説明

海水淡水化装置

【課題】海水の淡水化に必要な電力を安定的に発電し,その電力により稼働する海水淡水化装置を提供する。
【解決手段】海水淡水化装置は,熱媒体と熱媒体より温度が低い海水とを熱交換させ,海水を加熱して蒸発させるとともに,熱媒体と海水の温度差により発電する熱交換・発電部と,当該水蒸気を凝縮させ,淡水を生成する蒸留部と,太陽熱を集熱して熱媒体を加熱する集熱装置と,熱媒体の熱を地中に蓄熱する蓄熱槽と,蓄熱槽の熱により加熱された熱媒体を熱交換・発電部の高温側に供給する第1のポンプと,海水を熱交換・発電部の低温側に供給する第2のポンプとを備え,熱交換・発電部により生成された電力により,前記第1のポンプ及び前記第2のポンプを駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,海水淡水化装置に関し,特に,蒸発させた海水を凝縮器で凝縮させることにより海水を淡水化する海水淡水化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球上における慢性的な水不足問題,砂漠化現象などから,海水の淡水化の需要は近年急速に増大している。淡水化方法として,従来よりさまざまな方式が提案されているが,その方式の一つとして,海水を加熱して蒸発させ,その蒸発した海水(水蒸気)を凝縮器で凝縮させる蒸発法により淡水を得る海水淡水化装置が知られている。
【0003】
特許文献1の海水淡水化装置は,ヒータにより海水を沸点よりも低い温度まで加熱し,その加熱した海水を減圧することで蒸発させて,ペルチェ効果による吸熱で冷却された冷却液が循環する凝縮器で水蒸気を凝縮させ,淡水化する。また,特許文献2の海水淡水化装置は,ソーラーボンドに貯められた無機塩類水溶液を太陽熱で加熱し,該加熱された水溶液と海水との熱交換により海水を加熱し,減圧により蒸発させた後,凝縮器にて吸い上げた海水により冷却して凝縮させ,淡水化する。
【0004】
また,近年では,水蒸気の凝縮作用を,疎水性多孔質膜を利用して行う膜蒸留法が注目されている(特許文献3,特許文献4)。膜蒸留法は,気体や蒸気は透過するが,液体は透過しない多孔質疎水性膜を用いて,その片側か膜を通過してきた加熱された海水の水蒸気を,逆側の冷却水により凝縮することで,海水を蒸留し,淡水を回収する。
【0005】
さらに,表層海水と深層海水の温度差を利用した発電・淡水化装置も提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−230246号公報
【特許文献2】特開平2―214586号公報
【特許文献3】特開平9―24249号公報
【特許文献4】特開2010−226066号公報
【特許文献5】特開平7−317508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,上述の膜蒸留法を含む蒸発法では,海水の水蒸気を生成するのに,海水を加熱する必要があり,そのために,海水をヒータにより加熱する必要があり(特許文献1,3,4),そのために多大な電力を要する。また,海水の循環など装置の循環系統におけるポンプの駆動にも電力を消費する。特許文献2は,太陽熱を利用して海水を加熱するが,循環系統のポンプ駆動に電力を要する。
【0008】
特許文献5は,海水温度差発電により,海水の加熱及びポンプの駆動など淡水化装置に要する電力をまかなうが,海水温度差発電は,基本的には特殊な環境で採用される発電手法であり,すなわち,電力を供給できない陸地より遠く離れた海域に浮揚する浮体上にプラントを設置して行うものであり,最も需要の高い陸上生活者の生活用水・飲料水のために適用することができない。
【0009】
また,海水淡水化装置と太陽光発電システムを併設して,太陽光発電による電力を用いて,無電化地域で海水淡水化装置を稼働させるシステムも提案されているが,現時点では,発電の安定性や蓄電のためのバッテリーコストなどを考慮すると,太陽光発電のみでは,安定的な電力供給を行うのは現実的ではない。
【0010】
そこで,本発明の目的は,海水の淡水化に必要な電力を安定的に発電し,その電力により稼働する海水淡水化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の海水淡水化装置の構成は,熱媒体と該熱媒体より温度が低い海水とを熱交換させ,海水を加熱して蒸発させるとともに,熱媒体と海水の温度差により発電する熱交換・発電部と,当該水蒸気を凝縮させ,淡水を生成する蒸留部と,太陽熱を集熱して熱媒体を加熱する集熱装置と,熱媒体の熱を地中に蓄熱する蓄熱槽と,前記蓄熱槽の熱により加熱された熱媒体を前記熱交換・発電部の高温側に供給する第1のポンプと,海水を前記熱交換・発電部の低温側に供給する第2のポンプとを備え,前記熱交換・発電部により生成された電力により,前記第1のポンプ及び前記第2のポンプを駆動することを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の海水淡水化装置によれば,地中に蓄積された熱により24時間通して安定的に太陽熱発電による発電が行われ,その発電電力により,外部からの電力供給をうけることなく,安定的に自律運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における海水淡水化装置の構成を示す図である。
【図2】熱交換・発電部100の概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら,かかる実施の形態例が,本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
図1は,本発明の実施の形態における海水淡水化装置の構成を示す図である。本実施形態の海水淡水化装置は,太陽熱を利用して海水を加熱し,海水を加熱するための熱交換において,熱電発電による発電を行い,ポンプの駆動など海水淡水化装置の稼働に必要な電力を生成するものである。
【0016】
本実施形態の海水淡水化装置は,高温側の熱媒体と低温側の海水との熱交換により海水を加熱するとともに,その温度差に基づいて熱電発電を行う熱交換・発電部100と,熱交換・発電部100の高温側で熱媒体を循環させる高温側ユニットと,熱交換・発電部100の低温側で海水を循環させる低温側ユニットとを備えて構成される。
【0017】
高温側ユニットは,太陽熱を集熱する集熱装置210と,集熱された熱を貯蔵する蓄熱槽220と,吐出ポンプ230とを備える。集熱装置210,蓄熱槽220及び熱交換・発電部100高温側は,熱媒体(オイル)が循環する管路を介してループを構成する。集熱装置210により加熱された熱媒体は,蓄熱槽220に送られ,蓄熱槽220を加熱し,蓄熱される。また,蓄熱槽220を経由した熱媒体は,熱交換・発電部100に送られ,熱交換・発電部100の高温側を流れ,低温側と熱交換を行った後,集熱装置210に戻る。循環用の吐出ポンプ230が,この高温側ループ内の熱媒体を循環させ,熱交換・発電部100に熱媒体を供給する。
【0018】
低温側ユニットは,海水を貯蔵する第1の貯蔵タンク310と,膜蒸留により海水を淡水化させる膜蒸留部320と,膜蒸留部320により生成された淡水を貯蔵する淡水タンク330と,膜蒸留部320を通過した海水を貯蔵する第2の貯蔵タンク340と,フィルター360と,吐出ポンプ370と,吸い上げポンプ380とを備える。
【0019】
第1の貯蔵タンク310の海水は,濾過用のフィルター360を介して膜蒸留部320の冷却側に送られ,膜蒸留部320の冷却流路側を通過して,第2の貯蔵タンク340に貯蔵される。第2の貯蔵タンク340,熱交換・発電部100の低温側及び膜蒸留部320の蒸気流路側は,海水が循環する管路を介して低温側ループを構成し,第2の貯蔵タンク340からの海水は,吐出ポンプ370により熱交換・発電部100に送られ,そこで熱交換により加熱されて,水蒸気となって膜蒸留部320に送られる。
【0020】
蒸気流路側を流れる水蒸気は,膜蒸留部320に設置される多孔質疎水性膜を透過して冷却流路側の海水で冷却されて凝縮し,淡水となって,淡水タンク330に貯まる。また,多孔質疎水性膜を透過しない水蒸気は,膜蒸留部320を出て,液体となって第2の貯蔵タンク340に戻る。循環用の吐出ポンプ370が,この低温側ループ内の海水(液体状態,水蒸気状態)を循環させる。また,吸い上げポンプ380は,第1の貯蔵タンク310の海水を吸い上げて,膜蒸留部320の冷却流路側へ通過させ,さらに,第2の貯蔵タンク340に供給する。多孔質疎水性膜を利用した膜蒸留方式は,蒸留部の構造が多段フラッシュ方式などの他の蒸留方式と比べて極めて簡易であり,造水量が数トン/日程度の小規模の淡水化設備に最適である。なお,膜蒸留方式によって蒸留を行う膜蒸留部320に代わって,別の方式(例えば,多段フラッシュ方式など)によって蒸留を行う蒸留部が用いられてもよい。
【0021】
図2は,熱交換・発電部100の概略構成例を示す図である。熱交換・発電部100は,熱電発電モジュール101,高温側伝熱板102,低温側伝熱板103を有して構成される。熱電発電モジュール101は,ゼーベック効果を利用して高温側と低温側の温度差により発電を行う素子であり,既存の製品を採用することができる。高温側伝熱板102は,太陽熱で加熱された熱媒体が流れる流路が配管され,低温側伝熱板103は,海水が流れる流路が配管されている。
【0022】
以下に,1日(24時間)に1トン造水する場合の発電量の試算例を示す。
(1)過去の実績などから1トンの淡水を得るのに必要な熱量を150kWhとする。
(2)太陽熱を集熱できる時間を24時間のうち日昼の8時間とすると,夜間(朝方,夕方など十分な太陽熱を得られない時間帯を含む)16時間分の熱量を蓄熱する必要がある。その蓄熱量は,
16×(150/24)=100kWh
である。2割程度の余裕をみて120kWhの熱量を日昼の間で貯蔵する。すなわち,少なくとも120kWhの熱量を貯蔵できるよう蓄熱槽220を設計する。
(3)高温側の温度を160℃〜260℃(平均値210℃を計算に使用),低温側の温度が20℃〜80℃(平均値50℃を計算に使用)とすると,高温側と低温側の温度差は160℃(=210℃−50℃)となるが,熱抵抗の損失を考慮して,温度差100℃とする。
(4)温度差100℃における熱電発電モジュールの変換効率4%とすると,
発電量E=0.04×120kWh=4.8kWh
(5)循環用の吐出ポンプの消費電力は10W程度であり,吸い上げポンプの消費電力は数100Wであるが間欠運転である。従って,この発電量にて,ポンプ駆動の全電力を十分にまかなうことができる。
【0023】
熱交換・発電部100により生成された電力は,蓄電装置(バッテリー)400に蓄積される。蓄電装置400として,用途に応じた適切な二次電池が選択される。電力制御部410は,蓄電装置400に蓄積された電力を用いて,必要な電力を各ポンプに供給する。電力制御部410は,一般的なコンピュータ制御により実現可能である。発電電力は,電力制御部410など,ポンプ以外の電力駆動要素の稼働に用いられてもよい。
【0024】
蓄熱槽220は,好ましくは,地中に設置され,必要な蓄熱量に相当する容積を有する。地下の槽内は,例えば,岩石,コンクリートや煉瓦など蓄熱密度の高い蓄熱材で充填され,好ましくは断熱材で覆われる。蓄熱槽220内に配管された管路内を流れる熱媒体は,蓄熱材と吸熱・放熱を行う。地中は,地上と比較して温度変化が少なく,蓄熱温度を一定に保つことができるとともに,大規模な容積を確保することができることから,大規模な地下設備として,蓄熱槽220を設けることで,大容量の熱量を安定的に蓄積できる。これにより,太陽熱を集熱できない夜間の時間帯を含めて24時間を通して,装置の稼働に必要な全電力を安定的に生成することが可能となり,外部からの電力供給を受けることなく,太陽熱発電により自律的に稼働するシステムが構築される。
【0025】
集熱装置210は,いわゆるヘリオスタット型(平面鏡を用いて中央部に設置されたタワーにある集熱器に太陽光を集中させ,その熱を集熱する方式),又はトラフ型(曲面鏡を用いて,その曲面鏡の前に設置されたパイプに太陽光を集中させ,パイプ内を流れる熱媒体を加熱する方式)を含むさまざまな集熱方式が採用されうる。
【0026】
各ポンプの設置位置は,図1に示されるものに限らず,熱媒体及び海水の適切な流れを確保できる位置に設置され,また,設置台数も,ポンプの能力に応じて適宜決定される。
【0027】
また,本実施の形態の海水淡水化装置は,海水に限らず,例えば,塩分の多い地下水の淡水化にも適用可能であり,本明細書では,海水と同様に塩分を含む水を淡水化する装置を含む概念として用いられる。
【0028】
また,上述の実施の形態では,熱交換・発電部100の高温側に,太陽熱を集熱して加熱された熱媒体を用い,低温側に海水を流すことで,太陽熱発電により生成された電力を海水淡水化装置の稼働に利用する例,すなわち,低温側ユニットを海水淡水化装置とする例について説明したが,低温側ユニットとして,海水淡水化装置を適用する例に限らず,熱交換を行う流体が流れる構成を有する装置(例えば,空調設備など)にも適用可能である。図1における熱交換・発電部100及び高温側ユニットは,低温側ユニットに安定的に電力を供給し,低温側ユニットのポンプを駆動する太陽熱発電装置として機能する。
【0029】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
100:熱交換・発電部,210:集熱装置,220:蓄熱槽,230:吐出ポンプ,310:第1の貯蔵タンク,320:膜蒸留部,330:淡水タンク,340:第2の貯蔵タンク,360:フィルター,370:吐出ポンプ,380:吸い上げポンプ,400:蓄電装置,410:電力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体と該熱媒体より温度が低い海水とを熱交換させ,海水を加熱して蒸発させるとともに,熱媒体と海水の温度差により発電する熱交換・発電部と,
当該水蒸気を凝縮させ,淡水を生成する蒸留部と,
太陽熱を集熱して熱媒体を加熱する集熱装置と,
熱媒体の熱を地中に蓄熱する蓄熱槽と,
前記蓄熱槽の熱により加熱された熱媒体を前記熱交換・発電部の高温側に供給する第1のポンプと,
海水を前記熱交換・発電部の低温側に供給する第2のポンプとを備え,
前記熱交換・発電部により生成された電力により,前記第1のポンプ及び前記第2のポンプを駆動することを特徴とする海水淡水化装置。
【請求項2】
熱媒体と該熱媒体より温度が低い流体とを熱交換させ,熱媒体と流体の温度差により発電する熱交換・発電部と,
太陽熱を集熱して熱媒体を加熱する集熱装置と,
加熱された熱媒体の熱を地中に蓄熱する蓄熱槽と,
前記集熱装置と前記蓄熱槽間で熱媒体を循環させ,前記蓄熱槽の熱により加熱された熱媒体を前記熱交換・発電部の高温側に供給する第1のポンプと,
前記流体を前記熱交換・発電部の低温側に供給する第2のポンプとを備え,
前記熱交換・発電部により生成された電力により,前記第1のポンプ及び第2のポンプを駆動することを特徴とする太陽熱発電装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−63360(P2013−63360A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201843(P2011−201843)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(508166671)一般財団法人航空宇宙技術振興財団 (4)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】