説明

海水淡水化システムの制御装置及びその制御方法

【課題】
海水又はかん水に含まれるファウリング成分の量に応じて半透膜のファウリングを低減できるように前処理を制御することで,運転コストが低くかつ安定して淡水を得られる海水淡水化システムを実現すること。
【解決手段】
本発明は、上記課題を解決するために、半透膜で海水又はかん水を淡水化する半透膜処理装置と、該半透膜処理装置より前段に配置され、該半透膜処理装置に供給される海水又はかん水を前処理する前処理装置と、該前処理装置で処理された処理水に含まれる多糖類の濃度を計測する前処理水多糖類計測手段と、該前処理水多糖類計測手段による前処理水多糖類濃度計測値及び予め与えられた目標信号に基づいて、前記前処理装置の操作量を算出して該前処理装置への制御信号を出力する制御手段とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海水淡水化システムの制御装置及びその制御方法に係り、特に、海水やかん水から淡水を得るために半透膜を用いたものに好適な海水淡水化システムの制御装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半透膜、特に逆浸透膜を用いた海水淡水化システムでは、膜のファウリング(原水に含まれる難溶性成分や高分子の溶質、コロイド、微小固形物などが膜に沈着して透過流束を低下させる現象)が、大きな問題となる事例が報告されている。
【0003】
海水に含まれるファウリング原因成分を除去するため、これまでに凝集処理、凝集沈澱処理、砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、加圧浮上分離処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理など、様々な前処理技術が適用されてきた。特に、海水に含まれるファウリング成分の濃度は、季節や時刻、天候によって大きく変動するため、その変動に応じた前処理の運転制御が、半透膜のファウリングの面及び環境負荷低減の面から重要となっている。
【0004】
前処理のうち、凝集剤を用いる凝集処理や凝集沈澱処理の場合、凝集剤は、注入率一定制御や濁度比例制御により注入量が制御されてきた。また、海水淡水化では、粒子性物質の指標であるSDI(Silt Density Index)が広く使用されているが、このSDIの値に基づいた制御も実施されている。
【0005】
一方、膜のファウリングは、濁質粒子のみではなく、低分子の有機物も原因であると報告されている。例えば、非特許文献1には、有機物のうち特に粘着性を持つ多糖類を含むTEP(Transparent Exopolymer Particles)が、ファウリングの生成に大きく寄与していると記載されている。
【0006】
このTEPは、通常、海水中の低分子の多糖類が凝集して粒子状、或いはコロイド状になることで形成されるが、植物プランクトンなどが限外ろ過膜などの前処理によって剪断され、体外に流出した多糖類が凝集することでも形成される。また、TEPの濃度の変化は、海水の濁度変化と相関が低い。例えば、海水温が高く日照量が多い時期には、海水中の濁度に関係なく海水中のTEP濃度が増加する。
【0007】
従って、従来の注入率一定制御や濁度比例制御及びSDIの値に基づいた凝集剤注入制御では、海水中に含まれる多糖類の濃度変化に応じた制御が不可能であり、半透膜のファウリングが早く進行する場合が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】竹内、「RO海水淡水化の前処理とファウリング」、日本海水学会誌 63巻,p 367-371(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した半透膜のファウリングが早く進行するのを回避するため、注入率一定制御の場合には比率を大きく、濁度比例制御の場合にはオフセットの値を大きくするなどの方策をとることは可能であるが、いずれも過剰に凝集剤を注入することとなり、薬品コストや汚泥処分コストが増大する問題が生じる。
【0010】
また、凝集剤を用いた処理では、海水中の成分をフロック化して沈澱、ろ過、或いは浮上して分離するが、フロック化には核となる濁質の存在が必要である。
【0011】
また、原水となる海水に濁質が少ない場合には、フロックの成長が不十分となり、多糖類やTEPなどファウリング原因成分がフロックの中に十分に巻き込まれず、海水から分離することが困難であった。
【0012】
その結果、前処理でファウリング成分が十分に除去できず、半透膜のファウリングが早く進行する場合が生じるという問題がある。
【0013】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、海水又はかん水に含まれるファウリング成分の量に応じて半透膜のファウリングを低減できるように前処理を制御し、運転コストが低く、かつ安定して淡水が得られる海水淡水化システムの制御装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の海水淡水化システムの制御装置は、上記目的を達成するために、半透膜で海水又はかん水を淡水化する半透膜処理装置と、該半透膜処理装置より前段に配置され、該半透膜処理装置に供給される海水又はかん水を前処理する前処理装置と、該前処理装置で処理された処理水に含まれる多糖類の濃度を計測する前処理水多糖類計測手段と、該前処理水多糖類計測手段による前処理水多糖類濃度計測値及び予め与えられた目標信号に基づいて、前記前処理装置の操作量を算出して該前処理装置への制御信号を出力する制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の海水淡水化システムの制御方法は、上記目的を達成するために、海水又はかん水を前処理装置で処理した処理水を半透膜処理装置の半透膜で淡水化するにあたり、前記前処理装置の処理水に含まれる多糖類の濃度を前処理水多糖類計測手段で計測し、その多糖類濃度の計測値と予め与えられた目標信号とを比較し、その比較値に基づいて前記前処理装置の操作量を計算して制御手段で制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、海水又はかん水に含まれるファウリング成分の量に応じて半透膜のファウリングを低減できるように前処理を制御し、運転コストが低く、かつ安定して淡水が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例1を示すフロー図である。
【図2】本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例1に組込まれる評価指標比較手段、評価指標演算手段、摂動発生手段の位置づけを説明するためのフロー図である。
【図3】本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例1における多糖類濃度と半透膜ろ過抵抗の増加速度との関係を示す特性図である。
【図4】本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例2を示すフロー図である。
【図5】本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例3を示すフロー図である。
【図6】本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例4を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の海水淡水化システムの制御装置を種々の実施例に基いて詳細に説明する。尚、各実施例を通して、同一の符号は同等のものを示している。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例1におけるフローを示すものである。
【0020】
該図に示す如く、実施例1における海水淡水化システムの制御装置は、半透膜で海水1を淡水化する半透膜処理装置12と、半透膜処理装置12の前段に配置され、該半透膜処理装置12に供給される海水1を前処理する前処理装置10と、前処理装置10の処理水に含まれる多糖類の濃度を計測する前処理水多糖類計測手段14と、前処理水多糖類計測手段14による前処理水多糖類濃度計測値である多糖類濃度情報18と予め与えられた目標信号22に基いて、上記前処理装置10の操作量を算出して前処理装置制御信号24を出力する制御手段20とから概略構成されている。また、前処理装置10は、凝集剤を注入する凝集剤注入装置27と、固形物を分離するための固形物分離装置29とを備えている。
【0021】
そして、前処理装置10から流出する前処理水16は、半透膜処理装置12に流入するが、その中に含まれる多糖類の濃度が前処理水多糖類濃度計測手段14で計測される。前処理水多糖類濃度計測手段14は、オンラインでリアルタイムに計測できることが望ましいが、本実施例ではオフラインであっても良い。
【0022】
前処理水多糖類濃度計測手段14で計測された前処理水16の多糖類濃度情報18は、目標信号22が予め与えられている制御手段20に与えられる。制御手段20では、前処理装置10の操作量を算出し、前処理装置制御信号24を出力する。ここで、目標信号22は数値として、前処理水16に含まれる多糖類の目標濃度であっても良く、半透膜処理装置12の安定運転期間であっても良い。或いは目標信号22は、運転条件探索指標の項目として海水淡水化システム全体の運転コスト、或いは海水淡水化システム全体の環境負荷を選べるようにしても良い。
【0023】
上述した半透膜処理装置12には、複数本の半透膜ユニットを複数段形成する半透膜の他に、ポンプ類、動力回収装置、及びそれらを接続する配管が含まれ、半透膜には、その使い方と材質によって逆浸透膜と正浸透膜があるが、本実施例の半透膜は、それらのいずれであっても良い。また、前処理装置10としては、凝集処理、凝集沈澱処理、砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、加圧浮上分離処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれでも良く、それらの組合せでも良い。但し、半透膜処理装置12には、微粒子など固形物の流入を抑制するように、固形物を分離するための砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれかの固形物分離装置29は必要である。
【0024】
制御手段20の中には、図2に示すように、評価指標比較手段40、評価指標演算手段38、摂動発生手段36が備えられ、目標信号22によって使い分けられる。以下、これについて説明する。
【0025】
例えば、目標信号22が前処理水16に含まれる多糖類の濃度であった場合、制御手段20の評価指標比較手段40では、目標信号22と多糖類濃度情報18が比較される。目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、前処理装置10でより多くの多糖類を除去するよう前処理装置制御信号24が出力される。逆に、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が小さい場合には、前処理装置10での多糖類の除去を緩和するように前処理装置制御信号24が出力される。
【0026】
前処理装置10が凝集処理や凝集沈澱処理の場合、前処理装置制御信号24は凝集剤注入装置27における凝集剤の注入量となり、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、凝集剤注入装置27での凝集剤の注入量を増加する。前処理装置10が砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれかである場合、前処理装置制御信号24は洗浄開始信号となり、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、空気や水を用いた物理逆洗のトリガー信号を発生する。前処理装置10が加圧浮上分離処理である場合、前処理装置制御信号24は加圧圧力、或いは溶解空気量となり、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、加圧圧力、或いは溶解空気量を増大する。
【0027】
例えば、目標信号22が半透膜処理装置12の安定運転期間の場合、制御手段20の評価指標演算手段38では、多糖類濃度情報18に基づいて、今後膜の薬品洗浄、或いは交換までの期間を評価指標として予測計算する。
【0028】
まず、多糖類濃度情報18からファウリングによる半透膜の膜差圧増加速度、或いはろ過抵抗増加速度を計算する。図3に示すように、多糖類の濃度が高いほど膜差圧やろ過抵抗の増加速度は大きいが、その関係は図3のように非線形(曲線)となり、膜やその他の条件によって形状は異なる。
【0029】
非線形であるため、この計算で用いる数式は、二次関数の形式で与えたほうが良いが、一次関数や他の関数で近似しても良い。また、予めファウリングによる膜差圧やろ過抵抗の増加速度に関するテーブルを生成しておき、多糖類濃度情報18をあてはめ、テーブルにない範囲の値については内挿、或いは外挿で求める処理でも良い。
【0030】
予め膜を薬品洗浄、或いは交換するしきい値の膜差圧、或いはろ過抵抗を与えておき、現時点での半透膜の膜差圧、或いはろ過抵抗との差分を上記のファウリング増加速度で除算することによって、半透膜処理装置12の安定運転期間の予測値を計算することができる。この安定運転期間の予測値は、現時点での水質(=多糖類濃度情報18で与えられる多糖類の濃度)が、今後継続した場合の値に相当する。
【0031】
更に、制御手段20の評価指標比較手段40では、以上の手順で求めた安定運転期間の予測値を、目標信号22として与えた安定運転期間と比較する。目標信号22に対して安定運転期間の予測値が小さい場合には、前処理装置10でより多くの多糖類を除去するよう前処理装置制御信号24が出力される。逆に、目標信号22に対して安定運転期間の予測値が大きい場合には、前処理装置10での多糖類の除去を緩和するように前処理装置制御信号24が出力される。
【0032】
前処理装置10が凝集処理や凝集沈澱処理の場合、前処理装置制御信号24は凝集剤の注入量となり、目標信号22に対して安定運転期間の予測値が小さい場合には、凝集剤注入装置27での凝集剤の注入量を増加する。前処理装置10が砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれかである場合、前処理装置制御信号24は洗浄開始信号となり、目標信号22に対して安定運転期間の予測値が小さい場合には、空気や水を用いた物理逆洗のトリガーを発生する。前処理装置10が加圧浮上分離処理である場合、前処理装置制御信号24は加圧圧力、或いは溶解空気量となり、目標信号22に対して安定運転期間の予測値が小さい場合には、加圧圧力、或いは溶解空気量を増大する。
【0033】
例えば、目標信号22が海水淡水化システム全体の運転コストの場合、制御手段20は、運転コストを低減できる操作条件に運転を移行するように働く。まず、制御手段20の評価指標演算手段38では、多糖類濃度情報18に基づいて、今後見込まれる海水淡水化システム全体の運転コストを予測計算する。初めに多糖類濃度情報18からファウリングによる半透膜の膜差圧増加速度、或いはろ過抵抗増加速度の予測値を計算する。多糖類の濃度が高いほど膜差圧やろ過抵抗の増加速度は大きいが、その関係は一般に非線形(曲線)となる。非線形であるため、この計算で用いる数式は二次関数の形式で与えたほうが良いが、一次関数や他の関数を用いても良い。また、あらかじめファウリングによる膜差圧やろ過抵抗の増加速度に関するテーブルを生成しておき、多糖類濃度情報18をあてはめ、テーブルにない範囲の値については内挿、或いは外挿で求める処理でも良い。
【0034】
予め膜を薬品洗浄、或いは交換するしきい値の膜差圧、或いはろ過抵抗を与えておき、現時点での半透膜の膜差圧、或いはろ過抵抗との差分を上記のファウリング増加速度で除算することによって、半透膜処理装置12の安定運転期間の予測値を計算することができる。この安定運転期間の予測値は、現時点での水質(=多糖類濃度情報18で与えられる多糖類の濃度)が、今後継続した場合の値に相当する。
【0035】
半透膜として逆浸透膜を用いる場合、半透膜を加圧する高圧ポンプの動力が海水淡水化システム全体の動力の大半を占める。高圧ポンプの動力コストは、膜差圧とろ過流量の値から計算できる。膜差圧は、膜差圧増加速度、或いはろ過抵抗増加速度の予測値と現時点の膜差圧の値から計算することができ、ろ過流量の値と動力単価(\/kWh)を用いることで、安定運転期間全体での動力コスト予測値を計算できる。
【0036】
更に、現在の凝集剤注入量を安定運転期間全体で積算し、薬品単価(\/ton)を掛け合わせることで、薬品コスト予測値を計算できる。安定運転期間だけ経過した後には、膜の薬品洗浄、或いは交換が必要となるため、そこで薬品洗浄コスト、或いは膜交換コストが発生する。
【0037】
以上の動力コスト予測値、薬品コスト予測値、薬品洗浄コスト、或いは膜交換コストの総和をとり、安定運転期間全体で得られた淡水2の総量で除算することで、淡水2の1m3あたりの運転コストを求めることができる。
【0038】
尚、上述の運転コストの計算内容には、凝集剤注入など前処理で発生する汚泥の処分コストを加えても良い。また、膜交換に至るまでの薬品洗浄可能回数が分かっているか、或いは仮定できる場合には、膜交換コストを薬品洗浄可能回数で除算した値を、薬品洗浄コストに上乗せして考慮しても良い。
【0039】
以上の運転コストを計算する手段として、評価指標演算手段38が備えられ、運転コストは、評価指標演算手段38から評価指標計算値44として出力される。
【0040】
更に、制御手段20の摂動発生手段36では、前処理装置制御信号24として出力している現時点の操作条件に、一方向の摂動を与える。この摂動を与える頻度は、定期的であっても不定期であってもよい。
【0041】
例えば、操作量が凝集剤注入量の場合、摂動は凝集剤注入量の増加、或いは減少の一方とし、摂動の幅は、前処理水16の多糖類濃度情報18に影響が認められる程度の変化で良い。この摂動の結果、多糖類濃度情報18として制御手段20に与えられる多糖類の濃度が変化し、評価指標演算手段38によって運転コストを計算することができる。制御手段20の評価指標比較手段40で、この値を摂動前の運転コストと比較し、大小を判定する。摂動前の運転コストに比べて摂動後の運転コストが低ければ、摂動発生手段36において、先に摂動を与えたのと同じ側に更に摂動を与え、次時刻の操作量42とする。運転コストが増加に転じるまで摂動を加える。運転コストが増加に転じるところまで達すれば、その1回前の条件に運転条件を定めて、次回の摂動のタイミングまでその運転を継続する。一番はじめに摂動を与えた結果、摂動前の運転コストに比べて摂動後の運転コストが高ければ、摂動を与えたのと反対の側に摂動を与える。それでも運転コストが高ければ、もとの運転条件に戻し、次回の摂動のタイミングまでその運転を継続する。以上の手順を実施することで、運転コストを低減できる条件での海水淡水化システムの運転が可能となる。
【0042】
前処理装置10が砂ろ過処理,マルチメディアフィルタ処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれかである場合、前処理装置制御信号24は洗浄開始信号となる。前処理装置10が加圧浮上分離処理である場合、前処理装置制御信号24は加圧圧力、或いは溶解空気量となる。
【0043】
例えば、目標信号22が海水淡水化システム全体の環境負荷の場合、制御手段20は、環境負荷を低減できる操作条件に運転を移行するように働く。この場合、制御手段20の中の評価指標演算手段38では、上述の動力単価(\/kWh)の代わりに環境負荷動力原単位(kg-CO2/kWh)、薬品単価(\/ton)の代わりに環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)、薬品洗浄コストの代わりに環境負荷薬品洗浄原単位(kg-CO2/回)、膜交換コストの代わりに環境負荷膜交換原単位(kg-CO2/回)を用い、評価指標44として環境負荷計算値を出力する。
【0044】
上述の運転コストの場合と同様の手順で、摂動を反復して次時刻の操作量42を求めることで、結果として、環境負荷を低減できる条件での海水淡水化システムの運転が可能となる。
【0045】
このように、実施例1の構成をとることで、海水淡水化システムで用いられる半透膜のファウリングや性能低下を抑制できるため、安定して淡水を需要家へ供給することができる。また、半透膜の薬品洗浄頻度や交換頻度を低減でき、洗浄用の薬品や廃棄する膜モジュールを削減することができる。その結果、環境負荷の排出量と運転コストを低減することができることは勿論、海水の水質変動に応じた過不足ない前処理を実現できるため、薬品コストや汚泥処分コストを低減することができる。
【実施例2】
【0046】
図4は、本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例2におけるフローを示すものである。
【0047】
該図に示す如く、実施例2における海水淡水化システムの制御装置は、その構成は、図1及び図2に示した実施例1と略同様であるが、実施例2における前処理装置10には、凝集剤を注入する処理、即ち凝集処理、或いは凝集沈澱処理を含むものとする。そして、実施例2では、実施例1の構成に加え、凝集剤を注入する前の海水1に、固形微粒子を注入する固形微粒子注入装置26を備えている。固形微粒子としては、粉末活性炭、ゼオライト粉末、アルミナ粉末,磁性体粒子が、多糖類をその表面に吸着する働きも期待できるため有効である。
【0048】
固形微粒子注入装置26は、固形微粒子タンクと固形微粒子注入ポンプ(図示せず)から構成され、スラリーとして注入する場合には、今後するための水などの液体タンク、混合槽、攪拌機も備えている。固形微粒子注入装置26には、制御装置20から固形微粒子注入装置制御信号28が与えられ、固形微粒子の注入量が調整される。
【0049】
凝集剤を注入する前処理では、濁質を核としてフロックが生成され、その中にファウリング成分である多糖類が巻き込まれ、そのフロックを沈澱、或いはろ過、或いは浮上分離することで海水1から除去することができる。
【0050】
しかし、海水1の濁度が極めて低い場合には、フロックの生成が不良となってフロックに取り込まれる多糖類の量が減少し、結果として、半透膜処理装置12まで多糖類が残存し、ファウリングが発生する可能性が高まる。
【0051】
このような場合に、固形微粒子を凝集処理より前段で海水1に注入すると、フロックの核となる物質が増加し、フロックの生成不良を改善することができる。その結果、フロックの中に取り込まれる多糖類の量も増加し、半透膜処理装置12のファウリングを低減することが可能となる。但し、固形微粒子を注入すると汚泥発生量が増える。従って、固形微粒子の注入量を適切に制御しなければ、固形微粒子の薬剤コストの増大のほかに、汚泥処分コストも増大することになる。
【0052】
また、固形微粒子注入後の固形微粒子注入水3は、半透膜処理装置12に到達する前に濁質を分離する必要があるため、固形微粒子の注入量が過剰な場合には、濁質分離装置の運転コストも増大する。粉末の性状によっては、温水洗浄や蒸気洗浄、加熱などの処理によって有機物を除去して再利用できるものもあるが、その場合でも再生コストを要するため、固形微粒子の注入量は必要最小限に抑制する必要がある。
【0053】
そこで、制御手段20では、前処理装置10の操作量に加えて固形微粒子注入装置26の操作量を算出し、前処理装置制御信号24とともに固形微粒子注入装置制御信号28を出力する。ここで、目標信号22は、数値として前処理水16に含まれる多糖類の目標濃度であっても良く、半透膜処理装置12の安定運転期間であっても良い。或いは目標信号22は運転条件探索指標の項目として、海水淡水化システム全体の運転コスト、或いは海水淡水化システム全体の環境負荷を選べるようにしても良い。
【0054】
例えば、目標信号22が前処理水16に含まれる多糖類の濃度であった場合、制御手段20の評価指標比較手段40では、目標信号22と多糖類濃度情報18が比較される。
【0055】
目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、前処理装置10でより多くの多糖類を除去するように、前処理装置制御信号24と固形微粒子注入装置制御信号28が出力される。逆に、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が小さい場合には、前処理装置10での多糖類の除去を緩和するように、前処理装置制御信号24と固形微粒子注入装置制御信号28が出力される。前処理装置10が凝集処理や凝集沈澱処理の場合、前処理装置制御信号24は、凝集剤の注入量となる。
【0056】
目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、多糖類をより多く除去する必要があるため、凝集剤注入量の増加と固形微粒子注入量の増加を実施することになる。逆に、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が小さい場合には、多糖類を過剰に除去してしまっているため、凝集剤注入量の減少と固形微粒子注入量の減少を実施することになる。
【0057】
多糖類を減らすか、或いは増加させるための凝集剤注入量と固形微粒子注入量の組合せは複数存在するため、予め凝集剤注入量、固形微粒子注入量が多糖類の除去に及ぼす影響を数式モデルとして備えておき、そのモデルにしたがって計算で最も適切な運転条件を求めても良い。一意の運転条件に絞るため、数式モデルには凝集剤の薬品単価(\/ton)と固形微粒子の薬品単価(\/ton)を備えておき、薬品コストの総和が最小となるような演算を実施することが良い。
【0058】
更に、凝集剤や固形微粒子の注入の結果として生じる汚泥の処分コストも演算に含まれるよう、汚泥処分費用単価(\/ton)も考慮することが望ましい。或いは、一意の運転条件に絞るため、数式モデルには、凝集剤の環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)と固形微粒子の環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)を備えておき、環境負荷の総和が最小となるような演算を実施することが良い。
【0059】
更に、凝集剤や固形微粒子の注入の結果として生じる汚泥の処分で生じる環境負荷も演算に含まれるよう、環境負荷汚泥処分原単位(kg-CO2/ton)も考慮することが望ましい。
【0060】
数式モデルを用いない場合には、摂動発生手段36を用い、以下の手順で、フィードバック的に凝集剤注入量と固形微粒子注入量の適切な組合せを求めることができる。
【0061】
目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合、まず前処理装置制御信号24としての凝集剤注入量を増加方向の摂動として摂動発生手段36によって与える。この摂動を与える周期は、定期的であっても不定期であってもよく、摂動の幅は前処理水16の多糖類濃度情報18に影響が認められる程度の変化で良い。評価指標演算手段38では、このときの凝集剤注入量の増加量(ton)と凝集剤の薬品単価(\/ton)の積を多糖類の濃度減少量(mg/L)で除算することにより、評価指標計算値44として凝集剤による多糖類濃度低減コスト(\/(mg/L))を求める。ここで、凝集剤注入量の増加量(ton)と凝集剤の薬品単価(\/ton)の積に凝集剤注入量の増加量(ton)と凝集剤起源の汚泥処分費用単価(\/ton)の積も加算してから、多糖類の濃度減少量(mg/L)で除算することが望ましい。
【0062】
次に、固形微粒子注入装置制御信号28としての固形微粒子注入量を、増加方向の摂動として摂動発生手段36によって与える。この摂動を与える周期は、定期的であっても不定期であってもよく、摂動の幅は、前処理水16の多糖類濃度情報18に影響が認められる程度の変化で良い。評価指標演算手段38では、このときの固形微粒子注入量の増加量(ton)と固形微粒子の薬品単価(\/ton)の積を多糖類の濃度減少量(mg/L)で除算することにより、評価指標計算値44として固形微粒子による多糖類濃度低減コスト(\/(mg/L))を求める。ここで、固形微粒子注入量の増加量(ton)と固形微粒子の薬品単価(\/ton)の積に、固形微粒子注入量の増加量(ton)と固形微粒子起源の汚泥処分費用単価(\/ton)の積も加算してから多糖類の濃度減少量(mg/L)で除算することが望ましい。
【0063】
以上の手順で求めた凝集剤による多糖類濃度低減コストと固形微粒子による多糖類濃度低減コストを、評価指標比較手段40で比較する。凝集剤による多糖類濃度低減コストが、固形微粒子による多糖類濃度低減コストより小さい場合には、固形微粒子注入量を摂動前の値に戻し、凝集剤注入量の摂動後の値を、次時刻の操作量42として用いて運転を継続する。逆に、凝集剤による多糖類濃度低減コストが、固形微粒子による多糖類濃度低減コストより大きい場合には、凝集剤注入量を摂動前の値に戻し、固形微粒子注入量の摂動後の値を次時刻の操作量42として用いて運転を継続する。
【0064】
この手順を目標信号22に対して多糖類濃度情報18が等しいか、或いは小さくなるまで実行することにより、前処理水16に含まれる多糖類の濃度として与えられる目標信号22を満足する運転が、より低コストで実現できる。或いは、運転コストよりも環境負荷が重視される場合には、評価指標演算手段38において、上述の凝集剤の薬品単価(\/ton)を凝集剤の環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)、凝集剤による多糖類濃度低減コスト(\/(mg/L))を、凝集剤による多糖類濃度減少環境負荷(kg-CO2/(mg/L))、凝集剤起源の汚泥処分費用単価(\/ton)を、凝集剤起源の汚泥処分環境負荷原単位(kg-CO2/ton)、固形微粒子の薬品単価(\/ton)を、固形微粒子の環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)、固形微粒子による多糖類濃度低減コスト(\/(mg/L))を、固形微粒子による多糖類濃度減少環境負荷(kg-CO2/(mg/L))、固形微粒子起源の汚泥処分費用単価(\/ton)を、固形微粒子起源の汚泥処分環境負荷原単位(kg-CO2/ton)と読み替えて演算することにより、前処理水16に含まれる多糖類の濃度として与えられる目標信号22を満足する運転が、より低い環境負荷で実現できる。
【0065】
例えば、目標信号22が海水淡水化システム全体の運転コストの場合、制御手段20は、運転コストを低減できる操作条件に運転を移行するように働く。実施例1で述べた評価指標演算手段38の手順で、現時点での多糖類濃度情報18に基づいた運転コストを、評価指標計算値44として計算することが可能である。この運転コストの低減を図る際に、調整できる因子は、凝集剤注入量と固形微粒子注入量の2つであり、次時刻の操作量42としてのこれらの適切な組合せを得るためには、以下の手順を実施する。
【0066】
まず、前処理装置制御信号24としての凝集剤注入量に増加、或いは減少の一方向の摂動を摂動発生手段36によって与える。摂動を与える周期は、定期的であっても不定期であってもよい。摂動の幅は、前処理水16の多糖類濃度情報18に影響が認められる程度の変化でよい。
【0067】
この摂動の結果、多糖類濃度情報18として制御手段20に与えられる多糖類の濃度が変化し、評価指標演算手段38で上述の手順をとることにより、運転コストを評価指標計算値44として計算することができる。
【0068】
次に、凝集剤注入量を摂動前の値に戻し、固形微粒子注入装置制御信号28としての固形微粒子注入量に増加、或いは減少の一方向の摂動を摂動発生手段36によって与える。摂動を与える周期は、定期的であっても不定期であってもよい。摂動の幅は、前処理水16の多糖類濃度情報18に影響が認められる程度の変化でよい。
【0069】
この摂動の結果、多糖類濃度情報18として制御手段20に与えられる多糖類の濃度が変化し、評価指標演算手段38で上述の手順をとることにより、運転コストを評価指標計算値44として計算することができる。
【0070】
以上のように求めた摂動後の運転コストを、摂動前の運転コストと評価指標比較手段40で比較し、大小を判定する。摂動前の運転コストに比べて摂動後の運転コストが低ければ、凝集剤注入量、及び固形微粒子注入量のいずれについても摂動を与えたのと同じ側にさらに摂動を与え、運転コストが増加に転じるまで摂動を加える。運転コストが増加するところまで達すれば、その1回前の条件に運転条件を定め、それを次時刻の操作量42として出力し、次回の摂動のタイミングまでその運転を継続する。一番はじめに摂動を与えた結果、摂動前の運転コストに比べて摂動後の運転コストが高ければ、摂動を与えたのと反対の側に摂動を与える。それでも運転コストが高ければ、元の運転条件に戻し、次回の摂動のタイミングまでその運転を継続する。以上の手順を実施することで、運転コストを低減できる条件での海水淡水化システムの運転が可能となる。
【0071】
例えば、目標信号22が海水淡水化システム全体の環境負荷の場合、制御手段20は、環境負荷を低減できる操作条件に運転を移行するように働く。この場合、制御手段20の中の評価指標演算手段38では、上述の動力単価(\/kWh)の代わりに環境負荷動力原単位(kg-CO2/kWh)、薬品単価(\/ton)の代わりに環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)、薬品洗浄コストの代わりに環境負荷薬品洗浄原単位(kg-CO2/回)、膜交換コストの代わりに環境負荷膜交換原単位(kg-CO2/回)を用い、上述の運転コストの場合と同様の手順で演算と摂動を反復して実施する。その結果、環境負荷を低減できる条件での海水淡水化システムの運転が可能となる。
【0072】
このように、実施例2の構成をとることで、上述した実施例1と同様な効果を得ることができる。
【実施例3】
【0073】
図5は、本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例3におけるフローを示すものである。
【0074】
該図に示す如く、実施例3における海水淡水化システムの制御装置は、その構成は、図1及び図2に示した実施例1と略同様であるが、実施例3における前処理装置10の一つとして、砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、加圧浮上分離処理のいずれかを用いるものである。
【0075】
前処理装置10から流出する前処理水16は、半透膜処理装置12に流入するが、その中に含まれる多糖類の濃度が前処理水多糖類濃度計測手段14で計測されると同時に、濁度が濁度計測装置30によって計測され、濁度情報32として制御手段20に与えられる。制御手段20には、目標信号22と濁度目標値34が予め与えられている。そして、制御手段20では、前処理装置10の操作量を算出し、前処理装置制御信号24を出力する。ここで、目標信号22は数値として、前処理水16に含まれる多糖類の目標濃度であっても良く、半透膜処理装置12の安定運転期間であっても良い。或いは、目標信号22は運転条件探索指標の項目として、海水淡水化システム全体の運転コスト、或いは海水淡水化システム全体の環境負荷を選べるようにしても良い。濁度目標値34は、半透膜処理装置12に流入する前処理水16の濁度目標値である。
【0076】
この実施例3では、実施例1や実施例2の形態と異なり、半透膜処理装置12に流入する前処理水16の濁度も考慮に入れている。
【0077】
即ち、半透膜処理装置12は、現実的には中空糸膜やスパイラル膜が用いられることが多く、その表面の狭いチャンネルの中を並行流として前処理水16が流れる。その際に、濁質が存在すると狭いチャンネルの閉塞が生じ、半透膜の性能が低下する。チャンネルの閉塞のみならず、半透膜の表面に付着、或いは沈澱した濁質が存在すると、更に半透膜の性能が低下する。従って、半透膜処理装置12に流入する前処理水16からは、多糖類のみならず濁質も十分に除去されていることが望ましい。
【0078】
前処理装置10の最終段の固形物分離装置29として精密膜ろ過処理、或いは限外膜ろ過処理が用いられる場合には、膜の損傷が発生しない限り、濁質はほぼ完全に除去される。しかし、沈澱処理や砂ろ過処理,マルチメディアフィルタ処理,加圧浮上分離処理が固形物分離装置29として用いられる場合には、運転条件によっては濁質が前処理水16に残留し、半透膜処理装置12に流入する可能性がある。
【0079】
前処理装置10が凝集沈澱処理であり、固形物分離装置29として沈澱処理しか備えていない場合、制御手段20の評価指標比較手段40では、まず濁度情報32として与えられる現時点での濁度を濁度目標値34と比較する。濁度目標値34に対して現時点での濁度が高い場合には、凝集処理が不十分であるため、前処理装置制御信号24として出力する凝集剤の注入量を増大する。逆に、濁度目標値34に対して現時点での濁度が低い場合には、凝集処理が過剰であるため、前処理装置制御信号24として出力する凝集剤の注入量を減少する。この手順で求められた凝集剤注入量を、対濁度適正凝集剤注入量と呼ぶこととする。
【0080】
この対濁度適正凝集剤注入量以上の凝集剤を注入することで、半透膜処理装置12に流入する前処理水16の濁度を、濁度目標値34より低い値に抑制できる。これと同時に、濁度のみではなく、多糖類によるファウリングの抑制も凝集剤処理で必要である。
【0081】
例えば、目標信号22が前処理水16に含まれる多糖類の濃度であった場合、制御手段20の評価指標比較手段40では、目標信号22と多糖類濃度情報18が比較される。目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、前処理装置10でより多くの多糖類を除去するよう前処理装置制御信号24が出力される。
【0082】
この実施例3の場合、前処理装置10は凝集処理や凝集沈澱処理であるため、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、前処理装置制御信号24として凝集剤の注入量を増大する。逆に、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が小さい場合、前処理装置10で多糖類の除去は過剰となっているが、対濁度適正凝集剤注入量よりも凝集剤を減らすと濁度の除去が不十分となるため、対濁度適正凝集剤注入量を下限としてそれ以上の値となるよう凝集剤注入量を制御する。
【0083】
目標信号22が前処理水16に含まれる多糖類の濃度ではなく、海水淡水化システム全体の運転コストの場合、或いは海水淡水化システム全体の環境負荷の場合であっても、同様に凝集剤注入量の下限は、対濁度適正凝集剤注入量の値とすることで、濁質によるチャンネルの閉塞や半透膜の性能低下を抑制することができる。
【0084】
このように、実施例3の構成をとることで、上述した実施例1、或いは実施例2と同様な効果を得ることができる。
【実施例4】
【0085】
図6は、本発明の海水淡水化システムの制御装置の実施例4におけるフローを示すものである。
【0086】
該図に示す如く、実施例4における海水淡水化システムの制御装置は、その構成は、図5に示した実施例3と略同様であるが、実施例4の前処理装置10には、凝集剤を注入する処理、即ち凝集処理、或いは凝集沈澱処理が含まれ、そして、凝集剤を注入する前の海水1に、固形微粒子を注入する固形微粒子注入装置26を備えているものである。固形微粒子としては、粉末活性炭、ゼオライト粉末、アルミナ粉末、磁性体粒子が、多糖類をその表面に吸着する働きも期待できるため有効である。
【0087】
固形微粒子注入装置26は、固形微粒子タンクと固形微粒子注入ポンプ(図示せず)から構成され、スラリーとして注入する場合には、混合するための水などの液体タンク、混合槽、攪拌機も備える。固形微粒子注入装置26には、制御装置20から固形微粒子注入装置制御信号28が与えられ、固形微粒子の注入量が調整される。
【0088】
凝集剤を注入する前処理では、濁質を核としてフロックが生成され、その中にファウリング成分である多糖類が巻き込まれ、そのフロックを沈澱、或いはろ過、或いは浮上分離することで海水1から除去することができる。しかし、海水1の濁度が極めて低い場合には、フロックの生成が不良となってフロックに取り込まれる多糖類の量が減少し、結果として半透膜処理装置12まで多糖類が残存してファウリングが発生する可能性が高まる。
【0089】
このような場合に、固形微粒子を凝集処理より前段で海水1に注入すると、フロックの核となる物質が増加し、フロックの生成不良を改善することができる。その結果、フロックの中に取り込まれる多糖類の量も増加し、半透膜処理装置12のファウリングを低減することが可能となる。但し、固形微粒子を注入すると汚泥発生量が増える。従って、固形微粒子の注入量を適切に制御しなければ、固形微粒子の薬剤コストの増大のほかに、汚泥処分コストも増大することになる。
【0090】
また、固形微粒子注入後の固形微粒子注入水3は半透膜処理装置12に到達する前に濁質を分離する必要があるため、固形微粒子の注入量が過剰な場合には濁質分離装置の運転コストも増大する。粉末の性状によっては、温水洗浄や蒸気洗浄、加熱などの処理によって有機物を除去して再利用できるものもあるが、その場合でも再生コストを要するため固形微粒子の注入量は必要最小限に抑制する必要がある。
【0091】
前処理装置10から流出する前処理水16は、半透膜処理装置12に流入するが、その中に含まれる多糖類の濃度が前処理水多糖類濃度計測手段14で計測され多糖類情報18として、また、濁度が濁度計測装置30によって計測され濁度情報32として、制御手段20に与えられる。ここで、多糖類と濁度の計測は同時であっても、前後が逆であっても良い。
【0092】
一方、制御手段20には、目標信号22と濁度目標値34が予め与えられており、制御手段20では、前処理装置10と固形微粒子注入装置26の操作量を算出し、前処理装置制御信号24と固形微粒子注入装置制御信号28を出力する。ここで、目標信号22は数値として、前処理水16に含まれる多糖類の目標濃度であっても良く、半透膜処理装置12の安定運転期間であっても良い。或いは、目標信号22は運転条件探索指標の項目として、海水淡水化システム全体の運転コスト、或いは海水淡水化システム全体の環境負荷を選べるようにしても良い。濁度目標値34は、半透膜処理装置12に流入する前処理水16の濁度目標値である。
【0093】
この実施例4では、実施例2と異なり、半透膜処理装置12に流入する前処理水16の濁度も考慮に入れている。半透膜処理装置12は、現実的には中空糸膜やスパイラル膜が用いられることが多く、その表面の狭いチャンネルの中を並行流として前処理水16が流れる。その際に、濁質が存在すると狭いチャンネルの閉塞が生じ、半透膜の性能が低下する。チャンネルの閉塞のみならず、半透膜の表面に付着、或いは沈澱した濁質が存在すると、更に半透膜の性能が低下する。従って、半透膜処理装置12に流入する前処理水16からは、多糖類のみならず濁質も十分に除去されていることが望ましい。
【0094】
前処理装置10の最終段の固形物分離装置29として精密膜ろ過処理、或いは限外膜ろ過処理が用いられる場合には、膜の損傷が発生しない限り、濁質はほぼ完全に除去される。しかし、沈澱処理や砂ろ過処理,マルチメディアフィルタ処理、加圧浮上分離処理が固形物分離装置として用いられる場合には、運転条件によっては濁質が前処理水16に残留し、半透膜処理装置12に流入する可能性がある。そこで、残留する濁質を適切に除去できるよ、凝集剤の注入率を制御する必要がある。
【0095】
そのため、制御手段20の評価指標比較手段40では、まず、濁度情報32として与えられる現時点での濁度を濁度目標値34と比較する。濁度目標値34に対して現時点での濁度が高い場合には、凝集処理が不十分であるため、前処理装置制御信号24として出力する凝集剤の注入量を増大する。逆に、濁度目標値34に対して現時点での濁度が低い場合には、凝集処理が過剰であるため、前処理装置制御信号24として出力する凝集剤の注入量を減少する。この手順で求められた凝集剤注入量を対濁度適正凝集剤注入量と呼ぶこととする。
【0096】
この対濁度適正凝集剤注入量以上の凝集剤を注入することで、半透膜処理装置12に流入する前処理水16の濁度を濁度目標値34より低い値に抑制できる。これと同時に、濁度のみではなく多糖類によるファウリングの抑制も凝集処理で必要である。例えば、目標信号22が前処理水16に含まれる多糖類の濃度であった場合、制御手段20の評価指標比較手段40では、目標信号22と多糖類濃度情報18が比較される。目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、前処理装置10で、より多くの多糖類を除去するよう前処理装置制御信号24と固形微粒子注入装置制御信号28が出力される。逆に、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が小さい場合には、前処理装置10での多糖類の除去を緩和するように前処理装置制御信号24と固形微粒子注入装置制御信号28が出力される。目標信号22に対して多糖類濃度情報18が大きい場合には、多糖類をより多く除去する必要があるため、凝集剤注入量の増加と固形微粒子注入量の増加を実施することになる。逆に、目標信号22に対して多糖類濃度情報18が小さい場合には、多糖類を過剰に除去してしまっているため、凝集剤注入量の減少と固形微粒子注入量の減少を実施することになる。但し、対濁度適正凝集剤注入量よりも凝集剤を減らすと、濁度の除去が不十分となるため、対濁度適正凝集剤注入量を下限とし、それ以上の値となるよう凝集剤注入量を制御する。
【0097】
多糖類を所望の濃度とするための凝集剤注入量と固形微粒子注入量の組合せは複数存在するため、予め凝集剤注入量、固形微粒子注入量が多糖類の除去に及ぼす影響を数式モデルとして備えておき、そのモデルにしたがって計算で最も適切な運転条件を求めても良い。一意の運転条件に絞るため、数式モデルには凝集剤の薬品単価(\/ton)と固形微粒子の薬品単価(\/ton)を備えておき、薬品コストの総和が最小となるような演算を実施することが良い。
【0098】
更に、凝集剤や固形微粒子の注入の結果として生じる汚泥の処分コストも演算に含まれるよう、汚泥処分費用単価(\/ton)も考慮することが望ましい。或いは、一意の運転条件に絞るため、数式モデルには、凝集剤の環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)と固形微粒子の環境負荷薬品原単位(kg-CO2/ton)を備えておき、環境負荷の総和が最小となるような演算を実施することが良い。更に、凝集剤や固形微粒子の注入の結果として生じる汚泥の処分で生じる環境負荷も演算に含まれるよう、環境負荷汚泥処分原単位(kg-CO2/ton)も考慮することが望ましい。
【0099】
このように、実施例4の構成をとることで、上述した各実施例と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0100】
1…海水、2…淡水、3…固形微粒子注入水、10…前処理装置、12…半透膜処理装置、14…前処理水多糖類濃度計測手段、16…前処理水、18…多糖類濃度情報、20…制御手段、22…目標信号、24…前処理装置制御信号、26…固形微粒子注入装置、27…凝集剤注入装置、28…固形微粒子注入装置制御信号、29…固形物分離装置、30…濁度計測装置、32…濁度情報、34…濁度目標値、36…摂動発生手段、38…評価指標演算手段、40…評価指標比較手段、42…次時刻の操作量、44…評価指標計算値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜で海水又はかん水を淡水化する半透膜処理装置と、該半透膜処理装置より前段に配置され、該半透膜処理装置に供給される海水又はかん水を前処理する前処理装置と、該前処理装置で処理された処理水に含まれる多糖類の濃度を計測する前処理水多糖類計測手段と、該前処理水多糖類計測手段による前処理水多糖類濃度計測値及び予め与えられた目標信号に基づいて、前記前処理装置の操作量を算出して該前処理装置への制御信号を出力する制御手段とを備えていることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の海水淡水化システムの制御装置において、
前記前処理装置は、少なくとも凝集剤を注入する凝集剤注入装置及び海水又はかん水から固形物を分離する固形物分離装置を備えていることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の海水淡水化システムの制御装置において、
前記固形物分離装置は、砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれかであることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の海水淡水化システムの制御装置において、
前記制御手段は、定期的或いは非定期的に前記前処理装置の操作量に摂動を与える摂動発生手段と、評価指標として運転コスト或いは環境負荷を計算する評価指標演算手段と、摂動を与える前後の評価指標の大小を比較し、該評価指標が小さくなる操作量を次時刻の操作量として出力する評価指標比較手段とを備えていることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の海水淡水化システムの制御装置において、
前記前処理装置として砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、加圧浮上分離処理のいずれかを用い、前記前処理装置の処理水に含まれる濁度を計測する濁度計測手段と、該濁度計測手段による濁度計測値、前記前処理水多糖類計測手段による前処理水多糖類濃度計測値、予め与えられた目標信号及び予め与えられた濁度目標値に基づいて、前記前処理装置の操作量を算出して該前処理装置への制御信号を出力する制御手段とを備えていることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の海水淡水化システムの制御装置において、
前記前処理装置の前段に固形微粒子注入装置を備え、前記前処理水多糖類計測手段による前処理水多糖類濃度計測値及び予め与えられた目標信号に基づいて、前記前処理装置と前記固形微粒子注入装置の操作量を算出して該前処理装置と前記固形微粒子注入装置への制御信号を出力する制御手段を備えていることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の海水淡水化システムの制御装置において、
前記前処理装置の前段に固形微粒子注入装置を備え、前記濁度計測手段による濁度計測値、前記前処理水多糖類計測手段による前処理水多糖類濃度計測値、予め与えられた目標信号及び予め与えられた濁度目標値に基づいて、前記前処理装置と前記固形微粒子注入装置の操作量を算出して該前処理装置と前記固形微粒子注入装置への制御信号を出力する制御手段を備えていることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の海水淡水化システムの制御装置において、
前記固形微粒子注入装置の固形微粒子として粉末活性炭、ゼオライト粉末、アルミナ粉末、磁性体粒子のうち少なくとも1種を用いることを特徴とする海水淡水化システムの制御装置。
【請求項9】
海水又はかん水を前処理装置で処理した処理水を半透膜処理装置の半透膜で淡水化するにあたり、前記前処理装置の処理水に含まれる多糖類の濃度を前処理水多糖類計測手段で計測し、その多糖類濃度の計測値と予め与えられた目標信号とを比較し、その比較値に基づいて前記前処理装置の操作量を計算して制御手段で制御することを特徴とする海水淡水化システムの制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の海水淡水化システムの制御方法において、
前記制御手段は、定期的或いは非定期的に前記前処理装置の操作量に摂動を与える摂動発生手段と、評価指標として運転コスト或いは環境負荷を計算する評価指標演算手段と、摂動を与える前後の評価指標の大小を比較し、該評価指標が小さくなる操作量を次時刻の操作量として出力する評価指標比較手段とを備え、
前記目標信号が処理水に含まれる多糖類の濃度であり、前記評価指標比較手段で前記目標信号と前記前処理水多糖類計測手段での多糖類濃度情報が比較され、前記目標信号に対して前記多糖類濃度情報が大きい場合には、前記制御手段から前記前処理装置に対して多糖類を除去するよう前処理装置制御信号が出力されると共に、前記目標信号に対して前記多糖類濃度情報が小さい場合には、前記制御手段から前記前処理装置に対して多糖類の除去を緩和するよう前処理装置制御信号が出力されることを特徴とする海水淡水化システムの制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の海水淡水化システムの制御方法において、
前記前処理装置が凝集処理或いは凝集沈殿処理の場合、前記前処理装置制御信号は凝集剤の注入量であり、前記目標信号に対して前記多糖類濃度情報が大きい場合には、前記凝集剤の注入量を増加し、
或いは前記前処理装置が砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれかである場合、前記前処理装置制御信号は洗浄開始信号であり、前記目標信号に対して前記多糖類濃度情報が大きい場合には、空気或いは水を用いた逆洗のトリガー信号を発生し、
若しくは前記前処理装置が加圧浮上分離処理の場合、前記前処理装置制御信号は加圧圧力或いは溶解空気量であり、前記目標信号に対して前記多糖類濃度情報が大きい場合には、加圧圧力或いは溶解空気量を増大することを特徴とする海水淡水化システムの制御方法。
【請求項12】
請求項9に記載の海水淡水化システムの制御方法において、
前記制御手段は、定期的或いは非定期的に前記前処理装置の操作量に摂動を与える摂動発生手段と、評価指標として運転コスト或いは環境負荷を計算する評価指標演算手段と、摂動を与える前後の評価指標の大小を比較し、該評価指標が小さくなる操作量を次時刻の操作量として出力する評価指標比較手段とを備え、
前記目標信号が前記半透膜処理装置の安定運転期間であり、前記評価指標演算手段で前記前処理水多糖類計測手段での多糖類濃度情報に基づいて、半透膜の薬品洗浄或いは交換までの安定運転期間を評価指標として予測計算され、かつ、前記評価指標比較手段では、前記安定運転期間の予測値と前記目標信号として与えた安定運転期間が比較され、前記目標信号に対して前記安定運転期間の予測値が小さい場合には、前記制御手段から前記前処理装置に対して多糖類を除去するよう前処理装置制御信号が出力されると共に、前記目標信号に対して前記安定運転期間の予測値が大きい場合には、前記制御手段から前記前処理装置に対して多糖類の除去を緩和するよう前処理装置制御信号が出力されることを特徴とする海水淡水化システムの制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の海水淡水化システムの制御方法において、
前記前処理装置が凝集処理或いは凝集沈殿処理の場合、前記前処理装置制御信号は凝集剤の注入量であり、前記目標信号に対して前記安定運転期間の予測値が小さい場合には、前記凝集剤の注入量を増加し、
或いは前記前処理装置が砂ろ過処理、マルチメディアフィルタ処理、精密膜ろ過処理、限外膜ろ過処理のいずれかである場合、前記前処理装置制御信号は洗浄開始信号であり、前記目標信号に対して前記安定運転期間の予測値が小さい場合には、空気或いは水を用いた逆洗のトリガー信号を発生し、
若しくは前記前処理装置が加圧浮上分離処理の場合、前記前処理装置制御信号は加圧圧力或いは溶解空気量であり、前記目標信号に対して前記安定運転期間の予測値が小さい場合には、加圧圧力或いは溶解空気量を増大することを特徴とする海水淡水化システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223723(P2012−223723A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94677(P2011−94677)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】