海域制御構造物及びその施工方法
【課題】所要の消波性能を得ると共に、コスト高を抑制し、しかも、水面上の景観を改善することができる海域制御構造物を提供する。
【解決手段】本海域制御構造物1は、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロック2と、該箱型ブロック2の陸側壁部5及び沖側壁部6に設けられる透過スリット7と、箱型ブロック2の上面から連続して設けられ、平均海面から突出する天端部3とから構成される。これにより、所要の消波性能を得ると共に、コスト高を抑制し、しかも、水面上の景観を改善することができる。
【解決手段】本海域制御構造物1は、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロック2と、該箱型ブロック2の陸側壁部5及び沖側壁部6に設けられる透過スリット7と、箱型ブロック2の上面から連続して設けられ、平均海面から突出する天端部3とから構成される。これにより、所要の消波性能を得ると共に、コスト高を抑制し、しかも、水面上の景観を改善することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸の侵食を防ぎ、また消波性能を得るために、海岸から沖側に所定距離離れた海域に海岸線に沿って配置される海域制御構造物及びその施工方法に関するものである。なお、本発明の海域制御構造物は、水深5m〜15m程度の海域へ設置されるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、海岸の侵食を防ぐ目的や消波性能を得るために、海岸から沖側に所定距離離れた海底には海岸線に沿って海域制御構造物が配置される。
従来の海域制御構造物としては、主に以下に説明する(1)離岸堤、(2)人工リーフ、(3)有脚式離岸堤、(4)没水型離岸堤の構造方式が採用されているが、それぞれの構造方式に対して多くの課題が残されている。
(1)離岸堤は、水深が3m〜10m程度の海底に設置されるもので、主に異形ブロックを海岸線に沿って平行に積み上げた構造であり、長年に亘って侵食対策に多大な実績を残している。
しかしながら、この離岸堤は、天端面の高さを平均海面よりも十分に大きく(H.W.L:高潮位から突出する高さが1m〜2m)設定する必要があり、水面上の景観が良くない。しかも、ブロックの散乱等により漁業活動を阻害することがある。
(2)人工リーフは、水深が3m〜5mの海底に設置されるもので、主に石材を積層して天端幅(海岸線に直交する方向の幅で50m〜100m)が広い潜堤構造であり、没水構造であるために水面上の景観を阻害することはないが、漁業者等にとって天端が目視できず危険性があることから天端の水深を十分確保すると、天端幅をさらに広く設定する必要があり、建設コストの高騰につながる。しかも、人工リーフでは、高波浪が続くと、海岸線付近で平均水位が上昇する場合がある。
【0003】
(3)有脚式離岸堤は、水深が10m程度の海底に設置されるもので、ブロック体を複数の杭により海底に固定して構成されるもので、杭式構造で耐波安定性があり、最近では、所要の消波性能を有し、防災だけではなく環境面(海岸の侵食)、利用面(離岸距離の大)を併せて考慮すると、水深10m程度の海域には、この有脚式離岸堤が採用される場合もある。
しかしながら、この有脚式離岸堤もその天端面が平均海面よりも突出しているため、景観の改善が要求されている。また、有脚式離岸堤では、ブロック体を所定海域まで運搬するため、ブロック体の大きさに準じた起重機船を手配する必要があり、しかも、離岸堤に比べて設置水深が深くなりコストが高騰するため、コストの大幅な削減が要求されている。
(4)没水型離岸堤として柔構造潜堤(フレキシブルマウンド)が、ある地域で実用化されている。
しかしながら、この柔構造潜堤では、潮位差が大きい海域や海底勾配が急な海岸では
消波性能が低下したり、堤体規模が大きくなるほど現地への適用が困難になる場合がある。
【0004】
なお、上述した(3)有脚式離岸堤の従来技術として特許文献1には、杭基礎に箱形の堤体が海底面との間に適宜間隙部をもって設置され、堤体は鉛直壁と傾斜壁とからなる前面壁、中間壁、後面壁、側面壁、底板および頂板からなり、鉛直壁および傾斜壁、中間壁、後面壁には透過スリットが開口され、底板および頂板には開口部が形成され、傾斜壁の透過スリットが中間壁の透過スリットよりも上部で、かつ中間壁の上部壁面に対向する箇所に開口された透過型海域制御構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−262890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した(1)〜(4)の構造方式では、海岸の侵食を防ぎ、所要の消波性能を得ることができるが、コスト高を抑制できず、しかも、水面上の景観が悪化し、さらには、漁業者等の船舶への配慮が欠けている。
また、上述した特許文献1の透過型海域制御構造物では、堤体に傾斜壁が形成されているため、波のはい上がりが大きくなり、所定の透過率を得るための天端高を直立堤に対して相対的に高くする必要がある。しかも、傾斜壁を形成するため、起重機船での吊り作業時のバランスをとるための工夫も必要となる。その結果、天端高を高くする必要があるため水面上の景観を阻害する程度が大きく、また施工面で特に工費に関わる吊り荷作業面で労力を要することになり、多くの課題を残している。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、所要の消波性能を得ると共に、コスト高を抑制し、しかも、水面上の景観を改善することができる海域制御構造物及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した海域制御構造物に係る発明は、海岸線に沿う海域に配置される海域制御構造物であって、該海域制御構造物は、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロックと、該箱型ブロックの陸側壁部及び沖側壁部に設けられる透過スリットと、前記箱型ブロックの上面から連続して設けられ、平均海面から突出する天端部と、から構成されることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、消波対象波に対して所要の消波性能を発揮し、海域制御構造物背後の静穏域の確保が可能になる。
また、請求項1の発明では、箱型ブロックは上方及び下方が開放され、陸側壁部及び沖側壁部に透過スリットが形成されるので、箱型ブロックの受ける水平方向からの水平波力を従来の不透過堤体に比べて小さくすることができ、箱型ブロックの受ける揚圧力も極めて小さくすることができる。これにより、海域制御構造物全体の容積を縮減することが可能になり、大幅なコスト削減が実現できる。しかも、箱型ブロックの天端部を除く部分は平均海面下に没水されているために、水面上の景観が改善される。
【0009】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記天端部は、前記箱型ブロックの陸側壁部の海岸線に沿う全範囲に亘って形成されることを特徴とするものである。
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記箱型ブロックの上面の平均海面からの水深と、前記天端部の平均海面からの天端高とは略同じに設定されることを特徴とするものである。
請求項2及び3の発明では、特に、箱型ブロックの上面の平均海面からの水深と、箱型ブロックの天端部の平均海面からの天端高とは略同じに設定され、その値は消波対象波高の1/2程度に設定されるので、所要の消波性能を確実に得ることができる。また、箱型ブロックの上面を水上から僅かに視認することができるので、漁業者等に海域制御構造物を配置した海域を認識させることができる。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれかに記載した発明において、前記箱型ブロックは、上下方向中間部分で分割され、前記天端部を有する上部箱型ブロックと、下部箱型ブロックとから構成されることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、箱型ブロックを設置海域まで運搬する起重機船に要するコストを削減することが可能になり、設置作業も容易にすることができる。
【0011】
請求項5に記載した海域制御構造物の施工方法に係る発明は、請求項1〜4のいずれかの海域制御構造物を海岸線に沿う海域に設置する施工方法であって、前記海域制御構造物を海中に設置するための複数の杭を位置決めする位置決め部材を海面に設置するステップと、各杭を前記位置決め部材により位置決めして海底に打設すると共に、各杭から前記位置決め部材を撤去するステップと、海底に打設された各杭に、前記海域制御構造物に設けた対応する杭用孔をそれぞれ挿入して該海域制御構造物を海中に設置するステップと、を含むことを特徴とするものである。
請求項5の発明では、特に、海域制御構造物を海中に設置するための複数の杭を海底に打設する際、各杭を位置決めするための位置決め部材を使用するので、各杭を所定位置に正確に、また容易に打設することができる。
なお、位置決め部材は、杭の本数に対応した杭導用鋼管を所定位置に配置し、各杭導用鋼管を互いに連結部材にて連結したものが採用される。また、この位置決め部材は、海底に打設された複数のH鋼杭等により海面上に支持される。
【0012】
請求項6に記載した発明は、請求項5に記載した発明において、前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記各杭の上端に設けた上下方向にスライド自在な確認用スライド部材を平均海面から突出させることで各杭の位置を確認することを特徴とするものである。
請求項6の発明では、各杭の上端は平均海面下に没水されているが、各杭の上端に設けられ、最も上方にスライドさせた確認用スライド部材を確認することで、各杭に海域制御構造物の杭用孔を容易に挿入することができる。その後、確認用スライド部材は海域制御構造物の杭用孔の天面で押し込まれて下限位置までスライドする。
【0013】
請求項7に記載した発明は、請求項5または6に記載した発明において、前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記海域制御構造物の各杭用孔と各杭との間にグラウトを充填して、前記海域制御構造物を各杭に固定することを特徴とするものである。
請求項7の発明では、海域制御構造物の各杭用孔の内周面と各杭の外周面との間にグラウトを充填することで、海域制御構造物を各杭に確実に固定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の海域制御構造物の発明によれば、所要の消波性能を得ることができ、しかも、海域制御構造物の受ける水平波力及び揚圧力を従来の構造物よりも小さくすることができるので、海域制御構造物全体の容積を縮減することが可能になり、大幅なコスト削減が実現できる。さらに、本発明の海域制御構造物では。箱型ブロックの天端部を除く部位は平均水面下に没水されているために、水面上の景観が改善される。
また、本発明の海域制御構造物の施工方法の発明によれば、特に、複数の杭を海底に打設する際、位置決め部材を使用するので作業を正確に、また容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る海域制御構造物が海中に設置された状態の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る海域制御構造物の斜視図である。
【図3】図3は、(a)は本海域制御構造物の箱型ブロックの平面図で、(b)は沖側から見た正面図で、(c)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図4は、本海域制御構造物による消波メカニズムを示す図である。
【図5】図5は、本海域制御構造物と従来の不透過堤体とが受ける水平波力の比較図である。
【図6】図6は、透過率(KT)及び反射率(KR)とB/Lとの関係図である。
【図7】図7は、透過率(KT)及び反射率(KR)と波形勾配(HI/L)との関係図である。
【図8】図8は、基礎台上の基礎枠体を示す斜視図ある。
【図9】図9は、基礎台上の下部箱型ブロックを示す斜視図である。
【図10】図10は、位置決め部材を示す斜視図である。
【図11】図11は、位置決め部材を海面に設置した図である。
【図12】図12は、位置決め部材を介して鋼管杭を海底に打設する様子を示す図である。
【図13】図13は、各鋼管杭の仮受けブラケットの高さを調整する様子を示す図である。
【図14】図14は、各鋼管杭を介して下部箱型ブロックを海中に設置する様子を示す図である。
【図15】図15は、各鋼管杭の上端に確認用スライド部材を取り付けた図であり、(a)は確認用スライド部材の上限位置を示し、(b)は確認用スライド部材の下限位置を示している。
【図16】図16は、各鋼管杭を介して上部箱型ブロックを下部箱型ブロック上に設置する様子を示す図である。
【図17】図17は、箱型ブロックに上部グラウト充填管、水抜き用管及びグラウト充填管が取り付けられている斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図17に基いて詳細に説明する。
まず、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の構造を図1〜図3に基いて説明する。
本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は、海岸線に沿う海域に配置されるもので、図1及び図2に示すように、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロック2と、該箱型ブロック2の陸側壁部5及び沖側壁部6に設けられる透過スリット7と、箱型ブロック2の上面から連続して設けられ、平均海面(M.S.L)から所定天端高h1で突出する天端部3とから構成される。
また、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は、上述した箱型ブロック2がその長辺側が海岸線に沿うように複数組配列されて構成される。なお、平均海面(M.S.L)は平均的な海面水位であり、消波対象海域の水深に対する水位である。
【0017】
箱型ブロック2は、コンクリートで構成され、上部箱型ブロック2aと下部箱型ブロック2bとからなる。
上部箱型ブロック2aは、図1〜図3に示すように、内部が空洞化されると共に上方及び下方が開放される直方体で構成される。詳細には、上部箱型ブロック2aは、陸側に面する所定厚の陸側壁部5と、該陸側壁部5に対向して沖側に面する所定厚の沖側壁部6と、陸側壁部5と沖側壁部6とを一体的に接続する一対の側方壁部8、8と、陸側壁部5の海岸線に沿う全範囲に亘って上方に延びる天端部3とから構成される。また、上部箱型ブロック2aの内部には、十字状の仕切壁部9が対応する陸側壁部5、沖側壁部6、各側方壁部8、8に一体的に接続されて、内部が4室に区画されている。
【0018】
なお、天端部3の上部箱型ブロック2aの上面からの高さは、下部箱型ブロック2b上に上部箱型ブロック2aが設置された状態において、平均海面から突出するように設定されている。天端部3の詳細な高さは後で詳述する。なお、本実施の形態では、天端部3を陸側壁部5に設けているが、必ずしも陸側壁部5に設ける必要はなく、所要の消波性能を得ることができれば、沖側壁部6に設けてもよい。また、本実施の形態では、天端部3を陸側壁部5の海岸線に沿う全範囲に亘って設けているが、複数に分割して形成してもよい。
【0019】
陸側壁部5には、該陸側壁部5に面する上部箱型ブロック2a内の各2室に対応するように、その上部、中間部及び下部のそれぞれにその長手方向に沿って延びる幅狭の透過スリット7が形成される(図2のものに相当し、全6個形成される)。なお、図1及び図3に示すものでは、陸側壁部5の透過スリット7は全4個である。
沖側壁部6にも、陸側壁部5に設けた各透過スリット7と同じ位置で、且つ同じ形状の透過スリット7が形成される。
さらに、十字状の仕切壁部9の内、陸側壁部5及び沖側壁部6と同じ方向に延びる一方の仕切壁部9aにも、陸側壁部5及び沖側壁部6に設けた各透過スリット7と同じ位置に、且つ同じ形状の透過スリット7が形成される。
【0020】
上部箱型ブロック2aには、図1〜図3に示すように、平面視で4隅の部位と、陸側壁部5及び沖側壁部6と十字状の仕切壁部9の内他方の仕切壁部9bとの接続部位とに、鋼管杭12が挿入される杭用孔10aがそれぞれ形成されるが、この杭用孔10aの上端は閉塞される。この杭用孔10aは、本実施の形態では全6箇所形成されるが、当然ながら鋼管杭12の本数に基いて適宜数形成される。
【0021】
下部箱型ブロック2bは、上部箱型ブロック2aと同様に、図1〜図3に示すように、内部が空洞化されると共に上方及び下方が開放される直方体で構成される。詳細には、該下部箱型ブロック2bは、陸側に面する所定厚の陸側壁部5と、該陸側壁部5に対向して沖側に面する所定厚の沖側壁部6と、陸側壁部5と沖側壁部6とを一体的に接続する一対の側方壁部8、8とから構成される。また、下部箱型ブロック2bの内部にも、上部箱型ブロック2aと同様に、十字状の仕切壁部12が対応する陸側壁部5、沖側壁部6、各側方壁部8、8に一体的に接続されて、内部が4室に区画されている。
しかも、下部箱型ブロック2bの陸側壁部5、沖側壁部6及び一方の仕切壁部9aには、上部箱型ブロック2aと同様の透過スリット7が形成される。さらに、下部箱型ブロック2bにも、上部箱型ブロック2aと同様に、平面視で4隅の部位と、陸側壁部5及び沖側壁部6と十字状の仕切壁部9の内他方の仕切壁部9bとの接続部位とに、鋼管杭12が挿入される杭用孔10bがそれぞれ形成されるが、これらの杭用孔10bは貫通して形成される。
要するに、下部箱型ブロック2bは、上部箱型ブロック2aに対して天端部3を設けず、各杭用孔10bが貫通して形成されるものであり、その他の構成は上部箱型ブロック2aと同一である。
【0022】
実施例として、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は適用水深が5m〜15mであり、例えば、水深が約10mの場合には、上部箱型ブロック2aの天端部3を含む高さは5.5mに設定され、また、下部箱型ブロック2bの高さは5.0mに設定される。上部箱型ブロック2aの上面からの天端部3の高さは1.0mに設定される。また、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの堤体幅Bは7.5mに設定される。なお、下部箱型ブロック2b上に上部箱型ブロック2aが設置された状態において、上部箱型ブロック2aの上面の平均海面からの水深h2(図1参照)と、天端部3の平均海面からの天端高h1(図1参照)とが略同じに設定されることが好ましく、本実施の形態では、これら上部箱型ブロック2aの上面の平均海面からの水深h2、及び天端部3の平均海面からの天端高h1は0.5mに設定される。天端部3の平均水面からの天端高h1は設置位置の通過波高HIの0.125〜0.5倍を目安として設定される。
【0023】
また、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bそれぞれの陸側壁部5、沖側壁部6及び一方の仕切壁部9aに形成される透過スリット7は、後述する所定の開口率に基いてその開口面積及び数量が適宜決定される。
なお、開口率は、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bそれぞれの陸側壁部5、5に設けた各透過スリット7の総面積と、上部箱型ブロック2aの陸側壁部5及び下部箱型ブロック2bの天端部3を含む陸側壁部5の総面積との比として0.1〜0.2の範囲内の所定値に設定され、上述した実施例では0.16に設定される。
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の性能を図4〜図7に基いて説明する。
まず、図5には、水平方向から受ける水平波力を本発明の実施形態に係る海域制御構造物1(箱型ブロック2)と従来の不透過型堤体とで比較したデータを示している。なお、○は海底勾配が1/10で、●は海底勾配が1/50である。
該図5から解るように、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は従来の不透過型堤体等に比べて、水平方向から受ける水平波力を0.7以下に低減していることが解る。
また、本海域制御構造物1は、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2b共に内部が空洞化され上方及び下方が開放されており、鉛直方向に対向する部材が構成されないために、鉛直方向から受ける揚圧力を小さく抑えることが可能になる。
【0025】
さらに、図6及び図7には、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の消波性能のデータを示している。なお、図6及び図7に示す○はKT(透過率)の値であり、●はKR(反射率)の値を示す。
該図6及び図7から解るように、(堤体幅B)/(設置位置の波長L)=0.060〜0.273、あるいは波形勾配(設置位置の通過波高H1)/(設置位置の波長L)=0.006〜0.083の条件に対して、KT(透過率)は1例を除き0.6を越えることなく、また、KR(反射率)は0.5を越えることなく、十分な消波性能を備えていることが解る。
以上のように、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1では、図4に示すように、上部箱型ブロック2aの天端部3による波エネルギーの反射、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの内部に発生する渦及び多重反射によって波エネルギーの消散を促すことで、消波対象波に対して所要の消波性能を発揮し、海域制御構造物1背後の静穏域の確保が可能になる。
【0026】
また、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は、全体の高さが低く、波エネルギーの消散によって水平方向から受ける水平波力を従来の不透過型堤体と比べ略70%以下に低減し、鉛直方向から受ける揚圧力も小さいので、本海域制御構造物1を海底に固定する各鋼管杭12の直径や厚みを増加させることなく、各鋼管杭12の引き抜かれる力を抑制することができる。この結果、各鋼管杭12の海底への打設深(根入れ長)を短くすることができ、構造物単体及び施工に係るトータルコストを削減することが可能になる。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の施工方法を図8〜図17に基いて説明する。なお、以下に説明する施工方法は海域制御構造物1を構成する1組の箱型ブロック2の施工方法である。
(1)製作ヤードの整備
まず、製作ヤードの地盤支持力を調査して不足する場合は砕石等で補強する。その後、図8に示すように、製作ヤード上に上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bを製作するための水平な基礎台14をコンクリートにより打設する。
(2)上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの形成
次に、図8に示すように、下部箱型ブロック2b用の基礎枠体15を、杭用孔10bとしての鋼管16を間隔を置いて2列×3列(鋼管杭12の本数に対応)で配置し、各鋼管16の上部及び下部を水平方向に延びる連結部材17で連結して構成する。そして、該基礎枠体15を製作ヤードの基礎台14上に載置して、下部箱型ブロック2bの所定形状に沿う内型枠、鉄筋及び外型枠をこの順で組み立ててコンクリートを打設して下部箱型ブロック2bを形成する。また、上部箱型ブロック2aも下部箱型ブロック2bと同様の施工方法で形成する。
なお、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの杭用孔10a、10bとしての鋼管16内にはシアキー(図示略)が取り付けられている。このシアキーは環状突起で軸方向に等間隔で複数取り付けられる。また、下部箱型ブロック2bの外周には、各杭用孔10bに対応するグラウト充填管20が予め取り付けられており(図17参照)、各グラウト充填管20の下端が各杭用孔10bの下端内部に臨むように取り付けられる。
【0028】
(3)各鋼管杭12の位置決め部材21の形成
次に、図10に示すように、位置決め部材21を、鋼管杭12よりも若干大径の杭導用鋼管21aを間隔を置いて2列×3列(鋼管杭12の本数に対応)で配置し、各杭導用鋼管21aの上部及び下部を水平方向や斜め方向に延びる連結部材21bで連結して構成する。
(4)位置決め部材21の所定海域への設置及び各鋼管杭12の打設
次に、図11に示すように、位置決め部材21を起重機船25で吊り上げ、海底に打設された複数のH鋼杭22により位置決め部材21を海面上に沿うように支持する。続いて、図12に示すように、各鋼管杭12を位置決め部材21の杭導用鋼管21aに挿入して位置決めして海底に打設する。
なお、鋼管杭12の外周にはシアキー(図示略)が取り付けられている。このシアキーは環状突起で軸方向に等間隔で複数取り付けられる。また、鋼管杭12の外周面の所定高さには、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bを受けて支持するための仮受けブラケット23(図13参照)を構成する三角形状のリブが周方向に予め溶接されている。
【0029】
(5)仮受けブラケット23(リブ及び仮受けプレート)の高さ調整
次に、1組分の鋼管杭12(本実施の形態では全6本)の打設が完了した後、位置決め部材21を撤去する。その後、図13に示すように、潜水士により各鋼管杭12に予め溶接された各リブ上に環状の仮受けプレートを載置して水中溶接を行い仮受けブラケット23を形成するが、その際、各鋼管杭12のリブ上面の高さを測量して、各リブ上の仮受けプレートの上面が略同一平面に位置するように、リブと仮受けプレートとの間に高さ調整用スペーサを適宜介在させる。
なお、各鋼管杭12に設けた仮受けブラケット23は、各鋼管杭12と、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bとをグラウトを介して一体化させるまでの間、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bを支持するためのものである。
(6)各鋼管杭12内へのコンクリート充填
次に、各鋼管杭12内へ所定高さまでコンクリートを充填する。その後、各鋼管杭12の杭頭部には円錐状の挿入治具(図示略)が取り付けられる。この挿入治具により下部箱型ブロック2bの各杭用孔10bに各鋼管杭12がスムーズに挿入される。
【0030】
(7)下部箱型ブロック2bの設置
次に、図14に示すように、製作ヤードに置かれている下部箱型ブロック2bを起重機船25で吊り上げ、上部が海面から突出している各鋼管杭12に下部箱型ブロック2bの各杭用孔10bを挿入し、下部箱型ブロック2bを仮受けブラケット23上に載置する。
(8)各鋼管杭12の高さの調整
次に、図14に示すように、この段階では各鋼管杭12の上端は海面から突出している状態であるので、各鋼管杭12の上端を平均水面下に没水させるために各鋼管杭12の上端部を水中切断する。その後、図15に示すように、各鋼管杭12の平均水面下に没水した上端に確認用スライド部材26を最も上方にスライドさせた状態で取り付ける。これにより、確認用スライド部材26が水面から突出するので海上から各鋼管杭12の位置を確認することができる。
確認用スライド部材26は、本実施の形態では、図15に示すように、シャフト26aを鋼管杭12の周方向に90°ピッチで上下方向に4本延在させて、対向するシャフト26a、26aの上端を連結部材26bで連結して構成される。そして、確認用スライド部材26は、その各シャフト26aの下部が鋼管杭12の外周に設けた上下2段のコ字状受け部27、27にスライド自在に取り付けられる。
なお、図15(a)に示すように、確認用スライド部材26を鋼管杭12の上端に取り付ける際は、上述したように、確認用スライド部材26の各シャフト26bの下端を各鋼管杭12の上下2段のコ字状受け部27、27に挿入して、上方から外力を受けない限りその位置が維持できるように取り付けられる。
【0031】
(9)上部箱型ブロック2aの設置
次に、図15及び図16に示すように、製作ヤードに置かれている上部箱型ブロック2aを起重機船25で吊り上げ、海面から突出している各確認用スライド部材26を介して各鋼管杭12に上部箱型ブロック2aの各杭用孔10aを挿入し、上部箱型ブロック2aを下部箱型ブロック2b上に載置する。この時、上部箱型ブロック2aはその天端部3が陸側に配置されるように設置される。またこの時、図15(b)に示すように、各鋼管杭12の確認用スライド部材26は上部箱型ブロック2aの各杭用孔10aの天壁部により押し込まれて下限位置までスライドする。なお、図16では起重機船25は陸側に位置しているが、沖側に位置してもよい。
(10)グラウトの充填
次に、図17に示すように、上部箱型ブロック2aの各杭用孔10aが形成される部位の天壁部を貫通するように上部グラウト充填管30及び水抜き用管31を取り付ける。この時、上部グラウト充填管30、水抜き用管31及びグラウト充填管20の上端は海上に突出した状態となる。
そして、まず、下部箱型ブロック2bに予め取り付けてあるグラウト充填管20を使用して、グラウトを下部箱型ブロック2bの杭用孔10bの底部から杭用孔10bの内周面と鋼管杭12の外周面との間の隙間に充填する。その後、グラウトの底部からの充填高さが略1m程度に到達したら、上部グラウト充填管30を使用して、上部箱型ブロック2aの杭用孔10aの上部から杭用孔10a、10bの内周面と鋼管杭12の外周面との間の隙間にグラウトを充填する。最終的に水抜き用管31からグラウトが流出した時点で、グラウトの充填完了を判断する。
この結果、各鋼管杭12と、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bとがグラウトにより一体化される。
(11)施工完了
最後に、上部グラウト充填管30、グラウト充填管20及び水抜き用管31等を水中切断して、切断穴に樹脂モルタルを充填して海域制御構造物1(箱型ブロック2)の施工が完了する。
そして、図1に示すように、箱型ブロック2の上部箱型ブロック2aに設けた天端部3が平均海面(M.S.L)から所定の天端高h1で突出すると共に、箱型ブロック2の上面は平均海面下に没水されるように設置される。
【0032】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1では、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bそれぞれの陸側壁部5、沖側壁部6及び仕切壁9aそれぞれに複数の透過スリット7が形成されると共に、上部箱型ブロック2aの陸側壁部5の海岸線に沿う全範囲に亘って平均海面から突出する天端部3を設けているので、消波対象波に対して、十分な消波性能を備えることができる。
また、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bは共に上方及び下方が開放され、それぞれの陸側壁部5及び沖側壁部6には透過スリット7が形成されるので、水平波力を従来の不透過堤体等に比べて小さくすることができ、揚圧力も極めて小さくすることができる。これにより、海域制御構造物全体の容積を縮減することが可能になり、大幅なコスト削減が実現できる。しかも、上部箱型ブロック2aの天端部3を除く部分は平均海面下に没水されているために、水面上の景観が改善される。
【0033】
また、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の施工方法に関しては、特に、複数の鋼管杭12を海底に打設する際、各鋼管杭12を位置決めするための位置決め部材21を使用するので、各鋼管杭12を所定位置に正確に、また容易に打設することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 海域制御構造物,2 箱型ブロック,2a 上部箱型ブロック,2b 下部箱型ブロック,3 天端部,5 陸側壁部,6 沖側壁部,7 透過スリット,10a、10b 杭用孔,12 鋼管杭(杭),26 確認用スライド部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸の侵食を防ぎ、また消波性能を得るために、海岸から沖側に所定距離離れた海域に海岸線に沿って配置される海域制御構造物及びその施工方法に関するものである。なお、本発明の海域制御構造物は、水深5m〜15m程度の海域へ設置されるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、海岸の侵食を防ぐ目的や消波性能を得るために、海岸から沖側に所定距離離れた海底には海岸線に沿って海域制御構造物が配置される。
従来の海域制御構造物としては、主に以下に説明する(1)離岸堤、(2)人工リーフ、(3)有脚式離岸堤、(4)没水型離岸堤の構造方式が採用されているが、それぞれの構造方式に対して多くの課題が残されている。
(1)離岸堤は、水深が3m〜10m程度の海底に設置されるもので、主に異形ブロックを海岸線に沿って平行に積み上げた構造であり、長年に亘って侵食対策に多大な実績を残している。
しかしながら、この離岸堤は、天端面の高さを平均海面よりも十分に大きく(H.W.L:高潮位から突出する高さが1m〜2m)設定する必要があり、水面上の景観が良くない。しかも、ブロックの散乱等により漁業活動を阻害することがある。
(2)人工リーフは、水深が3m〜5mの海底に設置されるもので、主に石材を積層して天端幅(海岸線に直交する方向の幅で50m〜100m)が広い潜堤構造であり、没水構造であるために水面上の景観を阻害することはないが、漁業者等にとって天端が目視できず危険性があることから天端の水深を十分確保すると、天端幅をさらに広く設定する必要があり、建設コストの高騰につながる。しかも、人工リーフでは、高波浪が続くと、海岸線付近で平均水位が上昇する場合がある。
【0003】
(3)有脚式離岸堤は、水深が10m程度の海底に設置されるもので、ブロック体を複数の杭により海底に固定して構成されるもので、杭式構造で耐波安定性があり、最近では、所要の消波性能を有し、防災だけではなく環境面(海岸の侵食)、利用面(離岸距離の大)を併せて考慮すると、水深10m程度の海域には、この有脚式離岸堤が採用される場合もある。
しかしながら、この有脚式離岸堤もその天端面が平均海面よりも突出しているため、景観の改善が要求されている。また、有脚式離岸堤では、ブロック体を所定海域まで運搬するため、ブロック体の大きさに準じた起重機船を手配する必要があり、しかも、離岸堤に比べて設置水深が深くなりコストが高騰するため、コストの大幅な削減が要求されている。
(4)没水型離岸堤として柔構造潜堤(フレキシブルマウンド)が、ある地域で実用化されている。
しかしながら、この柔構造潜堤では、潮位差が大きい海域や海底勾配が急な海岸では
消波性能が低下したり、堤体規模が大きくなるほど現地への適用が困難になる場合がある。
【0004】
なお、上述した(3)有脚式離岸堤の従来技術として特許文献1には、杭基礎に箱形の堤体が海底面との間に適宜間隙部をもって設置され、堤体は鉛直壁と傾斜壁とからなる前面壁、中間壁、後面壁、側面壁、底板および頂板からなり、鉛直壁および傾斜壁、中間壁、後面壁には透過スリットが開口され、底板および頂板には開口部が形成され、傾斜壁の透過スリットが中間壁の透過スリットよりも上部で、かつ中間壁の上部壁面に対向する箇所に開口された透過型海域制御構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−262890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した(1)〜(4)の構造方式では、海岸の侵食を防ぎ、所要の消波性能を得ることができるが、コスト高を抑制できず、しかも、水面上の景観が悪化し、さらには、漁業者等の船舶への配慮が欠けている。
また、上述した特許文献1の透過型海域制御構造物では、堤体に傾斜壁が形成されているため、波のはい上がりが大きくなり、所定の透過率を得るための天端高を直立堤に対して相対的に高くする必要がある。しかも、傾斜壁を形成するため、起重機船での吊り作業時のバランスをとるための工夫も必要となる。その結果、天端高を高くする必要があるため水面上の景観を阻害する程度が大きく、また施工面で特に工費に関わる吊り荷作業面で労力を要することになり、多くの課題を残している。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、所要の消波性能を得ると共に、コスト高を抑制し、しかも、水面上の景観を改善することができる海域制御構造物及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した海域制御構造物に係る発明は、海岸線に沿う海域に配置される海域制御構造物であって、該海域制御構造物は、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロックと、該箱型ブロックの陸側壁部及び沖側壁部に設けられる透過スリットと、前記箱型ブロックの上面から連続して設けられ、平均海面から突出する天端部と、から構成されることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、消波対象波に対して所要の消波性能を発揮し、海域制御構造物背後の静穏域の確保が可能になる。
また、請求項1の発明では、箱型ブロックは上方及び下方が開放され、陸側壁部及び沖側壁部に透過スリットが形成されるので、箱型ブロックの受ける水平方向からの水平波力を従来の不透過堤体に比べて小さくすることができ、箱型ブロックの受ける揚圧力も極めて小さくすることができる。これにより、海域制御構造物全体の容積を縮減することが可能になり、大幅なコスト削減が実現できる。しかも、箱型ブロックの天端部を除く部分は平均海面下に没水されているために、水面上の景観が改善される。
【0009】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記天端部は、前記箱型ブロックの陸側壁部の海岸線に沿う全範囲に亘って形成されることを特徴とするものである。
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記箱型ブロックの上面の平均海面からの水深と、前記天端部の平均海面からの天端高とは略同じに設定されることを特徴とするものである。
請求項2及び3の発明では、特に、箱型ブロックの上面の平均海面からの水深と、箱型ブロックの天端部の平均海面からの天端高とは略同じに設定され、その値は消波対象波高の1/2程度に設定されるので、所要の消波性能を確実に得ることができる。また、箱型ブロックの上面を水上から僅かに視認することができるので、漁業者等に海域制御構造物を配置した海域を認識させることができる。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれかに記載した発明において、前記箱型ブロックは、上下方向中間部分で分割され、前記天端部を有する上部箱型ブロックと、下部箱型ブロックとから構成されることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、箱型ブロックを設置海域まで運搬する起重機船に要するコストを削減することが可能になり、設置作業も容易にすることができる。
【0011】
請求項5に記載した海域制御構造物の施工方法に係る発明は、請求項1〜4のいずれかの海域制御構造物を海岸線に沿う海域に設置する施工方法であって、前記海域制御構造物を海中に設置するための複数の杭を位置決めする位置決め部材を海面に設置するステップと、各杭を前記位置決め部材により位置決めして海底に打設すると共に、各杭から前記位置決め部材を撤去するステップと、海底に打設された各杭に、前記海域制御構造物に設けた対応する杭用孔をそれぞれ挿入して該海域制御構造物を海中に設置するステップと、を含むことを特徴とするものである。
請求項5の発明では、特に、海域制御構造物を海中に設置するための複数の杭を海底に打設する際、各杭を位置決めするための位置決め部材を使用するので、各杭を所定位置に正確に、また容易に打設することができる。
なお、位置決め部材は、杭の本数に対応した杭導用鋼管を所定位置に配置し、各杭導用鋼管を互いに連結部材にて連結したものが採用される。また、この位置決め部材は、海底に打設された複数のH鋼杭等により海面上に支持される。
【0012】
請求項6に記載した発明は、請求項5に記載した発明において、前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記各杭の上端に設けた上下方向にスライド自在な確認用スライド部材を平均海面から突出させることで各杭の位置を確認することを特徴とするものである。
請求項6の発明では、各杭の上端は平均海面下に没水されているが、各杭の上端に設けられ、最も上方にスライドさせた確認用スライド部材を確認することで、各杭に海域制御構造物の杭用孔を容易に挿入することができる。その後、確認用スライド部材は海域制御構造物の杭用孔の天面で押し込まれて下限位置までスライドする。
【0013】
請求項7に記載した発明は、請求項5または6に記載した発明において、前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記海域制御構造物の各杭用孔と各杭との間にグラウトを充填して、前記海域制御構造物を各杭に固定することを特徴とするものである。
請求項7の発明では、海域制御構造物の各杭用孔の内周面と各杭の外周面との間にグラウトを充填することで、海域制御構造物を各杭に確実に固定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の海域制御構造物の発明によれば、所要の消波性能を得ることができ、しかも、海域制御構造物の受ける水平波力及び揚圧力を従来の構造物よりも小さくすることができるので、海域制御構造物全体の容積を縮減することが可能になり、大幅なコスト削減が実現できる。さらに、本発明の海域制御構造物では。箱型ブロックの天端部を除く部位は平均水面下に没水されているために、水面上の景観が改善される。
また、本発明の海域制御構造物の施工方法の発明によれば、特に、複数の杭を海底に打設する際、位置決め部材を使用するので作業を正確に、また容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る海域制御構造物が海中に設置された状態の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る海域制御構造物の斜視図である。
【図3】図3は、(a)は本海域制御構造物の箱型ブロックの平面図で、(b)は沖側から見た正面図で、(c)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図4は、本海域制御構造物による消波メカニズムを示す図である。
【図5】図5は、本海域制御構造物と従来の不透過堤体とが受ける水平波力の比較図である。
【図6】図6は、透過率(KT)及び反射率(KR)とB/Lとの関係図である。
【図7】図7は、透過率(KT)及び反射率(KR)と波形勾配(HI/L)との関係図である。
【図8】図8は、基礎台上の基礎枠体を示す斜視図ある。
【図9】図9は、基礎台上の下部箱型ブロックを示す斜視図である。
【図10】図10は、位置決め部材を示す斜視図である。
【図11】図11は、位置決め部材を海面に設置した図である。
【図12】図12は、位置決め部材を介して鋼管杭を海底に打設する様子を示す図である。
【図13】図13は、各鋼管杭の仮受けブラケットの高さを調整する様子を示す図である。
【図14】図14は、各鋼管杭を介して下部箱型ブロックを海中に設置する様子を示す図である。
【図15】図15は、各鋼管杭の上端に確認用スライド部材を取り付けた図であり、(a)は確認用スライド部材の上限位置を示し、(b)は確認用スライド部材の下限位置を示している。
【図16】図16は、各鋼管杭を介して上部箱型ブロックを下部箱型ブロック上に設置する様子を示す図である。
【図17】図17は、箱型ブロックに上部グラウト充填管、水抜き用管及びグラウト充填管が取り付けられている斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図17に基いて詳細に説明する。
まず、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の構造を図1〜図3に基いて説明する。
本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は、海岸線に沿う海域に配置されるもので、図1及び図2に示すように、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロック2と、該箱型ブロック2の陸側壁部5及び沖側壁部6に設けられる透過スリット7と、箱型ブロック2の上面から連続して設けられ、平均海面(M.S.L)から所定天端高h1で突出する天端部3とから構成される。
また、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は、上述した箱型ブロック2がその長辺側が海岸線に沿うように複数組配列されて構成される。なお、平均海面(M.S.L)は平均的な海面水位であり、消波対象海域の水深に対する水位である。
【0017】
箱型ブロック2は、コンクリートで構成され、上部箱型ブロック2aと下部箱型ブロック2bとからなる。
上部箱型ブロック2aは、図1〜図3に示すように、内部が空洞化されると共に上方及び下方が開放される直方体で構成される。詳細には、上部箱型ブロック2aは、陸側に面する所定厚の陸側壁部5と、該陸側壁部5に対向して沖側に面する所定厚の沖側壁部6と、陸側壁部5と沖側壁部6とを一体的に接続する一対の側方壁部8、8と、陸側壁部5の海岸線に沿う全範囲に亘って上方に延びる天端部3とから構成される。また、上部箱型ブロック2aの内部には、十字状の仕切壁部9が対応する陸側壁部5、沖側壁部6、各側方壁部8、8に一体的に接続されて、内部が4室に区画されている。
【0018】
なお、天端部3の上部箱型ブロック2aの上面からの高さは、下部箱型ブロック2b上に上部箱型ブロック2aが設置された状態において、平均海面から突出するように設定されている。天端部3の詳細な高さは後で詳述する。なお、本実施の形態では、天端部3を陸側壁部5に設けているが、必ずしも陸側壁部5に設ける必要はなく、所要の消波性能を得ることができれば、沖側壁部6に設けてもよい。また、本実施の形態では、天端部3を陸側壁部5の海岸線に沿う全範囲に亘って設けているが、複数に分割して形成してもよい。
【0019】
陸側壁部5には、該陸側壁部5に面する上部箱型ブロック2a内の各2室に対応するように、その上部、中間部及び下部のそれぞれにその長手方向に沿って延びる幅狭の透過スリット7が形成される(図2のものに相当し、全6個形成される)。なお、図1及び図3に示すものでは、陸側壁部5の透過スリット7は全4個である。
沖側壁部6にも、陸側壁部5に設けた各透過スリット7と同じ位置で、且つ同じ形状の透過スリット7が形成される。
さらに、十字状の仕切壁部9の内、陸側壁部5及び沖側壁部6と同じ方向に延びる一方の仕切壁部9aにも、陸側壁部5及び沖側壁部6に設けた各透過スリット7と同じ位置に、且つ同じ形状の透過スリット7が形成される。
【0020】
上部箱型ブロック2aには、図1〜図3に示すように、平面視で4隅の部位と、陸側壁部5及び沖側壁部6と十字状の仕切壁部9の内他方の仕切壁部9bとの接続部位とに、鋼管杭12が挿入される杭用孔10aがそれぞれ形成されるが、この杭用孔10aの上端は閉塞される。この杭用孔10aは、本実施の形態では全6箇所形成されるが、当然ながら鋼管杭12の本数に基いて適宜数形成される。
【0021】
下部箱型ブロック2bは、上部箱型ブロック2aと同様に、図1〜図3に示すように、内部が空洞化されると共に上方及び下方が開放される直方体で構成される。詳細には、該下部箱型ブロック2bは、陸側に面する所定厚の陸側壁部5と、該陸側壁部5に対向して沖側に面する所定厚の沖側壁部6と、陸側壁部5と沖側壁部6とを一体的に接続する一対の側方壁部8、8とから構成される。また、下部箱型ブロック2bの内部にも、上部箱型ブロック2aと同様に、十字状の仕切壁部12が対応する陸側壁部5、沖側壁部6、各側方壁部8、8に一体的に接続されて、内部が4室に区画されている。
しかも、下部箱型ブロック2bの陸側壁部5、沖側壁部6及び一方の仕切壁部9aには、上部箱型ブロック2aと同様の透過スリット7が形成される。さらに、下部箱型ブロック2bにも、上部箱型ブロック2aと同様に、平面視で4隅の部位と、陸側壁部5及び沖側壁部6と十字状の仕切壁部9の内他方の仕切壁部9bとの接続部位とに、鋼管杭12が挿入される杭用孔10bがそれぞれ形成されるが、これらの杭用孔10bは貫通して形成される。
要するに、下部箱型ブロック2bは、上部箱型ブロック2aに対して天端部3を設けず、各杭用孔10bが貫通して形成されるものであり、その他の構成は上部箱型ブロック2aと同一である。
【0022】
実施例として、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は適用水深が5m〜15mであり、例えば、水深が約10mの場合には、上部箱型ブロック2aの天端部3を含む高さは5.5mに設定され、また、下部箱型ブロック2bの高さは5.0mに設定される。上部箱型ブロック2aの上面からの天端部3の高さは1.0mに設定される。また、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの堤体幅Bは7.5mに設定される。なお、下部箱型ブロック2b上に上部箱型ブロック2aが設置された状態において、上部箱型ブロック2aの上面の平均海面からの水深h2(図1参照)と、天端部3の平均海面からの天端高h1(図1参照)とが略同じに設定されることが好ましく、本実施の形態では、これら上部箱型ブロック2aの上面の平均海面からの水深h2、及び天端部3の平均海面からの天端高h1は0.5mに設定される。天端部3の平均水面からの天端高h1は設置位置の通過波高HIの0.125〜0.5倍を目安として設定される。
【0023】
また、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bそれぞれの陸側壁部5、沖側壁部6及び一方の仕切壁部9aに形成される透過スリット7は、後述する所定の開口率に基いてその開口面積及び数量が適宜決定される。
なお、開口率は、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bそれぞれの陸側壁部5、5に設けた各透過スリット7の総面積と、上部箱型ブロック2aの陸側壁部5及び下部箱型ブロック2bの天端部3を含む陸側壁部5の総面積との比として0.1〜0.2の範囲内の所定値に設定され、上述した実施例では0.16に設定される。
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の性能を図4〜図7に基いて説明する。
まず、図5には、水平方向から受ける水平波力を本発明の実施形態に係る海域制御構造物1(箱型ブロック2)と従来の不透過型堤体とで比較したデータを示している。なお、○は海底勾配が1/10で、●は海底勾配が1/50である。
該図5から解るように、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は従来の不透過型堤体等に比べて、水平方向から受ける水平波力を0.7以下に低減していることが解る。
また、本海域制御構造物1は、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2b共に内部が空洞化され上方及び下方が開放されており、鉛直方向に対向する部材が構成されないために、鉛直方向から受ける揚圧力を小さく抑えることが可能になる。
【0025】
さらに、図6及び図7には、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の消波性能のデータを示している。なお、図6及び図7に示す○はKT(透過率)の値であり、●はKR(反射率)の値を示す。
該図6及び図7から解るように、(堤体幅B)/(設置位置の波長L)=0.060〜0.273、あるいは波形勾配(設置位置の通過波高H1)/(設置位置の波長L)=0.006〜0.083の条件に対して、KT(透過率)は1例を除き0.6を越えることなく、また、KR(反射率)は0.5を越えることなく、十分な消波性能を備えていることが解る。
以上のように、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1では、図4に示すように、上部箱型ブロック2aの天端部3による波エネルギーの反射、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの内部に発生する渦及び多重反射によって波エネルギーの消散を促すことで、消波対象波に対して所要の消波性能を発揮し、海域制御構造物1背後の静穏域の確保が可能になる。
【0026】
また、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1は、全体の高さが低く、波エネルギーの消散によって水平方向から受ける水平波力を従来の不透過型堤体と比べ略70%以下に低減し、鉛直方向から受ける揚圧力も小さいので、本海域制御構造物1を海底に固定する各鋼管杭12の直径や厚みを増加させることなく、各鋼管杭12の引き抜かれる力を抑制することができる。この結果、各鋼管杭12の海底への打設深(根入れ長)を短くすることができ、構造物単体及び施工に係るトータルコストを削減することが可能になる。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の施工方法を図8〜図17に基いて説明する。なお、以下に説明する施工方法は海域制御構造物1を構成する1組の箱型ブロック2の施工方法である。
(1)製作ヤードの整備
まず、製作ヤードの地盤支持力を調査して不足する場合は砕石等で補強する。その後、図8に示すように、製作ヤード上に上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bを製作するための水平な基礎台14をコンクリートにより打設する。
(2)上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの形成
次に、図8に示すように、下部箱型ブロック2b用の基礎枠体15を、杭用孔10bとしての鋼管16を間隔を置いて2列×3列(鋼管杭12の本数に対応)で配置し、各鋼管16の上部及び下部を水平方向に延びる連結部材17で連結して構成する。そして、該基礎枠体15を製作ヤードの基礎台14上に載置して、下部箱型ブロック2bの所定形状に沿う内型枠、鉄筋及び外型枠をこの順で組み立ててコンクリートを打設して下部箱型ブロック2bを形成する。また、上部箱型ブロック2aも下部箱型ブロック2bと同様の施工方法で形成する。
なお、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bの杭用孔10a、10bとしての鋼管16内にはシアキー(図示略)が取り付けられている。このシアキーは環状突起で軸方向に等間隔で複数取り付けられる。また、下部箱型ブロック2bの外周には、各杭用孔10bに対応するグラウト充填管20が予め取り付けられており(図17参照)、各グラウト充填管20の下端が各杭用孔10bの下端内部に臨むように取り付けられる。
【0028】
(3)各鋼管杭12の位置決め部材21の形成
次に、図10に示すように、位置決め部材21を、鋼管杭12よりも若干大径の杭導用鋼管21aを間隔を置いて2列×3列(鋼管杭12の本数に対応)で配置し、各杭導用鋼管21aの上部及び下部を水平方向や斜め方向に延びる連結部材21bで連結して構成する。
(4)位置決め部材21の所定海域への設置及び各鋼管杭12の打設
次に、図11に示すように、位置決め部材21を起重機船25で吊り上げ、海底に打設された複数のH鋼杭22により位置決め部材21を海面上に沿うように支持する。続いて、図12に示すように、各鋼管杭12を位置決め部材21の杭導用鋼管21aに挿入して位置決めして海底に打設する。
なお、鋼管杭12の外周にはシアキー(図示略)が取り付けられている。このシアキーは環状突起で軸方向に等間隔で複数取り付けられる。また、鋼管杭12の外周面の所定高さには、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bを受けて支持するための仮受けブラケット23(図13参照)を構成する三角形状のリブが周方向に予め溶接されている。
【0029】
(5)仮受けブラケット23(リブ及び仮受けプレート)の高さ調整
次に、1組分の鋼管杭12(本実施の形態では全6本)の打設が完了した後、位置決め部材21を撤去する。その後、図13に示すように、潜水士により各鋼管杭12に予め溶接された各リブ上に環状の仮受けプレートを載置して水中溶接を行い仮受けブラケット23を形成するが、その際、各鋼管杭12のリブ上面の高さを測量して、各リブ上の仮受けプレートの上面が略同一平面に位置するように、リブと仮受けプレートとの間に高さ調整用スペーサを適宜介在させる。
なお、各鋼管杭12に設けた仮受けブラケット23は、各鋼管杭12と、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bとをグラウトを介して一体化させるまでの間、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bを支持するためのものである。
(6)各鋼管杭12内へのコンクリート充填
次に、各鋼管杭12内へ所定高さまでコンクリートを充填する。その後、各鋼管杭12の杭頭部には円錐状の挿入治具(図示略)が取り付けられる。この挿入治具により下部箱型ブロック2bの各杭用孔10bに各鋼管杭12がスムーズに挿入される。
【0030】
(7)下部箱型ブロック2bの設置
次に、図14に示すように、製作ヤードに置かれている下部箱型ブロック2bを起重機船25で吊り上げ、上部が海面から突出している各鋼管杭12に下部箱型ブロック2bの各杭用孔10bを挿入し、下部箱型ブロック2bを仮受けブラケット23上に載置する。
(8)各鋼管杭12の高さの調整
次に、図14に示すように、この段階では各鋼管杭12の上端は海面から突出している状態であるので、各鋼管杭12の上端を平均水面下に没水させるために各鋼管杭12の上端部を水中切断する。その後、図15に示すように、各鋼管杭12の平均水面下に没水した上端に確認用スライド部材26を最も上方にスライドさせた状態で取り付ける。これにより、確認用スライド部材26が水面から突出するので海上から各鋼管杭12の位置を確認することができる。
確認用スライド部材26は、本実施の形態では、図15に示すように、シャフト26aを鋼管杭12の周方向に90°ピッチで上下方向に4本延在させて、対向するシャフト26a、26aの上端を連結部材26bで連結して構成される。そして、確認用スライド部材26は、その各シャフト26aの下部が鋼管杭12の外周に設けた上下2段のコ字状受け部27、27にスライド自在に取り付けられる。
なお、図15(a)に示すように、確認用スライド部材26を鋼管杭12の上端に取り付ける際は、上述したように、確認用スライド部材26の各シャフト26bの下端を各鋼管杭12の上下2段のコ字状受け部27、27に挿入して、上方から外力を受けない限りその位置が維持できるように取り付けられる。
【0031】
(9)上部箱型ブロック2aの設置
次に、図15及び図16に示すように、製作ヤードに置かれている上部箱型ブロック2aを起重機船25で吊り上げ、海面から突出している各確認用スライド部材26を介して各鋼管杭12に上部箱型ブロック2aの各杭用孔10aを挿入し、上部箱型ブロック2aを下部箱型ブロック2b上に載置する。この時、上部箱型ブロック2aはその天端部3が陸側に配置されるように設置される。またこの時、図15(b)に示すように、各鋼管杭12の確認用スライド部材26は上部箱型ブロック2aの各杭用孔10aの天壁部により押し込まれて下限位置までスライドする。なお、図16では起重機船25は陸側に位置しているが、沖側に位置してもよい。
(10)グラウトの充填
次に、図17に示すように、上部箱型ブロック2aの各杭用孔10aが形成される部位の天壁部を貫通するように上部グラウト充填管30及び水抜き用管31を取り付ける。この時、上部グラウト充填管30、水抜き用管31及びグラウト充填管20の上端は海上に突出した状態となる。
そして、まず、下部箱型ブロック2bに予め取り付けてあるグラウト充填管20を使用して、グラウトを下部箱型ブロック2bの杭用孔10bの底部から杭用孔10bの内周面と鋼管杭12の外周面との間の隙間に充填する。その後、グラウトの底部からの充填高さが略1m程度に到達したら、上部グラウト充填管30を使用して、上部箱型ブロック2aの杭用孔10aの上部から杭用孔10a、10bの内周面と鋼管杭12の外周面との間の隙間にグラウトを充填する。最終的に水抜き用管31からグラウトが流出した時点で、グラウトの充填完了を判断する。
この結果、各鋼管杭12と、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bとがグラウトにより一体化される。
(11)施工完了
最後に、上部グラウト充填管30、グラウト充填管20及び水抜き用管31等を水中切断して、切断穴に樹脂モルタルを充填して海域制御構造物1(箱型ブロック2)の施工が完了する。
そして、図1に示すように、箱型ブロック2の上部箱型ブロック2aに設けた天端部3が平均海面(M.S.L)から所定の天端高h1で突出すると共に、箱型ブロック2の上面は平均海面下に没水されるように設置される。
【0032】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1では、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bそれぞれの陸側壁部5、沖側壁部6及び仕切壁9aそれぞれに複数の透過スリット7が形成されると共に、上部箱型ブロック2aの陸側壁部5の海岸線に沿う全範囲に亘って平均海面から突出する天端部3を設けているので、消波対象波に対して、十分な消波性能を備えることができる。
また、上部箱型ブロック2a及び下部箱型ブロック2bは共に上方及び下方が開放され、それぞれの陸側壁部5及び沖側壁部6には透過スリット7が形成されるので、水平波力を従来の不透過堤体等に比べて小さくすることができ、揚圧力も極めて小さくすることができる。これにより、海域制御構造物全体の容積を縮減することが可能になり、大幅なコスト削減が実現できる。しかも、上部箱型ブロック2aの天端部3を除く部分は平均海面下に没水されているために、水面上の景観が改善される。
【0033】
また、本発明の実施形態に係る海域制御構造物1の施工方法に関しては、特に、複数の鋼管杭12を海底に打設する際、各鋼管杭12を位置決めするための位置決め部材21を使用するので、各鋼管杭12を所定位置に正確に、また容易に打設することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 海域制御構造物,2 箱型ブロック,2a 上部箱型ブロック,2b 下部箱型ブロック,3 天端部,5 陸側壁部,6 沖側壁部,7 透過スリット,10a、10b 杭用孔,12 鋼管杭(杭),26 確認用スライド部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海岸線に沿う海域に配置される海域制御構造物であって、
該海域制御構造物は、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロックと、
該箱型ブロックの陸側壁部及び沖側壁部に設けられる透過スリットと、
前記箱型ブロックの上面から連続して設けられ、平均海面から突出する天端部と、
から構成されることを特徴とする海域制御構造物。
【請求項2】
前記天端部は、前記箱型ブロックの陸側壁部の海岸線に沿う全範囲に亘って形成されることを特徴とする請求項1に記載の海域制御構造物。
【請求項3】
前記箱型ブロックの上面の平均海面からの水深と、前記天端部の平均海面からの天端高とは略同じに設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の海域制御構造物。
【請求項4】
前記箱型ブロックは、上下方向中間部分で分割され、前記天端部を有する上部箱型ブロックと、下部箱型ブロックとから構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の海域制御構造物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの海域制御構造物を海岸線に沿う海域に設置する施工方法であって、
前記海域制御構造物を海中に設置するための複数の杭を位置決めする位置決め部材を海面に設置するステップと、
各杭を前記位置決め部材により位置決めして海底に打設すると共に、各杭から前記位置決め部材を撤去するステップと、
海底に打設された各杭に、前記海域制御構造物に設けた対応する杭用孔をそれぞれ挿入して該海域制御構造物を海中に設置するステップと、
を含むことを特徴とする海域制御構造物の施工方法。
【請求項6】
前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記各杭の上端に設けた上下方向にスライド自在な確認用スライド部材を平均海面から突出させることで各杭の位置を確認することを特徴とする請求項5に記載の海域制御構造物の施工方法。
【請求項7】
前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記海域制御構造物の各杭用孔と各杭との間にグラウトを充填して、前記海域制御構造物を各杭に固定することを特徴とする請求項5または6に記載の海域制御構造物の施工方法。
【請求項1】
海岸線に沿う海域に配置される海域制御構造物であって、
該海域制御構造物は、海中に設置され、内部が空洞で上方及び下方が開放される直方体からなる箱型ブロックと、
該箱型ブロックの陸側壁部及び沖側壁部に設けられる透過スリットと、
前記箱型ブロックの上面から連続して設けられ、平均海面から突出する天端部と、
から構成されることを特徴とする海域制御構造物。
【請求項2】
前記天端部は、前記箱型ブロックの陸側壁部の海岸線に沿う全範囲に亘って形成されることを特徴とする請求項1に記載の海域制御構造物。
【請求項3】
前記箱型ブロックの上面の平均海面からの水深と、前記天端部の平均海面からの天端高とは略同じに設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の海域制御構造物。
【請求項4】
前記箱型ブロックは、上下方向中間部分で分割され、前記天端部を有する上部箱型ブロックと、下部箱型ブロックとから構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の海域制御構造物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの海域制御構造物を海岸線に沿う海域に設置する施工方法であって、
前記海域制御構造物を海中に設置するための複数の杭を位置決めする位置決め部材を海面に設置するステップと、
各杭を前記位置決め部材により位置決めして海底に打設すると共に、各杭から前記位置決め部材を撤去するステップと、
海底に打設された各杭に、前記海域制御構造物に設けた対応する杭用孔をそれぞれ挿入して該海域制御構造物を海中に設置するステップと、
を含むことを特徴とする海域制御構造物の施工方法。
【請求項6】
前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記各杭の上端に設けた上下方向にスライド自在な確認用スライド部材を平均海面から突出させることで各杭の位置を確認することを特徴とする請求項5に記載の海域制御構造物の施工方法。
【請求項7】
前記海域制御構造物を海中に設置するステップでは、前記海域制御構造物の各杭用孔と各杭との間にグラウトを充填して、前記海域制御構造物を各杭に固定することを特徴とする請求項5または6に記載の海域制御構造物の施工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【公開番号】特開2011−169077(P2011−169077A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36182(P2010−36182)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】
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