説明

海中ケーブルの歪測定方法および海中ケーブルの歪測定システム

【課題】 感度良く海中ケーブルの全長に渡って歪変化を計測することが可能な洋上浮体設備用の海中ケーブルの歪測定方法および海中ケーブルの歪測定システムを提供する。
【解決手段】 海中ケーブル3は、主に電力用線心13、鎧装23a、23b、防食層25、ラインセンサ27等から構成される。3本の電力用線心13を撚り合わせた後、隙間に樹脂紐等の介在物を配置して略円形のコアを形成する。得られたコアの外周に海中ケーブル3の荷重を支持する鎧装部が設けられる。鎧装部は、たとえば鎧装23a、23bの2層構造である。鎧装部の外周には、防食層25が設けられる。防食層25が外部から水が内部に浸入することや、外傷を防止するための層である。鎧装部の外周側に設けられる鎧装23bの一部は、ラインセンサ27と置き換えられる。ラインセンサ27を用いてPPP−BOTDA法によって海中ケーブルの全長に渡って歪変化が測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上浮体設備用の海中ケーブルの高分解能の歪測定方法および高分解能の海中ケーブルの歪測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の点から、再生可能エネルギーの開発が進められている。例えば、洋上浮体設備である発電用風車から送電する浮体式洋上風力発電の実用化が進められている。
【0003】
洋上浮体設備から送電するためには、海中ケーブルが使用される。海中ケーブルは、電力用線芯を3相交流送電用に3本集合撚り合わせ、さらにコアの外周にケーブル荷重をサポートするための鎧装線を設け、更にその外部に外傷防止用のプラスチック層を押し出し被覆した構造である。
【0004】
このような海中ケーブルとしては、例えば、ケーブル心線と捻り補強線の複数本を一方向に撚り合わせた線状集合体の外周に、そのケーブル線心及び捻り補強線撚り合わせ方向と逆方向に鎧装線を撚り合わせた鎧装体を設け、線状集合体と鎧装体に作用する捻りトルクを打ち消してトルクバランスさせた海中ケーブルがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−192831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような海中ケーブルは、洋上で揺動を繰り返す洋上浮体設備から海中に懸垂される。このため、波浪や潮流による流体力と浮体揺動によって、海中ケーブルは常に変形が繰り返される。したがって、このような繰り返し変形によって海中ケーブルに疲労が進行する。
【0007】
海中のケーブルの疲労の進展を把握するためには、海中ケーブルの全長にわたって、曲げ歪変化を常時計測する必要がある。特に、海中ケーブルの疲労判定のためには0.1%以下の歪感度測定が必要で、その距離分解能としては0.5m以下を要する。しかし、これまで、このような歪測定の感度を有する海中ケーブルは存在しなかった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、感度良く海中ケーブルの全長に渡って歪変化を計測することが可能な洋上浮体設備用の海中ケーブルの歪測定方法および海中ケーブルの歪測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、洋上浮体設備用の海中ケーブルの歪測定方法であって、導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記海中ケーブルの軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、を具備し、光ファイバと、前記光ファイバが挿通される保護管と、前記保護管の外周に形成される樹脂層とを有するラインセンサを用い、前記線材の一部が前記ラインセンサに置き換えられ、前記ラインセンサを用いて、PPP−BOTDA法によって前記海中ケーブルの全長に渡って歪変化を測定することを特徴とする海中ケーブルの歪測定方法である。
【0010】
前記ラインセンサの前記樹脂層の外径は、前記線材と略同一となるように設定されていることが望ましい。
【0011】
前記ラインセンサは、少なくとも、前記鎧装部の断面において互いに直交する複数個所に設けられることが望ましい。
【0012】
第1の発明によれば、海中ケーブルの鎧装部を構成する複数の線材の一部が、ラインセンサと置き換えられている。したがって、海中ケーブル内部に確実にラインセンサを保持することができる。また、ラインセンサを用いて、PPP−BOTDA法によって海中ケーブルの歪変化の測定を行うため、海中ケーブルの全長に渡って感度良く歪を測定することができる。
【0013】
また、ラインセンサの樹脂層の外径が、線材の外径と略同一となるように設定されれば、ラインセンサが海中ケーブル内部で動くことがなく、また、ラインセンサと隣接する線材が動くこともない。
【0014】
また、ラインセンサが、少なくとも、鎧装部の断面において互いに直交する複数個所に設けられることで、海中ケーブルの曲がり方向によらずに、確実に感度良く海中ケーブルの歪を測定することができる。
【0015】
第2の発明は、洋上浮体設備用の海中ケーブルの歪測定システムであって、導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記海中ケーブルの軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、を具備し、光ファイバと、前記光ファイバが挿通される保護管と、前記保護管の外周に形成される樹脂層とを有するラインセンサと、前記ラインセンサを用いて、PPP−BOTDA法によって前記海中ケーブルの全長に渡って歪変化を測定する測定部と、前記測定部で測定された歪情報を記憶する記憶部と、前記歪情報の演算を行う演算部と、を有し、前記ラインセンサの前記樹脂層の外径は、前記線材と略同一となるように設定されており、前記線材の一部が前記ラインセンサに置き換えられ、前記演算部は、前記海中ケーブルの敷設初期の歪状態を基準状態として、前記基準状態からの歪変化量を算出して、前記記憶部に記憶させることを特徴とする海中ケーブルの歪測定システムである。
【0016】
前記演算部は、前記記憶部に記憶された歪変化量を累積し、前記海中ケーブルの疲労寿命を予測してもよい。
【0017】
第2の発明によれば、海中ケーブルの全長に渡って感度良く歪を測定可能な海中ケーブルの歪測定システムを得ることができる。特に、演算部において、敷設初期の歪状態を基準状態として、基準状態からの歪変化量を算出することで、より正確に海中ケーブルの動きを把握することができる。また、歪変化量を累積することで疲労の進行を予測することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、感度良く海中ケーブルの全長に渡って歪変化を高分解で計測することが可能な洋上浮体設備用の海中ケーブルの歪測定方法および海中ケーブルの歪測定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】海中ケーブル3の敷設状態を示す図。
【図2】海中ケーブル3を示す断面図。
【図3】図2のA部拡大図であり、ラインセンサ27の拡大図。
【図4】ブルリアン分布計測器概念図。
【図5】歪測定システムを示すブロック図。
【図6】(a)は海中ケーブル3aを示す断面図、(b)は海中ケーブル3bを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態にかかる海中ケーブル等について説明する。図1は海中ケーブル3の敷設状態を示す図である。洋上には、洋上浮体設備1が配置される。洋上浮体設備1は、たとえば浮体式洋上風力発電装置である。洋上浮体設備1は、洋上に浮いた状態であり、下部が海底に係留索11で固定される。
【0021】
例えば、複数の洋上浮体設備1が洋上に配置される。洋上浮体設備1は接続部5cで海中ケーブル3と接続される。また、海中ケーブル3同士は、海底に設置された接続部5aにおいて接続される。すなわち、それぞれの洋上浮体設備1同士は海中ケーブル3で接続される。
【0022】
また、海中ケーブル3の洋上浮体設備1と接続部5bとの間にはブイ9が接続される。すなわち、海中ケーブル3は、ブイ9によって海中で浮遊した状態となる。海中ケーブル3の詳細は後述する。
【0023】
地上側の海中ケーブル3は、海底に設置された接続部5aで海底ケーブル7と接続される。海底ケーブル7は海中ケーブル3と略同一の構成である。海底ケーブル7は地上の電力送電設備等と接続される。すなわち、洋上浮体設備1で発電された電気は、海中ケーブル3および海底ケーブル7によって地上に送電される。
【0024】
ここで、洋上浮体設備1は、洋上の波浪や、潮流等によって大きく揺動する。したがって、洋上浮体設備1と接続される海中ケーブル3は、洋上浮体設備1の揺動に追従し、海中で繰り返しの大きな曲げ変形を受ける。なお、海中ケーブル3は、ブイ9によって海中に浮遊するため、海底に引きずられることがなく、また、潮の満ち引きや海流に対して、海中ケーブル3に局所的な応力が付与されることが防止される。
【0025】
次に、海中ケーブル3の構造について説明する。図2は、海中ケーブル3の断面図である。海中ケーブル3は、主に電力用線心13、鎧装23a、23b、防食層25、ラインセンサ27等から構成される。
【0026】
電力用線心13は、導体部15、絶縁部17、シールド層19、遮水層21等から構成される。導体部15は、例えば銅素線を撚り合わせて構成される。
【0027】
導体部15の外周部には、絶縁部17が設けられる。絶縁部17は、例えば架橋ポリエチレンで構成される。なお。絶縁部17は、内部半導体層、絶縁体層、外部半導体層の三層構造としてもよい。内部半導体層、絶縁体層、外部半導体層の三層構造とすることで、水トリー劣化抑制と、絶縁体と金属層との機械的緩衝層としての効果を得ることができる。
例えば、導体と絶縁体、シールドと絶縁体とが直接接している場合において、接触界面に突起等があると、そこに電界が集中し、水トリーや部分放電の発生起点となる。そこで半導電の樹脂を間に挟むことにより、接触界面の電界を緩和することができる。なお、この内部および外部半導電層のことを「電界緩和層」と呼ぶこともある。
また、内部半導体層や外部半導体層が無かった場合、導体やシールドの金属層が絶縁体に直接食い込む恐れがある。充電部である金属層が絶縁体に食い込むと、電界集中により部分放電発生が起こり、絶縁破壊の原因となる。このため、絶縁体と金属層の間に半導電の樹脂層を形成することでこのような問題を抑制することが可能となる。
【0028】
絶縁部17の外周には、シールド層19および遮水層21が設けられる。シールド層は、導電性部材により構成される。また、遮水層21は、例えば金属層と樹脂層が積層されて構成される。例えば、接着樹脂層とSUSテープ層と導電性樹脂層とからなるSUSラミネートテープがポリエチレン樹脂と積層されて形成される。
【0029】
このようにして構成される電力用線心13が、3相交流送電用に3本集合撚りされる。また、3本の電力用線心13を撚り合わせた後、隙間に樹脂紐等の介在物を配置して略円形のコアを形成する。得られたコアの外周に海中ケーブル3の荷重を支持する鎧装部が設けられる。
【0030】
鎧装部は、たとえば鎧装23a、23bの2層構造である。鎧装23a、23bは、例えば金属線(鋼線またはステンレス線)や繊維補強プラスチック製の線材である。鎧装部は、それぞれ周方向に併設された複数の鎧装23a、23bがコアの外周にロングピッチで隙間なく巻きつけられる。すなわち、鎧装23a、23bは、鎧装23a、23bの外径に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように形成される。なお、内周側の鎧装23aと外周側の鎧装23bは、コアの外周に互いに逆方向に螺旋巻きされる。
【0031】
鎧装部(鎧装23a、23b)の外周には、防食層25が設けられる。防食層25は、外部から水が内部に浸入することを防止し、外傷を防止するための層である。防食層25は、例えば樹脂製である。
【0032】
鎧装部において、外周側に設けられる鎧装23bの一部は、ラインセンサ27と置き換えられる。ラインセンサ27は、海中ケーブル3の歪を測定する部位である。なお、ラインセンサ27は、少なくとも1か所形成されれば良いが、図示したように、海中ケーブル3の断面において、互いに直交する位置に複数個所に設けられることが望ましい。このようにすることで、海中ケーブル3の曲がり位置や方向に関係なく、確実にラインセンサ27によって歪を測定することができる。ケーブルの曲がり方向に関係なく、歪を測定することが可能となる。
【0033】
また、ラインセンサ27は、できるだけ海中ケーブル3の外周側に配置されることが望ましい。海中ケーブル3が曲がる際には、海中ケーブル3の断面中心に対して、断面最外周側が最も大きな歪が生じる。このため、ラインセンサ27を、できるだけ海中ケーブル3の外周側に配置することにより、高い感度で歪を測定することができる。したがって、本実施形態のように、鎧装23a、23bの2層構造である場合には、外周側の鎧装23bの一部をラインセンサ27に置き換えることが望ましい。すなわち、最外周の外鎧の一部をラインセンサ27に置き換えることで、前述の高感度の測定が可能になる。
【0034】
次に、ラインセンサ27について説明する。図3は、ラインセンサ27近傍の拡大図であり、図2のA部拡大図である。図3に示すように、ラインセンサ27は、複数の光ファイバ29と、保護管31と、樹脂層33とからなる。
【0035】
光ファイバ29は、ブルリアン分布歪計測用の光ファイバ心線である。複数の光ファイバ29は、保護管31に挿通される。保護管31は、例えば外径2mmφ程度の可撓性を有するステンレス管である。保護管31の外周には、樹脂層33が設けられる。樹脂層33は、ラインセンサ27の外径を調整するものである。
【0036】
ここで、ラインセンサ27の外径は、鎧装23bの外径と略同様である。したがって、鎧装23bの一部をラインセンサ27に置き換えても、ラインセンサ27の近傍で、ラインセンサ27、鎧装23a、23bの間に隙間が生じたり、歪を生じたりすることがない。したがって、ラインセンサ27や鎧装23a、23bが断面で位置が動いてしまうことがない。
【0037】
なお、外径2rのラインセンサ27が、外径2rのコアに、巻き付け角度θで巻き付けられたとする。また、海中ケーブル3の初期曲率半径Rが曲率半径Rに変化したとする。この場合のラインセンサ27の歪変化量δは、
δ=(r+r)・cosθ・(1/R−1/R
で表わされる。
【0038】
光ファイバ29は、ラインセンサ27と略同一の歪変化量となるため、光ファイバ29のこの歪変化量を測定することで、海中ケーブル3の曲率を知ることができる。すなわち、海中ケーブル3の長手方向の各部の歪変化をプロットすることで、海中ケーブル3の形状変化を全長に渡って知ることができる。
【0039】
次に、本発明のラインセンサ27を用いたPPP−BOTDA法による海中ケーブル3の歪変化測定原理について説明する。図4は、ブルリアン分布計測器概念図である。本発明では、PPP−BOTDA法(Pulse−PrePump Brillouin Time Domain Analysis)により海中ケーブル3(光ファイバ29)の歪変化が測定される。PPP−BOTDA法では、階段状のパルス光がポンプ光(図中B)として使用される。なお、プローブ光(図中C)は、一定の振幅(ACW)の連続光である。
【0040】
、Cは、それぞれポンプ光およびプリポンプ光の振幅を表す。すなわち、A(t)は、A+C(DPRE−D<t≦DPRE)、C(0<t≦DPRE−D)、0(DPRE<t)となる。
【0041】
ここで、非特許文献(社団法人 電子情報通信学会 信学技報 2008−5 「PPP−BOTDA測定技術を用いた2cm分解能ブルリアン分布測定の実現」)にも示されるように、PPP−BOTDA法においては、Dの大きさの分解能を有し、DPREの時間、幅でフォノンが励起される。
【0042】
したがって、D<<DPREとなるように設定すれば、局所的な情報だけを含み、かつ、スペクトル線波が広がらないという極めて望ましい性質を有する。なお、上記非特許文献によれば、D=0.5ns、DPRE=13nsとした場合に、5cmの分解能を得ることができる。また、D=0.2ns、DPRE=13nsとした場合に、2cmの分解能を得ることができる。
【0043】
図5は、ラインセンサ27を用いた海中ケーブル3の歪測定システム30のブロック図である。歪測定システム30は、ラインセンサ27、測定部35、演算部37、記憶部39、表示部41等からなる。
【0044】
前述の通り、海中ケーブル3の内部に配置されたラインセンサ27からの情報は測定部35に送られる。測定部35では、ラインセンサ27からの光情報が、ラインセンサ27の各部の位置毎の歪の大きさである歪情報に換算される。
【0045】
演算部37は、得られた歪情報を記憶部39に記憶させるとともに、あらかじめ記憶部39に記憶されている、海中ケーブル敷設時の初期の歪状態である基準状態と、測定部35で得られた歪情報とを比較する。すなわち、演算部37では、敷設初期の形状からの歪変化量が算出される。
【0046】
また、演算部37は、得られた歪変化量を記憶部39に記憶させる。さらに、演算部37は、敷設初期からの歪変化量を累積し、海中ケーブルの長手方向の各部の累積歪変化量を算出する。
【0047】
さらに、演算部37では、記憶部39に記憶された基準累積歪変化量を参照し、現時点での累積歪変化量から、各部の海中ケーブルの疲労の進行度を予測する。例えば、基準累積歪変化量に達すると、疲労により海中ケーブルの損傷が予測されるとして(疲労の進行度が100%)、これに対する疲労の進行度を予測する。以上により、海中ケーブルの全長に渡る累積歪変化量および疲労の進行度を知ることができる。
【0048】
なお、演算部37は、必要に応じて、適宜、歪情報、累積歪変化量、疲労進行度の予測等を表示部41に表示させることができる。このような、測定部35、演算部37、記憶部39、表示部41を備える装置としては、記憶媒体および表示手段を有するコンピュータを用いることができる。
【0049】
以上、本実施の形態によれば、海中ケーブル3の鎧装23bの一部が、ラインセンサ27と置き換えられるため、海中ケーブル3の外周部近傍にラインセンサ27を確実に保持することができる。また、ラインセンサ27の樹脂層33の外径が鎧装23bの外径と略同一であるため、鎧装23a、23b、ラインセンサ27が海中ケーブル3内部で動くことがない。
【0050】
また、ラインセンサ27を用いて、PPP−BOTDA法によって海中ケーブル3の歪変化量の測定を行うため、海中ケーブル3の全長に渡って感度良く歪変化量を測定することができる。
【0051】
また、ラインセンサ27は、少なくとも鎧装部の断面において互いに断面の中心を挟んで対称な2個所以上に設けられることを必要とする。さらに望ましくは、中心を挟んで対称な相互に直交する4個所に設けることができ、このようにすることで、海中ケーブル3の曲がり方向によらずに、確実に感度良く海中ケーブル3の歪変化を測定することができる。
【0052】
また、図6(a)に示すように、中心を挟んで対称な相互に直交する4個所の他、4個所それぞれの円周上の中間点にラインセンサ27を配置すれば、中心に対して相互に直行する4個所に、2組のラインセンサを配置することが可能になる。このような配置にすれば、8個所のラインセンサを用いてより高精度のケーブルの歪測定が可能になる。また、直交する1組のラインセンサが損傷しても、他の1組を使用することができる。また、ケーブルの外周に4個所または8個所のラインセンサを用いることで、ケーブルの最大曲げ応力に対応してケーブルに生じる最大曲げ歪みが生じるケーブル断面円周上の位置を推測することができる。
【0053】
尚、ケーブルに種々の曲げ応力を付与する曲げ実験を行い、それぞれの曲げ応力に曲げ応力に対応して得られる各曲げ状態における、ケーブル断面の円周方向の歪分布を求めて、これらの歪分布のデータとケーブルの外周に配置した4個所または8個所のラインセンサによる曲げ歪のデータを比較することにより、ケーブルに働く応力状態を推定したり、円周上の最大曲げ応力の位置を確認することができる。
【0054】
さらに、ここで、海中ケーブルの鎧装は、最外層と内層が相互に逆方向にらせん巻きされており、図6(b)に示すように、内外層のそれぞれの鎧装に対してラインセンサ27を配置してもよい。たとえば、最外層の鎧装中に配置した4個所のラインセンサ27と、これと隣接する内層側の鎧装中のラインセンサ27とが、海中ケーブルの長手方向において周期的に表れるラインセンサ27同士の接触位置において、隣接する23a、23b位置に配置したラインセンサ27相互の歪の差分から、隣接するラインセンサ同士の中心からの距離の差に相当する歪成分を補正して除去することで、ケーブルに生じるその他の歪成分を求めることもできる。このようにすることで、ケーブルの曲げ歪だけでなく、ケーブルの異常により生じる他の歪成分も求めることができ、ケーブルの異常をケーブル全長に周期的に検出することできる。
【0055】
また、演算部35において、敷設初期の歪状態を基準状態として、基準状態からの歪変化量を算出することで、より正確に海中ケーブルの動きを把握することができ、歪変化量を累積することで疲労の進行を予測することができる。さらに、演算部において、曲げ歪のケーブル断面における対象性を利用して、前記4個または8個の複数のラインセンサの測定値から、ケーブル断面の最大曲げ歪を推定することができる。また、前記径方向に隣接するラインセンサによる歪測定値を用い、ケーブルに生じる異常を検出して、ケーブル断面に生じる曲げ歪を補正することができる。
【0056】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0057】
1………洋上浮体設備
3………海中ケーブル
5a、5b、5c………接続部
7………海底ケーブル
9………ブイ
11………係留索
13………電力用線心
15………導体部
17………絶縁部
19………シールド層
21………遮水層
23a、23b………鎧装
25………防食層
27………ラインセンサ
29………光ファイバ
30………歪測定システム
31………保護管
33………樹脂層
35………測定部
37………演算部
39………記憶部
41………表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上浮体設備用の海中ケーブルの歪測定方法であって、
導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、
複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記海中ケーブルの軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、
前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、
を具備し、
光ファイバと、前記光ファイバが挿通される保護管と、前記保護管の外周に形成される樹脂層とを有するラインセンサを用い、
前記線材の一部が前記ラインセンサに置き換えられ、
前記ラインセンサを用いて、PPP−BOTDA法によって前記海中ケーブルの全長に渡って高分解能の歪変化を測定することを特徴とする海中ケーブルの歪測定方法。
【請求項2】
前記ラインセンサの前記保護管の外周に形成された樹脂層の外径は、前記線材の外径と略同一に設定されていることから鎧装とラインセンサの間に隙間が生じないことを特徴とする請求項1記載の海中ケーブルの歪測定方法。
【請求項3】
前記ラインセンサは、前記海中ケーブルの断面において互いに断面の中心を挟んで対称な位置であって、相互に直交する4個所に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の海中ケーブルの歪測定方法。
【請求項4】
前記ラインセンサは、前記中心を挟んで対称な相互に直交する4個所の他、前記4個所それぞれの円周上の中間点に、さらに4個のラインセンサを配置することを特徴とする請求項3に記載の海中ケーブルの歪測定方法。
【請求項5】
洋上浮体設備用の海中ケーブルの歪測定システムであって、
導体上に絶縁層、シールド層、および遮水層が形成される電力用線心と、
複数本の前記電力用線心の全体の外周側に、前記電力用線心の全体の外周の周方向に複数本の線材が配置され、前記線材が前記海中ケーブルの軸方向に螺旋状に設けられて形成される鎧装部と、
前記鎧装部の外周側に形成される保護層と、
光ファイバと、前記光ファイバが挿通される保護管と、前記保護管の外周に形成される樹脂層とを有するラインセンサと、
前記ラインセンサを用いて、PPP−BOTDA法によって前記海中ケーブルの全長に渡って歪変化を測定する測定部と、
前記測定部で測定された歪情報を記憶する記憶部と、
前記歪情報の演算を行う演算部と、を有し、
前記ラインセンサの前記樹脂層の外径は、前記線材と略同一となるように設定されており、前記線材の一部が前記ラインセンサに置き換えられ、
前記演算部は、前記海中ケーブルの敷設初期の歪状態を基準状態として、前記基準状態からの歪変化量を算出して、前記記憶部に記憶させることを特徴とする海中ケーブルの歪測定システム。
【請求項6】
前記演算部は、前記記憶部に記憶された歪変化量を累積し、前記海中ケーブルの疲労寿命を予測することを特徴とする請求項5記載の海中ケーブルの歪測定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−36876(P2013−36876A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173726(P2011−173726)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】