説明

海洋構造物およびその設置構造と設置方法

【課題】固有振動数の調整が容易で減衰率を高くすることができ、シンプルな構造で低コスト化を図ることができ、波浪エネルギーや潮流エネルギーの影響の軽減を図ることができる、洋上風力発電機の支持架台として有用な海洋構造物を提供する。
【解決手段】下部が広がり上部が窄まった多角錐台をその中心軸線Lの周りに捩ることで得られる立体を仮想の基本形状とし、その立体の斜めの各稜線に沿って直線状の脚材2を配置することで、各脚材の中心線Sまたはその延長線を、前記立体の中心軸線Lを中心とする仮想の円筒に接するように構成し、その仮想の円筒と各脚材の中心線の接点の近傍で脚材を接合部材20によって相互連結すると共に、接合部材を配した高さレベルより下側の脚材によって囲まれた領域を開放空間5として確保した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底の地盤に支持をとって立設される海洋構造物、例えば、洋上風力発電機用の支持架台として海域に設置される海洋構造物、および、その設置構造と設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の海洋構造物として、モノポールタイプのものや櫓状のジャケットタイプのものが知られている。モノポールタイプのものは、地盤の水平反力と鋼管の曲げ耐力で水平力やモーメントに抵抗するため、鋼管を大径厚肉にしなくてはならず、重量が重くなる、大径鋼管の加工に大型設備を必要とし労力と時間がかかる、大径鋼管の海底地盤への貫入に大型設備を必要とし労力と時間がかかる、等の問題があり、コストも高くなる。また、固有周期の調整が困難であり、減衰率が低く、洋上風力発電機のように大きな振動を伴う装置の支持架台としては、重量の割に支持性能が低いという問題がある。
【0003】
また、従来の櫓状のジャケットタイプのものは、形状が複雑な割に固有周期の調整が困難であり、減衰率が低く、洋上風力発電機のように大きな振動を伴う装置の支持架台としては、支持性能が低いという問題がある。
【0004】
そこで、下記特許文献1に、中心支柱として大径鋼管よりなる中央シャフトを立設し、その中央シャフトを囲むように複数本の直線状の脚材を、下部が広がり上部が窄まった多角錐台をその中心軸線の周りに捩ることで得られる仮想の立体の斜めの各稜線に沿ってそれぞれ配置し、中央シャフトから斜め上方および下方に枝状に延ばした支持材を各脚材に連結することで各脚材を支持するようにした海洋構造物が開示されている。
【0005】
この海洋構造物によれば、脚材が互いに捩れた位置関係にあることで、固有振動数の調整が容易になると共に、減衰率を高くできるため、洋上風力発電機のように大きな振動を伴う装置の支持架台としての支持性能を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/144570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された海洋構造物は、複数本の脚材で囲まれた領域の中央に中央シャフトが立設されているため、鋼材使用量や鋼材重量が増加する上、構造が複雑化し組み立てや施工に労力や時間がかかり、高コストになるという問題がある。また、脚材によって囲まれた領域に中心シャフトという障害物が存在することにより、波浪エネルギーや潮流エネルギーの影響を大きく受けやすいという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮し、固有振動数の調整が容易で減衰率を高くすることができると共に、シンプルな構造で低コスト化を図ることができ、しかも、波浪エネルギーや潮流エネルギーの影響の軽減を図ることができて、洋上風力発電機のように大きな振動を伴う装置の支持架台として有効な支持性能を発揮できる海洋構造物およびその設置構造と設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明の海洋構造物は、下部が広がり上部が窄まった多角錐台をその中心軸線の周りに捩ることで得られる立体を仮想の基本形状とし、その立体の斜めの各稜線に沿って直線状の脚材を配置することで、各脚材の中心線またはその延長線を、前記立体の中心軸線を中心とする仮想の円筒に接するように構成し、その仮想の円筒と前記各脚材の中心線の接点の近傍で前記脚材を接合部材によって相互連結すると共に、前記接合部材を配した高さレベルより下側の前記脚材によって囲まれた領域を開放空間として確保したことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の海洋構造物であって、前記接合部材として鉛直方向に沿った鉛直プレートを備え、該鉛直プレートを前記各脚材に対し鉛直方向に沿って接合することにより、前記脚材を相互連結したことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の海洋構造物であって、前記鉛直プレートが、円筒状または円錐筒状の鉛直筒状プレートであることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項2または3に記載の海洋構造物であって、前記接合部材として水平方向に沿った上下の水平プレートを備え、上側の水平プレートを前記鉛直プレートの上部に接合し、下側の水平プレートを前記鉛直プレートの下部に接合し、それら上下の水平プレートに形成した複数の貫通孔に前記脚材をそれぞれ貫通させて、その貫通部分で前記水平プレートと前記脚材を水平方向に沿って接合することにより、前記脚材を相互連結したことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の海洋構造物の設置構造であって、前記海洋構造物の脚材を外鋼管と該外鋼管の内部に挿入された内鋼管杭とで構成し、前記海洋構造物を海底に設置して前記内鋼管杭の下端を海底の地盤に挿入し、その状態で前記外鋼管と内鋼管杭とを一体に接合したことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項5に記載の海洋構造物の設置構造であって、前記内鋼管杭を、下端に羽根の付いた回転貫入杭により構成し、前記海洋構造物を海底に設置して前記回転貫入杭を回転させることでその下端を海底の地盤に貫入させ、その状態で前記外鋼管と前記回転貫入杭とを一体に接合したことを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項6に記載の海洋構造物の設置構造であって、前記外鋼管と前記回転貫入杭との接合を解除可能となし、接合を解除することで、前記回転貫入杭を貫入時と逆方向に回転可能に構成したことを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項5〜7のいずれか一項に記載の海洋構造物の設置構造であって、前記外鋼管と内鋼管杭の間の空間および前記内鋼管杭の内部の空間の少なくともいずれか一方の空間にコンクリートを充填することで、前記脚材を鋼管コンクリート構造としたことを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、請求項8に記載の海洋構造物の設置構造であって、前記充填されたコンクリートと前記外鋼管または内鋼管杭との接触面に、粘性体、粘弾性体、塑性体、または弾塑性体等の減衰率の高い材料を挿入したことを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、複数の脚材を有する海洋構造物の設置方法であって、前記脚材を外鋼管と該外鋼管の内部に挿入された内鋼管杭とで構成する共に、該内鋼管杭を、下端に羽根の付いた回転貫入杭で構成し、該回転貫入杭を回転する回転貫入機械を前記海洋構造物に装着すると共に、該海洋構造物をクレーンで吊り下げて海底に設置し、その吊り下げ支持した状態を維持しながら前記回転貫入機械により前記回転貫入杭を回転させることで該回転貫入杭の下端を海底の地盤に貫入させ、海底の地盤による支持が確立した段階でクレーンによる海洋構造物の吊り下げを解除すると共に前記外鋼管と前記回転貫入杭とを一体に接合することを特徴とする。
【0019】
請求項11の発明は、請求項10の海洋構造物の設置方法であって、前記回転貫入杭を海底の地盤に貫入している途中および/または貫入した後で、前記回転貫入杭にジャッキの支持を取り、該回転貫入杭の下端の羽根の引き抜き抵抗および押し込み抵抗を反力にして、前記ジャッキを用いて前記外鋼管を上下動させることにより、前記海洋構造物を上下方向にレベル調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の海洋構造物によれば、各中心線が仮想の円筒に接するように配された複数の脚材は互いに交わる交点を有さないため、脚材と脚材の間に十分な作業スペースを確保することができ、脚材を順次繋いで長い継ぎ杭を作ることが容易にできる。また、この構造物では、前記立体の中心軸線に直交する面上で各脚材の中心点が構成する円の半径が、前記仮想の円筒と各脚材の中心線の接する高さにおいて最小となり、その接点から下方向および上方向にそれぞれ行くほど徐々に大きくなるので、上方向に行くほど円の半径が大きくなる高さレベルに構造物の頂部を配置することによって、構造物の頂部における作業スペースの確保が容易にできるようになる。また、構造物の下部に向かうほど脚材の間隔が広がるので、構造物の下部での脚材の踏ん張り距離の確保が容易にできるようになる。
【0021】
また、前記仮想の円筒に各中心線が接するように各脚材を配置するだけで各脚材の角度は自由に設定することができるので、軸力と曲げ力の理想的な配分を容易に設定することができる。また、脚材が捩れた関係に位置しているので、捩れ変形を利用して構造物の固有周期の調整が容易にできるようになり、風力発電用の風車などの振動する機械を搭載する場合にも振動応答性を低減することができるし、地震動に対する振動応答性も低減することができき、振動に対する減衰率を高めることができる。また、前記仮想の円筒と各脚材の中心線の接点の近傍、つまり、脚材の間隔が最小となる位置の近傍で、脚材を接合部材によって相互連結するので、接合部材のサイズを小さくすることができる。
【0022】
また、接合部材を配した高さレベルより下側の脚材によって囲まれた領域を開放空間として確保しており、従来例のように脚材によって囲まれた領域の中央に中心シャフトを配置しないで、全部の脚材を一体に結合しているので、中央シャフトがある従来例に比べて、鋼材使用量や鋼材重量を減らすことができる。また、脚材によって囲まれた領域の中央に中心シャフトがないことで、波浪エネルギーや潮流エネルギーをその開放空間で逃がすことができるので、それらのエネルギーによる影響を軽減することができる。また、脚材で囲まれた領域に中央シャフトがない分だけ、構造がシンプルになるので、施工が容易になりコスト低減を図ることができる。
【0023】
請求項2の海洋構造物によれば、鉛直プレートを各脚材に対し鉛直方向に沿って接合することにより脚材を相互連結したので、トラス構造にして脚材を相互連結する場合に比べて、少ない鋼材使用量で容易に必要な強度を得ることができる。
【0024】
請求項3の海洋構造物によれば、円筒状または円錐筒状の鉛直筒状プレートを用いて脚材を相互連結したので、構造物の軸方向の剛性強化を図ることができる。
【0025】
請求項4の海洋構造物によれば、上下の水平プレートに形成した複数の貫通孔に脚材をそれぞれ貫通させて、その貫通部分で水平プレートと脚材を水平方向に沿って接合することにより、脚材を相互連結したので、トラス構造にして脚材を相互連結する場合に比べて、少ない鋼材使用量で容易に必要な強度を得ることができる。また、水平プレートの上面を作業デッキとして利用することができる。
【0026】
請求項5の海洋構造物の設置構造によれば、脚材を外鋼管と内鋼管杭とで構成し、海洋構造物を海底に設置して、内鋼管杭の下端を海底の地盤に挿入し、その状態で外鋼管と内鋼管杭とを一体に接合しているので、海洋構造物を海底の地盤によって強固に支持することができる。また、施工に当たっては、外鋼管の内部に挿入された内鋼管杭の下端を海底の地盤に挿入するだけであり、外鋼管をガイドにして内鋼管杭を挿入することができるので、施工が容易にできる。
【0027】
請求項6の海洋構造物の設置構造によれば、下端に羽根の付いた回転貫入杭を内鋼管杭として海底の地盤に貫入させるので、下端の羽根により内鋼管杭の引き抜き抵抗を大きくすることができる。従って、内鋼管杭の根入を少なくしても、海洋構造物の頂部に水平荷重やモーメントが働いた場合に十分な抵抗力を発揮することができる。また、回転貫入杭は、海底の地盤に貫入させることによって大きな引き抜き抵抗や押し込み抵抗を発揮することができるので、回転貫入杭の上部に支持を取ったジャッキを利用することにより、海洋構造物の上下方向のレベル調整を容易に行うことができ、高精度の施工が可能となる。また、羽根の付いた回転貫入杭は予め外鋼管の内部に挿入しておくことができるので、外鋼管をガイドとしながら内鋼管杭である回転貫入杭を海底の地盤に貫入させることができ、現場施工の効率化と高精度化を図ることが可能となる。また、回転貫入杭は、回転貫入機械で回転させることによって地盤に挿入することができるから、施工の際に、打撃杭のような騒音や振動が発生せず、環境にやさしい施工が可能となる。また、回転貫入杭は、海洋構造物を吊った状態のまま反力を相殺しながら安全に地盤に挿入できるので、施工管理がたやすくできる。また、回転貫入杭は、施工時と逆方向に回転させることにより地盤から容易に引き抜くことができるので、海洋構造物の撤去も容易であり撤去費用も少なくて済む。
【0028】
請求項7の海洋構造物の設置構造によれば、回転貫入杭と外鋼管の接合を解除して回転貫入杭を貫入時と逆方向に回転させることにより、回転貫入杭を地盤から容易に引き抜くことができ、海洋構造物の撤去が容易にできる。
【0029】
請求項8の海洋構造物の設置構造によれば、脚材を鋼管コンクリート構造にすることにより、外鋼管の外径を大きくすることができると共に薄肉化することが可能となり、重量を増大させないで座屈耐力を向上させることができる。従って、水平材、斜材、筋交い材等の補強材を最小限にした単純な構造を実現することができるし、スパイラル鋼管や電縫鋼管の使用によりコスト低減を図ることもできる。
【0030】
請求項9の海洋構造物の設置構造によれば、コンクリートと外鋼管または内鋼管杭との接触面に、粘性体、粘弾性体、塑性体、または弾塑性体等の減衰率の高い材料を挿入したので、外鋼管や内鋼管杭とコンクリートとの間の相対変位が可能であり、前記粘性体や粘弾性体などの材料が剪断変形することにより、構造物の減衰率を高めることができる。また、コンクリートと回転貫入杭の間に前記粘性体や粘弾性体などの材料を挿入することにより、コンクリートと回転貫入杭とをアンボンド化することができ、その結果、回転貫入杭を逆回転して引き抜くことが容易に可能となり、構造物の撤去の容易化を図ることができる。
【0031】
請求項10の海洋構造物の設置方法によれば、外鋼管の内部に挿入した回転貫入杭を回転貫入機械で回転させることにより、クレーンで海洋構造物を吊り下げながら回転貫入杭を精度良く海底の地盤に貫入させることができる。そして回転貫入杭の貫入後に、外鋼管と回転貫入杭を一体に接合することにより、海底の地盤に確実な支持を取りながら海洋構造物を海洋上に設置することができる。従って、海洋上での施工が簡単にでき、コストの低減と工期の短縮を図ることができる。
【0032】
請求項11の海洋構造物の設置方法によれば、海底の地盤に貫入した回転貫入杭にジャッキの支持を取り、ジャッキを用いて海洋構造物を上下方向にレベル調整するので、精度の良い安定した施工が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の海洋構造物の概略構成を示す斜視図である。
【図2】同海洋構造物の脚材の配置を示す斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態の海洋構造物の概略構成を示す斜視図である。
【図4】前記第1実施形態の海洋構造物を海域に施工する場合の工程の説明図である。
【図5】図4の次の工程の説明図である。
【図6】図5の次の工程の説明図である。
【図7】図6の次の工程の説明図である。
【図8】図7の次の工程の説明図である。
【図9】図8の次の工程の説明図である。
【図10】図9の次の工程の説明図である。
【図11】図10の次の工程の説明図である。
【図12】図11の次の工程の説明図である。
【図13】図12の次の工程の説明図である。
【図14】図13の次の工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は第1実施形態の海洋構造物の概略構成を示す斜視図、図2は同海洋構造物の脚材の配置を示す斜視図である。
【0035】
図1に示す第1実施形態の海洋構造物1は、洋上風力発電機の支持架台として海底の地盤に設置されるもので、図2に示すように、下部が広がり上部が窄まった多角錐台(本実施形態では三角錐台を示すが、四角錐台以上の多角錐台でも可)をその中心軸線Lの周りに捩ることで得られる立体(特に図示せず)を仮想の基本形状とし、その立体の斜めの各稜線に沿って直線状の脚材2を3本配置することで、各脚材2の中心線Sまたはその延長線を、前記立体の中心軸線Lを中心とする仮想の円筒10に接するように構成している。そして、その仮想の円筒10と各脚材2の中心線Sの接点11の近傍で、図1に示すように、脚材2を上部接合部材20によって相互に連結し、上部接合部材20を配した高さレベルより下側の脚材2によって囲まれた領域を、従来例の中央シャフトのようなものが何も存在しない開放空間5として確保している。また、間隔の開いた3本の脚材2の下端を、三角形状の下部接合部材30で相互に連結している。
【0036】
図1に示すように、上部接合部材20としては、鉛直方向に沿った円筒状の鉛直筒状プレート21の上下端に円板状の水平プレート22を配したものを用いており、鉛直筒状プレート21は各脚材2に対し鉛直方向に沿って接合し、上下端の水平プレート22は、プレート上に形成した複数の貫通孔22aに脚材2をそれぞれ貫通させた状態で、その貫通部分で水平プレート22と脚材2を水平方向に沿って円周状に接合することにより、3本の脚材2を相互に連結している。また、下部接合部材30は、脚材2の下端と下端を繋ぐ3枚のプレート状の梁材31により構成されている。
【0037】
このように構成された海洋構造物1によれば、各中心線Sが仮想の円筒10に接するように配された複数(本実施形態では3本)の脚材2は互いに交わる交点を有さないため、脚材2と脚材2の間に十分な作業スペースを確保することができ、後述するように脚材(内鋼管杭3)を順次繋いで長い継ぎ杭を作ることが容易にできる。
【0038】
また、この海洋構造物1では、図2に示すように、前記立体の中心軸線Lに直交する面上で各脚材2の中心点aが構成する円Aの半径が、仮想の円筒10と各脚材2の中心線Sの接する接点11の高さにおいて最小となり、その接点11から下方向および上方向にそれぞれ行くほど徐々に大きくなるので、上方向に行くほど円Aの半径が大きくなる高さレベルに海洋構造物1の頂部を配置することによって、海洋構造物1の頂部における作業スペースの確保が容易にできるようになる。
【0039】
また、海洋構造物1の下部に向かうほど脚材2の間隔が広がるので、海洋構造物1の下部での脚材2の踏ん張り距離の確保が容易にできるようになる。また、前記仮想の円筒10に各中心線Sが接するように各脚材2を配置するだけで各脚材2の角度は自由に設定することができるので、軸力と曲げ力の理想的な配分を容易に設定することができる。
【0040】
また、脚材2が捩れた関係に位置しているので、捩れ変形を利用して海洋構造物1の固有周期の調整が容易にできるようになり、風力発電用の風車などの振動する機械を搭載する場合にも振動応答性を低減することができるし、地震動に対する振動応答性も低減することができ、振動に対する減衰率を高めることができる。また、前記仮想の円筒10と各脚材2の中心線Sの接点11の近傍、つまり、脚材2の間隔が最小となる位置の近傍で、脚材2を上部接合部材20によって相互連結するので、上部接合部材20のサイズを小さくすることができる。
【0041】
また、上部接合部材20を配した高さレベルより下側の脚材2によって囲まれた領域を開放空間5として確保しており、従来例のように脚材によって囲まれた領域に中心シャフトを配置しないで、全部の脚材2を一体に結合しているので、中央シャフトがある従来例に比べて、鋼材使用量や鋼材重量を減らすことができる。また、脚材2によって囲まれた領域の中央に中心シャフトがないことで、波浪エネルギーや潮流エネルギーをその開放空間5で逃がすことができるので、それらのエネルギーによる影響を軽減することができる。また、脚材2で囲まれた領域に中央シャフトがない分だけ、構造がシンプルになるので、施工が容易になりコスト低減を図ることができる。
【0042】
また、本実施形態の海洋構造物1によれば、上部接合部材20に鉛直筒状プレート21と水平プレート22を設け、鉛直筒状プレート21を各脚材2に対し鉛直方向に沿って接合し、水平プレート22に形成した複数の貫通孔22aに脚材2をそれぞれ貫通させて、その貫通部分で水平プレート22と脚材2を水平方向に沿って接合しているので、トラス構造にして脚材2を相互連結する場合に比べて、少ない鋼材使用量で容易に必要な強度(特に軸方向の剛性強度)を得ることができる。また、水平プレート22の上面を作業デッキとして利用することもできる。
【0043】
図3は本発明の第2実施形態の海洋構造物1Bの概略構成を示す斜視図である。
この第2実施形態の海洋構造物1Bでは、三角錐台を第1実施形態よりも更に捩った形状の仮想の立体の各稜線に沿って脚材2を配置すると共に、脚材2の中心線Sの接する仮想の円筒(本図では図示せず)を第1実施形態よりより径の大きいものとして脚材2同士の間隔を広めに保ち、更に、上部接合部材20Bを、円錐筒状の鉛直筒状プレート21Bと、その上下のリング状の水平プレート22、23とで構成し、上側の水平プレート23を下側の水平プレート22よりも大径に構成している。それ以外の構成は第1実施形態と同じである。円筒状の鉛直筒状プレート21の代わりに円錐筒状の鉛直筒状プレート23を用いたのは、脚材2が上方に向けて徐々に広がる部分に上部接合材20Bを配置する関係からである。上側の水平プレート23を大径化したのも同じ理由からである。この実施形態の海洋構造物1Bにおいても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。更に、脚材2の間隔を広げたので、作業スペースの確保がより容易にできるようになり、作業デッキも広めにすることができる等の効果が得られる。
【0044】
次に上記の構成の海洋構造物1(第2実施形態の海洋構造物1Bでもよい)を海底に設置する場合の設置方法と、それにより得られる設置構造について、図4〜図14図を参照しながら説明する。
【0045】
この海洋構造物1を海底に設置する場合は、各脚材2を、外鋼管と該外鋼管の内部に挿入された内鋼管杭とで構成する。以下の図においては、外鋼管を符号2(便宜上、図1〜図3における脚材と同じ符号とする)で示し、内鋼管杭(回転貫入杭)を符号3で示す。
【0046】
図4に示すように、予め工場や船上で第1実施形態の海洋構造物1を組み立て、これを台船100上に寝かせて設置海域に搬送し、クレーン110などを用いて外鋼管2(第1実施形態の脚材2に相当)の内部に内鋼管杭3を挿入する。最初の内鋼管杭3としては、下端に羽根3aの付いた回転貫入杭3を使用する。ここでは、下端に羽根があるかないかの違いだけであるので、回転貫入杭も、その上に継ぎ足す内鋼管杭も、同じ符号3で示す。
【0047】
次に回転貫入杭3を外鋼管2に仮固定した状態で、図5に示すように海洋構造物1を起立させ、外鋼管2の上端部に、回転貫入杭3を回転させることができるように回転貫入機械120を取り付けると共に、図6に示すように、回転貫入杭(内鋼管杭)3の上端に次の内鋼管杭3を溶接して継ぎ足す。このような作業の際に、脚材2が互いに捩られた関係で配置されていることにより交点を有しないので、内鋼管杭3の継ぎ足しが無理なく可能になると共に、作業スペースの確保が容易にできる。
【0048】
次に図7に示すように、油圧ポンプ130のホース132を各回転貫入機械120に繋いで準備を完了する。油圧ポンプ120は、図7に示すように台船100上に配置してもよいが、海洋構造物1の上(海底に設置したときに海面上に出る部分)に配置してもよい。また、継ぎ足す内鋼管杭3は1本でも2本でも何本でもよい。まとめて取り付ける場合は、治具を用いるのがよい。また、台船100上で内鋼管杭3の継手部を溶接してもよいが、後述のように予め仮付けしておいて、据え付け時などの本溶接してもよい。
【0049】
そして、図8および図9に示すように、海洋構造物1をクレーン120により台船100上から海上に吊り下ろして海底200に着床させる。外鋼管2の下端が海底200に到達した時点やその前後に、吊り下げた状態のまま、海洋構造物1を位置決めしたり水平レベル調整を行ったりする。その後、海底の地盤201に荷重が十分に伝達されるまで吊り下ろす。この段階で回転貫入杭3の下端の羽根3aは、自重で地盤201に少し貫入される。
【0050】
次に回転貫入機械120を台船100上から遠隔コントロールして、図10に示すように、回転貫入杭3を海洋構造物1の倒壊の危険性が無くなるまで地盤201に貫入する。安定性が確保できたら、その段階で海洋構造物1の上に作業員が移動して、クレーン110のワイヤを取り外し、図11に示すように、回転貫入機械120に装着されている図示略の上下加圧ジャッキで海洋構造物1の第1回目の上下方向のレベル調整を行い、更に回転貫入杭3を回転させて貫入させる。このとき、レベル調整に止まらず、必要に応じて、脚材2の長さ調整を個々に行なうことにより、上部接合部材20の水平度の調整も同時に行なう。このレベル調整と回転貫入を何度か繰り返し、図12に示すように、回転貫入杭3の下端が支持層210に到達したことをトルクで確認し、必要トルクまたは必要根入量の確保をした上で打ち止めする。
【0051】
この場合の回転貫入杭3を海底の地盤201に貫入している途中および/または貫入した後の海洋構造物1の上下方向のレベル調整は、回転貫入杭3にジャッキの支持を取り、回転貫入杭3の下端の羽根3aの引き抜き抵抗および押し込み抵抗を反力にして、ジャッキを用いて外鋼管2を上下動させることにより行う。このように繰り返し海洋構造物1を上下方向にレベル調整するので、精度の良い安定した施工が可能となる。
【0052】
その後、図13に示すように、回転貫入機械120を取り外し、内鋼管杭3と外鋼管2の接合を行う。なお、この接合を、後で解除できるようにしておくことにより、海洋構造物1の撤去作業が楽に行えるようになる。更に次の工程で、図14に示すように、コンクリート(狭義のコンクリートの他にグラウト材を含む)6を打設する。この際、外鋼管2と内鋼管杭3の間の空間および内鋼管杭3の内部の空間の少なくともいずれか一方の空間にコンクリート6を打設充填する。そうすることで、海洋構造物1の脚材(外鋼管2または/および内鋼管杭3)を鋼管コンクリート構造とすることができる。また、充填されたコンクリート6と外鋼管2または内鋼管杭3との接触面に、粘性体、粘弾性体、塑性体、または弾塑性体等の減衰率の高い材料を挿入することもできる。そして、以上により全部の工程を終了し、海洋構造物1の設置構造ができ上がる。
【0053】
このように施工することにより、海洋構造物1を海底の地盤201や支持層210によって強固に支持することができる。また、施工に当たっては、外鋼管2の内部に挿入された内鋼管杭3の下端を海底の地盤201や支持層210に挿入するだけであり、外鋼管2をガイドにして内鋼管杭3を挿入することができるので、施工が容易にできる。
【0054】
特に、下端に羽根3aの付いた回転貫入杭3を内鋼管杭3として海底の地盤201や支持層210に貫入させるので、下端の羽根3aにより内鋼管杭3の引き抜き抵抗を大きくすることができる。従って、内鋼管杭3の根入を少なくしても、海洋構造物1の頂部に水平荷重やモーメントが働いた場合に十分な抵抗力を発揮することができる。また、回転貫入杭3は、海底の地盤201に貫入させることによって大きな引き抜き抵抗や押し込み抵抗を発揮することができるので、回転貫入杭3の上部に支持を取ったジャッキを利用することにより、海洋構造物1の上下方向のレベル調整並びに水平度の調整を容易に行うことができ、高精度の施工が可能となる。
【0055】
また、羽根3aの付いた回転貫入杭3は、予め外鋼管2の内部に挿入しておくことができるので、外鋼管2をガイドとしながら内鋼管杭3である回転貫入杭3を海底の地盤201に貫入させることができ、現場施工の効率化と高精度化を図ることが可能となる。また、回転貫入杭3は、回転貫入機械120で回転させることによって地盤201に挿入することができるから、施工の際に、打撃杭のような騒音や振動が発生せず、環境にやさしい施工が可能となる。また、回転貫入杭3は、海洋構造物1をクレーンで吊った状態のまま反力を相殺しながら安全に地盤201に挿入できるので、施工管理がたやすくできる。
【0056】
また、脚材を鋼管コンクリート構造にすることにより、外鋼管2の外径を大きくすることができると共に薄肉化することが可能となるので、重量を増大させないで座屈耐力を向上させることができる。従って、水平材、斜材、筋交い材等の補強材を最小限にした単純な構造を実現することができるし、スパイラル鋼管や電縫鋼管の使用によりコスト低減を図ることもできる。
【0057】
また、コンクリート6と外鋼管2または内鋼管杭3との接触面に、粘性体、粘弾性体、塑性体、または弾塑性体等の減衰率の高い材料を挿入した場合は、外鋼管2や内鋼管杭3とコンクリート6との間の相対変位が可能となるため、前記粘性体や粘弾性体などの材料が剪断変形することにより、構造物の減衰率を高めることができる。また、コンクリート6と回転貫入杭3の間に前記粘性体や粘弾性体などの材料を挿入することにより、コンクリート6と回転貫入杭3とをアンボンド化することができ、その結果、回転貫入杭3を逆回転して引き抜くことが容易に可能となり、構造物の撤去の容易化を図ることができる。
【0058】
また、後からの撤去の容易化を図る場合は、外鋼管2と回転貫入杭3との接合を解除可能なものとしておくと共に、接合を解除することで、回転貫入杭3を貫入時と逆方向に回転できるようにしておくのがよい(例えば、鋼管とコンクリートをアンボンド化しておく等)。そうしておくことで、回転貫入杭3と外鋼管2の接合を解除して回転貫入杭3を貫入時と逆方向に回転させることにより、回転貫入杭3を地盤201から容易に引き抜くことができて、海洋構造物1の撤去が容易にできるようになり、撤去費用も少なくて済む。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、脚材2を相互連結する接合部材として、円筒状の鉛直プレートを用いた例に付いて説明したが、これに限られることなく、単なる平板上のプレート、あるいはねじれた形状のプレートによって隣り合う脚材同士を連結しても良い。また、水平プレートとしては上下2枚の水平プレートに限られることなく、上下3枚以上の水平プレートを利用しても良い。
【符号の説明】
【0060】
1 海洋構造物
2 脚材、外鋼管
3 内鋼管杭、回転貫入杭
3a 羽根
5 開放空間
10 仮想の円筒
11 接点
20 上部接合部材
21 円筒状の鉛直筒状プレート
22,23 水平プレート
22a 貫通孔
200 海底
201 地盤
210 支持層
L 中心軸線
S 中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部が広がり上部が窄まった多角錐台をその中心軸線の周りに捩ることで得られる立体を仮想の基本形状とし、その立体の斜めの各稜線に沿って直線状の脚材を配置することで、各脚材の中心線またはその延長線を、前記立体の中心軸線を中心とする仮想の円筒に接するように構成し、その仮想の円筒と前記各脚材の中心線の接点の近傍で前記脚材を接合部材によって相互連結すると共に、前記接合部材を配した高さレベルより下側の前記脚材によって囲まれた領域を開放空間として確保したことを特徴とする海洋構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の海洋構造物であって、
前記接合部材として鉛直方向に沿った鉛直プレートを備え、該鉛直プレートを前記各脚材に対し鉛直方向に沿って接合することにより、前記脚材を相互連結したことを特徴とする海洋構造物。
【請求項3】
請求項2に記載の海洋構造物であって、
前記鉛直プレートが、円筒状または円錐筒状の鉛直筒状プレートであることを特徴とする海洋構造物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の海洋構造物であって、
前記接合部材として水平方向に沿った上下の水平プレートを備え、上側の水平プレートを前記鉛直プレートの上部に接合し、下側の水平プレートを前記鉛直プレートの下部に接合し、それら上下の水平プレートに形成した複数の貫通孔に前記脚材をそれぞれ貫通させて、その貫通部分で前記水平プレートと前記脚材を水平方向に沿って接合することにより、前記脚材を相互連結したことを特徴とする海洋構造物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の海洋構造物の設置構造であって、
前記海洋構造物の脚材を外鋼管と該外鋼管の内部に挿入された内鋼管杭とで構成し、前記海洋構造物を海底に設置して前記内鋼管杭の下端を海底の地盤に挿入し、その状態で前記外鋼管と内鋼管杭とを一体に接合したことを特徴とする海洋構造物の設置構造。
【請求項6】
請求項5に記載の海洋構造物の設置構造であって、
前記内鋼管杭を、下端に羽根の付いた回転貫入杭により構成し、前記海洋構造物を海底に設置して前記回転貫入杭を回転させることでその下端を海底の地盤に貫入させ、その状態で前記外鋼管と前記回転貫入杭とを一体に接合したことを特徴とする海中構造物の設置構造。
【請求項7】
請求項6に記載の海洋構造物の設置構造であって、
前記外鋼管と前記回転貫入杭との接合を解除可能となし、接合を解除することで、前記回転貫入杭を貫入時と逆方向に回転可能に構成したことを特徴とする海洋構造物の設置構造。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の海洋構造物の設置構造であって、
前記外鋼管と内鋼管杭の間の空間および前記内鋼管杭の内部の空間の少なくともいずれか一方の空間にコンクリートを充填することで、前記脚材を鋼管コンクリート構造としたことを特徴とする海洋構造物の設置構造。
【請求項9】
請求項8に記載の海洋構造物の設置構造であって、
前記充填されたコンクリートと前記外鋼管または内鋼管杭との接触面に、粘性体、粘弾性体、塑性体、または弾塑性体等の減衰率の高い材料を挿入したことを特徴とする海洋構造物の設置構造。
【請求項10】
複数の脚材を有する海洋構造物の設置方法であって、
前記脚材を外鋼管と該外鋼管の内部に挿入された内鋼管杭とで構成する共に、該内鋼管杭を、下端に羽根の付いた回転貫入杭で構成し、該回転貫入杭を回転する回転貫入機械を前記海洋構造物に装着すると共に、該海洋構造物をクレーンで吊り下げて海底に設置し、その吊り下げ支持した状態を維持しながら前記回転貫入機械により前記回転貫入杭を回転させることで該回転貫入杭の下端を海底の地盤に貫入させ、海底の地盤による支持が確立した段階でクレーンによる海洋構造物の吊り下げを解除すると共に前記外鋼管と前記回転貫入杭とを一体に接合することを特徴とする海洋構造物の設置方法。
【請求項11】
請求項10の海洋構造物の設置方法であって、
前記回転貫入杭を海底の地盤に貫入している途中および/または貫入した後で、前記回転貫入杭にジャッキの支持を取り、該回転貫入杭の下端の羽根の引き抜き抵抗および押し込み抵抗を反力にして、前記ジャッキを用いて前記外鋼管を上下動させることにより、前記海洋構造物を上下方向にレベル調整することを特徴とする海洋構造物の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−76240(P2013−76240A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215846(P2011−215846)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306022513)新日鉄住金エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】