説明

海洋深層水の多段式利用システム

【課題】海洋深層水の冷熱エネルギーを有効に利用するとともに、海洋深層水を家畜飲用、植物生育用水、魚類生育用水として供給する多段式利用システムを提供する。
【解決手段】海洋深層水を冷熱源として利用した冷却水を用いて、第一段階で家畜舎建物室内の冷房、農業用冷温室の室内の冷却、農業用冷温室の地温の冷却及び魚類水槽水の冷却からなる群より選ばれる少なくとも一つの操作を行い、次に第一段階で使用した海洋深層水を脱塩工程により脱塩し、これを第二段階で家畜類の飲用、植物類の潅水、魚類の水槽水及び魚類の栄養助剤からなる群より選ばれる少なくとも一つに利用することを特徴とする海洋深層水の多段式利用システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋深層水の有する低温性、富栄養性、清浄性を有効に利用した海洋深層水の多段式利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋深層水は1〜5℃内外の低温で安定しており、且つ清浄であるため多くの分野で利用されている。海洋深層水の低温性を利用するものとしては発電システムの特許が公開されており(特許文献1参照)、又、醸造製造プラント、電子部品製造プラント、発電プラント、タラソテラピー施設、冷熱供給プラント等へと多目的に利用する特許も公開されている(特許文献2参照)。
【0003】
しかし、低温を必要とする農業、水産分野では海洋深層水の冷熱エネルギーの利用は少なく、主に電気エネルギー等が使用されており、光熱コストの過大な負担を招いている。
【0004】
海洋深層水の富栄養性を利用した技術としてはカイワレ大根の栽培法(特許文献3参照)があるが、深層水希釈水を用いているため、深層水の富栄養性を十分に利用しているとは言いがたい。
【0005】
又、海洋深層水の低温性を用いて得られる冷却水、或いは熱交換器で作られた冷却水等を冷熱エネルギーとして段階的に利用した後に海洋深層水の有する富ミネラル性及び富栄養性を有効に活用しようとする試みは全くなされておらず、利用後の冷却水はそのまま排水となっているのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開平11−148312号公報
【特許文献2】特開2000−087579公報
【特許文献3】特開2002−58368公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
海洋深層水の三大特性として低温性、富栄養性、清浄性が知られているが、上記したように、これらの特性のいずれかを単独で利用しているのが現状である。例えば、深層水を冷熱源とした冷却水は冷房に一度利用されるだけで、そのまま排出されている。海洋深層水汲み上げには多くのエネルギーが消費されており、エネルギー収支の観点からは極めて非効率と言わざるをえず、海洋深層水のもつ特性の十分な利用方法の開発が解決すべき課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、海洋深層水の有する低温性を冷熱源として得られる冷却水或いは熱交換器で作られた冷却水等を用いて、第一段階で家畜舎建物室内、農業用冷温室内、魚類水槽の冷房を行い、第一段階で利用した海洋深層水を脱塩した後に、引き続いて第二段階でこの脱塩水を家畜の飲用、植物類の潅水、魚介類水槽水、魚介類の栄養助剤に利用する。以上のように、海洋深層水の低温性を利用した後に海洋深層水の富栄養性を利用する多段式利用システムを構築することによって上記の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は下記の構成からなる。
(1)海洋深層水を冷熱源として利用した冷却水を用いて、第一段階で家畜舎建物室内の冷房、農業用冷温室の室内の冷却、農業用冷温室の地温の冷却及び魚類水槽水の冷却からなる群より選ばれる少なくとも一つの操作を行い、次に第一段階で使用した海洋深層水を脱塩工程により脱塩し、これを第二段階で家畜類の飲用、植物類の潅水、魚類の水槽水及び魚類の栄養助剤からなる群より選ばれる少なくとも一つに利用することを特徴とする海洋深層水の多段式利用システム。
(2)第一段階が家畜舎建物室内の冷房であり、第二段階が家畜類の飲用への利用である前記(1)に記載の海洋深層水の多段式利用システム。
(3)第一段階が農業用冷温室の室内及び/又は地温の冷却であり、第二段階が植物類の潅水への利用である前記(1)に記載の海洋深層水の多段式利用システム。
(4)第一段階が魚類水槽水の冷却であり、第二段階が魚類の水槽水及び/又は栄養助剤への利用である前記(1)に記載の海洋深層水の多段式利用システム。
(5)脱塩工程がモザイク荷電膜を使用した拡散透析方法による工程である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の海洋深層水の多段式利用システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明における海洋深層水の多段式利用システムにより、海洋深層水の持つ低温性、富栄養性、清浄性という特性を有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において使用する海洋深層水は、水深200m以深の海洋深層水が好ましい。200m以深の海洋深層水であれば、太陽光が到達しないため四季を通じて水温が低く、且つ表層水との混合が起こらないため清浄性の高い海洋深層水が得られる。この海洋深層水は高知、沖縄、富山、焼津等の取水地において、取水管と取水ポンプを用いて汲み上げを行っているものが使用できる。
【0012】
取水した海洋深層水はそのまま冷却水として送液されるか、又はプレート型熱交換器等、公知の熱交換装置に送られ、水道水と熱交換する。海洋深層水又は熱交換された冷却水道水は家畜舎建物室内或いは農業用冷温室に配管を通して送られ、室内に設置された冷却ユニットから冷風を放出させて冷房する。農業用冷温室の地温又は魚介類水槽は、地中又は水中に埋設した配管に冷却水を循環させて冷却を行う。
【0013】
農業用としては、例えば、農業用冷温室内の昼夜の温度調整による促成栽培、抑制栽培に利用し、高付加価値の果実、野菜、花弁の生産を行う。又、高緯度帯植物、高山植物等、生育に低温を必要とする植物の育成にも有用である。このように農業分野においては、低温管理、低温処理等に幅広く利用されており、例えば、トルコギキョウの高温ロゼッタ回避、ラン、スターチス、イチゴ等の花芽分化促進、ワサビの周年栽培等が例示できる。
【0014】
畜産分野においては、家畜舎の冷房は、夏季における家畜の暑熱ストレス緩和に有効である。暑熱ストレスは家畜の飼料摂取量低下を引き起こし、ホルモン分泌異常による繁殖成績の低下、肥育不良、乳又は卵生産量の低下等を引き起こす。こうした事態を回避するため、夏季の畜舎冷房は有力な手段であることが知られている。
【0015】
畜舎冷房の具体例としては、繁殖豚用の畜舎冷房が挙げられる。繁殖豚は15〜18℃が適温域であり、30℃を超えると精液量、精子数が低下するため受胎率が低下することが知られている。このため、養豚経営において夏季の家畜舎建物室内温度管理は豚の繁殖率を左右する重要課題である。本発明により家畜舎建物室内を冷房し、適温域でブタを育成させることで効果的な飼育管理が可能となる。
【0016】
魚介類における使用例としては、魚介類の生育が挙げられる。例えば、ヤマメの生育適温は8〜10℃、ニジマスの生育適温は11〜14℃であり、本発明により当該温度域に水槽温度を調節することで、魚の良好な生育が期待できる。同様に、低温を好むマダラ、ハタハタ、カニ、エビ等の魚介類の養殖に応用することも可能である。
【0017】
本システムの冷房部分についてみると、必要経費はポンプによる揚水及び循環費用である。条件により費用比較は難しいが、例えば、外気温が35℃の時、面積1,000m2、高さ6mの遮光性ガラス張りの温室を25℃に冷房する場合では、電力による冷房と比べ約1/10の電気代で済むことになる。
【0018】
冷却水又は冷熱源として利用した後の海洋深層水は、その水温が第一段階使用で要求される低温性を維持しているのであれば、循環再利用することが可能である。冷熱源として使用され、水温が上昇した海洋深層水は脱塩工程に送られる。
【0019】
ここで、海洋深層水は表層水と同様に塩分が高いため、直接第二段階の目的に用いることはできない。従って、なんらかの脱塩工程により、塩濃度及びミネラルバランスを調整する必要がある。
【0020】
海洋深層水の脱塩方法は、逆浸透膜法、電気透析法、拡散透析法及び凍結濃縮法等の公知の方法で行うことができる。これらの内、モザイク荷電膜を使用した拡散透析法は、電気、圧力をほとんど必要としない省エネルギー型脱塩方法であり、深層水中の富栄養成分を破壊せずに保持できること及び原水と透析水との流速比を制御するだけで塩濃度及びミネラルバランスの調整が簡便にできること等のため、脱塩工程として好ましい方法である。
【0021】
脱塩された海洋深層水は第二段階で家畜の飲用、植物類の潅水、魚介類水槽水及び魚介類の栄養助剤に利用される。深層水のもつ富栄養性により家畜、植物及び魚類の生育促進に有効である。更に、富栄養性の濃度を高めるため、脱塩工程の前後に濃縮工程を本発明の多段式利用システムに組み入れてもよい。
【0022】
海洋深層水は清浄性が高いため、除菌、殺菌等の工程は一般的には不要であり、そのまま、上記目的に使用することが可能である。しかし、厳密な制菌が要求される場合には除菌、殺菌工程を組込んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明における海洋深層水の多段式利用システムにより、海洋深層水の持つ低温性、富栄養性、清浄性という特性を有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋深層水を冷熱源として利用した冷却水を用いて、第一段階で家畜舎建物室内の冷房、農業用冷温室の室内の冷却、農業用冷温室の地温の冷却及び魚類水槽水の冷却からなる群より選ばれる少なくとも一つの操作を行い、次に第一段階で使用した海洋深層水を脱塩工程により脱塩し、これを第二段階で家畜類の飲用、植物類の潅水、魚類の水槽水及び魚類の栄養助剤からなる群より選ばれる少なくとも一つに利用することを特徴とする海洋深層水の多段式利用システム。
【請求項2】
第一段階が家畜舎建物室内の冷房であり、第二段階が家畜類の飲用への利用である請求項1に記載の海洋深層水の多段式利用システム。
【請求項3】
第一段階が農業用冷温室の室内及び/又は地温の冷却であり、第二段階が植物類の潅水への利用である請求項1に記載の海洋深層水の多段式利用システム。
【請求項4】
第一段階が魚類水槽水の冷却であり、第二段階が魚類の水槽水及び/又は栄養助剤への利用である請求項1に記載の海洋深層水の多段式利用システム。
【請求項5】
脱塩工程がモザイク荷電膜を使用した拡散透析方法による工程である請求項1〜4のいずれか1項に記載の海洋深層水の多段式利用システム。

【公開番号】特開2006−180735(P2006−180735A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375593(P2004−375593)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】