説明

海上構造物の拡張工法

【課題】
本発明は、簡単で安全な防波堤等の海上構造物の拡張工法を提供する。
【解決手段】
既存の海上構造物の上面に複数の固定部を設置し、固定部に対して着脱自在な複数の支持部材と型枠固定部を設け、複数の支持部材を海上構造物の上面の固定部に固定するとともに、型枠固定部の間に型枠を挿入した後、水中コンクリートを打設する。支持部材は、単位当りの作業が終わると固定部から取り外し、次の単位当り作業を行うヶ所の固定部に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防波堤等の海上構造物の拡張及び増築工事(以下、拡張工事と言う)における工法(以下、拡張工法と言う)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境変化の影響によって、過去に設計、施工した防波堤等の海上構造物について、その拡張工事の必要性が高まりつつある。
【0003】
特に地球温暖化の影響による異常気象、海面上昇、台風の大型化などによって、既に施工済みの防波堤を乗り越えるような巨大な波が押し寄せることにより、従来安全とされた湾内が危険にさらされる事態が想定される。
【0004】
また近年、世界各国で起きた巨大地震による大津波の危険性に対する備えも必要とされている。
【0005】
従来の予想を超える巨大な高波や津波に備えるには、基本的に防波堤の高さを高くする必要がある。新規に防波堤を構築する場合には、従来の設計基準を見直して大型の防波堤を構築すればよいが、既存の防波堤を拡張する場合には、単に防波堤を高くするだけでは、重心バランスを崩してしまい、高波や津波によって防波堤そのものが転倒してしまう恐れがある。こうした転倒防止対策として、防波堤の高さを高くする前に、防波堤の幅を拡張する必要がある。
【0006】
通常、拡張するのは防波堤の湾内側であり、これまでの工法は、図5に写真で示すように、陸上おいて予めコ字型又はL字型の型枠を作成し、これを拡張する防波堤(ケーソン)の前面に固定し、海底面から徐々に水中コンクリートを打設して拡張していた。
【0007】
こうした従来の工法では、型枠そのものが大型であることから、水中において波の影響を受けて破損しないよう強固な構造にする必要があった。更には、例え型枠そのものを強固にしたとしても、型枠が波で揺動して正確な水中コンクリート打設ができなくなる恐れがある。そのため、図6に写真で示すように、型枠と既存のケーソンとの間を多数の金属棒等でしっかりと固定する必要があった。
【0008】
また従来の工法では、波の影響を大きく受ける水中での型枠の設置及び固定作業を潜水夫が行うため、人命に関わる多くの危険を伴うものであった。なお、防波堤等の海上構造物の拡張工法に関連するものとして以下の特許文献が存在するが、本願発明に係る工法を何ら開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−168824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来の防波堤等の海上構造物の拡張工法を改良し、工事が簡単で短時間に、かつ安全に行える新たな工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、海上構造物の拡張工法であって、
既存の海上構造物の上面に、前記海上構造物の長手方向に対して直角方向に所定間隔で支持部材を固定するための複数の固定部を設置し、
前記固定部に対して着脱自在な複数の前記支持部材と、
水中コンクリートを打設成形するための複数の型枠とを有し、
前記支持部材の長手方向一側方には、前記固定部に対応する被固定部を形成し、
前記支持部材の前記被固定部側に対して長手方向反対側の他側方に型枠固定部を設け、
複数の前記支持部材を前記海上構造物の上面の前記固定部に固定するとともに、
平行する2つの前記型枠固定部の間に前記型枠を挿入した後、
前記型枠で囲まれた部分に水中コンクリートを打設する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防波堤等の海上構造物の拡張工事を、簡単な構成で、容易かつ短時間に、しかも安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】防波堤上面に形成される固定部を示す図である。
【図2】固定部に支持部材を固定した状態を示す図である。
【図3】型枠に囲まれた部分に水中コンクリートを打設した状態を示す図である。
【図4】防波堤の拡張工事が完了し、従来の防波堤を高くした完成図である。
【図5】従来の防波堤の拡張工法を行うための型枠を示す図である。
【図6】従来の防波堤の拡張工法を行うための型枠を既存の防波堤に固定する状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る海上構造物の拡張工法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明の海上構造物の拡張工事を行う前に、海底の基礎部分(捨石基礎)の拡張工事を行うが、この基礎工事は通常の工事によって行われるので省略する。
【0015】
まず、図1、図2に示すように、拡張工事を必要とする防波堤1の上面に、支持部材3を固定するための固定部2を設置する。具体的には、コンクリート構造物である防波堤の上面に、所定の太さと長さのボルトを固定する。ボルトは、支持部材を一定間隔で平行に固定するために、2〜4m程度の一定間隔で平行に固定される。
【0016】
次に、図2に示すように、固定部2のボルトに対し、支持部材3の一側に形成された被固定部としての穴4を通し、ナット5を用いて支持部材3を防波堤1に固定する。支持部材3は、全体の工事区間において、単位当りの工事で拡張する防波堤1の幅と長さに合わせて4〜5本を平行に固定する。支持部材3は、単位当りの工事が終わった段階で、次の単位当り工事を行う場所に移動させ、上記と同じく固定する。なお支持部材3の設置方向は、防波堤1を拡張する側、すなわち陸側(湾内側)に向けて設置する。
【0017】
なお本実施例において固定部2はボルト、被固定部は固定部であるボルトに対応する穴4としたが、固定手段としてはクランプ式等その他の手段であってもよい。また本実施例の支持部材3はH型鋼で構成しているが、その他の構造体あっても良い。
【0018】
支持部材3の被固定部と反対側の他側方には、型枠を固定するための型枠固定部6が形成されている。型枠固定部6は、防波堤1の上面に水平方向に設置された支持部材3に対して鉛直方向、すなわち海底面に向かって延設されている。
【0019】
本実施例において型枠固定部6はH型鋼で構成される。支持部材3は、固定部2の間隔に合わせて2〜4m間隔で平行に設置されおり、型枠固定部6であるH型鋼の間隔も2〜4mである。図3に示すように、2つの対向するH型鋼のコ形溝内の間に、この間隔に合わせた幅の型枠7をクレーン等を用いて吊るし入れ、H型鋼に形成された穴からボルト8で型枠7を固定するようにしてある。その作業は、潜水夫が水中で行うが、単なるボルト締め付け作業であるため大きな危険を伴うものではない。なお、型枠7がH型鋼の溝幅内にきっちり収まるサイズである場合は、特にこのボルトによる固定は必要ない。型枠固定部6の構造は、本実施例のようなH型鋼に限らず、型枠を固定するその他の構造体であってもよい。
【0020】
型枠7の高さは、打設する水中コンクリートの量、即ち単位作業当りに構築するケーソンの高さに合わせる。上記のとおり型枠7は型枠固定部6内でしっかりと固定されるため、図6に示した従来技術のように、型枠と既存の防波堤との間をしっかりと固定するための多数のボルト等の固定手段と、そのための大掛かりな水中工事を必要としない。
【0021】
また型枠固定部6は支持部材3に対して、着脱かつ上下に移動・固定できるような構造としても良い。本実施例では、支持部材3にボルトを、型枠固定部6に穴を形成してナットによって固定するが、クランプ式等その他の固定手段であっても良い。
【0022】
次に、図3に示すように、必要に応じて側方に型枠9を設置し、型枠7、9に囲まれた部分に水中コンクリート10を打設し、既存の防波堤1の側方に新たな防波堤の一部を構成するケーソンを構築する。この側方型枠9は、既に側方にケーソンが打設されている場合は必要ない。本実施例における側方型枠9を固定する方法は、型枠固定部6の側方に別のH型鋼を取り付け、既存のケーソン側にもH型鋼を取り付けて、この2つのH型鋼の間に側方型枠9を挿入固定しているが、その他の方法で行ってもよい。また、波の影響によって型枠と水中コンクリートとの間隔がずれることを防止するため、釣針状(カギ状)の金属棒(アンカー)を水中コンクリート内に埋め込み、型枠の外側から固定するようにしてもよい。
【0023】
拡張する防波堤の長さと高さに応じて、単位作業当りのケーソンを上記の作業を繰り返すことで徐々に積み上げていき、最終的に必要とされる防波堤の拡張工事を完成させる。
【0024】
上記の基礎となるケーソン部分が拡張された後、図4の破線で示すように防波堤1を高く増築することで、高波や津波対策を講じることができる。
【0025】
以上のとおり本発明によれば、既存の防波堤に強固に固定された複数の支持部材間に、単位作業当りに必要な型枠だけを挿入固定するだけで水中コンクリートの打設を行うことができるため、従来工法のように予め陸上にて大型の型枠を作っておく必要がなく、型枠設置作業が容易でかつ短時間に行えるとともに、型枠を水中作業等によって既存の防波堤に固定する等の危険な作業も少なくすることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 防波堤
2 固定部
3 支持部材
4 穴
5 ナット
6 型枠固定部
7 型枠
8 ボルト
9 型枠
10 水中コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上構造物の拡張工法であって、
既存の海上構造物の上面に、前記海上構造物の長手方向に対して直角方向に所定間隔で支持部材を固定するための複数の固定部を設置し、
前記固定部に対して着脱自在な複数の前記支持部材と、
水中コンクリートを打設成形するための複数の型枠とを有し、
前記支持部材の長手方向一側方には前記固定部に対応する被固定部を形成し、
前記支持部材の前記被固定部側に対して長手方向反対側の他側方には型枠固定部を設け、
複数の前記支持部材を前記海上構造物の上面の前記固定部に固定するとともに、
平行する2つの前記型枠固定部の間に前記型枠を挿入した後、
前記型枠で囲まれた部分に水中コンクリートを打設する、
ことを特徴とする海上構造物の拡張工法。
【請求項2】
前記支持部材は、単位当りの作業が終わると固定部から取り外し、次の単位当り作業を行うヶ所の固定部に移動させることを特徴とする、請求項1に記載の海上構造物の拡張工法。
【請求項3】
前記支持部材及び型枠固定部は、H型鋼であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の海上構造物の拡張工法。
【請求項4】
前記固定部はボルトであり、前記支持部材の被固定部としての穴に挿入して、前記支持部材をナットで固定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の海上構造物の拡張工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57298(P2012−57298A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198608(P2010−198608)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【特許番号】特許第4776043号(P4776043)
【特許公報発行日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(310018951)株式会社西田工業 (1)
【Fターム(参考)】