海洋生物の人工冬眠誘導装置
【課題】海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、このように下がった各段階の温度維持時間を段階的に拡張する海洋生物の人工冬眠誘導装置を提供する。
【解決手段】海水の温度を段階的に下げながら、前記下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定時間の間維持させ、前記下がった各段階の温度で維持させる時間を海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、内因性生体リズムが停止されて酸素消費量の変化が殆んどない時点まで段階的に増加させた後、これを起点にして前記各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。
【解決手段】海水の温度を段階的に下げながら、前記下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定時間の間維持させ、前記下がった各段階の温度で維持させる時間を海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、内因性生体リズムが停止されて酸素消費量の変化が殆んどない時点まで段階的に増加させた後、これを起点にして前記各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海洋生物の人工冬眠誘導装置に係り、さらに詳しくは海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、このように下がった各段階の温度維持時間を段階的に拡張することを特徴とする人工冬眠誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代養殖技術の急激な発達に伴って韓国国内でも1990年代始めごろから高級養殖魚類の生産が増大されてきており(1997年浅海養殖魚類総生産量:39121トン)、所得増大によって活魚の消費も大幅に増大しつつある。ところが、現在韓国国内の活魚を始めとした海洋生物の流通は活魚トラックを用いた低密度輸送技術(全重量の約15〜20%)に依存していて、長距離輸送の場合、交通渋滞による輸送時間の遅延などによって魚類の鮮度維持が難しく不味くなる、輸送費用がアップするなどの問題点を抱えている実情がある。
【0003】
従来、活魚を始めとした海洋生物を運送する方法としては、(1)麻酔輸送法、(2)電気ショック輸送法、(3)冷却水槽輸送法、(4)人工冬眠輸送法などがある。具体的には、韓国登録特許(登録番号:10−0232408)は、冷却海水を使った活魚の高密度輸送方法に係り、活魚輸送において海水温度を冷却させる方法であって活魚槽に海水、氷、塩を入れて海水の温度を一般輸送温度より5〜15℃低く冷却して輸送することを特徴としている。他の韓国登録特許(登録番号:10−0531728)は、活イカ輸送保管用氷温海水冷却装置に係り、活イカを氷温状態の低温状態に保管運搬するための氷温海水冷却装置を開示している。もう一つの韓国登録特許(登録番号:10−0046109)は、活魚輸送保存方法及び装置に係り、活魚の体に傷つかないように一匹ないし数匹ずつ収納する多数の通流孔を設けて動きを抑えられる低温下に置かれることを特徴とする活魚輸送方法を開示している。
【0004】
しかし、前述したような従来の方法は全て活魚車の水温を下げる方法を基本にしており、このような活魚車を用いて国内外に流通されている冷却水槽輸送法は冷却水槽設備の費用負担と魚種別低温生理特性の不確実性、特殊車両の必要性と長時間運送中海洋生物の斃死の恐れがある。そして、前述した麻酔輸送法は衛生上の安全性の問題及び嫌悪感を引き起こす恐れがあり、電気ショック輸送法は前処理の困難と斃死、肉質の品質低下によって幅広く活用できないとの問題点がある。
【0005】
【特許文献1】韓国特許 10−0232408号公報
【特許文献2】韓国特許 10−0531728号公報
【特許文献3】韓国特許 10−0046109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前述したような問題点を解決するために案出されたもので、その目的は海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少するか、酸素消費量の変化が殆んどない時点まで段階的に拡張させた後、これを起点にして前記各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物の生存率を長時間維持させるところにある。
【0007】
すなわち、本発明を通じて海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導させ、当該冬眠状態へ誘導された海洋生物を水のない無水状態(Waterless condition)のボックスに包装することだけで海洋生物の生存率を長時間維持させようとするところにその目的がある。
【0008】
本発明の他の目的は水中の生きている全生物を対象にして、既存の活魚輸送方法とは全く違って、生物自体の内因性生体リズムを理解し多段階の温度変化を経ることによって人為的に無水状態へ誘導して、海洋生物の内因性生体リズムを長時間停止させた後、再び元の生体リズムに戻らせる全く新たな技術を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための本発明に係る海洋生物の人工冬眠誘導装置は、海水に海洋生物を所定の時間維持させる段階と、当該海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に拡張させる段階と、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度を起点にして、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮させるものである。
【0010】
本発明は、海洋生物の人工冬眠誘導装置であって、海洋生物を含む海水が収容されている人工冬眠チャンバーと、当該人工冬眠チャンバーから排出される海水の温度を所定間隔によって段階的に下げた後再び人工冬眠チャンバーに流入させる熱交換器または冷却器と、当該人工冬眠チャンバー中に存する海水の温度を測定する温度センサーと、当該海水中に含まれた溶存酸素量を測定する酸素センサーと、当該温度センサーから入力された海水の温度情報に基づき、当該段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させ、当該酸素センサーから入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮する人工冬眠誘導プログラムを含み、当該人工冬眠誘導プログラムによって当該熱交換器または当該冷却器を制御するPCが含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
前述したように本発明によれば、海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を、海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、内因性生体リズムが停止され酸素消費量の変化が殆んどない時点まで段階的に拡張させた後、これを起点にして当該各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付した図面に基づき本発明の望ましい実施形態を詳述する。
本発明は海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導するためのもので、海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、このように下がった各段階における海水温度維持時間を段階的に拡張することが特徴である。
【0013】
このため、本発明はまず海水に海洋生物を所定の時間維持させる。すなわち、海洋生物を含む海水を用意する。ここで、海水とは海の水を意味するものであるが、本発明は海水以外に淡水、その他の水を使用することも可能である。以下、説明の容易な理解のために海水を用いることと説明してきたが、本発明では海水以外に淡水及びその他の形態の何れの水を使用することも可能である。
【0014】
次いで、本発明は前述したように用意された海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に拡張させることを特徴とする。すなわち、当該用意された海水の温度を段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる一定時間を次第に拡張する。
【0015】
従来の海洋生物を運搬するための方法は殆んど活魚を始めとした魚類を低温状態に維持させるか、あるいは氷で凍らせる冷却法であった。一方、本発明は水の温度を所定の間隔で下げながら海洋生物を人工冬眠状態へ誘導することが特徴である。例示的に、図1に示したように、当該用意された海水の温度が13℃であり、この温度で海洋生物を10分間維持させたならば、この海水の温度を1℃間隔で段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度、すなわち12℃、11℃、10℃及び9℃では海洋生物を含む海水の温度を20分、30分、40分及び50分と次第に拡張する。
【0016】
本発明は前述したように海水の温度を所定の時間間隔をもって段階的に下げると同時に、このように下がった各段階における海水温度維持時間も段階的に拡張させることが海洋生物に最も効率よく人工冬眠状態へ誘導できることを確認した。もし、一時的に水温を一度に下げると、海洋生物は低温ショックを受けて死亡するようになるので、本発明は水温と時間を段階的に調節して海洋生物を下がった海水温度において適応期間をもたせることが特徴である。
【0017】
この本発明において、前記海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げる際、図1に示したように1℃毎に温度を段階的に下げることができる。また、2℃、3℃またはそれ以上の温度間隔でも次第に温度を下げることができ、この場合は2℃、3℃またはそれ以上の温度間隔に差が出る海水の温度別に温度を一定に維持する時間を異なるものとする。例えば、用意された海水の温度が13℃であり、この温度で海洋生物を10分間維持させたとすれば、11℃では20分、9℃では30分にする。さらに、前述したように海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら各段階における海水温度維持時間を段階的に拡張することは、時間によって海水の温度を明らかに区分できるが、図2に示したように一部時間区間では隣接する2つの海水温度間に重畳する部分が生じることも当然ありうる。
【0018】
次の段階として、本発明は前述したように海水の温度を段階的に下げながら海水温度維持時間を段階的に拡張した後は、海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少するか、酸素消費量の変化が殆んどない海水の温度を起点に、当該各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することが特徴である。すなわち、海洋生物の呼吸状態や内因性生体リズムから海洋生物がストレスを最も多く受ける海水温度を把握した後、当該海水温度領域に維持する時間を最も長くすることによって、海洋生物が人工冬眠状態へ誘導されるまでに受けるストレスを最小化しようとすることである。
【0019】
海水中に存在する海洋生物は海水温度が下がると次第に呼吸が苦しくかつ不規則的になり、よって所定の温度で海洋生物が消費する酸素消費量の変化は大幅に減少したり酸素消費量の変化が殆んどなくなる。これは海洋生物の呼吸生体リズムが著しく変わるか、あるいは呼吸生体リズムが停止されることを意味するもので、この海水温度領域で海洋生物はストレスを最も多く受ける。本発明は所定の温度を基準に海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、殆んどない、さらには全くない海水温度では維持時間を最も長くし、追って下がった海水温度では海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物が受けるストレスを最小化しつつ海洋生物を人工的に冬眠状態へ誘導しようとするものである。
【0020】
ここで、前記所定の温度を基準にして海洋生物が消費する酸素量の変化が大幅に減少したり殆どないということは、段階的に下がった一つの各海水温度で海洋生物が消費する酸素消費量の変化、すなわち酸素消費量の最大値と最小値の偏差(すなわち、振幅)が以前より大きく縮まるかその偏差が微々たることを指す。所定の温度で調べられた海洋生物の酸素消費量の振幅が小さいということは海洋生物の呼吸活動がストレスによって萎縮していることであり、所定の温度で調べられた海洋生物の酸素消費量の振幅が大きいということは海洋生物の活発な呼吸活動を意味し、これは海水に含まれた溶存酸素量の変化でチェックできる。もし、初期に所定の温度を有する海水で第1酸素消費量を有する海洋生物を所定の時間維持させると、当該海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げながら、この下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させることは前述した通りであり、本発明の他の実施形態は当該下がった各段階の温度中、当該海洋生物が消費する酸素消費量が当該第1酸素消費量より3分の2ないし4分の1の量か、あるいは当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差が6.0mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内である海水の温度を起点にして、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に短縮することを特徴とする。
【0021】
本発明は所定の温度で海洋生物が消費する酸素消費量の偏差を把握するため、本発明の実施過程中にまたはその前に予め、海洋生物の呼吸状態を測定する必要があり、本発明はこのような海洋生物の呼吸状態測定過程をさらに含める。例示的に、海洋生物を含む海水の溶存酸素量を測定することによって当該海洋生物の酸素消費量が分かり、本発明では特に海洋生物の呼吸状態を測定できる自動呼吸測定装置を用いることもできる。
【0022】
海洋生物の呼吸状態を調べる方法は別に制限されるものではないが、本発明者によって発明され特許を受けた自動呼吸測定装置(韓国公開特許:10−2003−0075931)が用いられる。これは図3に示したように水が循環する閉ループよりなるメイン循環ループと、このメイン循環ループ上に連通して設置され、被実験生物が収容される生物貯蔵槽と、当該メイン循環ループに並列で連結され当該メイン循環ループに酸素が飽和溶存された補充水を供給する補助循環ループ、及び当該メイン循環ループ内の溶存酸素量を測定して当該補助循環ループをメイン循環ループと連通させる演算制御部を含み、溶存酸素濃度と大気圧を自動で補正して生物の呼吸状態を長時間測定できるようになったものである。これを用いて海洋生物の呼吸状態を測定することに関する詳細な説明は当該発明され特許を受けた自動呼吸測定装置に対する説明に代えられる。その他本技術分野の当業者に知られている他の方法や装置を使って海洋生物の呼吸状態を測定することも本発明の範疇に含まれることは明白である。
【0023】
また、本発明では前述したように測定された海洋生物の呼吸状態結果から、当該海洋生物の内因性生体リズムを調べることもできる。当該海洋生物の内因性生体リズムは光がなく、温度が一定であり、塩分が一定な状態の実験条件下で得られるのが望ましい。前述したような実験条件を有する実験容器内で、海洋生物により消費される溶存酸素量の変化状態を連続的に自動測定し、所定の時間で変化した溶存酸素量の平均値を把握して、当該海洋生物の内因性生体リズムを把握する。ここで水中の溶存酸素量に大きな影響を与える大気圧、水温、塩分度の変化は必要に応じて自動補正できる。例示的に、当該海洋生物の呼吸状態結果から当該海洋生物の代謝活性が1周期リズムを有するか、あるいは潮汐周期リズムを有するかが分かる。すなわち、図4は自動呼吸測定装置を用いて養殖場で飼育したオヒョウを対象にして6日間連続測定されたオヒョウの呼吸生理活性資料グラフであり、このように連続測定された資料を時系列周期分析プログラム用いて前述した海洋生物の周期を分析するものである。すると、図5のような1周期リズム形態の強い結果が得られる。
【0024】
図6は自然状態で採捕されたオヒョウを対象にして連続呼吸生理活性を測定した結果であり、図7はこれを周期分析プログラムで分析して自然棲息地形態の潮汐周期リズムが海洋生物の体内に内在されていることを示す。海洋生物の呼吸状態結果から海洋生物の内因性生体リズムを調べることは所定のコンピュータシステムまたはプログラムを用いることができ、さらに本技術分野において幅広く知られている他の方法を用いて海洋生物の内因性生体リズムを調べることも可能である。
【0025】
前述したとおり、本発明は海洋生物の呼吸状態や内因性生体リズムから海洋生物が最も多くストレスを受ける海水温度を把握し、このような海水温度区間で海洋生物を維持させる時間を最も延ばすことが特徴であり、この特徴は海洋生物が1周期を有するものや潮汐周期を有するものや、あるいは1周期と共に潮汐周期を有するものにも、同じく適用されうる。
【0026】
図8は本発明により海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少するか、酸素消費量の変化の殆んどない時点の海水温度を決定するためのもので、海水温度による海洋生物の平均酸素消費量変化を例示的に示したグラフであり、これは24時間の1周期リズムを有するオヒョウを例として挙げた。
【0027】
これに示したように、海洋生物の平均酸素消費量の変化は海水の温度が次第に段階的に下がることによって減少することが確認でき、実際に所定の温度で海洋生物が消費する酸素量偏差、すなわち一つの温度を基準にした時、海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差も海水の温度が下がることによって減少する。これは海水の温度が下がることによって海洋生物の動きが活発にならず、よって海洋生物が消費する酸素消費量の変化も減少したり殆んど無くなるからである。
【0028】
海洋生物が消費する酸素消費量の変化が減少したり殆んど無くなることは海洋生物の内因性生体リズムに変化があることを意味し、このような状態が発生する海水の温度は図8に示したように、約13℃ほどの海水を用いる場合、オヒョウの呼吸生理代謝活動が正常状態で弱くなる10℃付近(図8のA)と、水温減少によって呼吸生体リズムが著しく変わる6℃付近(図8のB)、内因性呼吸生体リズムが停止する4℃付近(図8のC)、それから水温がこれ以上減少するとしても新陳代謝変化のない2℃付近(図8のD)となる。
【0029】
これにより、本発明の他の実施形態は海水の温度を段階的に下げる際に、14℃ないし12℃を第1温度にし、7℃ないし5℃を第2温度にし、5℃ないし3℃を第3温度にすることができる。望ましくは13℃を第1温度にし、6℃を第2温度にし、4℃を第3温度にするのがさらに好適である。それで、前記第1温度から第2温度と第3温度を順に経ながら海水の温度を下げることができ、または前記第1温度から第3温度に海水の温度を下げることも可能である。
【0030】
すなわち、本発明の一実施形態は、まず温度が第1温度である海水で第1酸素消費量を有する海洋生物を前記第1温度を有する海水で第1時間の間維持させ、次いで当該海水の温度を次第に下げながら第3温度では当該海水の温度を第3時間の間維持させることを特徴とする海洋生物の人工冬眠誘導方法である。ここで、当該第3温度は当該海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量の3分の1ないし4分の1となる少ない第3酸素消費量を有する温度であり、当該第3時間は当該第1時間の10倍ないし100倍長い時間を意味する。
【0031】
これは、後述する本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、例えば13℃で12.2mlO2kg−1WWh−1の第1酸素消費量を有する海洋生物を10分間維持させ、次いで当該海水の温度を次第に下げながら、海洋生物の酸素消費量が0.1mlO2kg−1WWh−1になり、この内因性呼吸生体リズムが停止される4℃では海水の温度をこの温度で約260分程度の間維持させる。このように海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量の3分の1ないし4分の1となる少ない第3温度で前記第1時間の10倍ないし100倍長い第3時間の間海洋生物を維持させる場合、当該第3温度は海洋生物の酸素消費量の変化が殆んどないため、ストレスが最も多い部分であるが、本発明により最も長時間維持されるので、海洋生物を人工冬眠状態へ誘導するまでに与えるストレスとしては最も少なくなる。
【0032】
このような本発明の他の実施形態は、前述したように、温度が第1温度の海水で第1酸素消費量を有する海洋生物を当該第1温度を有する海水で第1時間の間維持させ、当該海水の温度を次第に下げながら第2温度では当該海水の温度を第2時間の間維持させ(当該第2温度は前記海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量より3分の2ないし5分の2となる少ない第2酸素消費量を有する温度であり、当該第2時間は当該第1時間より10倍ないし25倍長い時間である)、当該海水の温度を次第に下げながら第3温度では当該海水の温度を第3時間の間維持させる(当該第3温度は当該海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量の3分の1ないし4分の1となる少ない第3酸素消費量を有する温度であり、当該第3時間は当該第1時間の26倍ないし100倍長い時間である)ことを含むことも可能である。
【0033】
これは本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、13℃で12.2mlO2kg−1WWh−1の第1酸素消費量を有する海洋生物を10分間維持させ、海洋生物の平均酸素消費量が9.8mlO2kg−1WWh−1になりながら内因性呼吸生体リズムが著しく変わる6℃では海水の温度をこの温度で120分間維持させ、海洋生物の平均酸素消費量が6.2mlO2kg−1WWh−1になりながら内因性呼吸生体リズムが停止(振幅差は0.1mlO2kg−1WWh−1)される4℃では海水の温度をこの温度で約260分間維持させる。この場合、前記第2温度は海洋生物の酸素消費量の変化が大幅に減少する部分であり、これを前記第3温度前に一定時間維持させることによって、海洋生物の生存率をさらに長時間延ばすことができる。
【0034】
一方、本発明のさらに他の実施形態は前述したように第1温度を有する海水に海洋生物を第1時間の間維持させ、次いで当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差、すなわち酸素消費生体リズム振幅が1.1mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第3温度まで当該海水の温度を次第に下げ、この海水を当該第3温度で当該第1時間より10倍ないし100倍の長い時間維持させる段階を含むものである。本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差が1.1mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第3温度は約4.5℃ないし1℃の範囲内であり、この場合当該第3温度は海洋生物の酸素消費量の変化が殆んどないため、ストレスが最も多い部分であるが、本発明により最も長時間維持されるので、海洋生物を人工冬眠状態へ誘導するまでに与えるストレスとしては最も少なくなる。
【0035】
このような本発明のさらに他の実施形態は、前述したように、第1温度を有する海水に海洋生物を第1時間の間維持させ、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差(酸素消費生体リズムの振幅)が6.0mlO2kg−1WWh−1ないし1.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第2温度まで当該海水の温度を次第に下げ、この海水を当該第2温度で当該第1時間より10倍ないし25倍長い第2時間の間維持させ、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差が1.1mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第3温度まで当該海水の温度を次第に下げ、この海水を当該第3温度で当該第1時間より26倍ないし100倍長い第3時間の間維持させるものである。本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差が6.0mlO2kg−1WWh−1ないし1.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第2温度は約7.0℃ないし4.5℃の範囲内であり、この場合当該第2温度は海洋生物の酸素消費量の変化が大幅に減少する部分であり、これを当該第3温度前に所定の時間維持させることによって、海洋生物の生存率をさらに長時間延ばすことができる。
【0036】
なお、前述したような本発明の色々な実施形態において前記海水の温度を次第に下げる場合において、前述したように当該海水の温度を所定間隔によって段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に拡張させることが望ましい。
【0037】
また、前述したような本発明の色々な実施形態において、前記海洋生物はオヒョウその他活魚であることが最も好適である。
【0038】
図10及び図11はそれぞれ本発明の他の一実施例による人工冬眠誘導装置の一例を示す側面図及び上面図であり、本発明の他の実施形態は海洋生物を人為的に冬眠状態にさせるための海洋生物の人工冬眠誘導装置である。
【0039】
これに示したように、本発明の他の目的を達成するための他の実施形態は、海洋生物の人工冬眠誘導装置として、海洋生物を含む海水が収容されている人工冬眠チャンバー15と、当該人工冬眠チャンバーから排出される海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げた後再び人工冬眠チャンバーに流入させる熱交換器2または冷却器5と、当該人工冬眠チャンバー内に存する海水の温度を測定する温度センサー11、12と、当該海水中に含まれた溶存酸素量を測定する酸素センサー10と、当該温度センサーから入力された海水の温度情報に基づき、当該段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させ、当該酸素センサーから入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮する人工冬眠誘導プログラムを含み、当該人工冬眠誘導プログラムによって当該熱交換器または当該冷却器を制御するPC9が含まれることを特徴とする。
【0040】
このような人工冬眠誘導装置は前記PC9が熱交換器2または冷却器5の作動を制御することによって、人工冬眠チャンバー15の中に存する海洋生物を人為的に冬眠状態にさせることが特徴である。このため、本発明に係る人工冬眠誘導装置は当該熱交換器2または当該冷却器5の作動を制御するための別のコンプレッサー3と圧力制御部4をさらに含め、前記温度センサーを制御できる温度制御部7をさらに含め、当該PC9は当該圧力制御部4と当該温度制御部7を統制することによって、前述した熱交換器2または冷却器5の作動を制御することも可能である。
【0041】
以下、前述したような人工冬眠誘導装置の動作を説明する。
本発明に係る人工冬眠誘導装置は基本的に海水と淡水の両方使用できるので、水と接触する管や各構成要素をPVC材質や海水に強いチタン材質で作製した。このような人工冬眠誘導装置は人工冬眠チャンバー15、冷却装置、それから水温調節装置(PC)からなる。
【0042】
前記人工冬眠チャンバー15は海水から保護するために内外壁がプラスチック材質やチタンよりなっており、外部との熱遮断のために内外壁の中間部(厚さ5cm)は断熱材であるエポキシで充填されており、蓋を含む。このような人工冬眠チャンバー15の体積は500リットルであり、水は400リットルを充填できる。人工冬眠チャンバー15内部の微細な水温変化は二つのPt100温度センサー11、12を通じてPC9と温度制御部7の2箇所で測定した値に補正できるようにした。人工冬眠チャンバー15内部の溶存酸素(DO)は酸素センサー(Multiline P4、WTW、Germany)10をPC9に連結して使用し、人工冬眠チャンバー15に備えられた流入口14と排出口13を介して海水の流速(45リットル/min)を調節することによって海水の酸素飽和度を100%に維持されるようにした。
【0043】
また、本発明に係る人工冬眠チャンバー15は海水から海洋生物を引き上げられる網16を備えることも可能である。そのため、人工冬眠チャンバー15内に海洋生物を入れる前に、まず網16を入れるのが望ましい。それは、オヒョウのように平らな(flat)魚類は底部にあれば捕獲が難しいが、網16の中にオヒョウを入れると当該網16を簡単に引き上げることができ、大きなストレスなしで魚類を取り扱い易いからである。
【0044】
引き続き、本発明に係る人工冬眠誘導装置の冷却装置は1分に45リットルを処理できる容量のポンプ1、時間当り12000kcal容量の熱交換器2、2馬力のコンプレッサー3、圧力制御部4、冷却器5で構成されており、このような冷却装置を通過する海水の流速方向は図10及び図11において太い実線矢印で示した。このような冷却装置を用いて前記人工冬眠チャンバー15内に流入される海水の温度を下げるためには、前記熱交換器2とコンプレッサー3及び圧力制御部4を循環する冷媒の条件を高い圧力と低い温度(−25℃)に維持することが重要である。このような冷媒の循環過程は図10及び図11に点線矢印で示した。この場合、熱交換器2を通過する海水の温度が低すぎると熱交換器2に問題が発生する恐れがある。すなわち、熱交換器(12000kcal/h)に海水が通過する管の直径が小さくて熱交換器2の管内が結氷して熱交換器2が破裂される場合もある。従って、熱交換器2の内部管を通過する海水の温度が一定範囲以上下がると、コンプレッサー3の圧力を自動で調節して冷媒の温度を自動で下げることによって熱交換器2の結氷を防止することが望ましい。例えば、人工冬眠チャンバー15の内部の水温が高い時(例えば、13℃ないし4℃)はコンプレッサー3の圧力を高めて冷媒温度を−25℃にし、当該人工冬眠チャンバー15内部の水温が低い時(例えば1℃程度)はコンプレッサー3の圧力を低くして冷媒温度を−1℃にすれば、熱交換器2の結氷を防止(塩分24.7%で結氷温度:−1.93℃)できる。同時に、本発明に係る人工冬眠誘導装置の上端には冷却系統の異常有無を知らせるLEDランプを設けて、問題発生時迅速に対処できるようにした。冬眠誘導室の水温はPC9と温度制御部7を介して予め設定しておいたPC9のプログラムにより自動で調節されるようにした。このように設定された人工冬眠誘導過程の水温調節が正常に作動するか否かは当該PC9に表示されるようにした。人工冬眠誘導プログラム設定は初期水温と魚種と魚類のサイズによって14〜20時間に変更して使用できる。
【0045】
このような人工冬眠誘導装置は前記PC9が熱交換器2または冷却機5の作動を制御することによって、人工冬眠チャンバ15内の海洋生物を自動で人為的に冬眠状態にさせることが特徴である。このため、当該PC9が、前記温度センサー11、12から入力された海水の温度情報に基づき、前記段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を一定時間の間維持させ、前記下がった各段階の温度で維持させる一定時間を段階的に拡張させることと、前記酸素センサー10から入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、前記海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮することは、前述した海洋生物の人工冬眠誘導方法において具体的に説明した通りである。その他当該PC9が前述した本発明の他の実施形態による海洋生物の人工冬眠誘導方法により海洋生物を自動で人為的に冬眠状態にさせることも可能である。
【0046】
前述したような人工冬眠誘導装置で海水の温度と維持時間を調節して海洋生物を人工冬眠状態へ誘導した後は、人工冬眠状態へ誘導された海洋生物を外部との熱遮断の可能なボックスに入れ、当該海洋生物の表面に水に濡らした蓋をして湿度を一定に維持させた後、当該ボックスを密封して人工冬眠状態へ誘導された海洋生物を運搬することができる。
【0047】
海洋生物が含まれるボックス内に外気または熱が流入されれば、ボックス内部の温度が上がって、人工冬眠状態へ誘導された海洋生物が早く目を覚まして死んでしまうので、本発明ではこのような人工冬眠状態を所定の時間中持続させるために外部の熱または空気流入が遮断されるボックスを用いた。当該ボックスの内部温度は別に制限されないが、1℃ないし2℃の範囲内の内部温度に維持されるのが、海洋生物の人工冬眠状態の維持に最適であることを確認した。
【0048】
また、本発明に係る前記海洋生物は人為的に冬眠状態へ誘導されたので水が要らないが、当該海洋生物の生存に必要な湿度維持のために水に濡らした蓋を用いた。このとき、当該海洋生物の表面に水に濡らした韓紙を被せて一定に90%以上の湿度に維持させるのが最も望ましかった。
【0049】
前述したような本発明による場合、海洋生物の内因性生体リズムを把握して当該海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導することができ、これにより無水状態(waterless condition)でボックスに包装することだけで海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。
【0050】
その後、前記人工冬眠状態が維持された海洋生物を前記密封されたボックスと共に別の場所に移した後、当該ボックスを開封して7℃ないし9℃の範囲内の温度を有する水に当該海洋生物を放流するのが望ましい。この本発明は人工冬眠状態へ誘導された海洋生物を運送するためのものであって、特に当該密封されたボックスに入れて運送するものであり、運送した後は海洋生物のサイズによって異なるが、7℃ないし9℃の範囲内の温度を有する水に放流すれば、短くは数秒ないし10分ほど後には人工冬眠状態から覚めるようになる。
【0051】
この本発明は水中に生きている全生物を対象にして、既存の活魚輸送方法などとは全く異なるように、生物自体の内因性生体リズムを理解し、多段階の温度変化を経ることによって人為的に冬眠状態へ誘導して、海洋生物の内因性生体リズムを長時間停止させた後、再び元の生体リズムに戻らせる全く新たな技術が提供可能である。
【0052】
以下、本発明の望ましい一実施形態を図面を参照して詳述する。本発明は下記の実施例によりさらによく理解でき、下記の実施例は本発明の例示目的のためのものであり、特許請求の範囲によって限定される保護範囲を制限しようとするものではない。
【0053】
本実験で使用されたオヒョウは韓国の安山所在の水産市場で済州道産を購入して使用した。総実験魚は290個体であって、従来の方法によってビニル封筒または新聞紙包装での運搬に63個体、そして本発明に係る人工冬眠誘導技術(無水運搬包装技術を用いる)に227個体を使った。
【実施例】
【0054】
オヒョウの呼吸活動と内因性生体リズムの分析: まず、海洋生物の内因性生体リズムを用いた人工冬眠状態を理解するためには対象魚類がどのような内因性生体リズムを持って代謝活性するのかを分析するのが重要である。
【0055】
魚類の内因性生体リズム測定は実験条件が大事である。このような実験条件は最小限2つ以上の外部の環境条件が一定状態を維持してこそ内因性生体リズムとして認められうる(palmer1995)。魚類は目があるので、光の影響によってメラニン色素に影響を及ぼして魚類の行動や生理活動に影響を及ぼす恐れがあって内因性生体リズムを観察し難い。
【0056】
本発明では光が遮断され水温を一定(図4:19℃、図6:21.5℃)に維持できるBOD incubator(VS1203P5N、Vison Co.、Seoul、Korea)を使用した。養殖産オヒョウの呼吸活動による内因性生体リズム分析は本発明者により開発された図3に示す自動呼吸測定器(Automatic Intermittent−Flow−respirometer:AIFR)を用いて測定した。AIFRで135時間の間連続して測定された呼吸測定資料は所定のコンピュータプログラム(KaleidaGraphy、Synergy Software、Essex Junction、VT、USA)を用いて最小二乗法による2%移動平均で示した(図4、図6)。オヒョウの呼吸活動による内因性生体リズム周期分析は最大均質スペクトル分析(Maximum Entropy Spectral Analysis:MESA)プログラムを用いた。生体リズムの周期分析のためには一定時間間隔の連続的な資料が必要であり、当該AIFRで測定された資料を10分毎の数値を平均値に変換させた後MESAプログラムで分析して、図5の周期分析資料が得られた。このように養殖産オヒョウは24時間の1周期リズムに殆ど一致した24.8時間の1周期リズムを示した(図7)。しかし、海に棲息する自然産魚類や海洋生物をAIFRで連続して呼吸を観察すれば図6のように全く異なる形態に現れた。図6は潮間帯に棲息する蜆(Manila Clam、Ruditapes philippinarum)の呼吸を260時間中BOD incubator(暗い状態と一定水温21.5℃)で連続的にAIFRで測定した結果である。2%の移動平均で分析したところ、1日に2つのピークが強く現れ、このような資料をMESAで分析した結果、月の影響を受ける12.2時間の潮汐周期の影響が強いことが分かり、25.1時間の1周期リズムも観察された。当該蜆の内因性生体リズム実験において理解できるように、海洋生物は棲息地によって生体リズムが異なることが分かる。AIFRで海洋生物の呼吸を長時間測定すれば海洋生物の内因性生体リズムを観察することができ、これは海洋生物を人工冬眠状態へ誘導させるのに大事な基礎資料になりうる。
【0057】
海水温度低下によるオヒョウの平均酸素消費量の変化: 前述したオヒョウの呼吸活動と内因性生体リズム分析方法及び分析資料に基づき、本発明に係る人工冬眠誘導装置を用いて、海洋生物を含む海水の温度を下げながら当該海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、酸素消費量の変化の殆んどない時点の海水温度を決めた。
【0058】
その結果、図8に示したように、オヒョウを対象にする場合、温度13℃の海水に保管していたオヒョウを水温10℃に下げても生存には全く問題なかった。それで、本発明者らは図9に示したように、当該海水の温度を13℃で10分間維持させ、12℃で20分、11℃で30分ほどずつ水温を下げることによって時間を増加させた。水温6℃では開始時の13℃における露出時間(10分)より12倍ほど多い120分、5℃では180分、生体リズムが停止される水温4℃ではストレスを最小化するために260分で最長の露出をした。そして、海水の温度を下げながら次第に露出時間を短縮した。すなわち、当該海水を3℃で180分、2℃で120分、1℃で20分に露出時間を短縮しつつ海水内にオヒョウが維持されるようにした。最終的には氷点下(−)0.2℃で15分間露出した。
【0059】
このように、海水の温度を段階的に下げながらこのように下がった海水の温度によって海水の温度維持時間を段階的に増加させることの一例を図9に示した。そして、このような水温変化は人工冬眠誘導装置のコンピュータプログラムにより自動で調節した。反復実験結果、人工冬眠誘導時点を13℃程度で誘導するのが海洋生物のストレスを最小にし、総冬眠誘導時間は約20時間ほどかかることを確認した。
【0060】
また、図8に示した海水温度による海洋生物の平均酸素消費量変化グラフに基づき、一定基準温度でオヒョウが消費する酸素量の最大値と最小値及びこれによる酸素消費量変化振幅、それから海水の温度区間別海洋生物の平均酸素消費量変化グラフの傾きを下記の表1にまとめた。
【0061】
【表1】
【0062】
前記表1に示したように、オヒョウの酸素消費量振幅による傾きは水温が13℃から10℃に下がる時1.77であった。海水の温度範囲が10℃から8℃、8℃から6℃にそれぞれ2℃ずつ下がる時は当該傾きが0.25と同一であり、これは13℃から10℃に下がる時より小さい値であり、これにより海水の温度が10℃から6℃に下がる区間ではオヒョウの呼吸や代謝活動に大きな変化がないと判断される。しかし、6℃から4℃に下がる区間では酸素消費量振幅の傾きが2.7であり大きかったので、このような水温範囲では代謝活動に大きな変化があることを確認した。海水の温度が4℃以下の場合は酸素消費量が殆んど一定(6.1mlO2kg−1WWh−1)であり、傾きは0.05であって、水温変化にも酸素消費量の変化は殆んどなかった。
【0063】
活魚とオヒョウを用いた人工冬眠の実験: 引き続き、前述したように人工冬眠状態へ誘導された活魚とオヒョウを内部温度が5℃に維持されるボックスに入れ、その表面に全体を水に濡らした韓紙を被せた後、当該ボックスを密封して保管した。保管時間の経過によって当該ボックス内に存する活魚とオヒョウの無水状態がどれぐらい長時間維持されるのかを記録し、当該活魚とオヒョウの生存率を把握し、その結果は下記の表2に示した通りである。
【0064】
【表2】
【0065】
前述した表2に示したように、本発明に係る人工冬眠誘導技術と無水運搬包装技術が適用された活魚とオヒョウは無水状態維持時間が従来の方法より長く、活魚とオヒョウの生存率は従来の方法によるものより著しく優れた。
【0066】
以上、本発明を特定の望ましい実施例に関連して示しかつ説明したが、これは特許請求の範囲により設けられる本発明の技術的特徴や分野を逸脱しない範囲内で本発明が多様に改造及び変化されうることは当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上述べたように、本発明によれば海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導し、これにより水のない無水状態(waterless condition)で当該冬眠状態へ誘導された海洋生物を紙ボックスに包装することだけでも海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。本発明は水中の全生物を対象にして、既存の活魚輸送方法などとは全く異るように、生物自体の内因性生体リズムを理解し多段階の温度変化を経ることによって人為的に無水状態へ誘導して、海洋生物の内因性生体リズムを長時間停止させた後、再び元の生体リズムに戻らせる全く新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明により段階的に下がった海水の温度によって温度維持時間を段階的に増加させる第1例を説明するための模式図である。
【図2】本発明により段階的に下がった海水の温度によって温度維持時間を段階的に増加させる第2例を説明するための模式図である。
【図3】本発明により海洋生物の酸素消費量を測定できる自動呼吸測定装置の一例を示す構成図である。
【図4】本発明により測定された養殖産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた1周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図5】本発明により測定された養殖産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた1周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図6】本発明により測定された自然産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた潮汐周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図7】本発明により測定された自然産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた潮汐周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図8】本発明により海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、酸素消費量の変化が殆んどない時点の海水温度を決定するための海水温度による海洋生物の酸素消費量の変化を例示的に示すグラフである。
【図9】本発明により段階的に下がった海水の温度によって段階的に増加させる温度維持時間の一例を説明するためのグラフである。
【図10】本発明の他の実施例による人工冬眠誘導装置の一例を示す側面図である。
【図11】本発明の他の実施例による人工冬眠誘導装置の一例を示す上面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は海洋生物の人工冬眠誘導装置に係り、さらに詳しくは海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、このように下がった各段階の温度維持時間を段階的に拡張することを特徴とする人工冬眠誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代養殖技術の急激な発達に伴って韓国国内でも1990年代始めごろから高級養殖魚類の生産が増大されてきており(1997年浅海養殖魚類総生産量:39121トン)、所得増大によって活魚の消費も大幅に増大しつつある。ところが、現在韓国国内の活魚を始めとした海洋生物の流通は活魚トラックを用いた低密度輸送技術(全重量の約15〜20%)に依存していて、長距離輸送の場合、交通渋滞による輸送時間の遅延などによって魚類の鮮度維持が難しく不味くなる、輸送費用がアップするなどの問題点を抱えている実情がある。
【0003】
従来、活魚を始めとした海洋生物を運送する方法としては、(1)麻酔輸送法、(2)電気ショック輸送法、(3)冷却水槽輸送法、(4)人工冬眠輸送法などがある。具体的には、韓国登録特許(登録番号:10−0232408)は、冷却海水を使った活魚の高密度輸送方法に係り、活魚輸送において海水温度を冷却させる方法であって活魚槽に海水、氷、塩を入れて海水の温度を一般輸送温度より5〜15℃低く冷却して輸送することを特徴としている。他の韓国登録特許(登録番号:10−0531728)は、活イカ輸送保管用氷温海水冷却装置に係り、活イカを氷温状態の低温状態に保管運搬するための氷温海水冷却装置を開示している。もう一つの韓国登録特許(登録番号:10−0046109)は、活魚輸送保存方法及び装置に係り、活魚の体に傷つかないように一匹ないし数匹ずつ収納する多数の通流孔を設けて動きを抑えられる低温下に置かれることを特徴とする活魚輸送方法を開示している。
【0004】
しかし、前述したような従来の方法は全て活魚車の水温を下げる方法を基本にしており、このような活魚車を用いて国内外に流通されている冷却水槽輸送法は冷却水槽設備の費用負担と魚種別低温生理特性の不確実性、特殊車両の必要性と長時間運送中海洋生物の斃死の恐れがある。そして、前述した麻酔輸送法は衛生上の安全性の問題及び嫌悪感を引き起こす恐れがあり、電気ショック輸送法は前処理の困難と斃死、肉質の品質低下によって幅広く活用できないとの問題点がある。
【0005】
【特許文献1】韓国特許 10−0232408号公報
【特許文献2】韓国特許 10−0531728号公報
【特許文献3】韓国特許 10−0046109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前述したような問題点を解決するために案出されたもので、その目的は海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少するか、酸素消費量の変化が殆んどない時点まで段階的に拡張させた後、これを起点にして前記各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物の生存率を長時間維持させるところにある。
【0007】
すなわち、本発明を通じて海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導させ、当該冬眠状態へ誘導された海洋生物を水のない無水状態(Waterless condition)のボックスに包装することだけで海洋生物の生存率を長時間維持させようとするところにその目的がある。
【0008】
本発明の他の目的は水中の生きている全生物を対象にして、既存の活魚輸送方法とは全く違って、生物自体の内因性生体リズムを理解し多段階の温度変化を経ることによって人為的に無水状態へ誘導して、海洋生物の内因性生体リズムを長時間停止させた後、再び元の生体リズムに戻らせる全く新たな技術を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための本発明に係る海洋生物の人工冬眠誘導装置は、海水に海洋生物を所定の時間維持させる段階と、当該海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に拡張させる段階と、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度を起点にして、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮させるものである。
【0010】
本発明は、海洋生物の人工冬眠誘導装置であって、海洋生物を含む海水が収容されている人工冬眠チャンバーと、当該人工冬眠チャンバーから排出される海水の温度を所定間隔によって段階的に下げた後再び人工冬眠チャンバーに流入させる熱交換器または冷却器と、当該人工冬眠チャンバー中に存する海水の温度を測定する温度センサーと、当該海水中に含まれた溶存酸素量を測定する酸素センサーと、当該温度センサーから入力された海水の温度情報に基づき、当該段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させ、当該酸素センサーから入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮する人工冬眠誘導プログラムを含み、当該人工冬眠誘導プログラムによって当該熱交換器または当該冷却器を制御するPCが含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
前述したように本発明によれば、海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を、海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、内因性生体リズムが停止され酸素消費量の変化が殆んどない時点まで段階的に拡張させた後、これを起点にして当該各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付した図面に基づき本発明の望ましい実施形態を詳述する。
本発明は海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導するためのもので、海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら、このように下がった各段階における海水温度維持時間を段階的に拡張することが特徴である。
【0013】
このため、本発明はまず海水に海洋生物を所定の時間維持させる。すなわち、海洋生物を含む海水を用意する。ここで、海水とは海の水を意味するものであるが、本発明は海水以外に淡水、その他の水を使用することも可能である。以下、説明の容易な理解のために海水を用いることと説明してきたが、本発明では海水以外に淡水及びその他の形態の何れの水を使用することも可能である。
【0014】
次いで、本発明は前述したように用意された海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に拡張させることを特徴とする。すなわち、当該用意された海水の温度を段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる一定時間を次第に拡張する。
【0015】
従来の海洋生物を運搬するための方法は殆んど活魚を始めとした魚類を低温状態に維持させるか、あるいは氷で凍らせる冷却法であった。一方、本発明は水の温度を所定の間隔で下げながら海洋生物を人工冬眠状態へ誘導することが特徴である。例示的に、図1に示したように、当該用意された海水の温度が13℃であり、この温度で海洋生物を10分間維持させたならば、この海水の温度を1℃間隔で段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度、すなわち12℃、11℃、10℃及び9℃では海洋生物を含む海水の温度を20分、30分、40分及び50分と次第に拡張する。
【0016】
本発明は前述したように海水の温度を所定の時間間隔をもって段階的に下げると同時に、このように下がった各段階における海水温度維持時間も段階的に拡張させることが海洋生物に最も効率よく人工冬眠状態へ誘導できることを確認した。もし、一時的に水温を一度に下げると、海洋生物は低温ショックを受けて死亡するようになるので、本発明は水温と時間を段階的に調節して海洋生物を下がった海水温度において適応期間をもたせることが特徴である。
【0017】
この本発明において、前記海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げる際、図1に示したように1℃毎に温度を段階的に下げることができる。また、2℃、3℃またはそれ以上の温度間隔でも次第に温度を下げることができ、この場合は2℃、3℃またはそれ以上の温度間隔に差が出る海水の温度別に温度を一定に維持する時間を異なるものとする。例えば、用意された海水の温度が13℃であり、この温度で海洋生物を10分間維持させたとすれば、11℃では20分、9℃では30分にする。さらに、前述したように海洋生物を含む海水の温度を段階的に下げながら各段階における海水温度維持時間を段階的に拡張することは、時間によって海水の温度を明らかに区分できるが、図2に示したように一部時間区間では隣接する2つの海水温度間に重畳する部分が生じることも当然ありうる。
【0018】
次の段階として、本発明は前述したように海水の温度を段階的に下げながら海水温度維持時間を段階的に拡張した後は、海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少するか、酸素消費量の変化が殆んどない海水の温度を起点に、当該各段階で海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することが特徴である。すなわち、海洋生物の呼吸状態や内因性生体リズムから海洋生物がストレスを最も多く受ける海水温度を把握した後、当該海水温度領域に維持する時間を最も長くすることによって、海洋生物が人工冬眠状態へ誘導されるまでに受けるストレスを最小化しようとすることである。
【0019】
海水中に存在する海洋生物は海水温度が下がると次第に呼吸が苦しくかつ不規則的になり、よって所定の温度で海洋生物が消費する酸素消費量の変化は大幅に減少したり酸素消費量の変化が殆んどなくなる。これは海洋生物の呼吸生体リズムが著しく変わるか、あるいは呼吸生体リズムが停止されることを意味するもので、この海水温度領域で海洋生物はストレスを最も多く受ける。本発明は所定の温度を基準に海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、殆んどない、さらには全くない海水温度では維持時間を最も長くし、追って下がった海水温度では海水の温度を一定に維持する時間を段階的に短縮することによって、海洋生物が受けるストレスを最小化しつつ海洋生物を人工的に冬眠状態へ誘導しようとするものである。
【0020】
ここで、前記所定の温度を基準にして海洋生物が消費する酸素量の変化が大幅に減少したり殆どないということは、段階的に下がった一つの各海水温度で海洋生物が消費する酸素消費量の変化、すなわち酸素消費量の最大値と最小値の偏差(すなわち、振幅)が以前より大きく縮まるかその偏差が微々たることを指す。所定の温度で調べられた海洋生物の酸素消費量の振幅が小さいということは海洋生物の呼吸活動がストレスによって萎縮していることであり、所定の温度で調べられた海洋生物の酸素消費量の振幅が大きいということは海洋生物の活発な呼吸活動を意味し、これは海水に含まれた溶存酸素量の変化でチェックできる。もし、初期に所定の温度を有する海水で第1酸素消費量を有する海洋生物を所定の時間維持させると、当該海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げながら、この下がった各段階の温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させることは前述した通りであり、本発明の他の実施形態は当該下がった各段階の温度中、当該海洋生物が消費する酸素消費量が当該第1酸素消費量より3分の2ないし4分の1の量か、あるいは当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差が6.0mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内である海水の温度を起点にして、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に短縮することを特徴とする。
【0021】
本発明は所定の温度で海洋生物が消費する酸素消費量の偏差を把握するため、本発明の実施過程中にまたはその前に予め、海洋生物の呼吸状態を測定する必要があり、本発明はこのような海洋生物の呼吸状態測定過程をさらに含める。例示的に、海洋生物を含む海水の溶存酸素量を測定することによって当該海洋生物の酸素消費量が分かり、本発明では特に海洋生物の呼吸状態を測定できる自動呼吸測定装置を用いることもできる。
【0022】
海洋生物の呼吸状態を調べる方法は別に制限されるものではないが、本発明者によって発明され特許を受けた自動呼吸測定装置(韓国公開特許:10−2003−0075931)が用いられる。これは図3に示したように水が循環する閉ループよりなるメイン循環ループと、このメイン循環ループ上に連通して設置され、被実験生物が収容される生物貯蔵槽と、当該メイン循環ループに並列で連結され当該メイン循環ループに酸素が飽和溶存された補充水を供給する補助循環ループ、及び当該メイン循環ループ内の溶存酸素量を測定して当該補助循環ループをメイン循環ループと連通させる演算制御部を含み、溶存酸素濃度と大気圧を自動で補正して生物の呼吸状態を長時間測定できるようになったものである。これを用いて海洋生物の呼吸状態を測定することに関する詳細な説明は当該発明され特許を受けた自動呼吸測定装置に対する説明に代えられる。その他本技術分野の当業者に知られている他の方法や装置を使って海洋生物の呼吸状態を測定することも本発明の範疇に含まれることは明白である。
【0023】
また、本発明では前述したように測定された海洋生物の呼吸状態結果から、当該海洋生物の内因性生体リズムを調べることもできる。当該海洋生物の内因性生体リズムは光がなく、温度が一定であり、塩分が一定な状態の実験条件下で得られるのが望ましい。前述したような実験条件を有する実験容器内で、海洋生物により消費される溶存酸素量の変化状態を連続的に自動測定し、所定の時間で変化した溶存酸素量の平均値を把握して、当該海洋生物の内因性生体リズムを把握する。ここで水中の溶存酸素量に大きな影響を与える大気圧、水温、塩分度の変化は必要に応じて自動補正できる。例示的に、当該海洋生物の呼吸状態結果から当該海洋生物の代謝活性が1周期リズムを有するか、あるいは潮汐周期リズムを有するかが分かる。すなわち、図4は自動呼吸測定装置を用いて養殖場で飼育したオヒョウを対象にして6日間連続測定されたオヒョウの呼吸生理活性資料グラフであり、このように連続測定された資料を時系列周期分析プログラム用いて前述した海洋生物の周期を分析するものである。すると、図5のような1周期リズム形態の強い結果が得られる。
【0024】
図6は自然状態で採捕されたオヒョウを対象にして連続呼吸生理活性を測定した結果であり、図7はこれを周期分析プログラムで分析して自然棲息地形態の潮汐周期リズムが海洋生物の体内に内在されていることを示す。海洋生物の呼吸状態結果から海洋生物の内因性生体リズムを調べることは所定のコンピュータシステムまたはプログラムを用いることができ、さらに本技術分野において幅広く知られている他の方法を用いて海洋生物の内因性生体リズムを調べることも可能である。
【0025】
前述したとおり、本発明は海洋生物の呼吸状態や内因性生体リズムから海洋生物が最も多くストレスを受ける海水温度を把握し、このような海水温度区間で海洋生物を維持させる時間を最も延ばすことが特徴であり、この特徴は海洋生物が1周期を有するものや潮汐周期を有するものや、あるいは1周期と共に潮汐周期を有するものにも、同じく適用されうる。
【0026】
図8は本発明により海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少するか、酸素消費量の変化の殆んどない時点の海水温度を決定するためのもので、海水温度による海洋生物の平均酸素消費量変化を例示的に示したグラフであり、これは24時間の1周期リズムを有するオヒョウを例として挙げた。
【0027】
これに示したように、海洋生物の平均酸素消費量の変化は海水の温度が次第に段階的に下がることによって減少することが確認でき、実際に所定の温度で海洋生物が消費する酸素量偏差、すなわち一つの温度を基準にした時、海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差も海水の温度が下がることによって減少する。これは海水の温度が下がることによって海洋生物の動きが活発にならず、よって海洋生物が消費する酸素消費量の変化も減少したり殆んど無くなるからである。
【0028】
海洋生物が消費する酸素消費量の変化が減少したり殆んど無くなることは海洋生物の内因性生体リズムに変化があることを意味し、このような状態が発生する海水の温度は図8に示したように、約13℃ほどの海水を用いる場合、オヒョウの呼吸生理代謝活動が正常状態で弱くなる10℃付近(図8のA)と、水温減少によって呼吸生体リズムが著しく変わる6℃付近(図8のB)、内因性呼吸生体リズムが停止する4℃付近(図8のC)、それから水温がこれ以上減少するとしても新陳代謝変化のない2℃付近(図8のD)となる。
【0029】
これにより、本発明の他の実施形態は海水の温度を段階的に下げる際に、14℃ないし12℃を第1温度にし、7℃ないし5℃を第2温度にし、5℃ないし3℃を第3温度にすることができる。望ましくは13℃を第1温度にし、6℃を第2温度にし、4℃を第3温度にするのがさらに好適である。それで、前記第1温度から第2温度と第3温度を順に経ながら海水の温度を下げることができ、または前記第1温度から第3温度に海水の温度を下げることも可能である。
【0030】
すなわち、本発明の一実施形態は、まず温度が第1温度である海水で第1酸素消費量を有する海洋生物を前記第1温度を有する海水で第1時間の間維持させ、次いで当該海水の温度を次第に下げながら第3温度では当該海水の温度を第3時間の間維持させることを特徴とする海洋生物の人工冬眠誘導方法である。ここで、当該第3温度は当該海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量の3分の1ないし4分の1となる少ない第3酸素消費量を有する温度であり、当該第3時間は当該第1時間の10倍ないし100倍長い時間を意味する。
【0031】
これは、後述する本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、例えば13℃で12.2mlO2kg−1WWh−1の第1酸素消費量を有する海洋生物を10分間維持させ、次いで当該海水の温度を次第に下げながら、海洋生物の酸素消費量が0.1mlO2kg−1WWh−1になり、この内因性呼吸生体リズムが停止される4℃では海水の温度をこの温度で約260分程度の間維持させる。このように海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量の3分の1ないし4分の1となる少ない第3温度で前記第1時間の10倍ないし100倍長い第3時間の間海洋生物を維持させる場合、当該第3温度は海洋生物の酸素消費量の変化が殆んどないため、ストレスが最も多い部分であるが、本発明により最も長時間維持されるので、海洋生物を人工冬眠状態へ誘導するまでに与えるストレスとしては最も少なくなる。
【0032】
このような本発明の他の実施形態は、前述したように、温度が第1温度の海水で第1酸素消費量を有する海洋生物を当該第1温度を有する海水で第1時間の間維持させ、当該海水の温度を次第に下げながら第2温度では当該海水の温度を第2時間の間維持させ(当該第2温度は前記海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量より3分の2ないし5分の2となる少ない第2酸素消費量を有する温度であり、当該第2時間は当該第1時間より10倍ないし25倍長い時間である)、当該海水の温度を次第に下げながら第3温度では当該海水の温度を第3時間の間維持させる(当該第3温度は当該海洋生物の酸素消費量が当該第1酸素消費量の3分の1ないし4分の1となる少ない第3酸素消費量を有する温度であり、当該第3時間は当該第1時間の26倍ないし100倍長い時間である)ことを含むことも可能である。
【0033】
これは本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、13℃で12.2mlO2kg−1WWh−1の第1酸素消費量を有する海洋生物を10分間維持させ、海洋生物の平均酸素消費量が9.8mlO2kg−1WWh−1になりながら内因性呼吸生体リズムが著しく変わる6℃では海水の温度をこの温度で120分間維持させ、海洋生物の平均酸素消費量が6.2mlO2kg−1WWh−1になりながら内因性呼吸生体リズムが停止(振幅差は0.1mlO2kg−1WWh−1)される4℃では海水の温度をこの温度で約260分間維持させる。この場合、前記第2温度は海洋生物の酸素消費量の変化が大幅に減少する部分であり、これを前記第3温度前に一定時間維持させることによって、海洋生物の生存率をさらに長時間延ばすことができる。
【0034】
一方、本発明のさらに他の実施形態は前述したように第1温度を有する海水に海洋生物を第1時間の間維持させ、次いで当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差、すなわち酸素消費生体リズム振幅が1.1mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第3温度まで当該海水の温度を次第に下げ、この海水を当該第3温度で当該第1時間より10倍ないし100倍の長い時間維持させる段階を含むものである。本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差が1.1mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第3温度は約4.5℃ないし1℃の範囲内であり、この場合当該第3温度は海洋生物の酸素消費量の変化が殆んどないため、ストレスが最も多い部分であるが、本発明により最も長時間維持されるので、海洋生物を人工冬眠状態へ誘導するまでに与えるストレスとしては最も少なくなる。
【0035】
このような本発明のさらに他の実施形態は、前述したように、第1温度を有する海水に海洋生物を第1時間の間維持させ、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差(酸素消費生体リズムの振幅)が6.0mlO2kg−1WWh−1ないし1.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第2温度まで当該海水の温度を次第に下げ、この海水を当該第2温度で当該第1時間より10倍ないし25倍長い第2時間の間維持させ、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差が1.1mlO2kg−1WWh−1ないし0.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第3温度まで当該海水の温度を次第に下げ、この海水を当該第3温度で当該第1時間より26倍ないし100倍長い第3時間の間維持させるものである。本発明の実施例に含まれた表1及び図1を参照すれば、当該海洋生物が消費する酸素量の最大値と最小値の差が6.0mlO2kg−1WWh−1ないし1.0mlO2kg−1WWh−1の範囲内の第2温度は約7.0℃ないし4.5℃の範囲内であり、この場合当該第2温度は海洋生物の酸素消費量の変化が大幅に減少する部分であり、これを当該第3温度前に所定の時間維持させることによって、海洋生物の生存率をさらに長時間延ばすことができる。
【0036】
なお、前述したような本発明の色々な実施形態において前記海水の温度を次第に下げる場合において、前述したように当該海水の温度を所定間隔によって段階的に下げながら、当該下がった各段階の温度毎に海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に拡張させることが望ましい。
【0037】
また、前述したような本発明の色々な実施形態において、前記海洋生物はオヒョウその他活魚であることが最も好適である。
【0038】
図10及び図11はそれぞれ本発明の他の一実施例による人工冬眠誘導装置の一例を示す側面図及び上面図であり、本発明の他の実施形態は海洋生物を人為的に冬眠状態にさせるための海洋生物の人工冬眠誘導装置である。
【0039】
これに示したように、本発明の他の目的を達成するための他の実施形態は、海洋生物の人工冬眠誘導装置として、海洋生物を含む海水が収容されている人工冬眠チャンバー15と、当該人工冬眠チャンバーから排出される海水の温度を所定の間隔によって段階的に下げた後再び人工冬眠チャンバーに流入させる熱交換器2または冷却器5と、当該人工冬眠チャンバー内に存する海水の温度を測定する温度センサー11、12と、当該海水中に含まれた溶存酸素量を測定する酸素センサー10と、当該温度センサーから入力された海水の温度情報に基づき、当該段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させ、当該酸素センサーから入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮する人工冬眠誘導プログラムを含み、当該人工冬眠誘導プログラムによって当該熱交換器または当該冷却器を制御するPC9が含まれることを特徴とする。
【0040】
このような人工冬眠誘導装置は前記PC9が熱交換器2または冷却器5の作動を制御することによって、人工冬眠チャンバー15の中に存する海洋生物を人為的に冬眠状態にさせることが特徴である。このため、本発明に係る人工冬眠誘導装置は当該熱交換器2または当該冷却器5の作動を制御するための別のコンプレッサー3と圧力制御部4をさらに含め、前記温度センサーを制御できる温度制御部7をさらに含め、当該PC9は当該圧力制御部4と当該温度制御部7を統制することによって、前述した熱交換器2または冷却器5の作動を制御することも可能である。
【0041】
以下、前述したような人工冬眠誘導装置の動作を説明する。
本発明に係る人工冬眠誘導装置は基本的に海水と淡水の両方使用できるので、水と接触する管や各構成要素をPVC材質や海水に強いチタン材質で作製した。このような人工冬眠誘導装置は人工冬眠チャンバー15、冷却装置、それから水温調節装置(PC)からなる。
【0042】
前記人工冬眠チャンバー15は海水から保護するために内外壁がプラスチック材質やチタンよりなっており、外部との熱遮断のために内外壁の中間部(厚さ5cm)は断熱材であるエポキシで充填されており、蓋を含む。このような人工冬眠チャンバー15の体積は500リットルであり、水は400リットルを充填できる。人工冬眠チャンバー15内部の微細な水温変化は二つのPt100温度センサー11、12を通じてPC9と温度制御部7の2箇所で測定した値に補正できるようにした。人工冬眠チャンバー15内部の溶存酸素(DO)は酸素センサー(Multiline P4、WTW、Germany)10をPC9に連結して使用し、人工冬眠チャンバー15に備えられた流入口14と排出口13を介して海水の流速(45リットル/min)を調節することによって海水の酸素飽和度を100%に維持されるようにした。
【0043】
また、本発明に係る人工冬眠チャンバー15は海水から海洋生物を引き上げられる網16を備えることも可能である。そのため、人工冬眠チャンバー15内に海洋生物を入れる前に、まず網16を入れるのが望ましい。それは、オヒョウのように平らな(flat)魚類は底部にあれば捕獲が難しいが、網16の中にオヒョウを入れると当該網16を簡単に引き上げることができ、大きなストレスなしで魚類を取り扱い易いからである。
【0044】
引き続き、本発明に係る人工冬眠誘導装置の冷却装置は1分に45リットルを処理できる容量のポンプ1、時間当り12000kcal容量の熱交換器2、2馬力のコンプレッサー3、圧力制御部4、冷却器5で構成されており、このような冷却装置を通過する海水の流速方向は図10及び図11において太い実線矢印で示した。このような冷却装置を用いて前記人工冬眠チャンバー15内に流入される海水の温度を下げるためには、前記熱交換器2とコンプレッサー3及び圧力制御部4を循環する冷媒の条件を高い圧力と低い温度(−25℃)に維持することが重要である。このような冷媒の循環過程は図10及び図11に点線矢印で示した。この場合、熱交換器2を通過する海水の温度が低すぎると熱交換器2に問題が発生する恐れがある。すなわち、熱交換器(12000kcal/h)に海水が通過する管の直径が小さくて熱交換器2の管内が結氷して熱交換器2が破裂される場合もある。従って、熱交換器2の内部管を通過する海水の温度が一定範囲以上下がると、コンプレッサー3の圧力を自動で調節して冷媒の温度を自動で下げることによって熱交換器2の結氷を防止することが望ましい。例えば、人工冬眠チャンバー15の内部の水温が高い時(例えば、13℃ないし4℃)はコンプレッサー3の圧力を高めて冷媒温度を−25℃にし、当該人工冬眠チャンバー15内部の水温が低い時(例えば1℃程度)はコンプレッサー3の圧力を低くして冷媒温度を−1℃にすれば、熱交換器2の結氷を防止(塩分24.7%で結氷温度:−1.93℃)できる。同時に、本発明に係る人工冬眠誘導装置の上端には冷却系統の異常有無を知らせるLEDランプを設けて、問題発生時迅速に対処できるようにした。冬眠誘導室の水温はPC9と温度制御部7を介して予め設定しておいたPC9のプログラムにより自動で調節されるようにした。このように設定された人工冬眠誘導過程の水温調節が正常に作動するか否かは当該PC9に表示されるようにした。人工冬眠誘導プログラム設定は初期水温と魚種と魚類のサイズによって14〜20時間に変更して使用できる。
【0045】
このような人工冬眠誘導装置は前記PC9が熱交換器2または冷却機5の作動を制御することによって、人工冬眠チャンバ15内の海洋生物を自動で人為的に冬眠状態にさせることが特徴である。このため、当該PC9が、前記温度センサー11、12から入力された海水の温度情報に基づき、前記段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を一定時間の間維持させ、前記下がった各段階の温度で維持させる一定時間を段階的に拡張させることと、前記酸素センサー10から入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、前記海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を当該下がった各段階によって段階的に短縮することは、前述した海洋生物の人工冬眠誘導方法において具体的に説明した通りである。その他当該PC9が前述した本発明の他の実施形態による海洋生物の人工冬眠誘導方法により海洋生物を自動で人為的に冬眠状態にさせることも可能である。
【0046】
前述したような人工冬眠誘導装置で海水の温度と維持時間を調節して海洋生物を人工冬眠状態へ誘導した後は、人工冬眠状態へ誘導された海洋生物を外部との熱遮断の可能なボックスに入れ、当該海洋生物の表面に水に濡らした蓋をして湿度を一定に維持させた後、当該ボックスを密封して人工冬眠状態へ誘導された海洋生物を運搬することができる。
【0047】
海洋生物が含まれるボックス内に外気または熱が流入されれば、ボックス内部の温度が上がって、人工冬眠状態へ誘導された海洋生物が早く目を覚まして死んでしまうので、本発明ではこのような人工冬眠状態を所定の時間中持続させるために外部の熱または空気流入が遮断されるボックスを用いた。当該ボックスの内部温度は別に制限されないが、1℃ないし2℃の範囲内の内部温度に維持されるのが、海洋生物の人工冬眠状態の維持に最適であることを確認した。
【0048】
また、本発明に係る前記海洋生物は人為的に冬眠状態へ誘導されたので水が要らないが、当該海洋生物の生存に必要な湿度維持のために水に濡らした蓋を用いた。このとき、当該海洋生物の表面に水に濡らした韓紙を被せて一定に90%以上の湿度に維持させるのが最も望ましかった。
【0049】
前述したような本発明による場合、海洋生物の内因性生体リズムを把握して当該海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導することができ、これにより無水状態(waterless condition)でボックスに包装することだけで海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。
【0050】
その後、前記人工冬眠状態が維持された海洋生物を前記密封されたボックスと共に別の場所に移した後、当該ボックスを開封して7℃ないし9℃の範囲内の温度を有する水に当該海洋生物を放流するのが望ましい。この本発明は人工冬眠状態へ誘導された海洋生物を運送するためのものであって、特に当該密封されたボックスに入れて運送するものであり、運送した後は海洋生物のサイズによって異なるが、7℃ないし9℃の範囲内の温度を有する水に放流すれば、短くは数秒ないし10分ほど後には人工冬眠状態から覚めるようになる。
【0051】
この本発明は水中に生きている全生物を対象にして、既存の活魚輸送方法などとは全く異なるように、生物自体の内因性生体リズムを理解し、多段階の温度変化を経ることによって人為的に冬眠状態へ誘導して、海洋生物の内因性生体リズムを長時間停止させた後、再び元の生体リズムに戻らせる全く新たな技術が提供可能である。
【0052】
以下、本発明の望ましい一実施形態を図面を参照して詳述する。本発明は下記の実施例によりさらによく理解でき、下記の実施例は本発明の例示目的のためのものであり、特許請求の範囲によって限定される保護範囲を制限しようとするものではない。
【0053】
本実験で使用されたオヒョウは韓国の安山所在の水産市場で済州道産を購入して使用した。総実験魚は290個体であって、従来の方法によってビニル封筒または新聞紙包装での運搬に63個体、そして本発明に係る人工冬眠誘導技術(無水運搬包装技術を用いる)に227個体を使った。
【実施例】
【0054】
オヒョウの呼吸活動と内因性生体リズムの分析: まず、海洋生物の内因性生体リズムを用いた人工冬眠状態を理解するためには対象魚類がどのような内因性生体リズムを持って代謝活性するのかを分析するのが重要である。
【0055】
魚類の内因性生体リズム測定は実験条件が大事である。このような実験条件は最小限2つ以上の外部の環境条件が一定状態を維持してこそ内因性生体リズムとして認められうる(palmer1995)。魚類は目があるので、光の影響によってメラニン色素に影響を及ぼして魚類の行動や生理活動に影響を及ぼす恐れがあって内因性生体リズムを観察し難い。
【0056】
本発明では光が遮断され水温を一定(図4:19℃、図6:21.5℃)に維持できるBOD incubator(VS1203P5N、Vison Co.、Seoul、Korea)を使用した。養殖産オヒョウの呼吸活動による内因性生体リズム分析は本発明者により開発された図3に示す自動呼吸測定器(Automatic Intermittent−Flow−respirometer:AIFR)を用いて測定した。AIFRで135時間の間連続して測定された呼吸測定資料は所定のコンピュータプログラム(KaleidaGraphy、Synergy Software、Essex Junction、VT、USA)を用いて最小二乗法による2%移動平均で示した(図4、図6)。オヒョウの呼吸活動による内因性生体リズム周期分析は最大均質スペクトル分析(Maximum Entropy Spectral Analysis:MESA)プログラムを用いた。生体リズムの周期分析のためには一定時間間隔の連続的な資料が必要であり、当該AIFRで測定された資料を10分毎の数値を平均値に変換させた後MESAプログラムで分析して、図5の周期分析資料が得られた。このように養殖産オヒョウは24時間の1周期リズムに殆ど一致した24.8時間の1周期リズムを示した(図7)。しかし、海に棲息する自然産魚類や海洋生物をAIFRで連続して呼吸を観察すれば図6のように全く異なる形態に現れた。図6は潮間帯に棲息する蜆(Manila Clam、Ruditapes philippinarum)の呼吸を260時間中BOD incubator(暗い状態と一定水温21.5℃)で連続的にAIFRで測定した結果である。2%の移動平均で分析したところ、1日に2つのピークが強く現れ、このような資料をMESAで分析した結果、月の影響を受ける12.2時間の潮汐周期の影響が強いことが分かり、25.1時間の1周期リズムも観察された。当該蜆の内因性生体リズム実験において理解できるように、海洋生物は棲息地によって生体リズムが異なることが分かる。AIFRで海洋生物の呼吸を長時間測定すれば海洋生物の内因性生体リズムを観察することができ、これは海洋生物を人工冬眠状態へ誘導させるのに大事な基礎資料になりうる。
【0057】
海水温度低下によるオヒョウの平均酸素消費量の変化: 前述したオヒョウの呼吸活動と内因性生体リズム分析方法及び分析資料に基づき、本発明に係る人工冬眠誘導装置を用いて、海洋生物を含む海水の温度を下げながら当該海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、酸素消費量の変化の殆んどない時点の海水温度を決めた。
【0058】
その結果、図8に示したように、オヒョウを対象にする場合、温度13℃の海水に保管していたオヒョウを水温10℃に下げても生存には全く問題なかった。それで、本発明者らは図9に示したように、当該海水の温度を13℃で10分間維持させ、12℃で20分、11℃で30分ほどずつ水温を下げることによって時間を増加させた。水温6℃では開始時の13℃における露出時間(10分)より12倍ほど多い120分、5℃では180分、生体リズムが停止される水温4℃ではストレスを最小化するために260分で最長の露出をした。そして、海水の温度を下げながら次第に露出時間を短縮した。すなわち、当該海水を3℃で180分、2℃で120分、1℃で20分に露出時間を短縮しつつ海水内にオヒョウが維持されるようにした。最終的には氷点下(−)0.2℃で15分間露出した。
【0059】
このように、海水の温度を段階的に下げながらこのように下がった海水の温度によって海水の温度維持時間を段階的に増加させることの一例を図9に示した。そして、このような水温変化は人工冬眠誘導装置のコンピュータプログラムにより自動で調節した。反復実験結果、人工冬眠誘導時点を13℃程度で誘導するのが海洋生物のストレスを最小にし、総冬眠誘導時間は約20時間ほどかかることを確認した。
【0060】
また、図8に示した海水温度による海洋生物の平均酸素消費量変化グラフに基づき、一定基準温度でオヒョウが消費する酸素量の最大値と最小値及びこれによる酸素消費量変化振幅、それから海水の温度区間別海洋生物の平均酸素消費量変化グラフの傾きを下記の表1にまとめた。
【0061】
【表1】
【0062】
前記表1に示したように、オヒョウの酸素消費量振幅による傾きは水温が13℃から10℃に下がる時1.77であった。海水の温度範囲が10℃から8℃、8℃から6℃にそれぞれ2℃ずつ下がる時は当該傾きが0.25と同一であり、これは13℃から10℃に下がる時より小さい値であり、これにより海水の温度が10℃から6℃に下がる区間ではオヒョウの呼吸や代謝活動に大きな変化がないと判断される。しかし、6℃から4℃に下がる区間では酸素消費量振幅の傾きが2.7であり大きかったので、このような水温範囲では代謝活動に大きな変化があることを確認した。海水の温度が4℃以下の場合は酸素消費量が殆んど一定(6.1mlO2kg−1WWh−1)であり、傾きは0.05であって、水温変化にも酸素消費量の変化は殆んどなかった。
【0063】
活魚とオヒョウを用いた人工冬眠の実験: 引き続き、前述したように人工冬眠状態へ誘導された活魚とオヒョウを内部温度が5℃に維持されるボックスに入れ、その表面に全体を水に濡らした韓紙を被せた後、当該ボックスを密封して保管した。保管時間の経過によって当該ボックス内に存する活魚とオヒョウの無水状態がどれぐらい長時間維持されるのかを記録し、当該活魚とオヒョウの生存率を把握し、その結果は下記の表2に示した通りである。
【0064】
【表2】
【0065】
前述した表2に示したように、本発明に係る人工冬眠誘導技術と無水運搬包装技術が適用された活魚とオヒョウは無水状態維持時間が従来の方法より長く、活魚とオヒョウの生存率は従来の方法によるものより著しく優れた。
【0066】
以上、本発明を特定の望ましい実施例に関連して示しかつ説明したが、これは特許請求の範囲により設けられる本発明の技術的特徴や分野を逸脱しない範囲内で本発明が多様に改造及び変化されうることは当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上述べたように、本発明によれば海洋生物を人為的に冬眠状態へ誘導し、これにより水のない無水状態(waterless condition)で当該冬眠状態へ誘導された海洋生物を紙ボックスに包装することだけでも海洋生物の生存率を長時間維持させることができる。本発明は水中の全生物を対象にして、既存の活魚輸送方法などとは全く異るように、生物自体の内因性生体リズムを理解し多段階の温度変化を経ることによって人為的に無水状態へ誘導して、海洋生物の内因性生体リズムを長時間停止させた後、再び元の生体リズムに戻らせる全く新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明により段階的に下がった海水の温度によって温度維持時間を段階的に増加させる第1例を説明するための模式図である。
【図2】本発明により段階的に下がった海水の温度によって温度維持時間を段階的に増加させる第2例を説明するための模式図である。
【図3】本発明により海洋生物の酸素消費量を測定できる自動呼吸測定装置の一例を示す構成図である。
【図4】本発明により測定された養殖産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた1周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図5】本発明により測定された養殖産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた1周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図6】本発明により測定された自然産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた潮汐周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図7】本発明により測定された自然産海洋生物の呼吸状態及びこれより得られた潮汐周期リズムを例示的に示すグラフである。
【図8】本発明により海洋生物が消費する酸素消費量の変化が大幅に減少したり、酸素消費量の変化が殆んどない時点の海水温度を決定するための海水温度による海洋生物の酸素消費量の変化を例示的に示すグラフである。
【図9】本発明により段階的に下がった海水の温度によって段階的に増加させる温度維持時間の一例を説明するためのグラフである。
【図10】本発明の他の実施例による人工冬眠誘導装置の一例を示す側面図である。
【図11】本発明の他の実施例による人工冬眠誘導装置の一例を示す上面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋生物を含む海水が収容されている人工冬眠チャンバーと、
当該人工冬眠チャンバーから排出される海水を、所定の区間において段階的に温度降下させた後、再び人工冬眠チャンバーに流入させる熱交換器または冷却器と、
当該人工冬眠チャンバー内に存する海水の温度を測定する温度センサーと、
前記海水中に含まれた溶存酸素量を測定する酸素センサーと、
当該温度センサーから入力された海水の温度情報に基づき、当該段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させることができ、当該酸素センサーから入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を前記下がった各段階によって段階的に短縮する人工冬眠誘導プログラムを含み、当該人工冬眠誘導プログラムによって当該熱交換器または当該冷却器を制御するPC(Personal Computer)が含まれた海洋生物の人工冬眠誘導装置。
【請求項2】
前記人工冬眠チャンバーは、海水から海洋生物を引き上げられる網を備えることを特徴とする請求項1に記載の海洋生物の人工冬眠誘導装置。
【請求項1】
海洋生物を含む海水が収容されている人工冬眠チャンバーと、
当該人工冬眠チャンバーから排出される海水を、所定の区間において段階的に温度降下させた後、再び人工冬眠チャンバーに流入させる熱交換器または冷却器と、
当該人工冬眠チャンバー内に存する海水の温度を測定する温度センサーと、
前記海水中に含まれた溶存酸素量を測定する酸素センサーと、
当該温度センサーから入力された海水の温度情報に基づき、当該段階的に下がった海水の各段階温度毎に海水の温度を所定の時間維持させ、当該下がった各段階の温度で維持させる所定の時間を段階的に拡張させることができ、当該酸素センサーから入力された海水の溶存酸素量情報に基づき、当該海洋生物が消費する酸素消費量の偏差のない海水の温度からは、当該段階的に下がった海水の温度を一定に維持する時間を前記下がった各段階によって段階的に短縮する人工冬眠誘導プログラムを含み、当該人工冬眠誘導プログラムによって当該熱交換器または当該冷却器を制御するPC(Personal Computer)が含まれた海洋生物の人工冬眠誘導装置。
【請求項2】
前記人工冬眠チャンバーは、海水から海洋生物を引き上げられる網を備えることを特徴とする請求項1に記載の海洋生物の人工冬眠誘導装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−188008(P2008−188008A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287806(P2007−287806)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【分割の表示】特願2008−528966(P2008−528966)の分割
【原出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(507335148)韓國海洋研究院 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【分割の表示】特願2008−528966(P2008−528966)の分割
【原出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(507335148)韓國海洋研究院 (2)
【Fターム(参考)】
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