説明

海上浮揚式消波装置及びこれを用いた海波減衰システム

【課題】地震の震動などの悪影響を受けることなく、海波に対して安定して効果的な消波を行う海上浮揚式消波装置、及び津波被害の軽減が可能な海波減衰システムを実現する。
【解決手段】海面に浮遊させる浮体の端部に傾斜して固定される主消波板20を設ける。さらに主消波板の上方側へ向けて間隔が連続して狭くなるテーパ状空間40が形成されるように、主消波板上部の消波面側に補助消波板30を並設する。テーパ状空間内に流入した海水がノズル効果により次第に流速を増し、主消波板の上端から天上へ向けて噴出する。そして、その噴出する海水が補助消波板の上端を越える越波に衝突して海波の波エネルギーを減衰させる。また、海底に固定された固定杭に浮体を係留索で係留するようにして、地震の震動によって消波装置本体が損壊するなど地震の悪影響を受けにくくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上浮揚式で設置されて、津波や高波等による波エネルギーを減衰させる海上浮揚式消波装置、及びこれを用いた海波減衰システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陸上に設置される堤防(防潮堤・防波堤)は、海岸沿いまたは河川沿いの陸上に土盛りやコンクリートで壁を造ることによって、陸地への津波や高潮、洪水の侵入を防ぐように構成されている。
しかし、陸上に設置される堤防では、土盛りやコンクリート施工等の土木工法によるため、堤防の建設に膨大な土砂やコンクリートなどの資材を要し、また建設に関わる多くの人員や機材が必要である。さらに、堤防のほとんどが土砂を山型や台形に積み上げる工法であるため、高い堤防を造るためには基礎部分に広大な土地が必要であり、都市部などで土地の確保が困難な場所や地形などの条件により設置も制限される。このように現在一般的に採られている堤防施工技術よって十分な堤防機能を確保するには、膨大なコストと時間、立地条件などの問題がある。
【0003】
そこで、津波や高波等による被害を低減させるために、比較的浅瀬の海底に直接固定して設置される消波装置が種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2など)。
特許文献1に記載される消波装置は、沿岸部の浅瀬の海底に捨石マウンドを構築してフラットにした後、その海底にコンクリートから成る堤体を定着させるとともに十分な消波効果が得られるだけ海面より露出させたものである。特許文献2に記載される消波装置は、断面C字形状の消波体を波の進行方向に傾斜させて沿岸部の比較的浅瀬の海底に固定杭で直接固定し、海面付近に設置されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−212611号公報
【特許文献2】特開2011−111734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の消波装置は浅瀬の海底に直接固定されており、また堤防は地上に設置されているため、地震の震動による影響を大きく受け易いという構造的な問題を抱えている。すなわち、堤体をコンクリートで固めたり、消波体を固定杭で海底に直接固定したりする構造であるため、地震の震動による局部的なネジレや加重、張力等の衝撃に弱く、外部から一定以上の力を受けた場合に、堤体や消波体が損壊する危険性がある。
【0006】
また、従来の消波装置は沿岸部の浅瀬に設置されており、また堤防は海岸沿いの陸地に設置されているため、津波などの海波の影響を大きく受け易いという問題がある。この点について、津波の特性と津波被害の現状から説明する。
沖合いの海底で発生した地震は周辺の海水を大きく振動させ、その海水の振幅運動によって大量の海水の移動が起き、海面では大きな波のうねりが生じて津波となり、陸地や沖合いへと進んでいく。何の障害物も無い海面を津波が進行する状況下では、津波の威力(波エネルギー)は波の高さを含めそれほど強力ではない。なお、東日本大震災(平成23年3月11日発生)の津波でも、海上進行時の津波の高さは最高6.8mほどと記録されている。
【0007】
しかし、この津波が陸地に近づくにつれて水深が浅くなることで、海中を進行してきた大量の海水が海上にせり出し、波高が増してくる。加えて、海岸沿いで人々が生活や経済活動を営む地域は、湾や入り江の周辺の陸地であり、外洋からの入り口が広く先に進むほど狭くなる逆三角形の地形が多い。このような地形に進入した津波は、進行する幅が次第に狭くなるため、行き場を失った海水の塊が海上にせり上がり(東日本大震災では20メートルを超えるほど高まった)、同時に津波のエネルギーが狭い場所に集まってくるために津波の威力が強大となる。
【0008】
沿岸部の浅瀬に設置する消波装置や海岸沿いに設置する堤防では、波の高さと勢力が最も大きくなった状態で津波に対処することになるため、防潮・防波施設としての消波機能や堤防機能を十分発揮することが困難であった。その結果、陸地への津波の侵入を遅らせて、被害を軽減させることは容易ではなかった。つまり、上記のように勢力の増した津波に対抗できる高さと強度を確保した大規模な堤防や消波装置を築くには、技術的、コスト、配備までの期間など多くの課題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、地震の震動などの悪影響を受けることなく、海波に対して安定して効果的な消波を行うことができる海上浮揚式消波装置を提供することにある。また、津波などの海波にも十分な消波作用を発揮できるようにして、津波などによる人的且つ物的被害の軽減が可能な海波減衰システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の海上浮揚式消波装置(100)は、海面に浮遊させる浮体(10)と、一面に海波を消波する消波面(23)を有し、上部が前記浮体の上方に突出すると共に下部が前記浮体の下方に垂下し、全体として前記浮体の中央部側に傾斜して前記浮体の端部に固定された主消波板(20)と、前記主消波板の上方側へ向けて該主消波板との間隔が連続して狭くなるテーパ状空間が形成されるように、前記主消波板上部の消波面側に並設された補助消波板(30)とを備え、前記テーパ状空間は、前記主消波板上部の上端と前記補助消波板の上端の間に形成される上部開口(41)と、前記主消波板上部の下端と前記補助消波板の下端の間に形成される下部開口(42)を連通する海水流路とし、海底に固定された固定杭(60)に前記浮体を係留索(61)で繋いで係留し、前記消波面が海波の進行に対向するように配置することを特徴とする
【0011】
この発明の海上浮揚式消波装置によれば、主消波板と補助消波板自体の傾斜面の砕波によって消波が行われるだけでなく、テーパ状空間から成る海水流路によっても消波する。すなわち、下部開口からテーパ状空間の海水流路内に流入した海水は、ノズル効果により次第に流速を増して上部開口側へ流れ、上部開口から天上へ向けて噴出する。そして、海水流路の上部開口から噴出する海水が補助消波板の上端を越える越波に衝突して海波の波エネルギーを大きく減衰させる。噴出する海水の噴出力は、押し寄せてきた海波の波エネルギーに応じて増幅する。このように、押し寄せてきた海波の持つエネルギーを利用して、海波同士を衝突させて、波エネルギーを大幅に減衰させることができる。さらに、海面に浮遊する浮体を海底に固定された固定杭に係留索で係留する方式を採るので、地震の震動によって消波装置本体が損壊するなど地震の悪影響を受けにくい。
【0012】
また、本発明の海上浮揚式消波装置(100)では、前記主消波板の傾斜角度は、前記海水流路の上部開口から噴出する海水が前記補助消波板の上端を越える越波に衝突して波エネルギーを減衰させる消波の能力が最大となるような角度に設定したことを特徴とする。
この発明の海上浮揚式消波装置によれば、消波の能力が最大となるので、効果的に海波の消波がなされる。
【0013】
また、本発明の海上浮揚式消波装置(200)は、一面に海波を消波する消波面(23)とその上部に前記消波面と略垂直かつ水平方向に設けられた波返し部材(202)を有し、上部が海面に浮遊させる浮体(10)の上方に突出すると共に下部が該浮体の下方に垂下し、全体として該浮体の中央部側に傾斜して該浮体の端部に固定される消波板(201)を備え、海底に固定された固定杭(60)に前記浮体を係留索(61)で繋いで係留し、前記消波面が海波の進行に対向するように配置することを特徴とする。
この発明の海上浮揚式消波装置によれば、消波板の上部により浅海波の上部を消波し、消波板の下部により浅海波の下部を消波する。さらに、海面に浮遊する浮体を海底に固定された固定杭に係留索で係留する方式を採るので、地震の震動によって消波装置本体が損壊するなど地震の悪影響を受けにくい。
【0014】
さらに、本発明の海上浮揚式消波装置(100,200)では、前記係留索を巻き取る巻き取り機(11)が前記浮体に具備され、前記係留索は海波の進行方向に対して前記浮体の前端部と後端部それぞれに複数本配され、且つ前記係留索の本数に応じた数の前記固定杭と前記巻き取り機とが設けられ、前記各係留索の一端をそれぞれ各巻き取り機に連結し、その他端をそれぞれ前記各固定杭に固定する構成とし、さらに前記各巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御する制御手段(12)を設け、前記制御手段は、前記各巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御することにより、前記浮体の水平方向と垂直方向の位置とを制御することを特徴とする。
【0015】
この発明の海上浮揚式消波装置によれば、制御手段により浮体の水平方向と垂直方向の位置を制御するので、巻き取り機により係留索の巻き取り状態を調節することにより、浮体の前後、左右、上下の移動を規制して浮体を海上の定位置に浮遊させることができる。
【0016】
また、本発明の海上浮揚式消波装置では、前記制御手段は、前記巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御することにより、前記浮体の水平姿勢保持制御を行うことを特徴とする。
この発明の海上浮揚式消波装置によれば、制御手段により常時、消波装置本体の水平姿勢保持制御を行うことができるので、消波装置本体は、常に安定した姿勢で効果的に消波を行える。
【0017】
また、本発明の海波減衰システムは、上記の海上浮揚式消波装置(100)を海波の進行方向に対して対向するように複数台横並び配列して成り、外洋に面した海域に浮揚式で設置されて海波の消波を行う第1の消波装置列(110)と、海波の進行方向に対して前記第1の消波装置列よりも後方に上記いずれかの海上浮揚式消波装置(200)を複数台横並び配列して成り、前記第1の消波装置列により消波されなかった海波の消波を行う第2の消波装置列(210)とを備えたことを特徴とする。
この発明の海波減衰システムによれば、第1の消波装置列を外洋に面した海域に浮揚式で設置し、さらにその後方に第2の消波装置列を設置するので、津波などの海波が陸地に近づき高さや威力を増す前に波エネルギーを減衰させることができ、陸地への被害を大きく軽減できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の海上浮揚式消波装置によれば、地震の震動などの悪影響を受けることなく、海波に対して安定して効果的な消波を行うことが可能になる。
【0019】
また、本発明の海波減衰システムは、海波が高さや威力を増す前に波エネルギーを減衰させることができるので、津波などの海波にも十分な消波作用を発揮することが可能になる。これにより、津波などの海波よる人的且つ物的被害の軽減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の海上浮揚式消波装置の外観斜視図である。
【図2】本発明に係る第1及び第2の実施形態の海上浮揚式消波装置を用いる海波減衰システムの構成を示す断面図である。
【図3】図2の海波減衰システムの配置例を示す鳥瞰図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る海上浮揚式消波装置(本明細書及び特許請求の範囲において、単に「消波装置」ということがある。)の外観斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る海波減衰システムの構成を示す断面図である。
本実施形態の海上浮揚式消波装置は、図1に示すように、海面1に浮遊させる浮体10と、浮体10の端部に固定された主消波板20と、主消波板20を構成し、海上に浮かべたとき空側(上方)に位置する主消波板上部21の消波面23側に並設された補助消波板30とを備えている。浮体10は、例えば長方体でフロート式の大型台船で構成され、そのサイズは、設置海域において想定される津波等の海波の規模を参照して設定される。
【0022】
浮体10のフロート構造は多様な手法が可能である。例えば、船舶のような船形、メガフロートと呼ばれる巨大な長方体など多様な構造が可能であり、また材質も鋼鉄製やFRP(繊維入り強化プラスチック)などが可能である。また、本実施形態の消波装置は、津波などの海波だけでなく、嵐や高潮などの気象の変異にも耐え、また船舶の衝突などにも沈降する恐れがないように構成される。例えば、浮体10が船舶式やメガフロート方式の重量物の場合には、中空をいくつも仕切って破損などで海水が浸入しても機能の大幅な低下が生じることがなく損害が軽微で済む構造になっている。また、海水より軽く衝撃に強いポリプロピレンなどの化学素材をフロート全体に使用し艇内に空洞が無い一つの塊とすることにより、津波や嵐などへ安定した性能を発揮しながら優れたメインテナンス性を常時保つことも可能である。
【0023】
主消波板20は、例えば軽量で衝撃に強いFRPや炭素繊維製で構成され、上部21が浮体10の上方に突出すると共に下部22が浮体10の下方に向けて海中に垂下し、全体として浮体10の中央部側に傾斜して浮体10の端部に支持部材24で固定されている。(本明細書及び特許請求の範囲において、主消波板20が固定された浮体10の端部を「前端部」といい、その反対側の端部を「後端部」ということがある。)補助消波板30は、例えばFRPや炭素繊維製で構成され、主消波板20の上方側へ向けて主消波板20との間隔が連続して狭くなるテーパ状空間40(図2参照)が形成されるように、主消波板上部21の消波面23側に並設されている。補助消波板30の下端の位置は、通常、例えば海面1から1メートル程上方となる。
【0024】
テーパ状空間40は、主消波板上部21の上端と補助消波板30の上端との間に形成される上部開口41と、主消波板上部21の下端と補助消波板30の下端との間に形成される下部開口42とを連通する海水流路となっている。この海水流路は、側壁板31、32と仕切り板33とにより複数の流路室として形成されている。
また、浮体10の胴体下部には、津波や潮流により消波装置本体が後退するのを防止するために後退防止用のフィン(羽)50が複数枚取り付けられている。
【0025】
そして、本実施形態の消波装置本体は、海底に固定された固定杭60に浮体10を、鎖や炭素繊維などのロープから成る係留索61で繋いで係留し、主消波板20の消波面23が海波の進行方向に対して対向するように配置されている。係留索61は、海波の進行方向に対して浮体10の前端部と後端部それぞれに複数本配され、係留索61の本数に応じた数の固定杭60が海底に打ち込まれている。
【0026】
さらに、本実施形態の海上浮揚式消波装置100は、図2に示すように、各係留索61をそれぞれ巻き取る複数台の巻き取り機11が浮体10内に配備されている。すならち、各係留索61の一端はそれぞれ各巻き取り機11に連結し、その他端がそれぞれ各固定杭60に固定されている。さらに浮体10内には、各巻き取り機11の係留索巻き取り動作を制御する、コンピュータ等の制御装置12が設けられている。
【0027】
すなわち、潮の満ち引きや嵐などの気象の状況に応じて、各係留索61の長さや張力は、各巻き取り機11の係留索巻き取り動作によって調整できるようになっており、制御装置12は、巻き取り機11の係留索巻き取り動作を自動制御で行う。つまり、各係留索61の長さや張力を調節することによって、浮体10の前後、左右及び上下の移動を規制して、浮体10を海上の定位置に浮遊させるようにする。なお、この巻き取り機11の制御は、制御装置12に依らないで、無線などの遠隔操作で陸地の指令所などから人が行うこともできる。
【0028】
より詳しく述べると、制御装置12は、各巻き取り機11の係留索巻き取り動作を制御することにより、浮体10の水平方向と垂直方向の位置とを制御する。具体的には、潮流速データや風力データなどに基づいて浮体10の水平方向の位置を演算し、また水深データや波高データ、潮位データなどに基づいて浮体10の垂直方向の位置を演算し、これら演算結果により各巻き取り機11に対してモータ駆動信号を送信する。上記の各データは、例えば気象庁からの気象データを受信して取得するものとする。
【0029】
このように、本実施形態の海上浮揚式消波装置100では、制御装置12により浮体10の水平方向と垂直方向の位置を制御することができるので、例えば気象データに基づいて浮体10の位置を制御することができ、気象状況に関わらず効果的な消波を行うことができる。
【0030】
また、制御装置12は、各巻き取り機11の係留索巻き取り動作を制御することにより、浮体10の水平姿勢保持制御を行う。具体的には、各巻き取り機11の付近にそれぞれ傾斜角センサを設けておき、この各傾斜角センサの出力に基づいて、対応する巻き取り機11のモータを駆動制御して、浮体10の水平姿勢保持制御を行う。
【0031】
このように、本実施形態の海上浮揚式消波装置100では、制御装置12により常時、消波装置本体の水平姿勢保持制御を行うことができるので、消波装置本体は、常に安定した姿勢で効果的に消波を行うことができる。
なお、津波などの海波による強力な張力に、各係留索61や消波装置本体が耐え得るよう巻き取り部分には、油圧式の衝撃緩和バンパー13を配備して衝撃を吸収できるようになっている。
【0032】
次に、上記のように構成される本実施形態の海上浮揚式消波装置100の消波作用について説明する。
本実施形態に係る海上浮揚式消波装置によれば、まず、押し寄せてきた海波に対して、傾斜した主消波板20と補助消波板30自体によって消波が行われる。つまり、傾斜面での砕波によって波エネルギーを減衰させて消波するものである。
【0033】
加えて、図2に示すように、テーパ状空間40から成る海水流路によっても大きく消波が行われる。すなわち、押し寄せてきた海波は、主消波板20の消波面23に衝突して消波面23に沿って斜め上方(図2の矢印P)に流れの方向を変えて、下部開口42からテーパ状空間40の海水流路内へ流入する。
【0034】
テーパ状空間40の海水流路内に流入した海水は、所謂ノズル効果により次第に流速を増して上部開口41側へ流れ、上部開口41から天上へ向けて噴出する。そして、海水流路の上部開口41から噴出する海水1aが、補助消波板30の上端を越える越波1bに衝突して、押し寄せてきた海波の波エネルギーを大きく減衰させる。噴出する海水1aの噴出力は、押し寄せてきた海波の波エネルギーに応じて増幅する。このように、押し寄せてきた津波などの海波の持つエネルギーを利用して海波同士を衝突させて、押し寄せてきた海波の波エネルギーを大幅に減衰させるのである。
【0035】
押し寄せてきた海波が当該消波装置の上部を越える度に、上記のような波エネルギーの減衰作用が繰り返され、全体的に有効な消波が行われる。
ここで、上記の消波作用の能力が最大となるように、主消波板20の傾斜角度を設定することにより、より効果的に海波の消波を行うことができる。
【0036】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る海上浮揚式消波装置200の断面を示す。本実施形態において、第1の実施形態に係る海上浮揚式消波装置100と同一の構成要素については、同一の符号を付し重複する説明は省略する。
本実施形態の海上浮揚式消波装置200は、海上浮揚式消波装置100と較べて主に消波板の構成が異なり、その他の構成はほぼ同様である。海上浮揚式消波装置200の消波板201には、海上浮揚式消波装置100のような補助消波板は設置されていないが、消波板201の水面下の長さが消波装置100よりも長くなっている。そして、海上浮揚式消波装置200の消波板201の上部には、海波が飛び越えるのを防ぐ波返し部材202が装備されている。
【0037】
つまり、消波板201の一面には、海波と衝突して海波を破波し消波する消波面23が設けられている。そして、波返し部材202は、消波板201の上部(空方向)に消波面23と略垂直かつ海面と略水平方向に取り付けられている。
したがって、消波板201の上部により浅海波の上部を消波し、消波板201の下部により浅海波の下部を消波する。
海面に浮遊する浮体10が海底に固定された固定杭に係留索で係留する方式を採るので、地震の震動によって消波装置本体が損壊するなど地震の悪影響を受けにくいことは、海上浮揚式消波装置100と同様である。
【0038】
図3は、図2の海波減衰システムの配置例を示す鳥瞰図であり、湾また入り江に配置する例を表している。
図3に示すように、図2の海波減衰システムでは、図1で説明した消波装置100から成る第1の消波装置列110を湾の入り口などの外洋に面した沿岸域に浮かせて設置し、さらに、陸地から離れた湾内の海上に第2の消波装置列210を設置する。そして、陸地に向かってくる津波等の海波を海上で捕捉し、そのスピードと波エネルギーを減衰して陸地への津波のダメージを軽減するものである。
【0039】
より詳しく述べると、第1の消波装置列110は、図1で説明した海上浮揚式消波装置100を海波の進行方向に対して対向するように横並びに複数台配列して成る。第2の消波装置列210は、海波の進行方向に対して第1の消波装置列110よりも後方に海上浮揚式消波装置200を横並びに複数台配列して成り、第1の消波装置列110により消波されなかった海波の消波を行う。本例では、第1の消波装置列110は、上記の海上浮揚式消波装置100の消波効果を最大限に活かすため、湾内と外洋を仕切る海域に横並びに設置してある。また、第2の消波装置列210は、湾内中央部付近の海域に横並びに設置してある。第1の消波装置列110及び第2の消波装置列210における上記の各消波装置の連結は、浮体10の側面等に設けた連結金具に、チェーンなどの連結部材を用いて連結する。
【0040】
以上のような構成の海波減衰システムによれば、次のような作用がある。
第1の消波装置列110の消波作用によって、スピードと波エネルギーが弱った津波等の海波は、第1の消波装置列110の手前の海面上で海水の塊となって滞留する。そして、その滞留している海水の塊に後方から来る2波、3波の海波がぶつかり、後続の海波もスピードと波エネルギーを大きく減衰させる。このように陸地に向かってくる津波等の海波は、第1の消波装置列110によりスピードと波エネルギーを大きく減衰させ、第1の消波装置列110の手前で大きな波の盛り上がりが発生する。
【0041】
第1の消波装置列110により波エネルギーが弱まり第1の消波装置列110の手前で大きく盛り上がった海波は、後方から来る海波に押されて次第に第1の消波装置列110の上部や船舶航行用の水路301を通って、また陸地に向かうようになる。その海波を更に第2の消波装置列210で堰き止める。
【0042】
海中を進行してきた海波(浅海波)のうち、第1の消波装置列110の下部をすり抜けてきた海波(海水)を、第2の消波装置列210における、海中に長く形成された消波板201が受け止め、海面下の浅海波の波エネルギーを減衰させる。さらに、第2の消波装置列210の上部に装備されている波返し部材202が、海波の飛び越えを防ぐように作用するので、第1の消波装置列110を超えてきた海波は第2の消波装置列210で堰き止められて海水が増水していく。その結果、第1の消波装置列110と第2の消波装置列210の間の海域(図2の1c)が巨大なプールの役割をして津波の波エネルギーを更に弱め、第2の消波装置列210の陸地側の海域1dは海域1cよりも一段とうねりが小さくなり、津波の陸地への到達を遅らせる。
【0043】
また、図3に示すように、船舶の往来する船舶航行口(図3の301、302)を除き、湾の入り口の大部分を本実施形態の消波装置で塞ぐことが可能であるため、湾全体に対して優れた海波被害の軽減効果を得ることができる。なお、図3中の401は固定式防波堤であり、402は既存の防波堤である。
【0044】
本発明は、従前からの防波堤や消波装置の概念と大きく異なる発想で考案した技術であり、以下のような、これまでの防波/消波技術には無い優れた利点が数多くある。
(1)優れた消波効果
一般的な防波技術は、陸地や浅瀬にコンクリートなどによる堤体や消波体を築き、向かってくる津波等の海波の陸地への侵入を止める方法であった。このような場合、堤体や消波体は湾や入り江など先が狭まった場所の海と陸地の境目付近に設置されることが多い。このような場所に津波が到来した場合、陸地に近づくにつれ津波の進む範囲が狭まってくるため、海水が集中して波高や勢力が増し、そこにまた後続の津波がぶつかり更に波高が高くなり勢力が増すという悪循環が起こる。このようにして巨大化した津波に対して、従前からの堤防や消波装置を中心とした防波技術を用いても、十分な防災効果を挙げるのは困難である。
【0045】
これに対して、本実施形態の海波減衰システムは、津波が大きく勢力を増す前の、水深が深く陸地や島などの津波の進行に影響を与える障害物が無い外洋に面した海域で、比較的に勢力の小さい段階の津波に対処することができる。加えて、押し寄せる津波などの海波を消波板20、30の傾斜面で受け止めて跳ね返すだけの構成とは異なり、海波の持つ大きなエネルギーを逆に利用して、テーパ状空間40を使用して海波同士をぶつけ合って、その波エネルギーを大幅に減衰させるものである。したがって、津波などの海波にも十分な消波作用を発揮することが可能になる。
【0046】
更にこのシステムの消波装置を、湾などの奥方向へ複数段、横並び配置することによって、その効果を倍増させることが可能である。これにより、陸地への津波の到来を遅らせて被害を大きく軽減することができる。
【0047】
(2)優れた費用対効果性
本実施形態の海波減衰システムの構築では、固定杭60を海底に設置すれば、後は工場や造船所で製造したシンプルな構造の本実施形態の消波装置をタグボート等で設置場所まで牽引して海底の固定杭60と係留索61で繋げればよく、土地取得を含めた設置にかかる費用や期間も、従前からの堤防を中心とした技術と比較して遥かに少なくて済む。
【0048】
なお、本システムで最もコストがかかる部分は、浮体10となる巨大な台船を製造することである。その台船は、鋼鉄製やFRP製のものでなくてもよく、ポリプロピレンなどの安価な化学性材料や発泡系材料を使って空洞が無い巨大なブロックを造り、それをつなぎ合わせることによる簡単で低コストな方法でも大型の台船が実現できる。
【0049】
また、設置方法の観点からも本実施形態の海波減衰システムは大きな優位性がある。例えば海岸沿いで人口が密集している場所は湾や入り江となっているところが多い。このような地域で防波能力を発揮するには、従前では、湾や入り江の形状に合わせて海を囲むように海岸沿いに全て堤防や消波装置を設置することが必要となる。しかし、本実施形態のシステムは、湾や入り江の入り口を塞ぐように消波装置を海上に浮かべるだけで、海側から湾内に侵入しようとする津波の波エネルギーを減衰させて湾内への急激な海水(海波)の浸入を防ぐことができる。したがって、従前において、堤防の設置に都市部の港湾などを埋め立てる場合や、湾に流れ込む河川が多く海岸線が長いために堤防の整備に莫大な費用と期間がかかる場合などのケースでは、本実施形態の海波減衰システムの費用対効果は極めて優れている。
【0050】
すなわち、例えば東京湾のように広大で奥行きが深く且つ多くの経済施設や住居が集中する地域において、従前からある堤防や消波装置による防波対策ではコストや設置場所・設置方法などで限界がある。これに対して、湾の入り口に消波装置を設置するだけで湾全体の津波被害を大幅に軽減できる本実施形態の海波減衰システムは、既存の防波技術に対して大きな優位性がある。
【0051】
(3)地震・津波などへの高い強度とメインテナンス性の高さ
本実施形態の消波装置では、消波装置本体が海上に浮いていて直接地面と接していないので、構造的に地震の強い衝撃や急激な震動を直接受けることがない。また、水深が深く津波のエネルギーが比較的小さい段階で消波機能を発揮し、海自体も消波装置に対する衝撃を緩和する緩衝材として機能するため、消波装置への海波の衝撃は地上設置型の防波堤や浅瀬海底固定型の消波装置に較べて遥かに低くなる。つまり、本実施形態の消波装置は、地震や津波などの災害に対して強い耐性を有しており、東日本大震災のような巨大な津波や地震でも、消波装置本体が脆くも崩れ去り消波機能が発揮できないなどという可能性は著しく低い。
【0052】
また、装置自体が非常に軽量且つシンプルな構造であり、且つ装置が船のように海上に浮いている状態にあるので、維持・管理が容易である。すなわち、軽微な補修ならばその場ではしけや小型船などを使い、大規模な補修や交換の場合は係留索61を外し、タグボートで牽引してドックに入船し修理することが可能である。大型の設備でありながら陸地に固定されていないことから船と同じような運用が可能であり、メインテナンスが非常に容易である。
【0053】
(4)経済や景観に与える影響の軽減
一般的な堤防や消波装置の技術では、防波機能を高める手段は堤防の高さや強度を高める方法が主であるが、堤体や消波体を強大化した場合、海と陸地との間に大きな壁ができ、人や物の往来の障害になって地域の発展にマイナスとなる。さらに、大きな堤防や消波装置が陸地や海の景観を損ね、観光や地域文化の振興に障害となる恐れがある。
【0054】
これに対して、本実施形態の海波減衰システムは、海上に消波装置全体を設置し、また船舶の航行にも支障が出ないよう計画的に浮体10を付設する。そのため、地上には構築物の設置などの経済・生活環境の変化が一切起きないので、地域経済に影響を与えることなく高い防災機能を発揮することができる。逆に、本システムにより湾内の海波の大きなうねりを防ぐことができるため、本システムの設置により湾内を中心とした地域経済の振興が可能になる。
【0055】
また、本装置特有の、陸上でなく海上で津波の進入を防ぐ機能を利用することで、堤防や消波装置の設置が障害物となり設置が不可能、または設置によって機能の大幅低下を招く空港や港を利用する物流センターや市場、工場などの重要な経済施設が、機能を一切低下させずに津波防御を行うことができる。
【0056】
さらに、本実施形態の消波装置では、外洋に面した海域に高さの低い消波装置本体を設置するため、地上設置型の堤防や浅瀬海底設置型の消波装置より遥かに目立たず、景観上の支障を与える可能性も低く観光や地域住民の生活への支障の発生も極めて低くくなる。
【0057】
(5)湾全体の保全と潮流のコントロール及び海上基地としての利用
本実施形態の海波減衰システムでは、湾の入り口に津波の侵入を防ぐための消波装置を設置するため、津波だけでなく嵐などで湾外が激しく荒れている状態であっても、湾内への海波の進入を防ぎ、影響を大きく軽減することができる。そのため、本実施形態の消波装置を湾入り口や湾内に設置した場合、湾内全体を常時穏やかな海面に保つことが可能であり、安全な船舶の航行や漁業振興、海上都市構想など、荒れない海を利用した数々のプロジェクトが実現可能である。
【0058】
本発明に係る海上浮揚式消波装置及びこれを用いた海波減衰システムは、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
本発明に係る海波減衰システムにおいて、第2の消波装置列210は、海上浮揚式消波装置200を横並びに複数台配列して成るのもののみならず、海上浮揚式消波装置100を横並びに複数台配列してもよい。また、公知の海上浮揚式消波装置を使用することによっても一定の効果が期待できる。
【0059】
本発明の消波装置100,200は、浮体10から海中へ伸ばした消波板により潮流の向きや早さをコントロールすることも可能である。本消波装置を潮の流れが速い海峡等に設置し潮流を穏やかにすることで船舶の安全な航行が可能である。
【0060】
また、このような波や潮流をコントロールする機能と、巨大フロートを海上に浮揚させる機能を活かして、海洋での大規模な魚の養殖や、海底下のレアメタルの探索・掘削作業、或いは海底工事の海上基地等、の海洋事業の拠点を形成したり、海上都市の基礎部分を形成したりして、海洋振興への多様な貢献が可能である。
さらに、本発明の消波装置100,200を環状に海面に配列させ、その中央部分の海域に人工環礁を形成させることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 海面
10 浮体
11 巻き取り機
12 制御装置
20 主消波板
21 主消波板上部
22 主消波板下部
23 消波面
30 補助消波板
40 テーパ状空間
41 上部開口
42 下部開口
60 固定杭
61 係留索
100,200 海上浮揚式消波装置
110 第1の消波装置列
210 第2の消波装置列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海面に浮遊させる浮体(10)と、
一面に海波を消波する消波面(23)を有し、上部が前記浮体の上方に突出すると共に下部が前記浮体の下方に垂下し、全体として前記浮体の中央部側に傾斜して前記浮体の端部に固定された主消波板(20)と、
前記主消波板の上方側へ向けて該主消波板との間隔が連続して狭くなるテーパ状空間が形成されるように、前記主消波板上部の消波面側に並設された補助消波板(30)とを備え、
前記テーパ状空間は、前記主消波板上部の上端と前記補助消波板の上端の間に形成される上部開口(41)と、前記主消波板上部の下端と前記補助消波板の下端の間に形成される下部開口(42)を連通する海水流路とし、
海底に固定された固定杭(60)に前記浮体を係留索(61)で繋いで係留し、前記消波面が海波の進行に対向するように配置することを特徴とする海上浮揚式消波装置。
【請求項2】
前記主消波板の傾斜角度は、前記海水流路の上部開口から噴出する海水が前記補助消波板の上端を越える越波に衝突して波エネルギーを減衰させる消波の能力が最大となるような角度に設定したことを特徴とする請求項1に記載の海上浮揚式消波装置。
【請求項3】
前記係留索を巻き取る巻き取り機が前記浮体に具備され、
前記係留索は海波の進行方向に対して前記浮体の前端部と後端部それぞれに複数本配され、且つ前記係留索の本数に応じた数の前記固定杭と前記巻き取り機とが設けられ、前記各係留索の一端をそれぞれ各巻き取り機に連結し、その他端をそれぞれ前記各固定杭に固定する構成とし、
さらに前記各巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御する制御手段(12)を設け、
前記制御手段は、前記各巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御することにより、前記浮体の水平方向と垂直方向の位置とを制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の海上浮揚式消波装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御することにより、前記浮体の水平姿勢保持制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の海上浮揚式消波装置。
【請求項5】
海面に浮遊させる浮体(10)と、
一面に海波を消波する消波面(23)とその上部に前記消波面と略垂直かつ水平方向に設けられた波返し部材(202)を有し、上部が前記浮体の上方に突出すると共に下部が前記浮体の下方に垂下し、全体として前記浮体の中央部側に前記浮体の端部に固定される消波板(201)を備え、
海底に固定された固定杭(60)に前記浮体を係留索(61)で繋いで係留し、前記消波面が海波の進行に対向するように配置することを特徴とする海上浮揚式消波装置(200)。
【請求項6】
前記係留索を巻き取る巻き取り機が前記浮体に具備され、
前記係留索は海波の進行方向に対して前記浮体の前端部と後端部それぞれに複数本配され、且つ前記係留索の本数に応じた数の前記固定杭と前記巻き取り機とが設けられ、前記各係留索の一端をそれぞれ各巻き取り機に連結し、その他端をそれぞれ前記各固定杭に固定する構成とし、
さらに前記各巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御する制御手段(12)を設け、
前記制御手段は、前記各巻き取り機の係留索巻き取り動作を制御することにより、前記浮体の水平方向と垂直方向の位置とを制御することを特徴とする請求項5に記載の海上浮揚式消波装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の海上浮揚式消波装置(100)を海波の進行に対向するように複数台横並び配列して成り、外洋に面した海域に浮揚式で設置されて海波の消波を行う第1の消波装置列(110)と、
海波の進行方向に対して前記第1の消波装置列よりも後方に請求項1から6のいずれか1項に記載の海上浮揚式消波装置を複数台横並び配列して成り、前記第1の消波装置列により消波されなかった海波の消波を行う第2の消波装置列(210)とを備えたことを特徴とする海波減衰システム。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−108284(P2013−108284A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254258(P2011−254258)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【特許番号】特許第5067703号(P5067703)
【特許公報発行日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【出願人】(511155637)
【Fターム(参考)】