説明

海中ブイ

【課題】内部に中空球体を収納する必要がなく、外殻だけで耐水圧性及び耐疲労性を保つことを可能にした海中ブイを提供する。
【解決手段】海中ブイ1の外殻5を構成する内層ゴム2と外層ゴム4との間に配置された繊維補強層3を、強度が13cN/dtex以上の高強度繊維を主成分とし、かつ上撚り係数αが1000〜2000である撚りコードから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海中ブイに関し、更に詳しくは、内部に中空球体を収納する必要がなく、外殻だけで耐水圧性及び耐疲労性を保つことを可能にした海中ブイに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、洋上浮体式石油生産・貯蔵・積出設備(FPSO:Floating Production Storage and Offloading Unit)や洋上浮体式貯蔵・ガス化設備(FSRU:Floating Storage and Re‐gasification Unit)などの洋上浮体式プラントは、一端部が海底に固定された複数の係留索の他端部に接続されることにより、波浪や海流に流されることなく所定の位置に係留されるようになっている。それら係留索の途中には、係留索と洋上浮体式プラントとの接続・切り離し作業を容易にすると共に、係留索の自重による洋上浮体式プラントへの張力付加を軽減するために、係留索を海中に保持する海中ブイが固定されている。この海中ブイは、水圧に耐えて一定の浮力を維持する必要があるため、剛性の高い金属や樹脂などを外殻とする中空構造となっていた。
【0003】
しかし、海上が荒れるなどの原因により海中ブイが所定の水深よりも深く沈むと、外殻に大きな水圧が加わって塑性変形して内容積が減少するため、浮力が失われて本来の機能を十分に果たさなくなってしまうという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1は、外殻をゴム材と繊維補強層との積層体から構成し、その内部に見掛け比重が0.8以下の多数の中空球体を遊動可能に収納することで、大きな水圧によって外殻が変形した場合でも浮力を確保できるようにした可撓性ブイを提案している。
【0005】
しかし、従来の可撓性ブイの外殻は、一般に繊維補強層がポリエステル繊維コードから構成されているので、荒海にも耐える耐久性を維持するためには、何層にも繊維補強層を積層する必要があり、しかも多数の中空球体を収納しなければならないため、ブイの直径が大型化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−126059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、内部に中空球体を収納する必要がなく、外殻だけで耐水圧性及び耐疲労性を保つことを可能にした海中ブイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の海中ブイは、内層ゴムと外層ゴムとの間に少なくとも一層の繊維補強層を配置した構成からなる外殻を備えた海中ブイにおいて、前記繊維補強層のうち少なくとも一層を、強度が13cN/dtex以上の高強度繊維を主成分とする撚りコードで構成すると共に、この撚りコードの下記の式で定義される上撚り係数αを1000〜2000にしたことを特徴とするものである。
【0009】
α=N×(T)1/2
但し、N:上撚り数(回/10cm)、T:総繊度(dtex)
【0010】
上記の繊維補強層は、撚りコードを多数本平行に引き揃えたすだれ織、又は撚りコードを経糸に用いた織布から構成することが望ましい。
【0011】
高強度繊維としては、ポリケトン繊維、アラミド繊維又はPBO繊維を用いることが望ましい。
【0012】
本発明の海中ブイは、洋上浮体式プラントを係留する係留索用の浮力体として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の海中ブイによれば、外殻内に配置される繊維補強層を、強度が13cN/dtex以上の高強度繊維を主成分とする撚りコードで構成すると共に、その撚りコードの上撚り係数を1000〜2000にしたので、強度及び耐疲労性が向上し、従来よりも繊維補強層の層数を少なくし、外殻を小型化しながら外殻内に中空球体を収納する必要性をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態からなる海中ブイの断面図である。
【図2】図1に示す海中ブイの使用例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態からなる海中ブイを示す。
海中ブイ1は、内層ゴム2の外側に繊維補強層3と外層ゴム4とを順に積層した中空の略俵形状をした外殻5を備えており、その上下端にそれぞれ係留索6a、6bを接続する接続部7a、7bを設けている。なお、図示の例では繊維補強層3が一層であるが、必要により層間に中間ゴム層を介在させて複数の繊維補強層3を設けるようにしてもよい。
【0017】
この海中ブイ1は、図2に示すように、FPSOやFSRUなどの洋上浮体式プラント8側に連結された係留索6aと、海底9側に固定された係留索6bとの中間部に接続され、洋上浮体式プラント8を一定位置に係留する手段の構成部品として好ましく使用される。
【0018】
このような海中ブイ1において、繊維補強層3(複数の場合には、そのうちの少なくとも一層)は、強度が13cN/dtex以上の高強度繊維を主成分とする撚りコードから構成され、しかもその撚りコードは、上撚り係数αが1000〜2000に設定されている。
【0019】
なお、撚りコードの上撚り係数αは、以下の(1)式により定義される値である。
α=N×(T)1/2 ---(1)
但し、N:上撚り数(回/10cm)、T:総繊度(dtex)
【0020】
上撚り係数αが1000未満だと撚りコードの耐屈曲性が低下するため繊維補強層3の耐疲労性が低下し、2000超だと撚りコードの強度が低下するため繊維補強層3の耐水圧性が低下する。
【0021】
なお、繊維補強層3が複数の場合には、上記の高強度繊維を含まない繊維補強層3の上下に高強度繊維を含む繊維補強層3を積層したり、あるいは、全ての繊維補強層3のうち最内層又は最外層のみに高強度繊維を含む繊維補強層3を配置するような構成が例示される。
【0022】
本発明において、繊維補強層3を構成する撚りコードは、強度が13cN/dtex以上であって、かつ好ましくは弾性率が47.5GPa以上である高強度繊維を主成分として形成されている。撚りコードは高強度繊維だけで構成されているのがよいが、必要により強度が13cN/dtex未満の繊維を混合した複合繊維コードであってもよい。但し、複合繊維コードにする場合であっても、撚りコードにおいて高強度繊維が主成分として含まれている必要がある。なお、高強度繊維が主成分であるとは、高強度繊維が50重量%以上を占める構成であることを意味する。
【0023】
本発明に使用される高強度繊維は、強度が13cN/dtex以上の繊維であれば特に限定されるものではないが、好ましくはポリケトン繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)繊維などの高強度でかつ高弾性率を有する有機繊維を例示することができる。一般に、これらの高強度繊維は高弾性率を有するので、曲げ荷重に対して耐久性が劣るため、撚りコードにしたときの撚り係数αを上述した1000〜2000の範囲にすることが必要である。撚り係数αが1000よりも低いと、屈曲に対する耐疲労性が低下する。また、2000を超えると、耐疲労性は十分であるが高強度繊維の高強度特性を十分に活用することができなくなる。
【0024】
複合繊維コードにおいて、高強度繊維と併用される他の繊維としては、タイヤコードなどの産業用コードとして使用されているナイロン繊維やポリエステル繊維などの有機繊維が好ましく使用される。
【0025】
撚りコードの撚り構造としては、複数本の下撚り繊維糸を上撚りをかけて撚り合わせるようにした1×n構造が好ましい。特に下撚り糸を下撚り方向と逆方向の上撚りをかけて撚り合わせた諸撚り糸がよい。もちろん複数本の撚り糸を更に複数本撚り合わせるようにしたn+m構造の芯鞘コードにすることもできる。
【0026】
複合繊維コードでは、上記のような撚り構造において、1×n構造の複数本の下撚り糸のうちの1本又は数本に、強度が13cN/dtex未満の汎用繊維を使用すればよい。また、n+m構造の芯鞘コードにおいて、高強度繊維は芯成分又は鞘成分のいずれであってもよいが、好ましくは芯成分に使用するのがよい。芯成分に使用することにより、高強度繊維の強度を有効に活かして高強力コードにすることができる。
【0027】
繊維補強層3は、撚りコードを経糸に用いた織布から構成することができるが、上述した撚りコードを多数本平行に引き揃えたすだれ織から構成することが望ましい。繊維補強層3をすだれ織にすることにより、複数の繊維補強層3を積層して設ける時に、隣り合う繊維補強層3同士の撚りコードが交差するように角度をつけることで、耐水圧性を向上させることができる。
【実施例】
【0028】
ポリケトン繊維、アラミド繊維及びPBO繊維をそれぞれ単独で使用し、表1に示すように上撚り係数αを異ならせた撚りコード(実施例1〜9、比較例1〜6)を製造し、それら撚りコードの強度及び耐久性の測定結果に基づいて、各撚りコードから海中ブイの繊維補強層3を構成したときの耐水圧性及び耐疲労性を評価した。
【0029】
[耐水圧性]
無撚りの補強コードの強度Yに対する有撚りの補強コードの強度Xの比(X/Y)である強度利用率により評価した。強度利用率が高いほど、有撚りの補強コードの強度は、無撚りの補強コードに対して高い強度を保持していることになるため、耐水圧性に優れていることを示す。強度利用率が60%以上となる場合を○で、60%未満となる場合を×で、それぞれ示した。なお、補強コードの強度は、JIS L1017に規定する「引張り強さ及び伸び率」に基づき測定した。
【0030】
[耐疲労性]
JIS L1017に規定する「ディスク疲労強さ」に基づき算出した強度保持率(圧縮・曲げ耐久率)により評価した。強度保持率が高いほど耐疲労性に優れていることを示す。強度保持率が70%以上となる場合を○で、70%未満となる場合を×で、それぞれ示した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示す実験結果から、実施例1〜9の撚りコードで構成した繊維補強層を使用した海中ブイは、耐水圧性及び耐疲労性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0033】
1 海中ブイ
2 内層ゴム
3 繊維補強層
4 外層ゴム
5 外殻
6a、6b 係留索
7a、7b 接続部
8 洋上浮体式プラント
9 海底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層ゴムと外層ゴムとの間に少なくとも一層の繊維補強層を配置した構成からなる外殻を備えた海中ブイにおいて、
前記繊維補強層のうち少なくとも一層を、強度が13cN/dtex以上の高強度繊維を主成分とする撚りコードで構成すると共に、この撚りコードの下記の式で定義される上撚り係数αを1000〜2000にした海中ブイ。
α=N×(T)1/2
但し、N:上撚り数(回/10cm)、T:総繊度(dtex)
【請求項2】
前記繊維補強層が、前記撚りコードを多数本平行に引き揃えたすだれ織からなる請求項1に記載の海中ブイ。
【請求項3】
前記繊維補強層が、前記撚りコードを経糸に用いた織布からなる請求項1に記載の海中ブイ。
【請求項4】
前記高強度繊維が、ポリケトン繊維、アラミド繊維又はPBO繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の海中ブイ。
【請求項5】
洋上浮体式プラントを係留する係留索用の浮力体である請求項1〜4のいずれかに記載の海中ブイ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−234990(P2010−234990A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86098(P2009−86098)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】