海水淡水化方法および海水淡水化装置
【課題】海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供する。
【解決手段】海水淡水化方法は、有機性廃水Bを生物処理して得られる生物処理水と海水Aとを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、低濃度塩水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、生物処理水と海水Aとを混合することにより、または海水Aのみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える。海水淡水化装置10は、低濃度塩水を生成することと、高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部16と、混合部16で得られる低濃度塩水及び高濃度塩水をろ過処理する逆浸透膜装置とを備える。
【解決手段】海水淡水化方法は、有機性廃水Bを生物処理して得られる生物処理水と海水Aとを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、低濃度塩水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、生物処理水と海水Aとを混合することにより、または海水Aのみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える。海水淡水化装置10は、低濃度塩水を生成することと、高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部16と、混合部16で得られる低濃度塩水及び高濃度塩水をろ過処理する逆浸透膜装置とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水淡水化方法および海水淡水化装置に関し、例えば、逆浸透膜を用いた逆浸透膜装置によるろ過によって海水を淡水化する海水淡水化方法および海水淡水化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等により雨が局所的に若しくは短時間に降ってしまい水資源が地理的若しくは時間的に偏在してしまうことや、林業衰退や森林伐採等により山間部の保水力が低下してしまうこと等により、水資源を安定的に確保することが難しいという問題がある。
【0003】
水資源を安定的に確保すべく、例えば、臨海地域では、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する方法及び設備が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の海水淡水化方法及び海水淡水化設備では、海水を逆浸透膜装置でろ過処理するのに海水を加圧してポンプ等で逆浸透膜装置に圧送する必要があるので、海水の塩濃度が高いほど、海水を逆浸透膜装置に圧送するために多大なエネルギーが必要となるという問題があった。
【0005】
そこで、有機物を含有する廃水(以下、有機性廃水とも言う)を生物処理して得られる生物処理水を希釈水として海水に混合し、混合により得られた混合水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理することで、海水の圧送に要する動力(エネルギー)を低減する海水を淡水化する海水淡水化方法及び海水淡水化装置が提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−55317号公報
【特許文献2】特開2010−149100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2の海水淡水化方法及び海水淡水化装置において、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するために、希釈水としての生物処理水の比率を大きくすると、生物処理水に含有される有機物や生物、および生物由来の有機性固形物が付着し堆積するために逆浸透膜(RO膜)の詰り(所謂バイオファウリング)の海水混合による抑制が不十分となる場合があることがわかった。バイオファウリングの程度が大きいと、RO膜を洗浄する回数が多くなる、多量のバイオファウリング抑制剤を必要とする、また、最悪の場合、必要なRO透過水の量が確保できなくなるなど、海水から淡水を生成する効率が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制する海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するために、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水を利用した場合であっても、バイオファウリングを十分に抑制するために、生物処理水に含有される生物の耐塩性を検討し、生物処理水に含有される生物のうち、低度好塩性生物及び非好塩性生物は0.5Mを超える塩濃度の雰囲気では生育されにくいことに着目して本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の一の局面における海水淡水化方法は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、該低濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、該生物処理水と該海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、該高濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える。
【0011】
本発明の一の局面における海水淡水化装置は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、該生物処理水と海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、該混合部で得られる該低濃度塩水及び該高濃度塩水をろ過処理する逆浸透膜装置とを備える。
【0012】
本発明の一の局面における海水淡水化方法及び海水淡水化装置によれば、塩濃度が0.5Mを超える高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、低度好塩性生物及び非好塩性生物が生育されにくい雰囲気になる。このため、塩濃度が0.5M以下の低濃度塩水を逆浸透膜装置でろ過処理する工程により、海水の淡水化に要するエネルギーを低減しつつ、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、バイオファウリングを十分に抑制できる。したがって、本発明は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明者は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するために、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水を利用した場合であっても、バイオファウリングを十分に抑制するために、生物処理水に含有される生物の耐塩性を検討し、生物処理水に含有される生物のうち、非好塩性生物は0.2Mを超える塩濃度の雰囲気では生育されにくいことに着目して本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明の他の局面における海水淡水化方法は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、該低濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、該生物処理水と該海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、該高濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える。
【0015】
本発明の他の局面における海水淡水化装置は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、該生物処理水と海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、該混合部で得られる該低濃度塩水及び該高濃度塩水をろ過処理する逆浸透膜装置とを備える。
【0016】
本発明の他の局面における海水淡水化方法及び海水淡水化装置によれば、塩濃度が0.2Mを超える高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、非好塩性生物が生育されにくい雰囲気になる。このため、塩濃度が0.2M以下の低濃度塩水を逆浸透膜装置でろ過処理する工程により、海水の淡水化に要するエネルギーを低減しつつ、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、バイオファウリングを十分に抑制できる。したがって、本発明は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することができる。
【0017】
上記海水淡水化方法において好ましくは、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程を一時的に実施する。
【0018】
これにより、定常時は低濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することができるので、海水の淡水化に要するエネルギーをより低減できる海水淡水化方法を提供することができる。
【0019】
ここで、本明細書において塩濃度の単位として用いている「M」とはモル体積濃度のことであり、物質量を全体量の体積で除したものである(mol/L)。例えば、0.5Mとは、1Lの溶液中に0.5molの塩が溶解していることを示す。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態における海水淡水化装置の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態の変形例における海水淡水化装置の模式図である。
【図3】本発明の実施の形態における海水淡水化方法及び海水淡水化装置の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0023】
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態における海水淡水化装置10について説明する。本実施の形態の海水淡水化装置10は、逆浸透(RO)膜を用いた逆浸透膜装置によるろ過処理によって海水を淡水化する装置である。
【0024】
海水淡水化装置10は、生物処理槽11と、第1の除濁部12と、第1の加圧部13と、第1の逆浸透膜装置14と、第2の除濁装置15と、混合部16と、第2の加圧部17と、第2の逆浸透膜装置18とを備えている。第1の除濁部12は、生物処理槽11に収容されている。第1の逆浸透膜装置14は、第1の加圧部13を介して、第1の除濁部12と配管等により接続されている。第2の除濁装置15は、海水Aが通過する。混合部16は、第1の逆浸透膜装置14及び第2の除濁装置15のそれぞれと配管や中継槽等により接続されている。第2の逆浸透膜装置18は、第2の加圧部17を介して、混合部16と配管等により接続されている。
【0025】
生物処理槽11は、細菌、原生動物、後生動物等の生物種によって水に含まれる有機物が分解される処理が行われる。このような処理として、例えば、活性汚泥を用いた曝気処理等を挙げることができる。
【0026】
第1の除濁部12は、生物処理水をろ過するためのものであり、RO膜よりも粗いろ過、即ち、RO膜で分離するよりも粗い不純物(例えば固形物質等)を除去し、第1の逆浸透膜装置14の前処理装置である。第1の除濁部12は、生物処理槽11内の液面下に浸漬されており、例えば、精密ろ過膜(MF膜)及び限外ろ過膜(UF膜)の少なくともいずれか一方を有する。
【0027】
第1の加圧部13は、第1の除濁部12で粗い不純物がろ過された生物処理水を加圧する。第1の加圧部13は、例えばポンプである。
【0028】
第1の逆浸透膜装置14は、加圧された生物処理水が供給され、この生物処理水をRO膜により、透過水たる浄化水Cと、塩濃度が相対的に高い濃縮水とに分離する。第1の逆浸透膜装置14は、例えば、RO膜と、このRO膜を収容する圧力容器とを有している。本明細書におけるRO膜は、ナノろ過膜(NF膜)を含む概念である。
【0029】
第2の除濁装置15は、海水をろ過するためのものであり、RO膜よりも粗い不純物を除去し、第2の逆浸透膜装置18の前処理装置である。第2の除濁装置15は、例えば、MF膜および限外ろ過膜の少なくともいずれか一方の除濁手段と、この除濁手段を収容する容器とを有しているが、砂ろ過や凝集沈殿による除濁手段を有するように構成されてもよい。
【0030】
混合部16は、低濃度塩水を生成することと、高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている。低濃度塩水とは、第1の逆浸透膜装置14から生成される濃縮水と、第2の除濁装置15で粗い不純物が除去された海水とを混合することにより得られる混合水で、生物処理水中の生物の生育可能な塩濃度上限値以下の塩濃度を有する水である。高濃度塩水とは、第1の逆浸透膜装置14から生成される濃縮水と、海水とを混合することにより、または、海水のみを用いることにより、生物処理水中の生物の生育可能な塩濃度上限値を超える塩濃度を有する水である。
具体的には、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、低濃度塩水は0.5M以下の塩濃度を有する水であり、高濃度塩水は0.5Mを超える塩濃度を有する水である。
低濃度塩水の塩濃度は、低ければ低い程よく、高濃度塩水の塩濃度は、高ければ高い程よい。実際的には、高濃度塩水が0.5Mを超えると共に低濃度塩水が0.5M以下である場合には、生物処理水と海水との混合上、低濃度塩水は0.2M以上0.5M以下であることが好ましく、日本近海の海水の塩濃度が0.6M程度(3.5%)であり、日本近海以外の海では0.8M程度(4.5%)の所もあることを考慮すれば、高濃度塩水は0.5Mを超えて0.8M以下であることが好ましく、0.5Mを超えて0.6M以下であることがより好ましい。
【0031】
なお、生物処理水中の生物として非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育可能な塩濃度上限値は0.5Mであり、生物処理水中の生物として非好塩性生物の生育可能な塩濃度上限値は0.2Mである。このため、非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、低濃度塩水は0.2M以下の塩濃度を有し、高濃度塩水は0.2Mを超える塩濃度を有する。
【0032】
混合部16は、例えば、低濃度塩水及び高濃度塩水を貯留可能な貯留槽であり、第1の逆浸透膜装置14から濃縮水が導入される濃縮水導入部と、海水が導入される海水導入部と、低濃度塩水または高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18へ排出する排出部とを含んでいる。濃縮導入部及び海水導入部は、混合部に導入される量を調整することが可能なように、例えば、開口度を調整できるように構成されている。
【0033】
混合部16では、第2の逆浸透膜装置18に供給する供給水の塩濃度が0.5M以下から0.5Mを超えるように生物処理水(本実施の形態では濃縮水)と海水との混合比を変更することが可能なように構成されている。本実施の形態では、混合部16において、濃縮水導入部及び海水導入部の開口度を調整して、供給水の塩濃度を調整することが可能であるため、排出部から第2の逆浸透膜装置18に供給する供給水を0.5M以下の塩濃度と、0.5Mを超える塩濃度とに選択できる。
【0034】
なお、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、混合部16は、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている。
【0035】
また、混合部16は、濃縮水の供給を停止して、海水のみを第2の逆浸透膜装置18に供給することが可能なように構成されている。混合部16において海水のみを生成することは、混合部16において、濃縮水導入部を閉口し、海水導入部のみを開口することで、実現できる。この場合、混合部16の排出部から第2の逆浸透膜装置18に供給する水の塩濃度を高めることができる。
【0036】
混合部16には、上記のように供給水の塩濃度の制御をするために、供給水の塩濃度を測定する測定部がさらに設けられていてもよい。
また、海水淡水化装置10は、供給水の塩濃度を測定する測定部の値及び後述する第2の逆浸透膜装置18のRO膜の状態に応じて、供給水の塩濃度を制御する制御部をさらに備えていてもよい。
【0037】
第2の加圧部17は、混合部16で生成された供給水を加圧する。第2の加圧部17は、例えばポンプである。
【0038】
第2の逆浸透膜装置18は、加圧された低濃度塩水または高濃度塩水が供給され、この水をRO膜により、透過水たる淡水Eと、濃縮水Dとに分離する。第2の逆浸透膜装置18は、例えば、RO膜と、このRO膜を収容する圧力容器とを有している。第2の逆浸透膜装置18のRO膜と、第1の逆浸透膜装置14のRO膜とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
第2の逆浸透膜装置18により製造された淡水Eと、第1の逆浸透膜装置14により浄化された浄化水Cとは混合されてもよく(図示せず)、混合されなくてもよい。
【0040】
なお、第1の逆浸透膜装置14は省略されてもよい。この場合、第1の除濁部12は、例えば、混合部16と接続される。
【0041】
続いて、図1を参照して、本実施の形態における海水淡水化方法について説明する。本実施の形態の海水淡水化方法は、図1に示す海水淡水化装置10を用いて、RO膜を用いた逆浸透膜装置によるろ過処理によって海水を淡水化する方法である。
【0042】
まず、有機性廃水Bを生物処理槽11に供給する。有機性廃水Bは、有機物を含む廃水であり、例えば、有機物濃度の指標としてのBOD(生物化学的酸素要求量)が2000mg/L以下の廃水であり、より具体的には、200mg/L程度の廃水である。また、有機性廃水Bは、海水よりも塩濃度が低い水である。有機性廃水Bは、例えば、海水Aの塩濃度に対する有機性廃水Bの塩濃度の比が0.1以下のもの、より具体的には、海水Aの塩濃度に対する有機性廃水Bの塩濃度の比が0.01以下のものである。
有機性廃水Bとしては、下水(生活廃水や雨水が下水道に流れた水等)や、工業廃水(食品工場、化学工場、電子産業工場、パルプ工場等の工場から排出される廃水)等が挙げられる。
【0043】
次いで、生物処理槽11で、有機性廃水を生物処理、即ち、細菌、原生動物、後生動物等の生物種によって水に含まれる有機物を分解処理する。生物処理として、例えば、活性汚泥を用いた曝気処理等を挙げることができる。
【0044】
次に、生物処理槽11に収容された第1の除濁部12で、生物処理水をろ過する。このろ過により、生物処理水中の固形物質等の粗い不純物を除去することができる。
【0045】
次に、第1の除濁部12で粗い不純物が除去された生物処理水を第1の加圧部13で加圧する。生物処理水に加える圧力は特に限定されないが、第1の逆浸透膜装置14で浄化水Cを得るために必要な圧力を加える。
【0046】
次に、第1の逆浸透膜装置14で、加圧された生物処理水を、透過水たる浄化水Cと、濃縮水とに分離する。浄化水Cは、製造対象物である。濃縮水は、海水Aよりも低い塩濃度を有するため、海水Aの希釈液として用いる。
【0047】
また、海水Aを第2の除濁装置15に供給する。海水Aは、塩を含む水であり、例えば、塩濃度が1.0質量%以上8.0質量%以下の水であり、より具体的には、塩濃度が例えば2.5質量%以上6.0質量%以下である。
本明細書において、海水Aは、海に存在する水に限定されず、塩濃度が1.0質量%以上の水であれば、湖(塩湖、汽水湖)の水、沼水、池水等の陸に存在する水も含む。また、海水Aは、鹹(かん)水を含む。
【0048】
次に、第1の逆浸透膜装置14で生成された生物処理水由来の濃縮水と、第2の除濁装置15で除濁された海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成する。さらに、この工程は、0.2M以上0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することが好ましい。
【0049】
次に、低濃度塩水を第2の加圧部17で加圧する。低濃度塩水に加える圧力は特に限定されないが、逆浸透膜装置18で淡水Eを分離するのに必要な圧力を加える。第2の加圧部17で低濃度塩水に加える圧力は、海水により塩濃度が高まることにより、第1の加圧部13で加える圧力よりも大きい。
【0050】
次に、加圧された低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する。この工程では、低濃度塩水を、透過水たる淡水Eと、濃縮水Dとに分離する。淡水Eは、海水淡水化における製造対象物である。濃縮水Dは、通常は放流される。
【0051】
なお、第1の逆浸透膜装置14により浄化された浄化水Cと、第2の逆浸透膜装置18により生成されて製造された淡水Eとは、混合されてもよく、混合されなくてもよい。
【0052】
次に、第1の逆浸透膜装置14で生成された生物処理水由来の濃縮水と、第2の除濁装置15で生成された海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成する。つまり、この工程では、塩濃度が0.5M以下の低濃度塩水から0.5Mを超えるように濃縮水と海水との混合比を変更する。この工程では、0.5Mを超えて0.8M以下の高濃度塩水を生成することが好ましく、0.5Mを超えて0.6M以下の高濃度塩水を生成することがより好ましい。
【0053】
この工程において、海水のみを用いることで高濃度塩水を生成する場合には、混合部16への濃縮水の供給を停止する。この場合、海水のみを第2の逆浸透膜装置18に供給することになる。海水のみからなる高濃度塩水を供給する場合には、海水は生物処理水よりも塩濃度が高いため、塩濃度が0.5Mを超える高濃度塩水を容易に生成することができる。
【0054】
次に、高濃度塩水を第2の加圧部17で加圧する。高濃度塩水に加える圧力は特に限定されないが、第2の逆浸透膜装置18で透過水たる淡水Eを分離可能な程度に、高濃度塩水に圧力を加える。第2の加圧部17で高濃度塩水に加える圧力は、低濃度塩水に加える圧力よりも大きい。
【0055】
次に、加圧された高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する。この工程では、透過水たる淡水Eと、濃縮水Dとに分離する。淡水Eは、海水淡水化における製造対象物である。濃縮水Dは、通常は放流される。
【0056】
次に、低濃度塩水を生成し、この低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する低濃度運転工程と、高濃度塩水を生成し、この高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する高濃度運転工程とを繰り返す。海水淡水化に要するエネルギーを低減するという目的からは、低濃度運転工程を定常運転とし、高濃度運転工程を一時的に実施することが好ましい。
【0057】
第2の逆浸透膜装置18に供給する水(供給水)の塩濃度は、例えば、第2の逆浸透膜装置18に向けて排出する排出部において、塩濃度計や電気伝導計などにより測定することができる。このように測定される塩濃度に応じて、低濃度塩水及び高濃度塩水の制御ができる。
【0058】
なお、本実施の形態の海水淡水化方法において、生物処理水中の生物として非好塩性生物及び低度好塩性生物を十分に抑制する場合を説明したが、非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、本発明の海水淡水化方法は、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給する工程と、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給する工程とを備える。
【0059】
(変形例)
図2を参照して、本実施の形態の変形例における海水淡水化装置20及び海水淡水化方法を説明する。
【0060】
変形例の海水淡水化装置20は、基本的には図1に示す実施の形態1の海水淡水化装置10と同様であるが、生物処理槽11内に収容された除濁部12の代わりに、生物処理槽11外に第1の除濁装置21を備えている点において異なる。第1の除濁装置21は、例えば、MF膜および限外ろ過膜の少なくともいずれか一方の除濁手段と、この除濁手段を収容する容器とを有しているが、砂ろ過や凝集沈殿による除濁手段を有するように構成されてもよい。
【0061】
変形例の海水淡水化方法は、基本的には実施の形態1の海水淡水化方法と同様であるが、生物処理槽11に収容された第1の除濁部12で生物処理水をろ過する代わりに、第1の除濁装置21で生物処理水をろ過する点において異なる。
【0062】
続いて、図1及び図3を参照して、本実施の形態の海水淡水化装置10及び海水淡水化方法の効果について説明する。
【0063】
図3に示すように、混合部16から第2の逆浸透膜装置18に供給する水(供給水)における海水の体積比率(海水混合比)が低いほど、供給水の塩濃度が低くなる。このため、供給水を加圧するエネルギーが海水のみからなる場合に比べて小さいので、得られる淡水Eの量当たりにおける、海水を淡水化するのに必要なエネルギー量を抑制できる。このように、要するエネルギーを低減するためには、海水混合比が小さいことが好ましい。
【0064】
しかし、図3において、海水混合比が30%以下の場合、即ち、供給水の塩濃度が0.2M以下の場合には、非好塩性の雰囲気であるので、非好塩性生物が生育可能である。海水混合比が30%を超えて80%以下の場合、即ち、供給水の塩濃度が0.2Mを超えて0.5M以下の場合には、低度好塩性の雰囲気であるので、低度好塩性生物が生育可能である。
ここで、供給水中に存在する生物について説明する。生物を耐塩性で分類すると、高度好塩性生物と、中度好塩性生物と、低度好塩性生物と、非好塩性生物とに分かれる。高度好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が2.5Mを超える生物である。中度好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が0.5Mを超えて2.5M以下であり、様々な含塩試料から分離される細菌が該当する。低度好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が0.2Mを超えて0.5M以下であり、例えば、海洋性の高等生物や細菌が該当する。非好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が0Mを超えて0.2M以下であり、多くの高等生物や土壌細菌が該当する。
【0065】
仮に、海水の塩濃度が3.5%である場合、NaCl(MW:モル質量=58.44)換算で0.6Mになる。また、生物処理水の塩濃度が0.024%である場合、NaCl換算で0.004Mとなり、第1の除濁部12及び第1の逆浸透膜装置14によるろ過処理をして得られる濃縮水の塩濃度は0.02M程度である。
図3に示すように、海水混合比が0%の場合、即ち、供給水が生物処理水由来の濃縮水のみ(濃縮水100%)の場合、供給水の塩濃度は0.02Mである。海水混合比が20%の場合、即ち、供給水が海水20%で濃縮水80%の場合、供給水の塩濃度は0.12Mである。海水混合比が40%の場合、即ち、供給水が海水40%で濃縮水60%の場合、供給水の塩濃度は0.24Mである。海水混合比が60%の場合、即ち、供給水が海水60%で濃縮水40%の場合、供給水の塩濃度は0.36Mである。海水混合比が80%の場合、即ち、供給水が海水80%で濃縮水20%の場合、供給水の塩濃度は0.50Mである。海水混合比が100%の場合、即ち、供給水が海水のみ(海水100%)の場合、供給水の塩濃度は0.60Mである。
【0066】
生物の生育は、至適増殖NaCl濃度の範囲外では十分に抑制され、特に至適増殖NaCl濃度よりも高くなると効果的に抑制され、死滅する場合もある。このため、図3に示すように、供給水の海水混合比が30%以下である場合には、供給水の塩濃度は0.2M以下であるので、非好塩性生物は生育可能である。また、供給水の海水混合比が30%を超え80%以下である場合には、供給水の塩濃度は0.2Mを超え0.5M以下であるので、低度好塩性生物は生育可能である。しかし、供給水の塩濃度が0.5Mを超えるように海水の比率を高めると、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育が十分に抑制される。生物処理水には非好塩性生物及び低度好塩性生物が相対的に多く含まれているので、供給水の塩濃度が0.5M以下から0.5Mを超えるように生物処理水由来の濃縮水と海水との混合比を変更することにより、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育を十分に抑制できるので、第2の逆浸透膜装置18を構成するRO膜においてバイオファウリングを十分に抑制することができる。なお、供給水の海水混合比が30%以下である場合には、供給水の塩濃度が0.2Mを超えるように海水の比率を高めて、非好塩性生物の生育を十分に抑制してもよい。
仮に、バイオファウリングによる有機物の付着であるバイオフィルムが形成されていても、供給水中の海水及び濃縮水の比率を変更することで、生物にショックを与えることができると共に、適応する微生物の種類を変化させることができるので、バイオフィルムが剥がれ易くなり、場合によってはバイオフィルムが剥がれることもある。
バイオファウリングを十分に抑制できると、RO膜を洗浄する回数を低減することができ、バイオファウリング抑制剤の使用量を低減することができる。その結果、RO膜を長期間使用することができるので、海水及び有機性廃水から淡水を生成する効率を高めることができる。
【0067】
したがって、生物処理水由来の濃縮水の比率が高い状態での運転時(塩濃度が0.5M以下の低濃度塩水をRO膜でろ過処理する時)には、要するエネルギーを低減し、海水の比率が高い状態での運転(塩濃度が0.5Mを超える高濃度塩水をRO膜でろ過処理する)時には、バイオファウリングを十分に抑制できる。このため、この2つの状態の運転を輪番で行うことにより、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる。
なお、非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、生物処理水由来の濃縮水の比率が高い状態での運転時とは、塩濃度が0.2M以下の低濃度塩水をRO膜でろ過処理する時であり、海水の比率が高い状態での運転とは、塩濃度が0.2Mを超える高濃度塩水をRO膜でろ過処理する時である。
【0068】
特に、基本的には塩濃度を0.5M(非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には0.2M)以下の低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給し、一時的に混合水の塩濃度が0.5M(非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には0.2M)を超える高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給するように生物処理水由来の濃縮水と海水との混合比を変更することが好ましい。なお、「一時的に」とは、高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する工程の実施時間が、低濃度塩水をRO膜に供給してろ過処理する工程の実施時間よりも短いことを意味する。高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する工程は、例えば、第2の逆浸透膜装置18を構成するRO膜の詰り具合に応じて、または、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生存期間に応じて、所定のタイミング及び所定の期間実施する。具体的には、高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する工程は、例えば、2日に1回、30分程度実施されることが好ましい。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
10 海水淡水化装置、11 生物処理槽、12 第1の除濁部、13 第1の加圧部、14 第1の逆浸透膜装置、15 第2の除濁装置、16 混合部、17 第2の加圧部、18 第2の逆浸透膜装置、21 第1の除濁装置、A 海水、B 有機性廃水、C 浄化水、D 濃縮水、E 淡水。
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水淡水化方法および海水淡水化装置に関し、例えば、逆浸透膜を用いた逆浸透膜装置によるろ過によって海水を淡水化する海水淡水化方法および海水淡水化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等により雨が局所的に若しくは短時間に降ってしまい水資源が地理的若しくは時間的に偏在してしまうことや、林業衰退や森林伐採等により山間部の保水力が低下してしまうこと等により、水資源を安定的に確保することが難しいという問題がある。
【0003】
水資源を安定的に確保すべく、例えば、臨海地域では、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する方法及び設備が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の海水淡水化方法及び海水淡水化設備では、海水を逆浸透膜装置でろ過処理するのに海水を加圧してポンプ等で逆浸透膜装置に圧送する必要があるので、海水の塩濃度が高いほど、海水を逆浸透膜装置に圧送するために多大なエネルギーが必要となるという問題があった。
【0005】
そこで、有機物を含有する廃水(以下、有機性廃水とも言う)を生物処理して得られる生物処理水を希釈水として海水に混合し、混合により得られた混合水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理することで、海水の圧送に要する動力(エネルギー)を低減する海水を淡水化する海水淡水化方法及び海水淡水化装置が提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−55317号公報
【特許文献2】特開2010−149100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2の海水淡水化方法及び海水淡水化装置において、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するために、希釈水としての生物処理水の比率を大きくすると、生物処理水に含有される有機物や生物、および生物由来の有機性固形物が付着し堆積するために逆浸透膜(RO膜)の詰り(所謂バイオファウリング)の海水混合による抑制が不十分となる場合があることがわかった。バイオファウリングの程度が大きいと、RO膜を洗浄する回数が多くなる、多量のバイオファウリング抑制剤を必要とする、また、最悪の場合、必要なRO透過水の量が確保できなくなるなど、海水から淡水を生成する効率が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制する海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するために、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水を利用した場合であっても、バイオファウリングを十分に抑制するために、生物処理水に含有される生物の耐塩性を検討し、生物処理水に含有される生物のうち、低度好塩性生物及び非好塩性生物は0.5Mを超える塩濃度の雰囲気では生育されにくいことに着目して本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の一の局面における海水淡水化方法は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、該低濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、該生物処理水と該海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、該高濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える。
【0011】
本発明の一の局面における海水淡水化装置は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、該生物処理水と海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、該混合部で得られる該低濃度塩水及び該高濃度塩水をろ過処理する逆浸透膜装置とを備える。
【0012】
本発明の一の局面における海水淡水化方法及び海水淡水化装置によれば、塩濃度が0.5Mを超える高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、低度好塩性生物及び非好塩性生物が生育されにくい雰囲気になる。このため、塩濃度が0.5M以下の低濃度塩水を逆浸透膜装置でろ過処理する工程により、海水の淡水化に要するエネルギーを低減しつつ、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、バイオファウリングを十分に抑制できる。したがって、本発明は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明者は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するために、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水を利用した場合であっても、バイオファウリングを十分に抑制するために、生物処理水に含有される生物の耐塩性を検討し、生物処理水に含有される生物のうち、非好塩性生物は0.2Mを超える塩濃度の雰囲気では生育されにくいことに着目して本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明の他の局面における海水淡水化方法は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、該低濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、該生物処理水と該海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、該高濃度塩水を該逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える。
【0015】
本発明の他の局面における海水淡水化装置は、逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、該生物処理水と海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、該混合部で得られる該低濃度塩水及び該高濃度塩水をろ過処理する逆浸透膜装置とを備える。
【0016】
本発明の他の局面における海水淡水化方法及び海水淡水化装置によれば、塩濃度が0.2Mを超える高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、非好塩性生物が生育されにくい雰囲気になる。このため、塩濃度が0.2M以下の低濃度塩水を逆浸透膜装置でろ過処理する工程により、海水の淡水化に要するエネルギーを低減しつつ、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することにより、バイオファウリングを十分に抑制できる。したがって、本発明は、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することができる。
【0017】
上記海水淡水化方法において好ましくは、高濃度塩水を逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程を一時的に実施する。
【0018】
これにより、定常時は低濃度塩水を逆浸透膜装置に供給することができるので、海水の淡水化に要するエネルギーをより低減できる海水淡水化方法を提供することができる。
【0019】
ここで、本明細書において塩濃度の単位として用いている「M」とはモル体積濃度のことであり、物質量を全体量の体積で除したものである(mol/L)。例えば、0.5Mとは、1Lの溶液中に0.5molの塩が溶解していることを示す。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる海水淡水化方法及び海水淡水化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態における海水淡水化装置の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態の変形例における海水淡水化装置の模式図である。
【図3】本発明の実施の形態における海水淡水化方法及び海水淡水化装置の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0023】
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態における海水淡水化装置10について説明する。本実施の形態の海水淡水化装置10は、逆浸透(RO)膜を用いた逆浸透膜装置によるろ過処理によって海水を淡水化する装置である。
【0024】
海水淡水化装置10は、生物処理槽11と、第1の除濁部12と、第1の加圧部13と、第1の逆浸透膜装置14と、第2の除濁装置15と、混合部16と、第2の加圧部17と、第2の逆浸透膜装置18とを備えている。第1の除濁部12は、生物処理槽11に収容されている。第1の逆浸透膜装置14は、第1の加圧部13を介して、第1の除濁部12と配管等により接続されている。第2の除濁装置15は、海水Aが通過する。混合部16は、第1の逆浸透膜装置14及び第2の除濁装置15のそれぞれと配管や中継槽等により接続されている。第2の逆浸透膜装置18は、第2の加圧部17を介して、混合部16と配管等により接続されている。
【0025】
生物処理槽11は、細菌、原生動物、後生動物等の生物種によって水に含まれる有機物が分解される処理が行われる。このような処理として、例えば、活性汚泥を用いた曝気処理等を挙げることができる。
【0026】
第1の除濁部12は、生物処理水をろ過するためのものであり、RO膜よりも粗いろ過、即ち、RO膜で分離するよりも粗い不純物(例えば固形物質等)を除去し、第1の逆浸透膜装置14の前処理装置である。第1の除濁部12は、生物処理槽11内の液面下に浸漬されており、例えば、精密ろ過膜(MF膜)及び限外ろ過膜(UF膜)の少なくともいずれか一方を有する。
【0027】
第1の加圧部13は、第1の除濁部12で粗い不純物がろ過された生物処理水を加圧する。第1の加圧部13は、例えばポンプである。
【0028】
第1の逆浸透膜装置14は、加圧された生物処理水が供給され、この生物処理水をRO膜により、透過水たる浄化水Cと、塩濃度が相対的に高い濃縮水とに分離する。第1の逆浸透膜装置14は、例えば、RO膜と、このRO膜を収容する圧力容器とを有している。本明細書におけるRO膜は、ナノろ過膜(NF膜)を含む概念である。
【0029】
第2の除濁装置15は、海水をろ過するためのものであり、RO膜よりも粗い不純物を除去し、第2の逆浸透膜装置18の前処理装置である。第2の除濁装置15は、例えば、MF膜および限外ろ過膜の少なくともいずれか一方の除濁手段と、この除濁手段を収容する容器とを有しているが、砂ろ過や凝集沈殿による除濁手段を有するように構成されてもよい。
【0030】
混合部16は、低濃度塩水を生成することと、高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている。低濃度塩水とは、第1の逆浸透膜装置14から生成される濃縮水と、第2の除濁装置15で粗い不純物が除去された海水とを混合することにより得られる混合水で、生物処理水中の生物の生育可能な塩濃度上限値以下の塩濃度を有する水である。高濃度塩水とは、第1の逆浸透膜装置14から生成される濃縮水と、海水とを混合することにより、または、海水のみを用いることにより、生物処理水中の生物の生育可能な塩濃度上限値を超える塩濃度を有する水である。
具体的には、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、低濃度塩水は0.5M以下の塩濃度を有する水であり、高濃度塩水は0.5Mを超える塩濃度を有する水である。
低濃度塩水の塩濃度は、低ければ低い程よく、高濃度塩水の塩濃度は、高ければ高い程よい。実際的には、高濃度塩水が0.5Mを超えると共に低濃度塩水が0.5M以下である場合には、生物処理水と海水との混合上、低濃度塩水は0.2M以上0.5M以下であることが好ましく、日本近海の海水の塩濃度が0.6M程度(3.5%)であり、日本近海以外の海では0.8M程度(4.5%)の所もあることを考慮すれば、高濃度塩水は0.5Mを超えて0.8M以下であることが好ましく、0.5Mを超えて0.6M以下であることがより好ましい。
【0031】
なお、生物処理水中の生物として非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育可能な塩濃度上限値は0.5Mであり、生物処理水中の生物として非好塩性生物の生育可能な塩濃度上限値は0.2Mである。このため、非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、低濃度塩水は0.2M以下の塩濃度を有し、高濃度塩水は0.2Mを超える塩濃度を有する。
【0032】
混合部16は、例えば、低濃度塩水及び高濃度塩水を貯留可能な貯留槽であり、第1の逆浸透膜装置14から濃縮水が導入される濃縮水導入部と、海水が導入される海水導入部と、低濃度塩水または高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18へ排出する排出部とを含んでいる。濃縮導入部及び海水導入部は、混合部に導入される量を調整することが可能なように、例えば、開口度を調整できるように構成されている。
【0033】
混合部16では、第2の逆浸透膜装置18に供給する供給水の塩濃度が0.5M以下から0.5Mを超えるように生物処理水(本実施の形態では濃縮水)と海水との混合比を変更することが可能なように構成されている。本実施の形態では、混合部16において、濃縮水導入部及び海水導入部の開口度を調整して、供給水の塩濃度を調整することが可能であるため、排出部から第2の逆浸透膜装置18に供給する供給水を0.5M以下の塩濃度と、0.5Mを超える塩濃度とに選択できる。
【0034】
なお、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、混合部16は、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている。
【0035】
また、混合部16は、濃縮水の供給を停止して、海水のみを第2の逆浸透膜装置18に供給することが可能なように構成されている。混合部16において海水のみを生成することは、混合部16において、濃縮水導入部を閉口し、海水導入部のみを開口することで、実現できる。この場合、混合部16の排出部から第2の逆浸透膜装置18に供給する水の塩濃度を高めることができる。
【0036】
混合部16には、上記のように供給水の塩濃度の制御をするために、供給水の塩濃度を測定する測定部がさらに設けられていてもよい。
また、海水淡水化装置10は、供給水の塩濃度を測定する測定部の値及び後述する第2の逆浸透膜装置18のRO膜の状態に応じて、供給水の塩濃度を制御する制御部をさらに備えていてもよい。
【0037】
第2の加圧部17は、混合部16で生成された供給水を加圧する。第2の加圧部17は、例えばポンプである。
【0038】
第2の逆浸透膜装置18は、加圧された低濃度塩水または高濃度塩水が供給され、この水をRO膜により、透過水たる淡水Eと、濃縮水Dとに分離する。第2の逆浸透膜装置18は、例えば、RO膜と、このRO膜を収容する圧力容器とを有している。第2の逆浸透膜装置18のRO膜と、第1の逆浸透膜装置14のRO膜とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
第2の逆浸透膜装置18により製造された淡水Eと、第1の逆浸透膜装置14により浄化された浄化水Cとは混合されてもよく(図示せず)、混合されなくてもよい。
【0040】
なお、第1の逆浸透膜装置14は省略されてもよい。この場合、第1の除濁部12は、例えば、混合部16と接続される。
【0041】
続いて、図1を参照して、本実施の形態における海水淡水化方法について説明する。本実施の形態の海水淡水化方法は、図1に示す海水淡水化装置10を用いて、RO膜を用いた逆浸透膜装置によるろ過処理によって海水を淡水化する方法である。
【0042】
まず、有機性廃水Bを生物処理槽11に供給する。有機性廃水Bは、有機物を含む廃水であり、例えば、有機物濃度の指標としてのBOD(生物化学的酸素要求量)が2000mg/L以下の廃水であり、より具体的には、200mg/L程度の廃水である。また、有機性廃水Bは、海水よりも塩濃度が低い水である。有機性廃水Bは、例えば、海水Aの塩濃度に対する有機性廃水Bの塩濃度の比が0.1以下のもの、より具体的には、海水Aの塩濃度に対する有機性廃水Bの塩濃度の比が0.01以下のものである。
有機性廃水Bとしては、下水(生活廃水や雨水が下水道に流れた水等)や、工業廃水(食品工場、化学工場、電子産業工場、パルプ工場等の工場から排出される廃水)等が挙げられる。
【0043】
次いで、生物処理槽11で、有機性廃水を生物処理、即ち、細菌、原生動物、後生動物等の生物種によって水に含まれる有機物を分解処理する。生物処理として、例えば、活性汚泥を用いた曝気処理等を挙げることができる。
【0044】
次に、生物処理槽11に収容された第1の除濁部12で、生物処理水をろ過する。このろ過により、生物処理水中の固形物質等の粗い不純物を除去することができる。
【0045】
次に、第1の除濁部12で粗い不純物が除去された生物処理水を第1の加圧部13で加圧する。生物処理水に加える圧力は特に限定されないが、第1の逆浸透膜装置14で浄化水Cを得るために必要な圧力を加える。
【0046】
次に、第1の逆浸透膜装置14で、加圧された生物処理水を、透過水たる浄化水Cと、濃縮水とに分離する。浄化水Cは、製造対象物である。濃縮水は、海水Aよりも低い塩濃度を有するため、海水Aの希釈液として用いる。
【0047】
また、海水Aを第2の除濁装置15に供給する。海水Aは、塩を含む水であり、例えば、塩濃度が1.0質量%以上8.0質量%以下の水であり、より具体的には、塩濃度が例えば2.5質量%以上6.0質量%以下である。
本明細書において、海水Aは、海に存在する水に限定されず、塩濃度が1.0質量%以上の水であれば、湖(塩湖、汽水湖)の水、沼水、池水等の陸に存在する水も含む。また、海水Aは、鹹(かん)水を含む。
【0048】
次に、第1の逆浸透膜装置14で生成された生物処理水由来の濃縮水と、第2の除濁装置15で除濁された海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成する。さらに、この工程は、0.2M以上0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することが好ましい。
【0049】
次に、低濃度塩水を第2の加圧部17で加圧する。低濃度塩水に加える圧力は特に限定されないが、逆浸透膜装置18で淡水Eを分離するのに必要な圧力を加える。第2の加圧部17で低濃度塩水に加える圧力は、海水により塩濃度が高まることにより、第1の加圧部13で加える圧力よりも大きい。
【0050】
次に、加圧された低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する。この工程では、低濃度塩水を、透過水たる淡水Eと、濃縮水Dとに分離する。淡水Eは、海水淡水化における製造対象物である。濃縮水Dは、通常は放流される。
【0051】
なお、第1の逆浸透膜装置14により浄化された浄化水Cと、第2の逆浸透膜装置18により生成されて製造された淡水Eとは、混合されてもよく、混合されなくてもよい。
【0052】
次に、第1の逆浸透膜装置14で生成された生物処理水由来の濃縮水と、第2の除濁装置15で生成された海水とを混合することにより、または海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成する。つまり、この工程では、塩濃度が0.5M以下の低濃度塩水から0.5Mを超えるように濃縮水と海水との混合比を変更する。この工程では、0.5Mを超えて0.8M以下の高濃度塩水を生成することが好ましく、0.5Mを超えて0.6M以下の高濃度塩水を生成することがより好ましい。
【0053】
この工程において、海水のみを用いることで高濃度塩水を生成する場合には、混合部16への濃縮水の供給を停止する。この場合、海水のみを第2の逆浸透膜装置18に供給することになる。海水のみからなる高濃度塩水を供給する場合には、海水は生物処理水よりも塩濃度が高いため、塩濃度が0.5Mを超える高濃度塩水を容易に生成することができる。
【0054】
次に、高濃度塩水を第2の加圧部17で加圧する。高濃度塩水に加える圧力は特に限定されないが、第2の逆浸透膜装置18で透過水たる淡水Eを分離可能な程度に、高濃度塩水に圧力を加える。第2の加圧部17で高濃度塩水に加える圧力は、低濃度塩水に加える圧力よりも大きい。
【0055】
次に、加圧された高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する。この工程では、透過水たる淡水Eと、濃縮水Dとに分離する。淡水Eは、海水淡水化における製造対象物である。濃縮水Dは、通常は放流される。
【0056】
次に、低濃度塩水を生成し、この低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する低濃度運転工程と、高濃度塩水を生成し、この高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する高濃度運転工程とを繰り返す。海水淡水化に要するエネルギーを低減するという目的からは、低濃度運転工程を定常運転とし、高濃度運転工程を一時的に実施することが好ましい。
【0057】
第2の逆浸透膜装置18に供給する水(供給水)の塩濃度は、例えば、第2の逆浸透膜装置18に向けて排出する排出部において、塩濃度計や電気伝導計などにより測定することができる。このように測定される塩濃度に応じて、低濃度塩水及び高濃度塩水の制御ができる。
【0058】
なお、本実施の形態の海水淡水化方法において、生物処理水中の生物として非好塩性生物及び低度好塩性生物を十分に抑制する場合を説明したが、非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、本発明の海水淡水化方法は、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給する工程と、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給する工程とを備える。
【0059】
(変形例)
図2を参照して、本実施の形態の変形例における海水淡水化装置20及び海水淡水化方法を説明する。
【0060】
変形例の海水淡水化装置20は、基本的には図1に示す実施の形態1の海水淡水化装置10と同様であるが、生物処理槽11内に収容された除濁部12の代わりに、生物処理槽11外に第1の除濁装置21を備えている点において異なる。第1の除濁装置21は、例えば、MF膜および限外ろ過膜の少なくともいずれか一方の除濁手段と、この除濁手段を収容する容器とを有しているが、砂ろ過や凝集沈殿による除濁手段を有するように構成されてもよい。
【0061】
変形例の海水淡水化方法は、基本的には実施の形態1の海水淡水化方法と同様であるが、生物処理槽11に収容された第1の除濁部12で生物処理水をろ過する代わりに、第1の除濁装置21で生物処理水をろ過する点において異なる。
【0062】
続いて、図1及び図3を参照して、本実施の形態の海水淡水化装置10及び海水淡水化方法の効果について説明する。
【0063】
図3に示すように、混合部16から第2の逆浸透膜装置18に供給する水(供給水)における海水の体積比率(海水混合比)が低いほど、供給水の塩濃度が低くなる。このため、供給水を加圧するエネルギーが海水のみからなる場合に比べて小さいので、得られる淡水Eの量当たりにおける、海水を淡水化するのに必要なエネルギー量を抑制できる。このように、要するエネルギーを低減するためには、海水混合比が小さいことが好ましい。
【0064】
しかし、図3において、海水混合比が30%以下の場合、即ち、供給水の塩濃度が0.2M以下の場合には、非好塩性の雰囲気であるので、非好塩性生物が生育可能である。海水混合比が30%を超えて80%以下の場合、即ち、供給水の塩濃度が0.2Mを超えて0.5M以下の場合には、低度好塩性の雰囲気であるので、低度好塩性生物が生育可能である。
ここで、供給水中に存在する生物について説明する。生物を耐塩性で分類すると、高度好塩性生物と、中度好塩性生物と、低度好塩性生物と、非好塩性生物とに分かれる。高度好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が2.5Mを超える生物である。中度好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が0.5Mを超えて2.5M以下であり、様々な含塩試料から分離される細菌が該当する。低度好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が0.2Mを超えて0.5M以下であり、例えば、海洋性の高等生物や細菌が該当する。非好塩性生物は、至適増殖NaCl濃度が0Mを超えて0.2M以下であり、多くの高等生物や土壌細菌が該当する。
【0065】
仮に、海水の塩濃度が3.5%である場合、NaCl(MW:モル質量=58.44)換算で0.6Mになる。また、生物処理水の塩濃度が0.024%である場合、NaCl換算で0.004Mとなり、第1の除濁部12及び第1の逆浸透膜装置14によるろ過処理をして得られる濃縮水の塩濃度は0.02M程度である。
図3に示すように、海水混合比が0%の場合、即ち、供給水が生物処理水由来の濃縮水のみ(濃縮水100%)の場合、供給水の塩濃度は0.02Mである。海水混合比が20%の場合、即ち、供給水が海水20%で濃縮水80%の場合、供給水の塩濃度は0.12Mである。海水混合比が40%の場合、即ち、供給水が海水40%で濃縮水60%の場合、供給水の塩濃度は0.24Mである。海水混合比が60%の場合、即ち、供給水が海水60%で濃縮水40%の場合、供給水の塩濃度は0.36Mである。海水混合比が80%の場合、即ち、供給水が海水80%で濃縮水20%の場合、供給水の塩濃度は0.50Mである。海水混合比が100%の場合、即ち、供給水が海水のみ(海水100%)の場合、供給水の塩濃度は0.60Mである。
【0066】
生物の生育は、至適増殖NaCl濃度の範囲外では十分に抑制され、特に至適増殖NaCl濃度よりも高くなると効果的に抑制され、死滅する場合もある。このため、図3に示すように、供給水の海水混合比が30%以下である場合には、供給水の塩濃度は0.2M以下であるので、非好塩性生物は生育可能である。また、供給水の海水混合比が30%を超え80%以下である場合には、供給水の塩濃度は0.2Mを超え0.5M以下であるので、低度好塩性生物は生育可能である。しかし、供給水の塩濃度が0.5Mを超えるように海水の比率を高めると、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育が十分に抑制される。生物処理水には非好塩性生物及び低度好塩性生物が相対的に多く含まれているので、供給水の塩濃度が0.5M以下から0.5Mを超えるように生物処理水由来の濃縮水と海水との混合比を変更することにより、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生育を十分に抑制できるので、第2の逆浸透膜装置18を構成するRO膜においてバイオファウリングを十分に抑制することができる。なお、供給水の海水混合比が30%以下である場合には、供給水の塩濃度が0.2Mを超えるように海水の比率を高めて、非好塩性生物の生育を十分に抑制してもよい。
仮に、バイオファウリングによる有機物の付着であるバイオフィルムが形成されていても、供給水中の海水及び濃縮水の比率を変更することで、生物にショックを与えることができると共に、適応する微生物の種類を変化させることができるので、バイオフィルムが剥がれ易くなり、場合によってはバイオフィルムが剥がれることもある。
バイオファウリングを十分に抑制できると、RO膜を洗浄する回数を低減することができ、バイオファウリング抑制剤の使用量を低減することができる。その結果、RO膜を長期間使用することができるので、海水及び有機性廃水から淡水を生成する効率を高めることができる。
【0067】
したがって、生物処理水由来の濃縮水の比率が高い状態での運転時(塩濃度が0.5M以下の低濃度塩水をRO膜でろ過処理する時)には、要するエネルギーを低減し、海水の比率が高い状態での運転(塩濃度が0.5Mを超える高濃度塩水をRO膜でろ過処理する)時には、バイオファウリングを十分に抑制できる。このため、この2つの状態の運転を輪番で行うことにより、海水の淡水化に要するエネルギーを低減するとともに、バイオファウリングを十分に抑制することができる。
なお、非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には、生物処理水由来の濃縮水の比率が高い状態での運転時とは、塩濃度が0.2M以下の低濃度塩水をRO膜でろ過処理する時であり、海水の比率が高い状態での運転とは、塩濃度が0.2Mを超える高濃度塩水をRO膜でろ過処理する時である。
【0068】
特に、基本的には塩濃度を0.5M(非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には0.2M)以下の低濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給し、一時的に混合水の塩濃度が0.5M(非好塩性生物の生育を十分に抑制する場合には0.2M)を超える高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給するように生物処理水由来の濃縮水と海水との混合比を変更することが好ましい。なお、「一時的に」とは、高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する工程の実施時間が、低濃度塩水をRO膜に供給してろ過処理する工程の実施時間よりも短いことを意味する。高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する工程は、例えば、第2の逆浸透膜装置18を構成するRO膜の詰り具合に応じて、または、非好塩性生物及び低度好塩性生物の生存期間に応じて、所定のタイミング及び所定の期間実施する。具体的には、高濃度塩水を第2の逆浸透膜装置18に供給してろ過処理する工程は、例えば、2日に1回、30分程度実施されることが好ましい。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
10 海水淡水化装置、11 生物処理槽、12 第1の除濁部、13 第1の加圧部、14 第1の逆浸透膜装置、15 第2の除濁装置、16 混合部、17 第2の加圧部、18 第2の逆浸透膜装置、21 第1の除濁装置、A 海水、B 有機性廃水、C 浄化水、D 濃縮水、E 淡水。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、前記低濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、
前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、前記高濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える、海水淡水化方法。
【請求項2】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、前記低濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、
前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、前記高濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える、海水淡水化方法。
【請求項3】
前記高濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程を一時的に実施する、請求項1または2に記載の海水淡水化方法。
【請求項4】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、
前記混合部で得られる前記低濃度塩水及び前記高濃度塩水をろ過処理する前記逆浸透膜装置とを備える、海水淡水化装置。
【請求項5】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、
前記混合部で得られる前記低濃度塩水及び前記高濃度塩水をろ過処理する前記逆浸透膜装置とを備える、海水淡水化装置。
【請求項1】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、前記低濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、
前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、前記高濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える、海水淡水化方法。
【請求項2】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成し、前記低濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程と、
前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成し、前記高濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程とを備える、海水淡水化方法。
【請求項3】
前記高濃度塩水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する工程を一時的に実施する、請求項1または2に記載の海水淡水化方法。
【請求項4】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.5M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.5Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、
前記混合部で得られる前記低濃度塩水及び前記高濃度塩水をろ過処理する前記逆浸透膜装置とを備える、海水淡水化装置。
【請求項5】
逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化するための海水淡水化装置であって、
有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水と前記海水とを混合することにより、0.2M以下の塩濃度を有する低濃度塩水を生成することと、前記生物処理水と前記海水とを混合することにより、または前記海水のみを用いることにより、0.2Mを超える塩濃度を有する高濃度塩水を生成することとが可能なように構成されている混合部と、
前記混合部で得られる前記低濃度塩水及び前記高濃度塩水をろ過処理する前記逆浸透膜装置とを備える、海水淡水化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2013−56320(P2013−56320A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197406(P2011−197406)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】
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