説明

海水中CO2濃度測定装置及び藻類育成システム

【課題】海水中に溶解しているCOを精度良く測定する。
【解決手段】海水を電気分解して、その海水をpH5以下の酸性にする酸性化部と、酸性化部の下流に設けられ、酸性化部によってpH5以下とされた海水中に含まれるCOを赤外分光法によって検出するCO検出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中に含まれる二酸化炭素(CO)の濃度を測定するCO濃度測定装置、及びこのCO濃度測定装置を用いた藻類育成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化炭素(CO)の濃度を測定するCO濃度測定装置としては、特許文献1に示すように、赤外分光法を用いたものがある。この赤外分光法によって分子状態の二酸化炭素を検出する場合には、波長2.7μm、4.3μm、15μmにおいて吸収ピークを示すことを用いている。
【0003】
しかしながら、水溶液中に含まれる二酸化炭素は、重炭酸イオン(HCO)及び炭酸イオン(CO2−)のイオン状態で存在している。これらイオン状態の二酸化炭素は、赤外分光法において吸収ピークを示さない。つまり、水溶液中のCO濃度は、通常のCO濃度測定装置では測定することができないという問題がある。
【0004】
特に海水のpHは、約8.5〜8.6であり、重炭酸イオン及び炭酸イオンが混在し、分子状COはほとんど存在していない。したがって、COの濃度を正確に測定できる高感度のCO濃度測定装置を用いて測定した場合であっても、海水中に溶解しているCOの濃度を測定することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2007−174210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、海水中に溶解しているCOを精度良く測定することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る海水中CO濃度測定装置は、海水中に溶存しているCOの濃度を測定するものであって、海水を電気分解して、その海水をpH5以下の酸性にする酸性化部と、前記酸性化部の下流に設けられ、当該酸性化部によってpH5以下とされた海水中に含まれるCOを赤外分光法により検出するCO検出部と、を具備することを特徴とする。ここで「海水」とは、海から採取した天然海水及び人工的に生成した人工海水を含む概念である。
【0008】
このようなものであれば、海水を電気分解することによって陽極から生じる水素イオン(H)と陰極から生じる水酸イオン(OH)との拡散速度の違いによって、陽極近傍が酸性側にシフトする。その結果、陽極近傍の海水をpH5以下とすることができる。したがって、海水中の重炭酸イオン(HCO)及び炭酸イオン(CO2−)を分子状COに変えることができるので、CO検出部によって、海水中のCOを正確に測定することができる。
【0009】
酸性化部の具体的な実施の態様としては、前記酸性化部が、海水が通過する領域に配置された陽極及び陰極と、前記領域において陽極及び陰極を仕切る多孔性の仕切り部材と、を有し、前記CO検出部が、前記仕切り部材の陽極側の領域に連通して設けられた流路上に設けられていることが考えられる。これならば、仕切り部材により仕切られた陽極側の領域に連通して設けられた流路上にCO検出部を設けることによって、一層陽極側近傍の海水を酸性にシフトし易くし、さらにその海水をCO検出部に導くことができる。
【0010】
また、前記酸性化部が、海水が通過する領域において互いに対向して配置された平板状の陽極と、この陽極の外側においてその陽極に対向して配置された陰極とを有し、前記CO検出部が、前記陽極に挟まれた領域に連通する流路上に設けられていることが考えられる。これならば、仕切り部材を設けることなく、平板状の陽極間の空間において、陽極から生じた水素イオン(H)を圧倒的に優勢にして海水を酸性にシフトさせることができ、陽極に挟まれた領域に連通する流路上にCO検出部を設けることによって、その海水をCO検出部に導くことができる。
【0011】
海水中のpHを5以下に精度良く制御するためには、前記酸性化部及び前記CO検出部の間に設けられ、前記海水のpHを測定するpH検出部と、前記pH検出部の測定結果に基づいて前記酸性化部による酸性化度合を制御する制御部と、を備えることが望ましい。
【0012】
また、本発明に係る藻類育成システムは、藻類育成装置と、前記藻類育成装置内に貯留される海水中のCOを測定するCO濃度測定装置と、を備え、前記CO濃度測定装置が、前記海水を電気分解して、その海水をpH5以下の酸性にする酸性化部と、前記酸性化部の下流に設けられ、当該酸性化部によって酸性化された海水中に含まれるCOを測定するCO検出部と、を備えることを特徴とする。ここで、「藻類」とは、主として海水に生息する海藻であり、例えば、コンブ、ワカメ、ヒジキやモズク等の褐藻類、アサクサノリやテングサ等の紅藻類、アオサやアオノリ等の緑藻類がある。これならば、藻類育成装置内に海水中に含まれるCO濃度を正確に測定することができるので、藻類育成装置内のCO濃度を精度よく制御することができるようになる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、海水中に溶解しているCOを精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る藻類育成処理システムの全体模式図である。
【図2】同実施形態におけるCO濃度測定装置の模式図である。
【図3】変形実施形態におけるCO濃度測定装置の模式図である。
【図4】本発明の海水中CO濃度測定装置を用いたイオン状態のCO濃度測定システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の海水中CO濃度測定装置を用いた藻類育成処理システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
<装置構成>
本実施形態に係る藻類育成処理システム100は、図1に示すように、藻類栽培装置2と、藻類を処理する藻類処理装置3と、当該藻類栽培装置2内の海水中のCO濃度を測定する海水中CO濃度測定装置4と、を備える。
【0017】
藻類栽培装置2は、海水を貯えて藻類を栽培するための栽培槽21と、この栽培槽21内の海水に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給機構22(以下、CO供給機構22)と、を備えている。
【0018】
栽培槽21は、例えばワカメ等の海藻Sを栽培するものであり、海水を貯めるとともに海藻Sを収容している。そして栽培槽21は、例えば海中あるいは海上に設置される。なお、海藻Sは、栽培槽21から外部に取り出し可能な栽培床SHに保持されている。
【0019】
栽培槽21に収容された海藻Sの上部あるいは下部には、赤色、緑色、青色のLED群を有する照明装置5が設けられている。これによって、太陽光とLED等の人工光との併用あるいは閉鎖系では太陽光を用いることなく人工光のみによって海藻Sを栽培することができる。また、栽培槽21の外部に設けたLED等の人工光源からの人工光又は太陽光を、光ファイバを用いて栽培槽21内に導光して照射するようにしても良い。
【0020】
CO供給機構22は、液体二酸化炭素(液体CO)を貯蔵する液体CO貯蔵タンク221と、そのタンク221から液体COを栽培槽21に流通させるCO供給管222と、そのCO供給管222上に設けられ、COをナノバブルにして供給するバブル発生器223とを備えている。CO供給管222上には、液体COをタンク221から栽培槽21に流通制御するためのポンプやバルブなどからなる流通制御機構(不図示)が設けられている。
【0021】
バブル発生器223としては、加圧溶解による方法(加圧して気体をより多く溶解した状態からキャビテーションなどを用いて発生させる方法)、超音波による方法(超音波を与えることにより気泡を加振させて分裂させる方法)、剪断による方法(激しい流れの中に気体を吹き込んで気体を引きちぎって気泡を細かくする方法)、衝撃波による方法(ベンチェリ管による衝撃波を用いて発生させる方法)を用いたものが考えられる。本実施形態では、微細孔のある中空構造体にCOを通気させることによって、COをナノバブルにしている。
【0022】
また、液体CO貯蔵タンク221には、接続管224を介して藻類処理装置3が接続されている。なお、接続管224上には、液体COの流通を制御するためのポンプやバルブなどからなる流通制御機構(不図示)が設けられている。
【0023】
本実施形態の藻類処理装置3は、CO供給機構22から液体COの供給を受けて超臨界COとし、この超臨界COと育成された藻類とを攪拌することによって、その藻類中から脂肪親和性成分を抽出する成分抽出装置である。また、この成分抽出装置3において成分抽出に使用されない余分なCOは、成分抽出装置3に接続されたCO排出管31を介して藻類栽培装置2に供給される。このCO排出管31上には、COをナノバブルにして供給するバブル発生器32が設けられている。これによって抽出装置3において生じた余分なCOは、栽培槽21内にナノバブルとして供給される。
【0024】
海水中CO濃度測定装置4は、図1に示すように、栽培槽21中の海水の一部を取得して、その海水中のCO濃度を測定するものであり、図2に示すように、一端から栽培槽21内の海水を採取する採取管41と、当該採取管41の他端に接続されたハウジング42内に収容された酸性化部43と、当該ハウジング42に接続される流通管44と、当該流通管44上に配置されたCO検出部45とを備えている。
【0025】
酸性化部43は、ハウジング42内の海水が通過する領域(以下、海水通過領域Xという。)において互いに対向して配置された陽極431及び陰極432と、当該陽極431及び陰極432を仕切り、前記海水通過領域Xを実質的に2分するナイロン製の多孔性の仕切り部材433と、を有している。
【0026】
陽極431及び陰極432は、いずれも平板状をなす電極であり、本実施形態では白金電極を用いて構成している。また、ハウジング42内の陽極側領域X1において広範囲に水素イオンを発生させると共に、その領域X1において水素イオンを優勢にさせるために、陽極面積を陰極面積よりも例えば10倍程度大きくしている。
【0027】
また、陽極431及び陰極432には、電源によって定電圧(例えば2.5−5V)、直流定電流(例えば100mA)が印加される。これによって海水の電気分解が起こり各電極431、432において以下の反応が生じる。
【0028】
陽極431の電極反応:2HO=O+4H+4e
陰極432の電極反応:2HO+2e=H+2OH
【0029】
このとき、陽極431により生じる水素イオン(H)の拡散速度が、陰極432より生じる水酸イオン(OH)よりも大きいため、陽極431近傍(つまり、ハウジング42内の陽極側領域X1)では、水素イオン(H)の密度が大きくなる。ハウジング42内では、常にハウジング42の上流側から下流側に海水が流れており、水素イオン(H)の密度が大きくなった海水が流通管44に流れ込むことになる。その結果、pHが5以下の海水がCO検出部45に導かれる。このようにイオン交換膜無しの構成であっても陽極431側のpHを5以下の酸性にすることができる。なお、図2中47は、陰極側領域X2の海水を外部に排出するための排出管である。
【0030】
なお、電源46として本実施形態では、太陽電池を用いている。このように、太陽電池等の自然エネルギを利用した電源を用いているので、装置外部からの電力を必要とすることなく海水を電気分解することができる。
【0031】
また、流通管44は、仕切り部材433によって仕切られた陽極側領域X1に連通するようにハウジング42に接続されている。この流通管44上には、海水中のpHを測定するpHセンサ6が設けられている。このpHセンサ6からの検出信号は制御部7に送信される。そして、制御部7は、pHセンサ6により得られた海水のpHが所定値(例えばpH5)であるか否かを判断し、その結果に基づいて電極431、432に流す電流を制御する。
【0032】
CO検出部45は、赤外分光法によりCOを検出するものであり、流通管44上に設けられた光透過性を有する測定セル451と、当該測定セル451に向かって赤外領域のレーザ光を照射する光源部452と、前記測定セル451を通過した透過光を分光して検出する光検出部453と、を備えている。光検出部453により検出された光強度信号は、図示しないCO濃度算出部に送信され、そのCO濃度算出部によって海水中のCO濃度が算出される。
【0033】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る藻類育成システム100によれば、海水を電気分解することによって生じる水素イオンと水酸イオンとの拡散速度の違いによって、陽極431近傍が酸性側にシフトし、その結果、陽極431近傍の海水をpH5以下とすることができる。したがって、海水中の重炭酸イオン(HCO)及び炭酸イオン(CO2−)を分子状COに変換することができるので、CO検出部45によって、海水中のCOを正確に測定することができる。
【0034】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0035】
例えば、前記実施形態の酸性化部は、陽極431及び陰極432を仕切り部材433によって仕切る構成としているが、図3に示すように、海水が通過する領域Xにおいて互いに対向して配置された平板状の陽極431a、431bと、この陽極431a、431bの外側においてその陽極431a、431bに対向して配置された陰極432とを有する構成としても良い。この場合、CO検出部45が設けられる流路は、陽極431に挟まれた領域X3に連通して設けられている。つまり、流通管44は、ハウジング42において陽極431間に挟まれている部分に接続されている。
【0036】
また、図4に示すように、酸性化部43を有する第1のラインL1と酸性化部43を有さない第2のラインL2とを設け、第1のラインL1に設けたCO検出部45Aにより得られたCO濃度と、第2のラインL2に設けたCO検出部45Bにより得られたCO濃度とを演算部8によってそれらの差分を取ることによって、イオン状態のCO濃度を算出することもできる。
【0037】
また、前記実施形態では栽培槽は、海中に設置して海藻を栽培するものであったが、その他にも陸上に設置して栽培するようにしても良い。
【0038】
さらに、前記実施形態では、電源は太陽電池であったが、その他にも、風力発電機、水力発電機又は潮の干満で海水が移動するエネルギを電力に変える潮力発電機等を用いたものであっても良い。あるいは商用電源を用いても良い。この場合には、交流電流を直流電流に変換する整流器が必要となる。
【0039】
その上、前記実施形態では二酸化炭素は液体二酸化炭素であったが、その他にも排気二酸化炭素を用いるようにしても良い。これならば、大気中の二酸化炭素を減少させることができ、環境問題を解決することの一手となりうる。
【0040】
加えて、前記実施形態のバブル発生器は、ナノバブルを生成するものであったがマイクロバブルを生成するものであっても良い。
【0041】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
100・・・藻類育成システム
2 ・・・藻類育成装置
4 ・・・海水中CO濃度測定装置
43 ・・・酸性化部
431・・・陽極
432・・・陰極
433・・・仕切り部材
45・・・CO検出部
6 ・・・pHセンサ
7・・・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水中に溶存しているCOの濃度を測定するものであって、
海水を電気分解して、その海水をpH5以下の酸性にする酸性化部と、
前記酸性化部の下流に設けられ、当該酸性化部によってpH5以下とされた海水中に含まれるCOを赤外分光法により検出するCO検出部と、を具備する海水中CO濃度測定装置。
【請求項2】
前記酸性化部が、海水が通過する領域に配置された陽極及び陰極と、前記領域において陽極及び陰極を仕切る多孔性の仕切り部材と、を有し、
前記CO検出部が、前記仕切り部材の陽極側の領域に連通して設けられた流路上に設けられている請求項1記載の海水中CO濃度測定装置。
【請求項3】
前記酸性化部が、
海水が通過する領域において互いに対向して配置された平板状の陽極と、この陽極の外側においてその陽極に対向して配置された陰極とを有し、
前記CO検出部が、前記陽極に挟まれた領域に連通する流路上に設けられている請求項1記載の海水中CO濃度測定装置。
【請求項4】
前記酸性化部及び前記CO検出部の間に設けられ、前記海水のpHを測定するpH検出部と、
前記pH検出部の測定結果に基づいて前記酸性化部による酸性化度合を制御する制御部と、を備える請求項1、2又は3記載の海水中CO濃度測定装置。
【請求項5】
藻類育成装置と、
前記藻類育成装置内に貯留される海水中のCOを測定するCO濃度測定装置と、を備え、
前記CO濃度測定装置が、
前記海水を電気分解して、その海水をpH5以下の酸性にする酸性化部と、
前記酸性化部の下流に設けられ、当該酸性化部によって酸性化された海水中に含まれるCOを測定するCO検出部と、を備える藻類育成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−286284(P2010−286284A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138513(P2009−138513)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】