説明

海洋構造物

【課題】海中に設置された金属製の構造物の周囲に海洋生物の生存に適した環境を創出しやすい海洋構造物を提供すること。
【解決手段】海洋構造物1は、海中Wに設置されてカソードとなる脚部2と、脚部2と電気的に接続され、かつ海中Wでアノードとなるアノード材料4と、を含む。脚部2は鋼製であり、アノード材料4は、例えば、マグネシウム系の材料とする。このようにして、海中Wにおいて、脚部2の表面に電着鉱物層として石灰質を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に設置される部分に金属材料を用いた防波堤、離岸堤、ケーソン、消波構造物その他の海洋構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
防波堤、離岸堤、消波構造物、海上風力発電機、石油プラットフォーム、浮上式堤防等といった、海洋に設置される構造物(海洋構造物)がある。このような海洋構造物は、一般に、コンクリート、鉄筋コンクリート又は金属材料等で製造される。例えば、特許文献1には、基礎杭及び骨組構造物を鋼製とし、これらを海中に配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−24408号公報(2頁右上欄第20行〜2頁左下欄第10行、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋼製の構造物が海中に設置される場合、腐食を回避するために、電気防食が適用されることがある。一方、コンクリート製の海洋構造物を海中に設置すると、このような構造物の表面には藻類あるいは貝類等が付着する。これは、コンクリートの表面が多孔質であるため、藻類あるいは貝類等が付着しやすくなると考えられる。そして、コンクリート製の海洋構造物の周りには、このような生物の捕食を目的とした魚介類が集まり、藻類、貝類及び魚介類その他の海洋生物が生存しやすい環境が形成されることがある。
【0005】
一般に、電気防食が適用される構造物、例えば、金属製の構造物が海中に設置される場合、表面が多孔質ではないことから、藻類あるいは貝類等は付着しにくく、前述したような海洋生物が生存しやすい環境は望めないことが多い。本発明は、海中に設置された金属製の構造物の周囲に海洋生物の生存に適した環境を創出しやすい海洋構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る海洋構造物は、海中に設置されてカソードとなる金属製の構造体と、前記構造体と電気的に接続され、かつ海中でアノードとなるアノード材料と、を含み、前記海中において、前記構造体の表面に石灰質を析出させることを特徴とする。
【0007】
この海洋構造物は、海中に設置される金属製の構造体をカソードとし、前記構造体とアノード材料とを電気的に接続することにより、前記構造体に電気防食を施すとともに、前記構造体の表面に石灰質を析出させる。このようにすることで、前記構造体の表面には石灰質の多孔質層が形成されるので、前記構造物の表面は、前記多孔質層に藻類あるいは貝類等が付着し、繁殖しやすい環境となる。そして、前記構造物の表面に付着した藻類あるいは貝類を捕食するために魚介類が集まるようになる。このように、本発明は、海中に設置された金属製の構造物の周囲に海洋生物の生存に適した環境を創出しやすい海洋構造物を提供することができる。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記アノード材料は、イオン化傾向の異なる複数の材料を組み合わせることが好ましい。このようにすれば、海中に設置される構造物の表面に析出する石灰質の厚みを調整することができる。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記アノード材料は、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金とを含むことが好ましい。アノード材料として、このようなイオン化傾向の異なる複数種類の材料を用いることにより、環境負荷を低減できる。また、マグネシウム又はマグネシウム合金は、防食電位を低くすることができるので、石灰質を効率的に析出させることができる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記構造体の表面に導電性を有する部材を取り付けて、前記構造体と前記部材とを電気的に接続することが好ましい。このようにすれば、前記構造体の表面に取り付けられた導電性を有する部材にも石灰質が析出するので、前記構造体の表面には凹凸を有する石灰質の層が形成される。その結果、より藻類あるいは貝類等が付着しやすくなる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記構造体に導電性を有する網を取り付けて、前記構造体と前記網とを電気的に接続することが好ましい。このような構造により、前記構造物の表面に加えて導電性を有する網にも石灰質が析出するので、藻類あるいは貝類等が付着する面積が増加するので好ましい。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る海洋構造物は、海中に設置されてカソードとなる金属製の構造体と、前記構造体と電気的に接続され、かつ前記海中でアノードとなるアノード材料と、自然エネルギーによって電力を発生し、かつ負極が前記構造体と電気的に接続され、陽極が前記アノード材料と電気的に接続される電源装置と、を含み、前記海中において、前記構造体の表面に石灰質を析出させることを特徴とする。
【0013】
このようにすれば、波力、風力、温度差、潮流又は太陽光等の自然エネルギーを有効活用できるので好ましい。
【0014】
本発明の望ましい態様として、前記石灰質を析出させるときの電流密度は1A/m以上であり、析出した前記石灰質が層を形成した後は、電流密度を0.005A/m以上0.1A/m以下とすることが好ましい。このように、石灰質の層を形成するときの電流密度を前記層が形成された後よりも大きくすることで、早期に石灰質の層を構造体の表面に形成することができる。そして、石灰質の層が形成された後は、電流密度を小さくすることで、海洋生物の生存に適した環境を創出するとともに、石灰質の層の維持及び構造体の防食を維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、海中に設置された金属製の構造物の周囲に海洋生物の生存に適した環境を創出しやすい海洋構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施形態1に係る海洋構造物の装置構成図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る海洋構造物の装置構成図である。
【図3】図3は、アノード材料と脚部との間で電流を流すことを説明するための図である。
【図4】図4は、時間の経過にしたがって脚部の表面における電流密度を変更する例を示す図である。
【図5】図5は、時間の経過にしたがって脚部の表面における電流密度を変更する例を示す図である。
【図6】図6は、時間の経過にしたがって脚部の表面における電流密度を変更する他の例を示す図である。
【図7】図7は、時間の経過にしたがって脚部の表面における電流密度を変更する他の例を示す図である。
【図8】図8は、実施形態2に係る海洋構造物の装置構成図である。
【図9】図9は、実施形態2の変形例に係る海洋構造物の装置構成図である。
【図10】図10は、実施形態3に係る海洋構造物の装置構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
(実施形態1)
図1、図2は、実施形態1に係る海洋構造物の装置構成図である。海洋構造物1は、海中に設置される部分に金属(例えば鋼)を用いた防波堤、離岸堤、消波構造物、海上風力発電機、石油プラットフォーム、浮上式堤防その他の構造物である。本実施形態において、海洋構造物1は、離岸堤であるがこれに限定されるものではない。海洋構造物1は、海中Wに設置されてカソードとなる構造体としての脚部2と、前記構造体と電気的に接続され、かつ海中でアノードとなるアノード材料4と、を含む。本実施形態において、海洋構造物1は、さらに、脚部2に支持される上部構造体3と、アノード材料4を支持するアノード支持体5と、脚部2とアノード材料4とを電気的に接続する導線6とを含む。
【0019】
海洋構造物1は、脚部2を複数有する。複数の脚部2は、海底Bに埋め込まれている。複数の脚部2は、海底Bに埋め込まれている側とは反対側に、上部構造体3が取り付けられる。上部構造体3は、複数の脚部2によって海底Bに支持される。上部構造体3は、一部が海中Wに没し、残りの部分が海面WL上に現れる。脚部2は、金属製であり、金属の種類は特に限定されるものではないが、加工のしやすさ、コストの関係から鋼を用いることが好ましい。上部構造体3は、鋼とコンクリートとを組み合わせた構造体又はコンクリートの構造体である。
【0020】
図3は、アノード材料と脚部との間で電流を流すことを説明するための図である。アノード材料4は、脚部2よりも自然電位が卑の材料である。アノード材料4は、導線6により、海中でカソードとなる鋼製の脚部2とカソード接続点Pcで電気的に接続される。このようにアノード材料4と脚部2とを電気的に接続し、両者を海中に設置することにより、両者の間には電解質である海水が介在する。このため、海水の電池作用により、アノード材料4から脚部2へ電流が流れる。すると、時間の経過とともに脚部2の表面2Sに、CaCO、Mg(OH)、MgCO等の石灰質が析出し、電着鉱物層7を形成する。同時に、脚部2の周辺環境はアルカリ化が促進される。
【0021】
一般に、金属は、表面が平滑であるため、藻類あるいは貝類等が付着しにくい。本実施形態において、脚部2の表面2Sに析出した石灰質によって形成される電着鉱物層7は、多孔質の層を形成する。このため、石灰質が脚部2の表面2Sに析出すると、例えば、サンゴの幼生、藻類あるいは貝類等が電着鉱物層7に着生して生育しやすくなる。また、アルカリ化の促進により、脚部2の周辺における海水のpHが上昇すると、例えば、サンゴの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるため、電着鉱物層7にサンゴが付着した場合には、その成長速度及び耐性を向上させる作用が得られる。さらに、アノード材料4から脚部2へ電流が流れることにより、脚部2は防食されるので、海中に設置された脚部2の腐食が抑制される。
【0022】
上述したように、アノード材料4は、脚部2よりも自然電位が卑な金属である。このため、海洋構造物1では、アノード材料4は流電陽極として機能する。すなわち、本実施形態では、流電陽極法を用いて、アノード材料4から脚部2へ電流を流す。流電陽極法を用いる場合において、脚部2への電着鉱物層7の析出及び脚部2周辺における環境のアルカリ化を促進させるためには、アノード材料4の種類が重要になる。
【0023】
陰極電位(防食電位ともいう)が約−1000mV(飽和かんこう電極基準、以下省略)より貴側(電位が高い)であれば、脚部2における反応は、概ね式(1)で表される酸素還元反応となる。この場合、電流密度の大きさは100mA/m程度である。この反応に対応するアノード材料4は、例えば、アルミニウム系の材料(アルミニウム、アルミニウム合金等)を用いるが、上記電流値では石灰質の析出は遅くなる。一方、アノード材料4の消耗は比較的小さいため、アノード材料4の寿命は長くなる。
+HO+4e→4OH・・・(1)
【0024】
陰極電位が−1100mVより卑側(電位が低い)であれば、脚部2における反応は、おおむね式(2)で表される水素発生反応で、電流密度の大きさは1000mA/m以上も可能となる。この反応に対応するアノード材料4は、例えば、マグネシウム系の材料(マグネシウム、マグネシウム合金等)を用いる。上記電流値では、石灰質の析出は早くなるが、流電陽極の消耗が大きく、アノード材料4の寿命は短くなる。
2HO+2e→H+2OH・・・(2)
【0025】
本実施形態においては、電着鉱物層7の析出やアノード材料4の消耗等を考慮して、アノード材料4の材料を選択したり、アノード材料4の形状又は配置等を変更したりする。例えば、初期においては陽極から陰極へ流れる電流密度を大きくして石灰質を脚部2の表面2Sに析出させ、ある程度の期間が経過したら、脚部2の防食を主目的として前記電流を小さくする。脚部2の防食が主目的になると、電流密度が小さくなり、電着鉱物層7には藻類あるいは貝類等が付着し、成長しやすくなる。
【0026】
例えば、脚部2が海中Wに設置された直後においては、脚部2の表面2Sにおける電流密度の大きさを、例えば、1000mA/m以上とし、脚部2の表面2Sに石灰質を析出させ、短期間で電着鉱物層7の層の厚みを必要な大きさ(例えば、1cm〜2cm程度)とする。このようにすることで、脚部2の周囲に、貝類あるいは藻類が付着しやすい環境を早期に創出することができる。この場合、例えば、マグネシウム系の材料をアノード材料4とすることが好ましい。マグネシウム系の材料は、海中におけるイオン化傾向が大きいことから、脚部2の表面2Sにおける電流密度を大きくしやすい。
【0027】
脚部2の表面2Sに析出した石灰質による電着鉱物層7の層の厚みが必要な大きさになった後は、主として脚部2の電気防食を目的として、脚部2の表面2Sにおける電流密度を100mA/m程度とすることが好ましい。このようにすれば、脚部2の周囲に、貝類あるいは藻類の付着及び生育に適した環境を創出することができる。脚部2の表面2Sにおける電流密度を100mA/m程度とするため、脚部2の表面2Sに必要な厚みの電着鉱物層7の層が形成された後は、アノード材料4をアルミニウム系の材料とすることが好ましい。このようにすれば、アノード材料4の消耗が小さくなるので、アノード材料4の交換の周期を長くすることができる。
【0028】
図4、図5は、時間の経過にしたがって脚部の表面における電流密度を変更する例を示す図である。時間の経過にしたがって脚部2の表面2Sの電流密度を変更するため、図4に示す海洋構造物1aは、海中でイオン化傾向の異なる複数の材料を組み合わせてアノード材料4とする。この例において、アノード材料4は、第1アノード材料4Mと第2アノード材料4Aとを組み合わせたものである。第1アノード材料4Mは、第2アノード材料4Aよりも海水中におけるイオン化傾向が大きい。本実施形態では、第1アノード材料4Mとしてマグネシウム又はマグネシウム合金を用い、第2アノード材料4Aとして、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いる。
【0029】
第1アノード材料4Mは、導線6Mにより脚部2と電気的に接続される。第2アノード材料4Aは、導線6Aにより脚部2と電気的に接続される。導線6Mと脚部2との接続点は、第1カソード接続点Pc1であり、導線6Aと脚部2との接続点は、第2カソード接続点Pc2である。この状態で、第1アノード材料4M、第2アノード材料4A及び脚部2を海中に設置すると、海中におけるイオン化傾向の違いから、主として第1アノード材料4Mが脚部2の表面2Sに石灰質を析出させて電着鉱物層7が形成される。第1アノード材料4Mは、第2アノード材料4Aよりも海中におけるイオン化傾向が大きいため、第2アノード材料4Aよりも早く消耗する。第1アノード材料4Mが消耗した後は、第2アノード材料4Aと脚部2との間で電流が流れる。このように、海中におけるイオン化傾向が異なる複数の材料をアノード材料4として用いることにより、時間の経過にしたがって、脚部2の表面2Sにおける電流密度を変更することができる。
【0030】
第1アノード材料4M及び第2アノード材料4Aは、導線6M、6Aによらず、直接脚部2に取り付け、脚部2と電気的に接続してもよい。この場合、例えば、図5に示す海洋構造物1bのように、第1アノード材料4Mを第1カソード接続点Pc1で脚部2の表面2Sに接続し、第2アノード材料4Aを第2カソード接続点Pc2で脚部2の表面2Sに接続する。このようにすると、導線6M、6Aが不要になるので、構造を簡単にできる。
【0031】
図6、図7は、時間の経過にしたがって脚部の表面における電流密度を変更する他の例を示す図である。図6に示す海洋構造物1cは、海中においてイオン化傾向の異なる第1アノード材料4Mと第2アノード材料4Aとを、接続対象切替手段であるスイッチ8を介して脚部2に接続する。この状態で、第1アノード材料4M、第2アノード材料4A及び脚部2を海中に設置する。
【0032】
脚部2の表面2Sに石灰質を析出させる場合、まず、スイッチ8を第1アノード材料4M側の端子Mに接続する。すると、第1アノード材料4Mと脚部2との間に電流が流れ、脚部2の表面2Sに石灰質が析出し、電着鉱物層7が形成される。第1アノード材料4Mがほとんど消耗したら、スイッチ8を第2アノード材料4Aの端子Aに接続する。すると、第2アノード材料4Aと脚部2との間で電流が流れる。このように、海中におけるイオン化傾向が異なる複数の材料をアノード材料4として用い、スイッチ8で脚部2との接続を切り替えることにより、時間の経過にしたがって、脚部2の表面2Sにおける電流密度を変更することができる。
【0033】
図7に示す海洋構造物1dは、アノード材料4と脚部2との間に流れる電流の大きさに基づき、制御装置10によってスイッチ8aを切り替えるものである。制御装置10は、スイッチ8aによる脚部2とアノード材料4との接続を、第1アノード材料4M側の端子Mと第2アノード材料4A側の端子Aとに切り替えることができる。スイッチ8aと脚部2との間には、電流計9が直列に接続されている。
【0034】
第1アノード材料4M、第2アノード材料4A及び脚部2が海中に設置された場合、制御装置10は、スイッチ8aを第1アノード材料4M側の端子Mに接続する。その後、制御装置10は、電流計9が検出したアノード材料4から脚部2に流れる電流の値に基づき、スイッチ8aを切り替える。すなわち、制御装置10は、前記電流の値が予め定めた閾値以下になった場合又は0になった場合、第1アノード材料4Mがほとんど消耗したと判断できる。このため、前記電流の値が予め定めた閾値以下になった場合又は0になった場合は、制御装置10は、スイッチ8aを第2アノード材料4Aの端子Aに接続する。
【0035】
すると、第2アノード材料4Aと脚部2との間で電流が流れる。このように、アノード材料4から脚部2に流れる電流の値に基づき、脚部2の接続対象を第1アノード材料4Mから第2アノード材料4Aに切り替えることで、第2アノード材料4Aと脚部2との間には常に電流を流した状態で、脚部2の表面2Sにおける電流密度を変更することができる。その結果、脚部2の表面2Sに析出する石灰質による電着鉱物層の厚みを調整することができる。
【0036】
上述した例は、流電陽極法により海中に設置される金属製の構造体に石灰質を析出させるが、前記構造物に析出させる手段はこれに限定されるものではない。例えば、波力、風力、温度差、潮流又は太陽光等の自然エネルギーにより電力を発生させ、この電力を用いて前記構造物に石灰質を析出させてもよい。このようにすると、自然エネルギーを有効活用できるので好ましい。
【0037】
自然エネルギーにより電力を発生させる装置(電源装置)は、負極(−極)が前記構造物と電気的に接続され、正極(+極)がアノード材料と電気的に接続される。そして、少なくとも前記構造物とアノード材料とが海中に設置される。この状態で、電源装置は、前記構造物と前記アノード材料との間に電流を流す。より具体的には、電源は、前記アノード材料から前記構造物に向かって電流を流す。その結果、前記構造物にはCaCO、Mg(OH)、MgCO等の石灰質が析出して表面に電着鉱物層を形成し、また、前記構造物の周辺環境のアルカリ化が促進される。
【0038】
前記電源装置を用いる場合、前記アノード材料は、海水の電気分解に用いても酸化しない、不溶性導電体(チタン、炭素、白金等)を用いることが好ましいが、これに限定されるものではなく、酸化溶解する金属を用いてもよい。酸化溶解する金属、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金をアノード材料に用いると、石灰質が前記構造物に析出している最中に、アノード材料から塩素が発生することを回避することができる。また、前記アノード材料にアルミニウム又はアルミニウム合金を用いると、マグネシウム又はマグネシウム合金をアノード材料に用いたときと比較して、前記アノード材料の酸化溶解を遅くすることができる。
【0039】
前記電源装置によって前記構造物と前記アノード材料との間に電流を流すので、流電陽極法により電流を流す場合と比較して、定電流を簡易に流すことができる。この場合、例えば、前記電源装置が発電した電気エネルギーを蓄電装置(例えば、二次電池、コンデンサ等)に蓄えておき、自然エネルギーが利用できない場合は、前記蓄電装置に蓄えられた電気エネルギーを用いて石灰質を析出させてもよい。このようにすれば、より安定して石灰質を前記構造物の表面に析出させることができる。
【0040】
また、前記電源装置を用いる場合、前記構造物の表面における電流密度を変更するために、例えば、可変抵抗装置による電流調節装置を有していてもよい。この電流調節装置は、前記構造物と、電源装置と、前記アノード材料とを有する回路に、直列に接続される。このような電流調節装置は、簡易に前記構造物の表面における電流密度を変更することができるので、簡易に石灰質の析出速度を変化させることができる。
【0041】
構造体の表面に石灰質を析出させるときの電流密度は1A/m以上であり、析出した前記石灰質の層が形成された後、すなわち、電着鉱物層7が形成された後は、電流密度を0.005A/m以上0.1A/m以下とすることが好ましい。このように、石灰質による電着鉱物層7を形成するときの電流密度を電着鉱物層7が形成された後よりも大きくすることで、早期に電着鉱物層7を構造体の表面に形成することができる。そして、電着鉱物層7が形成された後は、電流密度を小さくすることで、海洋生物の生存に適した環境を創出するとともに、電着鉱物層7の維持及び構造物の防食を維持することができる。例えば、電流密度を1A/m以上とする期間が30日以上経過したら、構造体の表面に電着鉱物層7が形成されたと判断する。なお、電着鉱物層7を形成する際の電流密度は、1A/m以下とすることが好ましい。
【0042】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る海洋構造物の装置構成図である。この海洋構造物1eは、脚部2の表面2Sに導電性を有する部材としての網11を取り付けて、脚部2と網11とを電気的に接続する点に特徴がある。網11は金属製であり、脚部2と接続点Pnで電気的に接続される。アノード材料4は、導線6を介してカソード接続点Pcで脚部2と電気的に接続される。このような構造により、海洋構造物1eは、脚部2の表面2Sに加えて網11にも電着鉱物層が析出するので、脚部2の表面2Sに形成される電着鉱物層に凹凸を設けることができる。その結果、藻類あるいは貝類等が電着鉱物層により付着しやすくなる。
【0043】
図9は、実施形態2の変形例に係る海洋構造物の装置構成図である。この海洋構造物1fは、脚部2の表面2Sに導電性を有する部材としての線材12を巻き付けて、脚部2と線材12とを電気的に接続する点に特徴がある。線材12は金属製であり、脚部2と接続点Pwで電気的に接続される。アノード材料4は、導線6を介してカソード接続点Pcで脚部2と電気的に接続される。このような構造により、海洋構造物1fは、脚部2の表面2Sに加えて線材12にも石灰質が析出するので、脚部2の表面2Sに形成される電着鉱物層に凹凸を設けることができる。その結果、藻類あるいは貝類等が電着鉱物層により付着しやすくなる。
【0044】
(実施形態3)
図10は、実施形態3に係る海洋構造物の装置構成図である。この海洋構造物1gは、脚部2に導電性を有する網13を取り付けて、脚部2と網13とを電気的に接続する点に特徴がある。本実施形態において、網13は、隣接する2本の脚部2、2の間に、取付部材14を介して取り付けられる。本実施形態において、取付部材14は金属板であり、網13及び脚部2に溶接される。このような構造により、網13は、2本の脚部2、2と電気的に接続される。アノード材料4は、導線6を介してカソード接続点Pcで2本の脚部2、2と電気的に接続される。このような構造により、脚部2の表面に加えて網13にも石灰質が析出するので、藻類あるいは貝類等が付着する面積が増加する。
【符号の説明】
【0045】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g 海洋構造物
2 脚部
2S 表面
3 上部構造体
4 アノード材料
4M 第1アノード材料
4A 第2アノード材料
5 アノード支持体
6、6A、6M 導線
7 電着鉱物層
8、8a スイッチ
9 電流計
10 制御装置
11、13 網
12 線材
14 取付部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に設置されてカソードとなる金属製の構造体と、
前記構造体と電気的に接続され、かつ前記海中でアノードとなるアノード材料と、を含み、
前記海中において、前記構造体の表面に石灰質を析出させることを特徴とする海洋構造物。
【請求項2】
前記アノード材料は、イオン化傾向の異なる複数の材料を組み合わせる請求項1に記載の海洋構造物。
【請求項3】
前記アノード材料は、アルミニウム又はアルミニウム合金と、マグネシウム又はマグネシウム合金とを含む請求項2に記載の海洋構造物。
【請求項4】
前記構造体の表面に導電性を有する部材を取り付けて、前記構造体と前記部材とを電気的に接続する請求項1から3のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項5】
前記構造体に導電性を有する網を取り付けて、前記構造体と前記網とを電気的に接続する請求項1から3のいずれか1項に記載の海洋構造物。
【請求項6】
海中に設置されてカソードとなる金属製の構造体と、
前記構造体と電気的に接続され、かつ前記海中でアノードとなるアノード材料と、
自然エネルギーによって電力を発生し、かつ負極が前記構造体と電気的に接続され、陽極が前記アノード材料と電気的に接続される電源装置と、を含み、
前記海中において、前記構造体の表面に石灰質を析出させることを特徴とする海洋構造物。
【請求項7】
前記石灰質を析出させるときの電流密度は1A/m以上であり、析出した前記石灰質が層を形成した後は、電流密度を0.005A/m以上0.1A/m以下とする請求項1から6のいずれか1項に記載の海洋構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−170370(P2012−170370A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33929(P2011−33929)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【Fターム(参考)】