【0064】
このことから、流量を急激に変化させた場合に高周波数域の流速変動が大きく生じ、さわさわ感を明確に感じることができると考えられる。
【0065】
本発明者は、被験者の協力を得て入浴モニタ試験を行った。このモニタ試験において、図5(a)に係る流量パターンのように流量を変化させた場合、4人中3人が身体に押し寄せる心地よい「さわさわ感」を感じたとの結果が得られた。
【0066】
次に、気泡の有無とさわさわ感との関係について、実施例2を用いて、図14を参照しつつ説明する。
【0067】
(実施例2)
実施例2では、実施例1で用いたのと同じ浴槽4を用いた(図4)。
図14は、図5(a)に係る流量パターンに関して、気泡あり及び気泡なしの場合の、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の比較を表した模式グラフ図である。
【0068】
図14から、気泡ありの場合は、気泡なしの場合と比べて、身体近傍における渦流れなどの形成が妨げられることが考えられ、さわさわ感を作用させる高周波数の変動が生じにくいといえる。
また、気泡を混入しないことで、浴槽水の温度が大きく低下してしまうことはなく、十分な温熱感を得ることができる。また、入浴者周囲の温度が低下し、パチニ小体の感度低下が起こることがなく、さわさわ感を確実に感じることができる。
【0069】
さらに、上記に加えて、気泡を混入しないことで、気泡混入に起因した音の発生がなく、静かな環境で噴流浴を行うことができ、リラックス効果がよりいっそう高まる。
また、テレビや音楽を鑑賞しながらの入浴や、周囲への騒音を心配することなく入浴することが可能となる。
これらから、気泡は、実質的に混入あるいは発生させない方が好ましいと考えられる。ここで、「実質的に混入させない」とは、気泡を全く混入させないことの他、気泡が僅かに混入するものの、視覚的、体感的等において気泡を全く混入させないのと同等であると認められることを含む。「実質的に発生させない」についても同様である。
【0070】
これまで広く知られていた噴流浴装置は、身体に強い噴流を直接的に当てて、身体部位をマッサージすることを目的としていたため、より強い刺激感を得るために気泡が混入されるのが一般的であった。しかしながら、本発明における、微小流速変動を身体の広範囲に作用させ、さわさわとやわらかい流れに身体を包み込まれるような噴流浴槽においては、気泡は混入しない方が、よりさわさわ感を感じさせることができるといえる。
【0071】
次に、噴流の流量Qの対時間パターンの周期と、さわさわ感との関係について、実施例3を用いて説明する。
【0072】
(実施例3)
実施例3では、実施例1で用いたのと同じ浴槽4を用いた(図4)。
被験者(4名)の協力を得て、入浴モニタ試験を行った。試験の結果、最も好適な結果が得られたのは「13秒」であった。この周期が最も自然な周期であり、さわさわ感を感じる周期であるとのことである。以下に、詳細な結果を示す。
【0073】
「8秒周期」では、周期が短く、落ち着かない感じを受けるとのことであった。
「10秒周期」では、周期は短くてやや落ち着かないが、違和感のない、しっくりする感じを受けるとのことであった。
「12秒周期」では、自然な落ち着いた感じを受け、ストレスを感じないとのことであった。さわさわ感が途切れようとする瞬間に水流が身体に来て、これが心地よいとのことであった。但し、もう少し“間”があった方がよいかもしれないとの意見があった。
【0074】
「13秒周期」では、ゆったりとしたくつろぎ感が得られ、リラックスできるとのことであった。最もしっくりする感じであるとのことであった。さわさわ感が途切れた後に、絶妙な“間”でさわさわした水流が身体に来て、これが心地よいとのことであった。
「14秒周期」では、ゆったりとしたくつろぎ感があるが、さわさわ感が途切れた後に半呼吸くらいで水流が身体に来て、やや“間”がありすぎる感じがするとのことであった。
「16秒周期」では、やや間延びする感じがあるとの意見があった。
【0075】
流量Qは、積極的に周期的に変化してもしなくてもよい。周期的に変化させないことによって、馴化防止に寄与する(変化に飽きがこない)ことが考えられる。尚、この場合にも、流量Qの周期は略12秒以上略16秒以下で変化させることで、高い落ち着き感が得られると考えられる。
【0076】
次に、ノズル11の他の配置位置及び他の吐出方向について、図15を参照しつつ説明する。
ノズル11は、図2などで図示した背凭れ可能な壁面に対向する壁面の他、背凭れ可能な壁面と異なる任意の面(浴槽底面や、他の壁面)に設けることができる。この場合、入浴者が背を凭れ掛ける第1の壁面と対向する反面側にノズルを設置するのが望ましい。これにより、浴槽4内に形成される渦流れなどを身体表面により確実に作用させることができ、さわさわ感を感じさせることができる。
また、ノズル11は、様々な方向に噴流が吐出されるように設けてよく、例えば、背凭れ可能な壁面に向けて噴流が吐出されるように設けてよい。
【0077】
図15は、ノズル11の他の配置位置及び他の吐出方向を例示する模式平面図である。
図15に表したように、ノズル11は、長辺浴槽壁3a、3bに設置し、短辺浴槽壁4b(第1の壁面)に向けて噴流を吐出させてもよい。
図15(a)に係る例では、噴流吐出方向の延長線上に入浴者200の身体があるように、短辺浴槽壁4bの中心方向に傾けて吐出している。
【0078】
この場合でも、上述の実施例と同様に、入浴者200が背をもたれかける短辺浴槽壁4b近傍において、高周波数の流速変動を有する渦流れなどが短辺浴槽壁4b近傍に形成される。この微小な高周波の流速変動を有する渦流れなどがパチニ小体に作用することで、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。これにより、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
【0079】
また、この場合、噴流吐出方向の延長線上に身体があるため、渦流れなどは主として身体正面に作用し、足側から腹部、胸部と順々にさわさわ感が伝わってくるのを感じることができ、徐々につつみこまれていく感じを受ける。
【0080】
図15(b)に係る例では、噴流吐出方向の延長線上に入浴者200の身体がこないように吐出している。
この場合、渦流れなどは入浴者200の身体外側をすり抜けて、短辺浴槽壁4aと入浴者200の背とによって形成される空間へと回り込み、主として入浴者200の背面に作用する。
【0081】
これにより、入浴者200は、背面にさわさわとした刺激を受け、湯に漂っているような浮遊感を感じることができる。これにより、長時間リラックスして入浴することができる。
【0082】
なお、ノズル11の吐出方向は、可変式にしてもよい。この場合、浴槽4近傍に設けられた図示しないコントローラのスイッチを入浴者200が操作すると、ノズル11の方向が変わる構成にすることができる。
また、図示しないが、ノズル11の数は2つに限られず、1つや、3つ以上設けてもよい。
【0083】
次に、浴槽4の他の形状について、図16を参照しつつ説明する。
浴槽4の形状は、図2などで図示した略矩形状の他、他の任意の形状であってもよい。
これら任意の形状の浴槽4について、浴槽4の内面は背凭れ可能な壁面(第1の壁面)を有することができる。この場合、パチニ小体受容可能な圧力変化(流速変動)が、この背凭れ可能な面の近傍(入浴者200近傍)で発生する構成にすることができる。あるいは、前述した水流変化(水流の高周波数域の強度の時間微分の絶対値の総和が、噴流の流量Qが時間に対して一定である場合の前記総和の略2倍以上となる水流変化)が、この背凭れ可能な面の近傍(入浴者200近傍)で発生する構成にすることができる。すなわち、かかる条件を満たすように、制御部Rが噴流の流量を制御する構成にすることができる。
【0084】
図16は、浴槽4の他の形状を例示する模式平面図である。
図16(a)に係る例では、浴槽4は6角形状を有する。また、図16(b)に係る例では、浴槽4は円形である。浴槽4の形状は、これらの他、他の多角形状であってもよく、また他の任意の形状であってもよい。
【0085】
これらの場合、ノズル11a、11bの位置及び噴出流の噴出方向は、浴槽内壁の形状や、想定される入浴者200の存在位置、姿勢等により適宜設定することができる。位置については、例えば、図15に表したように、背凭れ可能な面に対向する面に2つのノズル11a、11bを比較的近接させて設置することができる。あるいは、離隔して設置してもよい。また、噴出方向については、中心線C方向や周側壁3cに沿った方向でもよく、あるいはこれらの間の方向やさらに別の方向でもよい。
なお、これまでの図においては、主として家庭用などに用いられる浴槽を例示してきたが、本実施形態は、大浴場などに用いられる大型の浴槽にも適用することができる。
【0086】
次に、方向を変えることのできるノズル11の構造について、図17及び図18を参照しつつ説明する。
図17は、方向を変えることのできるノズル11の一具体例を表す模式斜視図である。
【0087】
図17における第1のノズル51aは、図2における第1のノズル11aに対応する。同様に、図17における第2のノズル51bは、図2における第2のノズル11bに対応する。
【0088】
また、第1のノズル51aの水平断面図を図18に示す。以下、第1のノズル51aについて説明していくが、第2のノズル51bについても第1のノズル51aと同様に構成される。
【0089】
ノズル51aは、保持部材51を介して短辺浴槽壁4aに保持されている。保持部材51は、リング状の取付部材53を介して短辺浴槽壁4aに形成された開口に嵌め込まれている。
【0090】
保持部材51において、短辺浴槽壁4aの外側に突出する部分には流水導入部52が設けられている。流水導入部52は保持部材51の内部に通じ、その保持部材51の内部には外形略球状の可動体54が設けられている。可動体54には、保持部材51の内部空間に通じる噴出孔56が形成され、この噴出孔56は保持部材51の内部空間を介して流水導入部52と通じている。
【0091】
保持部材51における、浴槽内側の前端部にはガイド部材55が設けられている。ガイド部材55には、図17に示すように、水平方向に延びるガイド孔55aが形成されている。
【0092】
噴出孔56は円筒状の突出部57の内部に形成されており、その突出部57の先端側部分は、ガイド孔55aから浴槽内に突出し、その先端開口は噴出孔56に連通し浴槽水中に噴流を噴出させる噴出口56aとして機能する。
【0093】
可動体54は、保持部材51に対して回動自在に保持されているが、突出部57がガイド孔55aを貫いて浴槽内に突出していることから、ガイド孔55aの延在方向である水平方向以外の動きが規制されている。すなわち、突出部57は、他の方向への動きを規制されつつ水平方向のみに揺動可能となっている。突出部57の内部には噴流孔56が形成されているため、突出部57が水平方向に揺動することで、水平面内での噴流噴出角度を変えることができる。
【0094】
例えば、図18(a)は、噴出孔56の軸方向が、長辺方向(長辺浴槽壁3a、3bの延在方向に対して平行な方向)から、第1のノズル51aに対して近い側の第1の長辺浴槽壁3a側に10°傾いた場合(噴出方向が10°)を示す。
【0095】
図18(a)の状態から、突出部57がさらに第1の長辺浴槽壁3a側に揺動した状態を図18(b)に示す。この状態は、噴出孔56の軸方向が短辺浴槽壁4aの水平方向に対して平行とされ、噴出方向が短辺浴槽壁4aに平行な方向に設定された場合を示す。
【0096】
図17及び図18に示すノズル51a、51bは、噴出方向を変えることができる構成のため、さわさわ感が作用する位置を使用者の好みに応じて適時変更可能となる。また、噴出方向を切り換えるための可動部の移動が水平方向に規制されているため、使用者が突出部57をつまんで手動で噴出角度を切り換えるにあたって、高さ方向の角度変動が生じない。したがって、誤って噴流が水面から飛び出すことが防止でき、入浴者がさわさわとした心地よさを受けて入浴する際に、顔等に水がかかり不快に感じるようなことがなくなる。
【0097】
以上説明したように、本実施形態によれば、制御部Rが噴流発生装置J(ポンプ7など)を介して噴流の流量を制御することにより、パチニ小体が受容可能な圧力変化(流速変動)が浴槽4で発生する。これにより、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。このため、入浴者200は、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
【0098】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施形態に係る浴槽装置の概略構成を表すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る浴槽装置の一例(具体例1)の概略構成を表す模式斜視図である。
【図3】浴槽装置1における噴流の流動態様の一例を表す模式図である。
【図4】実施例1で用いた浴槽4を表す模式平面図である。
【図5】噴流の流量Qの対時間パターンを表す模式グラフ図である。
【図6】図5(a)に係るパターンについて、測定位置Aにおいて、サンプリング周波数80Hzで、375秒間(30000点)を計測した測定データを表す模式グラフ図である。
【図7】周波数解析の手法を説明するための模式グラフ図である。
【図8】図5(a)に係るパターンについて、周波数解析の結果を表す模式グラフ図である。
【図9】図5(a)に係るパターンについての計測結果を表す模式グラフ図である。
【図10】図5(a)〜(e)の全ての流量パターンについて、図9(b)に相当する図を表した模式グラフ図である。
【図11】測定位置Aにおける断続的に変動するPの時間的な変動の大きさを指標化した手法を説明するための模式図である。
【図12】図11(b)の表に示した数値結果を表す模式図である。
【図13】噴流の流量Qの増加速度Aa(=(Qmax−Qmin)/dt)と減少速度Ad(=(Qmin−Qmax)/dt)に対する、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の変化を示した模式グラフ図である。
【図14】図5(a)に係る流量パターンに関して、気泡あり及び気泡なしの場合の、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の比較を表した模式グラフ図である。
【図15】ノズル11の他の配置位置及び他の吐出方向を例示する模式平面図である。
【図16】浴槽4の他の形状を例示する模式平面図である。
【図17】方向を変えることのできるノズル11の一具体例を表す模式斜視図である。
【図18】第1のノズル51aの水平断面図である。
【符号の説明】
【0100】
1 浴槽装置、3a 長辺浴槽壁、3b 長辺浴槽壁、3c 周側壁、4 浴槽、4a 短辺浴槽壁、4b 短辺浴槽壁、5 吸入口、6 循環路、7 ポンプ、8 吐出管、11a ノズル、11b ノズル、51 保持部材、51a 第1のノズル、51b 第2のノズル、52 流水導入部、53 取付部材、54 可動体、55 ガイド部材、55a ガイド孔、56 噴出孔、56a 噴出口、57 突出部、200 入浴者、C 中心線、J 噴流発生装置、R 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対向する一対の短辺側浴槽壁のそれぞれにノズルを設け、各ノズルから対向壁方向へ直線的に水流を生じさせる浴槽がある(例えば、特許文献1)。
また、ノズル部から噴射される温水が浴槽本体部の周壁面に沿って通流することによって、渦流を発生させる浴槽がある(例えば、特許文献2)。
また、気泡混じりの浴湯の噴出量を周期的に変化させるようにした浴槽がある(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開平7−178142号公報
【特許文献2】特開平8−38570号公報
【特許文献3】特開平2−307457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、浴槽装置としては、直線的な噴流を人体に当ててその刺激によるマッサージを実現するものが主であり、特に刺激をより高めるには気泡入り噴流を噴出させることが有効であると考えられてきたことから、気泡を発生させる装置が開発されてきた。しかしながら、これら浴槽装置の場合、噴流噴出音が騒々しく、且つ入浴者は噴流刺激を人体に受けながら入浴することになるため、長時間リラックスして噴流浴を楽しむことは難しかった。
【0004】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、人体の前面全体などに作用して、さわさわとした心地よさと暖まり感が得られる浴槽装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、人体の前面などに作用して、さわさわとした心地よさと暖まり感が得られる浴槽装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
第1の発明は、内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感を感じることができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、前記制御部は、前記パチニ小体が受容可能な圧力変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感をより感じることができる。
【0009】
第3の発明は、内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、前記噴流発生装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水において、水流の高周波数域の強度の時間微分の絶対値の総和が、前記噴流の流量が時間に対して一定である場合の前記総和の略2倍以上となる水流変化を生じさせるように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感を感じることができる。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、前記制御部は、前記水流変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はさわさわとした心地よさと暖まり感をより感じることができる。
【0011】
第5の発明は、第2または第4の発明において、前記ノズルは、前記第1の壁面とは異なる面に設けられたことを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者はノズルから吐出された噴流による局所的な圧力を感じることなく、さわさわとした心地よさと暖まり感を感じることができる。
【0012】
第6の発明は、第5の発明において、前記浴槽の内面は、前記第1の壁面とは異なる第2の壁面をさらに有し、前記ノズルは、前記第2の壁面に設けられたことを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は身体全体に均等に心地よいさわさわ感を感じることができる。
【0013】
第7の発明は、第6の発明において、前記第2の壁面は、前記第1の壁面に対向する壁面であることを特徴する浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は身体全体に均等に心地よいさわさわ感を感じることができる。
【0014】
第8の発明は、第2、第4〜第7のいずれか1つの発明において、前記ノズルは、前記第1の壁面に向けて前記噴流が吐出されるように設けられることを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は身体全体に均等に心地よいさわさわ感を感じることができる。
【0015】
第9の発明は、第1〜第8のいずれか1つの発明において、前記制御部は、前記噴流の流量を非周期的に変化させることを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、入浴者は水流の変化に飽きを感じることなく、長時間入浴を楽しむことができる。
【0016】
第10の発明は、第1〜第8のいずれか1つの発明において、前記制御部は、前記噴流の流量を周期的に変化させることを特徴とする浴槽装置である。
この浴槽装置によれば、心地よいさわさわ感をもたらす水流を良好に形成することができる。
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る浴槽装置の概略構成を表すブロック図である。また、図2は、本発明の実施形態に係る浴槽装置の一例(具体例1)の概略構成を表す模式斜視図である。
【0018】
図1及び図2に表したように、本実施形態(具体例1)に係る浴槽装置1は、浴槽4と、噴流発生装置Jと、制御部Rと、を備える。浴槽4は、内面に、吸入口5と、単数または複数のノズル11(図1及び図2では、第1のノズル11a及び第2のノズル11b)と、を有する。噴流発生装置Jは、具体的には、例えば加圧装置であるポンプ7であり、浴槽4から吸入口5を介して水(浴槽水。温水を含む)を吸入し、浴槽4にノズル11を介して噴流を吐出する装置である。
【0019】
制御部Rは、噴流発生装置Jを介して噴流の流量を制御する。より詳細には、パチニ小体(人体の皮膚に存在する感覚器で、圧力刺激を知覚する機械受容器の1つ)が受容可能な圧力変化(流速変動)が浴槽4において発生するように、噴流の流量を制御する。
【0020】
また、浴槽4は、略平行に対向する一対の短辺浴槽壁4a(第2の壁面)及び短辺浴槽壁4b(第1の壁面)と、略平行に対向する一対の長辺浴槽壁3a、3b(第3の壁面)とを有し、平面視が略矩形状または長円形状に形成されている。
【0021】
一般に、入浴者200は、短辺浴槽壁4a、4bのうちの一方の短辺浴槽壁(図2では、短辺浴槽壁4b(第1の壁面))に背をもたれかけて、他方の短辺浴槽壁(図2では、短辺浴槽壁4a(第2の壁面))に足を向けた姿勢で入浴する。
【0022】
一対の長辺浴槽壁3a、3bのうちの一方には吸入口5が形成されている。吸入口5と、ポンプ7の吸込口との間には循環路6が接続され、ポンプ7が駆動されると、浴槽4の内部に貯留された浴槽水は吸入口5から循環路6へと吸い込まれる。
【0023】
吸入口5は、入浴者の身体の一部等によってふさがれにくい長辺浴槽壁3a、3bに形成するのが望ましい。仮に、吸入口5を短辺浴槽壁4a、4bに形成した場合、入浴者200の背中や足裏で吸入口5がふさがれ、ポンプ7に過剰の負荷がかかることが懸念される。
【0024】
ポンプ7の吐出口と各ノズル11a、11bとの間は吐出管8で接続される。ポンプ7は、吸入口5から循環路6内に浴槽水を吸い込むとともに、その吸い込んだ浴槽水を加圧して吐出管8に吐出する。このポンプ7から吐出された加圧浴槽水は、ノズル11a、11bを介して浴槽4に吐出される。吸い込んだ浴槽水に加える圧力を変えることにより、浴槽4に供給される浴槽水の流量が変わる。ポンプ7の加圧動作は、後に詳述するように制御部Rによって制御される。なお、使用していないときに、ポンプ7内部の残留水を抜くために、ポンプ7は吸入口5よりも上方に設けることが望ましい。
【0025】
次に、具体例1に係る浴槽装置1における噴流の流動態様について説明する。
図3は、浴槽装置1における噴流の流動態様の一例を表す模式図である。図3(a)は模式平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A線断面図である。
【0026】
図3(a)に表したように、ノズル11a、11bから吐出された噴流は、浴槽4内において、ノズル11a、11bが設けられた短辺浴槽壁4aから反対側の短辺浴槽壁4bに向けて、長辺浴槽壁3a、3bに対して略平行に流れる。
【0027】
ここで、ノズル11a、11bから浴槽4内へと吐出される浴槽水の吐出流量は、制御部Rによって所望の値に変更することができる。本実施形態では、制御部Rからの制御信号によってポンプ7の印加電圧を制御し、ポンプ7による浴槽水の加圧力を制御する。これにより、浴槽水の吐出流量の大小を変更する。
【0028】
このように構成される具体例1に係る浴槽装置1において、浴槽4近傍に設けられた図示しないコントローラのスイッチを入浴者200が操作すると、ポンプ7が起動し、浴槽4内に貯留された浴槽水が吸入口5から循環路6内へと吸入される。この吸入された浴槽水は、制御部Rによって制御されるポンプ7で加圧され、ノズル11a、11bを介して浴槽4内に、より詳細には浴槽4内に貯留された浴槽水中に、短辺浴槽壁4bに向けて長辺浴槽壁3a、3bに略平行に吐出される。
【0029】
ノズル11a、11bから噴流が吐出されると、噴流の外縁部において、周囲流体との速度差に起因した渦などの乱れが形成される。この渦などの乱れは、噴流の主流や外部流体との間で運動量交換を行うことで、噴流の主流速度を低下させるとともに、渦の分裂や減衰、あるいは渦同士の相互干渉によって新たな流速を励起する。
【0030】
このため、浴槽4内に形成される流れは、ノズル11a、11bから遠ざかるほど、速度が低く、且つ、細かな渦などに起因した高周波数の流速変動(圧力変化)が優位な流れとなる。これにより、入浴者200が背をもたれかける短辺浴槽壁4b(第1の壁面)近傍においては、高周波数の流速変動を有した渦流れなどが形成される。
【0031】
この微小な高周波の流速変動を有する渦流れなどは、入浴者200のパチニ小体に作用する。パチニ小体とは、人体の皮膚に存在する主要な4種類の機械受容器の1つであり、機械受容器の中で最も鋭敏な感覚器である。すなわち、微小な圧力変化に反応し、手触り感等の知覚に関与していることが知られている。また、パチニ小体は、刺激に対して最も急速に順応することが知られている。すなわち、短い時間で刺激に慣れて、これを感じなくなる。このように、パチニ小体は、圧力刺激の加速度的変化を知覚するといわれている。
【0032】
これにより、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。このため、入浴者200は、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
さらに、この渦流れなどは、入浴者200の身体表面の広範囲において、人体表面に接する浴槽水の交換を促し、入浴による暖まり効果をよりいっそう高めることができる。すなわち、温度境界層の形成を妨げ、湯から人体に伝わる熱量を大きくすることができる。
【0033】
本実施例においては、噴流中に実質的に気泡を混入させない。気泡を混入させた場合には、前述の渦流れなどの形成が妨げられ、さわさわ感を感じにくくなる。ここで、「実質的に気泡を混入させない」とは、気泡を全く混入させないことの他、気泡が僅かに混入するものの、視覚的、体感的等において気泡を全く混入させないのと同等であると認められることを含む。
【0034】
具体例1では、ノズルと作用位置とが離れており、減衰した噴流や、弱い水流(噴流によって励起された浴槽内全体の緩やかな流れ)が身体に作用する。これらの流れが、入浴者200の身体に広範囲に作用する。したがって、よりいっそうのさわさわ感を感じさせるためには、浴槽4における、入浴者が背を凭れ掛ける第1の壁面と対向する反面側にノズル11を設置するのが望ましい。
【0035】
次に、パチニ小体が受容可能な圧力変化について、実施例1を用いて、図4〜図13を参照しつつ説明する。
ここで、流体中の物体の壁面に印加される圧力は、水面からの深さに起因した静圧と、流れから受ける動圧(流れが身体表面でせき止められることにより作用する圧力)との和となる。ここで、流れから受ける動圧の大きさは、流速の2乗に比例する。このため、水中で人体が受ける圧力の変化は、水の流速の変動と一義的に対応する。従って、以下、パチニ小体の受容可能性については、「圧力変化」と対応する「流速変動」を指標として用いることとする。
【0036】
(実施例1)
本発明者は、異なる流量パターンの噴流を吐出させた場合について、浴槽4内に形成される水流の流速の時間変化を測定した。
【0037】
図4は、実施例1で用いた浴槽4を表す模式平面図である。
図4に表したように、測定に用いた浴槽4の長辺方向内寸は1240mmであり、短辺方向内寸は640mmである。浴槽水は、浴槽内槽部底面から380mmの高さまで溜めた。
【0038】
2つのノズル11a、11bは、略同じ高さ、具体的には、浴槽内槽部底面から140mmの高さに設置した。また、ノズル11a、11bは、それぞれの中心の間の距離が160mmになるように、短辺浴槽壁4a、4bの中心を通る中心線Cを挟んで中心線Cから等距離に離間させた。
【0039】
測定は、入浴者200が背をもたれかける短辺浴槽壁4bから250mm離間し、中心線Cから160mm離間した測定位置Aにおいて行った。測定位置A、及び中心線Cを基準とした測定位置Aの線対称位置A’は、概ね入浴者200が座る位置の横、すなわち、概ね入浴者200の脇付近に位置する。
なお、気泡は発生させなかった。
【0040】
図5は、吐出する噴流の流量Qの対時間パターンを表す模式グラフ図である。ここで、流量Qは2つのノズル11a、11bから吐出される流量の和であり、各ノズルあたりの流量は概ね等しい。つまり、各ノズルから噴出される流量はQの半分である。また、ノズル11a、11bの断面積は一定であることから、流速と流量は概ね比例関係にある。
本実施例で用いた図5(a)、(b)、及び(c)に係る流量Qのパターンは、強弱を有する。すなわち、これらは、流量Qの時間変化割合(Qmax−Qmin)/dtを変えた3つのパターンである。
一方、比較例として、図5(d)及び(e)に表した、流量Qを一定にしたパターンを用いた。
【0041】
本実施形態において、流量Qは周期的に変化してもしなくてもよいが、本実施例(図5(a)〜(c))では周期的に変化する構成にした。また、周期は、好ましくは略12秒以上略16秒以下であり、より好ましくは略13秒とするのが良い。これにより、最も落ち着いた感じを得られる。本実施例では、図5(a)〜(c)のいずれも13秒である。
【0042】
流量Qは、積極的に周期的に変化してもしなくてもよい。周期的に変化させないことによって、馴化防止に寄与する(変化に飽きがこない)ことが考えられる。尚、この場合にも、流量Qの周期は略12秒以上略16秒以下で変化させることで、高い落ち着き感が得られると考えられる。
【0043】
また、流量Qの極小値と極大値との間で移行するのに要する時間は、適宜設定することができるが、例えば略1.5秒以上略7.5秒以下であってよい。本実施例において、極小値から極大値へ移行するのに要する時間は、図5(a)で4.5秒、図5(b)で1.5秒、図5(c)で7.0秒である。また、本実施例において、極大値から極小値へ移行するのに要する時間は、図5(a)で4.5秒、図5(b)で7.5秒、図5(c)で2.0秒である。
【0044】
また、流量Qは、一定時間の間連続して略同一の極大値を有してよい。この一定時間は、適宜選択することができるが、例えば略4.0秒であってよい。本実施例では、図5(a)〜(c)のいずれも4.0秒である。
【0045】
また、噴流の流量は、適宜選択することができるが、例えば略35リットル/分と略50リットル/分との間で変動する構成にしてよい。本実施例では、図5(a)〜(c)のいずれも、35リットル/分と50リットル/分との間で変動している。
【0046】
それぞれの変数をこれら数値範囲から選択した場合は、良好なさわさわ感が得られる。
【0047】
以下、解析結果について説明する。
図6は、図5(a)に係るパターンについて、測定位置Aにおいて、サンプリング周波数80Hzで、375秒間(30000点)を計測した測定データを表す模式グラフ図である。横軸は時間(秒)を、縦軸は流速(m/秒)を表す。この測定データに対して、256点のFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)窓を時間方向に移動させて周波数解析を行った。時間方向の移動は、80点(=1秒)ごとに行った。窓関数には、矩形窓を用いた。図5(b)〜(e)に係るパターンついても、同様の周波数解析を行った。
【0048】
図7は、周波数解析の手法を説明するための模式グラフ図である。
図7において、平面の一方向軸は時間(秒)を表し、平面の他の方向軸は流速変動の周波数(Hz)を表す。また、垂直軸は、周波数スペクトルの大きさ、すなわち、周波数解析により得られた各周波数の流速変動が有する強度(Power)を示している。
【0049】
図8は、図5(a)に係るパターンについて、周波数解析の結果を表す模式グラフ図である。ここで、図8において、前述したように、高周波数の速度変動を持つ渦流れなどが身体近傍に作用することによって、さわさわ感が得られることから、5Hz〜20Hzの周波数範囲に着目することとする。
【0050】
図9は、図5(a)に係るパターンについての計測結果を表す模式グラフ図である。
図9(a)は、図5(a)に表した噴流の流量Qの対時間パターンを表す模式グラフ図と同じ図である。
【0051】
図9(b)の実線及び左縦軸は、測定位置Aにおける流速に係る周波数解析のDC成分(直流成分)の大きさ「u」を表すグラフ図である。すなわち、「u」は、測定位置Aにおける平均流速の、サイクル13秒内での時間推移を表している。
【0052】
図9(b)の破線及び右縦軸は、測定位置Aにおける流速変動が保有する強度(Power)と時間との関係を表す模式グラフ図である。破線で示した「P」は、5〜20Hz(高周波数域)のPowerの総和(積分値)を表しており、さわさわ感に寄与していると考えられる高周波数域の流速変動が保有する強度を表している。すなわち、図9(b)は、高周波数域にある流速変動が保有する強度の時間的推移を表している。
【0053】
図10は、図5(a)〜(e)の全ての流量パターンについて、図9(b)に相当する図を表した模式グラフ図である。図10において、「パターン(a)」〜「パターン(e)」のグラフ図は、それぞれ図5(a)〜(e)の流量パターンに対応している。
【0054】
図10(a)〜(e)からわかるように、身体に到達する流れの平均流速「u」は、ノズルから噴出される流量パターンと概ね同期して変化する。さらに、図10(a)〜(c)のように、吐出流量を変化させた場合、身体に到達する平均流速「u」が変化(増加、或いは、減少)している時にPの値は断続的に大小を繰り返すように急激に変化している(図10(a)〜(c)において、楕円で囲まれた部分)。
一方、図10(d)及び(e)のように、吐出流量が一定の場合、Pの値は緩やかに変化する。また、吐出流量に比較的大きな加速度を付与した場合に比べて、大きな値とはならない。
【0055】
これらから、吐出流量を変化させた場合に、測定位置Aにおいて、次々と高周波の流速変動が生じていると考えられる。
【0056】
図11は、測定位置Aにおける断続的に変動するPの時間的な変動の大きさを指標化した手法を説明するための模式図である。例として、図5(a)に係る流量パターンを用いた。
図11(a)に表したように、サイクル13秒において、P(高周波数域のPowerの積分値)の時間微分(差分)をとり、その絶対値の和を算出した。
【0057】
図11(b)は、算出結果を示す表である。図11(b)の表の左欄は、Pの微分値の絶対値の和、すなわちPの時間的な変化量の総和である。
【0058】
また、図11(b)の表の右欄は、図5(d)に係る流量パターン(流量が一定のパターン)の数値を基準(1)とした相対値である。
【0059】
図12は、図11(b)の表に示した数値結果を表す模式図である。
図12から、本実施例(図5(a)〜(c)の流量パターン)の場合、Pの時間的な変化量の総和は比較的高く、比較例(図5(d)及び(e)の流量パターン)の場合、Pの時間的な変化量の総和は比較的低いことがわかる。すなわち、流量に強弱を付与した本実施例の場合、流量が一定である比較例のおおよそ2倍程度の値となることがわかる。このことから、流量に強弱を付与した本実施例の場合、高周波数域における流速変動が保有する強度(の総和)Pの時間的強弱変化が大きいといえる。
【0060】
この高周波数域における流速変動が、入浴者200の皮膚に存在し圧力刺激を知覚する機械受容器の1つであるパチニ小体に作用することで、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。これにより、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
【0061】
上述したように、パチニ小体は微小な圧力刺激を感知すると共に、急激に順応することが知られており、刺激圧力の急激な変化がある場合の方がより知覚されることが知られている。このことから、流量に強弱を付与した本実施例の場合、高周波数域における流速変動の時間的強弱変化が大きいことにより、パチニ小体による知覚が促され、よりさわさわ感を受けることができると考えられる。
【0062】
換言すれば、パチニ小体が受容可能な水流変化とは、水流における高周波数域(例えば、周波数が略5Hz以上略20Hz以下)の流速変動が保有する強度の時間的な変化量(絶対値)の総和が、噴流の流量Qが時間に対して一定(上限流量を揃える)である場合の、同じ測定場所(かかる高周波数域の流速変動が発生する場所と同じ場所)における前記総和、すなわち高周波数域の流速変動が保有する強度の時間的な変化量の総和、の略2倍以上であるような水流変化であるといえる。
【0063】
図13は、噴流の流量Qの増加速度Aa(=(Qmax−Qmin)/dt)と減少速度Ad(=(Qmin−Qmax)/dt)に対する、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の変化を示した模式グラフ図である。
図13より、増加速度または減少速度の絶対値が大きい、すなわち、流量を急激に変化させた場合にPが大きくなることがわかる。本実施例においては、|Aa|、|Ad|<3とすることで、流量一定の場合よりPの大きさが増す。
【0064】
このことから、流量を急激に変化させた場合に高周波数域の流速変動が大きく生じ、さわさわ感を明確に感じることができると考えられる。
【0065】
本発明者は、被験者の協力を得て入浴モニタ試験を行った。このモニタ試験において、図5(a)に係る流量パターンのように流量を変化させた場合、4人中3人が身体に押し寄せる心地よい「さわさわ感」を感じたとの結果が得られた。
【0066】
次に、気泡の有無とさわさわ感との関係について、実施例2を用いて、図14を参照しつつ説明する。
【0067】
(実施例2)
実施例2では、実施例1で用いたのと同じ浴槽4を用いた(図4)。
図14は、図5(a)に係る流量パターンに関して、気泡あり及び気泡なしの場合の、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の比較を表した模式グラフ図である。
【0068】
図14から、気泡ありの場合は、気泡なしの場合と比べて、身体近傍における渦流れなどの形成が妨げられることが考えられ、さわさわ感を作用させる高周波数の変動が生じにくいといえる。
また、気泡を混入しないことで、浴槽水の温度が大きく低下してしまうことはなく、十分な温熱感を得ることができる。また、入浴者周囲の温度が低下し、パチニ小体の感度低下が起こることがなく、さわさわ感を確実に感じることができる。
【0069】
さらに、上記に加えて、気泡を混入しないことで、気泡混入に起因した音の発生がなく、静かな環境で噴流浴を行うことができ、リラックス効果がよりいっそう高まる。
また、テレビや音楽を鑑賞しながらの入浴や、周囲への騒音を心配することなく入浴することが可能となる。
これらから、気泡は、実質的に混入あるいは発生させない方が好ましいと考えられる。ここで、「実質的に混入させない」とは、気泡を全く混入させないことの他、気泡が僅かに混入するものの、視覚的、体感的等において気泡を全く混入させないのと同等であると認められることを含む。「実質的に発生させない」についても同様である。
【0070】
これまで広く知られていた噴流浴装置は、身体に強い噴流を直接的に当てて、身体部位をマッサージすることを目的としていたため、より強い刺激感を得るために気泡が混入されるのが一般的であった。しかしながら、本発明における、微小流速変動を身体の広範囲に作用させ、さわさわとやわらかい流れに身体を包み込まれるような噴流浴槽においては、気泡は混入しない方が、よりさわさわ感を感じさせることができるといえる。
【0071】
次に、噴流の流量Qの対時間パターンの周期と、さわさわ感との関係について、実施例3を用いて説明する。
【0072】
(実施例3)
実施例3では、実施例1で用いたのと同じ浴槽4を用いた(図4)。
被験者(4名)の協力を得て、入浴モニタ試験を行った。試験の結果、最も好適な結果が得られたのは「13秒」であった。この周期が最も自然な周期であり、さわさわ感を感じる周期であるとのことである。以下に、詳細な結果を示す。
【0073】
「8秒周期」では、周期が短く、落ち着かない感じを受けるとのことであった。
「10秒周期」では、周期は短くてやや落ち着かないが、違和感のない、しっくりする感じを受けるとのことであった。
「12秒周期」では、自然な落ち着いた感じを受け、ストレスを感じないとのことであった。さわさわ感が途切れようとする瞬間に水流が身体に来て、これが心地よいとのことであった。但し、もう少し“間”があった方がよいかもしれないとの意見があった。
【0074】
「13秒周期」では、ゆったりとしたくつろぎ感が得られ、リラックスできるとのことであった。最もしっくりする感じであるとのことであった。さわさわ感が途切れた後に、絶妙な“間”でさわさわした水流が身体に来て、これが心地よいとのことであった。
「14秒周期」では、ゆったりとしたくつろぎ感があるが、さわさわ感が途切れた後に半呼吸くらいで水流が身体に来て、やや“間”がありすぎる感じがするとのことであった。
「16秒周期」では、やや間延びする感じがあるとの意見があった。
【0075】
流量Qは、積極的に周期的に変化してもしなくてもよい。周期的に変化させないことによって、馴化防止に寄与する(変化に飽きがこない)ことが考えられる。尚、この場合にも、流量Qの周期は略12秒以上略16秒以下で変化させることで、高い落ち着き感が得られると考えられる。
【0076】
次に、ノズル11の他の配置位置及び他の吐出方向について、図15を参照しつつ説明する。
ノズル11は、図2などで図示した背凭れ可能な壁面に対向する壁面の他、背凭れ可能な壁面と異なる任意の面(浴槽底面や、他の壁面)に設けることができる。この場合、入浴者が背を凭れ掛ける第1の壁面と対向する反面側にノズルを設置するのが望ましい。これにより、浴槽4内に形成される渦流れなどを身体表面により確実に作用させることができ、さわさわ感を感じさせることができる。
また、ノズル11は、様々な方向に噴流が吐出されるように設けてよく、例えば、背凭れ可能な壁面に向けて噴流が吐出されるように設けてよい。
【0077】
図15は、ノズル11の他の配置位置及び他の吐出方向を例示する模式平面図である。
図15に表したように、ノズル11は、長辺浴槽壁3a、3bに設置し、短辺浴槽壁4b(第1の壁面)に向けて噴流を吐出させてもよい。
図15(a)に係る例では、噴流吐出方向の延長線上に入浴者200の身体があるように、短辺浴槽壁4bの中心方向に傾けて吐出している。
【0078】
この場合でも、上述の実施例と同様に、入浴者200が背をもたれかける短辺浴槽壁4b近傍において、高周波数の流速変動を有する渦流れなどが短辺浴槽壁4b近傍に形成される。この微小な高周波の流速変動を有する渦流れなどがパチニ小体に作用することで、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。これにより、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
【0079】
また、この場合、噴流吐出方向の延長線上に身体があるため、渦流れなどは主として身体正面に作用し、足側から腹部、胸部と順々にさわさわ感が伝わってくるのを感じることができ、徐々につつみこまれていく感じを受ける。
【0080】
図15(b)に係る例では、噴流吐出方向の延長線上に入浴者200の身体がこないように吐出している。
この場合、渦流れなどは入浴者200の身体外側をすり抜けて、短辺浴槽壁4aと入浴者200の背とによって形成される空間へと回り込み、主として入浴者200の背面に作用する。
【0081】
これにより、入浴者200は、背面にさわさわとした刺激を受け、湯に漂っているような浮遊感を感じることができる。これにより、長時間リラックスして入浴することができる。
【0082】
なお、ノズル11の吐出方向は、可変式にしてもよい。この場合、浴槽4近傍に設けられた図示しないコントローラのスイッチを入浴者200が操作すると、ノズル11の方向が変わる構成にすることができる。
また、図示しないが、ノズル11の数は2つに限られず、1つや、3つ以上設けてもよい。
【0083】
次に、浴槽4の他の形状について、図16を参照しつつ説明する。
浴槽4の形状は、図2などで図示した略矩形状の他、他の任意の形状であってもよい。
これら任意の形状の浴槽4について、浴槽4の内面は背凭れ可能な壁面(第1の壁面)を有することができる。この場合、パチニ小体受容可能な圧力変化(流速変動)が、この背凭れ可能な面の近傍(入浴者200近傍)で発生する構成にすることができる。あるいは、前述した水流変化(水流の高周波数域の強度の時間微分の絶対値の総和が、噴流の流量Qが時間に対して一定である場合の前記総和の略2倍以上となる水流変化)が、この背凭れ可能な面の近傍(入浴者200近傍)で発生する構成にすることができる。すなわち、かかる条件を満たすように、制御部Rが噴流の流量を制御する構成にすることができる。
【0084】
図16は、浴槽4の他の形状を例示する模式平面図である。
図16(a)に係る例では、浴槽4は6角形状を有する。また、図16(b)に係る例では、浴槽4は円形である。浴槽4の形状は、これらの他、他の多角形状であってもよく、また他の任意の形状であってもよい。
【0085】
これらの場合、ノズル11a、11bの位置及び噴出流の噴出方向は、浴槽内壁の形状や、想定される入浴者200の存在位置、姿勢等により適宜設定することができる。位置については、例えば、図15に表したように、背凭れ可能な面に対向する面に2つのノズル11a、11bを比較的近接させて設置することができる。あるいは、離隔して設置してもよい。また、噴出方向については、中心線C方向や周側壁3cに沿った方向でもよく、あるいはこれらの間の方向やさらに別の方向でもよい。
なお、これまでの図においては、主として家庭用などに用いられる浴槽を例示してきたが、本実施形態は、大浴場などに用いられる大型の浴槽にも適用することができる。
【0086】
次に、方向を変えることのできるノズル11の構造について、図17及び図18を参照しつつ説明する。
図17は、方向を変えることのできるノズル11の一具体例を表す模式斜視図である。
【0087】
図17における第1のノズル51aは、図2における第1のノズル11aに対応する。同様に、図17における第2のノズル51bは、図2における第2のノズル11bに対応する。
【0088】
また、第1のノズル51aの水平断面図を図18に示す。以下、第1のノズル51aについて説明していくが、第2のノズル51bについても第1のノズル51aと同様に構成される。
【0089】
ノズル51aは、保持部材51を介して短辺浴槽壁4aに保持されている。保持部材51は、リング状の取付部材53を介して短辺浴槽壁4aに形成された開口に嵌め込まれている。
【0090】
保持部材51において、短辺浴槽壁4aの外側に突出する部分には流水導入部52が設けられている。流水導入部52は保持部材51の内部に通じ、その保持部材51の内部には外形略球状の可動体54が設けられている。可動体54には、保持部材51の内部空間に通じる噴出孔56が形成され、この噴出孔56は保持部材51の内部空間を介して流水導入部52と通じている。
【0091】
保持部材51における、浴槽内側の前端部にはガイド部材55が設けられている。ガイド部材55には、図17に示すように、水平方向に延びるガイド孔55aが形成されている。
【0092】
噴出孔56は円筒状の突出部57の内部に形成されており、その突出部57の先端側部分は、ガイド孔55aから浴槽内に突出し、その先端開口は噴出孔56に連通し浴槽水中に噴流を噴出させる噴出口56aとして機能する。
【0093】
可動体54は、保持部材51に対して回動自在に保持されているが、突出部57がガイド孔55aを貫いて浴槽内に突出していることから、ガイド孔55aの延在方向である水平方向以外の動きが規制されている。すなわち、突出部57は、他の方向への動きを規制されつつ水平方向のみに揺動可能となっている。突出部57の内部には噴流孔56が形成されているため、突出部57が水平方向に揺動することで、水平面内での噴流噴出角度を変えることができる。
【0094】
例えば、図18(a)は、噴出孔56の軸方向が、長辺方向(長辺浴槽壁3a、3bの延在方向に対して平行な方向)から、第1のノズル51aに対して近い側の第1の長辺浴槽壁3a側に10°傾いた場合(噴出方向が10°)を示す。
【0095】
図18(a)の状態から、突出部57がさらに第1の長辺浴槽壁3a側に揺動した状態を図18(b)に示す。この状態は、噴出孔56の軸方向が短辺浴槽壁4aの水平方向に対して平行とされ、噴出方向が短辺浴槽壁4aに平行な方向に設定された場合を示す。
【0096】
図17及び図18に示すノズル51a、51bは、噴出方向を変えることができる構成のため、さわさわ感が作用する位置を使用者の好みに応じて適時変更可能となる。また、噴出方向を切り換えるための可動部の移動が水平方向に規制されているため、使用者が突出部57をつまんで手動で噴出角度を切り換えるにあたって、高さ方向の角度変動が生じない。したがって、誤って噴流が水面から飛び出すことが防止でき、入浴者がさわさわとした心地よさを受けて入浴する際に、顔等に水がかかり不快に感じるようなことがなくなる。
【0097】
以上説明したように、本実施形態によれば、制御部Rが噴流発生装置J(ポンプ7など)を介して噴流の流量を制御することにより、パチニ小体が受容可能な圧力変化(流速変動)が浴槽4で発生する。これにより、入浴者200は、水流が身体表面をさわさわと優しく撫でるように感じ、柔らかい流れにつつまれているような感覚が得られる。このため、入浴者200は、強い噴流を局所的に受けるよりも、長時間リラックスして入浴することができる。
【0098】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施形態に係る浴槽装置の概略構成を表すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る浴槽装置の一例(具体例1)の概略構成を表す模式斜視図である。
【図3】浴槽装置1における噴流の流動態様の一例を表す模式図である。
【図4】実施例1で用いた浴槽4を表す模式平面図である。
【図5】噴流の流量Qの対時間パターンを表す模式グラフ図である。
【図6】図5(a)に係るパターンについて、測定位置Aにおいて、サンプリング周波数80Hzで、375秒間(30000点)を計測した測定データを表す模式グラフ図である。
【図7】周波数解析の手法を説明するための模式グラフ図である。
【図8】図5(a)に係るパターンについて、周波数解析の結果を表す模式グラフ図である。
【図9】図5(a)に係るパターンについての計測結果を表す模式グラフ図である。
【図10】図5(a)〜(e)の全ての流量パターンについて、図9(b)に相当する図を表した模式グラフ図である。
【図11】測定位置Aにおける断続的に変動するPの時間的な変動の大きさを指標化した手法を説明するための模式図である。
【図12】図11(b)の表に示した数値結果を表す模式図である。
【図13】噴流の流量Qの増加速度Aa(=(Qmax−Qmin)/dt)と減少速度Ad(=(Qmin−Qmax)/dt)に対する、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の変化を示した模式グラフ図である。
【図14】図5(a)に係る流量パターンに関して、気泡あり及び気泡なしの場合の、流量上昇時及び下降時それぞれにおけるPの時間当たりの平均量の比較を表した模式グラフ図である。
【図15】ノズル11の他の配置位置及び他の吐出方向を例示する模式平面図である。
【図16】浴槽4の他の形状を例示する模式平面図である。
【図17】方向を変えることのできるノズル11の一具体例を表す模式斜視図である。
【図18】第1のノズル51aの水平断面図である。
【符号の説明】
【0100】
1 浴槽装置、3a 長辺浴槽壁、3b 長辺浴槽壁、3c 周側壁、4 浴槽、4a 短辺浴槽壁、4b 短辺浴槽壁、5 吸入口、6 循環路、7 ポンプ、8 吐出管、11a ノズル、11b ノズル、51 保持部材、51a 第1のノズル、51b 第2のノズル、52 流水導入部、53 取付部材、54 可動体、55 ガイド部材、55a ガイド孔、56 噴出孔、56a 噴出口、57 突出部、200 入浴者、C 中心線、J 噴流発生装置、R 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、
前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、
前記噴流発生装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置。
【請求項2】
前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、
前記制御部は、前記パチニ小体が受容可能な圧力変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする請求項1記載の浴槽装置。
【請求項3】
内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、
前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、
前記噴流発生装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水において、水流の高周波数域の強度の時間微分の絶対値の総和が、前記噴流の流量が時間に対して一定である場合の前記総和の略2倍以上となる水流変化を生じさせるように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置。
【請求項4】
前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、
前記制御部は、前記水流変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする請求項3記載の浴槽装置。
【請求項5】
前記ノズルは、前記第1の壁面とは異なる面に設けられたことを特徴とする請求項2または4に記載の記載の浴槽装置。
【請求項6】
前記浴槽の内面は、前記第1の壁面とは異なる第2の壁面をさらに有し、
前記ノズルは、前記第2の壁面に設けられたことを特徴とする請求項5記載の浴槽装置。
【請求項7】
前記第2の壁面は、前記第1の壁面に対向する壁面であることを特徴とする請求項6記載の浴槽装置。
【請求項8】
前記ノズルは、前記第1の壁面に向けて前記噴流が吐出されるように設けられることを特徴とする請求項2、4〜7のいずれか1つに記載の浴槽装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記噴流の流量を非周期的に変化させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の浴槽装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記噴流の流量を周期的に変化させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の浴槽装置。
【請求項1】
内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、
前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、
前記噴流発生装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水においてパチニ小体が受容可能な水流の圧力変化が発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置。
【請求項2】
前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、
前記制御部は、前記パチニ小体が受容可能な圧力変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする請求項1記載の浴槽装置。
【請求項3】
内面に、吸入口と、ノズルと、を有する浴槽と、
前記浴槽から前記吸入口を介して水を吸入し、前記浴槽に前記ノズルを介して気泡を混入しない噴流を吐出する噴流発生装置と、
前記噴流発生装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記浴槽に貯留された浴槽水において、水流の高周波数域の強度の時間微分の絶対値の総和が、前記噴流の流量が時間に対して一定である場合の前記総和の略2倍以上となる水流変化を生じさせるように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする浴槽装置。
【請求項4】
前記浴槽の内面は、背凭れ可能な第1の壁面を有し、
前記制御部は、前記水流変化が前記第1の壁面の近傍で発生するように、前記噴流の流量を制御することを特徴とする請求項3記載の浴槽装置。
【請求項5】
前記ノズルは、前記第1の壁面とは異なる面に設けられたことを特徴とする請求項2または4に記載の記載の浴槽装置。
【請求項6】
前記浴槽の内面は、前記第1の壁面とは異なる第2の壁面をさらに有し、
前記ノズルは、前記第2の壁面に設けられたことを特徴とする請求項5記載の浴槽装置。
【請求項7】
前記第2の壁面は、前記第1の壁面に対向する壁面であることを特徴とする請求項6記載の浴槽装置。
【請求項8】
前記ノズルは、前記第1の壁面に向けて前記噴流が吐出されるように設けられることを特徴とする請求項2、4〜7のいずれか1つに記載の浴槽装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記噴流の流量を非周期的に変化させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の浴槽装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記噴流の流量を周期的に変化させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の浴槽装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図8】
【公開番号】特開2009−285078(P2009−285078A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139881(P2008−139881)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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