説明

海中設置用構造体及び水産資源の賦活方法及び防草方法

【課題】
従来、コンクリート表面や木材表面に動植物が定着し育成することはやや困難であって、定着繁殖するには多くの時間を要し、特に甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るという観点では効率が悪かった。
【解決手段】
甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成が活発で且つその成長が早く、これら海棲生物の養殖漁業として有効であり、漁業資源の賦活に寄与する海中設置用構造体を得ることが出来、また漁業資源の賦活を実現し、さらに使用後の残渣を防草用として再活用することが可能となる方法を、海中に設置する構造体として少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなる構造体を用いるという簡便な方法によって実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に海中に設置して甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るための構造体及びこれを利用した水産資源の賦活方法及び防草方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海中に設置して海藻類や魚類の定着育成を図るための構造体として、コンクリートブロック、木材などを海中に投入、沈下させることが行われていた。また、井桁状の構造物や不要になった船舶なども用いられていた。
【特許文献1】特開2005−006625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の方法によっては、コンクリート表面や木材表面に動植物が定着し育成することはやや困難であって、定着繁殖するには多くの時間を要し、効率が悪かった。また、木材にはその木質を摂食するヨコエビ類やフナクイムシ類などが成育し、魚類の定着繁殖に資する可能性があるが、甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るという観点では効果発現は限定的であった。
【0004】
また、従来の方法によっては甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図り、漁業資源の賦活に寄与するという経済効果に対して、非常に経済効率が悪かった。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、海中に設置して甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るための構造体であって、該構造体は少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなる。
前記の方法を用いる事により、簡便な方法によって安価に非常に甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成が容易く、これら海棲生物の養殖漁業として有効であり、漁業資源の賦活に寄与する海中設置用構造体を得ることが出来、また漁業資源の賦活を実現し、さらに使用後の残渣を防草用として再活用することが可能になり、以って産業に多大なる貢献をする事が出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
簡便な方法によって非常に甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成が活発で且つその成長が早く、これら海棲生物の養殖漁業として有効であり、漁業資源の賦活に寄与する海中設置用構造体を得ることが出来、また漁業資源の賦活を実現し、さらに使用後の残渣を防草用として再活用することが可能となる方法を、海中に設置する構造体として少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなる構造体を用いることにより実現した。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の1実施例の略図である。本実施例では、海中に設置して甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るための構造体として少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなる構造体を、ホタテの養殖カゴの上部に懸垂して海中に投入設置して用いた。ここで、図中11は植物性材料がネット状の袋に収納されてなる構造体、12は育成した海棲生物を示す。なおここでは、模式的にナマコを表しているが、実験では毛ガニやクリガニをはじめとするカニ類・エビ類などの甲殻類、ホタテやムラサキイガイをはじめとする貝類、ナマコやホヤなどが定着していることが確認されている。
【0008】
ここで、林産物や穀類副産物などの植物性材料が海藻類の付着育成及び/又は魚類の定着育成に与える影響について述べる。一般に、漁場として好適な沿岸海域には陸上から植物性成分が落ち葉や流木をはじめとする様々な形態で供給され、これにより育成する生物を捕食して魚類が定着成長する。この実例として、北海道立水産孵化場の下田和孝氏らは論文「森林からサクラマス幼魚への物質移動経路の推定」に於いて、ヨコエビ類及び鱗翅目幼虫を介して森林から供給される植物由来の栄養がサクラマスの成長を支えていることを示した。(平成15年3月刊、重点領域特別報告書「森林が河口域の水産資源に及ぼす影響の評価」60ページより77ページ)
【0009】
また、北海道立中央水産試験場の櫻井泉氏らは論文「濃昼川河口域の落ち葉だまりに生息するトンガリキタヨコエビとクロガシラガレイ若齢魚の生物生産」に於いて、クロガシラガレイの成長に寄与する栄養のうち20%以上がトンガリキタヨコエビを介して落ち葉を主とする植物由来の栄養に依存していることを示した。(平成15年3月刊、重点領域特別報告書「森林が河口域の水産資源に及ぼす影響の評価」103ページより116ページ)
【0010】
筆者らは、以前より緑化工事、土木工事などで利用する少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなる構造体に関してその用途等を鋭意研究してきたが、前掲の論文等を鑑みて今般これを海中で活用することを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
本実施例では、網状の袋を用意し、これに少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料をこの袋に収納し、海中設置用構造体を得た。この海中設置用構造体には前記文献にあるような生物に限らず多くの海棲生物が集まり、定着育成した。特に実験では有用な海産物として毛ガニやクリガニをはじめとするカニ類・エビ類などの甲殻類、ホタテやムラサキイガイをはじめとする貝類、ナマコやホヤなどの定着育成が確認されている。
【0012】
前記のようにして製造した海中設置用構造体を、ホタテの養殖カゴの上部に懸垂して海中に投入し設置を行った。ここで、本実施例に於いては本発明に係る海中設置用構造体を懸垂して設置しているが、袋内に重しとしてコンクリートや石、スラグなどの金属含有物などを収納する等を行って、海中に沈潜させて設置してもよい。
【0013】
本発明の方法によって形成された海中設置用構造体及びこれを用いた水産資源の賦活方法は、海中で海棲生物の定着がよく、且つその成長も早く、非常に有効であることが判明した。また、本発明の海中設置用構造体に於ける植物性材料はそれが破砕収納されていることとも相俟って、甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成に与って効果があり、有用な海産物として毛ガニやクリガニをはじめとするカニ類・エビ類などの甲殻類、ホタテやムラサキイガイをはじめとする貝類、ナマコやホヤなどの水産資源の賦活に非常に有効であった。
【実施例2】
【0014】
次に、本発明に係る他の実施の形態として、少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなり、該構造体を連結して水面に浮遊させることによって浮島状の構造を為すようにして用いた。
【0015】
本実施例の方法によれば、海中で海棲生物の定着がよく、且つその成長も早く、非常に有効であることが判明した。毛ガニやクリガニをはじめとするカニ類・エビ類などの甲殻類、ホタテやムラサキイガイをはじめとする貝類、ナマコやホヤなどの幼生が付着して成長するにあたり、魚類等の捕食を避けて成長するために与って効果があり、水産資源の賦活に非常に有効であった。また、水面に浮遊して用いることで、生け簀等の限定された海面等でも使用出来、水産資源の賦活に非常に有効であった。
【実施例3】
【0016】
次に、本発明に係る他の実施の形態として、少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなり、該構造体を連結して該構造体を連結したうえで少なくとも一端に重量物を連結し、海中で深さ方向に延展した構造を為し、これにより甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るようにして用いた。
【0017】
図2は、本実施例に係る水産資源の賦活方法の例を示す図である。ここで図中21は植物性材料がネット状の袋に収納されてなる構造体、22は一端に連結した重量物を示す。本実施例の方法によれば、海中で深さ方向に本発明に係る海中設置用構造体を延展して設置することが出来、海中で甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成がよくまた面積効率にも優れ、非常に有効であることが判明した。
【0018】
また、本発明の海中設置用構造体に於ける植物性材料はそれが破砕収納されていることとも相俟って、甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成に与って効果があり、有用な海産物として毛ガニやクリガニをはじめとするカニ類・エビ類などの甲殻類、ホタテやムラサキイガイをはじめとする貝類、ナマコやホヤなどの水産資源の賦活に非常に有効であった。
【実施例4】
【0019】
次に、本発明に係る他の実施の形態として、少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなり、該構造体を甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成に使用し、一定期間活用後海中から引き上げて有用な海棲生物を捕収・水揚げした後、海水に一定期間浸漬され塩分が浸透し且つ栄養成分の多くを海棲生物に捕食或いは海棲微生物に分解された残渣の木材チップ等植物性材料を乾燥して、陸上の造園、土木工事や庭園、道路周辺等の防草に利用した。
【0020】
本発明の方法によれば、チップ等の植物性材料が栄養成分の多くを海棲生物に捕食或いは海棲微生物に分解された残渣であるため栄養成分が少なく堆肥化が遅く、且つ海水に一定期間浸漬されているため塩分が浸透しており、一般に防草用途で用いられるチップ等に較べて非常に防草効果が大きかった。
【0021】
ここで、本発明にかかる防草方法は、該材料を散布するだけでも効果があるが、これをネット状の袋に再度収納して用いることにより、チップ等の材料の飛散を防止し、且つ美観にも優れた防草を実現させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
簡便な方法によって安価に非常に甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成が容易く、これら海棲生物の養殖漁業として有効であり、漁業資源の賦活に寄与する海中設置用構造体を得ることが出来、また漁業資源の賦活を実現し、さらに使用後の残渣を防草用として再活用することが可能になり、以って産業に多大なる貢献をする事が出来るものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる海中設置用構造体の一例を示す略図である。(実施例1)
【図2】本発明にかかる水産資源の賦活方法の一例を示す略図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0024】
11 本発明にかかる構造体
12 育成した海棲生物
21 本発明にかかる構造体
22 一端に連結した重量物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に設置して甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るための構造体であって、該構造体は少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納されてなる事を特徴とする海中設置用構造体。
【請求項2】
海中に設置して甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図るための構造体を活用した水産資源の賦活方法であって、該構造体は少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納された海中設置用構造体を用い、構造体表面及び内部に甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の幼生を定着せしめ、その定着率及び残存率を向上させることを特徴とする、海中設置用構造体を活用した水産資源の賦活方法。
【請求項3】
海中に設置して甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の育成を図るための構造体を活用した水産資源の賦活方法であって、該構造体は少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納された海中設置用構造体を用い、構造体内部に甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の幼生を植物性材料と共に収納し、袋内で成長させることを特徴とする、海中設置用構造体を活用した水産資源の賦活方法。
【請求項4】
海中に設置して甲殻類・節足動物及び/又は貝類・軟体動物及び/又は腔腸動物及び/又は原索動物の定着育成を図る或いは魚類の定着育成及び/又は魚類の餌となる生物の育成増殖及び/又は海藻類の付着育成を図るための少なくとも間伐材または建設廃材を原料とする木材チップを含む林産物や穀類副産物などの植物性材料がネット状の袋に収納された海中設置用構造体を海中で使用した後、該構造体を陸上に引上げ、内容物を乾燥した上で、防草用として利用することを特徴とする、海中設置用構造体を活用した防草方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−129913(P2007−129913A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323293(P2005−323293)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(301011604)有限会社ノースグリーン (12)
【Fターム(参考)】