説明

海上深層混合処理装置

【課題】駆動部に必要な、駆動力と十分な冷却性とを確保しつつ、更なる環境対策に配慮した深層混合処理装置を提供する。
【解決手段】駆動部24が気中の昇降区間にあるときには、空冷冷却装置26のファン36により導入される冷気Acによって強制空冷され、暖められた空気Ahは、駆動部24から外部へと放出される。この空冷冷却装置26は、気中の昇降区間においてのみ駆動部24に追従するものであるが、駆動部24が下降して水中の昇降区間に移動すると、駆動部24は水中に没することで、周囲の水による水冷がなされる。駆動部24を、気中では空冷方式で、水中では水冷方式で冷却することで、必要な冷却性が確保される。しかも、空冷冷却装置26の空冷ファン36の動力源に、電動モータが用いられることで、環境により配慮したものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底の軟弱地盤を改良し安定した基礎地盤に換えるための、海上深層混合処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、港湾施設の新設、拡張や埋め立て等、臨海区域の開発にあたっては、海底の沖積層からなる軟弱地盤の改良を行うことが、地盤沈下や液状化現象の防止を図る上で効果的であることが実証されている。かかる地盤改良工法において、海底に横たわる軟弱地盤を硬化材と攪拌、混合することにより連続した壁構造の改良地盤や安定した基礎地盤に改良する工法として、深層混合処理工法(DCM:Deep Chemical Mixture Method)が用いられている。
【0003】
この深層軟弱地盤の処理工法には、軟弱地盤を改良するための専用作業船として、図5、図6に示される海上深層混合処理船10が用いられる。海上深層混合処理船10に搭載される深層混合処理装置12は、全体を支える鉄塔(リーダー)14と、リーダー14によってガイドされてサブリーダー16と、サブリーダー16と共に又は単独で昇降する装置本体18とを備えている。装置本体18は、下端部に攪拌翼22aを備えるロッド22と、ロッド22及び撹拌翼22aを回転駆動するための、駆動部24とを含むものである(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
そして、装置本体18はサブリーダー16の降下と共に下降し、サブリーダー16が下降下死点に到達した後は、更に装置本体18が単独で下降し、ロッド22及び駆動部24は水中へと没する。そして、ロッド22の先端部に設けられた撹拌翼22aは、水面WLから深さDまで下降する。このように、深層混合処理装置12は、サブリーダー16と装置本体18との二段階の昇降機構を備えることで、高さ制限を受けるような工区であっても、大水深部への施工が可能となる。そして、ロッド22が下降する間、撹拌翼22aは駆動部24によって回転駆動され、海底の軟弱地盤を掘削する。又、ロッド22の先端部より、セメント、セメント系固化剤等の硬化剤を注入し、原位置の軟弱粘性土と硬化剤とを原位置にて強制的に混合撹拌し、化学的固結作用を利用して、地盤中に強固な安定処理土を形成するものである。
なお、図中の符号20はサブリーダー16の昇降に係るワイヤーであり、符号21は駆動部24の昇降に係るワイヤーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−247116号公報
【特許文献2】特開平11−006143号公報
【特許文献3】特開2008−150872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、深層混合処理装置12の駆動部24には、必要な駆動力の確保と、冷却性の確保の観点から、油冷式油圧駆動方式が採用されている。しかしながら、環境対策(油流出対策)をより万全にするべく、駆動部24の改良が検討されることとなった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、駆動部に必要な、駆動力と十分な冷却性とを確保しつつ、更なる環境対策に配慮した深層混合処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)船体に立設されたリーダーと、該リーダーにガイドされ、気中と水中との間を昇降するサブリーダーと、該サブリーダーと共に又は単独で、気中と水中との間を昇降する装置本体とを備え、
該装置本体は、下端部に攪拌翼を備えるロッドと、該ロッドの上端部に位置して前記ロッド及び撹拌翼を回転駆動するための駆動部と、気中の昇降区間において前記駆動部に追従して昇降する空冷冷却装置とを備える海上深層混合処理装置(請求項1)。
本項に記載の深層混合処理装置は、駆動部が気中の昇降区間にあるときには、空冷冷却装置によって強制空冷される。この空冷冷却装置は、気中の昇降区間においてのみ駆動部に追従するものであるが、駆動部が下降して水中の昇降区間に移動すると、駆動部が水中に没することで、周囲の水による水冷がなされることとなる。このように、駆動部を、気中では空冷方式で、水中では水冷方式で冷却することで、必要な冷却性が確保されるものである。なお、駆動部及び空冷冷却装置の動力源としては、例えば、電動モータが用いられるものである。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記駆動部の昇降手段が、気中の昇降区間において前記空冷冷却装置の昇降手段を兼ねる深層混合処理装置(請求項2)。
本項に記載の深層混合処理装置は、空冷冷却装置が、気中の昇降区間において、駆動部の昇降手段により昇降駆動され、空冷冷却装置専用の昇降手段を不要とするものである。
【0010】
(3)上記(2)項において、前記駆動部は、前記サブリーダーに係る昇降手段と独立した昇降手段により昇降されるケースに収納され、前記空冷冷却装置は、前記駆動部のケースをその上方から覆うハウジングを含む海上深層混合処理装置(請求項3)。
本項に記載の海上深層混合処理装置は、駆動部が、サブリーダーに係る昇降手段と独立した昇降手段により昇降されるケースに収納され、サブリーダーと独立して昇降可能となっている。又、空冷冷却装置のハウジングが、駆動部のケースをその上方から覆った状態となっていることから、空冷冷却装置は駆動部の昇降動作に追従して昇降する。すなわち、駆動部の昇降手段が空冷冷却装置の昇降手段を兼ねるものとなる。
【0011】
(4)上記(3)において、前記空冷冷却装置は、前記ハウジングに保持される空冷ファンを含む海上深層混合処理装置(請求項4)。
本項に記載の深層混合処理装置は、空冷冷却装置が駆動部の昇降動作に追従して昇降する間、空冷冷却装置のハウジングに保持される空冷ファンにより、ケース内の駆動部を強制空冷するものである。
【0012】
(5)上記(1)から(4)項において、前記船体には、前記空冷冷却装置の下降下死点を定めるストッパーが設けられている海上深層混合処理装置(請求項5)。
本項に記載の海上深層混合処理装置は、船体に設けられた、空冷冷却装置の下降下死点を定めるストッパーによって、空冷冷却装置が船上すなわち気中に確実に停止し、水中へと没することを防ぐものである。具体的には、空冷冷却装置の下降下死点において、ハウジングがストッパーに当接するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明はこのように構成したので、駆動部に必要な、駆動力と十分な冷却性とを確保しつつ、更なる環境対策に配慮した深層混合処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る海上深層混合処理装置を示すものであり、(a)は空冷冷却装置周辺部の要部斜視図、(b)は空冷冷却装置のハウジングと駆動部のケースとを除いた参考図である。
【図2】図1に示される空冷冷却装置と駆動部とが、昇降方向に分離した状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る海上深層混合処理装置の動作説明図であり、(a)は、サブリーダー、空冷冷却装置及び駆動部が、昇降範囲の上死点にある状態を、(b)は、サブリーダー及び空冷冷却装置が、昇降範囲の下死点にある状態を示すものである。
【図4】本発明の実施の形態に係る海上深層混合処理装置の動作説明図であり、(a)は、サブリーダー、空冷冷却装置及び駆動部の全てが、昇降範囲の下死点にある状態を、(b)は、浅部改良時において、空冷冷却装置が、昇降範囲の下死点にある状態を示すものである。
【図5】従来の海上深層混合処理装置の側面図である。
【図6】図5に示される従来の海上深層混合処理装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る海上深層混合処理装置は、図1(a)に示されるように、サブリーダー16と、サブリーダー16と共に又は単独で、気中と水中との間を昇降する装置本体18とを備えている。なお、サブリーダー16は、海上深層混合処理船10(図5、図6参照)の船体10aに立設されたリーダー14(図5、図6参照)にガイドされ、昇降するものである。
装置本体18は、下端部に攪拌翼22a(図5、図6参照)を備えるロッド22と、ロッド22の上端部に位置してロッド22及び回転翼22aを回転駆動するための駆動部24と、気中の昇降区間において、駆動部24に追従して昇降する空冷冷却装置26とを備えている。なお、便宜上、図1〜図4においては、ロッド22の先端に位置する回転翼22aを省略して示している。
【0016】
駆動部24は、動力源として電動モータが用いられ、適宜、減速機を介してロッド22へと動力が伝達されるものである。又、この駆動部24は、図2に示されるように、ケース28に収納されている。ケース28は、板状及び枠状の骨組みからなるものであり、駆動部24は枠状の骨組みの間からケース28の外部と連通した状態となっている。又、ケース28は、サブリーダー16に係る昇降手段と独立した昇降手段(ワイヤー21はその一部をなす)により昇降されるものである。図中、符号30は、ワイヤー21が掛け回されるプーリーであり、符号32は、必要に応じて設けられるガイドローラーであり、後述するハウジング34に対し内側から当接するものである。
【0017】
空冷冷却装置26は、駆動部24のケース28をその上方から覆うハウジング34と、ハウジングに保持される空冷ファン36とを含むものである。ハウジング34は、枠状の骨組みからなり、特に必要なものではないが図示の例では、骨組みの間にメッシュ板38が設けられている。ハウジング34は、駆動部24のケース28をその上方から覆うようにして構成されている。そして、ハウジング34の骨組みの一部が、上方から駆動部24のケース28に当接することで、ハウジング34は、駆動部24のケース28に追従して昇降するものである。よって、空冷冷却装置26の昇降手段は、気中の昇降区間において、駆動部24の昇降手段が兼ねるものとなっている。なお、図示の例では、大型の空冷ファン36をハウジング34の上部に一機だけ設けているが、必要に応じ二機以上、更には、駆動部24のロッド22毎に設けられた電動モータの各々に、個別に設けることとしても良い。
又、ハウジング34の下端部には、後述するように、空冷冷却装置26の下降下死点においてストッパー42に当接するための、枠状のスカート40が設けられている。なお、空冷冷却装置26の空冷ファン36の動力源としては、電動モータが用いられる。
【0018】
更に、図1(a)に示されるように、船体10aには、空冷冷却装置26の下降下死点を定めるストッパー42が設けられている。このストッパー42は、船体10aの、装置本体18が昇降する際に通過する開口部10bに隣接して、上方へと突出するように設けられている。そして、その頂部42aが、空冷冷却装置26の枠状のスカート40に当接するものである。
【0019】
ここで、図3、図4を参照しながら、本発明の実施の形態に係る海上深層混合処理装置の動作説明を行う。なお、便宜上、図3、図4ではリーダー14(図5、図6)を省略している。
図3(a)は、サブリーダー16、駆動部24及び空冷冷却装置26が、昇降範囲の上死点にある状態を示している。この状態から、サブリーダー16及び駆動部24の昇降機構を連動させることで、サブリーダー16、駆動部24及び空冷冷却装置26は、図3(b)に示されるように下降していく。そして、サブリーダー16は昇降範囲の下死点に到達し、空冷冷却装置26は、ハウジング34の下端部のスカート40がストッパー42に当接する位置が、昇降範囲の下死点となる。
【0020】
この状態から更に、駆動部24及びロッド22が単独で下降する。この際、駆動部24はサブリーダー16にガイドされて、船体10aに衝突することなく、円滑に下降していく。そして、図4(a)に示されるように、ロッド22は海底面GLへと到達する。なお、駆動部24を上昇させる際には、上記と逆の動作が行われることとなる。
【0021】
なお、図4(b)は、海底面GLの深度が浅い場合が示されている。この場合は、サブリーダー16を下降させることなく、駆動部24及び空冷冷却装置26のみ下降させるものである。
図4(b)の例では、ロッド22は海底面GLへと到達した状態で、駆動部24は機中に位置し、空冷冷却装置26がストッパー42に当接した状態で、駆動部24は空冷冷却装置26に覆われ、強制空冷される状態にある。
【0022】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。
すなわち、本項に記載の深層混合処理装置は、駆動部24が気中の昇降区間にあるときには、図1(b)に示されるように、空冷冷却装置26のファン36により導入される冷気Acによって強制空冷され、暖められた空気Ahは、駆動部24から外部へと放出される。この空冷冷却装置26は、気中の昇降区間においてのみ駆動部24に追従するものであるが、駆動部24が下降して水中の昇降区間に移動すると(図4(a))、駆動部24は水中に没することで、周囲の水による水冷がなされることとなる。このように、本項に記載の深層混合処理装置は、駆動部24を、気中では空冷方式で、水中では水冷方式で冷却することで、必要な冷却性が確保されるものである。しかも、空冷冷却装置26の空冷ファン36の動力源に、電動モータが用いられることで、環境により配慮したものとなる。駆動部24についても、動力源として電動モータが用いられることで、同様に環境により配慮したものとなる。
【0023】
又、空冷冷却装置26が、気中の昇降区間において、駆動部24の昇降手段(ワイヤー21等)により昇降駆動されるものであり、独立した駆動手段を必要としないことから、その設置が容易である。よって、既存の深層混合処理装置の装置本体18を改造して、空冷冷却装置26を取り付けることも可能となる。
【0024】
又、駆動部24が、サブリーダー16に係る昇降手段(ワイヤー20等)と独立した昇降手段(ワイヤー21等)により昇降されるケース34に収納され、ロッド22と共に、サブリーダー16と独立して昇降可能となっており、空冷冷却装置26のハウジング34が、駆動部24のケース28をその上方から覆っていることから、空冷冷却装置26は駆動部24の昇降動作に追従して昇降するものとなっている。
そして、空冷冷却装置26は、駆動部24の昇降動作に追従して昇降する間、空冷冷却装置26のハウジング34に保持される空冷ファン36により、ケース28内の駆動部24を強制空冷するものである。
【0025】
又、船体10aに設けられた、空冷冷却装置26の下降下死点を定めるストッパー42によって、空冷冷却装置26が船上すなわち気中に確実に停止し、水中へと没することを防ぐことができる。具体的には、空冷冷却装置26の下降下死点において(図3(b)、図4(a)(b))、ハウジング34がストッパー42に当接することで、空冷冷却装置26は気中に確実に停止するものとなる。
【符号の説明】
【0026】
10:海上深層混合処理船、12:深層混合処理装置、14:リーダー、16:サブリーダー、18:装置本体、 20、21:ワイヤー、22:ロッド、24:駆動部、26:空冷冷却装置、28:ケース、32:ガイドローラー、34:ハウジング、36:冷却ファン、40:スカート、42:ストッパー、42a:頂部、42b:鉛直壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に立設されたリーダーと、該リーダーにガイドされ、気中と水中との間を昇降する昇降するサブリーダーと、該サブリーダーと共に又は単独で、気中と水中との間を昇降する装置本体とを備え、
該装置本体は、下端部に攪拌翼を備えるロッドと、該ロッドの上端部に位置して前記ロッド及び撹拌翼を回転駆動するための駆動部と、気中の昇降区間において前記駆動部に追従して昇降する空冷冷却装置とを備えることを特徴とする海上深層混合処理装置。
【請求項2】
前記駆動部の昇降手段が、気中の昇降区間において前記空冷冷却装置の昇降手段を兼ねることを特徴とする請求項1記載の深層混合処理装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記サブリーダーに係る昇降手段と独立した昇降手段により昇降されるケースに収納され、前記空冷冷却装置は、前記駆動部のケースをその上方から覆うハウジングを含むことを特徴とする請求項2記載の海上深層混合処理装置。
【請求項4】
前記空冷冷却装置は、前記ハウジングに保持される空冷ファンを含むことを特徴とする請求項3記載の海上深層混合処理装置。
【請求項5】
前記船体には、前記空冷冷却装置の下降下死点を定めるストッパーが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の海上深層混合処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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